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平成28年12月15日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成27年(ワ)第10230号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成28年11月7日
判決
原告古野電気株式会社
同訴訟代理人弁護士中村小裕
同山田威一郎
同補佐人弁理士立花顕治
同山下未知子
被告日本無線株式会社
同訴訟代理人弁護士菅尋史
同道下崇
同寺田光邦
同補佐人弁理士石田純
同堀江哲弘
同井口和孝
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙「商品目録」記載の商品を生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し,
輸出若しくは輸入し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
2被告は,別紙「商品目録」記載の商品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,3億円及びこれに対する平成27年10月25日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「レーダー装置及び類似装置」とする特許権を有する原告
が,被告が製造販売するなどした商品が当該発明の技術的範囲に属すると主張して,
被告に対し,当該特許権に基づいて,当該商品の製造販売等の差止め及び廃棄を求
めるとともに,特許権侵害の不法行為による損害賠償請求として,被告が得た利益
の額に相当する損害金126億円又は当該特許の実施料相当額9億4500万円と
弁護士費用相当額9000万円とを合計した金員の一部として3億円及びこれに対
する不法行為後であり,訴状送達の日の翌日である平成27年10月25日から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1前提事実(当事者間に争いがない。)
(1)当事者
原告は,船舶用電子機器等の開発,製造及び販売等を業とする株式会社である。
被告は,船舶用電子機器及び陸上無線機器等の開発,製造及び販売等を業とする
株式会社である。
(2)原告の有する特許権
原告は,以下の特許(以下「本件特許」といい,本件特許に係る発明を「本件発
明」という。また,本件特許の特許出願を「本件特許出願」といい,本件特許出願
の願書に添付された明細書及び図面をまとめて「本件明細書」という。)に係る特許
権を有する。本件明細書の記載は,別紙の特許公報(甲2)のとおりである。
特許番号特許第3880216号
発明の名称レーダー装置及び類似装置
出願日平成10年8月21日
登録日平成18年11月17日
特許請求の範囲
【請求項1】
最新の受信データを記憶する現在映像用画像メモリと,
受信データを蓄積記憶する過去映像用画像メモリと,
現在映像用画像メモリと過去映像用画像メモリの記憶データを重畳表示する表示
部と,
縮尺変更時に過去映像用画像メモリの記憶データを第1ステップでバッファに転
送し,第2ステップでバッファの記憶データを過去映像用画像メモリに再転送する
とともに,転送時または再転送時に1転送サイクル当たりのバッファと過去映像用
メモリのアドレスの移動量Kを縮尺に応じて変える制御部と,を備えてなる,レー
ダー装置及び類似装置。
(3)構成要件の分説
本件発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
A最新の受信データを記憶する現在映像用画像メモリと,
B受信データを蓄積記憶する過去映像用画像メモリと,
C現在映像用画像メモリと過去映像用画像メモリの記憶データを重畳表
示する表示部と,
D縮尺変更時に過去映像用画像メモリの記憶データを第1ステップでバ
ッファに転送し,
E第2ステップでバッファの記憶データを過去映像用画像メモリに再転
送するとともに,
F転送時または再転送時に1転送サイクル当たりのバッファと過去映像
用メモリのアドレスの移動量Kを縮尺に応じて変える制御部と,
Gを備えてなる,レーダー装置及び類似装置。
(4)被告の行為
被告は,遅くとも,平成21年1月頃に別紙「商品目録」記載の「被告製品1」
の販売を,平成20年9月頃に同記載の「被告製品2」ないし「被告製品4」の販
売を,平成22年12月頃に同記載の「被告製品5」の販売を,平成16年8月頃
に同記載の「被告製品6」の販売を,平成21年5月頃に同記載の「被告製品7」
の販売を,それぞれ開始した(以下,同目録記載の各製品を併せて単に「被告製品」
という。)。
被告製品は,本件発明の構成要件AないしCを充足する。
2争点
(1)被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)
(2)本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものであるか
ア乙8公報に基づく新規性欠如(争点2-1)
イ乙10公報を主引例とする進歩性欠如(争点2-2)
(3)損害額(争点3)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するか)について
【原告の主張】
(1)被告製品の構成
被告製品の構成は,別紙「被告製品説明書」記載のとおりである。
(2)構成要件Dの充足性
本件明細書の記載によれば,「バッファ」とは,過去映像用画像メモリに記憶され
た記憶データの縮尺を変更するために,当該データを過去映像用画像メモリから取
り出して,縮尺変更処理の前又は後に一時的に記憶するためのメモリであると解釈
されるべきであり,縮尺変更処理された画像データ,又は,これから縮尺変更処理
される画像データを保存するメモリを意味する。
別紙「被告製品における画像の縮小拡大処理の方法」における被告の主張を前提
とすると,被告製品において,縮尺変更時に,画像データが画像用メモリからワー
クメモリ内のあるメモリ領域(第1メモリ領域)を経由して,同じくワークメモリ
内の別のメモリ領域(第2メモリ領域)へ転送されるため,第2メモリ領域が「バ
ッファ」に該当する。
また,被告製品は,縮尺変更時に,過去映像を画像用メモリから演算処理デバイ
スに付設されたバッファメモリ内にある第1メモリ領域を経由して第2メモリ領
域に転送するという一連の転送を行っており,画像用メモリからワークメモリの第
2メモリ領域への画像データ転送は,本件発明の第1ステップに該当する。画像用
メモリからワークメモリの第1メモリ領域への転送は,被告製品がCPUを搭載し
ているためにデータ処理の都合上CPUがアクセスしやすいCPU専用メモリにデ
ータを仮置くためのものにすぎず,画像用メモリからワークメモリの第2メモリ領
域までの第1ステップの転送の一部とみるのが合理的である。
そして,第1ステップのうちワークメモリの第1メモリ領域から第2メモリ領域
への転送時に画像の縮尺変更処理が行われているので,被告製品は,構成要件Dを
充足する。
(3)構成要件Eの充足性
被告製品において,縮尺変更後の画像データがワークメモリの第2メモリ領域(バ
ッファ)から画像用メモリ(過去映像用メモリ)に再転送されるため,被告製品は,
構成要件Eを充足する。
(4)構成要件Fの充足性
ア「1転送サイクル当たりの・・・アドレスの移動量Kを縮尺に応じて変
える」
画像データとは,多数の画素の縦横の配列からなるアドレス空間内の各画素に,
画素値を対応付けたデータである。そして,通常,2つのメモリ領域間で画像デー
タの縮尺変更処理を行う際,縮尺変更前の画像データの各画素を,縮尺変更後の画
像データの各画素にそれぞれ対応付け,この対応付けに沿って縮尺変更前の画像
データの各画素値を,縮尺変更後のアドレス空間内に移動させることになる。
そして,制御部がメモリに対してデータを読み出し,書き込む処理を行うとき,
クロックに基づいたタイミングに従って処理を繰り返し行うことは技術常識であり,
「転送サイクル」とは,このようなクロックに基づいたタイミングで行われる読み
出し又は書き込みのサイクルを意味し,具体的には,過去映像用画像メモリからバ
ッファへの転送を行うサイクル,又はバッファから過去映像用画像メモリへの再転
送を行うサイクルのいずれかを指す。
また,「アドレスの移動量K」は,転送元及び転送先における1転送サイクル当た
りのアドレスの移動量を意味する。
したがって,縮尺に応じた移動量Kだけアドレスを変更する処理とは,「制御部
が,1転送サイクル当たりのバッファと過去映像用メモリのアドレスの移動量K
を,縮尺に応じた値となるように決定する」ということを規定しているにすぎない。
イ「バッファのアドレス」及び「過去映像用(画像)メモリのアドレス」
(ア)一般に,画像データのアドレスには,メモリ内での物理的な位置を表
し,メモリの番地に一致する実アドレス空間内でのアドレス(以下「物理アドレス」
という。)と,「メモリに記憶されている画像データにおける画像上の座標(位置)」
