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平成19年4月25日判決言渡
平成18年(行ケ)第10523号審決取消請求事件
平成19年3月12日口頭弁論終結
判決
原告株式会社ファインプラス
訴訟代理人弁護士神田孝
同井嶋倫子
同弁理士八鍬昇
被告ジャックス・サーフ・アンド・スポー
ツ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
訴訟代理人弁理士深見久郎
同森田俊雄
同仲村義平
同竹内耕三
同堀井豊
同野田久登
同酒井將行
同向口浩二
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告
()特許庁が取消2006−30142号事件について平成18年10月271
日にした審決を取り消す。
()訴訟費用は被告の負担とする。2
2被告
主文同旨
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,登録第4360961商標(以下「本件商標」という)の商標権。
者である。本件商標は,別紙「商標目録」記載のとおり「JACKSSU,
RF」の英文字と「BOARDS」の英文字(標準文字)を二段に横書きにし
てなるものであり,平成11年4月1日に登録出願され,商標法施行令1条別
表の第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,
水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストー
ル,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネク
タイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずき
ん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズ
ボンつり,バンド,ベルト,靴類(靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴「
びょう・靴保護金具」を除く,靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴び。)
ょう,靴保護金具,げた,草履類,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊
靴(乗馬靴」を除く,乗馬靴」を指定商品として,同12年2月10日に「。)
設定登録された。
被告は,本件商標について,その商標登録を取り消すことについて審判を請
求し,平成18年2月17日,同審判請求の登録がされた(以下,この登録を
「本件審判請求登録」という。。)
特許庁は,上記審判請求を取消2006−30142号事件として審理し,
平成18年10月27日に「登録第4360961号商標の商標登録は取り消
す」との審決をし,その謄本は同年11月9日に原告に送達された。。
2審決の概要
審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。その概要は,原告(被請求
人)は,本件審判請求登録前に本件商標を使用していたと主張するが,原告が
審判手続において提出した証拠(審判における乙1ないし乙3。本件訴訟にお
ける甲1ないし甲3。枝番号の表記は省略することがある。以下,同じ)に。
よっては,本件商標を本件審判請求登録前に使用していたものとは認めること
,,,,ができないから結局本件商標は本件審判請求登録前3年以内に商標権者
専用使用権者又は通常使用権者が取消請求に係る指定商品について使用したこ
との証明がないことに帰する,というものである。
第3審決の取消事由に係る原告の主張
,,,,原告は以下の態様で本件商標について本件審判請求登録前3年以内に
別紙「使用商標目録」1ないし4の各商標(ただし,同目録2ないし4につい
ては,帽子のワッペンに記載された商標。以下「使用商標1」などといい,,
これらをまとめて「各使用商標」という)の使用をした。審決には,事実の。
認定に誤りがあり,また,審判手続にも瑕疵が存在する。これらの誤りは,い
