弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1検察官請求の検察官調書のうち,以下のものを証拠として採用する。
(1)Dの検察官調書のうち,甲13,14
(2)Eの検察官調書のうち,甲19,20
(3)Fの検察官調書のうち,甲21
(4)Gの検察官調書のうち,甲22
(5)Bの検察官調書のうち,甲48ないし50
2その余の検察官調書の証拠請求(刑訴法321条1項2号によるも
の。)を却下する。
理由
(以下において,具体的な本件当時の事実は原則として平成16年中のことであ
り,作成された供述調書の作成年度は全て平成21年であるので,両者について
は,基本的に年度の記載を省略する。なお,人物については,原則として,姓の
みを記する。)
第1特信性判断についての前提事実,共通問題について
1一件記録により認められる前提事実
本件捜査は,大阪地検特捜部により行われ,P1検事を主任として,P2,
P3,P4,P5,P6各検事,P7,P8,P9,P10各副検事らによる
取調べがなされた(以下,各検察官は,姓のみを記す。)。
本件で検察官から取調べ請求されている調書の供述者のうち,D,E,F,
G,Hはいずれも在宅で取調べを受け供述調書が作成されており,その調書作
成日,取調検察官,作成調書の通数は別紙1【省略】記載のとおりである。ま
た,A,B,Cは身柄拘束された上,取調べを受けた(A,Bは身柄拘束前に
も取調べを受けている。)が,身柄拘束後の取調日,取調時間,取調検察官,
作成調書の通数,接見した弁護人の状況は別紙2【省略】記載のとおりである。
本件で実施された公判における証人尋問の日程は別紙3【省略】のとおりで
ある。
本件各供述調書は,供述者が,いずれも被疑者としての取調べを受けた結果
作成されたもので,取調べに際しては,検察官から黙秘権が告げられ,作成さ
れた供述調書については検察官から読み聞けがなされ,各供述者による署名,
押印(指印)がなされている。
各取調検察官は,主任検事に取調べで得られた供述の内容を報告していた。
そして,供述調書の記載について,どの部分を調書に記載するか主任検事の
指示を受け,その部分を調書に記載していたと公判で供述する検察官(P7
ら)と,調書の作成は,内容によるが,基本的には,取調べ検察官に任されて
いたと公判で供述する検察官(P4)がいる。
また,供述調書が作成された場合は,主任検事を通じ他の検察官にその写し
が配布されていた。
2特信性判断の基本的方法について
刑訴法321条1項2号の特信性は,供述がなされた外部的な事情を基準と
して判断すべきものであるが,外部的事情を推認させる資料として供述内容を
考慮することができる。そこで,本件においても外部的な事情を中心として特
信性について判断し,供述内容は,基本的には,外部的事情を推認させる資料
としての範囲でこれを考慮することにする。
3取調べメモ,取調べの録音,録画について
弁護人は,本件において,検察官は,取調べ時のメモをすべて廃棄しており,
取調べについての録音,録画をなしていないが,これは不適正な取調べを行い,
その痕跡が明らかになるのをおそれたからである旨主張し,そのような事実自
体が検察官による不適正な取調べを推認させる旨主張する。
取調べ時のメモ,取調べの録音,録画は,取調べの状況を認定するについて
の有用な資料とみられる。しかし,取調べメモの廃棄,取調べの録音,録画を
行わないこと自体が,取調官による不適正な取調べを推認させるとの事情にな
るとはみられず,有用な資料が存しないということにより,取調官と取調べを
受けた者の各供述が齟齬し他に判断に有用な資料,事情等が存しない場合に,
取調べを受けた者の取調べに関する供述が排斥できない場合があるというのに
止まるものと解される。
第2Dの検察官調書(甲13,14)について
1当事者の主張の概要
検察官は,証人Dの公判証言(第6回公判)と検察官調書(甲13,14。
5月26日付け,27日付け)には相反性があり,また,検察官調書には特信
性があると主張する。検察官は,特信性について,Dは,公判において,被告
人や厚労省及びその関係者への配慮等から,真実を供述することが困難な情況
にあったのに対し,捜査段階においては真摯に真実を供述することができる情
況にあり,外部的事情から特信性があると共に,公判供述の内容は,あいまい
で終始一貫しない内容であるのに対し,検察官調書の内容は,具体的で,自然
かつ合理的であり,取調官が誘導できない内容を供述しており,他の証拠とも
整合することなどから,内容的にも特信性がある旨主張する。
これに対し,弁護人は,Dの捜査供述は,検察官の強圧的な取調べや暗示,
誘導によるものであり,公判供述には,被告人への配慮と評価されるものはな
く,外部的事情から特信性はない上,内容面からも,Dの検察官調書には不自
然,不合理な点があり,特信性はないと主張する。
2相反性について
まず,Dの公判証言と検察官調書の相反性について検討すると,相反性が認
められる部分の中核は,①2月下旬ころ,Fが,DにCが訪ねてきた際の対応
を指示した際,Iから口利きがあり,被告人に下りてきた案件であると言って
いたか否か,②Cに対する説明の後,被告人に報告したのか否か,という点で
ある(以下,「相反部分①」などという。)。
以下,この点を中心に,捜査供述の特信性について検討する。
3外部的情況について
弁護人は,Dの捜査供述は,逮捕をおそれていた上,記憶があまりないDに
対し,検察官による強圧的な追及,誘導がなされたことによるもので,外部的
事情から特信性がない旨主張する。
そこで,取調べ状況について検討する。
(1)取調べについて
ア取調べ状況等
Dは,5月26日に,P4から在宅で取調べを受け,相反部分①の記載
がある供述調書(甲13)が作成された。同日,前記取調べ後,Dは,厚
労省の企画課長補佐Jから,取調べの状況等について事情聴取を受け,J
により,後記の事情聴取書が作成された。
同月27日,Dは,P9による取調べを受け,相反部分②の記載がある
供述調書(甲14)が作成された。
イ争点についての検討
(ア)Dは,前記相反部分について,「自分の口から話したことはなく,
取調官が言ったことは事実と思い,そのまま認めてしまった部分があるかと
思う。」,「細かい部分を確認しないまま供述調書に署名,指印又は押印し
てしまったと思う。」などと供述する。また,Dは,「5月26日に『自分
は捕まらないですよね。』とP4に聞いたところ,『そうはならないと思う
けれども,ここで洗いざらい何でも言ってくれないと,どうなるか分からな
い。』などと言われた。」旨供述する。これに対し,P4,P9は,Dが供
述したことを調書に記載した旨供述する。
そこで,この点について検討する。
(イ)一件記録によれば,Dは,5月26日の取調べ後,厚労省において
Jによる事情聴取を受け,Jは事情聴取書を作成した。これには,Dか
らの聞き取り内容として,「平成16年2月に国会議員から被告人あて
aの相談に乗ってほしいという依頼があり,直接的には企画課のF総括
補佐から自分あてに依頼があったと記憶。」との記載がある。
前記事情聴取書は,記載の体裁からすると,Jが捜査とは関係なく,
Dから聴取した,取調べにおけるP4の質問とDの答えを,基本的には
そのまま記載したものであると認められる。事情聴取は正確に取調べ状
況を聴取することが目的とされていたと考えられる上,Jは,厚労省関
係者とはいえ,本件に直接関係ある者ではなく,特段Dから聴取した事
柄と異なる内容を記載する事情も窺われないことからすると,事情聴取
書に記載されている事柄自体は,JがDから聴取したものと考えられる。
そして,前記の記載以外の事柄については,「このやりとりにかなり
の時間を要した。障害者団体の方がそのような供述をしているような検
事の口ぶりだった。」,「携帯の着信記録を見られた。」といった取調
べ状況や取調べに対するDの感想とみられる記載があるにもかかわらず,
取調べ時に記憶がなかったことを供述したとか,取調べに対する不満を
示すような記載はみあたらない。
したがって,Jによる事情聴取においても,前記の記載部分の内容を,
特に不満を述べることなく,取調べの際の発言として,DがJに対して
報告したとみられる。
(ウ)また,本件請求に係る各供述調書が作成された時点において,相反
部分に該当するような内容が記載された他の関係者の供述調書はみあた
らない。相反部分の中核は,いずれも,関係者とのやりとり等に関する
供述であり,取調べ時点において押収されていた客観証拠等から直接に
導かれるような内容のものでもない。したがって,Dに対する取調べ時
において,取調官が,他の供述や証拠を示すなどして,相反部分の中核
について,決めつけるような形で限定的に誘導することができるような
状況であったとは認められず,少なくとも,相反部分に関して,そのよ
うな誘導がなされたとは認められない。
(エ)更に,5月26日の取調べにおいて,Dが記憶にないと述べたのに
対し,P4が,ある程度追及的な取調べを行ったことはP4自身も認め
ているものの,それによって,供述が覆った部分には,Cと面談したこ
と等,公判廷においても供述を維持している部分も含まれているのであ
り,そのような追及によって,取調べ時の認識と全く異なる供述調書が
作成されたともみられない。
(オ)以上からすると,Dが,逮捕をおそれ,記憶があまりない事項につ
いて,取調官による追及や誘導により供述したものとはみられない。
ウ小括
以上検討したとおり,Dの取調べには,特段の問題があるとはいえない。
(2)公判供述の状況について
ア検察官の主張
検察官は,①Dは,現職の厚労省職員であり,被告人とかつて部下と上
司という関係にあり,逮捕当時,厚労省の要職にあった被告人の面前では
供述しがたかったこと,②Dは,今後予定されている厚労省関係者の証人
等にも配慮せざるを得ない状況にあった旨主張する。
そこで,この点について検討する。
イ検討
Dは,証言時点において,厚労省の地方局に勤務しており,また,企画課に勤務
していた際,被告人と,上司と部下という関係であったという事情に鑑みると,一
般的には事実を否認している被告人の面前で被告人に不利な供述をなしにくいとい
う状況があるといえる。
また,Dは,取調べ時の供述経過に関して,「Aが逮捕された直後のP4からの
取調べで,当初,(Cと)最初に会ったときの状況を思い出せと強く言われたが,
午前中の段階では余り覚えていないと答えていた。午後,P4から,社会参加推進
室に企画課の誰かが呼びに来たのではないかと言われて,少し記憶がよみがえっ
た。」とも供述するが,P4は,午前の段階でFが呼びに来たこと等も含めて供述
が出たことから,昼休みの間にFも呼び出すよう主任検事に打診したと供述してお
り,P4の供述は,Fが,公判で5月26日の午前中か昼くらいに厚労省から検察
庁に行くように連絡があったと供述していることとも符合する。
これに対し,上記Dの供述部分は,これに反する。
ウ小括
したがって,Dの取調べに関する公判供述には,信用性判断を慎重になすべき事
情があると認められる。
(3)外部的情況からの検討
以上によれば,外部的事情という観点から検討した場合,取調べ状況には
大きな問題があるとまではみられないのに対し,取調べに関する公判供述は,
その信用性を慎重に判断すべき一定の事情が存する。
したがって,外部的事情という点からみた場合,捜査供述に特信性を肯定
できる事情があるといえる。
4内容面について
一件記録に照らして外部的事情を推認する限度で内容面を検討しても,証拠
能力レベルで捜査供述に特信性を特段否定するような事情はみあたらない。
5結論
以上によれば,供述の信用性判断は別個の観点等もふまえてなされるものの,
Dの検察官調書には,刑訴法321条1項2号にいう特信性は認められる。
よって,検察官請求の各検察官調書(甲13,14)を採用する。
第3Eの検察官調書(甲19,20,92ないし94,96,97)について
1当事者の主張の概要
検察官は,証人Eの公判供述(第5回公判)と検察官調書(甲19,20,
92ないし94,96,97。6月30日付け2通,5月29日付け,30日
付け,6月15日付け,21日付け,25日付け)には,相反性があり,検察
官調書には次のような点から特信性があると主張する。Eは,公判において,
被告人との人間関係,厚労省関係者やIへの配慮,自己に対する刑事責任の追
及や周囲からの非難等を免れたいという自己保身から公判では真実を供述する
ことが困難であったのに対し,捜査段階においては,暴行脅迫もなく,外部的
に特信性のある情況で検察官調書は作成されている(弁護人主張のように,P
4がEに対し,交信記録が存在するなどといったことはない。)から,外部的
事情から検察官調書には特信性がある。また,公判供述は,内容が不自然不合
理であって,Iからの電話の記憶の有無について,あいまいな供述をしており,
捜査段階の供述と変わった理由についての供述も不自然であるのに対し,検察
官調書の内容は,5月29日以降,自発的に供述しており,供述の撤回等なく,
内容が具体的,迫真的,自然で,他の証拠とも整合することなどから,内容的
にも特信性がある旨主張する。
これに対し,弁護人は,①本件取調べは,Eに対する別件収賄をにおわせて
の取調べと並行してなされたもので,Eは,検察官に迎合し,自己への追及を
避けたいと考えていたこと,②Eは,当時,日常的に国会対策として,議員か
ら様々の頼まれごとを引き受け,部下に処理を指示していたもので,Iから厚
労省に対し要請があったとすれば,自分が窓口になったとの思い込みがあった
こと,③公的証明書発行についての報告をIにしたことについては,P4が電
話の交信記録が存在するとして追求したので,それを前提に供述したことなど
から,Eの検察官調書に特信性は認められないと主張する。
そこで,この点について検討する。
2相反性について
Eの公判証言と検察官調書の相反性について検討すると,相反性が認められ
る部分の中核は,①2月下旬ころ,IからEに電話があったのか否か,電話が
あったとして,その会話の内容,特に,郵政の割引に関し,公的証明書を発行
して欲しい,Cを行かせるのでよろしくなどと依頼を受けたのか否か,②その
後の被告人への指示の有無,内容,その後にCと会ったか否か,③6月上旬こ
ろ,被告人から公的証明書を出すことになったと報告を受けたか否か,その際
の会話内容,これをEがIに連絡したか否かという点である。
3外部的情況について
(1)取調べについて
Eは,5月29日からP4の取調べを受けたが,当日,相反部分①,②の
前半部分の記載がある供述調書が作成された。そして,5月30日にも取調