という概念,すなわち,「画像データを視覚的に表示する際の画素配置に一致する仮
想アドレス空間内でのアドレス」(以下「論理アドレス」という。)の2種類の概念
がある。
レーダー装置及び類似装置において画像の縮尺変更処理を実現しようとする際に
は,表示部に表示される画像データの画素の配列(行・列)と,画像データが記憶
されるメモリの配列(行・列)とが一致することは通常ないため,通常,物理アド
レスと論理アドレスは一致しない。この点,レーダー装置及び類似装置の分野にお
いて,2次元メモリは当然に使用されるが,行・列数がドット数を上回るメモリが
用いられる場合であっても,メモリアクセスや演算処理を高速化する等の目的のた
め,通常,画像データは,様々な態様で「画像データを視覚的に表示する際の画素
配置」とは一致しない物理アドレスに従って格納され,やはり物理アドレスと論理
アドレスとは,通常,一致しない。
そして,物理アドレスと論理アドレスが不一致である場合には,物理アドレスの
「移動量Kを縮尺に応じて変え」たとしても,視覚的に表示される画像の拡大や縮
小を行うことはできず,画像の縮尺変更といった画像処理に係る設計を物理アドレ
スの並びのまま行うことは,開発設計者に過度な負荷となるばかりか,実際上極め
て困難である。そのため,現実には,開発設計者は,論理アドレスに基づいて画像
処理を設計し,視覚的に表示される画像データの縮尺変更処理を行う際にも,アド
レスを論理アドレスと物理アドレスとで変換し,メモリにおいて画像の読み出しや
書き込みを行う際には,論理アドレスが物理アドレスに変換され,当然に物理アド
レスに基づいて,メモリにおいて画像の読み出しや書き込みを行うことになる。
したがって,構成要件Fが,過去映像の縮尺変更処理を規定していることに鑑み
れば,「バッファのアドレス」及び「過去映像用メモリのアドレス」とは,「バッフ
ァに記憶されている画像データの論理アドレス」及び「過去映像用メモリに記憶さ
れている画像データの論理アドレス」と解するほかなく,当業者もそのように理解
する。
(イ)確かに,構成要件Fには,「バッファのアドレス」及び「過去映像用メ
モリのアドレス」と記載されている。しかしながら,そもそも,論理アドレスと物
理アドレスとは,互いに常に変換可能な対のアドレスであり,これらの文言が直ち
に物理アドレスを意味し,論理アドレスを意味し得ないというのは根拠に欠ける。
また,本件明細書の【0037】,【0041】,【0042】及び【図7】にはア
ドレス変換回路が明示されていないが,発明の本質と関係がないため,説明の便宜
上省略されているからにすぎず,【0037】には,単に電子回路を用いて論理アド
レスを生成することが記載されているにすぎない。そもそも,レーダー装置及び類
似装置とは極めて複雑なハードウェア構成を有しており,【図7】からはアドレス変
換回路だけでなく,各種回路を含む多数のハードウェア構成が省略されている。
実開平2―79417号公報(以下「乙7公報」という。),特開昭58-142
218号公報(以下「乙16公報」という。)及び特許第2784499号公報(以
下「乙17公報」という。)においても,本件明細書と同様に,発明の本質と関係が
ないため,アドレス変換に関する説明が便宜上省略されているにすぎず,これらの
考案及び発明を当業者が実施しようとするならば,論理アドレスと物理アドレスが
異なるものとされ,両者の間の変換を行うのが常識である。
ウ被告製品へのあてはめ
被告製品におけるワークメモリ内の第2メモリ領域が「バッファ」に対応し,第
1メモリ領域を経由した画像用メモリから第2メモリ領域への一連の転送が本件
発明の「転送」に該当し,被告製品は,過去映像用メモリ(画像メモリ)からバッ
ファ(ワークメモリ内の第2メモリ領域)への画像データの転送時において,画像
データの縮尺変更処理を行っている。
また,被告製品は,読み出しのアドレスを設定するサイクル(処理クロック)と,
書き込みのアドレスを設定するサイクル(処理クロック)に基づいて転送処理を行
っており,このようなクロックを用いてカウントされるサイクルは「転送サイクル」
に対応する。
さらに,被告製品において,表示画面に表示される過去映像が縮尺変更される際,
バッファと過去映像用メモリのアドレスの移動量Kは,表示される画像から明らか
なように,縮尺に応じた値となっている。例えば,被告製品において,2倍の縮尺
で縮尺変更をした場合,実際に表示画像は2倍に拡大され,1/2倍の縮尺で縮尺
変更をした場合,実際に表示画像は1/2倍に縮小されるから,この時,画像デー
タを視覚的に表示する際の画素配列に一致するアドレスである論理アドレスの移動
量Kが縮尺に応じた量となっている。このように,被告製品において,縮尺変更時
に,論理アドレスの移動量Kが縮尺に応じて変わることは,被告製品の縮尺変更時
の表示画像から明らかである。
したがって,被告製品は,転送時に1転送サイクル当たりのワークメモリの第2
メモリ領域(バッファ)と画像メモリ(過去映像用メモリ)の論理アドレスの移動
量Kを縮尺に応じて変えるCPU(制御部)を備えており,構成要件Fを充足する。
この点,被告製品が,演算を高速化して被告の指摘するリアルタイムヘッドアッ
プ機能を実現するために,物理アドレスの配置を複雑なものとして,読み出しや書
き込みの際に複雑な処理を行っているのは,本件発明の縮尺変更処理とは関係のな
い事情である。
(5)構成要件Gの充足性
被告製品は,構成要件AないしFを充足するレーダー装置であるから,構成要件
Gを充足する。
【被告の主張】
(1)被告製品の構成について
別紙「被告製品説明書」記載1(現在映像用画像メモリ)及び2(過去映像用画
像メモリ)は認め,その余は否認する。
被告製品における画像処理の方法は,別紙「被告製品における画像の縮小拡大処
理の方法」のとおりである。
(2)構成要件Dの充足性について
ア「過去映像用画像メモリ」
「過去映像用画像メモリ」は,受信データを蓄積記憶する(構成要件B)と同時
に,現在映像用画像メモリに記憶されるデータと重畳して表示されるデータを記憶
するメモリである(構成要件C)。このような「過去映像用画像メモリ」は,被告製
品の画像用メモリが該当する。
他方で,被告製品のワークメモリ内の第1メモリ領域,すなわちブロック状の画
像データのワークメモリ内の保存領域は,画像用メモリに記憶されていたデータを
CPUでの処理に供する目的で保存するためのメモリであり,受信データを蓄積,
記憶するメモリでもなく,表示部に表示されるデータを記憶するメモリ領域でもな
いため,「過去映像用画像メモリ」には当たらない。
イ「バッファ」への転送
本件特許出願時の「バッファ」の通常の意味は,そこに記憶されたデータが処理
対象になって処理を施され変化するような領域ではなく,他のメモリに記憶されて
いるデータをそのまま一時的に保存し,それを他へ渡すようなメモリである。
これに対して,被告製品のワークメモリでは,メモリ内において画像データがC
PUによって処理されることにより,縮小拡大というデータの性質の変更という独
自の処理が行われている。したがって,ワークメモリでの処理過程は,画像の一
時的な保存にとどまらないため,ワークメモリは,「バッファ」ではなく,ワー
クメモリへの転送又はワークメモリからの再転送は,「バッファ」への転送又は「バ
ッファ」からの再転送には当たらない。
また,被告製品において「過去映像用画像メモリ」に相当する画像用メモリから
ワークメモリの「第1メモリ領域」へのデータの展開には「Tornado」とい
うASICが用いられるが,「Tornado」による展開処理では画像の縮尺変更
は行われておらず,縮尺変更処理がなされる第1ステップの転送ではない。
(3)構成要件Fの充足性について
ア「転送または再転送時」における縮小拡大処理
「1転送サイクル当たりのバッファと過去映像用メモリのアドレスの移動量Kを
縮尺に応じて変える」とは,本件明細書の【0036】ないし【0040】等の記
載から,「連続する画像データを転送又は再転送する時に,転送元のメモリにおける
アドレスを1つ移動する間に,転送先のメモリのアドレスを縮尺に応じて移動量K
だけ移動させること」,すなわち,「転送元のメモリにおいてn個の連続するアドレ
スに記憶されている画像データを,転送先のメモリにおいてK・n個の連続するア
ドレスに格納するよう,縮尺に応じて移動量Kを指定すること」を意味する。
すなわち,本件発明は,①過去映像用画像メモリの記憶データをバッファに
転送する転送時,又は②バッファの記憶データを過去映像用画像メモリに再
転送する再転送時に,上記のようなアドレスの移動量Kを変更指定する縮小
拡大処理を伴う転送作業を行うことを本質的な要素としている。
イ「バッファと過去映像用メモリのアドレスの移動量Kを縮尺に応じて変
える」
(ア)本件発明は,上記の転送作業により画像の縮小拡大を行うため,
本件明細書【0036】ないし【0040】に記載されているように,表示
画面上の1画素に対してメモリ上のアドレスを1つ割り当て,表示画面上の
連続する画素に関する画素データを,連続するメモリのアドレスに格納する
ことを前提としている。
