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○ 主文
一 被告がいずれも昭和六〇年二月一五日付けでした、原告の昭和五六年分の所得
税の更正のうち総所得金額で三一八万一九二三円、納付すべき税額で三六万九六〇
〇円を超える部分及び同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定のうち加算税額で
一万一五〇〇円を超える部分、昭和五七年分の所得税の更正のうち総所得金額で三
三九万二三二〇円、納付すべき税額で三九万六二〇〇円を超える部分及び同年分の
所得税の過少申告加算税賦課決定のうち加算税額で一万三五〇〇円を超える部分並
びに昭和五八年分の所得税の更正のうち総所得金額で三四五万四七四三円、納付す
べき税額で四〇万六八〇〇円を超える部分及び同年分の所得税の過少申告加算税賦
課決定のうち加算税額で一万三五〇〇円を超える部分を、いずれも取り消す。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告の請求の趣旨
1 被告がいずれも昭和六〇年二月一五日付けでした、原告の昭和五六年分の所得
税の更正のうち総所得金額で二五〇万〇四三四円を超える部分及び同年分の所得税
の過少申告加算税賦課決定、昭和五七年分の所得税の更正のうち総所得金額で二八
八万〇一八二円を超える部分及び同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定並びに
昭和五八年分の所得税の更正のうち総所得金額で二八四万五七四四円を超える部分
及び同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定を、いずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する被告の答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 原告の請求原因
1 原告は、写植を業とする者であるが、昭和五六年から昭和五八年分までの所得
税について、いずれもその法定申告期限内に、次のとおりの確定申告をした。
昭和五六年分 総所得金額 一六四万四一四〇円 税額 一二万九七〇〇円
昭和五七年分 総所得金額 一六四万八八〇七円 税額 一二万二四〇〇円
昭和五八年分 総所得金額 一七五万五五〇四円 税額 一三万四一〇〇円
2 これに対し、被告(昭和六二年六月三〇日までの名称は淀橋税務署長。以下同
じ。)は、いずれも昭和六〇年二月一五日付けで次のとおりの各更正(以下「本件
各更正」という。
)及び過少申告加算税の各賦課決定(以下「本件各決定」という。)をした。
昭和五六年分 総所得金額 四一三万七三三五円 税額 五六万一八〇〇円
過少申告加算税額 二万一五〇〇円
昭和五七年分 総所得金額 四六三万九〇八二円 税額 六五万七三〇〇円
過少申告加算税額 二万六五〇〇円
昭和五八年分 総所得金額 五〇四万七〇八六円 税額 七五万四五〇〇円
過少申告加算税 三万一〇〇〇円
3 しかし、本件各更正のうち、昭和五六年分については総所得金額で二五〇万〇
四三四円を、昭和五七年分については総所得金額で二八八万〇一八二円を、昭和五
八年分については総所得金額で二八四万五七四四円を、それぞれ超える部分及び本
件各決定は、いずれも違法なものであるから、その取消しを求める。
二 請求原因に対する被告の認否
請求原因1及び2の事実は認める。
三 本件各更正及び本件各決定の根拠に関する被告の主張
1 前記のとおり原告から提出された確定申告書の内容を被告において検討したと
ころ、昭和五八年分については「所得金額」欄に数額の記載がなされているのみで
「収入金額」欄及び「必要経費」欄に数額の記載がなく、また、いずれの年分のも
のについても収支明細書の添付がなく、各年分の申告所得金額が一般の業況等に照
らして過少であるとの疑いがあり、更に、原告についてはその開業以来調査を行っ
ていなかったことから、各申告内容の確認のため調査を行う必要が認められた。
2 そこで、被告のA係官が昭和五九年五月二八日を始めとして、何度か原告のも
とを訪れ、調査を行おうとしたが、原告が不在であったり、都合がつかないとして
調査の延期を求められたりして、調査を行うことができなかった。
更に、A係官から本件調査を引き継いだB係官が、同年七月二四日を始めとして、
再三にわたり原告のもとを訪れた結果、ようやく八月七日に調査を行うことについ
て原告の合意を得、同日原告方に赴いて、調査を行おうとしたが、原告は、新宿民
主商工会の会員等を同席させて調査理由を開示するよう求めるのみで、帳簿の提示
要求に応じず、調査に協力しようとしなかった。
このような状況のもとでは、実額によって原告の各所得金額を把握することは到底
不可能であったため、被告は、やむなく被告の調査によって把握した収入金額を基
礎として原告の各所得金額を推計によって算出し、
本件各更正を行った。
3 推計によって原告の各年分の所得(事業所得)を算出すると、その金額は、次
のとおりとなる。
(一) 昭和五六年分
(1) 売上金額           一一三六万二二〇〇円
(2) 売上原価等           六六四万六八八七円
売上原価等とは、売上原価と一般経費(ただし、(1)建物の減価償却費、(2)
利子割引料、(3)貸倒金、(4)固定資産除却損、(5)繰延資産の償却費、
(6)青色申告者に認められている割増償却費及び特別償却費並びに(7)地代家
賃の各経費は除き、外注費及び人件費(青色専従者給与を含む。)を含む。)の合
計額である。
原告の場合、右売上原価等が不明であるので、被告は、原告の納税地を所轄する新
宿税務署及びその近隣の税務署管内に事業所を有し、かつ、原告と事業規模の類似
する同業者(以下「比準同業者」という。)の売上金額に対する売上原価等の割合
の平均値(以下「同業者平均経費率」という。)五八・五〇パーセントを求め、こ
れを(1)の原告の売上金額に乗じて算出した。
(3) 支払家賃              四五万三〇〇〇円
右支払家賃は、原告の自宅兼事務所に係る支払家賃九〇万六〇〇〇円に、事業使用
割合五〇パーセントを乗じて算出した金額である。
(4) 事業所得の金額((1)(2)(3))    四二六万二三一三円
(二) 昭和五七年分
(1) 売上金額            一二二一万七三八〇円
(2) 売上原価等            六九五万二九一一円
(1) の原告の売上金額に、同業者平均経費率五六・九一パーセントを乗じて算
出した金額である。
(3) 支払家賃              五三万一三〇〇円
昭和五六年分と同一の自宅兼事務所に係る支払家賃一〇六万二六〇〇円に、事業使
用割合五〇パーセントを乗じて算出した金額である。
(4) 事業所得の金額((1)(2)(3))    四七三万三一六九円
(三) 昭和五八年分
(1) 売上金額            一三五一万二〇五〇円
(2) 売上原価等            七七八万一五九〇円
(1) の原告の売上金額に、同業者平均経費率五七・五九パーセントを乗じて算
出した金額である。
(3) 支払家賃              五一万三二〇〇円
昭和五六年分と同一の自宅兼事務所に係る支払家賃一〇二万六四〇〇円に、事業使
用割合五〇パーセントを乗じて算出した金額である。
(4) 事業所得の金額((1)(2)(3))    五二一万七二六〇円
4 本件各更正に係る各年分の総所得(事業所得)の金額は前記一の原告の請求原
因2のとおりであり、いずれも右推計による金額の範囲内であるから、本件各更正