ずれも審決の結論に影響するから,審決は,違法として取消しを免れない。
1各使用商標についての原告による使用
()展示会における商標使用1
原告は,平成16年12月15日から同月17日まで3日間,東京都内に
おいて「」と題する展示会(以下「本2005SPECIALSUMMEREXHIBITION
件展示会」という)を開催した。その案内パンフレット(甲1)に使用商。
標1を記載して,これを使用した。また,本件展示会において,使用商標2
(「」。)及び3を付した帽子・メッシュキャップ以下メッシュキャップという
を展示して,これを使用した。
商標登録の取消審判の請求があることを想定して商標名が分かるように,
展示品を写真撮影することは通常あり得ないことから,展示会当日に,使用
商標2及び3を付した帽子を撮影した写真は存在しない。そこで,原告は,
被告から本件の取消審判請求があった後に,審判における答弁書を提出する
に当たって,展示会に展示した「メッシュキャップ」と同一の種類の商品を原
告の事務机の上に並べて原告の従業員をして撮影させた。その写真が甲2の
1,2(審判手続における乙2の1,2)である。
なお,原告はこの展示会に展示した「メッシュキャップ」と同じ種類の商品
,,,,,を販売したがその取引書類には販売先名や原単価原価金額売単価等
原告として開示したくない情報が含まれているため,審判手続においては,
取引書類を証拠として提出することをせずに,このような懸念のない展示会
への商品の出品に係るパンフレット等の証拠により本件商標の使用を証明し
ようとした。
()株式会社コックスに販売した商品に付した商標使用2
原告は,平成16年4月末ころ,使用商標2ないし4を付した帽子(メッ
シュキャップ)を,株式会社コックス(以下「コックス」という)に対し。
て販売した。
上記販売の事実は,原告が本件訴訟において新たに提出した甲4(コック
),(),ス作成の原告あての仕入伝票甲5株式会社シゲマツ作成の商品コード
甲6(コックス従業員発送の電子メール)及び甲7(マチ針付きメッシュキ
ャップの写真)によって証明することができる。
甲4は,上記販売に際して,コックスが原告にあてて(なお,原告の当時
の社名は「株式会社ファイン」である)発行した仕入伝票であり,同伝票。
0038900164には品名「ワッペンメッシュキャップ,商品コード「」,数量「」
」,発注日「年月日」,納品日「年月日」等が記載されて0040421040427
いる。同記載は,商品コード「」の商品が,平成16年4月21日00389001
に発注され,同月27日に納品されたことを示している。甲5は,上記商品
コード「」の商品見本データであり,甲2の1,2と同一の商品が00389001
記載されている。甲2の1,2及び甲5に記載されたメッシュキャップのフ
ロント部分には,「」の商標を表示したワッペンが取り付けJackssurfboards
られている。甲6は,平成16年9月3日午後3時11分に,コックスの従
業員である今岡良宏から原告(旧社名)の従業員である野田にあてて送信さ
れた電子メールであり,甲7は,当該電子メールに添付されていたマチ針付
きメッシュキャップの写真である。当時,商品コード「」(甲4)00389001
の商品を購入した顧客から,同商品のひさしの部分にマチ針が刺さっていた
とのクレームがあったため,それに関する事故連絡がなされたものである。
526-00168このコックスからのメール(甲6)に記載されている「当社品番
」は,甲4の仕入伝票の商品コード欄の「」の下に記載されている000389001
0品番と同一であることからメールに添付された写真の商品が商品コード「,
」の商品そのものであることが分かる。0389001
2各使用商標と本件商標との同一性
()使用商標1と本件商標との同一性1
使用商標1においては「「」の文字が菱形図形で,」JACKSSURFBOARDS
囲まれている。当該菱形はありふれた図形であり,商標の識別性に影響を与
JACKSSURFBOARDSJACKSSURFBえない。本件商標は「」のみならず「,,
「」及び「」というOARDSJACKSSURFBOARDSJACKSSURFBOARDS」,
