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平成19年4月25日判決言渡
平成17年(行ケ)第10680号審決取消請求事件
平成19年4月23日口頭弁論終結
判決
原告八洲電研株式会社
原告X
原告ら訴訟代理人弁護士大日向節夫
被告特許庁長官中嶋誠
被告指定代理人岡千代子
同佐野遵
同高木彰
同大場義則
主文
1原告らの請求を棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告ら
特許庁が不服2004−20193号事件について平成17年7月19日に
した審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2被告
主文と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告らは,平成8年10月8日に出願した特願平8−284604号の一部
を,平成15年3月13日に分割出願し(特願2003−67437号。以下
「本願」という,本願に係る発明の名称を「投入紙幣識別機構を有する自。)
動販売機」と改めたが,同16年8月31日,拒絶査定を受けた。これに対し
て,原告らは,同年9月30日,不服の審判を請求するとともに,平成17年
4月25日付け手続補正書により明細書の補正をした(乙1。以下,この補正
後の明細書を「本願明細書」という。。)
特許庁は,上記審判請求を不服2004−20193号事件として審理した
結果,平成17年7月19日「本件審判の請求は,成り立たない」との審,。
決をし,その謄本は同年8月8日,原告らに送達された。
2特許請求の範囲
本願明細書に係る特許請求の範囲(請求項1)の記載は,次のとおりである
(以下「本願発明」という。,。)
「投入紙幣識別機構,販売品管理機構,及びCPU(中央処理装置)ボードか
ら成っており,該投入紙幣識別機構が,投入された紙幣を識別するための入力
信号系,及び投入された紙幣を搬送するためのメカ駆動系により構成されてお
り,また,該販売品管理機構が,入金額から販売可能な販売品を識別,確認等
をするための出力信号系,及び販売する販売品を搬送する為のメカ駆動系によ
り構成されており,さらに,該CPUボードが,該投入紙幣識別機構と該販売
品管理機構との間に介在され同一のマイクロプロセッサー制御器にて一元化さ
れ,前記投入紙幣識別機構と前記CPUボードの夫々の端子群とがケーブルで
連結され,前記CPUボードと前記販売品管理機構の夫々の端子群とがコネク
タで直結され,前記マイクロプロセッサー制御器が,前記入力信号系からのデ
ータを基に前記紙幣を適正と判断したときに,前記販売品管理機構が前記販売
。」品を払い出してなることを特徴とする投入紙幣識別機構を有する自動販売機
3審決の理由
()別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,本願の原出願1
である特願平8−284604号の出願前に頒布された刊行物である実願平
5−47637号(実願平7−17287号)のCD−ROM(甲3。以下
「引用例1」という)及び特開昭59−191087号公報に記載された。
発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,
特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,とするもので
ある。
()審決が,本願発明に進歩性がないとの結論を導く過程において,認定した2
引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という)の内容並びに本願。
発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
(ア)引用発明の内容
「補助機台本体の下端部に紙幣挿入口が設けられ,該紙幣挿入口に接続し
て後方に,挿入された紙幣をガイドする紙幣ガイド機構と紙幣識別ユニッ
トが設けられ,紙幣挿入口の上方にプリペイドカードを挿入・送出するた
めのカード挿入口が設けられ,該カード挿入口の後方に,プリペイドカー
ドに必要な情報を書き込む書込読出手段とカード繰り出しユニットが設け
られる補助機台であって,該補助機台の適宜の場所に設けられた制御ユニ
ットは,CPU,ROM,及びRAMから構成されており,該制御ユニッ
トのCPUには,紙幣ガイド機構,紙幣識別ユニット,カード繰り出しユ
ニット,書込読出手段がバスを介して接続されている補助機台」。
(イ)一致点
「,,,投入紙幣識別機構販売品管理機構及び中央処理装置から成っており
該投入紙幣識別機構が,投入された紙幣を識別するための入力信号系,及
び投入された紙幣を搬送するためのメカ駆動系により構成されており,ま
た,該販売品管理機構が,入金額から販売可能な販売品を確認等をするた
めの出力信号系,及び販売する販売品を搬送する為のメカ駆動系により構
成されており,中央処理装置が,同一のマイクロプロセッサー制御器にて
一元化され,前記投入紙幣識別機構と前記中央処理装置の夫々の端子群と
がケーブルで連結され,前記中央処理装置と前記販売品管理機構の夫々の
端子群とが連結され,前記マイクロプロセッサー制御器が,前記入力信号
系からのデータを基に前記紙幣を適正と判断したときに,前記販売品管理
機構が前記販売品を払い出してなることを特徴とする投入紙幣識別機構を