は適法である。
また、本件各決定も、本件各更正により原告に納付すべき所得税額に基づいて過少
申告加算税を算出したものであるから、適法である。
四 被告の課税根拠の主張に対する原告の認否等
1 被告の主張1の事実のうち、原告の昭和五八年分の申告書の「収入金額」欄及
び「必要経費」欄に数額の記載がなかったこと、いずれの年分の申告書にも収支明
細書の添付がなかったこと、原告について開業以来調査が行われていなかったこと
は認める。原告の申告所得金額に過少の疑いがあったことは否認する。その余の事
実は知らない。
2 同2の事実のうち、A係官と思われる者が昭和五九年五月二八日に原告のもと
を訪れたこと、原告の都合がつかなかったためA係官に対して調査の延期を求めた
ことがあること、B係官が調査に来た際に新宿民主商工会の会員等がその場に同席
していたことがあること、原告がB係官に対して調査理由を開示するように求めた
ことは認めるが、その余の事実は否認する。
原告は、関係帳簿をいつでも提示できるように準備し、調査の理由が明らかになれ
ばこれを直ちに提示することとしていた。ところが、B係官は、ただ帳簿の提示を
求めるばかりで、調査の理由を何一つ明らかにしようとしなかった。同係官は、そ
のまま調査を止め、勝手に帰っていってしまったのである。
3 同3の事実のうち、各年分の原告の売上金額及び支払家賃の総額が被告主張の
とおりであることは認める。その余は争う。なお、原告の支払家賃のうち事業使用
割合は、各年とも八〇パーセントである。
また、同じ写植業であっても、(1)印画紙に原稿を焼き付ける段階までの作業の
みを行っている者、(2)版下に刷り込も段階までの作業を行っている者、(3)
印刷の段階までの作業を行っている者等、その業態には差異があり、とりわけ右
(3)のような業態の者の場合には、印刷は外注に依頼することがほとんどである
ため、その点が売上原価等にも大きな差になって現れてくる。したがって、これら
の差異を無視した同業者の比較は、全く意味のないものというべきである。
4 同4の主張は争う。
5 原告に対する本件調査は、当初は、被告係官が事前の連絡もせずに突然原告の
事務所を訪れて調査を強行するという方法で行われ、原告が調査日時を合意して被
告係官が来訪した昭和五九年八月七日の調査においても、原告からの調査の具体的
理由を明らかにするようにとの要求に対して、被告係官は、単に原告の所得金額が
正しいかどうかを確認するためと告げるのみで、それ以上に調査の客観的必要を基
礎づけるような理由を明らかにすることなく、一方的に帳簿等の提示を要請するの
みであった。しかも、被告は、八月七日の調査を一方的に打ち切って、その後改め
て原告に対して現場調査の申し入れを行うこともせずに、直ちに取引先等に対する
反面調査を強行し、本件各更正を行うに至ったのである。
このような方法によって行われた被告による本件調査は、憲法三一条の適正手続の
保障の趣旨にも反する違法なものといわざるを得ず、したがって、このような違法
な調査手続によって行われた本件各更正及び各決定は、そのこと自体で違法なもの
として取り消されるべきである。
五 各年分の所得金額に関する原告の主張等
1 原告の作成している帳簿や保存している領収書等の関係書類によれば、原告の
昭和五六年分の事業所得金額の実額は、次のとおり二五〇万〇四一四円である。
(一) 売上金額              一一三六万二二〇〇円
(二) 売上原価及び一般経費(合計)     (二八七万五八六八円)
材 料 費           七六万〇七七八円
水道光熱費           二四万八七四四円
電 話 科            八万六六八〇円
交 通 費           三〇万〇二九〇円
会   費                 〇円
雑   費          一〇二万三五五七円
減価償却費           四五万五八一九円
(三) 特別経費(合計)           (五九八万五八七八円)
人 件 費          二三一万九九二〇円
外 注 費          二九四万一一五八円
家   賃           七二万四八〇〇円
(四) 事業所得の金額((一)- (二)-(三))     二五〇万〇四一
四円
2 また、同じく原告の昭和五七年分の事業所得金額の実額は、次のとおり二八七
万九八六二円である。
(一) 売上金額              一二二一万七三八〇円
(二) 売上原価及び一般経費(合計)    (三六三万八六八七円)
材 料 費          一三四万一九二五円
水道光熱費           二四万二三九〇円
電 話 料            九万三五一〇円
交 通 費           三三万四九六〇円
会   費            二万八一〇〇円
雑   費          一一四万一九八三円
減価償却費           四五万五八一九円
(三) 特別経費(合計)           (五六九万八八三一円)
人 件 費          一九六万五三〇〇円
外 注 費          二八八万三四五一円
家   賃           八五万〇〇八〇円
(四) 事業所得の金額((一)-(二)-(三))     二八七万九八六二

3 更に、同じく原告の昭和五八年分の事業所得金額の実額は、
次のとおり二八五万一三八四円であるこ
(一) 売上金額       一三五一万二〇五〇円
(二) 売上原価及び一般経費(合計)     (四四二万八八九六円)
材 料 費          一八五万二三五五円
水道光熱費           二五万四二〇二円
電 話 料            八万四五二〇円
交 通 費           四九万九九二〇円
会   費            三万〇〇〇〇円
雑   費          一二五万二〇八〇円
減価償却費           四五万五八一九円
(三) 特別経費(合計)           (六二三万一七七〇円)
人 件 費          二二五万六二〇〇円
外 注 費          三〇四万六七五〇円
家   賃           八二万一一二〇円
貸 倒 金           一〇万七七〇〇円
(四) 事業所得の金額((一)-(二)-(三))     二八五万一三八四

4 そうすると、本件各更生に係る各年分の総所得(事業所得)の金額は右の原告
の所得金額を上回っているので、原告は前記請求の趣旨記載の金額の限度で本件各
更生の取消しを求めるとともに、あわせて本件各決定の取消しを求めるものであ
る。
六 原告の所得金額の実額の主張に対する被告の反論等
1 所得税法一五六条によれば、所得税の課税についてはいわゆる実額課税の方式
以外に推計課税の方式も予定されており、推計課税は、納税者が納税調査に対して
協力しない等の事情があるため実額課税が行い得ない場合に限って、補充的に認め
られるものと考えられる。
しかし、一たん推計課税による課税処分が適法に行われた以上は、その課税処分当
時に実額課税が可能でありそもそも推計課税の必要性が存在しなかったと考えられ
るといった特段の事情がある場合でない限り、その取消訴訟の段階になって右推計
課税の適法性を覆すことはできず、原告の方で実額課税の方法を主張することは許
されないものというべきである。
本件においては、原告は、原処分調査時において帳簿書類が存在していたにもかか
わらず、何ら正当な理由もなしにその提示を拒んだものであり、そのため、被告
は、実額による所得金額の算出を断念せざるを得ず、やむを得ず推計課税の方法に
よる課税処分を行ったのである。したがって、