使用態様が予定されているといえるから「ジャックスサーフのボード」と,
の観念のみが生じるものではない。また,英文字の使用に当たって,字形を
くずしたり,デザイン化することは,取引業界において通常に行われている
ことである。
そうすると,使用商標1は,①本件商標とすべての文字が共通しているこ
と,②文字を囲む菱形図形は,商標の識別性に影響を与えない構成部分の付
加変更といえることから,これを全体的に考察すれば,その外観・観念・称
呼のすべての点において実質的に共通し,本件商標と社会通念上同一の商標
といえる。
()使用商標2と本件商標との同一性2
使用商標2においては「」部分を大きく「」部分,,JACKSSURFBOARDS
を小さく表示されている。本件商標は「」と「」とが一体のも,JACKSSURF
のであると理解すべきではないから「」部分を大きく表示しても,,JACKS
本件商標との同一性を害するものではない。また,第2番目の文字「A」が
図形化されているが,英文字の字形をくずしたり,デザイン化することは,
取引業界において通常行われている。文字を囲む隅丸横長長方形は,デザイ
ンとしての特徴に乏しく,それ自体の自他商品識別機能は小さい。
そうすると,使用商標2は,①本件商標とすべての文字が共通しているこ
と,②文字を囲む隅丸横長長方形は,商標の識別性に影響を与えない構成部
分の付加変更といえることから,これを全体的に考察すれば,その外観・観
念・称呼のすべての点において実質的に共通し,本件商標と社会通念上同一
の商標といえる。
()使用商標3と本件商標との同一性3
,「」,「」「」使用商標3においてはが横一列に表記されrfJackssurfboards
「b」の文字が図形化され,文字のまわりに楕円ないし波状の図形が描かれ
JACKSSURFBOている。しかし,前述のとおり,本件商標については「,
」「」「」という使用態ARDSJACKSSURFBOARDSJACKSSURFBOARDS,,
様が予定されているといえるから「」を横一列に表示した,Jackssurfboards
,。,「」「」使用商標3は本件商標との同一性を害するものではないまたrf
「b」は,単なる縫製上の理由によるものであるし,仮に「r「f「b」」」
に何らかのデザイン的意味があったとしても,英文字の字形をくずしたり,
デザイン化することは取引業界において通常行われていることであるから,
本件商標との同一性を害するものではない。文字のまわりに書かれた楕円な
Jackssurfbいし波状の図形は,菱形や長方形と比べると特徴があるものの「,
」の英文字部分と融合した一体不可分な構成要素とみなければならなoards
いものではない。
そうすると,使用商標3は,①本件商標とすべての文字が共通しているこ
と,②「ジャックスサーフボーズ」の称呼・観念を生じることから,本件商
標と社会通念上同一の商標と認められる。
()使用商標4と本件商標との同一性4
使用商標4においては,略楕円形の図形の内部に略十字の図形,略十字の
右下に大きな「」の欧文字,右上に「」の欧文字,左JACKSHANTINGTON
下に小さな「」の欧文字が配されている。略楕円は特殊なデSURFBOARDS
ザインとはいえないし,内部の略十字も単純な縦横の線の組み合わせにすぎ
ないことから,図形部分は文字部分を装飾するものとしての役割を果たして
いるにすぎない。また「」はサーフィンで有名なアメリカのHANTINGTON
周知な地名であり(甲16,特別な自他識別機能を有するものではない。)
したがって,使用商標4の外観は,本件商標との社会通念上の同一性を害す
るものではない。
そうすると,使用商標4は,①本件商標のすべての文字が共通しているこ
と,②文字を囲む略楕円形及び略十字も商標の識別性に影響を与えない構成
部分の付加変更といえることから,これを全体的に考察すれば,その外観・
観念・称呼のすべての点において,本件商標と社会通念上同一の商標といえ
る。
3審判手続における手続上の瑕疵
審判手続においては,被告(請求人)が平成18年7月3日付けで特許庁に提
,,出した審判事件弁駁書が審決謄本送達前に原告(被請求人)に送付されず結局
,。原告に答弁の機会が与えられないまま被告の主張のみに沿って審決がされた