べを受け,相反部分②の後半部分,③の記載がある供述調書が作成された。
その後も,Eは,P4の取調べを受けて,供述調書が作成されたが,前記相
反部分の中核は,5月29日,30日付けの供述調書と同旨のものであった。
そこで,両日の取調べ状況を中心に検討する。
ア相反部分①について
2月下旬ころ,Iからの依頼が厚労省側にあったこと,これが「a」の
Cに対する低料第三種郵便物の公的証明書発行に関する依頼であったこと
について,5月29日のEの取調べ時点で,D,F,Gの供述調書にはほ
ぼこれに沿った内容の供述が得られていた。よって,これらの者の上司の
1人であるEが直接Iから依頼を受けたものである可能性が推測され,そ
うであれば,P4は,5月29日の段階で,Eからこのような供述を得よ
うとする意図があったことは推認できる。
他方,この段階で,Iから直接依頼を受けたのは厚労省側の誰であった
のかについて,特定する資料があったとまでは認められない。また,Eは,
「当時の状況,I先生が絡んだ案件だということで報道され,係長が既に
逮捕されてる状況の中で,私が政治案件,国会対策を,一手に引き受けて
やっていたし,Iとも親しい関係であったことから自分が電話を受けたと
思い,そのような供述をした。」と述べている。
そうすると,P4が上記関係者の供述調書の内容をEにあてるなどして,
Iから直接依頼を受けたのがEであるとの供述を得たという経緯は認めら
れない。
なお,Eは,相反部分①に関連して,実際の記憶にあったのは,国会の
秘書らしい人物が来て,あいさつするなど丁寧に対応したということくら
いで,あとは,自分で思いこんでいたものであるなどと述べ,弁護人も,
Eの捜査供述は報道等の影響を強く受けていたと主張する。
しかし,報道等の影響があったとしても,Eは,5月29日の取調べを
受ける直前に,当時の部下であるK,L,Mと話をした際,同人らはEか
らこの案件を頼まれてはいないと述べているのを聞いたというのであり,
Eが,自己の記憶に基づく供述をすることが困難であったとまではみられ
ない。また,本件では検察官がこれについて誘導を行ったという形跡もう
かがわれず,検察官とのやりとりの中で自己の記憶が変質したということ
も認められない。
以上によれば,Eは,自ら頭の中で想像したのか,記憶をそのまま述べ
たのかはともかく,2月下旬ころ,IからEに電話があったこと,その際,
Iから身体障害者団体の郵政の割引に関し,公的証明書を発行して欲しい,
Cを行かせるのでよろしくなどと依頼を受けたことを,自ら供述したもの
とみられる。
弁護人は,5月29日の取調べの前日に,Eは捜索を受けており,金品
類を押収し,翌日に,本件と並行して収賄に関する取調べや調書作成も行
ったのであるから,これによる逮捕等のおそれなどの萎縮が認められ,こ
れにより検察官に迎合して供述したものであると主張する。
一般的には,そのような可能性も想定はできる。
しかし,Eは,本件で「逮捕されるかもしれないという恐怖感はあっ
た。」と述べる一方で,金品の授受については,知人から個人的な関係で
もらったもので社会的に非難されるとしても,違法なことではない旨述べ
ており,収賄関係よりも本件による被疑者として取調べを受け,逮捕のお
それを抱いていたとみられるから,収賄による逮捕の萎縮のもとに当然に
検察官に迎合して虚偽の供述をしたとまでは認められない。
また,弁護人は,Eは,自らへの追及を避けたいと考え,検察官に迎合
したと主張する。確かに,Eは,Iからの依頼を被告人に伝えたというこ
とであると,共犯者とされるおそれも想定でき,それを防止するため,検
察官に迎合する可能性はある。しかし,前記のように,検察官は,関係者
の供述からも誰がIから依頼を受けたのかまでは確定的に把握していなか
ったのであり,Eは,自らへの追及を避けるため,記憶がないという供述
も可能であった。
よって,検察官への迎合から当然に上記事実を認めたものともいえない。
イ相反部分②について
検察官は,5月29日の時点で,関係者の供述から,被告人の関与があ
ったとの供述を得ており,また,相反部分①でIから依頼を受けたのがE
であることが明らかになったことから,Eと被告人との指示を追及するこ
とができる状況になっていたものであり,この点については,相応の誘導
がなされる可能性はあったといえる。
しかし,Eは,公判証言において,具体的な記憶はないものの,このよ
うな案件であれば通常のこととして,当然,被告人に伝えているはずであ
るとも述べている。特段,検察官がこの点に関して不当な誘導等を行った
とまではうかがわれない。
ウ相反部分③について
Eが,6月上旬ころに,被告人から公的証明書を出すことになったとの
報告を受け,これをEがIに連絡したとの供述が,Eから初めてなされた
のは,5月30日である。
この点について,弁護人は,EはP4から電話の交信記録(電話会社の
通信履歴)があることを前提に追及されたため,これを認めるに至ったも
のであると主張し,Eも,その旨,供述する。そして,この時点で検察官
はこのような「交信記録」を得ていた事実はないのであるから,Eの公判
証言が真実であれば,P4が不当な手段による誤導を行ったことになる。
しかし,5月30日の段階でEがIに電話をしたことを認める検察官調
書が作成されているのに,Eは,その公判証言において,交信記録の存在
を聞いたとする時期を特定できない旨の供述もしている。また,Eは,
「出口」(Iへの報告)のところは,「もし私が報告を受けたとなると,
被告人に関わったことが確定的な話になるので,何度も『交信記録』の有
無を確認したが,結局『交信記録』なるものは検察官から一度も見せて貰
えなかった。」と述べている。そうであれば,「出口」を認めず,あるい
は前言を撤回することも可能であったはずであるのに,P4に対し,この
ようなことをした形跡はない。
他方,P4は,Eの取調べの最終段階で,「Eは,私の話だけが何か決
定的な証拠として,被告人が起訴されるのか,自分の話を何か客観的に裏
付けるような証拠は,とりわけ,Iとのやり取りが分かるような,『交信
記録』みたいなものがないのかということを聞いてきたが,どういう証拠
があるのかというのは,あなたは事件関係者なので教えることはできない
と言った。」と述べている。この供述は,Eが,本件に関し,公判で証言
する場合に,被告人やI,厚労省関係者から強い反感を受けることが予測
されることや,Eが「交信記録」を見ないまま供述をしたこととも整合し
ており,これ自体は必ずしも不自然なものではない。
また,P4が,取調べ中に「議員の方で電話の受付簿をつけたりしてい
る人もおられますから」と述べたとみられること(第14回公判59頁)
が,Eがこれを誤解した可能性はある。しかし,上記のとおり,この会話
は,EがIに電話をしたことを認めた後,再確認した際の言葉であるとみ
られるから,P4が虚言を述べてEがIに電話をしたことを認めさせたこ
とに直接つながらない。
さらに,P4は,E供述を前提とすると,明らかな虚偽事実を述べて,
Eに供述を迫ったことになるが,この時点で,そのような方法をとってE
から出口供述を取得する必要があるとはみられず,また,このような明ら
かな虚偽事実をもとに供述を求めることは,発覚の可能性も高いものであ
るともみられる。
以上によれば,Eが供述するように,P4が交信記録があると虚偽の事
実を述べて,Eに供述させたものとまではみられない。
エ小括
以上によれば,Eの取調べ状況に大きな問題があるとまではみられない。
弁護人は,本件は,取調べがなされる5年も前のことであり,取調べ時
点で,記憶があいまいになっていた上,当時の部長であったEには,国会
議員との対応は往々にしてあることであったから,思いこみ等の供述をす
る可能性があった旨主張する。
しかし,そのような事情は,証拠能力レベルの問題ではなく,供述の信
用性判断で考慮すれば足りるものと解せられる。
(2)公判供述の状況について
ア検察官の主張
検察官は,①Eは,被告人とかつて上司と部下という関係にあり,その
後も親密な関係を維持していたもので,将来を嘱望され,逮捕当時,厚労
省の要職にあった被告人の面前では被告人に不利な供述をしがたかった,
②Eは,元々厚労省のキャリア職員で,証言当時も独立行政法人の理事の
職に就いていること,Aが捜査段階の供述を翻していたことを知っており,
今後出廷予定の厚労省関係者の証人に配慮せざるを得ない状況にあった,
③Iにも配慮せざるを得ない状況にあった,④自己に対する刑事責任の追
及や周囲からの非難等を免れたいという自己保身の意識が働いたことなど
から,Eは公判で真実を供述しえない状況にあった旨主張する。
そこで,この点について検討する。
イ検討
一件記録によれば,Eは,本件捜査後,独立行政法人b機構を退職し,証人尋問
当時は無職であったことが認められ,検察官主張の本件証言当時,Eは上記法人の
理事であった旨の主張は採用できない。また,検察官は,Eを起訴していないので
あるから,証人尋問当時,自己に対する刑事責任の追及を免れる目的があるとは認
めがたい。
しかし,Eは被告人とかつて上司と部下という関係にあったもので,事実を否認
している被告人の前で被告人に不利な事実を証言しづらいということは一般には想
定できる。また,Eは,捜査段階と異なる供述を公判でなす理由として,前記交信
記録の件の他,Eの尊敬する先輩から,今年に入ってから,「I事務所の秘書を通
じて聞いたら,IはEなんか知らない。電話なんかしていないと言っている。」と
聞いたこと,今年に入って新聞報道によると,(A)係長も供述を翻したという話
を聞いたこと,弁護人と会った際,公判でCは私に会っていないという話をしてい
ると聞いたことなどを挙げる。すなわち,Eは,関係者の話,新聞報道,公判での
他人の供述状況などを基にして,それらが真実であることを前提にして自己の供述
を変更したものと認められる。Eの公判供述は,これらの点の影響によるものとみ
られ,その供述の信用性を基礎づける事情があるとはみられない。
(3)外部的情況からの検討
以上によれば,Eの取調べ状況に大きな問題があるとはみられないが,公判供述に
は,信用性に一定の疑問を生じさせる状況が存するといえる。
したがって,外部的情況のみからの検討によれば,特信性を肯定できる事情がある
といえる。
4内容面について
弁護人は,Eの公判供述の内容が供述の外部的事情を推認させる資料として特段の
意味があるとの主張はなしておらず,このような意味があると認めるに足る事情は窺
えない。
5結論
以上によれば,供述の信用性判断は別個の観点等もふまえてなされるものの,
Eの検察官調書には,刑訴法321条1項2号にいう特信性は認められる。
そこで,その余の点について検討すると,甲19,20号証の検察官調書は,
相反部分の記載があり,必要性も認められるが,本件請求に係るその他の供述
調書(甲92ないし94,96,97)は,実質的にはそれとほぼ重複するも
のであり,必要性は認められない。
第4Fの検察官調書(甲21,109,110,125)について
1当事者の主張の概要
検察官は,証人Fの公判証言(第10回公判)と検察官調書(甲21,10
9,110,125。6月17日付け,5月26日付け,6月1日付け,17
日付け)には相反性があり,また,検察官調書には特信性があると主張する。
検察官は,特信性について,Fは,公判において,被告人や厚労省及びその関
係者への配慮等から,真実を供述することが困難な情況にあったのに対し,捜
査段階においては真摯に真実を供述することができる情況にあり,外部的事情
から特信性があると共に,公判供述の内容は,あいまいで終始一貫しない内容
であるのに対し,検察官調書の内容は,具体的で,自然かつ合理的であり,取
調官が誘導できない内容を供述しており,他の証拠とも整合することなどから,
内容的にも特信性がある旨主張する。
これに対し,弁護人は,Fの捜査供述は,検察官の強圧的な取調べや暗示,
誘導によるものであり,公判供述には,被告人への配慮と評価されるものはな
く,外部的事情から特信性はない上,内容面からも,Fの検察官調書には不自
然,不合理な点があり,特信性はないと主張する。
2相反性について
Fの公判証言と検察官調書の相反性が認められる部分のうち,中核的な点は,
①2月下旬ころ,被告人から,「Iの事務所から,Iの秘書のCが,障害者団
体を作り低料第三種郵便を使いたいので,公的証明書を発行して欲しいと頼ま
れているが,誰が担当しているのか。」と尋ねられ,これに関する会話をし,
その数日後,Cが訪ねてきて,被告人のデスクで,被告人と共にCとあいさつ
したことがあったか否か,②6月上旬ころ,Gから,「Iから頼まれていた
『a』の案件は,Aが,被告人なんかと相談して,うまく処理してくれたよう
で,公的証明書を発行することになった。」などと報告を受けたことがあった
か否かである。
3外部的情況について
弁護人は,Fの捜査供述は,Fに対し,検察官による精神的圧迫,偽計を用
いた誘導がなされたことによるもので,外部的事情から特信性がない旨主張す
る。
そこで,取調べの状況について検討する(なお,同様の事柄が,異なる供述
調書に記載されている場合もあるが,その場合,その事柄について,初めて供
述がなされた際の状況が重要であるので,その時点での取調べの状況を検討す
る。)。
(1)取調べについて
Fは,5月26日にP4の取調べを受け,相反部分①の記載がある供述調
書が作成され,27日にP8の取調べを受け供述調書が作成され,6月1日
にP4の取調べを受け,相反部分②の記載がある供述調書が作成された。F
はその後も検察官の取調べを受けたが,その際作成された供述調書には同趣
旨の記載がなされている。
ア取調官による偽計的言動の存在の有無
(ア)Fは,5月26日の取調べにおいて,P4から,①社会参加推進室
の人で,当日の私の供述調書に記載されているような内容をはっきり覚
えて供述している人がいる,②Cが私の名刺を持っていると言われたと
供述しており,弁護人は,これらの言動は偽計に当たると主張する。
また,Fは,6月1日の取調べにおいて,P4から,GがFに対し,
「うまく処理できました。」という趣旨のことを報告したと供述してい
ると告げられ,同日付けの供述調書に記載されているGの発言内容は,
P4から告げられていたものである旨供述する。
これに対し,P4は,偽計や脅迫的言動・誘導をしてはいない旨供述
をしている。
そこで,これらの点について検討する。
(イ)まず,①の点について検討する。P4は,5月26日,DがFの取
調べ前に既に取調べを受けていたこと,Fが本件に何らかの関与をして
いることを示す発言をDがしていることを暗に示した発言をしたこと自
