弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成18年(行ケ)第10053号審決取消請求事件(平成18年9月14日口
頭弁論終結)
判決
原告大王製紙株式会社
訴訟代理人弁理士永井義久
同復代理人弁理士加藤和孝
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人種子浩明
同寺本光生
同岡田孝博
同大場義則
主文
特許庁が不服2003-7735号事件について平成17年12月
12日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成6年9月28日,発明の名称を「ティッシュペーパー収納箱」
とする特許出願(特願平6-232673号,以下「本件出願」という。)を
したが,平成15年3月27日付けで拒絶査定を受けたので,同年5月6日,
これに対する不服の審判を請求し,同年6月5日付け手続補正書により,明細
書全文について手続補正(以下「本件手続補正」という。)をした。
特許庁は,これを不服2003-7735号事件として審理した結果,平成
17年12月12日,本件手続補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り
立たない。」との審決をし,その謄本は,平成18年1月6日,原告に送達さ
れた。
2本件手続補正により補正された明細書(甲6,以下,願書に添付した図面
〔甲2参照〕と併せ,「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1
に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)の要旨
共通の裂開用ミシン目によって相接し,これに連なる非共通の裂開用ミシン
目を有し,基端に形成された底面長辺に平行で相互に平行な起立折目線部分を
残して,それぞれ裂開可能でかつ相対向して切り起こし可能な2個の屈折片を
箱の底部に形成した収納箱において,
前記共通の裂開用ミシン目は,前記起立折目線内側端にそれぞれ端を発し,
それぞれ相手側の屈折片の方向に張り出す上側係止片と,それぞれ前記上側係
止片と同じ方向に張り出す下側係止片と,が形成されるように構成することに
より,前記上側係止片と前記下側係止片とによって各屈折片側に食い込む係止
部が形成されるように構成し,
前記両屈折片を起立させたときに,前記各係止部がそれぞれ相手側の係止部
に食い込み前記各係止部の最奥部が相互に接触して係止されるように構成し,
前記両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記起立折目線との交差角度が,
92°~120°である,ことを特徴とするティシュペーパー収納箱。
3審決の理由
()審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願補正発明は,実公平2-41
2621号公報(甲7,以下「引用例1」という。)に記載された発明(以
下「引用例1発明」という。)及び実願昭55-010130号(実開昭5
6-113677号)のマイクロフィルム(甲8,以下「引用例2」とい
う。)に記載された発明(以下「引用例2発明」という。)に基づいて,当
業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件手続補正を却下
すべきであるとし,本件手続補正前の請求項1に係る発明も,同様に,引用
例1発明及び引用例2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができ
たものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることがで
きないとした。
()審決が認定した,本願補正発明と引用例1発明の一致点及び相違点はそれ2
ぞれ次のとおりである。
ア一致点
共通の裂開用ミシン目によって相接し,これに連なる非共通の裂開用ミ
シン目を有し,基端に形成された相互に平行な起立折目線部分を残して,
それぞれ裂開可能でかつ相対向して切り起こし可能な2個の屈折片を箱の
底部に形成した収納箱において,
前記共通の裂開用ミシン目は,前記起立折目線内側端にそれぞれ端を発
し,それぞれ相手側の屈折片の方向に張り出す上側係止片と,それぞれ前
記上側係止片と同じ方向に張り出す下側係止片と,が形成されるように構
成することにより,前記上側係止片と前記下側係止片とによって各屈折片
側に係止部が形成されるように構成し,
前記両屈折片を起立させたときに,前記各係止部の最奥部が相互に接触
して係止されるように構成した,ことを特徴とするティシュペーパー収納
箱。
イ相違点
(ア)相違点1
本願補正発明は,底面長辺に平行で相互に平行な起立折目線部分を構成
しているのに対して,引用例1発明は,相互に平行な起立折目線部分を構
成しているが,それが底面長辺に平行かどうか明らかでない点。