また,審判手続における乙2(本件訴訟における甲2)等に関して,審判長
,,より原告に対し釈明あるいは審尋等があれば乙2に係る写真の撮影者撮影日
撮影場所等について説明できたのにもかかわらず,このような手続は全く採ら
れることがなかった。
審決手続には,以上のような瑕疵があり,違法を免れない。
第4被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,手続上の瑕疵も存在しないから,審決を取り
消すべき理由はない。
1各使用商標の使用について
原告の提出に係る各証拠によっては,原告が,その主張する日時,場所等に
おいて,各使用商標を使用したとの事実を認めることはできない。
2各使用商標と本件商標との同一性について
各使用商標は,いずれも本件商標と外観,観念及び称呼において相違するも
のであって,社会通念上本件商標と同一とはいえない。
3審判手続における手続上の瑕疵について
原告は,審判手続において被告(請求人)の提出した審判事件弁駁書に対し
て答弁する機会を与えられなかったと主張する。しかし,不使用を理由とする
商標登録取消審判においては,職権進行主義が採用されており(商標法56条
において準用する特許法150条ないし153条,弁駁書に対して反論の機)
会を与えるか否かは,審判官の裁量によるものであり,被告提出の弁駁書に対
する答弁の機会を必ず付与しなければならないものではない。したがって,審
判手続においては,何ら手続上の瑕疵はなく,原告の主張には理由がない。
第5当裁判所の判断
1各使用商標の使用の事実及び本件商標との同一性について
当裁判所は,本件訴訟における全証拠によっても,本件審判請求登録前3年
以内に商標権者,専用使用権者又は通常使用権者が,取消請求に係る指定商品
について,本件商標を使用したことを認めることはできず,審決には事実認定
を誤った違法はないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
()本件展示会における本件商標の使用について1
ア本件展示会の開催の有無
原告は,本件展示会において,その案内パンフレット(甲1)に使用商
標1を記載し,これを使用し,また,使用商標2及び3を付したメッシュ
キャップ(甲2)を展示して,これを使用したと主張する。
しかし,原告の提出した各証拠によって,原告主張に係る本件展示会が
開催された事実を認定することはできないし,仮に何らかの展示会が実施
されたことがあったとしても,使用商標1を記載した案内パンフレットが
配布された事実及び使用商標2及び3を付したメッシュキャップが展示さ
れた事実を認定することはできない。
まず,原告は,展示会のパンフレットであるとして,甲1を提出する。
甲1は,A4版1枚のチラシ,ビラ様の印刷物であって,記載内容をみ
ると,上から順に「2005夏特別展示会のお知らせ「FINEC,」
REATIONLEAGUE「2005SPECIALSUMM」
ER(S/S)EXHIBITION」と記載され「お取引先様各,
位拝啓時下ますますご清祥の段,お慶び申し上げます。今回の展示会
TAKは,従来のラインナップは勿論の事,お酒の『白雪,おもちゃの『』
,映画やアニメの『東映,レトロマッチラベルの『燐票,お菓子ARA』』』
の『ロッテ,ゲームの『コナミ』他,カジュアル業界最多のコンテ』TV
ンツを抱え【ニューメディアアパレル】というアパレル&雑貨の世界を,
広げていこうとしております(後略」などとの挨拶文が記載され,さ。)
,,「」,,らに印刷物の中央にBRANDとして四角の枠で囲まれた中に
枠内の左側に,使用商標1その他4つの商標が表記され,枠内の右側に,
「その他,コラボ系コンテンツ多数白雪をはじめとした日本酒T,泡盛
T,焼酎T,ダッコちゃん,こえだちゃん,ゲイラカイト,仁儀なき戦い
(ママ,トラック野郎,銀河鉄道999‥‥‥ダイヤブロック他,多数)
。」,,のコンテンツをご用意しておりますと記載され印刷物の下段にetc
地図及び原告の住所が記載され,印刷物の最下段に「※詳細につきまし,
ては各担当者へ御連絡下さい」と記載されている。。
また,原告は,原告主張に係る展示場を訪れた顧客の陳述内容を記載し
たものとして甲3(有限会社アクティブ・ジェネレーション取締役三上哲
