弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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              主    文
     被告人甲を無期懲役に,被告人乙,被告人丙及び被告人丁をそれぞ
     れ懲役20年に処する。
     被告人4名に対し,未決勾留日数中各400日を,それぞれその刑
     に算入する。
     被告人甲から,札幌地方検察庁で保管中のスタンガン1個(同庁平
     成16年領第148号符号16)を没収する。
理    由
(犯罪事実)
第1 
 1(平成16年2月20日付け被告人甲及び同丁に対する公訴事実第1)
被告人甲,同丁は,共謀の上,いわゆる出会い系サイトを利用して女性を呼
び出し,強いて姦淫しようと企て,平成14年7月19日午後10時ころ,札幌市
a区内某所に停車中の普通貨物自動車内において,援助交際と称して同乗させたA
(当時16歳)に対し,所携のスタンガンを顔前に示して放電させ,「これ何かわ
かる。」「首に当てたらどうなるかわかるでしょ。」などと申し向け,その両手首
をガムテープで緊縛するなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧した上,被告人甲
が強いて同女を姦淫し,次いで,被告人丁が強いて同女を姦淫しようとしたが,陰
茎が勃起しなかったため,その目的を遂げなかった。
 2(平成16年2月20日付け被告人甲及び同丁に対する公訴事実第2)
被告人丁は,前記犯行の際,前記場所において,前記Aが反抗を抑圧されて
いるのに乗じて,同女のバッグ内から,同女所有に係る現金2万円及び身分証明書
1通を強取した。
第2(平成16年7月14日付け公訴事実第1)
被告人甲は,丁と共謀の上,同年10月29日午後8時40分ころから同日
午後8時50分ころまでの間,同市b区某所のコンビニエンスストアW店西側敷地
内において,同所に駐車中のB所有に係る普通乗用自動車1台(時価約30万円相
当)を窃取した。
第3(平成16年12月22日付け公訴事実第1)
被告人甲及び同丁は,共謀の上,路上を歩行中の女性から金品を強取すると
ともに,強いて同女を姦淫しようと企て,同年12月6日午後10時28分ころ,
同市c区内某所の路上において,同所を歩行中のC(当時18歳)に対し,やにわ
に背後から同女を羽交い締めにし,所携のスタンガンを放電させてその頭部付近に
数回押し当てるなどして普通乗用自動車内に押し込み,直ちに同車を発進させて,
北海道石狩市内某所のX1株式会社倉庫敷地内まで走行させ,走行中の同車内又は
上記敷地内に停車中の同車内において,その口をガムテープで塞ぐなどし,「上の
者からさらってこいと言われている。さらってすすきのの風俗に売り飛ばす。」,
「これから写真撮るから。上の者から言われているから。服脱いで。」などと申し
向けるなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧した上,同女所有の現金5000円
及び生徒手帳1冊を強取したが,同女に抵抗されたため,同女に口淫させたにとど
まり,姦淫の目的を遂げなかった。
第4(平成16年10月25日付け公訴事実第1)
被告人甲及び同丁は,共謀の上,路上を歩行中の女性から金品を強取すると
ともに,強いて同女を姦淫しようと企て,平成15年1月21日午後10時15分
ころ,札幌市b区内某所の路上において,同所を歩行中のD(当時17歳)に対
し,やにわに背後からその口を塞ぐとともに所携のスタンガンを放電させてその口
付近に押し当てるなどの暴行を加え,その反抗を抑圧した上,同女所有に係る携帯
電話機1台(時価約7000円相当)を強取したが,同女に大声で悲鳴を上げられ
るなどして抵抗されたため,姦淫の目的を遂げず,その際,上記暴行により,同女
に加療約1か月間を要する上口唇電撃傷の傷害を負わせた。
第5(平成16年3月31日付け公訴事実第1)
被告人甲は,戊と共謀の上,路上を歩行中の女性を姦淫しようと企て,同年
2月25日午後9時30分ころ,同市b区内某所の路上において,同所を歩行中の