有する自動販売機」
(ウ)相違点
①中央処理装置が,本願発明では,CPUボードであるのに対して,引
用発明では,制御ユニットである点
②中央処理装置が,本願発明では,投入紙幣識別機構と該販売品管理機
構との間に介在されているのに対して,引用発明では,適宜の場所に設
けられている点
③中央処理装置と販売品管理機構の夫々の端子群とが,本願発明では,
コネクタで直結されているのに対して,引用発明では,ケーブルで連結
されている点
第3原告らの主張
審決には,以下のとおり,本願発明の認定の誤り,引用発明の認定の誤り,
本願発明の作用効果を看過した誤りがあり,本願発明が引用例に基づいて容易
に発明をすることができたとした判断にも誤りがある。
1本願発明の認定の誤り(本願発明におけるCPUの数について)
()本願発明は,投入金額識別機構と販売管理機構との間にCPUボードが介1
在し,このCPUボードには,CPU,RAM及びROMより成るマイクロ
プロセッサー制御機が置かれ,マイクロプロセッサー制御機が,投入金額識
別機構の投入紙幣の真偽,金額の識別等の制御及び入庫の紙幣の管理並びに
販売品管理機構の販売品の管理,払い出し等の制御を,同時に行うことに特
質がある。従来の自動販売機では,これらの機能を作用させるには,2個以
上のCPUを使用していたのに対して,本願発明は,その点を改良したもの
であって,CPUの使用を1個とした。本願発明においてCPUの使用は1
個であると特定すべき理由は,以下のとおりである。
,「,,(ア)本願明細書の特許請求の範囲には投入紙幣識別機構販売管理機構
及びCPU(中央処理装置)ボードから成っており,‥‥‥該CPUボー
ドが,該投入紙幣識別機構と該販売品管理機構との間に介在され同一のマ
イクロプロセッサー制御器にて一元化され‥‥‥」と記載されている。
上記CPUボードは,図1に示されるとおり,1個のCPU及びRAM,
ROMで構成されており,紙幣の真贋判定,自販機商品の搬出管理に至る
までに,使用されているCPUは1個である。また,上記同一のマイクロ
プロセッサー制御器は1個が使用されている。マイクロプロセッサー制御
機はCPUと同じ意味で使われていて,1個のマイクロプロセッサー制御
機は1個のCPUを意味する。
(イ)本願明細書の「発明の詳細な説明」欄においては【従来の技術】の項,
で,投入金額識別機構側と販売品管理機構側の双方に,それぞれマイクロ
プロセッサー制御器を搭載していたこと(CPUは,複数で,1個ではな
いこと,また【産業上の利用分野】の項で,この両機構双方のマイク),
ロプロセッサー制御器は,一元化すること(CPUを1個とすること)が
記載されている。さらに【発明が解決しようとする課題】及び【課題を,
解決するための手段】の項で,従来の自販機は,投入金額識別機構と販売
品管理機横側に,それぞれ別のマイクロプロセッサー制御器搭載のCPU
ボードを配備していたのを,本願発明では,該CPUボードが上述の両機
構との間に介在し,同一のマイクロプロセッサー制御器にて一元化されと
記載されており,複数個のCPUを1個にしたことが図1と共に記載され
ている。
()これに対して,審決は,CPUの使用は1個であることを認定していない2
点において誤りがある。
2引用発明の認定の誤り
()引用発明におけるCPUの数について1
審決は,引用発明について「この場合,CPUは紙幣識別ユニット側と,
制御ユニット側の双方に存在すると主張するが,引用例1の図1,2の記載
及び後者(判決注:引用発明を指す)がパチンコ台の補助機台内に設置さ。
れる自動販売機であることを勘案すれば,後者の制御ユニットと各ユニット
が『ポーリング・セレクティング方式,コンテンション方式などのネットワ
ーク制御』のような,ネットワークを介した通信方法を用いているとは到底
認められない」から『CPUは紙幣識別ユニット側と制御ユニット側の双方
に存在する』との主張は採用できない(審決書5頁6行∼13行)としてい
るが,審決の認定は,次のとおり誤りである。
(ア)引用例1の図2及び段落【0011】∼【0014】の記載を検討する
と,図2のバス33上部の制御ユニットには,RAM,ROM及びCPU
が記載されており,本願発明のマイクロプロセッサー制御器と一致する。
バス33下部には,玉コントロールユニット,紙幣識別ユニット,カード
繰り出しユニット,その他の機構(スピーカーシステム,ガイド機構,書
込・読出手段,選択ボタン)が存在する。ところで,上記ユニット3種類
には,記載は省略されているが,各々RAM,ROM及びCPUから成る
制御装置が設置されている。
(イ)引用例1には,紙幣識別ユニットが「識別指令信号を受信し,紙幣の,
所定の箇所を検知し,かつ金額を識別して紙幣の真偽信号と金額信号を制
御ユニット21に送信する」と記載されているが,紙幣識別ユニット7が
かかる働きをするためには,CPUが,同ユニット7に存在することが必
要である。紙幣識別ユニット7と制御ユニット21がバスを介して通信を
するのであるから,交互通信機能を有するCPUが両ユニットに存在する
ことが,理論上不可欠である。なお,引用発明は,ポーリング・セレクテ
ィング方式を採用している。
(),,(ウ)甲4特開2001−10149号公報の図3を検討するとROM
CPU,RAM及びカードコネクターで構成される主制御部と,ROM,
RAM及びCPUで構成される紙幣識別制御部,同じようにCPU等で構
