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裁判例


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平成12年(行ケ)第45号 審決取消請求独立当事者参加事件(被参加事件・平
成10年(行ケ)第338号)
(平成13年3月14日口頭弁論終結)
           判         決
       当事者参加人      ルーセント テクノロジーズ インコー
ポレイテッド
       代表者         A
       訴訟代理人弁理士    三 俣 弘 文
       訴訟復代理人弁理士   刈 谷 光 男
       被参加事件原告(脱退)  エイ・ティ・アンド・ティ・コーポレー
ション
           (旧商号) アメリカンテレフォンアンドテレグラ
フカムパニー
       代表者         B
       被 告(被参加人)   特許庁長官 C
       指定代理人       D
       同           E
       同           F
       同           G
       同           H
           主         文
      当事者参加人の請求を棄却する。
      訴訟費用は当事者参加人の負担とする。
      この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
           事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 当事者参加人(以下「参加人」という。)
   特許庁が平成9年審判第2576号事件について平成10年6月23日にし
た審決を取り消す。
   訴訟費用は被告(被参加人、以下単に「被告」という。)の負担とする。
 2 被告
   主文第1、第2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   脱退前の被参加事件原告(以下「脱退前原告」という。)は、1987年
(昭和62年)8月12日にアメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権
を主張して、昭和63年8月12日、名称を「レーザー溶断導線を有する固体回
路」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭63
ー200323号)が、平成8年11月26日に拒絶査定を受けたので、平成9年
2月24日、これに対する不服の審判の請求をした。
   特許庁は、同請求を平成9年審判第2576号事件として審理した上、平成
10年6月23日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄
本は同年7月7日、脱退前原告に送達された。
   脱退前原告は、平成10年10月30日に本件訴えを提起した後、平成11
年4月8日に上記特許出願に係る特許を受ける権利を参加人に譲渡し、同年5月1
7日、特許庁長官にその旨の届出をした。
 2 本願発明(平成10年3月31日付け手続補正書により補正された明細書の
特許請求の範囲の請求項(1)記載の発明)の要旨
   輻射エネルギーの使用によって非導電状態となる導線(12)を含む下層を有
し、前記下層は絶縁層(13)によって覆われ、更に前記絶縁層(13)上に上層の導
線(14)が形成され、前記上層の導線(14)はクロスオーバ位置(25)で前記下層の導
線(12)と交叉しており、エッチング防止マスキング層(24)が少なくとも前記クロス
オーバ位置(25)上に形成され、前記下層の導線(12)上の前記絶縁層の厚さは、前記
エッチング防止マスキング層(24)下の前記絶縁層の厚さより薄いことを特徴とする
レーザ溶断導線を有する固体回路。
 3 審決の理由
   審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、その出願前に国内にお
いて頒布された刊行物である昭和59年6月28日沖電気工業株式会社沖時報編集
委員会発行の「沖電気研究開発123」(VOL.51NO.2)11頁~18頁に掲載されたI
外1名による「大容量メモリにおける冗長技術」と題する論文(以下「刊行物1」
という。)に記載された発明(以下「刊行物発明」という。)及び特開昭60-1
80140号公報(以下「刊行物2」という。)に記載された発明並びに周知技術
に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許
法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
第3 参加人主張の審決取消事由
 1 審決の理由中、本願発明の要旨の認定、刊行物1の記載事項の認定(審決書
3頁末行~6頁2行目)、刊行物2に審決が摘記した記載(同6頁3行目~12行