(イ)相違点2
本願補正発明は,上側係止片と前記下側係止片とによって各屈折片側に
食い込む係止部(係止部の最奥部で相互に押し合うもの)が形成されるよ
うに構成し,前記両屈折片を起立させたときに,前記各係止部がそれぞれ
相手側の係止部に食い込み前記各係止部の最奥部が相互に接触して係止さ
れるように構成し,前記両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記起立折
目線との交差角度が,92°~120°であるのに対して,引用例1発明
は,上側係止片と前記下側係止片とによって各屈折片側に食い込まない係
止部(係止部の最奥部で相互に押し合わないもの)が形成されるように構
成され,前記両屈折片を起立させたときに,前記各係止部がそれぞれ相手
側の係止部に食い込まないで,前記各係止部の最奥部が相互に接触して係
止されるように構成され,前記両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記
起立折目線との交差角度が,92°~120°ではなく,90°である点。
第3原告主張の審決取消事由
審決は,引用例2発明の認定を誤り(取消事由1),相違点2についての判
断を誤り(取消事由2),その結果,本願補正発明が引用例1発明及び引用例
2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができると誤って判断した
ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1取消事由1(引用例2発明の認定の誤り)
()審決は,引用例2には,引用例2発明,すなわち,「共通の中央のミシン1
目によって相接し,これに連なる非共通の外側のミシン目を有し,それぞれ
裂開可能でかつ相対向して切り起こし可能な2個の押し上げ片を箱の底部に
形成した収納箱において,各押し上げ片側に食い込む係止用凹み(係止用凹
みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成されるように構成し,前記両押し
上げ片を起立させたときに,前記各係止用凹みがそれぞれ相手側の係止用凹
みに食い込み前記各係止用凹みの最奥部が相互に接触して係止されるように
構成した,ティシュペーパー収納箱。」(審決謄本4頁最終段落~5頁第1
段落)が記載されていると認定したが,引用例2には,「各押し上げ片側に
食い込む係止用凹み(係止用凹みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成さ
れる」ものは記載されていないので,審決の同部分の認定は,誤りである。
()本願補正発明において,「各屈折片側に食い込む係止部」とは,「係止部2
同士が,各係止部の最奥部で,相互に押し合う」(審決謄本2頁第2段落)
関係にある係止部をいう。そして,本願補正発明において,屈折片の起立時
に係止部同士が各係止部の最奥部で相互に押し合うのは,屈折片のたわみと
その復元力によるものであり,そのことにより,両屈折片が係止点において
強固に係止されることとなる。
()審決は,引用例2発明について,「ここで,引用例2には,係止用凹みが,3
各押し上げ片側に食い込む(係止用凹みの最奥部で相互に押し合うもの)よ
うに構成すること及び各係止用凹みがそれぞれ相手側の係止用凹みに食い込
み前記各係止用凹みの最奥部が相互に接触して係止されることについて,明
示的記載はない。しかし,ティシュペーパー収納箱が,紙製であることは,
引用例2の出願時における技術常識であるから,両押し上げ片を起立させる
と,それぞれが撓みを生じることになり,その撓みの復元力で,各係止用凹
みは,それぞれの最奥部で相互に押し合うことになるので,『係止用凹みが,
各押し上げ片側に食い込むように構成すること及び各係止用凹みがそれぞれ
相手側の係止用凹みに食い込み前記各係止用凹みの最奥部が相互に接触して
係止されること』は,e及びfの記載と,上記技術常識を参酌することによ
り導き出せるものであり,引用例2に記載されているに等しい事項であ
る。」(審決謄本5頁第2段落~第3段落)とする。
しかし,審決が理由とする引用例2の「e及びfの記載」中に,「係止用
凹みが,各押し上げ片側に食い込む(係止用凹みの最奥部で相互に押し合う
もの)ように構成すること及び各係止用凹みがそれぞれ相手側の係止用凹み
に食い込み前記各係止用凹みの最奥部が相互に接触して係止されること」の
開示や示唆はない。「eの記載」中には,「両押し上げ片8,8同志がよく
係合し,かつ係止用凹み9,9でうまくかみ合って係止することができる」
(引用例2の5頁第2段落)との記載があるが,これは,これに先立つ「か
み合わないように考えられるが」の記載を受けているだけであり,本願補正
発明のように「最奥部で相互に押し合う」形態で係止することを意味する記
載ではない。
また,引用例2発明において,両押し上げ片を起立させると,押し上げの
