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裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     被上告人の請求をいずれも棄却する。
     訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人森本紘章及び上告補助参加代理人小山晴樹、同渡辺実の上告理由につ
いて
 一 原審の適法に確定した事実関係の概要及び記録によって明らかな本件訴訟の
経緯等は、次のとおりである。
 1 住宅ローン融資等を業とする被上告人は、株式会社D(以下「訴外会社」と
いう。)の販売又は仲介する不動産を購入した顧客との間で住宅ローン取引を行っ
ていたが、訴外会社は、昭和五九年二月八日ころ、被上告人に対し、訴外会社の顧
客が被上告人から住宅ローンの融資を受けたことにより負担する債務につき、合計
一億一〇〇〇万円を限度として、包括して連帯保証する旨を約した。
 2 上告補助参加人らは、昭和五九年二月九日、被上告人に対し、上告補助参加
人ら各所有の不動産に、被上告人の訴外会社に対する右連帯保証契約上の債権を被
担保債権とする極度額一億一〇〇〇万円の根抵当権を設定した(以下「本件根抵当
権」という。)。
 3 被上告人は、昭和五九年六月二七日、訴外会社の顧客である上告人A1との
間で、一九〇〇万円を同上告人に貸し付ける旨の契約(以下「本件ローン契約」と
いう。)を締結し、上告人A2は、同日、被上告人に対し、右契約に基づく上告人
A1の債務を連帯保証する旨を約した。
 なお、上告人A1は、真実マンションを購入する意思がないのに、訴外会社の資
金繰りのため、訴外会社から三〇万円の謝礼を受け取る約束の下に、マンション購
入者として本件ローン契約を締結し、被上告人から一九〇〇万円の交付を受けたも
のであり、上告人A2も、訴外会社の勧誘に応じて右連帯保証をしたものである。
 4 上告人A1は、昭和五九年八月七日、割賦金の返済を怠ったため、本件ロー
ン契約所定の約定により、期限の利益を喪失した。
 5 被上告人は、昭和五九年一〇月二六日、本件根抵当権の実行としての競売を
各管轄裁判所に申し立て、東京地方裁判所は同月二九日上告補助参加人ら各所有の
不動産について、千葉地方裁判所佐倉支部は同月三〇日上告補助参加人C建設株式
会社所有の不動産について、それぞれ競売開始決定をし、各競売開始決定正本は、
前者については同年一一月一四日、後者については同年一二月二八日、右各競売事
件の債務者である訴外会社に送達された。
 6 被上告人は、平成元年一〇月二五日、上告人A1に対しては本件ローン契約
上の債務の履行を求め、上告人A2に対してはその連帯保証債務の履行を求めて本
件訴訟を提起し、上告人らは、本件訴訟において、本件ローン契約上の債権につい
ての五年の商事消滅時効を援用した。
 二 原審は、右事実関係の下において、次のとおり判断して、本件ローン契約上
の債権が時効により消滅したとの上告人らの主張を排斥した。
 1(一) 物上保証人所有の不動産を目的とする抵当権の実行としての競売を申し
立てた債権者は、右手続において被担保債権の弁済を受けることを最終の目的とす
るものであること、右手続の競売開始決定正本は債務者に送達されることになって
おり、被担保債権の弁済を求める債権者の意思を債務者に通知することが手続的に
保障されていること、競売開始決定正本が債務者に送達されたときは、差押えの効
力として、被担保債権についての消滅時効は中断すると解されるが、一つの行為が
効力を異にする二個の中断事由に重畳的に該当することを否定すべき理由はないこ
と等を考慮すれば、右競売の申立ては、債務者に対する関係で民法一四七条一号の
「請求」に当たるものと解するのが相当である。そして、抵当権の実行としての競
売手続は、請求権の存否を確定する効力を有するものではないから、右競売の申立
ては、裁判上の請求に当たらず、催告としての効力を有するにすぎないものといわ
なければならないが、右競売の申立てによる催告は、その手続の進行中はその効力
が継続的に維持され、そのことを前提に、債権者の弁済要求にこたえるための競売
手続が行われるものというべきであるから、右催告は、手続終了後六箇月以内に債
務者に対し裁判上の請求等をすることにより確定的に時効中断の効力を生じさせる
ことができるいわゆる裁判上の催告に当たるものと解するのが相当である。
  (二) 民法四五八条において準用される同法四三四条により、連帯保証人に対
する履行の請求は主債務者に対しても効力を生ずるから、本件ローン契約上の債務
の連帯保証人である訴外会社を債務者とする本件根抵当権の実行としての競売の申