体は認めており,①の「社会参加推進室の人」とはDのことであると考
えられる。
そして,この時点で,DがFから呼ばれてCが来た際の対応を指示さ
れた旨が記載された5月26日付けのDの供述調書が作成されていたの
であり,そのような供述が得られている旨を告げること自体は,少なく
とも偽計とまではいえない。
(ウ)②の点について検討する。P4に対しては,公判で,検察官,弁護
人からCがFの名刺を所持していたことをFに告げたかという関係の質
問はなされていない。しかし,P4は,Fに具体的な状況を聞いていっ
たところ,5月26日付け供述調書に記載されているような内容を供述
したと述べており,偽計的手段で取調べをしたことは否定する趣旨であ
るとみられる。
Cが所持していた名刺の中に,Dの名刺はあったが,Fの名刺はなかっ
たこと,Cの供述調書にもFとの名刺交換の事実は出ておらず,P4もこ
れを認識していたとみられること,相反部分①の関係の事実はDの検察官
調書に既に出ており,これをあてる以外に,あえてFの名刺をCが所持し
ていたという明らかな虚偽事実をP4がFに述べて供述を迫る必要はない
とみられること,5月26日付け検察官調書は,相反部分①のうちI事務
所からの事前連絡がありFが被告人と会話したことがほぼ3分の2を占め
ており,その関係では,Fの名刺交換は大きな意味を有するものではない
ことなどに照らすと,P4がFに対し,CがFの名刺を所持していると述
べて供述を求めたものとはみられない。
(エ)よって,取調官が偽計的言動を用いて,供述調書を作成したとは認
められない。
(オ)次に,6月1日に,P4がFに対し,Gの供述内容を告げたか否か
について検討する。一件記録によれば,6月1日までに,同様の内容が
記載されたGの供述調書は作成されておらず,また,6月1日時点まで
にGが,そのような内容を供述していたという事情も窺われない(P4
も,6月1日の時点で,向けるべき供述はなかったと供述しており,当
該供述は,そのような事情と合致する。)。
したがって,P4が,同日の取調べにおいて,Fに対し,少なくとも,
Fが供述するような強い誘導をなしたという事実までは認められず,F
の供述はこれに反する。
イ脅迫的言動の有無
Fは,5月26日の取調べにおいて,「そんなんだったら,1泊でも2
泊でもしていくか。」という言葉や,「特捜をなめるんじゃない。」とい
う趣旨の言葉を言われたり,大きい声を出されるなどしたこともあり,最
終的に署名したと供述する。これに対し,P4は,これらの事実を否定す
る。
Fのこれらの言動があったとの供述は,最終的に,そのような趣旨の発
言があったと思うというあいまいなものになっており,必ずしも確定的に
なされたものとして供述しているものではないとみられる。これに対し,
P4は,Dに対しては,ある程度追及的な言動を取ったことを認めながら,
Fに対しては,そのようなどう喝をする必要はなかった旨供述しており,
これらの供述は特に不自然,不合理な点は認められない。
したがって,P4が,5月26日の取調べにおいて,少なくとも,Fを
脅迫して,供述調書を作成したとは認められない。
ウその後の調書について
なお,6月17日付け供述調書は,それまでに作成された供述調書をまと
めたもので,前記中核的相反部分については,特段の変更はない。
エ小括
以上検討したとおり,Fの取調べには,特信性判断という観点からは,
大きな問題はあるとはいえない。
(2)公判供述の状況について
ア検察官の主張
検察官は,①Fは,被告人とかつて部下と上司という関係にあり,逮捕
当時,厚労省の要職にあり,事実を否定している被告人の面前で真実を供
述しがたかったこと,②Fは,厚労省関係者の証人等にも配慮せざるを得
ない状況にあったこと,③自己の刑責や周囲からの非難を免れることに対
する配慮の必要を主張する。
そこで,この点について検討する。
イ検討
一件記録によっても,検察官主張中②,③の事情があるとは認められない。
そして,Fは,平成17年3月に厚労省を退職し,厚労省が所管する協会である
c協会に就職し,同協会定年退職後,d病院で勤務しており,証言時点において厚労
省職員ではない。しかし,Fは被告人との間で,かつて部下と上司という関係にあ
ったもので,事実を否認している被告人の前で被告人に不利な事実を証言しづらい
ということは一般には想定できる。
Fの自らの取調べ状況に関する供述には,被告人に対する配慮に起因するとも考
えられる点もみられ,Fの公判供述の信用性に一定の疑問を生じさせる事情とみる
ことができる。
(3)外部的情況からの検討
以上によれば,外部的事情という点からみた場合,検察官調書については,
特信性を肯定できる事情があるといえる。
4内容面について
一件記録に照らして外部的事情を推認する限度で内容面を検討しても,証拠
能力レベルで特信性を否定するような事情はみあたらない。
5結論
以上によれば,供述の信用性判断は別個の観点等もふまえてなされるものの,
Fの検察官調書には,刑訴法321条1項2号にいう特信性は認められる。
そこで,その余の点について検討すると,甲21号の検察官調書は,相反部
分の記載があり,必要性も認められるが,本件請求に係るその他の供述調書
(甲109,110,125)は,実質的にはそれとほぼ重複するものであり,
必要性は認められない。
第5Gの検察官調書(甲22,107,108)について
1当事者の主張の概要
検察官は,証人Gの公判証言(第13回公判)と検察官調書(甲22,10
7,108。6月7日付け,5月28日付け,6月17日付け)には相反性が
あり,また,検察官調書には特信性があると主張する。検察官は,特信性につ
いて,Gは,公判において,被告人や厚労省及びその関係者への配慮等から,
真実を供述することが困難な情況にあったのに対し,捜査段階においては真摯
に真実を供述することができる情況にあり,外部的事情から特信性があると共
に,公判供述の内容は,あいまいで終始一貫しない内容であるのに対し,検察
官調書の内容は,具体的で,自然かつ合理的であり,取調官が誘導できない内
容を供述しており,他の証拠とも整合することなどから,内容的にも特信性が
ある旨主張する。
これに対し,弁護人は,Gの捜査供述は,検察官の脅迫や暗示,誘導による
ものであり,公判供述には,被告人への配慮と評価されるものはなく,外部的
事情から特信性はない上,内容面からも,Gの検察官調書には不自然,不合理
な点があり,特信性はないと主張する。
2相反性について
Gの公判証言と検察官調書とに相反性があることは明白であるが,その中核
的な点は,①2月下旬ころ,Fから呼び出されて,L,Dと共に企画課長席の
ところまで行き,そこで被告人からCを紹介され,同人とあいさつをし,その
後,L,Dと共に,Cに対し,公的証明書の手続等についての説明をしたのか
否か,②その後,被告人に対し,Cに対する説明が終了したことの報告をし,
その際被告人から,「ちょっと大変な案件だけど,よろしくお願いします。」
と言われたのか否か,③3月中旬ころ,被告人から,本件についての進捗状況
を確認され,eとの間で調整中であり,未だに発行申請や資料が提出されてい
ない旨告げたのか否か,また,Dに対し,後任に引き継ぐよう指示したのか否
か,④4月上旬ころ,Aに対し,引き継ぎ状況等を確認したのか否か,⑤5月
中旬ころ,Aから,「a」から資料等の提出がないことから,決裁を上げるの
は難しい状況である旨の報告を受けたことから,Mとともに,被告人にその旨
を報告し,被告人から,さらに調整を進めるよう指示を受け,それをAに伝え
たのか否か,⑥6月上旬ころ,Aから,「a」の件は調整がついて終わった旨
の報告を受けたのか否かである。
3外部的情況について
弁護人は,Gの捜査供述は,本件に関する記憶のないGに対し,検察官によ
る誘導,脅迫がなされたことによるもので,外部的事情から特信性がない旨主
張する。
この点について,Gは,「自己の供述調書に記載された内容については,当
時から記憶はなかった。検察官から,こうではなかったかと質問され,記憶は
なかったが,そういう可能性があるとして話をした。また,P9の取調べでは,
本件について記憶がないと述べると,机をたたいて,『覚えていないというこ
とはないのではないか。こちらにも考えがある。』などと大きな声で言われ
た。」旨供述している。
これに対し,取調べ担当検察官であったP8は,Gは,「可能性があるとい
う言い方ではなく,確かにそうであると話した。」旨供述する。また,P9は,
「こちらにも考えがある。」と述べたことはない旨供述する。
そこで,以下,この点について検討する。
(1)取調べについて
Gは,5月26日にP8の取調べを受けたが,本件について記憶にない旨
供述し,当日供述調書は作成されなかった。5月28日にP8の取調べを受
け,相反部分①,②の記載がある供述調書が作成された。6月1日にP9の
取調べを受け,相反部分③ないし⑥の記載がある供述調書が作成された。G
はその後も検察官の取調べを受けたが,その際作成された供述調書には同趣
旨の記載がなされている。
アP8は,5月26日の取調べにおいて,本件について,記憶にないと供
述していたGに対し,相反部分①に関するDの供述をGにあて,5月28
日の取調べにおいて,相反部分②に関するDの供述をあてた旨供述してい
る。相反部分①,②に関するGの供述は,5月26日付け及び5月27日
付けのDの供述調書の内容を告げたことによる影響を受けてなされたこと
は否定できない。
しかし,一件記録によれば,前記相反部分③の一部,④ないし⑥につい
ては,Gの当該供述がなされた時点で,同様の内容が記載された他の関係
者の供述調書はみあたらず,また,供述がなされていたという状況も窺わ
れない。よって,これらについては,他の供述などをもとに検察官が誘導
して供述させたものとはみられない。
イP9は,「6月1日の取調べにおいて,Gに対し,Aに引き継がれた後
の状況について聞いたところ,『a』の案件は終わったものだと思ってい
たと供述した。それに対して,私が,決裁をしていないのに終わった理由
をちゃんと説明して欲しいと言っても,終わったと思っていたとの答えの
繰り返しだった。そこで,私は,『ちゃんと説明して欲しい。』と大きな
声で言いながら,机を一回たたいた。そうしたところ,平成16年6月上
旬ころに,Aから,調整がついて終わったという報告があったので,この
件については終わったと思っていたと供述した。それに対し,私は,報告
があったということはそれまでにも何かやりとりがあったのではないかと
聞いたところ,5月ころに,一度Aに進捗状況を確認したことがあり,そ
の際,『a』から何も提出がないという報告があり,それをMと相談して
被告人に報告しにいったとの供述をした。」旨供述している。その経過自
体は不自然なものとはいえない。
なお,P9は,取調べで「こちらにも考えがある。」などとは言ってい
ない旨供述する。しかし,当時,P9が,机をたたき大声を出したことは
明らかであり,そのような状況下で,そのようなことをいうこと自体は不
自然なことではなく,この点に関する前記Gの供述を排斥することはでき
ない。
しかし,Gは,P9が,机をたたいた点について,「怖いという受け止
め方はしなかった。」旨供述しており,P9が机をたたいたことなどがG
が⑤,⑥の供述をなしたことに直接結びつくものとはいえない。
ウGの供述調書には,Cに公的証明書の発行手続について説明した際に,
Cに対して,任意団体で定款がないときには団体の設立趣意書を出してほ
しいといった補足的説明をしたなどという記載もあるが,このような記載
は捜査官が誘導して供述させたものとはみられない。
Gは,供述調書の多くの部分について,なぜ,そのような内容の供述調
書が作成されたのか思い出せない旨供述しており,供述自体にあいまいな
点がある。
エ他方,検察官は,P8は,Lについて,同人が本件について記憶がない
旨の供述調書を作成しており,P8は,相手方の記憶に従って供述調書を
作成しているものであるから,P8がGに対しても,供述を押しつけるよ
うな取調べや供述調書の作成をしていないことは明らかである旨主張する。
しかし,関係証拠によれば,P8は,5月26日,同月29日,6月1
日にLを取り調べ,Lはaについても,Cと会ったことについても記憶が
ないと供述したが,P8はその旨の検察官調書を作成しなかったこと,P
8は,被告人の逮捕勾留後の6月19日にもLを取調べ,Lはいずれも記
憶がないと供述したところ,P8はようやくその旨の検察官調書を作成し
たことが認められる。以上によれば,P8は,Lを3回にわたって取り調
べ,Lがいずれもa,Cについて記憶がないと供述していたにもかかわら
ず,その旨の供述調書を作成せず,4回目にしてようやく供述調書を作成
するに至ったもので,その経緯に照らすと,検察官の意向に添う供述をな
すまでは容易に供述調書を作成しないという様子がみられるもので,最終
的に記憶にない旨の供述調書が作成されたこと自体は,供述を押しつける
ような取調べが行われなかったことに結びつくものとはいいがたい。
オ以上によれば,Gの捜査供述の一部(相反部分①ないし③)については,
取調官による誘導による影響の可能性は否定できないものの,相反部分④
ないし⑥についてはそのような事情があったとまではみられず,また,P
9が机を叩いたこと自体は直接⑤,⑥供述をなしたことに結びつくものと
はみられない。
その一方,Lの供述調書の作成経緯からも明らかなとおり,検察官はそ
の意向に添う供述をするまではなかなか供述者が供述する内容の供述調書
を作成しないなどの事情は認められる。
(2)公判供述の状況について
ア検察官の主張
検察官は,①Gは,厚労省所管の財団法人職員であり,被告人とかつて
部下と上司という関係にあり,逮捕当時,厚労省の要職にあった被告人の
面前では供述しがたかったこと,②Gは,既になされていた厚労省関係者
やI,証人尋問の結果等にも配慮せざるを得ない状況にあったこと,③自
己の刑責や周囲からの非難を免れることに対する配慮の必要を主張する。
そこで,この点について検討する。
イ検討
一件記録によっても,検察官主張中②,③の可能性が高いものとは認められない。
そして,Gは,平成20年3月に厚労省を退職し,厚労省所管の財団法人fに勤務
していたもので,証言時点においては,厚労省の職員ではない。しかし,Gは,被
告人との間で,かつて部下と上司という関係にあったもので,事実を否認している
被告人の前で被告人に不利な事実を証言しづらいということは一般には想定できる。
また,Gの公判での取調べ状況や供述調書の内容に関する公判供述には,あいま
いな点が多く,その供述態度には,問題がないとはいえない。
