弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人に関する部分を破棄する。
     被告人は無罪。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人山菅正誠の提出にかかる控訴趣意書記載のとおりである
からこれを引用する。
 論旨第一点について
 よつて記録を精査するに、本件の訴因は被告人はA、B丸の船長C、機帆船D丸
の船長Eと共謀の上B丸に積載した砲弾約九〇屯廃火薬十三屯八〇〇及び右D丸に
積載した廃火薬四三屯五四〇を水深二〇〇メートル以上の海中に廃棄しなかつたも
のであるというのであるが、これに対し原判決は本件被告人につき、同人の乗船し
ていたB丸の積荷である砲弾、廃火薬についてのみA、C船長と共謀のもとに不法
投棄した事実を認定し、被告人がA、Eとの間に共犯関係ある旨の訴因については
主文においても理由中においても明示的に判断を示していないこと所論のとおりで
ある。しかしながら本件訴因は被告人がA、C、Eと共謀してB丸とD丸の積荷を
不法に投棄したという単純一罪の訴因であり、右の如くに純一罪の一部につき証明
がないものとして訴因より縮少された事実を認定するにあたつては主文において訴
因の一部が無罪である旨を表示すべきものではなく、理由中において判断を示せば
足るものであり、理由中における判断の示し方は必ずしも明示的になされる必要は
なく黙示的に示されていてもよいのである。原審において取り調べたすべての証拠
を綜合すれば被告人がA、EとD丸に積載した廃火薬の不法投棄につき共謀した事
実は勿論投棄行為に協力した事実も全くないことを認めることができるのであつ
て、原判決は罪となるべき事実としてA、Cとの共謀による火薬類の不法投棄の事
実のみを認定していることに徴すると、原審はD丸の廃火薬の不法投棄の点につい
ては被告人に刑事責任はないものと判断し、その判断を黙示的に示していることが
明らかである。従つて原審が起訴事実の一部について判断を遺脱したという所論は
理由がない。
 論旨第四点について
 よつて考察を加えると、原判決は罪となるべき事実においてC船長が保安庁の監
視なきを奇貨とし、火薬類取締規則第六七条第一項に規定する海域に達せざるに拘
らず昭和三四年四月二日午前六時より同九時頃迄の間にB丸に積載せる砲弾等約九
〇屯廃火薬一三屯八〇〇を由良南方約一〇浬の海面より日の御崎燈台南方沖合に至
る間の水深約六〇米乃至一〇〇米位の海中に投棄するに当り、被告人は漠然とC船
長の言を信じ、投棄海域の位置を確認せずして之に協力したと認定し、弁護人の意
見に対する判断、錯誤の主張に就てと題する項において、被告人がC船長より指定
海面に到着したと告げられこれを信じて不法投棄に協力したとするも、本件の場合
は違法性の錯誤又はあてはめの錯誤であつて事実の錯誤ではないから犯意を阻却し
ないと判示しているところからみると原審は火薬類の投棄場所が水深二〇〇米以上
陸地を距ること八キロ以上の海面であるということの認識は故意の成立ありとする
ための要件ではないと考えていることが明白である。しかし<要旨>ながら、昭和三
五年法律第一四〇号による改正前の火薬類取締法(以下旧法と略称する)二七条第
一項は火薬類の廃棄は廃棄の場所数量その他廃棄の方法について通商産業省
令で定める技術上の基準に従つてこれをしなければならないと定め、これを受けた
同法施行規則第六七条は火薬類の廃棄については、海中においてする場合にあつて
は八キロメートル以上海岸を離れ、かつ二百メートル以上の海水中に確実に沈下さ
せるものとすと規定しており、旧法第六〇条一号の旧法第二七条第一項の規定に違
反した者というためには、客観的に火薬類の投棄海面が陸地より八キロ未満でまた
は、水深が二〇〇米未満であることを要し、この事情は法的構成要件に属する客観
的行為事情として故意の認識の対象となるものと解するのが相当であり、右の事情
を認識していないときは犯罪構成を組成する事実の認識を欠如するものとして犯意
を阻却するものといわなければならない。
 しこうして本件の場合過失犯を処罰する明文の規定がなく、過失も故意犯と同様
に処罰する趣旨であることを明瞭に窺いうる場合でもないので、故意犯のみが処罰
されるものと解せざるを得ないのであるが、そうしてみると、原判示のとおり漠然
とC船長の言を信じ、指定海域に到着したものと信じ投棄海域を確認せずして火薬
類の投棄に協力したとすれば故意のないこと明白であるから被告人に刑事責任を負
わせることはできない筈である。原判決は法律の解釈適用を誤つたもので、右の誤
は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから所論は理由があり原判決は破棄を免れ
ない。
 よつて他の論旨に対する判断を省略して刑事訴訟法第三九七条を適用して原判決
中被告人に関する部分を破棄し、同法第四〇〇条但書により次のとおり判決する。
 本件公訴事実の要旨は被告人F及びAはG業株式会社作業課長Hから火薬類の海
中投棄作業を請負つた機帆船B丸の船長C、機帆船D丸船長Eが右廃棄作業をする
にあたり、技術監督者としてB丸に警乗したものであるが、A、C、Eと共謀の
上、昭和三四年四月二日午前六時頃より同日午前八時頃までの間淡路島由良南方約
十浬の海面より和歌山県日の御崎燈台西方沖合までの間において、水深約六十米乃
至八十米の海中に右B丸に積載した砲弾約九十トン廃火薬約一三トン八〇〇及び右
D丸に積載した廃火薬四十三トン五四〇を投棄し、もつて該物件を水深二〇〇メー
トル以上の海中に投棄しなかつたものであるというにある。
 よつて原審において取り調べたすべての証拠を検討すると、原判決が罪となるべ
き事実欄において認定したとおりの事実を認めることができ、被告人がA及びD丸
の船長Eと共謀して同船に積載していた廃火薬類を不法に海中に投棄したという点
については証明のないこと前説示のとおりである。ところで被告人及びA両名とも
保安要員としてB丸に乗込んだものであり、航海のことに関しては素人で海図を見
ても船がどこにいるかもよく判らない状態てあつたので、船の運航は一切船長に任
せていたところ、淡路島の由良港を出港して五時間程たつた頃船長から指定海面に
到達したといわれ、八キロメートル以上海岸を離れかつ深さ二百メートル以上の海
面に達したものと誤信して、火薬類の投棄の手伝いをしたというのが真相と認めら
れ、記録を精査し、ことに被告人及びAの各供述調書を熟読しても、被告人が指定
海域に到達していないことを知つていたという確定的故意はもちろん未必の故意が
あつたという心証も形成することができないのである。
 ところで旧法第二七条第一項、第六〇条一号の罪は故意犯のみが処罰されること
前説示のとおりであり、被告人に本件犯罪の故意があつたという点において証明が
ないので、刑事訴訟法第三三六条に則つて被告人に対し無罪の言渡をなすべきもの
である。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 児島謙二 裁判官 畠山成伸 裁判官 松浦秀寿)

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