立てによる裁判上の催告の効力の継続中に本件訴訟が提起されたことにより、本件
ローン契約上の債権の消滅時効は中断している。
 2 また、上告人A1は、訴外会社から三〇万円の謝礼を受け取る約束の下に、
訴外会社の資金繰りのために本件ローン契約を締結したものであり、上告人A2も
訴外会社と相通じた連帯保証人であること等からすれば、上告人らが本件ローン契
約上の債権についての消滅時効を援用することは、信義則に反し、許されないとい
うべきである。
 三 しかしながら、原審の右1、2の判断はいずれも是認することができない。
その理由は、次のとおりである。
 1(一) 物上保証人所有の不動産を目的とする抵当権の実行としての競売の申立
てがされ、執行裁判所が、競売開始決定をした上、同決定正本を債務者に送達した
場合には、債務者は、民法一五五条により、当該抵当権の被担保債権の消滅時効の
中断の効果を受けるが(最高裁昭和四七年(オ)第七二三号同五〇年一一月二一日
第二小法廷判決・民集二九巻一〇号一五三七頁参照)、債権者甲が乙の主債務につ
いての丙の連帯保証債務を担保するために抵当権を設定した物上保証人丁に対する
競売を申し立て、その手続が進行することは、乙の主債務の消滅時効の中断事由に
該当しないと解するのが相当である。
 けだし、抵当権の実行としての競売手続においては、抵当権の被担保債権の存否
及びその額の確定のための手続が予定されておらず、競売開始決定後は、執行裁判
所が適正な換価を行うための手続を職権で進め、債権者の関与の度合いが希薄であ
ることにかんがみれば、債権者が抵当権の実行としての競売を申し立て、その手続
が進行することは、抵当権の被担保債権に関する裁判上の請求(同法一四九条)又
はこれに準ずる消滅時効の中断事由には該当しないと解すべきであり、また、執行
裁判所による債務者への競売開始決定正本の送達は、本来債権者の債務者に対する
意思表示の方法ではなく、競売の申立ての対象となった財産を差し押さえる旨の裁
判がされたことを競売手続に利害関係を有する債務者に告知し、執行手続上の不服
申立ての機会を与えるためにされるものであり、右の送達がされたことが、直ちに
抵当権の被担保債権についての催告(同法一五三条)としての時効中断の効力を及
ぼすものと解することもできないことなどに照らせば、債権者が抵当権の実行とし
ての競売を申し立て、その手続が進行すること自体は、同法一四七条一号の「請求」
には該当せず、したがって、右抵当権が連帯保証債務を担保するために設定された
ものである場合にも、同法四五八条において準用される同法四三四条による主債務
者に対する「履行ノ請求」としての効力を生ずる余地がないと解すべきであるから
である。
  (二) 以上によれば、本件においても、被上告人がした本件根抵当権の実行と
しての競売の申立ては、本件ローン契約上の債権の消滅時効を中断しないというべ
きである。
 2 被上告人は、上告人らによる本件ローン契約上の債権についての消滅時効の
援用が信義則に反すると主張するけれども、上告人A1が、真実マンションを購入
する意思がなく、訴外会社の資金繰りのために本件ローン契約を締結したとしても、
上告人らは、自らマンション購入者として本件ローン契約を締結するなどしたので
あるから、上告人らが本件ローン契約上の債権の消滅時効を援用することが信義則
に反するということはできない。
  以上のとおり、本件ローン契約上の債権が時効により消滅したとの上告人らの
主張を排斥した原審の判断には、法令の解釈を誤った違法があるというべきであり、
右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。この点の違法をいう論旨は理由
があり、原判決は破棄を免れない。
 四 被上告人は、上告人らと訴外会社及び上告補助参加人らは取引上一体という
べき関係にあるとして、上告補助参加人らが被上告人に対して本件根抵当権の設定
登記の抹消登記手続を求めて提起した訴訟(東京地方裁判所昭和六〇年(ワ)第三
八七六号事件。以下「別件訴訟」という。)に被上告人が応訴し、請求棄却を求め
るとともに、上告人A1及び訴外会社に対する債権の存在を主張立証したことには
裁判上の請求に準ずるもの又は裁判上の催告としての時効中断の効力があり、上告
補助参加人らが別件訴訟の和解手続において被上告人に対する債務の存在を認めた
ことは時効中断事由としての承認に当たる旨を主張するが、記録によってうかがわ
れる被上告人の主張事実によっても、上告人らと訴外会社及び上告補助参加人らが
取引上一体というべき関係にあったということはできない上、上告人ら及び訴外会
社はいずれも別件訴訟の当事者ではなかったのであるから、別件訴訟における被上