過程においては,押し上げ片はたわみを生じるが,係止用くぼみ相互の係止
が完了した時点においては,押し上げ片のたわみは解放されるから,それぞ
れの最奥部で相互に押し合うことにならない。
そして,引用例2の公告公報である実公昭57-57025号公報(甲
9)の記載に照らせば,引用例2のものにおいて,「係止用凹み」でうまく
かみ合って係止するのは,同公報の実用新案登録請求の範囲に記載されたと
おり,係止くぼみ用切取線を「基部がわを中央の切取線とほぼ直角方向にし,
頂部がわを中央の切取線に対して斜めにした」ことにあるのであって,「係
止用凹み9,9」(係止部)の最奥部相互を繋ぐ仮想線と「折り線10,1
0」との交差角度θに起因するものではない。
したがって,引用例2には,「係止用凹みが,各押し上げ片側に食い込む
(係止用凹みの最奥部で相互に押し合う)」ことの開示や示唆はなく,「係
止用凹み9,9」(係止部)の最奥部相互を繋ぐ仮想線と「折り線10,1
0」との交差角度θは,不明で,鋭角若しくはせいぜい90°であり,仮に,
本件明細書の【図8】の形態と同様に,「係止用凹み9,9」の最奥部相互
を繋ぐ仮想線と「折り線10,10」との交差角度が90°であっても,
「係止用凹み9,9」は,それぞれの最奥部で力が作用しない状態で接触し
ているにすぎず,「最奥部で相互に押し合う」ことになるとは到底いえない。
()被告は,引用例2において,「係止用凹み9,9」の深さと位置により,4
交差角度が変化するものであるところ,引用例2にはその深さと位置を限定
する記載はなく,しかも,第3図等に示されているような位置で深さが浅け
れば,引用例2発明の交差角度が鈍角となり得るとして,引用例2には,引
用例2発明の交差角度が鈍角であることも示され,「各押し上げ片側に食い
込む係止用凹み(係止用凹みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成され
る」ものが記載されている旨主張するが,引用例2には,被告が主張する
「係止用凹み9,9」の深さと位置とを変化させることについて,開示や示
唆はないから,被告の主張は,前提を欠くものである。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)
()審決は,「引用例1発明に,引用例2発明を適用して,引用例1発明にお1
いても,その係止部が各屈折片側に食い込むように形成し,前記各係止部が
それぞれ相手側の係止部に食い込むようにして,前記各係止部の最奥部が相
互に接触して係止されるように構成すると,引用例1発明における相互に接
触する両係止部の最奥部が,互いに手前に位置するようになるので,前記両
係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記起立折目線との交差角度が,90°
より大きくなることは,自明なことである。そして,この交差角度の範囲を
特定することは,単なる設計上の数値の特定である。故に,引用例1発明に
おけるティッシュペーパー収納箱に,ティッシュペーパー収納箱の技術分野
の点で,技術分野の関連性を有する引用例2発明のティシュペーパー収納箱
を適用して,引用例1発明において,上側係止片と前記下側係止片とによっ
て各屈折片側に食い込む係止部が形成されるように構成し,前記両屈折片を
起立させたときに,前記各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込み前記
各係止部の最奥部が相互に接触して係止されるように構成し,前記両係止部
の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記起立折目線との交差角度を,90°より大
きくし,その際に,この交差角度を,92°~120°に設計上の数値の特
定をなし,相違点2に係る本願補正発明のような構成をとろうとすることは,
当業者ならば容易に想到し得たことである。」(審決謄本7頁第2段落~第
3段落)と判断したが,誤りである。
()引用例2発明の係止部も,引用例1発明のものと同様に,「各屈折片側に2
食い込まない係止部(係止部の最奥部で相互に押し合わないもの)」であり,
交差角度θは不明で,鋭角若しくはせいぜい90°であるから,そもそも引
用例1発明に引用例2発明を適用する動機付けがないし,仮に,引用例2発
明を適用したとしても,交差角度θを90°より大きくする動機付けがなく,
「両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記起立折目線との交差角度を,9
0°より大きくし,その際に,この交差角度を,92°~120°に設計上
の数値の特定をな(す)」ことを容易に想到することはできない。
また,本願補正発明において,交差角度が92°~120°とする構成は,
「屈折片を切り起こして使用する時,互いに係止し合う屈折片同士が,双方
で折目方向に沿って押し合う形となる。したがって,折目方向に沿った外側