「バッファのアドレス」及び「過去映像用(画像)メモリのアドレス」とは,ハ
ードウェアたる「バッファ」及び「過去映像用(画像)メモリ」におけるメモリ領
域を特定する識別子(番号)である物理アドレスを意味することは文言上明らかで
ある。つまり,本件明細書における「アドレス」という文言は,ハードウェアであ
る「現在映像用画像メモリ7」や「過去映像用画像メモリ8」のアドレスバス(ア
クセスしたいコンピュータメモリの位置の物理アドレスを伝えるために使用する伝
送路)に入力されるメモリ領域(記憶領域)を特定する番地,すなわち物理アドレ
スであることを意図した用語であることは明らかである。具体的には,本件明細書
の【0037】,【0041】,【0042】及び【図7】等の記載から,①現在映像
用画像メモリ7の転送用番地が,アドレス発生部31(アドレス発生部A)におい
て発生し,アドレスセレクタ33(アドレスセレクタA)を介して,現在映像用画
像メモリに直接入力されていること,②過去映像用画像メモリ8の転送用番地が,
アドレス発生部32(アドレス発生部B)において発生し,アドレスセレクタ34
(アドレスセレクタB)を介して,過去映像用画像メモリに直接に入力されている
ことは明らかである。仮に,これらのアドレスが,原告の主張するような論理アド
レスであった場合,メモリに画像データを格納する際に,論理アドレスを物理アド
レスに変換しなければならないが,上記の過程において,そのような変換は行われ
ていない。
そして,本件明細書の【0036】ないし【0040】及び【図8】ないし【図
11】等の記載から,「転送サイクル」とは,メモリからの画素の読み出しクロック
(周期的電気信号)であるRクロックのサイクル(周期),すなわち,転送元のメモ
リから画素データを1画素読み出し,かつ転送先のメモリへ画素データを1画素書
き込む時のアドレスを発生させる基準となる基準クロックのサイクルを指す。
そうすると,「1転送サイクル当たりのバッファと過去映像用メモリのアドレスの
移動量Kを縮尺に応じて変える」とは,「過去映像用画像メモリ」(再転送時であれ
ば「バッファ」)からデータを読み出す際の基準クロックの1サイクルごとのアドレ
スの移動量と,読み出されたデータを「バッファ」(再転送時であれば「過去映像用
画像メモリ」)に書き込む際の基準クロックの1サイクルごとのアドレスの移動量と
を,縮尺に応じて異ならせることによって,画像データの縮小又は拡大を行うこと
と解される。
(イ)また,「アドレス」が物理アドレスである以上,「転送時または再転送
時に1転送サイクル当たりのバッファと過去映像用メモリのアドレスの移動量Kを
縮尺に応じて変える」という処理により画像の縮小拡大が行われるためには,本件
明細書の【0037】に記載されているように「バッファ(現在映像用画像メモリ
7)」及び「過去映像用画像メモリ8」のX方向のアドレスの移動量とY方向のアド
レスの移動量とをK倍して移動させるような処理が必要であり,「現在映像用画像メ
モリ7」や「過去映像用画像メモリ8」は,物理アドレスが画像の座標(X座標,
Y座標)と一致するような2次元メモリ(行・列アドレスがあるメモリ)である必
要がある。
この点,2次元メモリにおいて,行・列数がドット数を上回りさえすれば,レー
ダー装置の表示部に表示される画像データの画素の配列(行・列)と,画像データ
が記憶されるメモリの配列(行・列)とを一致させることが可能であり,この場合,
物理アドレスの移動量Kが縮尺に応じて一意に決まる。また,原告出願による乙7
公報及び乙16公報や,乙17公報等によれば,このような2次元メモリが,本件
特許出願時に用いられていたことは明らかである。例えば,乙16公報には,航行
位置表示装置において画像メモリの物理アドレスと画像データを視覚的に表示する
際の画素配置とが一致している例が記載されている。
加えて,「1転送サイクル当たりの・・・アドレスの移動量Kを縮尺に応じて変え
る」という縮尺変更方法の文言から,構成要件Fの「アドレス」が物理アドレスで
あっても論理アドレスであっても,本件明細書の【0005】,【0006】,【00
36】ないし【0040】及び【0062】等の記載から,アドレスは,X方向,
Y方向に進んで行き,読み出され書き込まれるものと解され,本件発明では,本件
明細書の【0053】及び【図15】のように1転送サイクル当たりのアドレスの
移動量Kに応じたアドレス信号の進度に応じて画素ごとに順に転送されてメモリに
書き込まれることが必須である。
ウ転送時または再転送時のアドレスの設定
1転送サイクル当たりのアドレスの移動量Kを縮尺に応じて変えるためには,転
送時又は再転送時において,転送元(再転送時は転送先)となる「過去映像用画像
メモリ」と転送先(再転送時は転送元)となる「バッファ」に同時にアドレスが設
定されなければならない。もし,同時にアドレスが設定されないのであれば,転送
元(再転送時は転送先)となる「過去映像用画像メモリ」のアドレス設定が終わっ
た後に転送先(再転送時は転送元)となる「バッファ」のアドレスを別途設定しな
ければならず,そのためには少なくとも2転送サイクルが必要となる。
エ被告製品へのあてはめについて
(ア)「転送または再転送時」に縮小拡大処理が行われていないこと
被告製品の画像用メモリに格納された画像データは,画像の縮小拡大を行う際に,
ASIC(特定用途向け集積回路)及びCPU(中央演算処理デバイス)を経由し
て,ワークメモリに書き込まれ,転送される。その後,CPUが,ワークメモリ
に格納された画像データについて,縮小拡大の演算処理を行いつつ,縮小拡
大処理後の画像データをワークメモリの未使用の領域に書き込む。その上で,
縮小拡大処理後の画像データは,元の画像メモリの同じ領域に転送される。
したがって,被告製品のワークメモリ内における縮小拡大処理は,過去映
像用画像メモリからバッファへの転送,又はバッファから過去映像用画像メ
モリへの再転送とは異なる過程での独自の処理であり,過去映像用画像メモ
リからバッファへの転送時又はバッファから過去映像用画像メモリへの再
転送時に行われてはいない。
仮に,ワークメモリの第1メモリ領域のデータに基づいてワークメモリ内の第2
メモリ領域に縮尺変更後のデータを作成することが転送に該当すると想定しても,
この転送の際に画像用メモリのアドレスの移動量Kを縮尺に応じて変えるような処
理は行われていない。
(イ)「バッファと過去映像用メモリのアドレスの移動量Kを縮尺に応じて
変える」処理が行われていないこと
被告製品の画像用メモリ上では4画素×4画素が1つのブロックとして
扱われ,各画素の画像データがビットごとに分割されて3つの物理的に異な
るメモリ(SDRAM0ないしSDRAM2)に分けて保存されており,画
像用メモリ(SDRAM0ないしSDRAM2)では「画像データを視覚的に
表示する際の画素配置に一致する仮想アドレス空間内でのアドレス」(論理アドレ
ス)を用いて画像データを保存していない。また,ワークメモリの第1メモリ領
域では,32画素×32画素の広域ブロックを1つのまとまりとしてデータが扱わ
れ,1アドレスに4画素の画像データが保存されており,ワークメモリにおいても
論理アドレスを用いて画素データを保存していない。
したがって,被告製品の画像用メモリもワークメモリも,画像上の座標と一致し
ない物理アドレスで各メモリ領域が特定されるメモリであり,「過去映像用(画
像)メモリ」に相当する画像メモリからワークメモリの第1メモリ領域に画
像データを展開する際に,X方向及びY方向にデータの読み出しや書き込みの際
に使用されるメモリのアドレスの移動量をK倍するような処理を行い,アドレス移
動量Kを変化させることによって画像を縮小拡大することは不可能である。
また,画像上では連続して並ぶ画素がワークメモリ上では不連続なアドレスのメ
モリ領域に保存されており,この点においても,ワークメモリの第1メモリ領域の
アドレスと第2メモリ領域のアドレスを移動量Kで変化させるような処理では画像
全体を正しく縮小拡大することは不可能である。
以上のとおり,被告製品では,ASICによる画像用メモリとワークメモリの第
1メモリ領域の間の画像データの展開時,CPUによるワークメモリの第1メモリ
領域と第2メモリ領域の間の処理のいずれにおいても,アドレスの移動量Kを変化
させるような処理では画像を正しく縮小拡大することは不可能である。
加えて,被告製品は,画像データの読み出し及び書き込みについて,画素を表示
画面上のX方向に必要な回数分カウントし,1行分の画素のカウントが終わるとY
方向に1行ずつ移って必要な行数分の画素をカウントするという方法を採用してい
ない。また,被告製品は,表示画面上の4画素×4画素のブロック単位で画像用メ
モリに保存し,その後32画素×32画素の広域ブロックを1つのまとまりとして
64ブロック×64ブロックに並べた構成でワークメモリに転送するという方法で,
画像処理を行っており,本件明細書の【0053】及び【図15】のように画素ご
とに順に転送動作を実行していく方法を採っていない。
したがって,構成要件Fの「アドレス」を物理アドレス及び論理アドレスのいず