本件における実額課税不能の状況は、原告自らが作り出したものであり、原告は、
自ら実額課税の機会を放棄したものであるから、原告の本訴における実額の主張
は、時機に後れたものであり、また、信義に反するものとして許されないものとい
うべきである。
2 また、本件のように、被告が推計の方法によって算出した所得を主張している
のに対して、原告が領収書等の資料によって実額により計算した所得額を主張しよ
うとする場合は、原告の主張する方法によって真実の所得額を算定し得る場合でな
ければ、これによって被告のした推計課税を覆すことはできないものというべきで
ある。
ところが、本件で被告の主張している売上金額は、反面調査で把握した事実、原告
が異議調査等の際に提示した資料等に基づくものであり、それが原告のすべての取
引先との全取引を漏れなく捕捉したものであるとの保証はないものである。したが
って、このような売上金額を前提として、原告が実額による必要経費の存在を主
張、立証しようとする場合には、単にこの経費の支出の事実を主張、立証するだけ
では足りず、その経費が右売上げに対応するものであることをも立証する必要があ
るものというべきである。
しかし、本件では、原告の方から、右の点の主張、立証がなされていないから、す
でにこの点で、原告の右実額による経費の主張は失当なものというべきである。
3 更に、本件において原告が実額であると主張する経費等については、支払先の
領収証等による裏付けがなく、原告作成の出金伝票やノートのみを根拠とするも
の、その支払の宛先の記載を欠くレシート等のみを根拠とするもの、支払年月日の
記載の不備な領収証等のみを根拠とするものなどが含まれており、これらの経費等
については、その経費としての支出の根拠事態が薄弱であるから、これを原告を本
件事業所得の必要経費に算入することは許されないものというべきである。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 本件各更生及び本件各決定の存在について
被告が、いずれも昭和六〇年二月一五日付けで、本件各更生及び本件各決定を行っ
たことについては、当事者間に争いがない。
二 被告による原告に対する調査の経緯等について
前記の当事者間に争いのない事実並びに証人Bの証言及び本人尋問における原告の
供述によれば、被告が前記事実欄の第二の三の2において主張するとおり、
原告が被告係官の調査に応じようとせず、帳簿書類の提示要求に応じないため、本
件各更生及び本件各決定に当たって、被告の側では実額によって原告の所得金額を
把握することが不可能であったことが認められる。
この点について、原告は、被告のした本件調査に事前連絡の欠如、調査理由の不開
示、補充性を無視した反面調査の強行等の違法があると主張する。しかし、所得税
法上、税務当局の行う質問検査の時期、方法等の実施の細目は、原則として権限の
ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解されるところであり、調査
の日時等の事前連絡、調査理由の個別的、具体的な告知といったことが、右調査を
行うについての法律上の要件とされているものではないと考えられるから、右の原
告の主張は採用できない。
また、原告は、関係帳簿をいつでも提示できるようにしていたとも主張する。しか
し、前記B証人の証言及び本人尋問における原告の供述によれば、原告もその期日
を了解したうえで被告係官が調査のため原告方を訪れた昭和五九年八月七日の日に
おける調査においても、原告は被告係官において調査の具体的理由を開示しない限
り帳簿の提示要求には応じないとする姿勢を示しており、その後も、原告の側で
は、右の調査理由の開示が行われない限り被告係官の求める調査への協力を拒否す
るとの態度を変えようとしなかったことが認められるのである。そうすると、被告
係官が、もはや原告の本件調査への協力を期待することができないと判断するに至
ったことについては、合理的な根拠が存していたものというべきである。
右の事実からすれば、被告が原告の所得金額を推計によって算出し、それによって
本件更生及び本件決定を行ったその手続自体については、何ら違法な点は認められ
ないものというべきである。
三 原告の各年分の事業所得の金額について
1 売上金額について
本件各年分の原告の写植業による売上金額が、昭和五六年分が一一三六万二二〇〇
円、昭和五七年分が一二二一万七三八〇円、昭和五八年分が一三五一万二〇五〇円
であることについては、いずれも当事者間に争いがない。
2 経費の額について
(一) 経費の額については、被告がそのうちの売上原価等の額を、右の売上金額
に同業者平均経費率を乗じて算出するという、いわゆる推計の方法によって得た金
額で主張しているのに対し、原告の側では、
自らが作成していた帳簿や保存していた領収書等の関係書類によって計算した、右
被告の主張金額を上回る金額を、その実額として主張していることは前記のとおり
である。
この点について、被告は、まず、本件調査の段階で原告自らが実額課税不能の状況
を作り出しておきながら、本訴において実額による所得の主張をすること自体が、
時機に後れたものとして、あるいは、信義に反するものとして、許されないと主張
する。しかしながら、現行所得税法上、実額課税の場合と推計課税の場合とで事帳
簿書類等の直接資料によって行われるのに対し他方が同業者比率等の間接的な資料
によって行われるという、その所得の認識の方法の別をいうにすぎないものである
ことはいうまでもないところである。ところで、被告のした本件課税処分の適否が
争われている本訴においては、その課税処分の実体面での適否は、原告の所得の額
の点に関する右処分の認定、判断が右の所得税法の規定による真実の所得額との対
比において正しいものであるか否かという観点から判断されるべきであり、しか
も、その判断の資料等についてなんらかの制限があるものと解すべき実定法上の根
拠も見当たらない。そうすると、本件において被告が推計の方法によってした課税
処分についても、その認定した所得の金額が右所得税法の規定による真実の所得額
との対比において過大であるとの主張が原告からされ、その主張を立証するための
証拠が提出された場合において、そのような主張、立証が信義に反する等の理由で
許されないものと解すべき根拠はないものといわなければならない。したがって、
この点に関する被告の主張は採用できない。しかも、一般論としては、帳簿書類等
の直接資料によって計算された所得金額の方が、間接的な資料によって計算された
所得金額に比べると、より真実の所得額に近似するものと考えられるから、右原告
の主張する経費の実額について客観的な帳簿書類等による裏付けがあると認められ
るときは、被告の主張する推計方法が合理的なものと認められるか否かを問うまで
もなく、原則として、右の実額による金額をもって原告の各年分の経費の額とすべ
きこととなるものというべきである。
次に、被告は、本件において被告の主張する売上金額自体がある程度の捕捉漏れの
可能性を含むものであることを理由に、この売上金額を前提として原告が実額によ
る必要経費の存在を主張、立証しようとする場合には、その売上金額が取引先との
すべての取引を含むものであること及びその経費が原告の事業に関連性を有するも
のであることをも主張、立証する必要があり、特に、売上げと直接対応する経費に
ついてはそれが現実に右の売上げに個別に対応するものであることをも原告におい
て立証することを要するものと主張する。しかし、被告のした課税処分の適否が争
われている本件訴訟においては、前記の所得税法上の所得の計算の根拠となる事実