成される販売制御部並びにCPU等で構成される硬貨選別制御部,同じよ
うにCPU等で構成される接客制御部等が,存在する。甲4の図3と,引
用例1の図2とを対比すると,引用例1の制御ユニット21は甲4の主制
御部と一致し,引用例1の紙幣識別機ユニットは甲4の紙幣識別制御部と
一致し,引用例1のカード繰り出しユニットは甲4の販売制御部と一致す
る。そして,主制御機と他の制御機間は,ポーリング・セレクティング方
式,コンテンション方式等のネットワーク通信がされている。そして,紙
幣識別制御部3は,独立して紙幣の真贋金種判定を行い,各ユニット動作
は,各ユニット専用のCPUによる。また,主制御部1と,硬貨識別制御
部4,販売制御部5との間は,実線のデータ入出力線6及び破線の同期信
号線7で接続される。つまり,硬貨識別制御部2,紙幣識別制御部3,接
客制御部4,販売制御部5は,主制御部1からの同期信号の変化(例えば
立ち下がり)が供給されることにより,ディセーブル(無効)状態からイ
ネーブル(有効)状態へ変化し,各々硬貨識別機,紙幣識別機,接客部,
販売部を制御するために,主制御部1との間でデータの入出力を行う。こ
れらは,ポーリング・セレクティング方式である。このように,各従制御
部側にもCPUを内臓し,主制御機側と双方に,CPUが存在するのは明
確である。よって,引用例1では明確に述べられていない部分も,ポーリ
ング・セレクティング方式であることが分かる。
(エ)このように,引用例1の図2と甲4の図3の各々のブロック図面は,明
,,()確な構成例で対比されるし他にも甲5原告ら作成に係る公報一覧表
,,,,,,記載の公報のうち本題に関係のないものを除く表番号1345
6,7,8,14,15,16,18,19,20,23の14件の公報
のすべてが,本表「本事件との関連」列の内容欄が示すように「マスタ,
ースレーブ「ポーリング・セレクティング方式」などのマルチCPU」,
により,構成されている。
(オ)なお,原告八州電研株式会社が,平成10年2月19日に,引用例1の
出願人である神鋼電機株式会社から「薄型カード発売機用紙幣処理装置」
の開発依頼を受けた際に(甲6,引用例1について尋ねたところ,紙幣)
識別ユニット及びカード繰り出しユニットは,それぞれROM,CPU及
びRAMで構成されているとの回答を得た。
()引用発明の動作不能2
(ア)引用例1の段落【0011】には,図2において,①「制御ユニット2
1はRAM21a,ROM21b及びCPU21cから構成されており,
構成要素21a,21b,21cはバス33を介して接続されている,。」
②「スピーカシステム29,貸し玉の量をカウント及びコントロールする
,,,玉コントロールユニット19紙幣ガイド機構5紙幣識別ユニット13
カード繰り出しユニット13,カードに月日及び金額等を印字し,及びそ
れらのコードを記録したり,読み出したりする書込読出手段11,金額を
選択する選択ボタン23及び残高等の金額を表示する金額表示器25がバ
ス33を介して制御ユニット21に接続されている」と記載され,これ。
,,。らabともすべて共通のバス33を介し接続する旨が明記されている
また,図2も,同様に接続されている。
しかし,前記①と②は,異なるバスで成り立つものであり,①は外部バ
,,,,ス②は拡張バスとそれぞれ呼ばれ異なる用途のものであり①と②を
,。,引用例1のように同一のバス33で共用することはできないすなわち
①は,RAM21a,ROM21b及びCPU21c間のデータ送受のた
めのものであり,②に比較すると,はるかに高速なアドレスバス及びデー
タバスで構成され,共に各ビット専用の通信線を設けた並列伝送によるも
,,()ので引用例1の出願当時の速度は1ステップ当たり1μs10秒−6
程度の高速である。これに対し,②は,通例においては,直列伝送であっ
て,送信系,受信系などの信号線に,データの各ビット情報を時系列的に
配置させて伝送するので,甲4,甲6のとおり,その速度は,出願当時4
800bps(bit/秒)程度の低速である。すなわち,①と②は,異
質なものであって,直列,並列と基本的接続方法の相違と共に,低速側が
高速側の通信を阻害するため,共用のバスで伝送することはできない。
(イ)これに対して,甲4の図3では,1a(ROM,1b(RAM,1))
c(CPU)内の外部バスは,矢印の線が示すように,主制御器1のブロ
ック内部のみであり,データ入出力線,同期信号線の拡張バスは,1の主
制御器,2,3,4,5の従制御器の範囲内のみである。外部バス,拡張
バスは,区別された上でそれぞれが接続されていることは明らかである。
コンピューターシステムは,この説明のように成り立っているものである
から,引用例1の段落【0011】及び図2に記載される構成では,自販
機は動作不能である。
(ウ)以上のとおり,引用例1には誤りがあり,コンピューターシステムとし
ては動作不能である。したがって,技術的な裏付けのない動作不能な引用
発明を基礎として,本願発明は容易に発明することができたとした審決の
判断には誤りがあることになる。
3本願発明の効果の看過
()本願発明の効果は,本願発明の明細書(甲2の1)の段落【0020】に1
記載されているとおりである。すなわち,従来例が投入紙幣識別機構側と販
売品管理機構側の双方にCPUボードを組み込んでいたのに対し,本願発明
においては,CPUボードを投入紙幣識別機構又は販売品管理機構に同一マ