E(当時15歳)に対し,やにわに背後から同女の口をタオルで塞ぎ,所携のスタ
ンガンを放電させて右肩付近に押し当て,「叫んだりしなかったら殺さない。」な
どと申し向け,同女を羽交い締めにするなどし,普通乗用自動車内に押し込み,直
ちに同車を発進させ,同市c区内某所の空地まで走行させ,走行中の車内におい
て,その両手首をガムテープで緊縛し,「やっているところを写真に撮らせてくれ
れば帰してやる。そうでなければ風俗に行ってもらう。」などと申し向けるなどの
暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧した上,同空地に停車中の同車内において,被告
人甲,上記戊の順に,強いて上記Eを姦淫した。
第6(平成16年4月23日付け公訴事実)
被告人甲及び同丁は,前記戊と共謀の上,路上を歩行中の女性から金品を強
取するとともに,強いて同女を姦淫しようと企て,同年3月31日午後11時こ
ろ,同市c区内某所の路上において,同所を歩行中のF(当時18歳)に対し,や
にわに背後から所携のスタンガンを放電させて右首付近に押し当て,同女を羽交い
締めにするなどして普通乗用自動車内に押し込み,直ちに同車を発進させて,北海
道石狩市内某所のX2株式会社倉庫敷地内まで走行させ,走行中の同車内におい
て,その両手首などをガムテープで緊縛し,「選択肢がある。1つは事務所に行
く,もう1つはビデオを撮らせる。事務所に連れて行ったら10日くらい帰れない
んだよね。ビデオを撮らせてくれるのならかわいそうだから事務所には連れて行か
ない。40分経ったら帰してやる。」などと申し向けるなどの暴行脅迫を加え,そ
の反抗を抑圧して金品を強取しようとしたが,同女の所持金が僅少だったためその
目的を遂げず,次いで,同所に停車中の同車内において,上記戊,被告人甲,同丁
の順に,強いて上記Fを姦淫し,その際,上記一連の暴行により,同女に全治約8
日間を要する右腰部擦過傷等の傷害を負わせた。
第7(平成16年5月24日付け公訴事実第1)
被告人甲,同乙及び同丁は,共謀の上,路上を歩行中の女性から金品を強取
するとともに,強いて同女を姦淫しようと企て,同年5月30日午後11時20分
ころ,札幌市c区内某所の路上において,同所を歩行中のG(当時15歳)に対
し,やにわに背後から所携のスタンガンを放電させ,同女を羽交い締めにするなど
して普通乗用自動車内に押し込み,直ちに同車を発進させて,前記第3記載のX1
株式会社倉庫敷地内まで走行させ,走行中の同車内において,その両手首などをガ
ムテープで緊縛し,「上からの指令だから仕方がない。」「売られるのと回される
のどっちがいい。」などと申し向けるなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧した
上,同女所有の現金約2200円在中の財布等3点(時価合計約3万9000円相
当)を強取するとともに,同所に停車中の同車内において,被告人乙,同甲,同丁
の順に,強いて上記Gを姦淫した。
第8(平成16年9月14日付け公訴事実第1)
被告人甲,同乙及び同丁は,共謀の上,同年8月29日ころ,札幌市d区内
某所の路上において,同所に駐車中のH管理に係る電動工具等8点積載の普通貨物
自動車1台(時価合計約70万1000円相当)を窃取した。
第9(平成16年7月14日付け公訴事実第2)
被告人4名は,同年10月4日午前1時22分ころ,北海道石狩市内某所の
歩道上において,同所を自転車で通行中のI(当時18歳)が同自転車前かご内に
バッグを入れているのを認めるや,これをその在中物とともに強取しようと企て,
共謀の上,いきなり,同女を同自転車もろとも路上に引き倒して転倒させ,所携の
スタンガンを放電させてその頭部に押し当てる暴行を加え,その反抗を抑圧した
上,同女所有又は管理に係る現金約1500円及び財布等6点在中のハンドバッグ
1個(時価合計約5万6000円相当)を強取した。
第10(平成16年12月22日付け公訴事実第2)
被告人甲,同乙及び同丙は,共謀の上,路上を歩行中の女性から金品を強取
しようと企て,同月10日午前零時18分ころ,同市内某所の路上において,同所