目)があること並びに本願発明と刊行物発明との一致点及び相違点の認定は認め
る。また、相違点についての判断のうち、審決書7頁14行目~9頁11行目に記
載された事項は争わない。
   審決は、刊行物1及び刊行物2に記載された技術事項を誤認して、本願発明
と刊行物発明との相違点についての判断を誤った結果、本願発明が刊行物発明及び
刊行物2に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとの誤
った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
 2 取消事由(相違点についての判断の誤り)
  (1) 審決は、その認定に係る本願発明と刊行物発明との相違点、すなわち、
「前者(注、本願発明)においては、エッチング防止マスキング層が少なくとも前
記クロスオーバ位置上に形成され、前記下層の導線上の前記絶縁層の厚さは、前記
エッチングマスキング層下の前記絶縁層の厚さより薄く形成されているのに対し、
後者(注、刊行物発明)においては、その点について明記されていない点」(審決
書7頁7行目~13行目)についての判断において、「刊行物2には、保護膜(絶
縁膜)の膜厚が1.5μm程度以上になると、膜厚が厚くなるにしたがって切断成
功率が急激に低下してしまうので、第9図に示すようにヒューズ真上及びその近傍
の保護膜(絶縁膜)の膜厚を、途中までエッチングすることにより部分的に薄くす
ればよいことが知られているのであるから、その絶縁膜を薄くする手段として、半
導体製造方法において周知のリソグラフィ技術を用いて、絶縁膜上にレジストを塗
布し、該レジストに対しレーザで溶断する部分に対応する部分に開口部を設け、そ
の開口部を通して絶縁膜をエッチングすることは当業者が容易になし得たことと認
められる。そうすると、そのレジストの開口部に対応する絶縁膜はエッチングによ
り薄くなり、レジストが覆っている絶縁膜はエッチングされないので、以前の状態
のままである。そして、上記レジストは、本願明細書にも記載されているように、
エッチング防止マスキング層に相当するものである。」(同8頁19行目~9頁1
7行目)として、「本願発明の特徴とする、エッチング防止マスキング層が少なく
とも前記クロスオーバ位置上に形成され、前記下層の導線上の前記絶縁層の厚さ
は、前記エッチングマスキング層下の前記絶縁層の厚さより薄く形成することは、
当業者が容易になし得たことと認められる。」(同9頁18行目~10頁3行目)
と判断した。
  (2) 審決の上記(1)の「刊行物2には、・・・知られている」との認定は、刊
行物2の「保護膜(14)の膜厚が1.5μm程度以上になると、膜厚が厚くなるにし
たがって切断成功率が急激に低下してしまうことがわかる。・・・ヒューズの切断
率の低下を防ぐには、第9図に示すようにヒューズ(11)真上及びその近傍の保護
膜(14)の膜厚を、保護膜(14)を途中までエッチングすることにより部分的に薄くす
ればよい。」(審決書6頁3行目~12行目)との記載(以下「特定記載」とい
う。)に基づくものである。
    しかしながら、刊行物2(甲第4号証)には、「ヒューズ真上における前
記保護膜の膜厚が、前記ヒューズの端から前記ヒューズの巾方向に3.5μm以内
で離れた前記下地膜上の点における前記保護膜の膜厚よりも厚い」(特許請求の範
囲(1)項)ことを特徴とする発明が記載されており、発明の詳細な説明には、特定記
載(3欄7行目~16行目)に引き続いて、「しかしながら、このエッチングの工
程にはマージンがなく、エッチングしすぎるとヒューズ(11)自体がエッチングされ
てしまうという欠点があった。」(3欄16行目~19行目)と記載されている。
    すなわち、刊行物2全体に記載された技術思想は、特定記載に示された
「ヒューズの切断成功率を上げるため、ヒューズの真上及びその近傍の保護膜の膜
厚を途中までエッチングすることにより部分的に薄くすること」ではなく、「ヒュ
ーズ真上における前記保護膜の膜厚をそのごく近い周囲の保護膜の膜厚よりも厚く
すること」である。
    刊行物2において、特定記載に係る技術的手段は、いわば頭の中で考えた
ものであり、実際に実験してみた結果がこれに引き続く「このエッチング工程には
マージンがなく、エッチングしすぎるとヒューズ自体がエッチングされてしまうと
いう欠点がある」との記載部分であって、当業者の技術常識は、この特定部分に引
き続く部分を含めたものにあると考えるのが妥当である。審決は、刊行物2記載の
従来技術の一部分のみを取り出して、当業者の技術水準と認定した誤りがある。
    そして、進歩性の判断基準は、引用例の内容に、請求項に係る発明に対し
て起因ないし契機(動機づけ)となり得るものがあるかどうかを主要な観点として
行うべきものであるところ、刊行物2に記載された発明は、本願発明と同一の目的
を達成するために、逆のプロセスを実行するものであり、本願発明の技術内容と類
似するどころか、むしろ逆の方向の動機づけを行う技術内容を記載したものであっ