(3)外部的情況からの検討
以上によれば,検察官の取調べには,一部誘導があり,また,検察官の意向
に沿う供述がなされるまで,供述者の供述調書をなかなか作成しないなどの問
題がある一方,公判供述にも各種問題があり,外部的事情という点からみた場
合,証拠能力レベルでは検察官調書については,特信性を肯定できると解され
る。
4内容面について
一件記録に照らして外部的事情を推認する限度で供述調書の内容面を検討し
ても,証拠能力レベルで供述調書の特信性を特段否定するような事情はみあた
らない。
5結論
以上によれば,供述の信用性判断は別個の観点等もふまえてなされるものの,
Gの検察官調書には,刑訴法321条1項2号にいう特信性は認められる。
そこで,その余の点について検討すると,甲22号の検察官調書は,相反部
分の記載があり,必要性も認められるが,本件請求に係るその他の供述調書
(甲107,108)は,実質的にはそれとほぼ重複するものであり,必要性
は認められない。
第6Hの検察官調書(甲29)について
1当事者の主張の概要
検察官は,証人Hの公判証言(第7回公判)と検察官調書(甲29。6月2
日付け)には相反性があり,また,検察官調書には特信性があると主張する。
検察官は,特信性について,Hは,公判において,自己の刑事責任やBへの配
慮等から,真実を供述することが困難な情況にあったのに対し,捜査段階にお
いては,外部的に特信性のある情況で検察官調書は作成されていると共に,公
判供述の内容は,あいまいで,不自然,不合理であるのに対し,検察官調書の
内容は,具体的で,自然かつ合理的であり,自己に不利益な事実も率直に供述
しており,他の証拠とも整合することなどから,内容的にも特信性がある旨主
張する。
これに対し,弁護人は,Hには,Bに配慮したり,自己の刑事責任を考慮し
たりする必要はなく,Hは,検察官の作成した調書に脅迫されて署名したもの
で,その内容も客観的な証拠に矛盾しており,外部的事情からも,内容面から
も,Hの検察官調書に特信性は認められないと主張する。
以下,Hの検察官調書の特信性の有無について検討する。
2相反性について
Hの公判証言と検察官調書とには相反性があることは明白であるが,その中
核的な点は,①2月下旬ころ,Bの指示を受け,Cと共にIを訪ね,厚労省へ
の口利きを依頼したか否か,②その後,eでも,「『a』はI代議士からお墨付
きをいただいている。厚労省担当者にも電話で連絡してもらっている。」など
と説明したか否かという点である。
3外部的情況について
(1)記録上認められる事実
Hは,5月15,16日,被疑者としてP6の取調べを受け,供述調書が
2通作成された。HからI議員への口利きの事実はなかったという内容であ
った。
6月2日,P3は,Hを被疑者として取り調べた。【P3は,「それ以前,
Bの取調べを担当している中で,Bから,eに行ったときに,I先生の力を
使って発行願を出してもらおうという働き掛けをしたという供述を得ていた
こと等,その時点ではAから,Dからの引継ぎ状況の中での話ではあったが,
I議員の口利きのある議員案件だという供述を得ていたので,その点につい
て確認をしようという趣旨であった。」旨供述する。】
Hは,P3に対し,当初,「a」の実態について,障害者を支援するため
に作った団体であって,特定の政治家の口利きを念頭に置いて作った団体で
はないし,低料第三種郵便の制度を悪用しようとして設立した団体ではない
などと言っていた。
P3は,取調べ中,2回から3回ぐらい,ばんばんばんと連続して机を叩
いて大声で怒ったことがあった。
P3は,同日,Hの供述調書を作成した。これには,相反部分①,②の記
載がある。
6月3日,Hは,N弁護士を弁護人に選任し,弁護人選任届を検察庁に提
出した。
Hの弁護人から取調べに関する申入書が検察庁に送付された。これには,
「Hは6月2日にピーサン(以下,P3の姓と同音の記載をこのように呼称
する。)検事の検事の取調べを受け,調書が作成された。調書には,Hが,
Cと共に,I代議士にaの活動について厚労省担当者を紹介することと力添
えを依頼したとの記載がある。Hには,その記憶がなく否定しているのにピ
ーサン検事は勝手に作文した。ピーサン検事の描いたストーリーに反する供
述をすると,テーブルを叩くなどした。Hは,ピーサン検事の言うとおりに
しなければ重大な不利益を被る危惧を感じたため,やむなく調書に署名押印
した。厳重に抗議する。」という内容の記載があった。
P3は,主任検事から申入書がファックスで届いていると見せられた。
同日午後,P3はHを取り調べたが,供述調書を作成していない。
同日,Hは,検察庁内で弁護人の解任届を作成し,検察庁に提出した。
6月4日,P3は,P11特捜部副部長から取調べ状況を聴取された。P
12特捜部長作成の6月4日付け取調べ関係申入れ等対応票には,「P3は,
P11に対して『Hは,検察官の質問に対して真摯に記憶喚起に努める姿勢
を示し,記憶のままに素直に供述しており,“申入書”にあるように,記憶
にない事実を押し付けたり,机を叩く必要はなく,そのような事実はな
い。』旨を述べた。」との記載がある。
(2)取調べに関するP3とHの公判供述
アP3供述
取調べの当初,Hが足を組みながら体を斜めにするようにしていた上,
自分が作成した文書(a設立準備委員会御参集のお願い)の記載について,
何故「g議院議員I代議士の元公設秘書,現相談役であるC」などの記載
があるのか尋ねたのに「分からない。」と述べ,真摯に供述しているとは
感じられなかったことから,2回から3回ぐらいばんばんばんと連続して
机をたたいて大きい声で怒った。すると,Hは姿勢を正して,態度が変わ
った。その後,時系列にしたがっていきさつを聞いていった。
その際,Aが逮捕される事態になってしまって,親も心配しているであ
ろう,その責任の一端は我々にもある,謝りたいなどと言って,Hが涙を
流したことがあった。私が,そういう気持ちがあるならば,事実を隠すの
ではなく,きちんと話してほしいと言うと,その後,Iのところに行った
事実を話すようになった。Hは,すらすらと供述したのではなく,Iにか
かわるHの供述が一通り出るまでに要した時間は,二,三時間ぐらいであ
った。
Hの供述したことを調書に記載した。Hは,署名を拒否したことはない。
6月3日,私は,Hの弁護人からの申入書を確認した。私は,Hに「昨
日の供述調書に何か不満がおありですか,訂正する箇所がありますか。」
と聞いたところ,Hは「ありません。」と答えた。
Hは,私に「今弁護人を解任しても,弁護士費用は発生するんです
か。」と聞いた。私が「解任されるんですか。」と尋ねたところ,「特に
必要ないので解任したい。どういうふうにしたら解任できるんですか。」
と尋ねられた。私は,「検察庁に解任届を書いてもらえば,それで終わり
ですよ。」と教えた。執務室にあった紙を1枚渡して,「一番上に解任届
と書いてもらって,大阪地方検察庁御中,罪名を書いてください。中の文
章は御自身の好きなように書いて,日付と名前と指印若しくは印鑑さえ押
していただければ,それだけで足りる。」と言った。取調室の中で,Hは
解任届を書いた。
イH供述
6月2日にP3の取調べで,Iのところに行ったという話は,検事にし
たことはない。Cの手帳,Oが持っていた私の名刺を見せられ,それらを
基に追及された。
eのOに,Iの名前を出したと,検事に話したことはない。
私が話したことについて,検事は,立ち上がったり,机をたたいたりし,
「いや,そうじゃないんだ。うそをつくな。これが事実なんだ。」と言っ
て,押さえ付けられた。
P3は,供述調書を作った。私がCとIに会ったということが,既成の
事実として書かれていた。その内容は違う。
私は,供述調書に署名捺印する前に,検事に,「それは検事さんの作文
でしょう,私,そんなこと,申し上げてませんよ。」と言ったが,それは
認められなかった。検事は,「いいんだ,いいんだよ,ともかくサインす
れば。」ということで,記名押印した。
6月3日,Bの弁護人のQ弁護士と会った。前日供述調書に書かれた内
容が自分の意思とは反するものであったことから,Q弁護士にそれを話す
と,N弁護士を紹介してくれた。
私はN弁護士に,6月3日午前中に取調べの状況について話しをした。
N弁護士は,申入書を作成し検察庁に送った。
(3)取調べの状況についての検討
6月2日の取調べに関するP3とHの各公判供述の信用性について検討す
る。
アHの公判供述は,6月3日の弁護人による申入書の記載に符合する。ま
た,同日,P3は,申入書の検察庁への交付を認識し,Hの取調べを行っ
たのに,申入書の内容を否定するような供述調書を作成していないことに
も符合する。
P3は,6月2日の取調べ以前に,Cの手帳の記載,Oが所持していた
Hの名刺の記載などを認識しており,P3は,HがCと共にIを訪ね厚労
省への口利きを依頼し,eに対しても,Iから厚労省担当者に電話で連絡
してもらっていると説明したとの疑いを持っており,この供述を得ようと
考えていたとみられることにも整合する。
イ他方,Aが逮捕される事態になった責任の一端がHらにあり,Aに謝罪
したいとHが言ったことを契機に,そういう気持ちがあるならば,きちん
と話してほしいとP3が言ったことなどから,HはIのところに行った事
実などを話すようになったというP3の公判供述は,それ自体をみると,
Hの公判供述におけるAらへの気持ちに符合する面があり,不自然とはい
えない。
しかし,そういう気持ちになって事実を話したはずのHが,なぜ,本件
調書が作成された翌日に,わざわざ弁護人を選任して,申入書を検察庁に
送付せしめたのか疑問が残る。
ウなお,検察官は,申入書は,Bの弁護人のQ弁護士が提出したBの取調
べに関する申入書の内容に酷似している上,Hが取調べを受けたのはピー
サン検事と記載されているものの,「決裁官は速やかに所用の調査を行い,
ピーサン検事及びピーヨン(以下,P4と同音の記載をこのように呼称す
る。)検事ら取調べ担当検察官に事情を確認して指揮指導等の必要な措置
を講ずることを求める」との記載があり,Hの取調べと直接関係のないピ
ーヨン検事の記載があり,申入書が当時のHの説明を正確に記載したもの
とはいい難い旨主張する。
この点について,Hは,「申入書がP4検事の名前になってるのは,N
弁護士の勘違いと思う。Bの弁護士が同じような形で申入書をBの代理と
して出している。その文書が,下敷きになっていたのではないか。」と供
述する。
しかし,Hが取調べをうけ,机を叩かれたり,供述調書を作成されたの
は,すべてピーサン検事と記載されており,この点については齟齬はない。
エ取調べ中に,P3が机をたたいたことはP3自身公判で認めるところで
あるが,特捜部長作成の取調べ関係申入れ等対応票には,「P3は,『H
は,検察官の質問に対して真摯に記憶喚起に努める姿勢を示し,記憶のま
まに素直に供述しており,“申入書”にあるように,記憶にない事実を押
し付けたり,机を叩く必要はなく,そのような事実はない。』旨を述べ
た。」との記載があり,P3は,「私は,P11副部長に対し,どう喝し
たり,脅迫したりするために,机をたたいた事実はないと述べた。私は机
を叩いたので,それに関しては,私の説明不足だった。」旨証言するが,
文言を素直に読めば,事実と異なる聴取内容が記載されているといわざる
を得ず,P3が事実と異なる供述をP11にしていたことは否定できず,
P3供述の信用性には慎重な考慮が必要となる。
また,P3は,「取調べ中に,Hが,弁護人の解任届を書いたことがあ
った。その際,私は,Hに,解任届の書き方を教えた。」旨証言する。何
故,Hがこの時点で,弁護人を解任しなければならないのか疑問がある上,
仮に,Hからの問い合わせがあったとしても,検察官が取調べ中の被疑者
に対して,解任届の書き方を教えてその場で書かせ提出させるのか,疑問
が残る。
P3も,机を叩き怒ったことがHが供述を始めた契機となっていること
を供述していることにも照らすと,このような事情は,検察官調書の信用
性に一定の疑問を抱かせる事情といわざるを得ない。
このように,P3によるHに対する取調べの状況には疑問を抱かせる状
況があることからすると,検察官調書の特信性の有無の判断については慎
重な考慮が必要である。
オ検察官は,H自身,公判で「示威行為として向こうはなさったんでしょ
うけれども,それで別に私が恐れるわけがないんで,そのこと自体は
ね。」と供述しているから,Hの公判供述を前提としても,P3の取調べ
はHの供述の任意性,信用性を左右するものではない旨主張する。
しかし,Hは,上記供述に続いて,「ただ,こちらが言ってることを全
面否定されて,供述書にああいう形で書かれたもんですから,正式に僕は
弁護士さんを通じて申入書に書いてもらった。」と供述しており,あくま
で,供述調書には自己が供述したことではないことが記載されている旨供
述しているのであり,Hの検察官指摘の供述から,特信性を肯定せしめる
ことにはならない(なお,Hは,検察官の態度が「相当な圧力は感じ
た。」とも供述する。)。
カ以上によれば,取調べに関するHの公判供述を排斥することはできない。
取調べの外部的情況のみからでは,Hの検察官調書に特信性があるとは
いえない。
(4)公判供述の状況について
公判廷においては,Hが,真実を供述できないような状況があったのか否
かについて検討する。
検察官は,このような事情として,①Hは,Bに対して配慮せざるを得な
い情況にあったこと,②自身も刑責を追求される可能性があることを主張す
る。
関係証拠によれば,HとBは,古い友人であり,Hは,Bの不利益になる
ことは一般には,供述しづらいことが想定される。
しかし,Hの証人尋問(第7回公判)前に,Bの証人尋問(第2回,第3
回公判)が行われており,その中で,Bは自らの公判で公訴事実を争わない
旨述べており,HがBにこの観点から配慮する必要性は高くない上,Hは,
Bの証言と異なる証言もしており(Bは,「Cの手帳の中に,ミスター人形
町とは,私のことではなく,Hのことを指す。」と供述していたのに,Hは,
「Bのことである。」と供述する。),必ずしも,Bの供述にあわせるよう
な供述をしているわけではない。
したがって,少なくとも,証言した時点において,HがBに配慮する必要
性は大きいとはいえず,①の点は,公判供述の信用性に大きな疑問を抱かせ
る情況とはいえない。
また,H自身についても,捜査段階で,本件に関し一定の関与を認める内
容の検察官調書が作成されているにもかかわらず,H自身は,CやBと異な
り,本件で起訴されていないことからすると,公判供述時点において,Hが,
自己の刑事責任を免れるために公判において虚偽の供述をなす必要性は高い
