弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を次のとおり変更する。
     控訴人の請求を棄却する。
     原判決別紙目録記載の船舶は、被控訴人の所有であることを確認する。
     被控訴人その余の反訴請求はこれを棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも全部控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決を取消す。原判決別紙目録記載の船舶は控訴人の所有であ
ることを確認する。被控訴人の反訴請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被
控訴人の負担とする。」旨の判決を求め。
 被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め、更にその反訴請求を拡張して「若し控訴
人が被控訴人に対し本件船舶を引渡すことができないときは金百二十万円を支払わ
ねばならない。」旨の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張は、
 被控訴代理人において、控訴人は本件船舶をその後第三者に対し金百二十万円で
売却しているので若しその引渡を為すことができないときはこれが履行に代わる時
価相当の損害金百二十万円の支払を求める旨反訴請求を拡張すると述べ。
 控訴代理人は被控訴人の右主張事実中控訴人が本件船舶を他に売却したことは認
めるが、その余の事実特に右船舶の価格はこれを争うと述べた。
 以上の外は原判決事実摘示と同一(但し控訴代理人において、原判決の控訴人主
張の部に被控訴人が訴外白王水産株式会社に対し本件船舶に関する仮処分決定を受
けたのは昭和二十六年五月九日とあるも、これは同月十九日の誤記だから訂正する
と述べた。)であるからここにこれを引用する。
 証拠として。
 控訴代理人は、甲第一、二号証を提出し原審並びに当審証人A、B、C、当審証
人D、E、F、G、Hの各証言及び原審並びに当審における控訴本人尋問の結果を
援用し、乙第二号証の一、二は不知その他の同号各証はその成立を認めると述べ
た。
 被控訴代理人は、乙第一号証第二号証の一、二第三乃至第八号証を提出し、原審
証人I、当審証人J、K、L、原審並びに当審証人M、Nの各証言を援用し、甲第
一号証は不知、同第二号証は成立を認めると述べた。
         理    由
 一、 控訴人の主たる請求について。
 原判決別紙目録記載の本件船舶O丸がもと訴外Iの所有であつたことは、当事者
間に争がない。
 原審証人Bの証言により成立を認める甲第一号証成立に争のない同第二号証に原
審並びに当審証人A、B、原審証人I(但しその一部)の各証言及び原審並びに当
審における控訴本人尋問の結果を綜合すると、控訴人は昭和二十六年四月二十日右
訴外Iに対し金四十八万円を期間二ケ月の約束で貸与し、その債務について同訴外
人との間に右O丸を譲渡担保に供することとし、右支払期日に借受金を完済したと
きはこれを返還し、その登録換を為す旨の譲渡担保契約を締結し、同年五月十八日
右船舶を控訴人名義に登録換を為したことが認められる。
 然しながら成立に争のない甲第一号証、第三乃至第五号証、原審証人Mの証言に
より成立を認める同第二号証の一、二に原審並びに当審証人M、N、原審証人I、
当審証人L、Kの各証言を綜合すると被控訴人は昭和二十五年七月二十八日訴外白
王水産株式会社(社長I)との間に限度額を金七十万円と定めて手形割引の方法に
より金員を貸付けることとし、その債務の譲渡担保として、連帯保証人たる訴外I
は、その所有の右O丸を信託的に内外共に所有権を移転する旨、被控訴人主張の如
き根担保契約を締結し、同日占有改定によつて船舶の引渡を受け、更に即日右船舶
を訴外会社に使用貸借を為さしめた。
 而して訴外会社は右契約に基き同年八月十六日被控訴人宛に、額面金七十方円、
支払地八幡浜市、支払場所被控訴銀行八幡浜支店、支払期日同年十月二十日の約束