て、本願発明の引用例とはなり得ないというべきである。
  (3) また、本願発明の特徴の一つである「導電リンクの交叉部の上はエッチン
グ防止マスキング層で覆われていること」は、刊行物1又は刊行物2に開示も示唆
もされていない。
    すなわち、刊行物1又は刊行物2に「導電リンクが交叉するクロスオーバ
位置が存在すること」、「導電リンクの溶断予定位置の絶縁層の厚さを薄くするこ
と」、「ホトリソエッチングによりヒューズ上の絶縁膜を適当な厚さにエッチング
すること」が記載されているとしても、デバイスのどの部分を選択的にエッチング
し、どの部分はエッチング防止マスクで覆うことによりエッチングしないのかとい
うことについては、開示も示唆もない。
    したがって、当業者は、刊行物1又は刊行物2の記載から、「導電リンク
の交叉部の上はエッチング防止マスキング層で覆われていること」を容易に想到す
ることはできない。
  (4) したがって、審決の相違点についての判断は誤りである。
第4 被告の反論
 1 審決の認定及び判断は正当であり、参加人主張の取消事由は理由がない。
 2 取消事由(相違点についての判断の誤り)について
  (1) 参加人は、審決には、刊行物2記載の従来技術の一部分のみを取り出し
て、当業者の技術水準と認定した誤りがあり、刊行物2に記載された発明は、本願
発明の技術内容と相反し、本願発明に対し逆の方向の動機づけを行う技術内容を記
載したものであるから、本願発明の引用例となり得ない旨主張する。
    しかしながら、刊行物2には、様々な技術事項が記載されているところ、
審決は、そのうちの「技術的背景と問題点」の項に記載されている従来技術を引用
したものであって、刊行物2全体を引用したわけではない。
    そして、刊行物2のうち、審決が引用していない部分に、審決が引用した
こと以外のことが記載されていたとしても、審決が引用した上記従来技術が本件特
許出願前に知られていたことに変わりはない。
    したがって、参加人の上記主張は理由がない。
  (2) 参加人は、「導電リンクの交叉部の上はエッチング防止マスキング層で覆
われていること」は、刊行物2に開示されておらず、刊行物1又は刊行物2に示唆
もない旨主張する。
    しかしながら、半導体装置において多層配線は周知であって、下層配線の
上に絶縁膜を介して上層配線が配置され、下層配線と上層配線とは交差するのが普
通である。そして、配線をレーザで溶断する場合に、配線上の絶縁膜の一部を薄く
することにより溶断をより確実にすることが、刊行物2にも記載されているよう
に、本件特許出願前に公知であった。そうすると、絶縁膜の一部を他の部分よりも
薄くするための方法としてリソグラフィ技術は周知であるから、当該絶縁膜の上に
フォトレジストをかぶせ、リソグラフィ技術により、配線溶断相当部分のフォトレ
ジストに開口を設け、その開口部を通してエッチングすることにより、絶縁膜の一
部を他の部分よりも薄くすることは当業者が容易にし得たことである。
    すなわち、マスキング(フォトレジスト)は保護すべき箇所に設けるのが
当然であるから、審決はその点を含めて、当業者が容易にし得たと判断したもので
あり、その判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由(相違点についての判断の誤り)について
  (1) 刊行物2に特定記載があることは当事者間に争いがないところ、刊行物2
(特開昭60-180140号公報、甲第4号証)には、特定記載を含めて次の各
記載がある。
    すなわち、「発明の技術分野」として、「この発明は・・・特に冗長回路
を有する半導体装置の溶断用ヒューズに関する」(1欄18行目~19行目)との
記載、「発明の技術的背景とその問題点」として、「半導体装置、特に半導体記憶
装置等に用いられる冗長回路では、レーザ光で溶断することのできるヒューズが使
われている。・・・半導体装置に対し、レーザ光(15)を照射すると、・・・ヒュー
ズ(11)上の保護膜(14)は断片(16)となって飛散し、ヒューズ(11)も溶断物(17)とな
り飛散し、これによってヒューズ(11)は切断されていた。・・・しかしながら、高
密度半導体記憶装置等では多層膜構造が不可欠となり・・・保護膜(14)の膜厚が厚
く(例えば1.5μm程度以上の膜厚)なると・・・保護膜(14)の溶断穴(18)の側
壁にヒューズの溶断物(17)が付着する。この場合、仮に第7図に示すように溶断物
が付着すると、ヒューズ(11)がショートしてしまう。・・・保護膜(14)の膜厚が
1.5μm程度以上になると、膜厚が厚くなるにしたがって切断成功率が急激に低
下してしまうことがわかる。・・・ヒューズの切断率の低下を防ぐには、第9図に
示すようにヒューズ(11)真上及びその近傍の保護膜(14)の膜厚を、保護膜(14)を途
中までエッチングすることにより部分的に薄くすればよい。しかしながら、このエ
ッチングの工程にはマージンがなく、エッチングしすぎるとヒューズ(11)自体がエ
ッチングされてしまうという欠点があった。また、多くの場合、余分なエッチング