とはいえない。したがって,②の点も,公判供述の信用性に疑問を抱かせる
情況とはいいがたい。
(5)外部的情況からの検討
以上のとおり,取調べ状況には,捜査供述の信用性に一定の疑問を抱かせ
る事情が認められるのに対し,公判供述には,特にその信用性に疑いを生ぜ
しめる事情があるとはいえない。
したがって,外部的情況から特信性があるということはできない。
4内容面について
供述の内容についてみても,外部的事情を推認させる資料としての範囲で考
慮するという観点から,捜査供述の内容自体に特信性を肯定させるような事情
までは認められない。
5結論
以上によれば,Hの検察官調書に特信性があるということはできない。
第7Aの検察官調書(甲38ないし47,102ないし106)について
1当事者の主張の概要
検察官は,証人Aの公判証言(第8ないし第10回公判)と検察官調書(甲
38ないし47,102ないし106。6月5日付け,6日付け2通,7日付
け,9日付け,21日付け,24日付け,25日付け,30日付け,7月3日
付け,6月26日付け,29日付け,30日付け,7月3日付け2通。)には
相反性があり,また,検察官調書には特信性があると主張する。検察官は,特
信性について,Aは,公判において,被告人,厚労省関係者,Iへの配慮等か
ら,真実を供述することが困難な情況にあったのに対し,捜査段階においては
真摯に真実を供述することができる情況にあり,外部的事情から特信性がある
と共に,公判供述の内容は,あいまいで,不自然,不合理であるのに対し,検
察官調書の内容は,具体的で,自然かつ合理的であり,被告人が逮捕されたこ
とを知った後もほぼ一貫して同一の内容を供述しており,他の証拠とも整合す
ることなどから,内容的にも特信性がある旨主張する。
これに対し,弁護人は,Aの捜査供述は,検察官の誘導等によって検察官の
ストーリーを押しつけたものであり,公判供述についても,Aに被告人をかば
い,厚労省の組織,職員に対して配慮する動機がなく,外部的事情から捜査供
述に特信性はない上,内容面からも,Aの検察官調書は不自然,不合理な内容
であり,特信性はないと主張する。
2相反性について
まず,Aの公判証言と検察官調書の相反性について検討すると,相反部分の
中核は,①6月上旬ころのBからの日付を遡らせての公的証明書の発行要請が
あったか否か,②6月上旬の被告人から公的証明書を作成するようにとの指示
があったか否か,③被告人へ公的証明書を交付したことがあったか否かである。
以下,これらの相反部分を前提として,特信性について検討する。
3外部的情況について
弁護人は,Aの捜査供述は,検察官による黙示的な利益誘導,威迫,暗示な
どによるもので,外部的事情から特信性がない旨主張する。
そこで,この点について,検討する。
(1)取調べについて
ア証拠上認められる5月26日から30日までの捜査状況
P3は,5月26日にAを取り調べた。その際,Aは,「本件禀議書,
公的証明書は私が独断で作成した。私は公的証明書を『a』に手渡した。
Dからの引継ぎはなかった。」旨供述し,関係者の関与を否定し,更に,
「本件以後に,厚労大臣印を使って,独断で書面を出したことがある。」
などと供述した。P3はその旨記載した供述調書(弁34)を作成した。
同日,Aは別件禀議書に関する虚偽有印公文書作成,行使の事実で逮捕
された。また,Aの自宅の捜索が行われ,Aが所持していたフロッピーデ
ィスク,本件公的証明書のコピーが発見され,差し押さえられた。
5月27日から30日まで,P3は,連日Aを取り調べたが,事実関係
についての供述調書を作成しなかった。その間,P3は,Aに対し,A方
から押収したフロッピーの公的証明書のデータの最終更新日が6月1日に
なっていることを示して,バックデートしているのではないかと追求した。
また,P3は,Aの前に紙を置いて,それに「I→E→被告人→D→A→
被告人→E→I」というような図を書き,関係者の供述の概要を話した。
イ5月31日付け検察官調書について
本件相反部分の中核的な点である被告人から決裁等を経ることなく公的
証明書を作成するように指示を受け,本件公的証明書を作成し,被告人が
『a』の関係者にそれを渡したこと(以下,「被告人の本件指示,交付」
ともいう。)は,5月31日付けの検察官調書に初めて記載されている。
そこで,この作成に至る取調べについて検討する。
この点について,P3は,「5月30日の取調べで,Dの供述調書のA
に対する引継ぎの部分を朗読したところ,Aは,『ちくしょう。』と叫ん
で泣き出したので,Aに『今回の事件で恐らく懲戒免職処分になるでしょ
う。組織というものを守っても仕方のないことだし,これからの自分の人
生を考えましょう。ですから話してくれませんか。』などと言ったところ,
Aは,被告人の指示で公的証明書を発行したことなどを話すに至り,5月
31日も前日の供述は間違いないと言うので検察官調書を作成した。」旨
供述する。
これに対し,Aは,「5月28日から30日にかけて,『証明書を渡し
た日付は,公的証明書の作成日付である5月28日当日だと思っていたが,
P3から,6月1日の書換えデータがあるので5月28日ではないという
証拠を見せられ,記憶にないがバックデートを認めた。』,P3から『公
的証明書が被告人からCに渡されたことについて,Aさんの記憶があやふ
やであるなら,関係者の意見を総合するのが一番合理的じゃないか。言わ
ば,多数決のようなものだから,私に任せてくれ。』などと言われたこと,
P3が『I→tel16.2.25E→被告人→D→A→被告人→E→telI』という
ような図を書き,関係者の供述を述べたことなどから,記憶になかったが,
誘導され,そういうことがあったかもしれないと述べた。また,5月31
日には,P3から公文書の日付をバックデートしてたりしたのを忘れてい
たこと等を突き付けられ,『人間の記憶なんてあいまいなもんだね。』な
どと言われ,返す言葉がなかった。しかし,P3が作成した調書は,P3
の作文で,私は,被告人から証明書を作成するように指示があったこと,
被告人に証明書を渡したことについて,P3に調書の訂正を求めたが,訂
正されなかった。」旨供述する。
そこで,この点について検討する。
(ア)P3の多数決発言等について
AがP3から「公的証明書が被告人からCに渡されたことについて,
Aさんの記憶があやふやであるなら,関係者の意見を総合するのが一番
合理的じゃないか。言わば,多数決のようなものだから。私に任せてく
れ。」と言われたか否かについて検討する。
a)Aは,取調べの当初,本件について自己の単独犯行であると供述し,
本件に関する被告人からの指示や被告人に公的証明書を渡したことは
否定していた。その時点からP3は,厚労省の組織や被告人を含めた
当時の上司をかばっているのだろうと考えていたと供述しており,こ
の点から見ても,P3が,その時点で既に収集されていた証拠や既に
作成されていた他の関係者の供述内容から,本件が被告人の関与した
ものであるとのストーリーを描いて取調べに臨んでいたことが認めら
れる。
b)P3自身,Aが本件指示,交付を否定しているのに対し,Bの供述
や,その時点で供述調書が作成されていた多数の関係者の供述を当て
てAを取り調べたことは認めており,その中で,Aの供述のように多
数決という会話がなされることは,その経緯等に照らして不自然不合
理ではない。
c)Aの被疑者ノートの5月29日欄には「不明なら,関係者の意見を
総合するのが合理的ではないか。いわば,多数決のようなもの」,
「私に任せてもらえないか。」との記載があり,その次に「私として
はその多数決に乗っても良いと思っている。しかし,裁判で被告人本
人が出てきて否認された場合,最終的に偽証罪に問われるのか心配
だ」との記載があり,これは,Aの公判供述に符合する。
なお,検察官は,Aの被疑者ノートについて,Aは,①後に行われ
る被告人の裁判や今後の自分の人生設計を考えて,検察官側からチェ
ックされることのない被疑者ノートに,後日に備え,厚労省に対する
弁明の趣旨で,検察官の作成した供述調書は自己の本意でなかった旨
等を書き綴ることも十分あり得るし,②その記載については,文章の
記載状況からして,後から書き加えたり訂正したりしたと認められる
不自然な記載が複数存在することなどから,信用できない旨主張する。
しかし,②については,被疑者ノートの記載に照らすと,上記部分
が,Aが保釈になった後に新たに書き加えたものとはみられない。ま
た,①についても,初めて身柄拘束されたAがそのようなことまで考
えて,記載をするか疑問がある上,記載当時,Aは懲戒免職を覚悟し
ていたのであるから,厚労省に対する弁明の趣旨で,検察官の作成し
た供述調書は自己の本意でなかった旨等を身柄拘束中から書き綴ると
いうのも容易に首肯できるものではない。
d)P3は,この点について,「多数決で決めるという話をしたことは
ない。」と供述する一方,「一般論として,Aから,事実認定の問題
として,裁判官が3人いてどうやって決めるんですかというような話
はあり,私は,裁判官だって3人いれば,意見が割れるときがある,
多数決ということもあるんじゃないのというような話をしたことはあ
ったので,多数決という文言は出た。」とも供述し,結局,取調べの
中で「多数決」という言葉をP3が発したこと自体は認める。この話
題は,P3の供述では裁判官の事実認定に関するものとはいうものの,
Aが何故裁判官の事実認定方法についてP3に聞いたのか経緯が不明
であり,Aが供述するような場面であった可能性を否定できない。
e)以上の諸点に照らすと,Aの「P3が取調べで,Aさんの記憶があ
やふやであるなら,関係者の意見を総合するのが一番合理的じゃない
か。言わば,多数決のようなものだから。」と述べたとのAの公判供
述は否定できない。そして,それを前提にするとP3が「私に任せて
くれ。」と言ったことも否定できず,そのような方法が,P3が基本
的に想定してた内容の検察官調書を作成した疑いは排斥できない。
f)さらに,Aは,「私が,被告人から証明書を作成するように指示が
あったということと,被告人に証明書を渡したということは,P3に
訂正を求めたが,訂正されなかった。」と供述し,被疑者ノートの5
月31日欄にも,上記2点について訂正を申し入れたのに訂正に応じ
てくれなかったとの記載があることなどに照らすと,この点に関する
Aの供述は否定できない。
(イ)バックデート供述について
Aは,当初,本件公的証明書の作成日については,本件公的証明書に
記載された5月28日であったと供述しており,日付を遡らせて作成し
たという点は否定していたが,P3から,Aが自宅に所持していたフロ
ッピーに保存されていた本件公的証明書と同内容の文書データを示され
たことにより,Aは,それまでの供述を覆し,日付を遡らせて作成した
ことを認める内容を供述するようになったことは明らかである。
この点に関連して,P3は,検察官による主尋問においては,「5月
27日に,Aが自宅に所持していたフロッピーのデータを確認したとこ
ろ,本件公的証明書と同内容の文書データの最終更新日が6月1日にな
っていたことから,既に供述を得ていたBの,『バックデートの要請を
した。』旨の供述が客観的に裏付けられたと思った。」旨供述している。
これに対し,弁護人による反対尋問に対しては,「そのデータが本件公
的証明書の基になっていると考えていたわけではなく,その可能性があ
るデータという程度だった。」旨供述している。
P3の供述するBの供述とは,Bの5月15日付けの供述調書の「6
月4日以降,郵便局から,公的証明書の原本の提出を求められたことか
ら,私は,Cに対して,厚労省を訪ねて,直接,企画課長に,第三種郵
便の承認書が5月末付けで出ているので,作成日付を5月中に遡らせて
至急発行するようにお願いするよう指示した。」旨の供述であるとみら
れるところ,少なくとも,当該データが本件公的証明書の基になったデ
ータということでなければ,B供述の裏付け等にはならない。また,当
該データの存在がAに示されたことが契機となって,この点に関するA
の供述が覆ったことからすると,当該データが,本件公的証明書の基と
なったデータとして示されたものと考えるのが相当である。
P3の公判供述によっても,Aは,本件バックデートについて,5月
28日時点で認めるようになったというものの,5月31日付け検察官
調書にもその点の記載はなされず,6月7日付け検察官調書(甲41)
になってようやく記載されたものの,フロッピーデータに関する記載は
なく,同データに関しては,その後作成された検察官調書にも記載がな
い。
P3は,「本件公的証明書を作成した日について,当該データとも関
連して詰めようと思ったが,結局詰めることができず,フロッピーのデ
ータとの関係については供述調書には記載しなかった。」とも供述して
おり,当該データを前提にして供述が変遷したにもかかわらず,当該デ
ータの存在は,実際に公的証明書を作成した日を確定する決め手にはな
らないことを前提にしたかのような供述もしている。これは,データの
最終更新日が6月1日午前1時20分であることから,後述する郵便局
担当者Rの検察官調書(5月12日付け,甲7)などによれば,「a」
側が厚労省側にバックデートした日付での公的証明書交付を要請するの
は6月8日以降になるはずであることと矛盾することになると捜査官側
が考えたことによるものであると推認される(ちなみに,Aのフロッピ
ーデータは,客観的で重要な証拠であるにもかかわらず,検察官からは
請求されず,弁護人請求で取り調べられている。)。
前記のとおり,P3が裏付けられたものと想定していたBの供述は,
郵便局員Rの検察官調書(甲7。6月8日以降に「a」側に公的証明書
の提出を求めた旨供述する。)をもふまえると,6月8日以降に郵政公
社から,公的証明書の原本の提出を求められたことから,A,Cに対し,
5月中の日付で公的証明書の発行を要請したということになる。このB
の要請を前提に本件公的証明書が作成されたとすると,本件公的証明書
が作成される基となったデータの作成日,最終更新日は6月8日以降に
なる可能性が高い(少なくとも,最終更新日だけでも6月8日以降にな
るはずである。)。
したがって,最終更新日についても6月1日になっている当該データ
は,Bの前記供述に整合しない事情となる可能性の高い証拠であり,そ
のような証拠が提示されたことを契機として日付を遡らせた点について
供述が転換したにもかかわらず,そのBの供述と合致する内容のAの供
述調書が作成されていることは,あいまい又は一面的な証拠評価に基づ
いて誘導がなされた可能性を示すものである。
なお,検察官は,元々Bから早期の発行を依頼されていたことから,