れと解釈するかにかかわらず,被告製品において,「バッファと過去映像用メモリの
アドレスの移動量Kを縮尺に応じて変える」処理は行われていない。
(ウ)転送元と転送先のアドレスを同時に設定できないこと
被告製品のCPUでの処理には,1つのワークメモリ内の異なる2つの領域であ
る第1メモリ領域及び第2メモリ領域が使用されているが,ワークメモリには1つ
のアドレスバスしかないため,第1メモリ領域からの読み出しと第2メモリ領域へ
の書き込みのためのアドレス指定を同時にすることは不可能である。したがって,
被告製品では,1転送サイクル当たりのアドレスの移動量Kを縮尺に応じて変える
処理を行うことは不可能である。
2-1争点2-1(乙8公報に基づく新規性欠如)について
【被告の主張】
以下のとおり,本件発明は,特開平11-183597号公報(以下「乙8公報」
という。)に記載された発明(以下「乙8発明」という。)と実質的に同一であり,
特許法29条の2により特許を受けることができないものであるから,新規性を欠
き,本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものである。
(1)乙8発明
乙8公報には,以下の発明(乙8発明)が記載されている。
a画像メモリ4にレーダエコーが記録される。
b他船の航跡が軌跡として画像メモリ4に記録される。記憶装置12に記
憶した画像情報が読み出され,画像メモリ4に書き込まれる。なお,画像メモリ4
から記憶装置12へ転送される際には,過去の画像情報であると解される。
c画像メモリ4から読み出されたビデオ画像が表示部6にレーダ映像とし
て表示される。画像メモリ4の全ての記憶内容でアドレス変換を実行することで,
拡大前の航跡を拡大後のレーダ映像に同定して表示できる。他船の航跡表示を行う
場合に必要なのは,現在表示しているレーダ映像画面の拡大/縮小を行った場合の
位置同定と,記憶装置12に記憶した他船の航跡表示の再現である。
d2倍の画面拡大指示が入力されると,制御部11がまず現在の画像メモ
リ4の記憶内容を記憶装置12に転送する。
e次に,制御部11は,記憶装置12に記憶した画像情報を読み出し,そ
れぞれ画像メモリ4のアドレス640×(2y+1)+(2x+1)のアドレスに
書き込むというアドレス変換を,全ての記憶内容で実行する。
f制御部11は,記憶装置12に記憶した画像情報を読み出し,それぞれ
画像メモリ4のアドレス640×(2y+1)+(2x+1)のアドレスに書き込
むというアドレス変換を,全ての記憶内容で実行することで,拡大前の航跡を拡大
後のレーダ映像に同定して表示できるようになる。なお,縮小,例えば1/2にす
る場合には,・・・アドレス変換すればよい。
g船舶レーダ装置に付設されるレーダ装置の航跡表示用デバイス【請求項
1】。
(2)本件発明と乙8発明との対比
実開昭61-97781号公報(乙9)に記載された考案,特開昭60-111
84号公報(乙10)及び特開平8-68850号公報(乙11)に記載された各
発明から,一定時間前(過去)から最新(現在)の複数のレーダ画像を重ねて表示
するに際し,本件発明のように「現在映像用画像メモリ」と「過去映像用画像メモ
リ」を別に設ける構成が乙8発明の出願時において周知かつ慣用されていた技術で
あったことは明らかである。したがって,乙8発明のように現在映像用と過去映像
用の「画像メモリ」を1つで兼ねる構成に代えて本件発明のように「現在映像用画
像メモリ」と「過去映像用画像メモリ」を別に設ける構成にすることは,周知・慣
用技術の転換であり,新たな効果を奏するものでもないので,課題解決のための具
体化手段における微差にすぎない。
したがって,本件発明は,乙8発明と実質的に同一である。
【原告の主張】
(1)乙8発明の認定は,否認する。
乙8公報に開示されている技術の内容は,以下の通りである。
①船舶レーダ装置に付設されるレーダ装置の航跡表示用デバイスであり,
以下の②ないし⑤の構成を有するデバイス(「航跡表示用デバイス10」)
②上記レーダ装置の画像メモリ(「画像メモリ4」)に対し読出/書込を行
う手段
③上記レーダ装置の操作部から出力されるコマンドを入力する手段
④長時間レーダ映像を蓄積することによって他船の航跡がレーダ映像中に
軌跡として記録された上記レーダ装置の画像メモリの記憶内容を,複数個それぞれ
別々のファイルに同じアドレスで記憶する記憶装置(「記憶装置12」)
⑤上記レーダ装置の操作部から出力される「画面移動」,「画面拡大/縮小」,
「航跡表示再現」のコマンドを実行するため,これらのコマンドを受けて上記画像
メモリに記憶された記憶内容と上記記憶装置の各ファイルに記憶された記憶内容の
入れ替え,及び必要な場合のアドレス変換を行う制御部
(2)本件発明と乙8発明との対比について
本件発明と乙8発明を対比すると,構成要件DないしFに関連して,少なくとも,
以下の相違点が認められる。また,本件発明は,相違点1及び2に係る構成により,
「レンジ変更時においても,新たなレンジでの映像の蓄積を待つことなく,引き続
き物標の動向(航跡)の確認をすることができる」という新たな効果を奏するもの
であり,相違点1及び2は,課題解決のための具体化手段における微差とはいえず,
本件発明と乙8発明とは,同一又は実質的に同一であるとはいえない。
ア相違点1
乙8発明における「記憶装置12」は,演算処理用に情報を一時記憶する「バッ
ファ」ではない。
イ相違点2
乙8発明では,縮尺変更時に「記憶装置12」の記憶データが画像メモリ4に再
転送されない。
2-2争点2-2(乙10公報を主引例とする進歩性欠如)について
【被告の主張】
以下のとおり,本件発明は,当業者が,本件特許出願前に頒布された特開昭60
-11184号公報(以下「乙10公報」という。)に記載された発明(以下「乙1
0発明」という。)に,実開昭62―124580号公報(以下「乙4公報」という。)
に記載された考案(以下「乙4考案」という。),特公平6―42259号公報(以
下「乙12公報」という。)に記載された発明(以下「乙12発明」という。),特許
第2632804号公報(以下「乙13公報」という。)に記載された発明(以下「乙
13発明」という。)及び特許第2521685号公報(以下「乙14公報」という。)
に記載された発明(以下「乙14発明」という。)を適用することによって,当業者
が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明は進歩性を欠き,本件
特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。
(1)乙10発明
乙10公報には,以下の発明(乙10発明)が記載されている。
aエコーメモリa及びエコーメモリbにレーダエコーを変換したCRT画
面情報が記録される。
bエコーメモリcに任意の強度範囲あるいは特定の強度のレーダエコーを
変換したCRT画面情報が記憶される。エコーメモリcにおいては以前に記憶して
おいたレーダエコーの記憶情報と論理和をとりながらレーダエコーを記憶蓄積す
る。
cビデオ信号生成部6においては,エコーメモリa,b及びcのCRT画
面情報をカラー表示器7に表示するためのビデオ信号に変換して表示制御部3に送
給する。表示制御部3においては,海図生成部2及びビデオ信号生成部6から送給
されたビデオ信号を合成し,かつ同期信号を発生させ,これらをカラー表示器7に
送給する。
dないしf(乙4公報,乙12公報ないし乙14公報にて開示される周知
技術)
g航法用表示装置
(2)本件発明と乙10発明との対比
本件特許と乙10発明は,本件発明が,「縮尺変更時に過去映像用画像メモリの記
憶データを第1ステップでバッファに転送し,第2ステップでバッファの記憶デー
タを過去映像用画像メモリに再転送するとともに,転送時または再転送時に1転送
サイクル当たりのバッファと過去映像用メモリのアドレスの移動量Kを縮尺に応じ
て変える制御部」を備えているのに対し,乙10発明が同制御部を備えていない点
で,相違し,その余は一致する。
(3)相違点に係る構成の容易想到性
ア乙4公報,乙12公報ないし乙14公報の開示内容
上記の相違点は,「縮尺変更時に第1のメモリの画像データを第lステップで第2
のメモリに転送し,第2ステップで第2のメモリの画像データを第1のメモリに再
転送するとともに,転送時または再転送時に画像データを拡大又は縮小する技術」
と理解することができ,当該技術は,以下のとおり,本件特許出願前において既に
開示された周知技術であった。
すなわち,乙4公報には,船舶の外部の状況を示す画像データ(魚群探知画像)
を記憶する画像表示メモリ1から画像データを転写メモリ9に転送し,転送時に画
像データを拡大する処理が示され,また,転写メモリ9から画像表示メモリ1へ拡
大された画像データを再転送する処理が示されている。
乙12公報には,フレームメモリの画像データをバッファメモリに転送し,転送
時に変換テーブルを用いて縮小拡大する処理が示され,また,バッファメモリから
フレームメモリへ画像データを再転送する処理が示されている。
乙13公報には,フレームメモリ16から画像メモリ11へ画像データを転送し,