工程も必要であった」(2欄1行目~3欄20行目)との記載、「発明の目的」と
して、「この発明の目的は、半導体装置内に設けられたヒューズの上に厚い保護膜
があっても、ヒューズの切断成功率の低下しない半導体装置を提供することにあ
る」(4欄2行目~5行目)との記載、「発明の概要」として、「この発明は、半
導体装置内に設けられたヒューズの真上の保護膜厚よりも、ヒューズの脇の保護膜
厚を薄くし、ヒューズの溶断物がヒューズ近傍の厚い保護膜に付着することを防ぐ
ことにより、ヒューズの切断成功率を高めるものである」(4欄7行目~11行
目)との記載があり、特許請求の範囲(1)項には「半導体基板と、この半導体基板の
一主面上に設けられた下地膜と、この下地膜上に部分的に設けられたレーザ光で溶
断することのできるヒューズと、このヒューズと前記下地膜のほぼ全面を被覆する
保護膜を有する半導体装置において、前記ヒューズ真上における前記保護膜の膜厚
が、前記ヒューズの端から前記ヒューズの巾方向に3.5μm以内で離れた前記下
地膜上の点における前記保護膜の膜厚よりも厚い半導体装置。」と記載されてい
る。
    そうすると、刊行物2には、参加人主張のとおり、特定記載に引き続い
て、特定記載に係る技術的手段の欠点(エッチング工程にマージンがなく、エッチ
ングしすぎるとヒューズがエッチングされてしまうこと、余分なエッチング工程が
必要であること)が記載されており、その特許請求の範囲に記載された発明は、
「ヒューズ真上における保護膜の膜厚が、ヒューズの端からヒューズの巾方向に
3.5μm以内で離れた下地膜上の点における保護膜の膜厚よりも厚い」半導体装
置であることが認められる。
    しかしながら、刊行物2の上記「発明の技術的背景とその問題点」の項
は、従来技術及びその問題点を記載した項として理解できるものであり、そこで
は、上記欠点があると評価されているものの、特定記載に係る、ヒューズ(非導電
となる導線)の切断率の低下を防ぐために、ヒューズ真上及びその近傍の保護膜
(絶縁層)の膜厚を、保護膜を途中までエッチングすることにより部分的に薄くす
る技術的手段が、従来技術として記載されていることも明らかである。参加人は、
当該特定記載に係る技術的手段がいわば頭の中で考えたものであり、これに引き続
く「このエッチング工程にはマージンがなく、エッチングしすぎるとヒューズ自体
がエッチングされてしまうという欠点がある」との部分を含めたものが当業者の技
術常識であると考えるのが妥当であると主張するが、刊行物2の記載上、そのよう
に解すべき根拠はない。
    ところで、特許法29条1項3号の「刊行物」が特許公報である場合に、
同号の「刊行物に記載された発明」に当たるものは、特許請求の範囲に記載された
発明に限られるものではなく、発明の詳細な説明に従来技術として記載されたもの
であっても、公知の発明として開示されていることは明らかである。そして、審決
が、刊行物2から、その特定記載に係る上記技術手段を含むものを同条1項3号の
「刊行物に記載された発明」として、すなわち、同条2項の「前項各号に掲げる発
明」として引用したものであることは、その記載上明白であり、この場合に、それ
が刊行物2の特許請求の範囲に記載された発明と技術思想を異にするからといっ
て、あるいは刊行物2にその欠点も併せ記載されているからといって、上記「刊行
物に記載された発明」となり得ないものではない。
    したがって、審決が、刊行物2の特定記載に基づき、「刊行物2には、保
護膜(絶縁膜)の膜厚が1.5μm程度以上になると、膜厚が厚くなるにしたがっ
て切断成功率が急激に低下してしまうので、第9図に示すようにヒューズ真上及び
その近傍の保護膜(絶縁膜)の膜厚を、途中までエッチングすることにより部分的
に薄くすればよいことが知られている」(審決書8頁19行目~9頁5行目)とし
たことに、参加人主張の誤りはない。
  (2) 参加人は、本願発明の特徴の一つである「導電リンクの交叉部の上はエッ
チング防止マスキング層で覆われていること」が、刊行物1又は刊行物2に開示も
示唆もされていない旨主張する。
    しかしながら、本願発明の要旨には、「導電リンクの交叉部の上はエッチ
ング防止マスキング層で覆われていること」は規定されておらず、したがって、参
加人の上記主張は、その点で既に失当である。
    もっとも、前示本願発明の要旨は、「前記上層の導線(14)はクロスオーバ
位置(25)で前記下層の導線(12)と交叉しており、エッチング防止マスキング層(24)
が少なくとも前記クロスオーバ位置(25)上に形成され」ていることを規定している
から、参加人の上記主張は、「エッチング防止マスキング層が、少なくとも上層の
導線と下層の導線とが交差するクロスオーバ位置上に形成され」ていることが、刊
行物1又は刊行物2に開示も示唆もされていないとの趣旨をいうものとも解され
る。しかしながら、仮にそうだとしても、エッチング防止マスキング層が、少なく
とも上層の導線と下層の導線とが交差するクロスオーバ位置上に形成されていると