生名義の陳述書と題する書面)を提出する。同書面には,展示場で展示会
が開催されたこと,同人が展示場を訪れたこと,甲1のパンフレットはそ
のときに頒布されたものであること「」を表示した布製手提げ,JacksSurf
バッグ及び「」を表示した帽子(メッシュキャップ)が展JacksSurfbosrds
示されていたことの記載があり,さらに同陳述書面には,上記の印刷物の
写し,展示物の写真等が添付されている。
,,。,,しかし甲1には以下のような不自然な点があるすなわち原告は
展示会場においてパンフレットとして頒布したものであると主張する(甲
3の陳述書においてもそのように陳述されている)が,甲1は,印刷物。
の性質,記載内容に照らして,顧客,取引先に配布するパンフレット類に
,,は見えないのみならず会場を訪れた顧客に配布する印刷物であるならば
何故,開催場所の地図が大きく表示されているのか疑問がある。また,仮
に,甲1が,事前に顧客等に頒布する目的で印刷されたものであると理解
した場合には,そもそも,どのような商品を展示,販売しようとしている
かに関する情報が全く盛り込まれていない点で不自然であること,アニメ
の「東映,お菓子の「ロッテ」等の商品の一般名称等が並べて表記され」
た上で,結びとして「様々な意味での『新しい』商品を取り揃えており,
ます」との記載がされている点でも,その内容が,宣伝広告,商品案内と
しての体裁を備えていないこと,さらに,甲1の中央枠内に,右側に「白
雪をはじめとした日本酒T,泡盛T,焼酎T,ダッコちゃん,こえだちゃ
ん,ゲイラカイト‥‥‥」等の商品の一般名称が列挙されている一方で,
その左側に,使用商標1が,付された商品との関連性がなく,唐突に表示
,,,されているがこのような配列がされる合理性に乏しいこと等甲1には
社会通念に照らして営業活動の過程で用いられるものとしての不自然な点
が多い。
次に,原告は,展示会において,使用商標2及び3を付したメッシュキ
ャップと同種のメッシュキャップを後日撮影した写真であるとして,甲2
を提出する。しかし,甲2(写真)中のメッシュキャップ(左側に配置さ
れた商品)は,甲5(原告は,20種類の商品見本データであり,20種
類単位で取引の対象にすると主張する)のいかなる商品にも含まれない。
ものであって(色彩の点で異なる,見本データにない商品を展示会に。)
出品したというのも不自然であるし,使用商標2及び3が甲1(パンフレ
ット)に記載された使用商標1と異なるのも理解し難い。
本件展示会については,事前の準備状況,会場及び他の展示物の状況,
展示会開催に関する新聞,雑誌等への広告状況,来場者数,従業員やアル
バイト・スタッフに対する指示文書,展示会場の写真等一切の証拠が提出
されていないなどの弁論の全趣旨を総合勘案すると,原告主張に係る本件
展示会が開催された事実を認定することは到底できず,また,仮に何らか
の展示会が実施されたことがあったとしても,使用商標2及び3を付した
メッシュキャップが展示されたとの事実を認定することはできない。
なお,使用商標2,3を付したメッシュキャップを本件展示会おいて展
示した旨の原告の主張に関しては,甲2の1,2は,原告の自認するとお
り,本件審判請求登録後に原告会社従業員によって撮影されたものである
から,同証拠によって当該メッシュキャップが本件展示会に展示された事
実を認め得るものではなく,その他,これを認めるに足りる証拠は提出さ
れていないから,展示の事実を認めることはできない。
以上のとおり,本件展示会の開催の事実,展示の事実を認めることがで
きないので,原告の主張は失当である。
イ本件商標と使用商標1との同一性
なお,念のため,本件商標と原告が使用したと主張する使用商標1につ
いての同一性について判断する。
,「」,「」本件商標は別紙商標目録記載のとおりJACKSSURF
の英文字と「BOARDS」の英文字(標準文字)を同じ大きさの同じ書
体で二段に横書きにしてなるものである。本件商標は「JACKSS,
URFBOARDS」全体,又は「JACKSSURF」と「BOA
RDS」の2つの部分からなるものと解され,見る者の目をひく部分は,
「JACKSSURFBOARDS」又は「JACKSSURF」の