転送時に間引き回路22において画像データを縮小拡大する処理が示され,また,
画像メモリ11からフレームメモリ16へ画像データを再転送し,再転送時に間引
き回路22において画像データを縮小拡大する処理が示されている。
乙14公報には,画像メモリ4の画像データを第1ステップで表示メモリ7に転
送し,転送時に拡大縮小回路6にて縮小拡大する処理が示され,また,表示メモリ
7から画像メモリ4へも同様に画像転送が行われることが示されている。
イ乙10発明に副引例の技術を適用する動機付け
乙10発明と乙4公報,乙12公報ないし乙14公報記載の技術は,いずれも画
像データの表示装置に関する技術であり,共通の技術分野に属する。乙10発明は
航法用表示装置に関する発明であるが,これに同じ画像データの表示装置に関する
技術である乙4公報,乙12公報ないし乙14公報記載の技術を用いることは,当
業者の通常の創作能力の発揮として容易である。
また,乙10発明において,海図の縮尺が任意の異なり得るものであることが開
示されており,そのような海図の縮尺に合わせて映像データを縮小拡大しようとす
る動機付けが示唆され,また,過去のレーダ映像を記憶し,そこに含まれる固定物
標の位置座標を海図情報として利用できる形に変換した上で記憶蓄積するのである
から,記憶蓄積される際に位置座標に基づいて縮尺に合わせた上で映像データが変
換されることも示唆されている。
したがって,乙10発明のような画像データの表示装置に,画像データの縮尺変
更の機能を設けるに当たって,乙4公報,乙12公報ないし乙14公報記載の画像
データを縮小拡大する技術を採用することは,当業者であれば容易に想到できたこ
とである。
【原告の主張】
(1)乙10発明の認定について
乙10発明では,海図情報に基づいて任意の縮尺で海図が生成され,この海図
の縮尺に併せて,レーダエコーの送給を受ける度に逐次レーダエコーの縮尺が調
整され,レーダエコーがエコーメモリa,b内に記憶されるとともに,レーダエ
コーのうち任意の強度範囲あるいは特定の強度のものがエコーメモリc内に記憶
蓄積される。そして,海図と,エコーメモリa,b内の現在のレーダエコーと,
エコーメモリc内の記憶蓄積されている任意の強度範囲あるいは特定の強度のレ
ーダエコーとが重畳表示される。
しかしながら,乙10には,海図の縮尺の設定時に,記憶蓄積されている過去の
レーダエコーがどのように処理されるかについて,一切開示されていない。
(2)本件発明と乙10発明との対比について
本件発明と乙10発明に,少なくとも被告の主張する相違点があることは認める。
(3)相違点に係る構成の容易想到性について
ア乙4公報,乙12公報ないし乙14公報が上記の相違点を開示していな
いこと
本件発明は,上記の相違点に係る構成により,レンジ切り換え時に(縮尺変更時
に),旧レンジで蓄積してきた過去映像を消去することなく,新しい縮尺に変換して,
それを現在映像と重畳表示することにより,新たなレンジでの映像の蓄積を待つこ
となく引き続き物標の動向(航跡)の確認できるようにしたものであり,本件発明
の上記の相違点に係る構成の技術的意義とは,「レンジ切り換え時に(縮尺変更時
に),過去映像を現在映像と重畳表示できるような縮尺に縮尺変更すること」にある。
これに対し,乙4公報には,「第2ステップでバッファの記憶データが過去映像用
画像メモリに再転送される」ことが何ら開示されておらず,乙12公報ないし乙1
4公報には,少なくとも「第1ステップで過去映像用画像メモリの記憶データが転
送される」ことが開示されていない。
したがって,上記の相違点に係る構成は,周知技術ではないばかりか,そもそも
本件特許出願時においていずれの刊行物にも開示されていない新規な構成であり,
乙10発明に,副引例の技術を組み合わせても,本件発明に到達することはない。
イ乙10発明に副引例の技術を適用する動機付けがないこと
乙10発明は,航法用表示装置の技術分野に属するのに対し,乙12発明は,事
務処理機器の技術分野に属するものであり,両発明の技術分野が共通するとはいえ
ない。また,乙13発明は,データ圧縮伸張技術の技術分野に属し,乙14発明は,
文書ファイル装置,CD-ROM,ワープロ,パソコン等の情報処理装置の技術分
野に属するものであり,乙10発明と乙13及び乙14発明についても,技術分野
が共通するとはいえない。
乙10公報に記載されているのは,①海図の縮尺を任意に設定できることと,②
当該海図の縮尺に映像データ(レーダエコー)の縮尺を合わせることであり,乙1
0公報は,過去の映像データの縮尺を現在の映像データの縮尺に合わせることを何
ら示唆するものではない。また,乙10公報には,記憶蓄積していく際に映像の縮
尺を変更すること,すなわち,現在映像の縮尺を逐次変更することが開示されてい
るにすぎず,乙10公報は,後の縮尺変更時に過去映像を縮尺することを示唆する
ものではない。
したがって,乙10発明において,副引例の技術(画像データを縮小拡大する技
術)を適用し,本件発明のように「縮尺変更時に,過去映像を現在映像と重畳表示
できるように縮尺変更する」構成とすることの動機付けは存在しない。
ウ乙10発明から本件発明に到達することには阻害要因があること
乙10発明は,過去のレーダ映像の座標軸を現在表示されている海図の座標系の
座標軸に合わせるための計算及び計算の結果に基づいた記憶データの処理を行うこ
とが繁雑で実用上困難であることを課題としており,当該課題を解決するべく,記
憶蓄積されている過去のレーダ映像を後で処理するのではなく,記憶蓄積してゆく
際に過去のレーダ映像を海図の座標系の座標軸に合致するように逐次処理しておく
構成を採用している。そうすると,乙10発明に接した当業者が,このような乙1
0発明の必須の課題及びその解決手段を無視して,本件発明のように,後の縮尺変
更時に過去のレーダ映像の縮尺を変更する構成を想到し得たとはいえない。
したがって,乙10発明において,本件発明のように,「縮尺変更時に,過去映像
を現在映像と重畳表示できるように縮尺変更する」構成へと変更することには,阻
害要因がある。
3争点3(損害額)について
【原告の主張】
(1)特許法102条2項による損害額
被告は,遅くとも平成16年8月以降,継続して被告製品を製造販売し,本件特
許の登録日である平成18年11月17日から平成20年8月までの約1年9か
月の間に少なくとも年間20億円の売上げを,同年9月以降の約7年間に少なく
とも年間40億円の売上げを得ており,これまでの被告製品の売上高は,315億
円を下らない。
被告製品の利益率は40%と推定とされ,被告は,被告製品の製造販売により,
少なくとも126億円の利益を得ており,原告は同額の損害を被ったと推定され
る。
(2)特許法102条3項による損害額
平成18年11月17日以降の被告製品の売上高は,315億円を下らず,本件
特許についての実施料率は,3%を下らない。
したがって,原告は,少なくとも,実施料相当額である9億4500万円の損害
を被った。
(3)弁護士費用
原告は,本訴の提起を余儀なくされ,弁護士費用相当額として少なくとも900
0万円の損害を被った。
(4)合計額
原告は,被告に対し,選択的に126億9000万円(上記(1)と(3)の合計額)
又は10億3500万円(上記(2)と(3)の合計額)の損害賠償請求権に基づき,そ
の内金である3億円の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求める。
【被告の主張】
否認し,争う。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,以下のとおり,争点1について,被告製品は,少なくとも構成要件
Fを充足せず,本件発明の技術的範囲に属すると認めることはできないと判断する。
1本件発明の技術的意義について
(1)本件明細書によれば,①本件発明は,レーダーやソナー等,例えば,極座
標系で受信される探知信号を全周囲に渡り直交座標で配列された画像メモリに記憶
した後,ラスター走査方式の表示器に表示する装置に関し,特に,画像メモリとし
て,現在映像用画像メモリと過去映像用画像メモリの2つの画像メモリを用い,両
方の画像メモリの記憶データを重畳表示するようにしたレーダー装置及び類似装置
に関するものであるが(【0001】),②従来技術では,縮尺を変えた場合,すなわ
ちレンジ(探知距離範囲)を切り換えた場合に,旧レンジで蓄積した映像(過去映
像)は新レンジの縮尺に一致しないために使用できないことから,過去映像(航跡)
を一旦消して新レンジでの航跡を蓄積し直す必要があるという課題や,旧レンジに
戻ったときのために過去映像を保存しておいても,戻ったレンジが旧レンジと少し
でも異なると保存していた過去映像が利用できないという課題があり,これらの解
決策として,過去映像用画像メモリを複数個用意し,複数のレンジに対応した航跡
を同時に蓄積することも考えられるが,経済上実施することが困難であるという課
題があったことから(【0010】,【0011】),③縮尺を変えた場合にそれまでに
蓄積していた過去映像を新しい縮尺に変換することによって,それまでに蓄積して
