弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人平井虎二上告趣意第一点について。
 しかし、原判決は「被告人Aは右小刀を持つて為次等の枕頭に立ち被告人正員は
就寝中のE(当二八年)等に対し右短刀を突き付け金を出せ等と申向けて脅迫し」
と判示しており、所論のように、被告人Aが短刀を突き付けて脅迫したとは判示し
ていないことは明らかなところである。そして原審が原判決挙示の諸証拠によつて
右判示事実を認定したことは、当裁判所においてもこれを肯認することができる。
それ故、原判決には所論のような証拠によらずして、事実を確定したという違法は
ない。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 しかし、検事が控訴をするには、控訴申立書を第一審裁判所に差出せは足り、原
審公判廷で控訴の理由を陳述することを必要としないことは刑訴第三九六条で明ら
かなところである。そして、検事が被告人A外三名に対する第一審判決に対して控
訴申立書を第一審裁判所に差出したことは、一件記録で明らかなところであるから、
被告人Aに対する検事の控訴は原審第一回公判当時には既に適法になされていたも
のである。又検事が控訴の趣旨理由を陳述するのは被告人のする控訴の趣旨理由の
陳述と同様に、事実関係及び争点等を明らかにして、審理の進行に資するという程
度の意義しかないものである。それ故、所論のように、原審公判廷において検事が
B、C及びDの三被告人に対しては控訴の理由を陳述したが、被告人Aに対しては
控訴の理由を陳述しなかつたからといつて、検事は同被告人に対する控訴を特に取
下けたものと解することはできない。されば、原審が被告人Aに対して第一審判決
の刑よりも重い刑を言渡したからといつて、原判決には刑訴第四〇三条に違背する
不法あるものとはいえない。論旨は理由がない。
 同第三点について。
 しかし、検事の申立てた控訴が理由あるか否かの判断は、刑訴第三六〇条に定め
る有罪の判決に付すべき理由にあたらないのは勿論他にかような判断を示すべき趣
旨の規定も存在しない。しかのみならず、控訴覆審主義を採つている現行刑事訴訟
法の下においては、控訴理由の有無については判示する必要がないのは当然である。
それ故、原判決には所論のような判断逸脱の違法はない。論旨は理由がない。
 同第四点について。
 しかし、共同被告人の刑の量定に当り、所論のごとく刑の長短軽重についての根
拠理由を特に判示すべき必要はどこにも存在しない。又上告人等は何れも原審で酌
量減軽を得ているに拘わらず、偶々相被告人の一人が酌量減軽を得なかつたとして
も、その理由を判示すべき必要はないばかりでなく、上告人等の上告理由となるべ
き訳がない。従つて、本論旨は上告適法の理由とならない。
 被告人A上告趣旨について。
 しかし、自首をしたのであるかどうかの認定と自首をしたのだと認定した場合に
刑を減するか否かは専ら事実審たる原審の自由裁量権に属することがらであるから、
仮に被告人が自首したのだとしても原審は自首減軽をしなくてならぬものではない。
所論は、結局、原審の裁量権に属する事実認定と刑の量定とを非難するにとどまる
ものであつて、上告適法の理由とはならぬ。
 被告人C、同Dの各上告趣意について。
 しかし、執行猶予の言渡や刑の減軽は事実審たる原審の裁量権に属するところで
あつて、当裁判所は違法な判決を破毀して自判する場合に限つて執行猶予の言渡や
刑の減刑についても審判する権限を有するにすぎないのである。ところが原判決は
上告人も主張していないように、違法のかどがないものであるから、当裁判所は被
告人に対する執行猶予の言渡や刑の減軽について審判することはできない。だから
所論は結局原判決のした刑の量定を非難するに帰するものであつて、上告適法の理
由とはならぬ。
 よつて刑事訴訟法第四四六条により主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二三年九月九日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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