イクロプロセッサー制御器にて一元化して直結するように成し,該投入紙幣
識別機構に関する投入金額の識別等の制御,入庫に関する管理等,及び該販
売品管理機構に関する販売品の管理,払出し等の制御等を同時に行うことが
可能なマイクロプロセッサー制御器に,LED(発光ダイオード,LCD)
(液晶表示装置)等により投入金額等のデータを出力する表示機を一体化さ
せて構成していることにより,コストの低減を計れると同時に,両者間のス
テータス,コマンドなどの通信,それに伴うケーブルを含む両者インターフ
ェイス部品がすべて不要となり,これ等に起因する微妙なノイズ障害などの
不具合は消滅し,装置全体の安定性及び信頼性は格段に向上するという副次
的効果も得られるものである。
()審決は,上記のような本願発明の顕著な作用効果を看過し,本願発明の進2
歩性についての判断を誤ったものである。
第4被告の反論
以下のとおり,審決の認定判断に誤りはない。
1本願発明の認定の誤り(本願発明におけるCPUの数)について
原告らは,本願発明では,CPUは1個が使用されていると認定されるべき
であると主張する。しかし,以下の理由により,原告らの主張は失当である。
本願明細書の特許請求の範囲には,CPUの使用が1個であることは,何ら
記載されていない。
すなわち,本願明細書の特許請求の範囲におけるCPUに関連する記載から
すれば,同一のマイクロプロセッサー制御器が,投入紙幣識別機構と販売品管
理機構の両方を制御していると解される。したがって,特許請求の範囲におい
ては,同一のマイクロプロセッサー制御器が,投入紙幣識別機構と販売品管理
機構の両方を制御することは規定されているものの「CPUの使用は1個で,
ある」ことは,何ら規定されていない。すなわち,本願発明の「同一のマイク
ロプロセッサー制御器にて一元化され」なる構成は,同一のマイクロプロセッ
サー制御器が,投入紙幣識別機構と販売品管理機構を制御することについて規
定しているだけであって,投入紙幣識別機構,販売品管理機構内に,他のCP
Uが存在しないことまでは規定されていない。
原告らは,本願明細書の段落【0005】∼【0021】及び図1に示され
ていると主張する。しかし,特許請求の範囲には,必ずしも発明の詳細な説明
に記載された実施例のとおりのものに限定されるとは限らず,また,本願発明
の特許請求の範囲の記載は明確であるから,発明の詳細な説明の記載を参酌す
る必要はない。
なお,本願発明は,特許請求の範囲において,データの送受信方式を特定し
ておらず,特許請求の範囲の「CPUボードが‥‥‥同一のマイクロプロセッ
サー制御器にて一元化され」は,同一のマイクロプロセッサー制御器により,
投入紙幣識別機構と販売品管理機構とが制御されることを特定するに止まるも
のである。データ送受信に関して,ポーリング・セレクティング方式を採用す
ることを排除するものではない。
2引用発明の認定の誤りについて
()CPUの数について1
,,,(ア)原告らは引用例1では紙幣識別ユニットが受け取る紙幣受納信号は
ガイド機構が(直接)送信することを前提として主張する。
しかし,同主張は,以下のとおり,前提に誤りがある。すなわち,引用
例1の「ガイド機構5は紙幣が挿入されたときに紙幣受納信号を制御ユニ
ット21に送信し,その紙幣を所定の位置まで移動する」との記載によ。
れば,ガイド機構が,紙幣受納信号を制御ユニットに送信しており(紙幣
識別ユニットに送信することは,記載されていない,紙幣識別ユニッ。)
トが受け取る紙幣受納信号は,ガイド機構が制御ユニットに送信し,制御
ユニットが紙幣識別ユニットに送信しているものと解するのが自然であ
,,,。りまた制御ユニットは紙幣識別ユニットに識別指令信号を送信する
このように,制御ユニットは,各ユニットに対して各種の指令信号を送信
して,全体の制御を行っている。
(イ)原告らは,引用例1について「上記ユニット3種類には省略されてい,
るが,それぞれRAM,ROM及びCPUからなる制御装置が設置されて
いる」と主張する。。
しかし,原告らの主張は,以下のとおり失当である。すなわち,引用例
1には,上記ユニット3種類に,RAM,ROM及びCPUからなる制御
装置が設置されていること,あるいは,設置されているが記載は省略され
ていることについて,記載も示唆もないから,原告らの主張は,引用例1
の記載に基づかないものであって,失当である。
また,原告らは,引用例1に記載された発明において,制御ユニットと
紙幣識別ユニットが,バスを介して接続され,データの送受信を行ってい
ることを根拠に,紙幣識別ユニット7と制御ユニット21がバスを介して
通信するから,交互通信機能を有するCPUが両ユニットに存在すること
が理論上不可欠であって,引用発明は,CPUが,制御ユニットと(少な
くとも)紙幣識別ユニットの2個(以上)存在すると主張する。
しかし,原告らの主張は,以下のとおり根拠がない。すなわち,バスを
介した通信であっても,例えば乙2(特開昭63−132366号公報)
に記載されるように,主局(共通部)だけにCPUが存在し,従局(個別
),,,部にはCPUが存在しないもの換言すれば送信側・受信側の両方に
CPUが存在しないものは,周知の技術手段であるから,原告ら主張のよ
うに「バスを介した通信では(送信側・受信側の)両ユニットにCP,,
Uが存在する」と断定することはできない。。
,,,(ウ)原告らはバスを介した通信では両ユニットにCPUが存在するから