いた過去映像を消すことなく引き続いて新しい縮尺での表示が可能になるレーダー
装置及び類似装置を提供することを目的とするものである(【0012】)と認めら
れる。
そして,本件発明は,縮尺変更時に,第1ステップで過去映像用画像メモリの記
憶データをバッファに転送し(構成要件D),第2ステップでそのバッファの記憶デ
ータを過去映像用画像メモリに再転送し(構成要件E),その転送時又は再転送時に,
1転送サイクル当たりの「バッファと過去映像用メモリのアドレス」の移動量Kを
縮尺に応じて変える(構成要件F)ことにより,レンジが切り換えられた時,過去
映像用画像メモリに記憶されているデータは転送時又は再転送時に縮小又は拡大さ
れるから,過去映像用画像メモリには変更された縮尺に応じた画像が記憶されるこ
とになり,縮尺変更後の表示部には過去の映像が引き続き表示されるようにしたも
のである(【0016】)と認められる。
(2)そして,転送時又は再転送時に1転送サイクル当たりの「バッファと過去
映像用メモリのアドレス」の移動量Kを縮尺に応じて変えるとの構成要件Fについ
て,実施例では,バッファを現在映像用画像メモリと兼用させた上で(【0064】),
①1/N倍に縮小する場合は,第1ステップにおいて,K1(過去映像用画像メモ
リのアドレスの移動量)=1,K2(現在映像用画像メモリのアドレスの移動量)
=1/Nに設定することにより,メモリ21(過去映像用画像メモリ)の記憶デー
タ(過去映像用画像メモリ21の大きさS1)は1/N(縮小時の画像の大きさS
2)に縮小されてメモリ20(現在映像用画像メモリ)に記憶され,第2ステップ
において,K1=K2=1に設定して,メモリ20内の記憶データは倍率1でメモ
リ21に転送され,これによりメモリ21には縮小された過去映像が記憶されるこ
とになるから,表示部22に表示される過去映像は縮小された状態でそのまま表示
され(【0027】ないし【0029】),②N倍に拡大する場合は,第1ステップに
おいてK1=K2=1に設定して,メモリ21のうちのNに応じた面積S3(拡大
時の面積がメモリ21の大きさとなる大きさ)の記憶データが倍率1でメモリ20
(転送先の画像領域S4)に転送され,第2ステップにおいては,K1=1,K2
=1/Nに設定することにより,この第2ステップにおいて画像データの拡大(転
送先の転送領域S5)が行われる(【0030】,【0031】)とされている。
そして,この転送又は再転送時には,制御部23において,設定部24で設定・
入力されたレンジの大きさに応じてメモリのアドレスの移動量Kを二つのアドレス
発生部に出力し,それに従い二つのアドレス発生部が過去映像用画像メモリ及び現
在映像用画像メモリのアドレスを進めるとともに,その転送用番地を発生し,アド
レスがX方向,Y方向に進むようにして,各メモリからの読み出しや各メモリへの
書き込みが行われる(【0023】,【0036】ないし【0040】)。例えば,第1
ステップの転送の場合であれば,「番地の移動は直線状に行われ,転送領域の大きさ
をX方向にA画素分,Y方向にB画素分とした場合,まず,転送開始番地からX方
向に1番地ずつA回の転送動作によって転送領域の端まで移動した後,Y方向に1
番地移動し,その位置から再びX方向の端まで移動する。こうして,X方向にA回
の転送動作をY方向にB行分繰り返すことにより過去映像用画像メモリ8の転送領
域の全部の転送を実行する」(【0053】)こととされる。この場合,転送開始番地
(Xs,Ys)からX方向にn回目,Y方向にm回目の転送サイクル点の座標(X
n,Ym)は,(Xs+K・n,Ys+K・m)によって表わされている(【003
7】)。こうして,縮小動作の第1ステップにおいては,現在映像用画像メモリ7の
1つの画素に過去映像用画像メモリ8の複数の画素が対応することになるから,複
数の画素のデータのうちの最大値を書き込むMAX処理を行い(【0055】),拡大
動作の第1ステップにおいては,K1=1,K2=1であるから,転送元となる過
去映像用画像メモリ8の画素と転送先となる現在映像用画像メモリ7の画素は1対
1に対応する(【0056】)。
2構成要件Fにおける,表示部に表示される画像データの画素の配置と「アド
レス」の配置との関係について
このように,本件発明では,過去映像用画像メモリとバッファとの間のデータの
転送又は再転送時に,「バッファと過去映像用メモリのアドレス」の移動量Kを縮尺
に応じて変えることにより,変更後の縮尺に応じた画像が過去映像用画像メモリに
記憶され,そのまま縮尺変更された過去映像が表示部に表示されることからすると,
本件発明の構成要件Fは,画像データを視覚的に表示する際の表示部の画素の座標
配置と,「バッファと過去映像用メモリのアドレス」の座標配置とを一致するように
対応させることを前提としているといえ,そのため,構成要件Fを充足するために
は,表示画面上の連続する画素に対応する画素データを,連続する「バッファと過
去映像用メモリのアドレス」に配する必要があると解される。
3「アドレス」の意義について
(1)原告は,レーダー装置の表示部に表示される画像データの画素の配列(行・
列)と,当該画像データが記憶されるメモリの配列(行・列,いわゆる物理アドレ
ス)とが一致することは通常なく,画像の縮尺変更のような画像処理に係る設計を
行う場合,開発設計者は,論理アドレス(画像データを視覚的に表示する際の画素
配置に一致する仮想アドレス空間内のアドレス)に基づいて画像処理を設計するの
が技術常識であるとして,構成要件Fにおける「バッファと過去映像用メモリのア
ドレス」は論理アドレスを意味する旨主張する。
そこで,原告の上記主張について検討する。
(2)本件明細書の記載
ア本件明細書には,実施例における縮小時のアドレスの移動量Kに関する
説明として,「1/N倍に縮小する場合は,第1ステップにおいてK1=1,K2=
1/Nに設定する。・・・なお,図4において,S1は過去映像用画像メモリ21の
大きさを示し,S2は縮小時の画像の大きさを示している。また,丸で囲む領域は
実際の画像データのある領域を示す。」(【0027】),「転送領域は,例えば図4の
縮小の場合の第1ステップでは,メモリ21が面積S1,メモリ20が面積S2の
大きさとなり,」(【0036】)との記載がある。
このように,【図4】における「S1」は,転送元の「過去映像用画像メモリ21
の大きさ」であり,そのうち丸で囲む領域は「実際の画像データのある領域」とさ
れていることからすると,ここにいう「S1」及び「丸で囲む領域」は,過去映像
用画像メモリ21の実際のメモリ領域を意味していると解するのが自然であり,「S
2」も同様であるから,これらの転送領域を構成する「アドレス」は,物理アドレ
スを意味すると解するのが自然である。
イまた,本件明細書には,実施例における拡大時のアドレスの移動量Kに
関する説明として,①「N倍に拡大する場合は,第1ステップにおいてK1=K2
=1に設定する。この結果,図5(1)に示すようにメモリ21の記憶データは倍
率1でメモリ20に転送される。なお,上記縮小時においてはメモリ21の記憶デ
ータ全てが縮小されてメモリ20に転送されるが,拡大の場合にはNに応じた面積
S3の画像データがメモリ20に対して転送される。S4はメモリ20の転送先画
像領域である。拡大率が大きい場合には面積S3,S4は小さく,拡大率が小さい
場合には面積S3,S4が大きい。面積S3,S4の大きさは,拡大時の面積がメ
モリ21の大きさとなる大きさである。」(【0030】),②「第2ステップにおいて
は,K1=1,K2=1/Nに設定される。拡大の場合は,この第2ステップにお
いて画像データの拡大が行われる。S5は転送先の転送領域であり,ここではメモ
リ21の面積である。」(【0031】)との記載がある。
このように,【図5】における「S3及びS4の大きさ」は,「拡大時の面積がメ
モリ21の大きさとなる大きさ」であるとされており,転送先の「S5」は「メモ
リ21の面積」であるとされていることからすると,ここにいう「S3」等は,過
去映像用画像メモリ21の実際のメモリ領域を意味していると解するのが自然であ
るから,これらの転送領域を構成する「アドレス」も,物理アドレスを意味すると
解するのが自然である。
ウまた,本件明細書には,実施例におけるレーダー装置の詳細な構成の【図
7】の説明として,「アドレス発生部31(アドレス発生部A)は,現在映像用画像
メモリ7の転送用番地を発生し,アドレス発生部32(アドレス発生部B)は,過
去映像用画像メモリ8の転送用番地を発生する。転送開始番地からX方向にn回目,
Y方向にm回目の転送サイクル点の座標を(Xn,Ym)とすると,Xn=Xs+
K・nYm=Ys+K・m但し,(Xs,Ys):転送開始番地K:転送1サ
イクル当りのアドレスの移動量(0<K≦1)転送開始番地Xs,Ysは,例え
ば,図4の縮小の場合の第1ステップでは,転送元となる過去映像用画像メモリ8
では左上の番地であり,転送先となる現在映像用画像メモリ7では面積S2の左上
の番地である。」(【0037】)との記載がある。
このように,【図7】において,転送開始番地は,「過去映像用画像メモリ8では