を歩行中のJ(当時23歳)に対し,やにわに背後からその口を手で塞ぐととも
に,所携のスタンガンを放電させて同女に突き付けるなどの暴行を加え,その反抗
を抑圧した上,同女所有に係る携帯電話機1台(時価約5000円相当)を強取し
た。
第11(平成15年12月26日付け公訴事実)
被告人4名は,共謀の上,同月17日午後10時25分ころから同日午後1
0時31分ころまでの間,札幌市b区内某所のコンビニエンスストアY店北西側駐
車場において,同所に駐車中のK管理に係る普通乗用自動車1台(時価約170万
円相当)を窃取した。
第12(平成16年12月22日付け公訴事実第3)
被告人甲,同乙及び同丙は,共謀の上,路上を歩行中の女性から金品を強取
しようと企て,同月22日午後11時55分ころ,北海道石狩市内某所の路上にお
いて,同所を歩行中のL(当時44歳)に対し,所携のスタンガンを放電させてそ
の腹部付近等に押し当て,同女を羽交い締めにするなどして普通乗用自動車内に押
し込み,直ちに同車を発進させ,走行中の同車内において,その両手首などをガム
テープで緊縛し,「前の車の指令だ。殺さないから静かにしろ。」などと申し向け
るなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧した上,同女所有の現金約9500円及
び財布等7点(時価合計約300円相当)を強取した。
第13(平成16年3月11日付け公訴事実)
被告人甲,同乙及び同丁は,共謀の上,路上を歩行中の女性から金品を強取
するとともに,強いて同女を姦淫しようと企て,同月27日午後9時10分ころ,
札幌市b区内某所の路上において,同所を歩行中のM(当時18歳)に対し,やに
わに背後から同女の口を右手で塞ぎ,「騒ぐな。」などと申し向け,同女を右脇に
抱え込むなどし,普通乗用自動車内に押し込み,直ちに同車を発進させて,同市e
区内某所のX3株式会社資材置場敷地内まで走行させ,走行中又は同資材置場敷地
内に停車中の同車内において,所携のスタンガンを同女の顔前に示して放電させ,
その両手首をガムテープで緊縛し,「このまま帰れないのと回されて帰れるのとど
っちがいい。」などと申し向けるなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧した上,
同資材置場敷地内において,同女所有の現金9000円及びスカイメイトカード等
2点(時価合計約100円相当)を強取するとともに,同所に停車中の同車内にお
いて,被告人乙,同丁,同甲の順に,強いて上記Mを姦淫し,その際,上記一連の
暴行により,同女に全治約7日間を要する右膝下擦過傷の傷害を負わせた。
第14(平成16年9月14日付け公訴事実第2)
被告人甲,同乙及び同丙は,共謀の上,路上を歩行中の女性から金品を強取
するとともに,強いて同女を姦淫しようと企て,同年11月4日午後8時40分こ
ろ,同市b区内某所の路上において,同所を歩行中のN(当時18歳)に対し,や
にわに背後から同女に抱き付き,その口を手で塞ぐとともに同女を普通乗用自動車
右側後部ドア付近まで引っ張るなどの暴行を加え,同ドアから同女を同車内に押し
込もうとしたが,同女に抵抗されたため,その目的を遂げなかった。
第15(平成16年10月25日付け公訴事実第2)
被告人甲,同乙及び同丙は,共謀の上,同月4日ころ,同市c区内某所のO
方敷地内において,同人所有に係るホイール付きタイヤ4本(時価合計約10万円
相当)を窃取した。
第16(平成16年10月25日付け公訴事実第3)
被告人甲,同乙及び同丙は,共謀の上,同月7日ころ,北海道石狩市内某所
のX4有限会社倉庫北側駐車場内において,P所有に係るカーテレビ等4点積載の
普通乗用自動車1台(時価合計約141万1000円相当)を窃取した。
第17(平成16年10月25日付け公訴事実第4)
被告人甲,同乙及び同丙は,共謀の上,路上を歩行中の女性から金品を強取
するとともに,強いて同女を姦淫しようと企て,同月11日午前1時ころ,同市内
某所の路上において,同所を歩行中のQ(当時18歳)に対し,やにわに背後から
その口を手で塞ぐとともに同女を普通乗用自動車左側後部ドア付近まで引きずるな