5月中の日付でデータを作成しており,その後,Bの指示を受けたCの
依頼により被告人から背中を押されて当該データを利用して本件公的証
明書を作成したと考えれば,捜査供述と当該データとは反せず,むしろ
整合するものであると主張するが,仮にそのような主張を前提にしたと
しても,当該データは,Bの依頼を受けて作成したという部分に関する
裏付けにはならないことになり,このような検察官の主張も,前記の評
価に影響を与えるものではない。
Aの供述経過をみると,本件指示交付という被告人の関与を認める供
述がなされる前に,まず,日付を遡らせた公的証明書の作成の点に関す
る供述の転換がなされている。この点に関連して,Aは,公判廷におい
て,「証明書の日付をバックデートしていたことを忘れていたこと等を
突きつけられて,P3に,『人間の記憶なんてあいまいなものだね。』
と言われたことなどから,弱気になっていた。」などと述べ,当該デー
タを示されたことが,他の供述に影響している旨を供述している。
また,日付を遡らせて作成したとの事柄は,検察官の主張のうち,被
告人からの最終的な指示につながる事柄であって,被告人の最終的な関
与につながる重要な事実である。
以上のような,供述経過や事柄の性質にも鑑みると,日付を遡らせて
作成したか否かという点の供述の変遷は,その後の供述にも少なからず
影響を与えている可能性がある。
(ウ)小括
以上によれば,5月31日付け検察官調書は,Aの公判供述のような
経緯で作成されたものと認定できる。
他の者の供述や証拠を前提に矛盾等を指摘すること自体は,取調べに
おいて禁止されるものでも,不当とされるものでもない。しかし,前記
のように,「記憶があやふやであるなら,関係者の意見を総合するのが
一番合理的じゃないか。言わば,多数決のようなものだから,私に任せ
てくれ。」などと言って取り調べ,捜査官が想定する内容の供述調書を
作成し,署名を求めることは,相当なものとはみられない。
なお,Aは,P3が言うようなこと(本件指示等)があったかもしれ
ないと発言したことがあったのは認める旨供述する。しかし,前記のと
おり,Aは,最終的に,本件指示などが記載された供述調書に対して,
その訂正を求めたにもかかわらず,P3はそれに応じなかった疑いが残
るものである。結局,調書にはAの意思に反する内容が記載されたこと
になる。
ウその後の取調べ状況等について
(ア)争点
その後の取調べについて,P3は,「その後もAは,供述をしぶったり,
記憶があいまいな部分はあったが,いろいろな可能性を私のほうから指摘
して尋ね,最終的にAが言ったことを調書にした。」,「Aから,2,3
回,『私1人でやったということにできないんですか。』とか,『単独犯
ということにできないんですか。』と言われたことがあったが,私が,真
実はどちらなのかを確認したところ,Aは,『やっぱり,いいです。』と
引っ込めた。」旨供述する。
これに対し,Aは,「検察官調書に書かれていることは自分の記憶と違
う。記憶と違う内容の供述調書ができているのは,下手なこと言って,怒
らせると,自分にとって不利だから,早く拘置所から出るには,おとなし
くしてるしかないと,あきらめてしまったからである。」,「取調べで,
P3から,『被告人の机のところで,私が証明書を渡した場面を見ていた
という人がいる。』旨告げられた。」などと供述する。
そこで,この点について検討する。
(イ)判断
a)被疑者ノートの6月1日欄には「近くの人が私の姿を見ている→被告
人のデスクに呼ばれたところ」という記載が,6月5日の欄には「かな
り作文された」という記載が,6月6日欄には「調書の修正は完全にあ
きらめた。」という記載があり,同日以降,しばらくの間,調書の訂正
を申し入れたとの欄にはチェックがなされていない。そして,6月9日
欄には「検事の作文にのるという決断をした以上しかたない。」という
記載があり,6月15日欄には調書訂正の申入れをしたが全く応じてく
れないの欄にチェックがなされている。6月22日欄には「『被告人か
ら指示されたこと。』,『証明書を被告人に渡したこと』やっぱり今で
も単独でやったと思っているか?と検事に聞かれて『私の記憶では私が
決断してBに渡した』と答えると,『否認するわけね。じゃあ,課長補
佐だったGさんとか関係者全員証人尋問だね。』」との記載があり,さ
らに「『否認するわけね。関係者全員証人尋問だね』という発言にはプ
レッシャーを感じた。」との記載がある。なお,6月15日の勾留質問
時に,Aは,裁判官に対して,被告人からの指示については記憶があい
まいで自信がない旨供述している。
これらは,Aの公判供述に符合する。Aが,本件指示,交付などを否
定しようとしていたことがうかがわれる。
b)P3供述によれば,Aは,概括的に被告人の関与を認める供述をなし
た後も,詳細についての供述をできなかったのか,何度か「単独犯とい
うことにできないですか。」などと供述していたというのである。しか
し,概括的にでも本件指示と被告人から「a」への公的証明書交付を認
めたのであれば,その後,基本的には組織的な犯行であることや被告人
の関与を隠す必要はなくなったとみられ,そうであれば,その後,気持
ちのゆれ動きがあったとしても,詳細について,同様の動機から供述を
ためらったというのは十分納得がいくものではない。他方,Aの公判供
述を前提にすれば,この点については,特段不合理なものとはいえない。
(ウ)小括
以上によれば,6月1日以降の取調べにおいても,A供述のような取調
べがなされた疑いは否定できない。
なお,検察官は,6月25日以降には,P2による取調べが行われ,①
取調官が交代したにもかかわらず,Aは同様の供述を維持していること,
②当時の気持ちをとりまとめたような供述調書を作成しており,自筆の反
省文にも被告人の関与を認める内容の文言が記載されていることから,取
調べ状況には特信性が認められる旨主張する。
しかし,①については,P2は,特段それまでの取調べの効果を遮断す
るような工夫をしたとまではみられず,その効果には疑問があるし,②に
ついても,Aは,「反省文は,改めて,課長の指示によりという文言が入
ったものを作らされた。」旨供述し,P2も1回Aが作成した後,もう一
度清書させたこと自体は認めていることなどに照らすと,Aの公判供述は
否定できず,当該反省文は,取調べの最終段階において,取調官から求め
られて作成されたものであり,反省文中の被告人の指示により行った部分
については,自主的に記載したものか疑問が残る。
(2)公判供述の状況について
ア検察官の主張
検察官は,①被告人の面前であったこと,②厚労省関係者(とりわけ,
自身と同じノンキャリア)に配慮せざるを得ない状況にあったこと,③捜
査段階から被告人や関係者に対する配慮を語っていたこと,④Iにも配慮
せざるを得ない状況にあったことから,Aは,公判廷においては真実を供
述することができない状況にあったと主張する。
以下,この点について検討する。
イ検討
被告人はAの上司であったもので,公判で事実を否認しているのである
から,その面前で被告人の不利益になることが言いづらいというのは,一
般に想定することはできる。しかし,Aは,公判廷において,本件公的証
明書,虚偽の決裁文書等の作成及び大臣印の無断使用についていずれも認
める内容の供述をしており,Aはこれらの事実により,将来において,懲
戒処分を受けることを十分認識している(この点で,同じ厚労省関係者で
あるD,E,F,Gとはその立場が相当に異なる。)。また,被告人は,
本件当時,Aの上司であったが,現在Aと特段の関係はなく,Aの人生に
直接影響を与えるような立場や状況があると認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,被告人及び厚労省関係者に配慮しなければならない理由は
必ずしも高いものとはいえない。
また,厚労省関係者(とりわけノンキャリア)に対する影響という点に
ついてみても,Aの公判供述を前提にしても,厚労省内部における不祥事
という点では変わらないのであり,これに対する世間の非難等にそれほど
大きな違いがあるということには疑問があり,この点から,真実を供述す
ることができなかった情況にあったとは考えにくい。
主張③についてみても,検察官の指摘するAの捜査段階の供述部分は,
いずれも一般的な理由に基づいて,供述がしづらいと述べている部分に過
ぎず,主張①,②から独立して真実を供述することができない情況にあっ
たとまではいえない。
また,証拠上,IとAと特段の関係を示すものはなく,Aが,Iに対す
る配慮から自己の記憶に従った供述をすることができなかったとはいえな
い。
更に,捜査供述が上司に指示され,上司が作成名義人の虚偽有印公文書
を作成,行使したというものであるのに比し,公判供述は,自ら単独で,
上司名義の公文書を偽造,行使するというもので,公判供述の方が一般に
犯情は悪いとみられるものであり,自己の刑責軽減という観点から,その
ような供述をすることも考え難い。
ウ小括
以上によれば,公判供述に関しては,真実を供述することができない特
段の事情があるとまでは認められない。
(3)外部的情況からの検討
以上のとおり,取調べ状況には一定の問題があるのに対し,公判供述には,
特にその信用性に疑いを生じさせる事情があるとまではいえない。
したがって,外部的情況からは,特信性を肯定できる事情はないといえる。
4内容面について
検察官は,Aの捜査供述は,具体的で迫真性に富み,自然で合理的であるこ
と,他の客観証拠にも反しないこと,B,Eらの捜査段階の供述とも符合する
ことなどから,内容面からも特信性があるのに対し,公判供述は,不自然,不
合理な点が多く,A自身の被疑者ノートの記載に照らしても,特信性はない旨
主張する。これに対し,弁護人は,Aの捜査供述の内容自体に不自然,不合理
な点があることなどに照らすと,特信性はない旨主張する。
そこで,この点について検討する。
検察官が主張するようにAの検察官調書の記載は,具体的でそれなりに迫真
性があり,B,E,Dらの捜査段階の供述とも符合しており,検察官主張事実
に照らすと自然で合理的であるとみることもできる。
しかし,前記のデータ等,必ずしも捜査供述と整合しない客観的な証拠も存
するとみられることからすると,直ちにその内容が客観的証拠に反せず,自然
で合理的であると考えるには慎重な姿勢が必要である。
他方,Aの公判供述には,単独犯行であるにもかかわらず,直ちに本件公的
証明書を作成せずに,虚偽の決裁文書等を作成した理由など,必ずしも合理的
な説明がなされているとはいえない部分や,供述があいまいな部分があり,そ
の内容の信用性については慎重な検討を要する面があることは否定できないが,
少なくとも明らかに矛盾する客観的な証拠がないことなどに照らすと,Aの供
述する経緯も全く不合理なものとまではみられない。
以上によれば,供述内容は外部的事情を推認させる資料としての範囲でこれ
を考慮するという観点からは,供述内容自体から特信性を肯定させるまでには
至らないものである。
5結論
以上によれば,Aの検察官調書に特信性があるとみることはできない。
第8Bの検察官調書(甲48ないし50,81,82)について
1当事者の主張の概要
検察官は,証人Bの公判証言(第2,第3回公判)と検察官調書(甲48な
いし50,81,82。6月6日,7日,9日,26日,7月2日付け)には
相反性があり,また,検察官調書には特信性があると主張する。検察官は,特
信性について,Bは,公判において,自己の刑事責任,被告人を含めた共犯者
への配慮等から,真実を供述することが困難な情況にあったのに対し,捜査段
階においては真摯に真実を供述することができる情況にあり,外部的事情から
特信性があると共に,公判供述の内容は,あいまいで,不自然,不合理である
のに対し,検察官調書の内容は,具体的で,自然かつ合理的であり,自己に不
利益な事実も率直に供述しており,他の証拠とも整合することなどから,内容
的にも特信性がある旨主張する。
これに対し,弁護人は,Bの捜査供述は,検察官の威迫や利益誘導によるも
のであり,公判供述には,被告人への配慮と評価されるものはなく,外部的事
情から特信性はない上,内容面からも,Bの検察官調書には不自然,不合理な
点があり,特信性はないと主張する。
2相反性について
まず,Bの公判証言と検察官調書の相反性について検討する。Bは,公判廷
において,検察官調書の内容が正しいと供述する一方で,①Cに対して,Iに
口利きを依頼するように要請したのか否か,②Oに,Iから厚労省に口利きが
なされていることを告げたのか否か,③5月中旬ころ,Aに対し,虚偽の決裁
文書の作成を依頼したのか否か,④Cに,被告人から郵政へ電話するようにお
願いするよう要請したのか否か,⑤Aに対し,日付を遡らせて早期に本件公的
証明書を発行するよう要請し,Cに対しても,被告人に同様のお願いをするよ
う要請したのか否か,⑥公的証明書を受け取りに行くようにCに依頼したのか
否かといった点で,Bは,公判廷において,否定し,あるいは「記憶がない」,
「その可能性がある。」といったあいまいな供述をしており,これらの点に関
するBの公判供述はきわめてあいまいであるといわざるを得ない。
したがって,Bの公判供述と捜査供述との間には,相反性が認められる。以
下では,これらの相反部分について,捜査供述に特信性が認められるかについ
て検討する。
3外部的事情について
弁護人は,Bの捜査供述は,検察官の威迫や取引・利益誘導などによるもの
で,他方,公判供述は,真摯に真実を供述することができる情況においてなさ
れたものであるから,外部事情から特信性がない旨主張する。
(1)取調べ状況について
ア証拠上認められる事実
Bは,5月14,15,16日に在宅でP3の取調べを受け,供述調書
(甲77ないし79)が作成された。これには,本件公的証明書が内容虚
偽のものであることを知っていたことの他,相反部分④ないし⑥の記載が
ある。
Bは,5月26日,別件の虚偽有印公文書作成,同行使(前記の虚偽の
決裁文書の作成,行使)の被疑事実で逮捕された。
Bは,5月27日,裁判官の勾留質問を受けたが,勾留質問調書(弁書
13)には,「外形的な事実としてはそのとおり間違いありません。しか
し,私としては,公文書が内容虚偽のものであることは知りませんでした
し,Aさん,Cさんと共謀したこともありませんでした。」との記載があ
る。
Bは,同日,P4の取調べを受けた。同日付け供述調書(甲128)に
は,「勾留質問では,罪が重くなるのではないかとの気持ちがあったので
うそを言ってしまった。決裁文書の内容が虚偽の内容であることは分かっ