左上の番地」,「現在映像用画像メモリ7では面積S2の左上の番地」とされている
ことからすると,ここでの「転送開始番地」は,各メモリの物理アドレスと解する
のが自然であり,前記の「S1」等の理解とも整合的である。
エまた,本件明細書の【図7】(【0037】ないし【0042】による説
明を含む。)には,現在映像用画像メモリ7の転送用番地が,アドレス発生部31(ア
ドレス発生部A)において発生し,アドレスセレクタ33(アドレスセレクタA)
がレンジ切り換え時にアドレス発生部31(アドレス発生部A)で発生したアドレ
スを出力することを通じ,転送用番地が現在映像用画像メモリ7に直接に入力され
ることが記載され,また,同様に,過去映像用画像メモリ8の転送用番地が,アド
レス発生部32(アドレス発生部B)において発生し,アドレスセレクタ34(ア
ドレスセレクタB)がレンジ切り換え時にアドレス発生部32(アドレス発生部B)
に発生したアドレスを出力することを通じ,転送用番地が過去映像用画像メモリ8
に直接に入力されることが記載されている。
このように,アドレス発生部において発生したアドレスが,直接に,過去映像用
画像メモリ8及び現在映像用画像メモリ7に入力されていることからすると,ここ
にいう「アドレス」は,物理アドレスを意味していると解するのが合理的である。
オ以上のような本件明細書の諸記載からすると,本件明細書における「ア
ドレス」は,物理アドレスを意味するものとして記載されていると解するのが自然
であり,構成要件Fの「バッファと過去映像用メモリのアドレス」とは,バッファ
と過去映像用メモリの「物理アドレス」,すなわち,メモリ内での実際のメモリ領域
を特定する番地を意味すると解するのが相当である。
(3)原告の主張について
アこれに対し,原告は,前記(1)のとおり,表示部に表示される画像データ
の画素の配列(行・列)と,画像データが記憶されるメモリの配列(行・列)とが
一致することは通常なく,縮尺変更等の画像処理を実現するための製品の開発は,
論理アドレスに基づいて行われることを理由に,当業者であれば本件発明の「アド
レス」を論理アドレスとして理解する旨主張する。その上で,原告は,本件発明の
実施品であるとするレーダー装置(FAR-15x8シリーズ,FAR-21x7
シリーズ,FAR-28x7シリーズ,FAR-3000シリーズなど多数の機種)
では,本件明細書の【図7】に修正を施した以下の【甲2修正図7】のとおり,
赤枠で示される位置にアドレス変換回路が搭載されており,アドレス発生部A,B
で論理アドレスが生成された後,これが物理アドレスに変換され,現在映像用画像
メモリ及び過去映像用画像メモリに格納されるようになっていると主張する。
【甲2修正図7】
同様に,原告は,自らの出願に係る乙16公報記載の発明について,その主張す
る実施品(機種名GD-2000)に基づいて,同公報の図面にアドレス変換回路
を挿入した図面を作成し,また,自らの出願に係る乙7公報記載の考案について,
同考案を実施した場合を想定して同公報の図面にアドレス変換回路を挿入した図面
を作成し,いずれも,実際には,論理アドレスと物理アドレスとのアドレス変換が
なされていると主張する。
イしかし,まず,本件明細書には,そのような論理アドレスと物理アドレ
スとのアドレス変換処理が行われていることを示唆する記載は存せず,かえって,
物理アドレスと理解するのが自然な記載が複数存在することは,先に述べたとおり
である。
ウまた,原告が指摘する乙7公報及び乙16公報,さらに乙17公報につ
いては,以下のとおり考えられる。
(ア)乙7公報
a航跡記録装置の考案に関する乙7公報には,次の記載がある。
:「論理⇔物理」変換処理
「表示器1上に表示される上記表示内容は表示メモリ10内に記憶されており,
その記憶内容がくり返し読み出されて表示される。
表示メモリ10は表示器1の画素の各々に対応して記憶素子が配列され,水平走
査カウンタ11,垂直走査カウンタ12によって各記憶素子の記憶内容が順に読み
出される。
水平走査カウンタ11はクロックパルス源13のクロックパルスを計数する。そ
して,表示器1の水平方向の画素数と同数のクロックパルスを計数する毎に出力パ
ルスを垂直走査カウンタ12へ送出する。垂直走査カウンタ12は水平走査カウン
タ11の出力パルスを計数して,表示器1の垂直方向の画素数と同数のパルスを計
数する毎に出力パルスを送出する。
水平走査カウンタ11及び垂直走査カウンタ12のそれぞれの出力パルスは水平
垂直走査回路14へ送出される。水平垂直走査回路14は表示器1の画素走査を行
うもので,例えばブラウン管表示器を用いる場合,水平走査カウンタ11及び垂直
走査カウンタ12の各計数値に対応する画素位置を電子ビームに走査させる。又,
水平走査カウンタ11及び垂直走査カウンタ12の各計数値は表示メモリ10へ送
出されて,各計数値に対応する記憶素子の記憶内容が読み出される。読み出された
記憶情報は表示器1へ送出されて表示される。それによって,表示器1の各々の画
素にそれぞれが対応する記憶素子の内容が表示される。
表示メモリ10の記憶情報は上記のようにして表示器1上に表示される一方,そ
の記憶情報の書き込みはマイクロプロセッサ15(以下CPUと記す)によって行
われる。」(乙7公報の「明細書」4頁の12行目ないし6頁の3行目)
「CPU15は,航法装置16から送出される緯度,経度データーを用いて表示
器1の表示画面(第2図)上の対応位置に座標変換を行う。この座標変換は,例え
ば,表示画面上の位置を特定の緯度,経度位置に対応させ,その位置を基準位置と
して測定した緯度,経度位置が対応する表示画面上の位置を計算する。」(同6頁の
12行目ないし18行目)
「拡大,縮小スイッチ19は表示画面の縮尺率を変化させるもので,拡大スイッ
チ19Aを押す毎に一定率づつ表示画面が拡大される。逆に,縮小スイッチ19B
を押すと一定率だけ表示画面が縮小される。CPU15は,上記基準位置に対する
表示画面上の自船位置を計算するとき,上記基準位置から測定位置まで設定された
縮尺率で変化した位置を計算する。
上記のようにして計算された表示画面上の自船位置は,表示メモリ10の対応す
る記憶素子に書き込まれる。」(同7頁の6行目ないし16行目)
b上記aの記載によれば,乙7公報においては,①CPU15が,航
法装置16から送出される緯度,経度データーを用いて表示器1の表示画面上の対
応位置に座標変換を行い,この変換された座標を表示メモリ10の対応する記憶素
子に書き込み,②表示メモリ10は表示器の画素の各々に対応して記憶素子が配列
され,水平走査カウンタ,垂直走査カウンタによって各記憶素子の記憶内容が順に
読み出され,表示器1の各々の画素にそれぞれが対応する記憶素子の内容が表示さ
れ,③表示画面の縮尺率を変更して表示する,航跡記録装置が記載されていると認
められる。そして,表示メモリの「記憶素子」とは,メモリの実際の物理的素子を
いうものであるから,乙7公報には,表示画面の縮尺率を変更する航跡記録装置の
2次元メモリにおいて,表示メモリの物理的な記憶素子の配列が表示器の画素の配
列と一致するものが記載されていると認められる。
(イ)乙17公報
a航跡記録装置の発明に関する乙17公報には,次の記載がある。
「従来の航跡記録装置は航法装置から得られた現在の航行位置データを航行位置
データ記憶装置に記憶すると共に,その現在位置データ,つまり緯度,経度データ
を,ビデオRAMのX,Yアドレスに変換して,そのX,Yアドレスに現在位置デー
タを書き込む。従来においてはビデオRAMのX方向のメモリセルの数は表示器の表
示面の水平方向(X方向)の画素数と等しくされ,Y方向のメモリセルの数は表示
面の垂直方向(Y方向)の画素数と等しくされてあり,移動体,例えば船舶の出発
の際の現在位置(緯度,経度)が表示面の中心に表示され,かつ設定した縮尺率で
航跡が表示面に現われるように,ビデオRAMのX,Yアドレスと緯度,経度データ
とを対応させる。従ってビデオRAMを表示器の水平垂直走査と同期して読み出し,
表示器へ表示データとして供給すると,表示面にはその中心を起点とした船舶の航
跡を示す線が表示される。一般には表示面に緯度,経度線,地図(海図)も同時に
表示される。
更に画面移動キーが設けられており,その画面移動キーを操作することにより,
その画面移動キーの移動方向指示に従って,表示器に表示されている画面が移動
し,例えば船舶の航行目標方向に画面を移動させ,前方の状態(地図)を知ること
ができるようにされている。この画面の移動は,その見たい部分が表示面に表示さ
れるように,ビデオRAMの内容を書き替えて行う。」(乙17公報2頁の3欄2行目
ないし25行目)
「この発明においてはビデオRAM18としてX方向のメモリセルの数が表示器15の
表示面の水平方向(X方向)の画素数より多く,この例では3倍とされ,またY方
向のメモリセルの数が表示面の垂直方向(Y方向)の画素数より多く,この例では
3倍とされる。制御装置12は表示面の基準位置となるべきビデオRAM18のアドレス
(基準アドレス)を指定する。例えば第2図Aに示すようにビデオRAM18上に仮想
