弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人岸巖の上告理由について。
 本件について原審が適法に確定した事実は、次のとおりである。
 被上告人B1は、昭和三三年二月一一日訴外D某から本件建物およびその敷地た
る本件土地の借地権を譲り受けることとなり、同日上告人との間で本件土地の賃貸
借契約を締結した。しかし、本件建物は、銀行から譲受けに必要な資金を融資して
もらう関係上、被上告人B1は、被上告会社名義で譲り受けることとし、同日その
旨の所有権取得登記を経たものである。そもそも、被上告人B1は、昭和二二年頃
婦人服の販売等の営業をはじめ、同二九年中には東京ab丁目の本件土地の向い側
にB2という店舖を設けるに至つた。そして、税金、従業員採用等の対策から個人
企業を株式会社組織に改めることにし、昭和三二年一月被上告会社を設立した。同
会社においては、設立以来今日まで被上告人B1が代表取締役で、その他の役員は
同被上告人の妻子および親族であり、株主中被上告人以外のものはすべて妻子およ
び親族の名を借りたにすぎず、実際の出資は全部同被上告人がしたものである。被
上告会社はその設立後今日まで数回の増資をし、その増資資金はすべて被上告人B
1がだしたものである。右増資にともない、本件建物以外にも店舖が設けられ、従
業員数も相当に増加するに至つたが、被上告会社の運営および実権は、なおも実質
的に被上告人B1の個人企業の時代と同様の状態であり、上告人から本件土地を賃
借するにあたつては、貸主側においても、借主側においても、借主が被上告会社で
は不都合で、被上告人B1個人でなければいけないというような事情はなかつた。
被上告人B1は、被上告会社設立後も個人企業時代と同じく営業の全般を自ら掌握
していたので、個人と会社とを区別して考えることなく両者のいずれの名義であれ、
本件土地を借りることができさえすればよいと考えて、同被上告人を借主とする右
賃貸借を締結したものである。
 右事実によれば、被上告人B1が本件土地を同被上告人の個人企業と実質を同じ
くする被上告会社に使用させたからといつて、賃貸人との間の信頼関係を破るもの
とはいえないから、背信行為と認めるに足りない特段の事情があるものとして、上
告人が主張するような民法六一二条二項による解除権は発生しないことに帰着する
とした原審の判断は、正当である。引用の判例は事案を異にし、本件に適切でない。
原判決には、所論の違法はなく、論旨は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美

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