の方向に力がかかった場合,たとえばティシュペーパー収容箱の底部が鉛直
上側方向に撓んだ場合であっても,屈折片同士の係止関係は崩壊し難い。」
(本件明細書の段落【0009】),「係止点34A,34Bを結んだ仮想
線Lと折目線32A,32Bとが形成する角度θが大きすぎると,S字部,
逆S字部が引っ掛かり,ゆがみが大きくなることで指で押し成形することが
困難となる。」(同段落【0017】)ことを回避するという特有の作用効
果をもたらすことに関する構成であるから,当業者ならば容易に想到し得た
とすることはできない。このような本件件明細書に記載された作用効果は,
大宮製紙株式会社商品開発部A作成の実験報告書(甲10)からも明らかで
ある。
()被告は,実願昭54-144481号(実開昭56-62981号)のマ3
イクロフィルム(乙1,以下「乙1マイクロフィルム」という。)によれば,
「ティシュペーパー収納箱において,両屈折片を起立させ係止が完了したと
きに,各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込むようにすること」とい
う技術(以下「乙1技術」という。)は,本件出願時に当該技術分野におい
て広く知られていた技術であるとして,引用例1発明において,引用例2発
明又は本件出願時に当該技術分野において広く知られていた乙1技術を参考
として,両屈折片を起立させたときに,各係止部がそれぞれ相手側の係止部
に食い込むようにすることは,当業者ならば,容易に想到し得たということ
ができる旨主張する。
しかし,乙1技術は,「共辺部3上の一点の掛止(係止)点」が「相互に
押し合う」ものであるとしても,その「共辺部3上の一点の掛止(係止)
点」を,本願補正発明の「係止部」に相当するものとすることは誤りである。
すなわち,本願補正発明の「係止部」は,特許請求の範囲の記載からも,
「最奥部」を有するものであることは明らかであるのに対し,乙1マイクロ
フィルムの「共辺部3上の一点の掛止(係止)点」は,「最奥部」を有する
ものでないから,乙1技術は,本願補正発明の係止部の「最奥部が相互に接
触し」「各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込」むものではない。そ
して,「係止部」を有しない乙1技術を,係止部を有する引用例1発明に適
用する動機付けは存在しない。
また,乙1マイクロフィルムにおいては,被告が指摘する,「相互に押し
合う」という,共辺部の全域がおおむね直線をなしているという第1図に示
された形態の係止のレベルは,強固なものでなく,わん曲部分または折り曲
がり部分上の肩において,相互にもたれ合う形態で接触するという第2図及
び第3図の形態で接触するものの方が,舌片の掛止が一層強固となることを
示している。したがって,被告が指摘する乙1マイクロフィルムの第1図の
形態は,最適なものではないことが明らかにされているのであるから,その
ような「共辺部3上の一点の掛止(係止)点」が「相互に押し合う」技術を
引用例1発明に適用することには,動機付けがないし,阻害要因があるとい
える。
さらに,引用例1発明は,S字状部17に沿っている途中の過程で,押し
合うという過程を経過しながら,そこでは掛止することなく,「基点15,
15’が対面する位置で張出部b’,c’およびb,cの谷間で交叉するよ
うに掛止する」ものであり,また,「基点15,15’が対面する位置で張
出部b’,c’およびb,cの谷間で交叉するように掛止する」もので足り
るのであるから,これをあえて,谷間の「最奥部」を「食い込む」(押し合
う)ようにする動機付けがない。
そして,本願補正発明の構成による特有の作用効果は,屈折片のたわみと
その復元力によってもたらされるものであるところ,作用効果の点から構成
をみれば,引用例1,引用例2及び乙1マイクロフィルムをどのような形態
で組み合わせても,当業者が,係止部(谷間)の「最奥部」で「食い込む」
(押し合う)ようにする構成を想到することはできない。
第4被告の反論
審決の認定及び判断には誤りはなく,原告主張の審決取消事由はいずれも理
由がない。
1取消事由1(引用例2発明の認定の誤り)について
()原告は,引用例2には,「各押し上げ片側に食い込む係止用凹み(係止用1
凹みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成される」ものは記載されていな
い旨主張するが,失当である。
()引用例2には,「外側のミシン目6”,6”を中央のミシン目6’より押2
し上げ片の基部がわ8”でやや長くして基部8”がわの中央のミシン目6’
と外側のミシン目6”との間にそれぞれ傾斜した折り線10,10を設けて,
この折り線10,10より押し上げ片8,8を折り曲げると,押し上げ片8,
8は互いに外側方向へと屈曲して互いに係止用凹み9,9でかみ合わないよ
うに考えられるが,実際に試作品を造つて実験してみると紙箱の底壁に設け