告人又は上告補助参加人らの訴訟活動が本件ローン契約上の債権につき消滅時効の
中断の効力を及ぼすと解する余地のないことは明らかである。そして、他に右債権
の消滅時効の中断事由に関する主張立証はない。そうすると、本件ローン契約上の
債権は上告人らによる時効の援用により消滅し、それに伴い、上告人A2の連帯保
証債務も消滅したものであるから、被上告人の本訴請求はいずれも理由がなく、こ
れを棄却すべきものである。
 よって、原判決を破棄し、第一審判決を取り消した上、被上告人の請求をいずれ
も棄却することとし、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従
い、裁判官河合伸一の意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
 裁判官河合伸一の意見は、次のとおりである。
 私は、本件ローン契約上の債権が時効によって消滅したとする多数意見の結論に
は賛成するが、その理由を異にするので、私見の要点を述べておきたい。
 一 民法一五三条のいう催告とは、債務者に対して債務の履行を求める債権者の
意思の通知であって、その形式、方法の如何を問わないというのが、一般的な理解
である。
  競売の申立ては、債権者が被担保債権の弁済を得るためにする強力な手続であ
るから、直接的には抵当権の行使であっても、その背後に債務者に対して債務の履
行を求める意思が含まれていることは明らかである。そして、その債権者の意思は、
競売開始決定正本の送達により、債務者に到達することが予定されている。これを
受領した債務者が債権者の右意思を認識することもまた当然である。したがって、
頭記の一般的理解に従い、債権者が競売を申し立て、これに基づく競売開始決定正
本が債務者に送達されることは、民法一四七条二号の差押えとなることとは別に、
同法一五三条の催告にも当たると解すべきである。
 二 しかしながら、いわゆる裁判上の催告として通常の催告を超える効力がある
とされるのは、単に裁判所における手続で権利を主張したというだけでは足りず、
(1) その手続において、当該権利の存否につき審理、判断されることが予定され
ているため、権利者が、その審理中、当該権利の存在を継続して主張していると認
め得る場合、又は、(2) その手続が係属している間、権利者が別途当該権利の時
効中断の手続をとることが著しく困難又は不合理であるなど、特段の事情があり、
右の間の時効の進行を暫定的に中断しなければ権利者に酷であると認め得る場合で
あると考える。
  抵当権の実行としての競売手続においては、債務者から執行異議の申立てがあ
った場合などを除き、原則として被担保債権の存否を審理、判断することは予定さ
れていないから、右の(1)の場合に当たるとすることはできない。また、抵当権に
基づく競売手続の係属中に、主債務者に対して訴えを提起するなど、被担保債権に
ついて適宜の時効中断措置をとることが著しく困難又は不合理であるとはいえず、
その他一般に右(2)の場合に当たると認めることもできない。
  したがって、抵当権の実行としての競売手続が係属していることをもって、一
般的に、被担保債権につきいわゆる裁判上の催告があったと解することはできない。
 三 これを本件についてみると、被上告人が本件根抵当権の実行としての競売を
申し立て、各競売開始決定正本が訴外会社に送達されたことは、本件ローン契約上
の債務についての連帯保証人たる同社に対して民法一五三条の催告があったものと
解することができ、かつ、その催告は同法四五八条により準用される同法四三四条
の履行の請求に含まれると解すべきであるから、主債務者たる上告人A1に対する
関係でも、時効中断の効力を生じたというべきである。
  しかしながら、右の中断は暫定的なものにすぎず、その後の競売手続の係属を
もって直ちにいわゆる裁判上の催告と解し得ないこと前示のとおりであり、その例
外とすべき事情も認められないから、被上告人が右送達後六箇月以内に民法一五三
条所定の手続をしなかったことにより右暫定的中断の効力は失われ、結局、本件ロ
ーン契約上の債権は上告人らの時効の援用により消滅したものというべきなのであ
る。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    河   合   伸   一
            裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    福   田       博

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