引用発明の送受信方式は,ポーリング・セレクティング方式であると主張
する。しかし,原告らの主張は,以下のとおり根拠がない。すなわち,バ
スを介した通信であっても,受信側・送信側の両方にCPUが存在すると
は限らないことは,上記(イ)で述べたとおりであるから「両ユニットに,
CPUが存在すること」を根拠として,引用発明は,ポーリング・セレク
ティング方式であるとする原告らの主張は理由がない。仮に,引用発明の
データの送受信方式が,原告ら主張のとおりポーリング・セレクティング
方式であるとしても,受信側にCPUが存在するとはいえない。
(エ)原告らは,引用例1に記載された発明の紙幣識別ユニットにCPUが存
在すること,あるいは,引用例1に記載された発明のデータ送受信方式が
「ポーリング・セレクティング方式」であることを立証するために,甲4
及び甲5を提出している。
しかし,甲4は,本願発明の出願後に公開された公開特許公報であるか
ら,該公報の記載をもって引用例1に記載された発明の出願時の技術水準
を推測することは妥当ではない。また,甲5記載の文献1∼22は,甲4
と同様に,本願発明の出願後に公開された公報であり,文献23は,本願
出願前の公報ではあるが,引用例1に記載された発明の出願後のものであ
るから,甲5に列記された公報も,甲4と同様に,引用例1に記載された
技術事項を論ずるに際して意味のないものである。
()技術的に動作不能であるとの主張について2
原告らの主張は,争う。
3本願発明の効果の看過について
()本願発明の明細書は,平成17年4月25日付け手続補正書(乙1)によ1
り全文補正されたものであるから,出願当初の明細書(甲2の1)の記載に
基づく原告らの作用効果に関する主張は,主張自体が失当である。
()本願発明の効果は,審決に示した理由及び周知の技術手段の奏する作用効2
果から,容易に予測できる範囲のものにすぎない。
第5当裁判所の判断
1はじめに
原告らの提出した準備書面の記載によるも,その主張する取消事由は必ずし
も明瞭ではない。しかし,準備書面の記載の全体から判断すると,以下のとお
りに理解できる。すなわち,本願発明と引用発明とを対比すると,本願発明で
はCPUの個数は1個であるのに対して,引用発明では,玉コントロールユニ
,,,ット紙幣識別ユニットカード繰り出しユニットの各々にCPUが搭載され
複数のCPUが使用されることが必須であり,CPUの個数において相違する
ところ,この相違点に関して,当業者は,本件発明を引用例に基づいて容易に
発明をすることができなかったものである。しかるに審決は,①CPUの個数
を1個であると特定しなかった点で本願発明の認定を誤り,②CPUの個数を
複数であると特定しなかった点で引用発明の認定を誤り,結局,相違点を看過
した誤りがあり,③同相違点についての容易想到性の判断を誤った違法がある
と主張しているものと理解できる。
そこで,この理解を前提として,原告らの主張を検討する。
2本願発明の認定の誤り(CPUの個数)について
原告らは,本願発明において,使用されるCPUは1個であると認定される
べきであるにもかかわらず,その旨を認定しなかった審決には誤りがあると主
張する。
この点につき検討する。原告らの主張するとおり,本願発明は,投入紙幣識
別機構と販売品管理機構とを制御するマイクロプロセッサー制御器は,CPU
ボード上に1個だけ搭載されていると認定するのが相当である。
()まず,本願発明に関する特許請求の範囲【請求項1】には「‥‥‥該C1,
PUボードが,該投入紙幣識別機構と該販売品管理機構との間に介在され同
一のマイクロプロセッサー制御器にて一元化され,‥‥‥前記マイクロプロ
セッサー制御器が,前記入力信号系からのデータを基に前記紙幣を適正と判
断したときに,前記販売品管理機構が前記販売品を払い出してなることを特
徴とする投入紙幣識別機構を有する自動販売機」が記載されている。。
また,本願明細書(乙1)には「マイクロプロセッサー制御器」につい,
て,次の記載がある。
【産業上の利用分野】本発明は,自動販売機に関するもので,特に,投入
金額識別機構と販売品管理機構との双方のマイクロプロセッサー制御器を搭
載したCPUボードを一元化することに関する【従来の技術】従来の各種。
自動販売機に於いては,投入金額識別機構側と販売品管理機構側に夫々別の
マイクロプロセッサー制御器搭載のCPUボードを配備し,投入金額識別機
構側のCPUボードにおいては,投入される紙幣等を取り込み合否判定を識
別し,金庫への収納或いは不受理排出などの一連の動作迄を専用管理し,販
売品管理機構側のマイクロプロセッサー制御器搭載のCPUボードは,投入
金額識別機構側のCPUボードより送られる入金信号,動作中信号等を受信
し,販売品の出力及び自動販売機全体の管理を司っている【発明が解決し。
ようとする課題】従来の自動販売機に於いては,投入金額識別機構側と販売
品管理機構側に夫々別のマイクロプロセッサー制御器搭載のCPUボードを
配備していたことより,自動販売機一台当たりのコストが高いという問題点
があり,また,投入金額識別機構,販売品管理機構及び夫々のCPUボード
間の制御信号を送受するためのケーブルが長くなるために,インダクタンス
,,,及びキャパシタンスが増大しその結果ノイズによる障害を誘起するので
装置全体の安定性及び信頼性に欠けるという問題点があった(段落【0。」
001】∼【0003「課題を解決するための手段】本発明自動販売機】)【