どの暴行を加え,同ドアから同女を同車内に押し込もうとしたが,同女に大声で悲
鳴を上げられるなどして抵抗されたため,その目的を遂げなかった。
第18(平成16年1月29日付け公訴事実)
被告人甲,同乙及び同丙は,共謀の上,路上を歩行中の女性から金品を強取
するとともに,強いて同女を姦淫しようと企て,同月13日午後10時50分こ
ろ,札幌市c区内某所の駐車場において,同所を歩行中のR(当時23歳)に対
し,やにわに背後から同女の口をタオルで塞ぎ,所携のスタンガン(札幌地方検察
庁平成16年領第148号符号16)を顔前に示して放電させ,「静かにしろ,殺
すぞ。」などと申し向け,同女を羽交い締めにするなどし,普通乗用自動車内に押
し込み,直ちに同車を発進させて,同区内某所のX5株式会社資材置場敷地内まで
走行させ,走行中の同車内において,「静かにしろ。ソープに売るぞ。」などと申
し向けるなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧した上,同資材置場敷地内におい
て,同女所有の現金1万2000円及びポータブルMDプレイヤー等8点(時価合
計約9000円相当)を強取するとともに,同所に停車中の同車内において,被告
人乙,同丙,同甲の順に,強いて上記Rを姦淫し,その際,同女に全治約7日間を
要する外陰部腫脹の傷害を負わせた。
第19(平成16年2月20日付け被告人乙及び同丙に対する公訴事実)
被告人乙及び同丙は,共謀の上,路上を歩行中の女性から金品を強取すると
ともに,強いて同女を姦淫しようと企て,同月19日午後11時30分ころ,同市
c区内某所の路上において,同所を歩行中のS(当時19歳)に対し,やにわに背
後から同女に抱きつき,「騒ぐな。暴れたら殺すぞ。」などと申し向け,同女を抱
きかかえるなどして,普通乗用自動車内に押し込み,直ちに同車を発進させて,北
海道石狩市内某所の砂浜まで走行させ,走行中の同車内において,「俺たちに回さ
れるのと,売りに出されるのとどっちがいい。」などと申し向けるなどの暴行脅迫
を加え,その反抗を抑圧した上,同砂浜において,同女所有の現金約1万4500
円及び財布等2点(時価合計約2万円相当)を強取するとともに,同所に停車中の
同車内において,被告人丙,同乙の順に,強いて上記Sを姦淫し,その際,上記一
連の暴行により,同女に加療約1週間を要する顔面打撲の傷害を負わせた。
第20(平成16年3月31日付け公訴事実第2)
被告人甲,同乙及び同丙は,共謀の上,路上を歩行中の女性から金品を強取
するとともに,強いて同女を姦淫しようと企て,同月27日午後9時40分ころ,
札幌市b区内某所の路上において,同所を歩行中のT(当時16歳)に対し,やに
わに背後から同女に抱きつき,同女を普通乗用自動車のそばまで引っ張り,所携の
スタンガンを放電させて背中に押し当てるなどして,同車後部ドアから同車内に押
し込もうとしたが,同女に抵抗されたため,その目的を遂げなかった。
第21(平成16年5月24日付け公訴事実第2)
被告人甲,同乙及び同丙は,共謀の上,同日午後10時30分ころ,同市c
区内某所の駐車場において,U所有に係るアルミホイール付きタイヤ4本(時価合
計約8万円相当)を窃取した。
第22(平成16年3月31日付け公訴事実第3)
被告人甲,同乙及び同丙は,共謀の上,路上を歩行中の女性から金品を強取
するとともに,強いて同女を姦淫しようと企て,同日午後11時55分ころ,同市
c区内某所の路上において,同所を歩行中のV(当時21歳)に対し,やにわに背
後から同女の口を右手で塞ぎ,同女を抱きかかえるなどし,普通乗用自動車内に押
し込み,直ちに同車を発進させて,同区内某所の公衆用道路上まで走行させ,走行
中の同車内において,「すすきので売られるのと,俺たちに1発やられるのとどっ
ちがいい。」などと申し向けるなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧した上,上
記公衆用道路上において,同女所有又は管理に係る現金約2600円及び自動車運
転免許証等2点を強取するとともに,同所に停車中の同車内において,被告人乙,
同丙,同甲の順に,強いて上記Vを姦淫した。
(証拠) 
 (略)