の技術事項が、刊行物1にも刊行物2にも記載されていないことは、そのとおりで
あるが、審決がした「本願発明の特徴とする、エッチング防止マスキング層が少な
くとも前記クロスオーバ位置上に形成され・・・ることは、当業者が容易になし得
たことと認められる」(審決書9頁18行目~10頁3行目)との判断が、刊行物
1又は刊行物2の記載に基づくものでないこと、また、その判断に誤りがないこと
は、以下のとおりであるから、参加人の上記主張は採用することができない。
    すなわち、審決は、上記のとおり、刊行物2の特定記載に基づき、「刊行
物2には、・・・ヒューズ真上及びその近傍の保護膜(絶縁膜)の膜厚を、途中ま
でエッチングすることにより部分的に薄くすればよいことが知られている」(審決
書8頁19行目~9頁5行目)とした上で、「その絶縁膜を薄くする手段として、
半導体製造方法において周知のリソグラフィ技術を用いて、絶縁膜上にレジストを
塗布し、該レジストに対しレーザで溶断する部分に対応する部分に開口部を設け、
その開口部を通して絶縁膜をエッチングすることは当業者が容易になし得たことと
認められる」(同9頁5行目~11行目)と判断したところ、このこと自体は当事
者間に争いがない。
    そうすると、「輻射エネルギーの使用によって非導電状態となる導線を含
む下層を有し、前記下層は絶縁層によって覆われ、更に前記絶縁層上に上層の導線
が形成され、前記上層の導線はクロスオーバ位置で前記下層の導線と交叉するレー
ザ溶断導線を有する固体回路である」(同7頁1行目~6行目)点において本願発
明と一致することにつき争いのない刊行物発明について、上記のように、周知のリ
ソグラフィ技術を用い、絶縁膜(絶縁層)上にレジストを塗布し、当該レジストに
対しレーザで溶断する部分に対応する部分に開口部を設け、その開口部を通して絶
縁膜(絶縁層)をエッチングした場合には、上記「開口部」、すなわち、レーザで
溶断する部分に対応する部分を除いては、絶縁層上はレジストが覆ったままである
ことが明らかである。そして、本願発明の技術的意義にかんがみて、下層の導
線(12)のうち、非導電状態となる部分(レーザで溶断する部分)と、上層の導
線(14)と交差するクロスオーバ位置(25)とが同一位置である態様は、本願発明から
除かれるものと考えられるところ、このことは、刊行物発明の本願発明と一致する
上記構成においても同様であるものと認められる。また、本件明細書(甲第2号証
の1)に「マスキング層24としては、所定の部分をエツチングするための開口部を
有するリソグラフイクレジスト材料を代わりに用いることができ」(7欄26行目
~28行目)と記載されていることに照らして、レジストが覆ったままである絶縁
層は、エッチング防止マスキング層が形成されているものに相当すると考えること
ができるから、結局、刊行物発明について、上記のようなレジストの塗布及びエッ
チングをした結果として、必然的に、エッチング防止マスキング層が、少なくとも
上層の導線と下層の導線とが交差するクロスオーバ位置上に形成されるに至ること
は明白である。
    審決がした「本願発明の特徴とする、エッチング防止マスキング層が少な
くとも前記クロスオーバ位置上に形成され・・・ることは、当業者が容易になし得
たことと認められる」(審決書9頁18行目~10頁3行目)との判断が、刊行物
1又は刊行物2の記載に基づくものではなく、ヒューズ(非導電となる導線)真上
の絶縁膜を薄くする手段として、周知のリソグラフィ技術を用いて、絶縁膜上にレ
ジストを塗布し、当該レジストに対しレーザで溶断する部分に対応する部分に開口
部を設け、その開口部を通して絶縁膜をエッチングすることは、当業者が容易にし
得たとの上記当事者間に争いのない判断を基にするものであることは、審決の記載
上明らかである。そして、これを基にして上記「本願発明の特徴とする、エッチン
グ防止マスキング層が少なくとも前記クロスオーバ位置上に形成され・・・ること
は、当業者が容易になし得た」との判断に至る過程についても、上記のとおり誤り
はない。
 2 以上によれば、参加人主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消
すべき瑕疵は見当たらない。
   よって、参加人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び
上告受理申立てのための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法6
1条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第13民事部
    裁判長裁判官 篠   原   勝   美
    裁判官 石   原   直   樹
    裁判官   宮   坂   昌   利

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勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