部分である。これらの部分からは「ジャックスサーフボード」又は「ジ,
ャックスサーフ」の称呼を生ずる。
これに対し,使用商標1は,太い線描いた菱形図形の内部に,白抜きの
大きなデザイン文字で「JACKS」と横一列に表記され,その下部によ
うやく読みとれる程度の小さな文字で「SURFBOARDS」と横一列
に表記されたものである。使用商標1は,その外観において,本件商標と
著しく異なるものであり,また,見る者の目をひくのは白抜きの大きなデ
ザイン文字で「JACKS」と横一列に書した部分であるから,これによ
り「ジャックス」の称呼を生ずる。そうすると,使用商標1は,本件商標
と外観及び称呼において相違するものであって(仮に何らかの観念を生じ
得るとすれば,観念も異なる,本件商標と社会通念上同一とは認めら。)
れない。
()コックスに対して販売した商品における使用2
アコックスへの商品販売の有無
原告は,コックスに対して使用商標2ないし4を付したメッシュキャッ
プを販売したと主張し,その事実を示す証拠として,甲4ないし甲7を提
出する。
しかし,これらの証拠によっては,原告が平成16年4月末頃にコック
スに対して使用商標2ないし4を付したメッシュキャップを販売した事実
を認めることができず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
まず,甲4は,その成立が真正であるか否かはさておき,その記載内容
に照らすならば,コックスから原告あてに発行された仕入伝票であって,
そこには品名「ワッペンメッシュキャップ,商品コード「」,数」00389001
量「」,発注日「年月日」,納品日「年月日」等が記載640040421040427
されているものであり,これからは,商品コード「」の商品が,00389001
平成16年4月21日に発注され,同月27日に納品されたことがうかが
えるものの,同伝票には当該商品に付されていた商標,すなわちメッシュ
キャップのワッペンの図柄に関する事項は一切記載されていない。
また,原告は,上記商品コード「」の見本データとして甲5を00389001
提出し,同号証には使用商標2ないし4と同一のワッペンを付したメッシ
ュキャップが掲載されているから,甲4により示された平成16年4月2
1日発注に係る取引の対象となった商品は,使用商標2ないし4を付した
メッシュキャップであったことが明らかであると主張する。しかし,甲5
は,単に16種類の色彩・縫製等のメッシュキャップ本体に9種類の構成
・色彩のワッペンを組み合わせた,合計20種類のメッシュキャップの図
柄を掲載したA4版一枚の印刷物であって,その右上に「#」の00389001
表記はあるものの,それ自体には,印刷物の用途,作成者,作成日時等は
一切記載されておらず,誰が何の目的で作成し,どのような態様で保管さ
れていたものであるのかは一切不明である。そして,甲5の作成等の事情
についてうかがい知ることのできる証拠は,一切提出されていないから,
当該書証により,平成16年4月における原告とコックスの取引の対象と
なった商品の態様を認定することはできない。
さらに,原告は,平成16年9月3日に,当時,使用商標3を付した原
告商品(甲4)についてコックスから購入した顧客から,同商品のツバの
部分にマチ針が刺さっていたとのクレームがあったため,同事故に関する
クレームを受けたことがあり,その経緯によれば,原告がコックスに対し
て使用商標3を付したメッシュキャップを販売していた事実が明らかであ
ると主張し,その証拠として,コックスの従業員である今岡良宏から原告
の従業員である野田にあてて送信された電子メール(甲6)及び当該電子
メールに添付されたマチ針が刺さったメッシュキャップを撮影した写真
(甲7)を提出する。
,(),,しかし甲6電子メールの記載をみると電子メール本文において
「」,,マチ針が混入したと繰り返し記載されているものの事故の発生日時
事故の発生場所,事故の状況,態様,被害を受けた顧客の詳細情報,被害
の内容(人身事故の原因となっています」との記載があるが,その詳「。
細は全く説明がない,コックスが顧客から受けた苦情の内容,コック。)
スの受けた実害等については全く記載されていないこと,甲7(マチ針の