は,‥‥‥該CPUボードが,該投入紙幣識別機構と該販売品管理機構との
間に介在され同一のマイクロプロセッサー制御器にて一元化され,‥‥‥前
記マイクロプロセッサー制御器が,前記入力信号系からのデータを基に前記
紙幣を適正と判断したときに,前記販売品管理機構が前記販売品を払い出し
てなることを特徴とする(段落【0005「35は搬送モーター32。」】)
を制御するためのモータードライバーであって,本実施例ではIC(集積回
路)を使用する。上記に示したように,CPUボード41へ転送された光学
的データ又は/及び磁気的データから紙幣の真贋を判断する。判断はCPU
ボード41内にあるマイクロプロセッサー制御器42のROM部との照合に
より行われ,上記光学データ及び磁気データがROM部に記憶されたデータ
により,適正と判断され,マイクロプロセッサー制御器42からモータード
ライバー35へ正回転するようにモーター制御回路13を介して制御信号を
送信し,搬送モーター32が正回転する。従って,搬送モーター32により
駆動する搬送ベルト34が正回転して紙幣Aは金庫36へ取り込まれる。ま
た,CPUボード41に一体に接続されているLED又は/及びLCD(液
晶表示装置)等によって表示することができる表示器43に入金額を表示す
るとともに,売上額のデータがマイクロプロセッサー制御器42のRAM部
に記憶される。さらに,その入金額に対応するプリペイドカード払出機構5
1によりプリペイドカード(図示しない)を払い出し一連の操作は終了する
が,プリペイドカード払出機構1の詳細については後述する。一方,上記デ
ータ群をROM部データと照合し,不適正と判断され,この場合,マイクロ
プロセッサー制御器42からモータードライバー35へ逆回転するようにモ
ーター制御回路13に対して制御信号を送信し,モータードライバー35の
指示により搬送モーター32が逆回転する。従って,搬送モーター32の回
転により駆動する搬送ベルト34が逆回転して紙幣Aは紙幣挿入口2へ排出
される。‥‥‥また,プリペイドカードを取り出す際に,エラー無く購入者
がこの販売分を引き出すまでを監視するために,マイクロプロセッサー制御
器42からカード払出監視回路63を介して,カード排出口(図示しない)
の付近にカード払出監視センサー64を設置している。最初の紙幣挿入より
カード出力迄に万一不具合があれば,取引状況の履歴を記憶すると共に表示
器43にエラーコードを表示する。表示器43横に配備されたエラー発生表
示用スイッチ44は此れらのエラーの履歴を該販売機管理者が解析表示させ
るためにも使用する(段落【0012】∼【0016)。」】
()以上のとおり,請求項1には「該CPUボードが,該投入紙幣識別機構2,
と該販売品管理機構との間に介在され同一のマイクロプロセッサー制御器に
て一元化され」ること及び「前記マイクロプロセッサー制御器が,前記入力
信号系からのデータを基に前記紙幣を適正と判断したときに,前記販売品管
理機構が前記販売品を払い出してなること」が記載され,また,本願明細書
の発明の詳細な説明には,投入紙幣識別機構と販売品管理機構との双方のマ
イクロプロセッサー制御器を搭載したCPUボードを一元化し,同一のマイ
クロプロセッサー制御器で,投入紙幣識別機構と販売品管理機構を制御する
ことが開示されている。
そうすると,本願発明では,同一のマイクロプロセッサー制御器にて,C
PUボードを一元化しているのであるから,投入紙幣識別機構と販売品管理
機構とを制御するマイクロプロセッサー制御器は,CPUボード上に1個だ
け搭載されていると認定するのが相当である。
()もっとも,審決書では「4.対比・判断」中に「該CPUは,前者に言3,
う「一元化」されたものであることは言うまでもない。‥‥‥(審決書4」
頁35行∼36行「一致点」中に「‥‥‥中央処理装置が,同一のマ),【】,
イクロプロセッサー制御器にて一元化され,‥‥‥前記マイクロプロセッサ
ー制御器が,前記入力信号系からのデータを基に前記紙幣を適正と判断した
ときに,前記販売品管理機構が前記販売品を払い出してなることを特徴とす
る投入紙幣識別機構を有する自動販売機(審決書5頁38行∼6頁4行)。」
等の記載があり,これらの記載によれば,審決においても,本願発明では,
CPUが1個だけ使用されていると認定しているものと解される。したがっ
て,審決には,本願発明の認定に関し固有の誤りがあるものではない。
2引用発明の認定の誤りについて
()CPUの数について1
原告らは,引用例1のユニット3種類(玉コントロールユニット,紙幣識
別ユニット,カード繰り出しユニット)には,省略されているが,各々RA
M,ROM及びCPUから成る制御装置が,設置されていると主張する。そ
こで,この点を検討する。
(ア)引用例1(甲3)には,上記3種類のユニットについて,次の記載が
ある。
「実施例】以下,本願考案をパチンコの補助機台に実施した例につい【
て説明する。図1は,この実施例の全体構成図を示すものである。補助機
台本体1の下端部に紙幣挿入口3が設けられており,この挿入口3に接続
して後方には(本体1に向かって後方,叉は図において右側,挿入され)
た紙幣をガイドして識別するための手段として,ガイド機構5と紙幣識別
ユニット7が設けられている。さらにこの識別ユニットの出口側には図示
省略の紙幣搬送部が設けられている。‥‥‥更に,この書込読出手段11
の後方には,そのカードを収納するための収納部,カードを繰り出すため