ていた。AとCと密談したという場面はなかったが,そのような場合であ
っても,互いにそれを作成し,協力し合えばそれでも共謀という評価には
なり得ると検事から教えてもらい,その意味であれば,3人で共謀したと
いうのは間違いない。」旨の記載がある。
Bの弁護人から,5月26日ころまでの間に行われたP3の取調べ及び
5月27日のP4の取調べにおいて,両名からBに対し,脅迫的な言動又
は利益誘導ともとれる言動がなされ,その結果,記憶と異なる内容の供述
調書に署名押印させられた旨の内容の5月30日付けの申入書が,大阪地
検に対して送付され,6月1日に受け付けられた。
Bは,5月28日から,主としてP4の取調べを受けたが,6月5日ま
で供述調書は作成されなかった。
6月6日付け供述調書(甲48),6月7日付け供述調書(甲49),
6月9日付け供述調書(甲50)には,相反部分①から⑥の記載がある。
その後,Bは本件事実により逮捕勾留され,取調べを受けたが,基本的に
事実を認める内容の供述調書が作成されている。
Bは,本件虚偽有印公文書作成,同行使の事実で7月4日に起訴され,
その後,Bの弁護人から保釈請求がなされたが,検察官は,Bの保釈請求
に対する意見としては「しかるべく」とした上,「保釈保証金は,100
万円を相当と思料する。」との意見を付した。
イ検討
P3の取調べについては,Bは,公判で申入書記載のような言動をとっ
たことがあったことを認める内容の供述をしており,この点に関しては,
検察官から特段の反対立証もなされていない。
また,Bの起訴,勾留事実は虚偽有印公文書作成,同行使の事実であり,
刑訴法89条1号に該当する事由があり,権利保釈は認められない事案で
あることからすると,保釈保証金額100万円というのは,相当低額とみ
られる。保釈請求に対する意見を述べる際に,検察官が,保釈保証金額に
ついても言及すること自体は珍しいことではないが,本件のように,検察
官が,一般的にみて低額な保釈保証金額が相当であるとの意見を述べるこ
とは,一般的な扱いとはみられない。
以上の点のみを考慮すれば,Bに対しては,検察官から威迫や取引,利
益誘導が行われていた可能性が認められる。
他方,Bは,公判において,勾留質問後のP4の取調べにおいて,申
入書に記載されている発言そのものがあったことは基本的に否定する旨の供
述をなしている。そして,申入書作成前に弁護人に話したことは撤回してほ
しいと弁護人に伝えた旨供述する。
また,Bは,公判廷において,事実を認めれば保釈金を安くするなどの
取引があったことは否定する旨の供述をしている。
さらに,Bは,相反部分について,「供述調書と公判証言とで,より正
しく,私の供述に近いのは,供述調書である。」と述べ,P4の取調べに
おいて,暴行,脅迫,利益誘導といった事実はなく,取調べに不満はない
とも供述している。
なお,以上の取調べに関するBの公判供述自体が信用できるかも問題と
はなるが,Bの公判供述自体が信用できないのであれば,それとの比較に
おいて,捜査供述の特信性が肯定される方向に働くことになるともいえる。
(2)公判供述の状況について
ア検察官の主張
検察官は,①B自身の公判が係属中であったこと,②被告人を含めた共
犯者に配慮せざるを得ない状況にあったことから,Bは,公判廷において
は真実を供述することができない状況にあったと主張する。
この点について検討する。
イ検討
(ア)主張①について
本件証言当時,B自身の公判は継続中であることが認められるが,B
は,当公判廷において,本件にかかる自己の公判について犯罪の成立を
争わないつもりである旨述べている。よって,自己の刑事責任回避のた
めに真実を供述できないような状況にあったとまでは認められない。
確かに,検察官の主張するとおり,犯罪の成立については認めつつも,
自己の責任をできる限り軽減するために,真実を供述できない可能性も
一般的にはあり得るところであるが,Bは,当公判廷において,あいま
いな供述をしながらも,Cへの指示など,本件公的証明書に関する虚偽
有印公文書作成,同行使の共謀を基礎づける重要な事実については,そ
の存在を認める内容の捜査供述が正しいなどとも述べており,虚偽有印
公文書作成,同行使の刑責について軽減しようとする意図がそれほど大
きいものとは認められない。
(イ)主張②について
Bと被告人との間には,本件で共犯者として起訴されたという以外に,
具体的なつながりというものは見受けられない。また,Bは,当公判廷
において,C,Aに対する配慮を思わせる発言を口にしてはいるものの,
Bは,Cへの指示やAへの要求等,両者に不利に働きうる事情を認める
内容の供述調書が正確であると述べており,同人の供述から,両名をか
ばうような意図は窺われない(Aが供述する,公的証明書をBに渡した
との点を,Bは強く否定している。)。
(ウ)Bの供述態度について
Bは,公判廷において,Cから厚労省へ行き担当のDらに会ってきた
などの報告を受けたこと自体,Aと会ったことを示す自身の備忘録の記
載についての説明,本件公的証明書を取得後,カラーコピーを取った経
緯,自身は厚労省側から公的証明書を受け取っていないことなど,当時
のことについてある程度明確かつ具体的に語っている部分があるにもか
かわらず,2月下旬のCに対する指示,虚偽の決裁文書等の要求,日付
を遡らせた公的証明書の作成要求といった事柄の有無という,5年から
6年の期間経過した後でもある程度記憶していてもおかしくないような
ことについてあいまいな供述をしている。また,供述調書の内容につい
ても,同じ証人尋問の中で,矛盾しているとみられる供述をしている。
このようにBの公判供述は信用性が高いものともいい難い。
また,Bは,本件証人尋問(2月2日,3日)後に行われたB本人の
公判(3月15日)において,Bは,P4と何らかの約束をし,約束の
内容は公判でも明らかにしない旨供述しており,捜査,公判,いずれの
供述もその影響下にあるような供述もなす。
この点に関するBの公判供述に照らすと,Bの供述は,捜査,公判い
ずれにも問題があるとみられる。
また,Bは,B本人の公判において,Bは,2対1か3対1で捜査供
述より,公判供述の方が正しいというような供述をなしている。
しかし,その理由として,Bは,新聞記事を読んだりするなどして,
そう思ったと供述しており,自己の記憶というよりも,報道された本件
裁判等の情報を基に供述しているものとみられる。
よって,Bの実際の記憶に基づく供述ともいい難く,同供述の信用性
には慎重な考慮が必要である。
(3)外部的情況からの検討
以上によれば,Bの供述は,捜査,公判とも,その信用性には,慎重な
考慮が必要であるが,Bの公判供述は極めてあいまいなところ,B自身,
本件公判においては,より正しいのは供述調書の方である旨供述している
のであるから,Bの検察官調書には,証拠能力レベルの問題としての外部
的事情による特信性を認めるのが相当である。
4内容面について
Bの捜査,公判供述には,それぞれ問題があり,供述内容自体から前記外部
的事情に影響を与えるまでのものはみられず,供述内容自体については,実体的
に,信用性判断で行うのが相当とみられる。
5結論
以上によれば,供述の信用性判断は別個の観点等もふまえてなされるものの,
Bの検察官調書には,刑訴法321条1項2号にいう特信性は認められる。
そこで,その余の点について検討すると,甲48ないし50の検察官調書は,
相反部分の記載があり,必要性も認められるが,本件請求に係るその他の供述
調書(甲81,82)は,実質的にはそれとほぼ重複するものであり,必要性
は認められない。
第9Cの検察官調書(甲54ないし57,90,91)について
1当事者の主張の概要
検察官は,証人Cの公判証言(第3,第4回公判)と検察官調書(甲54な
いし57,90,91。6月5日,7日,30日,7月3日,6月25日,3
0日付け)には相反性があり,また,検察官調書には特信性があると主張する。
検察官は,特信性について,Cは,公判において,自己の刑事責任,B,Iへ
の配慮等から,真実を供述することが困難な情況にあったのに対し,捜査段階
においては真摯に真実を供述することができる情況にあり,外部的事情から特
信性があると共に,公判供述の内容は,あいまいで,不自然,不合理であるの
に対し,検察官調書の内容は,具体的で,自然かつ合理的であり,自己に不利
益な事実も率直に供述しており,他の証拠とも整合することなどから,内容的
にも特信性がある旨主張する。
これに対し,弁護人は,相反性については,公判証言と検察官調書とで枢要
部分が異なっていることは争わないが,Cの捜査供述は,検察官の威迫や暗示
によるものであり,公判供述には,B,Iへの配慮と評価されるものはなく,
外部的事情から特信性はない上,内容面からも,Cの検察官調書には不自然,
不合理な点があり,特信性はないと主張する。
2相反性について
Cの公判証言と検察官調書との間に相反性が認められることは明らかである
ところ,相反性が認められる中核的な点は,①Cが,2月下旬ころ厚労省にお
いて,初めに被告人と挨拶し,便宜供与の要請をし,被告人はこれに応じたか
否か,②Cが,5月中旬ころ,被告人に対し,被告人から郵政公社に電話をし
て,厚労省での審査が終了し,近々公的証明書が発行される旨伝えてもらうよ
う要請し,被告人がこれに応じ,郵政公社に電話をしたのか否か,③Cが,6
月上旬ころ,被告人に対して,5月中の日付で公的証明書を早急に発行しても
らうよう要請し,被告人がこれを了承したのか否か,である。
以下,これらの相反部分を前提として,特信性について検討する。
3外部的情況について
(1)取調べについて
ア証拠上認められる事実
Cは,4月16日に郵便法違反の被疑事実で逮捕され,その後,郵便法
違反による逮捕,勾留の他,別件の虚偽有印公文書作成,同行使の被疑事
実と本件被疑事実による逮捕,勾留がなされ,7月4日に本件により起訴
がなされるまで,身体拘束が継続された。Cは,その間,主として,P7
の取調べを受けた。
4月21日付けの供述調書(甲83)には,相反部分②及び③の一部の
記載が,6月5日付けの供述調書(甲54)には相反部分①の記載が,6
月7日付け供述調書(甲55)には,相反部分③の一部の記載がある。
イ争点
弁護人は,Cの捜査供述は,検察官の威迫や暗示などによるもので,外
部事情から特信性がない旨主張するので,この点について,検討する。
C,P7の公判供述によれば,P7は,取調べ中,何度か机を叩いたこ
とがあったことは認められる。しかし,Cは,公判で「P7が机を叩いた
のは,私の話が変わったときだと思う。机が叩かれたのが怖くて自分の言
いたいこともいえないという状況ではなかった。P7は,私の体調を気遣
ってくれて,何回か調書を作成するのをやめるなどしてくれ,精神的に楽
になってありがたいという思いを何度かした。P7の取調べに特に不満は
ない。」と供述しており,Cの捜査段階の供述がP7の威迫に基いて作成
されたものとはみられない。
そこで,それ以外に,捜査段階の取調べについて,公判供述と相反する
検察官調書の供述記載に影響を与えうる状況について検討する。
ウ相反部分①に関する状況
(ア)Cは,検事から,「Iから,Eに電話が入り,それが被告人,Dと
連絡が伝わっていったという流れなんだ。」などという説明を受け,厚
労省関係者の供述を前提に取調べを受け,自分の記憶とは異なる調書に
署名したと供述するので,この点について検討する。
(イ)関係証拠によれば,次の事実が認められる。
Cは,取調べの当初,相反部分①に関しては,2月下旬ころに厚労省
に訪れた際は,まずDから説明を受け,その後,被告人ともあいさつし,
公的証明書の発行をお願いした旨の供述(公判証言と概ね同様の内容)
をしており,それ以上に被告人と,「a」がどのような団体であるのか
等に関するやりとりをしたことについては供述をしていなかった。
その後,5月26日以降に厚労省関係者(D,F,G)の取調べで,
同人らは被告人からCを紹介されたとの供述が得られたことから,P7
は,Cにその内容を伝え,Cの検察官調書には,それまでと異なり,最
初に被告人に会ってあいさつし「a」の活動についても話したなどとい
う記載がなされるようになった。
(ウ)以上によれば,厚労省での面談の順番についての供述の変更は,検
察官により,厚労省関係者の供述内容を伝えるなどした誘導がなされた
ことが帰因しているものとみられる。
また,D及び被告人双方に対し,「a」の活動等に関して,同内容の
会話が繰り返されるというのは不自然であることからすると,被告人と
「a」の活動等に関する会話を行った旨の供述についても,面談の順番
に関する供述と関連してなされていると考えられるから,被告人との会
話内容に関する供述も,面談の順番に関する誘導の影響を受けてなされ
たものである可能性が高い。
(エ)以上によれば,検察官による厚労省関係者の供述を示すなどの誘導
により,記憶とは異なる供述調書に署名したという前記のCの供述を排
斥することはできない。
エ相反部分②に関する状況
(ア)P7は,当初からCは,被告人に,郵政公社への電話を依頼したこ
とを認める旨の供述をしていたと供述する。これに対し,この点に関す
るCの証言は,要するに,相反部分②については,当初から,被告人は
電話中で,被告人に依頼はできなかったが,その被告人の電話の中に
「エス(以下,Sの姓と同音のものを「エス」と表記する。)」という
名前が出てきたと供述していたが,その内容とは異なった調書に署名指
印していたというものと思われ,両供述は食い違っている。
そこで,Cの供述が排斥できるのか否かについて検討する。
(イ)相反部分②については,4月21日という捜査の初期の段階の検察
官調書に記載があること,Cは公判で,「4月の段階では,私自身,事
実は事実として認めた上でサインをしているので,私自身も納得してサ
インしたものだと考えている。」とも供述していること,Cの公判供述
によっても,Sの名前を最初に出したのはCとみられることなどに照ら
すと,相反部分②は自主的に供述しているようにもみられる。
(ウ)a)他方,関係証拠によれば,Cの手帳には,5月11日の欄に「1
2:00∼13:00Mr.Ningyocho(厚労省→直接〒でOKのよう
に)」の記載があり,P7は,Cの取調べ前にこれを認識していたこ
と,本件公的証明書を提出して受領した証明書の作成者が日本郵政公
社東京支社長SであることもCの取調べ前から判明していたことが認
められる。
そして,Cの手帳の記載上からは,CがMr.Ningyochoなる人物から,
厚労省から直接〒(郵便局関係)に「OKのように」との発言があっ
たことが強く推認され,「a」の事務所が日本橋に置かれており,Mr.