である収入金額と必要経費の額の双方について、基本的には課税庁たる被告側にそ
の主張、立証責任があるものといわなければならない。そうだとすると、原告が当
該事業年度において事業に関する経費としてある金額の支出をしていることは認め
られるものの、その支出が原告の事業による一定の具体的な収入金額と個別に対応
する必要経費に該当するものといえるか否かの点についてはなお疑問の余地がある
という場合に、右の支出金額を一律に必要経費の額に算入することを認めないとす
ることは、相当ではないものと考えられる。もっとも、右のように原告の事業に関
する必要経費の支出であるものと一応推認することができるような支出がある場合
においても、所得計算の前提とされている原告の事業による収入の金額に一定の金
額の捕捉漏れがあることが具体的に明らかとなった場合には、右の必要経費の支出
と一応推認される金額のうち右の捕捉漏れとなった収入金額に対応する部分の金額
を必要経費の額に算入することが相当でないことはいうまでもない。また、右の捕
捉漏れとなった具体的な収入金額が明らかでない場合においても、所得計算の前提
とされている収入金額と経費としての支出額と一応推認される金額とを対比して得
られた経費率が、同業者の経費率に比べて明らかに過大に失すると認められるよう
な場合には、逆に所得計算の前提とされた収入金額にはかなりの捕捉漏れがあるこ
とが明らかに認められることとなり、右の支出額の総額をもって必要経費額とする
ことが不合理になるものと考えられる。すなわち、被告のこの点に関する主張は、
右のような限度において理由があるものということができる。
(二) そこで、以下においては、右(一)のような考え方を前提として、被告が
実額による経費の支出額として主張する金額のうちどの範囲のものを前記原告の本
件各年分の売上金額に対応する必要経費として、原告の右各年分の事業所得の金額
を計算すべきかを検討することとする。
(1) 原告の帳簿の作成及び関係書類等の保存状態
甲四七号証(レターケースを撮影した写真)、本件訴訟において原告が提出した領
収書等の各書証及び本人尋問における原告の供述によれば、原告の写植業の事業に
関する帳簿の作成や関係書類の保存状況は次のようなものであったことが認められ
る。
すなわち、右原告の事業に関する経理事務は、すべて原告自身がこれを処理してお
り、毎月の売上げについては、その内容をノートに記載していた。また、右事業に
関する支出についても、これに関する各種の伝票等を整理保存するためのレターケ
ースを備え付け、領収書、請求書、納品書、受領書、交通費メモ等の書類を、各種
類別に区分けしてそこに保存しておき、毎月これを整理したものをノートに記載す
るようにし、更に、各年度の領収書等を一年ごとにまとめて綴じるという方法でこ
れを整理、保存していた。
右のような原告の領収書等の関係書類の保存状況からすると、ノート、領収書、レ
シート等の書証による裏付けのある支出については、原則として原告の主張する各
年度にその事業に関連してその支出がされたものと推認することができるものと考
えられ、その支出が原告の当該年度の事業に関連してされたものであることを否定
するためには、それなりの具体的な反証が存することを要するものというべきであ
る。
この点について、被告は、宛て先を「上様」とする領収書や宛先の記載のないレシ
ートのみを根拠とする支出については、原告が現にそのような支出を行ったこと自
体についてもその裏付けを欠くものであると主張する。確かに、一般論としては、
宛先不明の領収書やレシートのみではその支出が現実に本人によってされたものか
否かを確認することができないことは被告の主張するとおりである。しかし、本件
の場合、甲四七号証及び本人尋問における原告の供述によれば、これらの領収書及
びレシートは原告が支出をしたときに受け取ったものをそのまま前記のレターケー
スに保存していたというのであり、本件訴訟における原告の領収書等の関係書証の
提出状況からしても、右の供述はそれなりに信用できるものと考えられる。したが
って、他にその信用性を覆すに足りるような反証がない場合には、右のような領収
書等の記載も原告の事業の経費の支払いの事実を裏付けるに足りるものと考えるの
が相当である。
(2) 材料費について
甲二七号証及び同七七号証(いずれも原告の陳述書)による原告の陳述並びに本人
尋問における原告の供述によれば、原告が各年分の経費として主張する材料費は、
写植の文字盤、版下等の作成のための用紙、薬品等の原告の事業に必要な材料の購
入に要した費用であることが認められる。右の材料費の支出については、原告が右
各年分の支出額として主張する金額(昭和五六年分が七六万〇七七八円、昭和五七
年分が一三四万一九二五円、昭和五八年分が一八五万二三五五円)の全額につい
て、それぞれその支出を証する領収書等の関係書類が、原告のもとに保存されてお
り、証拠(昭和五六年分については甲一号各証、昭和五七年分については同九号各
証、昭和五八年分については同一八号各証)として提出されでいる。もっとも、昭
和五八年分については、原告が同年分の支出額として主張する金額一八五万二三五
五円のうち合計九万七八一五円分については、原告がその支出を証する書面として
提出した各レシート(いずれもヨドバシカメラ新宿店のレシートである甲第一八号
証の三の(2)、同六の(1)、同七の(1)、同一〇の(1)、同一一の(2)
及び同一二の(1))記載の支出年が同年以外の昭和六一年、昭和五二年等の年度
となっている。しかし、甲七七号証(陳述書)による原告の陳述及び本人尋問にお
ける原告の供述によれば、同店の店員の話によると、同店のレジスターは年月日を
手で調整する方式のものであるため年の表示が誤って記載される可能性があり、現
に例えば昭和五三年と記載のある同一八号証の七の(1)のレシートにはその最上
段に「カメラ・フイルム・ビデオ・時計」との記載があるが、同六九号証によれ
ば、レシートに右のような表示がされるようになったのは昭和五七年以降のことで
あって、昭和五三年のものについてそのような表示がされることはあり得ないこと
が認められ、また、同一八号各証は昭和六〇年一二月一六日に国税不服審判所に提
出されているためそこに昭和六一年以降に発行されたものが含まれることはあり得
ないのに、同一八号証の三の(2)、同六の(1)及び同一一の(2)に記載され
た年の表示が昭和六一年以降のものとなっていることが認められる。更に、同七〇
号証によると、右の年の表示の相違するレシート分の金額を昭和五八年に同店から
購入した材料費の金額から除外すると、昭和五八年分については前年以前と比べて
購入した材料費の額が極端に少なくなることが認められることをも考慮すると、右
の各レシートの年の表示は誤って記載されたものであり、その各金額についても原
告の主張のとおり、これを昭和五八年分の材料費に算入すべきものと考えるのが相
当である。
右の事実によれば、原告の事業の経費として支出された右材料費の金額について
は、昭和五六年分については七六万〇七七八円、昭和五七年分については一三四万
一九二五円、昭和五八年分については一八五万二三五五円の各全額について、その
支出について客観的な帳簿書類等による裏付けがあるものと認められる。
なお、被告は、宛て先を「上様」とする領収書及びレシートの記載のみを根拠とす
る支出についてはこれを原告が支払ったとの裏付けを欠くと主張するが、前記のと
おりこれらの領収書及びレシートは原告が支出をしたときに受け取ったものをその
まま前記のレターケースに保存していたと認められるものであるから、右の領収書
等の記載も原告の右材料費の支払いの事実を裏付けるに足りるものと考えられる。