の繰出部と不良カードを収納する不良カード収納部とを具備するカード繰
り出しユニット13が設けられている。‥‥‥パチンコ玉通路17の途中
箇所に貸し玉の供給量をカウントして制御するための玉コントロールユニ
ット19が設けられている。‥‥‥(段落【0007】∼【0009)」】
「。図2は上記した実施例の制御システムの構成を示すブロック図である
‥‥‥スピーカシステム29,貸し玉の量をカウント及びコントロールす
る玉コントロールユニット19,紙幣ガイド機構5,紙幣識別ユニット1
3,カード繰り出しユニット13,カードに月日及び金額等を印字し,及
びそれらのコードを記録したり,読み出したりする書込読出手段11,金
額を選択する選択ボタン23及び残高等の金額を表示する金額表示器25
がバス33を介して制御ユニット21に接続されている。‥‥‥制御ユニ
ット21は上記プログラムに従って,前記各ユニットと以下のように制御
信号の送受信を行う。‥‥‥玉コントロールユニット19は制御ユニット
21が数量信号を送信したときに,その数量をカウントして玉取出口15
に放出する。ガイド機構5は紙幣が挿入されたときに紙幣受納信号を制御
ユニット21に送信し,その紙幣を所定の位置まで移動する。紙幣識別ユ
ニット7は制御ユニット21が紙幣受納信号を受け取った後,識別指令信
号を受信し,紙幣の所定の箇所を検知しかつ金額を識別して紙幣の真偽信
号と金額信号を制御ユニット21に送信する。カード繰り出しユニット1
3は制御ユニットから繰出信号を受信したときは新たなカードを1枚,繰
出部13bから繰り出し,繰入信号を受信したときは挿入されたカードを
収納部13aに収納する。‥‥‥(段落【0011】∼【0013)」】
「この実施例は,以上の如く構成されているので以下のように機能作用
する。‥‥‥挿入された紙幣はガイド機構5によって紙幣識別ユニット7
に送られ,金額及び真正であるかどうかの識別が行われる。真正である場
合は,金額表示機25にその金額が表示され,かつその紙幣は搬送部によ
って搬送され,パチンコ機台の脇に設けられている島の中にある金庫に収
納される(段落【0015)。」】
(イ)これらの記載によれば,引用例1には,上記ユニット3種類について,
具体的な内部構成としての制御装置や,バスを介しての具体的な通信方式
は,一切開示されておらず,単に,玉コントロールユニットは,貸し玉の
供給量をカウントして制御するためのものであって,制御ユニット21が
数量信号を送信したときに,その数量をカウントして玉取出口15に放出
すること,紙幣識別ユニットは,挿入された紙幣を識別するための手段で
あって,制御ユニット21が紙幣受納信号を受け取った後,識別指令信号
を受信し,紙幣の所定の箇所を検知しかつ金額を識別して紙幣の真偽信号
と金額信号を制御ユニット21に送信すること,カード繰り出しユニット
は,カードを収納するための収納部,カードを繰り出すための繰出部と不
良カードを収納する不良カード収納部とを具備するものであって,制御ユ
ニットから繰出信号を受信したときは新たなカードを1枚,繰出部13b
から繰り出し,繰入信号を受信したときは挿入されたカードを収納部13
aに収納することが開示されているにとどまり,上記ユニット3種類に,
各々RAM,ROM及びCPUから成る制御装置が設置されていることに
ついての開示はない。そもそも,各ユニットは,引用例1に記載された程
度の所期の動作を行う機能を奏するものでありさえすれば,例えば,アナ
ログ回路や,論理回路からなる制御装置であっても足りるのであって,各
ユニットに,RAM,ROM及びCPUから成る制御装置をそれぞれ設置
。,,することが不可欠であるとはいえない以上のとおり引用例1において
原告らが主張するように,RAM,ROM及びCPUから成る制御装置が
複数搭載されていると特定することはできない。
(ウ)これに対し,原告らは,引用例1は,ポーリング・セレクティング方式
であるところ,紙幣識別ユニット7が所定の働きをするためには,CPU
が,同ユニット7に存在しないとできない,紙幣識別ユニット7と制御ユ
ニット21が,バスを介して通信をするのであるから,交互通信機能を有
するCPUが両ユニットに存在することが,理論上不可欠である旨を主張
する。
しかし,引用例1には,上記ユニット3種類について,具体的な内部構
成としての制御装置や,バスを介しての具体的な通信方式が開示されてい
ないこと,及び,各ユニットの内部にRAM,ROM及びCPUから成る
制御装置を設置することまでも必要不可欠とはいえないことは,前示のと
おりである。したがって,紙幣識別ユニット7と制御ユニット21が,バ
スを介して通信を行っているからといって,交互通信機能を有するCPU
が両ユニットに存在することが,理論上不可欠であるとまでは認められな
い。さらに,引用例1に記載されたバスを介しての通信が,ポーリング・
セレクティング方式であると特定することもできないことは,明らかであ
る。
(エ)原告らは,甲4の図3と,引用例1の図2とを対比することにより,引
用例1では明確に述べられていない部分も,ポーリング・セレクティング
方式であることが分かる,と主張し,また,甲5の一覧表に記載の14件
の公報において「マスタースレーブ「ポーリング・セレクティング方,」,
式」などのマルチCPUにより,構成されていると主張する。
しかし,引用例1に記載されたバスを介しての通信が,ポーリング・セ