した表示面19の中心がビデオRAM18の中心のメモリセルと一致するように,仮想表
示面19の基準位置と対応するビデオRAM18のメモリセルのアドレス(XS1,YS2)を
基準アドレスとして指定する。」(同2頁の4欄21行目ないし31行目)
「制御装置12は新たな航行位置データを前述したように表示面上の画素位置に変
換するが,その変換された航行位置データを描画プロセッサ21へ供給する。描画プ
ロセッサ21はその変換された航行位置データを,ビデオRAM18の現在の仮想表示面
19上の位置に対するビデオRAM18のアドレスに変換して,ビデオRAM18のそのアドレ
ス位置に現在位置データを書き込む。従って出発位置が表示面の中心で,この位置
をビデオRAM18の中心メモリセルと対応ずけると,船舶の航行に従って次々と航行
位置データが例えば第2図Aに示す曲線22として順次記憶され,この曲線22が表示
器15の表示面に航跡として表示される。なお制御装置12は表示面上の緯度,経度線
と対応した線を示すデータを描画プロセッサ21へ送り,描画プロセッサ21はその緯
度,経度線が表示面に表示されるように,ビデオRAM18に緯度,経度データを書き
込む。」(同2頁の4欄42行目ないし3頁の5欄6行目)
b上記aの記載によれば,乙17公報において従来の航跡記録装置と
して記載されているのは,ビデオRAMのX,Y方向のメモリセルの数が,表示器の
表示面の水平方向,垂直方向の画素数と等しくされており,画面移動処理も行われ
るものであるところ,ここにいう「メモリセル」とは,メモリの実際の物理的素子
をいうものであるから,結局,乙17公報において,従来の航跡記録装置として記
載されているのは,画面移動処理を行う航跡記録装置の2次元メモリにおいて,ビ
デオRAMの物理的なメモリセルの配列が表示器の表示面の画素の配列と一致するも
のであると認められる。
また,乙17公報において発明の内容とされた航跡記録装置については,制御装
置によって表示面上の画素位置に変換された航行位置データは,描画プロセッサに
よって,ビデオRAM上に仮想した表示面の位置に対するビデオRAMのアドレスに変
換して,ビデオRAMのそのアドレス位置に現在位置データが書き込まれる。また,
ビデオRAMの仮想表示面の中心がビデオRAMの中心のメモリセルと一致するように,
仮想表示面の基準位置と対応するビデオRAMのメモリセルのアドレスを基準アドレ
スとして指定することとされ,ビデオRAMのX方向のメモリセルの数が表示器の表
示面の水平方向(X方向)の画素数より多く,Y方向のメモリセルの数が表示面の
垂直方向(Y方向)の画素数より多いこととされる。このように,乙17公報に記
載された発明においては,ビデオRAMのX,Y方向のメモリセルと表示器の表示面
の水平方向,垂直方向の画素とが対応関係にあると認められる。
(ウ)以上のように,乙7公報及び乙17公報では,縮尺変更処理や画像移
動処理といった画像処理を行う航跡記録装置において,表示部に表示される画像デ
ータの画素の配列(行・列)と,画像データが記憶されるメモリの配列(行・列)
とが一致するものが記載されている一方,それらの公報には,原告が主張するよう
な物理アドレスと論理アドレスとのアドレス変換回路を設けることを示唆する記載
はなく,この点は乙16公報でも同様であることからすると,原告が主張するよう
に当業者であればそれら公報で物理アドレスと論理アドレスの変換回路が設けられ
ていると理解するとは認められない。そして,これらの公報のような公知例がある
ことを踏まえれば,本件発明についても,当業者が技術常識に基づき「アドレス」
を論理アドレスとして理解するはずであるとは認められず,本件明細書の【図7】
にアドレス変換回路が設けられると理解するとも認められない。
エしたがって,本件発明を実施する場合に物理アドレスと論理アドレスが
通常一致しないとして,「アドレス」が論理アドレスを意味する旨の原告の主張は,
採用することができない。
(4)小括
以上によれば,「バッファと過去映像用メモリのアドレス」とは,バッファと過去
映像用メモリの「物理アドレス」,すなわち,メモリ内での実際のメモリ領域を特定
する番地を意味すると解される。
そして,バッファと過去映像用メモリの「アドレス」が物理アドレスを意味する
ことを前提とすると,「アドレスの移動量Kを縮尺に応じて変える」ことにより拡
大縮小処理を行うためには,「バッファ」や「過去映像用画像メモリ」は,「物理ア
ドレス」が画像の座標(X座標,Y座標)と一致するような二次元メモリである必
要があり,また,画面上で連続する画素はメモリのアドレス上においても連続して
いる必要があることになる。
4被告製品へのあてはめ
弁論の全趣旨によれば,被告製品の構成は,別紙「被告製品説明書」及び別紙「被
告製品における画像の縮小拡大処理の方法」記載のとおりであると認められるとこ
ろ,それによれば,被告製品の画像用メモリ(本件発明の「過去映像用画像メモリ」
に相当する。)では,画像データは,表示画面上の4画素×4画素のブロック単位で
保存されることから,表示画面上の配列とメモリ上の配置は一致しない。また,こ
れをワークメモリの第1メモリ領域(原告の主張では第1ステップの「転送」中の
経由地と位置づけられる。)について見ても,そこでは,32画素×32画素の広域
ブロック内の画素データが順番に格納されることから,やはり,表示画面上の配列
とメモリ上の配置は一致しない。
また,いずれにおいても,画面上では連続している画素が,メモリ上の配置では
不連続となっている。具体的には,被告製品の画像用メモリにおいては,画面上で
は連続している画素であるD[3]とD[16]の画像データについてみると,画
素位置D[3]の画像データは「アドレス0」に格納されるのに対し,画素位置D
[16]の画像データは「アドレス2」に格納されており,画像用メモリ上の配置
が不連続となっている(別紙「被告製品における画像の縮小拡大処理の方法」の参
考図1)。また,ワークメモリの第1メモリ領域でも,画面上では連続している画素
である画素位置D31と画素位置D1024の画像データは,それぞれ「アドレス
7」と「アドレス256」で特定されるメモリ領域に格納されており,メモリ上の
配置が不連続となっている(同参考図2)。
そうすると,原告が主張するように,仮に被告製品において,画像用メモリから
ワークメモリの第1メモリ領域への画像データの読出し・同第1メモリ領域から同
第2メモリ領域への画像用データの縮小/拡大コピーをもって本件発明の構成要件
Dの第1ステップの「転送」に当たり,同第2メモリ領域から画像用メモリへの書
戻しをもって本件発明の構成要件Eの第2ステップの「再転送」に当たると解した
としても,転送又は再転送時に,画像用メモリ(「過去映像用画像メモリ」)の物理
アドレスの移動量Kを縮尺に応じて変えることによって画像全体を正しく縮小拡大
することは不可能であり,また,原告の主張によれば第1ステップの経由地とされ
るワークメモリの第1領域について見ても,画面上では連続している画素がメモリ
上の配置では不連続となっているのであるから,同様に不可能である。
したがって,被告製品が本件発明の構成要件Fを充足するとは認められない。
第5結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求にはいずれ
も理由がないから,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官
髙松宏之
裁判官
田原美奈子
裁判官
林啓治郎
(別紙)
商品目録
被告製品1:JMA-5200MK2シリーズ
被告製品2:JMA-5300MK2シリーズ
被告製品3:JMA-7100シリーズ
被告製品4:JMA-9100シリーズ
被告製品5:JMA-9172-SA
被告製品6:JMA-5300シリーズ
被告製品7:JMA-5200-RTシリーズ
(別紙)
被告製品説明書
1現在映像用画像メモリ
被告製品は,レーダー装置が受信した最新のデータである現在映像のデータを記
憶するメモリを有する。
2過去映像用画像メモリ
被告製品は,レーダー装置がデータを受信した後,当該データを蓄積し,記憶す
るメモリを有する。
3表示部
被告製品は,上記最新のデータと,蓄積され記憶された過去映像のデータを,重
ねて表示するディスプレイを有する。
4制御部
被告製品は,以下の機能を持つ制御部を有する。
(1)縮尺変更時において画像データを,過去映像用画像メモリからバッファ
メモリ内のあるメモリ領域(以下「第1メモリ領域」という。)を経由して,同じ
くバッファメモリ内の別のメモリ領域(以下「第2メモリ領域」という。)へと転
送する。
(2)当該第2メモリ領域に記憶されたデータを,第2メモリ領域から過去映像
用画像メモリに再転送する。
(3)上記転送時に,画像データの各画素が格納される第2メモリ領域と過去映
像用画像メモリのアドレスの移動量Kを,縮尺に応じて変更する。
(別紙)
被告製品における画像の縮小拡大処理の方法
(P41からP46省略)

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