(3) 水道光熱費について
前記甲二七号証による原告の陳述及び本人尋問における原告の供述によれば、原告
が各年分の経費として主張する水道光熱費は、原告が賃借して写植の事業の事業所
等として使用していたライオンズマンション四一二号室で使用された水道、ガス及
び電気の各使用料金であったことが認められる。右の水道光熱費の支出について
は、原告が各年分の支出額として主張する金額(昭和五六年分が二四万八七四四
円、昭和五七年分が二四万二三九〇円、昭和五八年分が二五万四二〇二円)に符合
する内容の支出を証する領収書、銀行預金通帳等の関係書類が、原告のもとに保存
されており、証拠(昭和五六年分については甲三号各証、同六〇号証、同六二号証
及び同六三号証、昭和五七年分については同一一号各証、昭和五八年分について同
二〇号各証、同六一号証及び同六四号各証)として提出されている。
ところで、右マンションの居室については、その事業使用割合を八〇パーセントと
すべきことは後記(11)のとおりであり、そうだとすると、右水道光熱費として
支出された金員についても、原告の事業の必要経費に当たるのはその八〇パーセン
トにとどまるものとするのが相当である。
右の事実によれば、原告の事業の経費として支出された右水道光熱費の金額につい
ては、昭和五六年分については二四万八七四四円の八〇パーセントに当たる一九万
八九九六円、昭和五七年分については二四万二三九〇円の八〇パーセントに当たる
一九万三九一二円、昭和五八年分については二五万四二〇二円の八〇パーセントに
当たる二〇万三三六二円の各限度で、その支出について客観的な帳簿書類等による
裏付けがあるものと認められる。
(4) 電話料について
前記甲二七号証による原告の陳述及び本人尋問における原告の供述によれば、原告
が各年分の経費として主張する電話料は、原告が賃借していた前記ライオンズマン
ション四一二号室で使用された電話の料金であることが認められる。右の電話料の
支出については、原告が昭和五六年分の支出額として主張する八万六六八〇円、昭
和五七年分の支出額として主張する九万三五一〇円及び昭和五八年分の支出額とし
て主張する八万四五二〇円について、それぞれその全額の支出を証する領収書等の
関係書類が、原告のもとに保存されており、証拠(昭和五六年分については甲四号
各証、昭和五七年分については同一二号各証、昭和五八年分については同二一号各
証)として提出されている。
この電話料の支出についても、右水道光熱費の支出の場合と同様、原告の事業の必
要経費に当たるのはその八〇パーセントにとどまるものとするのが相当である。
右の事実によれば、原告の事業の経費として支出された右電話料の金額について
は、昭和五六年分については八万六六八〇円の八〇パーセントに当たる六万九三四
四円、昭和五七年分については九万三五一〇円の八〇パーセントに当たる七万四八
〇八円、昭和五八年分については八万四五二〇円の八〇パーセントに当たる六万七
六一六円の各限度で、その支出について客観的な帳簿書類等による裏付けがあるも
のと認められる。
(5) 交通費について
前記甲二七号証による原告の陳述及び本人尋問における原告の供述によれば、原告
が各年分の経費として主張する交通費は、写植の原稿の受取り、出来上がった製品
の納品、外注先への版下の届けやその引取り等のための電車賃、バス代、タクシー
代であり、原告は、これらの経費を支出する都度、その金額を記載したメモを作成
して前記レターケースに収納しておき、毎月末にこのメモを整理して交通費ノート
に記録していたことが認められる。右の交通費の支出については、原告が各年分の
支出額として主張する金額(昭和五六年分が三〇万〇二九〇円、昭和五七年分が三
三万四九六〇円、昭和五八年分が四九万九九二〇円)に符合する内容の支出を証す
る交通費ノート等の関係書類が、原告のもとに保存されており、証拠(昭和五六年
分については甲二号各証、昭和五七年分については同一〇号各証、昭和五八年分に
ついては同一九号各証)として提出されている。
この点について、被告は、右交通費ノートに昭和五五年及び昭和五九年分以降の記
載がないこと、右記載では交通手段及び経路が不明であること等を理由に、右各書
証の記載内容には信憑性がないと主張する。しかし、右ノート等の具体的な記載内
容について原告が前記のとおりの供述をしていることからすれば、被告の主張する
ような点だけから右各書証の信用性を否定することは困難なものといわざるを得な
い。
右の事実によれば、原告の事業の経費として支出された右交通費の金額を昭和五六
年分については三〇万〇二九〇円、昭和五七年分については三三万四九六〇円、昭
和五八年分については四九万九九二〇円であるとする原告の主張には、客観的な帳
簿書類等による裏付けがあるものと認められる。
(6) 会費について
前記甲二七号証による原告の陳述及び本人尋問における原告の供述によれば、原告
が各年分の経費として主張する会費は、原告がその事業の関係で加入している新宿
民主商工会の会費であることが認められる。右の会費の支出については、原告が各
年分の支出額として主張する金額に符合する内容の支出を証する領収書が、原告の
もとに保存されており、証拠(昭和五七年分については甲一七号各証、昭和五八年
分については同二六号各証)として提出されている。
右の事実によれば、原告の事業の経費として支出された右会費の金額を、昭和五七
年分については二万八一〇〇円、昭和五八年分については三万円であるとする原告
の主張には、客観的な帳簿書類等による裏付けがあるものと認められる。
(7) 雑費について
甲四八号証の写真並びに前記甲二七号証による原告の陳述及び本人尋問における原
告の供述によれば、原告が各年分の経費として主張する雑費は、原告の事業の従業
員の茶菓子代等の福利厚生費、取引先との打合せや接待等のための喫茶代や食事
代、顧客先への御中元及び御歳暮代、写植の参考資料等として利用するための新聞
代、写植作業のための作業服代等の各種の営業経費として要した費用であることが
認められる。右の雑費の支出については、原告が昭和五六年分の支出額として主張
する一〇二万三五五七円についてはそのうち八六万二〇五七円について、昭和五七
年分の支出額として主張する一一四万一九八三円についてはそのうち一一二万四六
二〇円について(三月二三日に支出したとする九八八円及び六月三〇日に支出した
とする二万円については、いずれもその支出を裏付ける領収書等がなく、また、四
月一日に支出したとする四八〇円については、この支出を証する証拠として提出さ
れた甲一三号証の四の(1)の領収書の年が昭和五二年となっているため、その支
出を認めることができない。他方、これ以外に、同一三号証の三の(12)により
三月四日に七〇五円が、同一三号証の七の(8)により七月三一日に六〇〇円がそ
れぞれ支出されていることが認められ、また、同一三号証の四の(8)により四月
二九日に原告主張額を一九〇〇円上回る金額が、同一三号証の一二の(16)によ
り一二月三〇日に原告の主張額を九〇〇円上回る金額がそれぞれ支出されているこ
とが認められるので、これらを差引計算すると、右の金額となる。)、昭和五八年
分の支出額として主張する一二五万二〇八〇円についてはその全額について、それ
ぞれ一応その支出の事実を証するような内容の出金伝票、領収書等の関係書類が原
告のもとに保存されており、証拠(昭和五六年分については甲五号各証、昭和五七
年分については同一三号各証、昭和五八年分については同二二号各証)として提出
されている。しかし、これらの支出額については、その支出の事実自体あるいはこ
れを必要経費に算入することについて、被告からも種々の問題点が指摘されている