レクティング方式であると特定することができないことは,前示のとおり
である。したがって,たとえ,甲4及び甲5に,ポーリング・セレクティ
ング方式などのマルチCPUで構成される通信方式が記載されているから
といって,そのことをもって,引用例1に記載されたバスを介しての通信
が,ポーリング・セレクティング方式であると特定することができないこ
とも,明らかである。
(オ)原告らは,引用例1の出願人である神鋼電機株式会社から,原告八州電
,,,研株式会社が紙幣識別ユニット及びカード繰り出しユニットはROM
CPU及びRAMで各構成されている旨の回答を受けた旨をも主張する。
しかし,甲6は,薄型カード発券機の紙幣処理装置の通信仕様書である
ところ,この通信仕様書に記載された紙幣処理装置と引用例1に記載され
た発明とが同一のものであるかは不明であるし,また,甲6が,引用例1
について神鋼電機株式会社が回答した内容の証拠となるものでもない。
()引用発明の動作不能2
原告らは,引用例1は,コンピューターシステムとして,技術的に動作不
能であるとし,このような技術的に裏付けられない動作不能の引用例を基礎
として,本願発明は容易に発明をすることができたとした審決の判断には誤
りがあると主張する。そこで,この点を検討する。
(ア)まず,引用例1には「バス」について,原告らが摘示した①「制御ユ,
ニット21はRAM21a,ROM21b及びCPU21cから構成され
ており,構成要素21a,21b,21cはバス33を介して接続されて
いる,②「スピーカシステム29,貸し玉の量をカウント及びコント。」
ロールする玉コントロールユニット19,紙幣ガイド機構5,紙幣識別ユ
ニット13,カード繰り出しユニット13,カードに月日及び金額等を印
字し,及びそれらのコードを記録したり,読み出したりする書込読出手段
11,金額を選択する選択ボタン23及び残高等の金額を表示する金額表
示器25がバス33を介して制御ユニット21に接続されている」の記。
載があり,また,図2にも,上記①,②の記載と同様なバスの接続が図示
されている。
しかし,引用例1に記載された発明は,プレーヤがゲーム機台から離れ
ることなくプレーを楽しめるゲーム補助機台を提供するためのものであ
り,引用例1に記載された発明において,バスは,単に制御ユニットの各
構成要素間,及び,各ユニット等と制御ユニットとが,それぞれ接続され
ているということを示すためのものでしかなく,具体的なバスの構成や,
具体的にどのような接続方法を採用するかは,当業者が必要により適宜決
めればよい技術的な設計事項と認められる。したがって,多少転送速度が
遅くなる等の問題があると考えられるとしても,そのことから直ちに,引
用例1に記載された発明のバス構成が,技術的にみて動作不能なものでは
ないことは,明らかである。
(イ)また,引用例1に,バスの構成やバスとの接続方法について,具体的な
,,,記載はないが図2によれば制御ユニット21の構成要素RAM21a
ROM21b及びCPU21cは,バス33に太線矢印で接続されている
のに対し,スピーカシステム29,玉コントロールユニット19,紙幣ガ
イド機構5,紙幣識別ユニット7,カード繰り出しユニット13,書込読
出手段11,選択ボタン23及び金額表示器25は,バス33に細線矢印
で接続されている。そうすると,回路図やブロック図では,接続線の太さ
により,その接続線で転送される情報量の多寡を表現するということが,
一般に行われている技術常識であるから,バスに接続する矢印の太さの違
いから,制御ユニットの各構成要素のバスへの接続と,他のユニット等の
バスへの接続とは,少なくとも異なる接続方法を採用していると理解する
のが相当である。そして,制御ユニットの各構成要素が,バスに接続して
いる矢印の方が太いのであるから,その接続方法が並列転送であるとか,
その転送速度が高速であるという原告らの主張と矛盾するものではない。
3本願発明の効果の看過について
()原告らは,本願発明の効果は,本願発明の明細書(甲2の1)の段落【01
020】のとおりとし「明らかにコストの低減を計れると同時に,両者間,
のステータス,コマンドなどの通信,それに伴うケーブルを含む両者インタ
ーフェイス部品がすべて不要となり,これ等に起因する微妙なノイズ障害な
どの不具合は消滅し,装置全体の安定性及び信頼性は格段に向上するという
副次的効果も得られる」と主張する。。
()しかし,本願発明の明細書は,平成17年4月25日付け手続補正書(乙2
),【】,「,1により段落0020の記載はコストの低減を計れると同時に
微妙なノイズ障害などの不具合は消滅し,装置全体の安全性及び信頼性は格
段に向上する」と補正され,補正後の記載によれば,本願発明の効果とし。
ては,同一のマイクロプロセッサー制御器にて一元化することによって,当
然に実現されると予測される範囲内のものであって,格別顕著なものではな
い。
4結論
以上によれば,審決には,原告らの主張する相違点を看過した誤りはなく,
また,容易想到であるとした判断にも誤りはないことになる。原告らは縷々主
張するがいずれも理由はない。その他,審決に,これを取り消すべき誤りは見
当たらない。
よって,原告らの本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官三村量一
裁判官上田洋幸

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