(法令の適用)
 (略)
(量刑の理由)
1 始めに,被告人らの本件各犯行の全体像(各被告人が一連の犯行に加わった時
期,期間やその犯行件数等は様々であるが,その点については後に述べるとおりで
ある。)について概観すると,本件は,被告人らが,1年4か月余りの間に,女性
を強いて姦淫するとともに金品を強取する目的で,夜間に路上を独りで歩行中の女
性を,窃取した自動車内に押し込んで,人気のない場所に連れ去るなどした上で,
被害女性を順次強いて姦淫し,金品を強取するなどした6件の強盗強姦(判示第
6,第7,第13,第18,第19,第22),前同様の犯行に及ぼうとしたが未
遂にとどまった5件の強盗強姦未遂(判示第3,第4,第14,第17,第2
0),2件の強姦(判示第1の1,第5),夜間に路上で独りで歩行中の女性を狙
うなどして金品を強取した4件の強盗(判示第1の2,第9,第10,第12。な
お,以下では上記の強盗強姦,強盗強姦未遂,強姦,強盗の各犯行を総称して「一
連の強盗強姦等の犯行」などということがある。),上記の各犯行に使用した自動
車を窃取するなどした6件の窃盗(判示第2,第8,第11,第15,第16,第
21)の事案である。
2 一連の犯行全体の経過についてみると,被告人甲は,平成14年6月ころ,一
連の犯行に使用されたスタンガンを購入しており,出会い系サイトを通じて知り合
った判示第1の被害者と会う約束をすると,勤務先の同僚であった被告人丁との間
で上記被害者を強姦する旨の共謀を遂げた上で,同女を被告人甲運転車両に乗車さ
せ人気のない場所まで自動車を走らせた上で,被告人両名が,上記スタンガンを被
害者の至近距離で放電させ,ガムテープで目隠ししたり両手を縛るなどして反抗を
完全に抑圧した上で強姦し,その際,被告人丁は,同女が抵抗できない状態にある
のに乗じて,現金2万円等を強取した(判示第1の1,2)。その後,被告人甲が
普通乗用自動車(Z1)を窃取すると,被告人甲及び同丁は,同車両を用いて,拉
致した被害者を上記と同様の方法で脅迫するなどして犯行を続け,被告人甲が,以
前の勤務先の同僚であった戊に犯行の話をすると戊もこれに加わることとなり,被
告人甲は,同丁や戊とともに同様の犯行を続けた。そして,被告人甲が小中学校の
同級生である被告人乙に犯行の話をすると,同人がこれに加わりたいと述べて,平
成15年5月ころから前同様の犯行に加わるようになり,その後,被
告人乙が,以前の勤務先の同僚であった被告人丙に犯行の話をすると,同人もこれ
に加わりたいと述べて,同年10月初めころから前同様の犯行に加わるようになっ
た。また,被告人4名は,強盗強姦等の犯行をするために普通乗用自動車(Z2)
を窃取し,その自動車を用いて,さらに強盗強姦等やタイヤ窃盗などの犯行を繰り
返したものである(なお,被告人丁は,前記のとおり被告人甲の勤務先の同僚であ
ったところ,平成15年10月末ころに勤務先を退職したことから,他の被告人ら
と疎遠になり,その後は犯行に加わっていない。)。
3 そこで,本件各犯行の犯情を検討するに,まず,一連の強盗強姦等の全体像に
ついてみると,被告人らは,その関与時期等は様々であるが,1年4か月余りの間
に,16名もの被害女性を狙って犯行に及んでおり,うち8名に対しては強姦既遂
を含む犯罪に及んだものであって,極めて連続的かつ常習化した犯行は,非常に悪
質である。
被告人らは,いずれも被害者の人格や精神的肉体的苦痛など一顧だにせず,自
分達の歪んだ性欲や金銭欲を一方的に満足させることのみを考え,本件のごとき悪
辣非道の犯行を繰り返していたもので,その劣悪な犯行動機に酌量の余地は全くな
い。
一連の強盗強姦等の犯行は,前記のように出会い系サイトを利用して女性を呼
び出したという判示第1の犯行を除き,夜間人気のない路地が多く若い女性も多い
として狙いを付けた特定の地区を,予め被告人らが窃取していた自動車等を運転し
つつ徘徊して,独り徒歩で帰宅途中の若い女性を狙って物色し,襲えそうな女性を
見つけるとこれを追尾して暗い道に入るのを狙い,背後からいきなり襲って口を塞
ぎ,スタンガンを放電して身体に押し当てるなどした上,自動車内に引きずり込ん
で拉致しているのであって,極めて計画的で大胆かつ粗暴兇悪な犯行である。その