ので、更にこの点を検討することとする。
(1) 領収書等の提出のない支出について
原告が昭和五六年分の支出額として主張するもののうち合計一六万一五〇〇円(一
二月六日に支出したとする三万七五〇〇円及び一二月一五日に支出したとする一二
万四〇〇〇円)については、その支出の事実を証する領収書等の資料が提出されて
いない。原告は、甲七七号証による陳述及び本人尋問における供述で、これがキャ
ビネットや机、椅子等を購入した際の支出であるとしているが、領収書等の資料の
提出がない以上、右のような原告本人の供述のみでは右の金額の支出を認めること
はできないものというべきである。
(2) 出金伝票のみを根拠とする支出について
まず、原告の主張する右雑費の支出の中には、支出項目を「おやつ、お茶、テイッ
シュ他」又は「雑費」とするのみで、具体的な出金項目の記載をしない出金伝票
(甲五号証の一の(5)、同一三号証の一の(1)、同二二号証の一の(1)等)
のみをその支出の根拠とする毎月二万円づつの支出(各年分合計各二四万円)が含
まれている。甲四八号証(菓子箱を撮影した写真)及び前記の原告本人の供述等に
よれば、これは、原告の従業員に対する福利厚生費として、毎月二万円づつを備え
付けの菓子箱に入れておき、それで随時お茶菓子、テイッシュペーパー等必要なも
のを購入した経費であるというのである。しかし、本訴において原告から提出され
た書証等からすると、原告は細かい支出についても漏れなくその領収書等の資料を
保存、保管していた事実がうかがえ、しかも、甲五号各証、同一三号各証、同二二
号各証の中には、スーパーマーケットや洋菓子店等の細かい領収書やレシートも多
数含まれていることが認められる。そうすると、原告が毎月二万円づつ支出したと
する右出金伝票による福利厚生費の支出と右のレシート等による支出の中には、そ
の内容が重複しているものが含まれている可能性を否定できないものというべきで
あり、しかも、その重複の限度、内容を明らかにする資料がない以上、右の出金伝
票による毎月二万円の福利厚生費の支出全体について、その経費としての支出を裏
付けに足る資料がないものとせざるを得ないことになる。
更に、右の支出以外にも、原告の主張する雑費の支出の中には、昼食代等(例えば
甲五号証の一の(1)等)の名目の出金伝票のみをその支出の根拠とする支出が相
当数含まれている。しかし、これらの出金伝票は、その支出項目等からして、その
支出の都度作成されていたものであり、本人尋問における原告の供述によれば、開
業したばかりでレシートをもらわなかった支出に関するものや領収書等を徴してこ
れを保管しておくことが困難なような内容の支出に関するものであったことがうか
がわれるから、これらの支出については、他に特段の反証がない以上、右出金伝票
をもって右の経費の支出の事実を裏付けるに足りるものとせざるを得ない。(3)
 宛先を「上様」とする領収書及びレシートを根拠とする支出について
前記の各書証によれば、原告の主張する右雑費の支出の中には、宛先を「上様」と
する領収書や宛先の記載のないレシートの記載のみを根拠とする支出が多数含まれ
ており、また、発行時の切り取り方が悪かったためか発行店名の表示部分が切り取
られているレシートも多数含まれていることが認められる(甲一三号証三の(6)
及び(9)、同二二号証一一の(5)等)。
しかしながら、前記のとおり、これらの領収書及びレシートは、原告が事業のため
に支出した際に受け取ったものをそのまま前記のレターケースに保存していたと認
められるものであるから、これらの支出についても、右の領収書等をもって右の経
費の支出の事実を裏付けるに足りるものと考えるのが相当である。
(4) 年度の記載のないレシートを根拠とする支出について
また、右雑費の支出を証する書証として提出されたレシートの中には、年度の記載
のないもの(甲五号証の四の(4)の2、同二二号証の一の(6)、同二二号証の
一の(11)等)が含まれていることが認められる。
しかし、前記の原告の供述によれば、原告の前記のような領収書の保存、整理状況
等からして、特段の反証のない限り、右のレシートに記載された支出は原告の主張
する年度にされたものと認めることができるから、これらの支出についても、右の
レシートをもって原告の主張する各年分の経費の支出の事実も裏付けるに足りるも
のとするのが相当である。
(5) 送別会、結婚式等のための支出等について
原告の主張する右雑費の支出の中には、送別会(甲五号証の六の(1))、出産祝
(甲五号証の八の(4))、結婚式会費(同二二号証の一の(8))等の名目によ
る支出の他、多数回にわたる飲食費等の支出が含まれており、また、新聞の購読料
やかなりの頻度による作業服の購入のための支出(甲五号証の一〇の(6)、同二
二号証の一の(11)等)が含まれている。
しかし、前記甲二七号証及び同七七号証による原告の陳述並びに本人尋問における
原告の供述等によれば、これらの支出は、いずれも原告の事業と密接な関係を有す
る取引先との交際、打合せや原告の従業員に対する残業時の食事の提供や慰安のた
めに要した経費、写植の構成等の参考資料とするための新聞購入費、あるいは、原
告及び従業員の作業時に着用する作業服の購入に要した経費の支出であるというの
であって、他に右の原告の供述の信用性を覆すに足りる証拠も見当たらない。した
がって、これらの支出についても、これを原告の事業の必要経費に算入すべきもの
として扱うのが相当である。
(6) 御中元、御歳暮等のための支出について
更に、原告の主張する右雑費の中には、取引先に対する御中元、御歳暮等の贈答品
等のための経費が含まれており、乙一八号証ないし同二〇号証の各照会回答書によ
れば、その支出を証するレシートの中には実用婦人肌着売場、紳士用品売場等で発
行されたものがあることが認められる(甲一三号証の一一の(10)及び(1
5)、同二二号証の七の(2)及び(11)、同号証の一〇の(6)並びに同号証
の一二の(2)及び(11))。しかし、本人尋問における原告の供述によれば、
このうちの贈答品のための支出は原告が日ごろ親しく交際している取引先の担当者
への贈答品の購入に要した経費の支出であるというのであり、そのような原告と相
手方との関係からすれば、実用婦人肌着等が必ずしも贈答品として不自然なもので
あるとすることはできず、この事実だけからして右の支出が原告の事業関係の経費
以外の個人的な家事関連の経費に関するものであるとまですることは困難なものと
いうべきである。また、右各照会回答書によれば、右の各支出の中には、本人尋問
において原告が供述しているのとは異なる使途に支出されているものが含まれてい
ることがうかがえる。しかし、何年も以前の細かい金員の支出について、その具体
的な支出項目に関する原告の供述に事実と異なる点が含まれている可能性があるか
らといって、そのことだけから、右の各支出が原告の事業関係の経費以外の個人的
な家事関連の経費に関するものであるとするまですることも困難なものといわざる
を得ない。
(7) 原告主張の支出日時より後に発行された公給領収証を根拠とする飲食費の
支出について
乙二一号証の照会回答書によれば、原告が昭和五六年一月二三日に支出したとする
一万二六五〇円の支出の根拠となる公給領収証(甲五号証の一の(4))の用紙は
同年三月六日に、同年三月七日に支出したとする一万二三二〇円の支出の根拠とな
る公給領収証(同号証の三の(2))の用紙は同年九月九日に、それぞれ東京都課
税部間税課から都内の都税事務所に送付され、これが更にその後各事業者に交付さ
れたものであることが認められる。そうすると、右の各公給領収証にされている支