Ningyochoなる人物がBあるいはHであるとみられることから,Bあ
るいは,Hから「a」の件でCが依頼を受けた事実が推認され,捜査
官は,その嫌疑を持ち,Cに質問したものとみられる。そして,Cは,
厚労省から,低料第三種郵便扱いで郵送できるよう,厚労省の審査が
通った旨を直接郵政公社に連絡してもらえるよう企画課長にお願いし
てくれないかとBから依頼され,これに応じ厚労省に赴いたことを認
めていた。
このような状態で,Cが被告人の下を訪ね,被告人がSという人物
に電話をしていたと供述した場合,捜査官が,被告人は,日本郵政公
社東京支社長Sに電話したものと考えて,そのような質問をすること
は不自然ではない。
b)P7の公判供述によれば,P7は,C逮捕前から,本件公的証明書に
関して,厚労省に申請事実もなく,発番号もないことが分かっていた
ことから,Cらが公的証明書を偽造したのではないかとの疑いを持っ
ており,4月19日,Cに,公的証明書を偽造したのではないかと追
及していたこと,これに対し,Cは,偽造を否定していたことが認め
られる。これに照らすと,Cのこの時点(捜査初期)における関心は,
自分らが公的証明書を偽造したものではないことを訴えることにあり,
厚労省側が公的証明書を作成したことに関連する事項は,より積極的
な方向で話すことが推認できる。また,厚労省側の関与の積極方向の
事項は,これを肯定することはCにとって不利益とはならないともい
える。Cが,検察官から誘導された場合,これに安易に応じる可能性
は否定できない。
これに対し,Cらの偽造の嫌疑が晴れた以降の取調べにおいては,
自己の記憶に反する部分については,否定を明らかにすることは不自
然なことではない。
c)関係証拠によれば,4月21日付けの供述調書(甲83)では,
「被告人」としての言動の記載があるにもかかわらず,4月26日付
けの供述調書(甲84)では,「ある幹部職員」との記載に替わって
いる。この点について,P7は,公判で,「この点については,Cは,
実際には,取調べで被告人と供述しており,『ある幹部職員』と供述
していたわけではないが,まだ関係者の取調べも済んでいないし,そ
れが100パーセント確実なものであるとすることまでは,ためらわ
れたことから,具体的な名前を伏せた調書を作成しておくべきだと考
えたからである。」と供述しており,Cの供述のとおりに供述調書が
録取されていない上,Cは,特に,これに異議を述べることもなく署
名している。
これらの事実に照らすと,Cは,検察官の作成する供述調書は,必
ずしも自分の供述通りのことが記載されてなくとも署名していたこと
が窺われる。
(エ)P7は,「Cの取調べにおいては日本郵政公社東京支社長がSであ
ることは知らないという前提で質問していた。」旨供述する。
他方で,4月21日付けのCの供述調書(甲83)には,「検察官か
らお聞きしますと,当時の郵政公社の東京支社長が,『S』という名前
の方だそうですが」との記載があり,この供述調書作成時点までに,P
7が,日本郵政公社東京支社長がSであり,それを前提にした質問がな
されていたことは明白である。
P7の証言と,当該記載とが,完全に矛盾するものであるかどうかに
ついては慎重な検討を要するが,P7の証言と食い違っているともとれ
る供述調書が作成されていることは,少なくとも,P7がこの点につい
て事実を正確に述べていない疑いを生じさせるものであるといえる。
(オ)P7は,「その後,Cの供述は,一時期,自分が厚労省を訪ねたと
き,被告人は既に電話をしており,その会話の中でエスという名前が出
ていたという供述(公判証言と概ね同様の内容である。)に変わったこ
とがあったが,追及したところ,元の供述に戻った。」旨供述している。
しかし,被告人からの公的証明書の受け取り等,自己に不利益な重要な
事実を認めていたCが,郵政公社への電話要請の点のみ供述を後退させ
る合理的理由は見いだしがたく,この点も,P7の供述に疑問を生じさ
せる一事情となる。
(カ)以上の諸点を併せ考えると,この点に関するP7の証言には一定の
疑問があり,Cの証言を排斥できないものである。
オ相反部分③に関する状況
(ア)相反部分③に関する,供述調書が作成された理由に関する前記のC
の証言は不明確な面はあるものの,要するに,大筋においては内容があ
っていたので,相反部分③については,記憶と異なっていたが,供述調
書に署名したというものと思われる。
そこで,この点について検討する。
(イ)P7は,相反部分③の供述も,4月19日から21日ころの取調べ
から出ていた旨供述する。
しかし,6月上旬ころの被告人に対する依頼について,その直後であ
る,4月21日付けの供述調書(甲83)の記載は,「6月初めころ,
Bから,『厚労省の公的証明について,きちんとした証明書が必要なの
で,被告人にお願いして,証明書を発行してほしい。早急にお願いしま
す。』と言われた。このときも,被告人と直接会い,被告人に対し,
『証明書を発行していただけませんか。』とお願いした。本件公的証明
書の作成日付は5月28日付けとなっているが,私が被告人に作成依頼
をしたのは,その数日後の6月初めころでなかったかと思う。」となっ
ている。Bが,Cに対して依頼した文言自体が,日付を遡らせての発行
を依頼するものではないし,それ以前から発行を依頼していたことにつ
いても供述していることからすると,結果として発行された証明書が,
Cが最後に被告人に依頼した日よりも前の日付であったとしても,それ
のみによって,厚労省側が日付を遡らせて発行したということにはつな
がらない。よって,当該供述調書の記載は,必ずしも日付を遡らせての
発行依頼があったとみることはできない。また,その後,6月7日付け
の供述調書(甲55)が作成されるまでの間に,複数の供述調書が作成
されているが,その中に日付を遡らせての発行を依頼した事実が記載さ
れた供述調書はない。
日付を遡らせての発行を依頼したという重要な点について,P7の証
言する時点から供述していたとすれば,その旨が,これらの供述調書に
記載されないことは考えにくいから,P7の証言する時点で,Cが日付
を遡らせての発行依頼をしたと供述していたことには疑いが残る。
(ウ)他方で,Bの5月15日付けの供述調書には,「6月4日以降,郵
便局から,公的証明書の原本の提出を求められたことから,私は,Cに
対して,厚労省を訪ねて,直接,企画課長に,第三種郵便の承認書が5
月末付けで出ているので,作成日付を5月中に遡らせて至急発行するよ
うにお願いするよう指示した。」旨の記載があり,その後である,6月
7日付けで,Cについて,初めて,日付を遡らせての発行を依頼した事
実が記載された調書が作成されていることに鑑みると,日付を遡らせて
の発行を依頼したことについて,取調官から,Bの供述調書の記載を踏
まえた誘導がなされている疑いが残るというべきである。
そして,その誘導は,後述するように,客観的な事実と整合しないも
のとみられる点がある。
(エ)以上のとおり,少なくとも,日付を遡らせての発行を依頼したとい
う供述部分に関しては,誘導によって録取された可能性があるといわざ
るを得ない。
カ供述調書作成の姿勢について
前記のとおり,4月21日付け検察官調書には,「企画課長」「被告
人」といった,具体的な役職や名前が出ているにもかかわらず,同年4月
26日付けの検察官調書では,「ある幹部職員」とだけ記載され,具体的
な役職や名前は伏せられた形での調書が作成されている。
この点について,P7は,「まだ関係者の取調べも済んでいないし,そ
れが100パーセント確実なものであるとすることまでは,ためらわれた
ことから,Cが「ある幹部」などと言っていたわけではないが,具体的な
名前を伏せた調書を1通作成しておくべきだと考えたからである。」と供
述する。
このような事情及び供述からも,供述をそのまま録取するのではなく,
他者との供述や検察官の意図に合わせて調書を作成しようとする検察官の
姿勢が窺われるのであり,供述調書の全体的な特信性に疑問を生じさせる
事情の一つとなる。
(2)公判供述の状況について
ア検察官の主張
検察官は,①C自身の公判が係属中であったこと,②Bをはじめとする
「a」関係者に配慮せざるを得ない状況にあったこと,③Iにも配慮せざ
るを得ない状況にあったことから,Cは,公判廷においては真実を供述す
ることができない状況にあったと主張する。
以下,このような主張の当否について検討する。
イ検討
(ア)主張①について
検察官が主張するように,Cは,本件の証人尋問当時,自己の公判が
継続中であり,自己の刑責の関係で,虚偽供述をなす可能性は,一般的
には否定できない。
しかし,Cは,本件公判で,被告人から本件公的証明書を手渡された
という本件でCの関与を基礎づけ得る重要な要素となる事実も認めてい
る。
この点については,被告人の手帳にもその旨の記載はなく,客観証拠
には直接これを裏付けるものはないにもかかわらず,公判でも認めてお
り,Cの公判供述は,必ずしも自己に不利益なことは否認していこうと
いうものともみられないのであり,自己の公判が係属中であることから,
前記の各相反部分について当然に真実を供述できない状況にあったとま
では認められない。
(イ)主張②について
Cは,前記各相反部分に関するBの依頼の事実,事後のBに対する報
告等に関する事実,Bから公的証明書をもらいに行くよう指示を受けた
事実,Hと共にIを訪問した事実といった,Bら「a」関係者に不利な
内容(しかも,自己の証言前に証人として証言したBが公判ではあいま
いな供述をしている部分,自己の証人尋問の後とはいえ,Hが強く否認
している部分。)を,公判において証言しているのであって,Cが,
「a」関係者への配慮から,公判において真実を証言することができな
い状況にあったとは認められない。
(ウ)主張③について
Cは,公判廷において,I事務所を訪問し,Iに,厚労省から証明書
を発行してもらうことに関して,厚労省に口利きをしてもらうよう依頼
したという,本件についてIの関与を基礎づけ得る事実は認めている。
Iは,本件捜査段階から,Cに依頼され厚労省に口利きをしたことを
強く否定しており,週刊誌にも,「『Ih党副代表』の怒髪天」との見
出しで「オレは知らん。なぜオレが厚労省に電話せないかんのや。迷惑
千万や。」などという記事が掲載されているのを,CはP7から示され,
取調べ中から,十分認識しており,さらに,I自身,弁護人申請証人と
して,Cの証人尋問より後の期日に公判で証人として尋問されることが
予定されている状態で,Iに対する厚労省への口利き依頼を明確に認め
ている。
確かに,検察官の主張するように,Cの手帳の2月25日の欄に,
「13:00I─iH氏」との記載があることからすると,Iに対し
て何らかの行動を取ったことは否定しづらい面はある。
しかし,当該記載は,必ずしも明確なものではなく,その記載から当
然にIに対する口利きの依頼の事実が導かれるものとまではいえず,口
利き依頼ではなく,名義使用の許諾の依頼や,単にHを紹介したのみで
ある等口利きよりもIの関与を小さく見せる内容の供述も不可能ではな
いにもかかわらず,Cは,口利きの事実自体は認める内容の供述をして
いるのであり,Cの公判証言に,Iへの配慮から真実を供述することが
できないまでの状況はうかがえない。
(エ)その他
一件記録によれば,Cは,検察官,弁護人双方申請の証人であるが,
検察官の証人テストには応じ,数回にわたって,証人テストが行われた
が,弁護人の証人テストには応じておらず,検察官の方に基本的には協
力的な態度をとっている。
(3)外部的情況からの検討
以上によれば,検察官の取調べには,大きな問題があったとまではいえな
いものの,誘導があったものとみられる上,供述者の供述をそのまま録取す
るのではなく,他者との供述や検察官の意図に合わせて供述調書を作成しよ
うとする姿勢が窺われる。他方,公判供述については外部的事情から公判供
述の信用性に疑いを生じさせる事情もみられず,これを総合すると,外部的
事情からは捜査供述に特信性があるとはいえないことになる。
4内容面について
検察官は,Cの捜査供述は,具体的で迫真性に富み,自然で合理的であること,
手帳の記載という客観的証拠と符合すること,B,Eらの捜査段階の供述とも符
合することなどから,内容面からも特信性があるのに対し,公判供述は,不自然,
不合理な点が多く,特信性はない旨主張する。これに対し,弁護人は,Cの捜査
段階の供述は,Iのゴルフプレーに関するゴルフ場からの回答,被告人との名刺
交換のないこと,供述内容自体に不自然,不合理な点があることなどに照らすと,
特信性はない旨主張する。
そこで,この点について検討する。
検察官が主張するようにCの検察官調書の記載は,具体的でそれなりに迫真
性があり,Cの手帳の記載という客観的証拠,B,Eらの捜査段階の供述とも
符合しており,検察官主張事実に照らすと自然で合理的であるとみることがで
きる。
他方,Cの捜査供述は,Cの手帳中,Cが,Dを訪ねるよう予定を立ててい
たものと認められる記載部分,Iのゴルフプレーに関するゴルフ場からの回答
状況,Cの関係場所から大量の名刺が発見され,その中にはDの名刺はあった
のに被告人の名刺は発見されなかったこと,Aの所持していたフロッピーに残
されていたデータの状況などからは不合理ともみられる点がある。これらの諸
点に照らすと,Cが公判で供述する事実経緯も全く不合理なものとはみられな
い。
以上によれば,供述内容は外部的事情を推認させる資料としての範囲でこれ
を考慮するという観点からは,供述内容自体から特信性を肯定させるまでには
至らないものである。
5結論
以上によれば,Cの検察官調書の相反部分に特信性があるということはでき
ない。
第10証拠採否についての結論
以上から,刑訴法321条1項2号に該当し必要性も認められる供述調書は
証拠として採用し,その余については取調べ請求を却下することとし,主文の
とおり決定する。
平成22年5月26日
大阪地方裁判所第12刑事部
裁判長裁判官横田信之
裁判官難波宏
裁判官田郷岡正哲

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