後,被告人らは,人気のない場所まで自動車で移動する間,言うことを聞かないと
殺すとか売り飛ばすなどと激しい脅迫文言を告げ,ガムテープで目隠しし,手首を
緊縛するなどして,被害者の反抗を完全に抑圧して,人気のない場所に自動車を停
車させた後,それぞれ口淫を強いるなどした挙げ句,輪姦しており,一部の犯行で
は口淫,姦淫の様子をカメラで撮影するなどしており,極めて粗暴かつ卑劣で,極
悪非道としかいいようのない悪質な犯行である。
また,被告人らは,被害者が警察に被害申告をすることを阻止するため,存分
に被害者を脅しつつ犯行に及んだ上,犯行後も,車両から目隠しをしたままの被害
者を降車させる際に,時間が経ってから目隠しをとるように指示して逃走するな
ど,犯行の発覚を阻止するような言動に出ていること,被告人甲が,奪い取った身
分証明書等を勤務先に持ち続けたことなど,犯行後の態様も悪質である。そして,
強取した金品の価額合計も21万円余りと相当多額である。
なお,強盗強姦未遂のうち1件(判示第3)の犯情について付言すると,上記
の犯行手口,犯行態様により,被害者を人気のない場所まで連行した上,被害者を
全裸にし,被告人甲,同丁は,いずれも被害者に口淫させており,被害者が泣き叫
んで必死に抵抗したため,姦淫自体は既遂とならなかったにすぎないもので,その
犯情は,強盗強姦の既遂とさして変わらないというべきである。
そして,各窃盗の犯情についてみると,一連の強盗強姦等の犯行に使うことと
なった自動車2台を盗取するなどしたものであり,計画的で手慣れた悪質な犯行で
あって,物品の価額合計も約429万円と多額であるし,被告人らは,犯行の発覚
を防ぐため,盗んだ自動車を燃やしたり,消火器を車内にかけるなどの証拠隠滅行
為に及んでいたもので,悪質である。
4 次に,一連の強盗強姦等の犯行における各被告人の役割についてみると,被告
人甲が事実上中心的な役割を果たしていたことは認められるが,それぞれ犯行に加
担するようになった後は,互いに相談するなどした上で物色行為に出かけるなどし
ていること,被害者を自動車内に押し込む際の行動は,一連の行為の中で確立した
方法により,被害者を自動車に乗せる役,運転手役等の行為をその都度適宜分担し
ており,被告人甲のみが危険かつ大胆な行為をしたというわけではないこと,強
取,窃取した金銭の分配を概ね等分にしていること,被告人乙及び同丙が,2人で
強盗強姦の犯行に及んでいること(判示第19)等に鑑みれば,少なくとも被告人
らの地位及び犯行における役割に特段の主従関係はなかったものと認められる。
また,被害者に対する行為の面をみると,何よりも各被告人が被害者を強姦し
ており,その順番も特に固定されていなかったことから,特定の者のみが犯情が軽
かったなどとは到底いえず,いずれの被告人の行為も極めて悪質というべきであ
る。
5 強盗強姦,強姦,強盗強姦未遂(判示第3)の各被害者は,何ら落ち度がない
のに(なお,判示第1の被害者は,援助交際を期待して一面識もない被告人らと会
うなど,やや軽率な点があったことは否定できないが,被告人らはそれを逆手にと
って被害者を陥れ,犯行に及んだもので,その悪質さは他の犯行とさして変わらな
いというべきである。),路上で突然被告人らに拉致された挙げ句,各被告人から
次々と強姦されたりするという極めて屈辱的で,恐怖に満ちたおぞましい被害に遭
って,著しい精神的,肉体的苦痛を被ったほか,うち4名の被害者は被害の際に,
外陰部腫脹等の傷害をも負わされている。被害者の中には,それまで通っていた学
校を辞めざるをえない状態に陥ってしまった者もあり,各被害者は,いずれも現在
もなお恐怖や苦痛に苛まれながらの生活をしているのであって,本件は各被害者の
その後の生活に大きな影響を与えており,とりわけ,被害当時年少者であった被害
者らの将来にわたる精神的負担は極めて強く懸念されるところである。
このように不条理で過酷な被害にあった被害者らが,被告人らを一生刑務所に
入れて欲しい,あるいは,もしできることなら死刑にして欲しいなどと峻烈な被害
感情及び処罰感情を述べるのも誠に当然のことである(なお,後述のように被告人