出日時の記載は、明らかに虚偽のものであることが認められるものというべきであ
るから、右の各支出については、これが当該年度にされたものであることを裏付け
る証拠がないものとせざるを得ない。
なお、原告が昭和五七年九月一四日に支出したとする二万〇五七〇円の支出の根拠
となる公給領収証(同一三号証の九の(4))についても、その支出日時の記載が
後に原告の手によって記入されたものであることがうかがえるが、右の日時の記載
が虚偽のものであることを認めるに足りる証拠はないから、右の支出については、
右の領収証の記載をもってその裏付けとなるに足りるものとせざるを得ない。
以上の検討の結果によれば、原告の主張する各年分の雑費の支出については、前記
のとおりその支出の事実を証する領収証等が証拠として提出されている金額が各年
二四万円ずつの前記福利厚生費としての支出額を控除した額(昭和五六年分につい
ては六二万二〇五七円、昭和五七年分については八八万四六二〇円、昭和五八年分
については一〇一万二〇八〇円)から、更に、昭和五六年について右の支出日時の
記載が虚偽のものと認められる公給領収証を根拠とする支出額合計二万四九七〇円
を控除した額(五九万七〇八七円)の限度で、その支出について客観的な帳簿書類
等による裏付けがあるものと認められることになる。
(8) 減価償却費について
甲六七号証(減価償却費計算書)並びに同二七号証による原告の陳述及び本人尋問
における原告の供述によれば、原告が各年分の経費として主張する毎年各四五万五
八一九円の減価償却費は、原告の保有している写植機械及び文字盤の減価償却費並
びに写植機械の運搬費、事務所の賃借の礼金等の開業費用の繰延償却額であること
が認められる。
右の減価償却費のうち、写植機械のパボエイトについては、原告がこれを昭和五三
年に代金二三八万一三七五円で購入していることを証する売買契約書(同六六号
証)及び契約明細書(同六七号証)が証拠として提出されており、その耐用年数を
八年として本件各年分の減価償却額を計算するとその金額が二六万七九〇四円とな
ることが認められる(同六七号証)。しかし、その余の減価償却資産の購入費及び
開業費については、その支出の事実を証する領収書等の計算書類が証拠として提出
されていないから、これらの経費を支出したとする原告本人の供述のみでは、右の
金額の支出を認めることはできないものというべきである。
右の事実によれば、原告の事業の経費として計上された右減価償却費の金額につい
ては、昭和五六年分ないし昭和五八年分の各年分について、原告の主張する各年四
五万五八一九円のうち二六万七九〇四円の限度においてのみ客観的な帳簿書類等に
よる裏付けがあるにとどまるものとせざるを得ない。
(9) 人件費について
前記甲二七号証による原告の陳述及び本人尋問における原告の供述によれば、原告
が各年分の経費として主張する人件費は、原告がその事業のために雇用していたC
(昭和五六年から昭和五七年二月末まで在職)及びD(昭和五六年から昭和五八年
まで在職)に対して支給した給与の支出であることが認められる。右の人件費の支
出については、原告が各年分の支出額として主張する金額(昭和五六年分が二三一
万九九二〇円、昭和五七年分が一九六万五三〇〇円、昭和五八年分が二二五万六二
〇〇円)に符合する内容の支出を証する領収書類が、原告のもとに保存されてお
り、証拠(昭和五六年分については甲六号各証、昭和五七年については同一四号各
証、昭和五八年分については同二三号各証)として提出されている。
もっとも、乙八号証、同一四号証及び同一五号証並びに本人尋問における原告の供
述によれば、原告は、本件各更正に対する不服審査の段階では、国税不服審判所に
対して、右の甲号各証とは一部内容の異なる領収書を人件費の支出を証する資料と
して提出しており、その領収書では、右Dに対する支払額が前記の甲号各証による
支払額より減少して、毎年の支払額が合計七五万円以下となり、その代わりに、
E、F及びGなる人物に給与が支払われた形がとられていることが認められる。し
かし、甲五五号証による右Dの陳述、同五六号証による原告の陳述及び本人尋問に
おける原告の供述によれば、これは、右Dの場合には、その夫が得ていた給与所得
に対する課税に際して右Dを控除対象配偶者として配偶者控除を受けることが可能
なようにするため、右Dの依頼によって、同人については現実の支払額より低い支
払額を記載した内容虚偽の領収書を作成し、残りの支払額については架空人名義の
領収書を別途作或していたというのであって、他にこの原告の供述内容の信用性を
覆するに足りるだけの証拠も見当たらない。
更に、被告は、D作成名義の領収書の体裁や同人に対すろ給与額の増加の状況等か
らして、右領収書の記載を同人に対する現実の給与の支給状況を示すものとするこ
とには疑問があると主張する。しかし、前記のとおりの原告の供述等に照らすと、
被告の主張するような点だけからして右の領収書の記載内容の信用性を否定するこ
とも困難なものといわざるを得ない。
右の事実によれば、原告の事業の経費として支出された右人件費の金額を昭和五六
年分については二三一万九九二〇円、昭和五七年分については一九六万五三〇〇
円、昭和五八年分については二二五万六二〇〇円であるとする原告の主張には、客
観的な帳簿書類等による裏付けがあるものと認められる。
(10) 外注費について
前記甲二七号証による原告の陳述及び本人尋問における原告の供述によれば、原告
が各年分の経費として主張する外注費は、原告が顧客から受注した仕事のうち、主
として印刷に関する作業の他、特殊な写植、製版、デザイン等の作業を外注した経
費であることが認められる。右の外注費の支出については、原告が各年分の支出額
として主張する金額(昭和五六年分が二九四万一一五八円、昭和五七年分が二八八
万三四五一円、昭和五八年分が三〇四万六七五〇円)に符合する内容の支出を証す
る領収書等の関係書類が、原告のもとに保存されており、証拠(昭和五六年分につ
いては甲七号各証、昭和五七年分については同一三号各証、昭和五八年分について
同二四号各証)として提出されている。なお、昭和五六年分の支出とされている同
七号証の一三の領収書による一一万四三〇〇円については昭和五七年に、昭和五七
年分の支出とされている同一五号証の一三の領収書により九万一七二〇円について
は昭和五八年に、昭和五八年分の支出とされている同二四号証の一三の領収書によ
る一一万六八〇〇円については昭和五九年に、それぞれその現実の支出が行われて
いることが認められるが、これらの経費については、同五七号各証、同五八号各証
及び同五九号各証により、それぞれその前年中に支払いの請求が行われていること
が認められるから、いわゆる発生主義の原則により、これを原告主張の各年分の経
費に算入すべきものと考えられる。
もっとも、乙一〇号証及び本人尋問における原告の供述によれば、原告は、国税不
服審判所等における本件各更正に対する不服審査の段階では、外注費として右の金
額より高い金額を主張していた事実が認められる。しかし、甲五六号証による原告
の陳述及び本人尋問における原告の供述によれば、これは、右不服審査の段階で
は、原告がその仕事のために雇用していた二名のアルバイト従業員に対するアルバ
イト料を右の外注費に含めて主張していたのを、本訴においては、その分について
正規の領収書がないこと等から、その主張を取り下げることとしたことによるとい
うのであって、他にこの原告の供述内容の信用性を覆すに足りるだけの証拠も見当
たらない。
右の事実によれば、原告の事業の経費として支出された右外注費の金額を、昭和五
六年分については二九四万一一五八円、昭和五七年分については二八八万三四五一