刺さったメッシュキャップの写真)が提出されているものの,電子メール
の本文には,添付メールを送信したこと,メッシュキャップの写真に関す
る説明が一切ないこと等の点において,その文章の表現振りは,取引者間
で生じた事故に関するクレームを記載したメールとしては,極めて不自然
である。電子メール作成日は,作成者が使用するコンピュータで設定した
日時に依存して記録されるものであるから,日時を改ざんすることが容易
であり,また,送受信が完了した電子メールの内容を改ざんすることも容
易であるから,電子メールの作成日等の記載は,当該日時に当該内容のメ
。,ールの送受信が行われたことを証明する客観的な証拠にはならないまた
甲7の写真は,当該書証自体からは,撮影者,撮影日時等が不明であり,
これが甲6のメールに添付ファイルとして記載された「針混入DSCF0
01.」のファイル名で特定されるデータと同一の名称で保管されてjpg
いる写真データであるかどうかすら明らかでない。さらに,人身事故が生
じたのであれば,その後の事後対応に関する書面が数多く作成され,残さ
れているはずであるが,それらに関して何らの証拠の提出がないのも不自
然である。このように,甲6,甲7の作成等の事情についてうかがい知る
ことのできる他の証拠は,一切提出されていないから,原告の提出した証
拠によって,平成16年9月における原告とコックスの取引の対象となっ
た商品の態様を認定することはできない。
以上のとおり,原告が,平成16年4月末ころ,使用商標2ないし4を
付したメッシュキャップを,コックスに対して販売した事実を認めること
ができないので,原告の主張は失当である。
イ本件商標と使用商標4との同一性
なお,念のため,本件商標と原告が使用したと主張する使用商標4につ
いての同一性について判断する。
使用商標4は,略楕円形の図形の内部に略十字の図形,略十字の右下に
大きな「JACKS」の英文字,右上に小さな「HANTINGTON」
の英文字,左下に小さな「SURFBOARDS」の英文字が配置された
ものであり,その外観において本件商標と著しく異なる。使用商標4にお
いて,見る者の目をひくのは,商標全体又は十字の右下に大きな英文字で
「JACKS」と記載された部分であり「ジャックス」のみの称呼,又,
はこれに加えて「サーフボーズ」及び「ハンティングトン」の称呼を生ず
ることはあるものの「ジャックスサーフボード」又は「ジャックスサー,
フ」の称呼を生ずることはない。そうすると,使用商標4は,本件商標と
外観及び称呼において相違するものであって(仮に何らかの観念を生じ得
るとすれば,観念も異なる,本件商標と社会通念上同一と認められな。)
い。
2審判手続における手続上の瑕疵について
原告は,審判手続において被告(請求人)の提出した審判事件弁駁書に対し
て答弁する機会を与えられなかった点に,手続上の瑕疵があると主張する。
しかし,審判手続において,相手方当事者の主張立証に対して反駁の機会を
与えるかどうかは,特段の事情のない限り,審判官の裁量にゆだねられている
ものであり,本件審判手続において,被告(請求人)が平成18年7月3日付け
で特許庁に提出した審判事件弁駁書に対して,原告が反論する機会を与えられ
なかったとしても,そのことから直ちに審判手続に違法があったということは
できないし,特段の事情の主張,立証もない。また,原告(被請求人)が審判
手続において提出した乙2(本件訴訟における甲2)等に関して,審判長から
釈明等がなかったことも,もとより審判手続上の瑕疵に当たらない。
3結論
以上によれば,本件における全証拠に照らしても,結局,本件商標について
は,本件審判請求登録前3年以内に商標権者,専用使用権者又は通常使用権者
がこれを使用したことについて,原告による証明がないことに帰するから,本
件商標の登録を取り消すべきものとした審決の認定判断に誤りはなく,また,
審判手続に原告主張の手続上の瑕疵も認められない。原告の主張する取消事由
,,,。には理由がなくその他審決にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官三村量一
裁判官古閑裕二

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