甲,同乙側から被害者らに慰謝料等が支払われてはいるが,その後も処罰感情は依
然として厳しいことが窺われる。)。
また,強盗強姦未遂(判示第3以外)及び強盗の各被害者も,夜間帰宅途中に
突然襲われ,放電されているスタンガンを突き付けられるなどという被害に遭って
おり,その被害感情及び処罰感情は非常に強いものがある。
そして,本件各犯行は特定の地域を中心に行われてきたことから,各犯行が付
近住民にとりわけ強い不安感を与えたことも軽視できない。
6 以上によれば,本件各犯行の犯情は,同種事案と比しても比類なきほど悪質で
あり,検察官が,このような犯行を繰り返し行った被告人4名に対して,その刑責
に軽重はないとして,いずれもその法定刑の最高刑である無期懲役刑を求刑してい
ることも,十分な合理性と説得力があるようにも思われる。
7 他方,強盗強姦未遂5件のうち4件は自動車内に被害者を引きずり込む行為に
失敗しており,幸いにして,実行の着手後,早い段階で未遂に終わっていること,
被告人らは,逮捕直後から各事実を認めて反省の情を示し,被告人らの供述が事案
の解明に寄与した面もあること,強盗,窃盗の被害品のうち,警察に発見されたり
したことなどにより,200万円以上の価額の物品(その大半は窃盗の被害品)が
被害者側に返還されていること等,被告人らのために酌むべき事情も存する。
8 そして,以上の諸情状を踏まえて,被告人個別の情状について,さらに検討を
進めることとする。
(1)被告人甲は,判示第19以外の強盗強姦5件,強姦2件,強盗強姦未遂5
件,強盗3件,窃盗6件の事件に関与していること,関与した強盗強姦,強姦の被
害者7名全員を自らも姦淫していることから,犯行件数は極めて多数であって,そ
の刑事責任も極めて重大なのは明らかである。
次に,被告人甲は,一連の犯行のきっかけともなった判示第1の犯行を被告
人丁に持ちかけていること,前記のように戊,被告人乙の各共犯者を本件犯行に誘
い込んでいることなど,共犯者間で主従関係はなかったとはいえ,被告人甲を中心
として共犯者らが集まり,犯罪集団として形成されていたことが認められ,本件犯
罪集団の形成,維持の各過程の点から,その責任はとりわけ重大といわざるを得な
い。
また,被告人甲は,女性を襲う方法や手順等の犯行計画を策定しているこ
と,各犯行に供したスタンガン等を用意していること,犯行においても各被害者の
近くでスタンガンを放電し,各被害者に脅迫文言を告げているなど,一連の極悪な
犯行方法の確立への寄与度もとりわけ大きい。
以上によれば,被告人甲の刑事責任は,被告人4名の中でも,事実上の主犯
格として,とりわけ非常に重いというべきである。
そうすると,前記被告人らのために酌むべき事情のほか,被告人甲の両親
が,各強盗強姦等の被害者に対する弁償金として100万円を準備し,強盗強姦の
被害者3名,強姦,強盗強姦未遂の被害者各1名の各被害者側に対して各8万円を
支払っていること,被告人甲は,被害者ら宛の謝罪文を弁護人を通じて被害者に送
り,反省文を書くなどして反省していること,同被告人には前科がないこと,同被
告人の母親が,同被告人の社会復帰後の更生に関して援助する旨証言していること
等,被告人甲のために酌むべき諸事情を十分に考慮しても,被告人甲に対しては,
その刑事責任の重大性に鑑みれば,法律で定められた最高刑である無期懲役刑に処
するのが相当である。
(2)被告人乙は,強盗強姦5件,強盗強姦未遂3件,強盗3件,窃盗5件に関与
しており,その件数は,被告人甲に次いで多く,関与した強盗強姦の被害者5名全
員を自らも姦淫していること,丙に本件犯行を打ち明け,犯行に誘い込んでいるこ
と等からみても,その刑事責任は,被告人甲に次いでやはり重大であり,被告人乙
に対しては,検察官が主張するように無期懲役刑に処するのが相当であると考えら
れなくもない。
しかしながら,前記被告人らのために酌むべき事情のほか,被告人乙の両親
が自宅を売却するなどして,被害者に対する弁償金として約500万円を準備し,
強盗強姦の被害者2名に対して各80万円,強盗強姦未遂の被害者1名,強盗の被
害者2名に対して各10万円,窃盗の被害者1名に対して5万円,窃盗の被害者4
名に対して各3万円をそれぞれ支払っており,示談が成立するなどしていること,