円、昭和五八年分については三〇四万六七五〇円であるとする原告の主張には、客
観的な帳簿書類等による裏付けがあるものと認められる。
(11) 家賃について
甲二七号証による原告の陳述及び本人尋問における原告の供述によれば、原告が各
年分の経費として主張する家賃は、前記ライオンズマンション四一二号室の賃料の
支出であることが認められ、その各年分の支払家賃の総額が、昭和五六年分につい
ては九〇万六〇〇〇円、昭和五七年分については一〇六万二六〇〇円、昭和五八年
分については一〇二万六四〇〇円であったことについては、当事者間に争いがな
い。
被告は、右貸室は原告の自宅兼事務所であって、その事業使用の割合が五〇パーセ
ントにとどまっていたものと主張しているが、甲五〇号証の一及び二(右貸室の間
取図)、同五五号証による前記Dの陳述並びに前記同二七号証による原告の陳述及
び本人尋問における原告の供述によれば、原告は通常は右の貸室で寝泊まりするこ
とはなく、その生活の本拠を近くに住む姉の家としており、仕事で遅くなったとき
等に右貸室で仮眠することがある程度にとどまっていたことが認められることから
すると、その事業使用割合を五〇パーセントにとどまるとすることには疑問があ
り、むしろ原告の主張するように、その八〇パーセントが事業の用に供されていた
ものと推認することも可能なものと考えられる。
右の事実によれば、原告の事業の経費として支出された右家賃の金額として原告の
主張する昭和五六年分の七二万四八〇〇円、昭和五七年分の八五万〇〇八〇円、昭
和五八年分の八二万一一二〇円という金額は、いずれも前記家賃総額の八〇パーセ
ント以内の金額であるから、その主張には客観的な裏付けがあるものと認められ
る。
(12) 貸倒金について
所得税法五一条二項により売掛金債権の貸倒れによって生じた損失を必要経費に算
入するには、当該年中に弁済期が到来している債権につき、債務者の倒産、失踪等
の事情が生じ、債権の回収の見込みがないことが客観的に確実になったことを要す
るものと解すべきである。
ところで、原告が東京アートに対し昭和五六年分の未収金として一〇万七七〇〇円
の債権を有していたことについては当事者間に争いがない。しかしながら、本人尋
問における原告の供述によれば、東京アートが入居していたマンションの管理人の
説明では昭和五九年二月ころまで東京アートからその賃料が支払われていたという
のであり、そうすると、右東京アートが所在不明となって右債権の回収の見込みが
ないことが客観的に確実になったのは、昭和五九年以降である可能性が高いものと
いわなければならない。
したがって、右一〇万七七〇〇円の未収金を貸倒金として昭和五八年分の必要経費
に算入することはできないこととなる。
(13) 本件売上金額に対応する必要経費の範囲について
本件において被告の主張する売上金額については、被告は、前記のとおり、ある程
度の捕捉漏れの可能性を含むものであると主張しているところであり、現に、乙一
七号証(住友銀行新宿東口支店(旧平和相互銀行新宿支店)の原告名義の普通預金
口座)の記載と同一六号証の三(原告の売上帳)の記載とを対比すると、インク企
画Hとの取引について三〇万円の、Iとの取引について一二万八〇〇〇円の各金員
が右口座に振り込まれており、これは、原告の売上の捕捉漏れに該当するものであ
ることが認められると主張している。
しかし、甲七八号証(右H作成の陳述書)及び本人尋問における原告の供述によれ
ば、右の三〇万円は原告が昭和五七年一〇月ころ右Hに対して貸しつけていた貸金
の返済として同人から受領したものであることが認められ、また、右原告の供述に
よれば、右Iは原告と取引関係のある東京農業大学生協の常務理事であって、原告
が同人個人と取引を持つことは有り得ないことから、右の一二万八〇〇〇円を原告
の事業の売上金とすることには疑問があることが認められる。したがって、この点
に関する被告の主張は採用できない。
また、被告は、材料費の支出額が、昭和五六年分が七六万〇七七八円、昭和五七年
分が一三四万一九二五円、昭和五八年分が一八五万二三五五円と年を追って大きく
伸びているのに、前記売上金額が昭和五六年分が一一三六万二二〇〇円、昭和五七
年分が一二二一万七三八〇円、昭和五八年分が一三五一万二〇五〇円とわずかな伸
びしか示していないこととなることを根拠に、右売上金額にはかなりの捕捉漏れが
含まれているはずであると主張している。しかし、甲七三号証、同七五号証及び同
七六号証によれば、右の材料費のうちかなりの部分は写研から写植の文字盤を購入
した費用であり、右文字盤の購入費を控除した材料費で比較すると、昭和五六年か
ら昭和五八年までの各年分の材料費の支出額にさほどの伸びがないことが認められ
る。しかも同七七号証による原告の陳述及び本人尋問における原告の供述によれ
ば、文字盤の購入費の伸びが必ずしも原告の売上金額の伸びに比例するという性質
をもつものとも認められないから、この点に関する被告の主張は採用できない。
更に、被告は、右のような売上金額を前提として原告が実額による経費の存在を主
張、立証する場合には、その経費が現実に右の売上げに対応するものであることを
も原告において立証すべきであると主張する。しかしながら、事業に関する経費と
してある金額が支出されたことが認められる場合に、これが一定の具体的な収入金
額と個別に対応するものであることが認められるのでなければこの支出を必要経費
に算入することが認められないということ自体に疑問があることは前記のとおりで
ある。そして、本件において右の(2)から(11)までに認定したところに基づ
いて、原告の各年分の売上金額に対する売上原価等の割合を計算してみると、それ
は六五パーセントないし六九パーセント程度となり、しかも、本人尋問における原
告の洪述によれば、原告の事業の業態が、写植のみを行うのではなく、製版、印刷
から製本までのすべての仕事を請け負う例が多く、その場合には製版、印刷及び製
本の作業を他に外注することとなるため、一般の写植業者の場合に比べると印刷外
注費の支出が相対的に大きくなるという特徴を持ったものであることが認められる
ところである。そうすると、この原告の経費率は、被告が本訴において各比準同業
者の経費率として援用するものの中にも最高では八〇パーセント以上にも及ぶもの
が含まれていることと対比しても、明らかに過大に失するものとまですることは困
難なものというべきである。したがって、この点に関する被告の主張も採用できな
い。
結局、本件においては、原告の各年分の前記売上金額に対応する必要経費の額を次
のとおりとして、各年分の所得金額を算出すべきこととなる。
昭和五六年分  八一八万〇二七七円
昭和五七年分  八八二万五〇六〇円
昭和五八年分 一〇〇五万七三〇七円
3 事業所得の金額について
以上によれば、実額による経費額を前提として計算した原告の各年分の事業所得の
金額は、次のとおりとなり、被告主張の推計による経費額を前提として計算した所
得金額を下回ることになるので、この金額をもって原告の各年分の所得金額とすべ
きことになる。
昭和五六年分  三一八万一九二三円
昭和五七年分  三三九万二三二〇円
昭和五八年分  三四五万四七四三円
4 結論
以上のとおり、本件各更正及び本件各決定の取消しを求める原告の請求は、右の各
処分のうち右認定に係る各年分の所得金額を超える部分に相当する部分の取消しを
求める限度で理由があるから、その限度でこれを認容すべきであり、その余は理由
がないから、これを棄却すべきである。
(裁判官 涌井紀夫 小池 裕 近田正晴)

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