弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役十五年に処する。
     押収物件中手斧二挺(刑第一、二号証)は孰れも没収する。
         理    由
 検察官の控訴趣意及び弁護人松山一忠の控訴趣意は末尾添付の通りであるが、
 まづ弁護人松山一忠の控訴趣意第一点について、
 しかし原判決挙示の各証拠を仔細に検討してみると被告人のその父Aに対する所
為は右証拠から窺はれる兇器の用法、その積極的な攻撃等から見て被告人に於てそ
の場合己むを得ざるに出た所為とは到底認め難く正当防衛若しくは過剰防衛を認め
る余地はない、又その場合右A外B、C、D及びEに対する各殺害の犯意も右証拠
上明確に認定できるから原審がこれをAに対する尊属殺人、C、B、D、Eに対す
る各殺人未遂を夫々認定したのは正当であつてこの点事実誤認はなく論旨は理由が
ない。
 同第二点について、
 被告人のAに対する所為を尊属殺人と認定したことが憲法違反であるとの所論に
ついては原判決にも説明している通り既に刑法第二〇〇条は憲法違反でない旨の最
高裁判所の判例もあり、当裁判所の見解もこれと同一であるから論旨は所詮採用で
きない。
 次に同第三点並に検察官の控訴趣意は孰れも夫々の立場から原審の量刑不当を主
張するものであるがこれらの論旨に対する判断を為す前に職権に依つて原判決の法
律の適用について調べてみると原判決は被告人の所為中直系尊属を殺害した所為は
刑法第二〇〇条殺人未遂の各所為は同法第一九九条、第二〇三条に該当するところ
右直系尊属を殺害した所為については所定刑中無期懲役刑を選択し、犯情憫諒すべ
きものがあるから同法第六六条、第七一条、第六八条第二号に従い酌量減軽を為
し、七年以上の有期懲役を以て処断すべく殺人未遂の各所為については孰れも所定
刑中有期懲役刑を選択し以上は同法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条
本文、第一〇条を適用の上最も重い直系尊属を殺害した罪の刑に同法第一四条の制
限に従い法定の加重を為し、その刑期範囲内に於て被告人を懲役十五年に処し云々
とその法律の適用を示している、しかし法律の適用に当り同時に刑を加重減軽すべ
きときは刑法第七二条所定の順序に依ることを要するから酌量減軽は各罪につき再
犯加重、法律上の減軽、併合罪の加重を為したる上なおその犯情欄諒すべきものが
あるときに始めて之を適<要旨>用すべきものと謂わなければならぬ。従つて併合罪
中その一罪につき無期懲役を選択しその罪に法律上減軽の事由なき場合には
之と他の有期懲役刑に処すべき罪とにつき刑法第四七条を適用すべき余地なく同法
第四六条第二項により無期懲役以外の他の刑を科せず若し犯情憫諒すべきものあれ
ばその無期懲役刑につき酌量減軽を行うべきものであつて一罪につき酌量減軽を為
し、然る後他の有期の懲役に処すべき罪と併合罪の加重を為すことは許されないも
のと解するを相当とする、然るに原審が原判示直系尊属殺害の点につき無期懲役、
他の各殺人未遂の罪につき孰れも有期懲役を選択しこれらの各罪が刑法第四五条前
段の併合罪の関係にあるに拘らず右直系尊属殺害の罪につき酌量減軽を為し、然る
後他の殺人未遂の各罪と共に同法第四七条を適用して最も重い直系尊属殺人罪の刑
に併合罪の加重を為したことは明かに法律の適用を誤つた違法があり、この誤りは
当然判決に影響するものと認められるからこの点に於て原判決は破棄を免れない。
 よつて前記弁護人及び検察官の量刑不当の各論旨に対する判断を省略し、刑事訴
訟法第三九七条第一項に則り原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従つて直ちに
判決する。
 原審の確定した事実に法律を適用すると被告人の原判示所為中直系尊属殺害の点
は刑法第二〇〇条に、各殺人未遂の点は孰れも同法第二〇三条、第一九九条に該当
し、右は同法第四五条前段の併合罪の関係にあるが直係尊属殺害の罪については所
定刑中無期懲役刑を、又各殺人未遂の罪については孰れも有期懲役刑を選択した上
同法第四六条第二項を適用して被告人を無期懲役に処すべきところ犯情憫諒すべき
ものがあるから同法第六六条、第七一条、第六八条第二号に依り酌量減軽を為した
刑期範囲内に於て被告人を懲役十五年に処し押収に係る手斧二挺(刑第一、二号
証)は孰れも本件犯行の用に供したものであつて被告人以外のものの所有に属さな
いから同法第一九条第一項第二号第二項に則りこれを没収すべきものとする。
 よつて主文の通り判決する。
 (裁判長判事 三野盛一 判事 谷弓雄 判事 浮田茂男)

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