弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人佐藤義行の上告趣意のうち、憲法三二条、七六条三項違反をいう点は、実
質は、いずれも事実誤認、単なる法令違反の主張に帰し、その余も、事実誤認、単
なる法令違反の主張であつて、所論は、すべて適法な上告理由にあたらない。
 弁護人尾崎正吾の上告趣意のうち、憲法三一条、三八条違反をいう点は、実質は、
単なる法令違反(記録に照らし、所論調書の任意性を疑うべき事跡はないとした原
審の判断は相当である。) の主張にほかならず、その余は、単なる法令違反、事
実誤認、量刑不当の主張であつて、所論は、すべて適法な上告理由にあたらない。
 被告人本人の「上告理由書」と題する書面(昭和四五年一〇月二一日受付)は、
期限後提出にかかるものであるから判断を加えない。
 (なお、原判決の是認する第一審判決は、罪となるべき事実第一の(二)として、
「被告人は、税理士会に入会している税理士でなく、法定の除外事由がないのに、
別紙一覧表記載のとおり、昭和四一年三月中旬頃から同四二年七月下旬頃までの間、
一五回にわたり、千葉市a町b、c番地のdの自宅において、Aほか九名の依頼を
受けて、千葉税務署または成田税務署に提出する昭和四〇年分、同四一年分の所得
税確定申告書を作成し、もつて税務書類を作成して、税理士業務を行」なつた旨の
判示をし、この事実は包括して税理士法五九条、五二条に該当するとしたうえ、そ
の余の各認定事実と併合罪をなすものとして処断しているのであるが、その判決書
には、右の「別紙一覧表」なるものが添付されていない。すなわち、第一審判決は、
その認定した犯罪事実について、これが内容をなすべき個々の具体的行為の判示を
別紙に譲りながら、当該別紙を判決書に付さなかつたもので、かかる判示は、判決
書における事実摘示として完全性を欠くというほかなく、同判決には理由を付さな
かつた違法がある。
 そして、右のごとき第一審判決の瑕疵は、なんら特段の調査をするまでもなく、
同判決を一読すればただちに発見しうるところであるから、原審は、当然職権をも
つて刑訴法三九七条一項、三七八条四号により同判決を破棄しなければならなかつ
たのであるが、原判決はこの点につきなんら触れるところがないのであつて、原審
のこの措置には、第一審判決の右瑕疵を看過した違法があり、かつ、その違法が判
決に影響を及ぼすこと多言を要しない。
 ところで、第一審判決が右第一の(二)として認定した税理士法違反の所為〔非
税理士による税理士業務〕は、いわゆる営業犯に属し、個々の具体的行為が独立し
て犯罪を構成するのでなく、これらが包括的に一個の構成要件を充足するものであ
るところ、前示のとおり、第一審判決は、その本文において、犯行の始期および終
期、犯行場所、行為の回数、依頼者一名の氏名およびその他の依頼者の数、ならび
に被告人の行なつた「税理士業務」の態様〔他人の求めに応じた税の申告書の作成
〕を概括的に説示しており、ただその具体的内容のみが別紙一覧表に譲られている
にとどまり、併合罪を構成すべき独立の諸事実の摘示が別表に譲られ、その別表が
脱落しているような場合とは趣を異にしている。さらに、記録によれば、第一審判
決に添付されるべきであつた「別紙一覧表」の内容は、別掲のごとき被告人に対す
る昭和四三年二月六日付起訴状添付の別紙一覧表の内容と一致するものであること
を看取するに難くないのみならず、本件第一審および原審の審理を通じて、右起訴
状別紙一覧表の記載事項自体の真実性については当事者間にまつたく争いがなく、
かつ、原審も、事実上、右起訴状別紙一覧表の内容と同一の事項を念頭において審
理判断していることが、その判文によつて明白である。
 このような点を考えあわせると、第一審判決および原判決の前記違法は、いまだ
これによつて該判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。)
 また、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり決定する。
  昭和四七年一月一八日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    天   野   武   一

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