被告人乙が関与した強盗強姦未遂3件は,いずれも自動車への連れ込み行為に失敗
したことで未遂にとどまっていること,被告人乙は,被告人甲及び同丁らの犯行に
よって形成された犯行計画,態様が確立された以降に,一連の犯行に加功してお
り,その限りでは,被告人乙の犯罪集団形成過程の責任は,被告人甲らに対してや
や低いものとみることもできること,弁護人宛や家族宛に手紙を書くなどして反省
していること,被告人乙には前科がないこと,同被告人の父親が,上記のとおりの
被害弁償をするとともに,同被告人の社会復帰後の更生に関して援助する旨証言し
ていること等,被告人乙のために酌むべき事情も認められる。
そして,これら一切の事情を総合して検討すると,被告人乙の刑事責任は,
有期懲役刑の最高刑期(行為時法における有期懲役刑の最高刑期は懲役20年)に
優に値することは明らかであるが,無期懲役刑に処するのが相当とまではいえない
から,主文のとおり懲役20年に処することとした。
(3)被告人丙は,強盗強姦3件,強盗強姦未遂3件,強盗3件,窃盗4件に関与
しており,被告人甲,同乙に比べて少ないとはいえ,犯行に関与した件数はなお多
数であり,関与した強盗強姦の被害者3名全員を自らも姦淫していること,被告人
丙は犯行への加功後,犯行に対する強い意欲と執着心を有し,被告人らは,被告人
丙の関与後,犯行頻度を飛躍的に高めていることから,被告人丙が本件犯罪集団の
常習性を加速させたことが認められ,被告人丙の刑事責任もまた重大である。
これに対して,前記被告人らのために酌むべき事情のほか,被告人丙が関与
した事件において法定刑で無期懲役刑が定められているもののうち,強盗強姦が3
件にとどまっていること,強盗強姦未遂3件はいずれも自動車への連れ込み行為に
失敗したことで未遂にとどまったものであること,被告人丙は,他の被告人らの犯
行によって形成された犯行計画,態様が確立された以降に,一連の犯行に加功して
おり,その限りでは,被告人丙の犯罪集団形成過程の責任は,他の各被告人に対し
てやや低いものとみることもできること,被告人丙は,強盗強姦等の被害者に対し
て謝罪文を書くなどして反省していること,同被告人には前科がないこと等,被告
人丙のために酌むべき事情も認められる。
そうすると,被告人丙の刑事責任も,有期懲役刑の最高刑に値することは優
に認められるが,無期懲役刑に処するのが相当とまではいえないから,主文のとお
り懲役20年に処することとした。
(4)被告人丁は,強盗強姦3件,強姦1件,強盗強姦未遂2件,強盗2件,窃盗
2件に関与しており,被告人4名のうち犯行に関与した件数は最も少ないもののな
お相当多数の兇悪犯罪を犯しており,関与した強盗強姦,強姦の被害者4名を自ら
も姦淫しようとし,うち3名に対し姦淫したこと,判示第1の2の犯行において単
独犯で金品を強取しているが,被告人甲,同丁は,その際に2万円を奪えたことに
味を占めてその後も犯行に及んでおり,同犯行が一連の犯行の引き金の一つになっ
ていることなど,被告人丁の犯罪集団形成過程の責任も重いこと等に鑑みれば,被
告人丁の刑事責任もまた重大である。
これに対して,前記被告人らのために酌むべき事情のほか,上記のとおり被
告人丁の犯行件数は他の被告人よりも少ないこと,被告人丁は,物色行為等に出か
ける際に積極的に他の被告人に働きかけたという面はみられないこと,被告人丁が
反省文を書くなどして反省の態度を示していること,同被告人には前科がないこと
等,被告人丁のために酌むべき事情も認められる。
そうすると,被告人丁の刑事責任も,被告人乙及び同丙と同様に,有期懲役
刑の最高刑に値することは優に認められるが,無期懲役刑に処するのが相当とまで
はいえないから,主文のとおり懲役20年に処することとした。
 よって,主文のとおり判決する。
(求刑 被告人4名に対しいずれも無期懲役,被告人甲からスタンガン1個没収)
平成17年6月10日
札幌地方裁判所刑事第2部
裁判長裁判官   吉 村   正
裁判官   染 谷 武 宣
裁判官   伊 東 智 和

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