手形一通を振出し、被控訴人は同日訴外会社に対し金七十万円の割引貸付を為した
のであるが、訴外会社は期日にその支払をしなかつたので被控訴人は約旨に基いて
右船舶を代物弁済に充当するか或は任意に処分の上代金を支払に充当するかの権利
を取得し、従つて右訴外Iとの間においても完全に右船舶の所有権を取得したもの
である事実が認定せられる。
 右認定を覆えすに足りる証拠はない。然らば冒頭認定のように控訴人が訴外Iと
の間に本件船舶の譲渡担保契約を締結したとするもその当時本件船舶は既に被控訴
人の所有に帰し同訴外人は無権利者であつたこととなるから控訴人の右譲渡担保契
約に基き、右船舶の所有権を取得したと主張する主たる本訴請求はその理由がな
い。
 二、 控訴人の予備的請求について。
 控訴人は仮りに訴外Iに所有権がないとしても同訴外人に本件船舶処分の権限が
あると信じ、且信ずるについて過失なく善意平穏公然に本件船舶の引渡を受けて占
有を取得したものであるから民法第百九十二条によつてこれが所有権を取得した旨
主張するのでこれを検討するに本件船舶は前段認定のとおり控訴人がその主張の譲
渡担保契約を締結する当時は訴外Iの占有に属せず訴外白王水産株式会社の占有に
在つたものである。
 而して当審証人D、C、Hの各証言及び当審での控訴本人の供述の一部を綜合す
ると控訴人は本件船舶を昭和二十六年五月六日頃右訴外会社よりこれが引渡を受け
た事実が窺われるが仮りにその占有取得が控訴人主張のように平穏公然に行われ控
訴人が善意無過失であつたとするも控訴人は本件船舶の所有権を取得するものでは
ない。
 <要旨>惟うに民法第百九十二条は無権利の動産占有者を真実の権利者であると信
じ、その占有者より売買或は質権設定等の取引行為によりその占有を承継的
に取得する場合においてのみその取引の安全を確保する趣旨からしてその占有取得
者に原始的に所有権、質権を取得せしめるものであると解すべきである。
 然るに控訴人は本件船舶の占有者たる右訴外会社との間には何等の取引はなく、
従つてその占有取得は取引関係に基き為されたものではない。それは訴外会社の取
締役たるDが本件船舶の所有者は被控訴人であることを知らず控訴人を所有者と誤
認し控訴人の引渡要求を容れてその引渡が行はれたことは前記証人Dの証言により
認められる。
 このように取引関係に基くことなくして誤つて占有が取得された場合には前段説
示のように右法条に該当せず即時取得の効果は発生しないから控訴人が本件船舶の
所有権を取得する理由はない。
 然らば控訴人の右予備的請求もその余の判断をするまでなく失当であるから棄却
を免れない。
 三、 被控訴人の反訴請求について。
 被控訴人が本件船舶の所有権者であることは前段認定のとおりである。
 被控訴人は控訴人に対し本件船舶の所有権に基きこれが引渡を求め、更に控訴人
がこれを引渡すことができないときはこれが履行に代る損害即ち履行不能による損
害金の請求を為すものであるが控訴人が本件船舶を現に占有していないことは被控
訴人の自認するところである。従つて現に占有しないものに対して所有権に基く物
権的請求権を行使することのできないのは当然であるからこれが引渡を求める請求
は明らかに理由がない。
 又被控訴人は債権に基いてこれが引渡を求めるものでないから履行不能による損
害金の請求を求める部分は、それ自体理由がない。これは所有権の侵害による不法
行為上の損害賠償を求めるならば格別であるがこの点については被控訴人は何等の
主張も立証もしないものである。
 然らば被控訴人の反訴請求中所有権確認の点は相当として認容せられるがその余
の請求は失当だからこれを棄却すべきものとする。
 以上の認定に反する原判決は一部失当だからこれを主文のとおり変更すべきもの
とする。
 よつて民事訴訟法第三百八十六条第九十六条第八十九条第九十二条に従つて主文
のとおり判決する。
 (裁判長判事 石丸友二郎 判事 萩原敏一 判事 呉屋愛永)
 (別紙目録は省略する。)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