た両押し上げ片8,8同志がよく係合し,かつ係止用凹み9,9でうまくか
み合つて係止することができる。」(5頁第2段落),「この考案のティシ
ュぺーパー用箱の底壁に設けた押し上げ片形成用切取線に沿つて切取ること
により形成した押し上げ片の基部がわを実施例のように傾斜した折り線にし
たことにより両押し上げ片を箱の中へと折り線に沿つて折り曲げると押し上
げ片同志が互いによく係合することができるし,更に押し上げ片の頂部近く
にそれぞれ係止用凹みを設けたことにより両押し上げ片は係止用凹みで互い
によくかみ合うためによく係止して押し上げ片が倒れることがないから,箱
に収容した残りのティシュペーパーを常に確実に押し上げていることができ
る。」(6頁第2段落)と記載され,第3図には底面図が示され,第5図に
は要部の拡大底面図が示され,第7図には別の実施例の要部の拡大底面図が
示されている。
そして,上記の「外側のミシン目6”,6”を中央のミシン目6’より押
し上げ片の基部がわ8”でやや長くして基部8”がわの中央のミシン目6’
と外側のミシン目6”との間にそれぞれ傾斜した折り線10,10を設け
て」の記載からみて,「折り線10,10」と「中央のミシン目6’」との
成す角度が90°以上の鈍角になることは明らかであって,「折り線10,
10」と両「係止用凹み9,9」の最奥部相互を繋ぐ仮想線との成す角度
(以下「引用例2発明の交差角度」という。)は,「係止用凹み9,9」の
深さと位置により変化することとなるが,引用例2にはその深さと位置を限
定する記載はない。したがって,第3図,第5図あるいは第7図に示されて
いるような位置で係止用くぼみの深さが浅ければ,引用例2発明の交差角度
が,「折り線10,10」と「中央のミシン目6’」との成す角度よりも小
さくなるものの,鈍角となり得ることは,幾何学的に明らかである。
そうすると,引用例2には,引用例2発明の交差角度が鈍角であることも
示されているということができ,引用例2には,「各押し上げ片側に食い込
む係止用凹み(係止用凹みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成される」
ものも記載されているのであり,審決の引用例2発明の認定には誤りはない。
原告は,引用例2発明の交差角度は,不明であり,鋭角若しくはせいぜい
90°であると主張しているが,引用例2全体の記載からみて,そのように
のみ解釈する技術的必然性ないし合理的な理由は見当たらない。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
()原告は,審決が引用例2発明の認定を誤っていることを前提として,審決1
の相違点2についての容易想到性判断を誤りであると主張するが,前記1の
とおり,審決の引用例2発明の認定に誤りはないから,原告の主張は前提を
欠き,失当である。
()乙1マイクロフィルムによれば,「ティシュペーパー収納箱において,両2
屈折片を起立させ係止が完了したときに,各係止部がそれぞれ相手側の係止
部に食い込むようにすること」(乙1技術)は,本件出願時に当該技術分野
において広く知られていた技術である。
他方,引用例1発明の課題は,「本考案は,上記したような隣接する一対
の揚支片を押し込んで係止する際に生じる押し込み困難性,揚支片の変形,
不安定で不確実を係止などの問題点を解決するもの」(引用例1の2頁第3
欄最終段落)であるから,不確実な係止という問題点を解決するために,引
用例1発明における最奥部で相互に接触させた係止部同士の接触の度合いを,
少し強くするか,少し弱くするか検討することは,当業者であれば,設計上
当然行うことである。
したがって,引用例1発明において,引用例2発明又は本件出願時に当該
技術分野において広く知られていた乙1技術を参考として,両屈折片を起立
させたときに,各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込まない点を,各
係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込むようにすることは,当業者なら
ば,容易に想到し得たということができる。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(引用例2発明の認定の誤り)について
()審決は,引用例2には,引用例2発明,すなわち,「共通の中央のミシン1
目によって相接し,これに連なる非共通の外側のミシン目を有し,それぞれ
裂開可能でかつ相対向して切り起こし可能な2個の押し上げ片を箱の底部に
形成した収納箱において,各押し上げ片側に食い込む係止用凹み(係止用凹
みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成されるように構成し,前記両押し
上げ片を起立させたときに,前記各係止用凹みがそれぞれ相手側の係止用凹
みに食い込み前記各係止用凹みの最奥部が相互に接触して係止されるように
構成した,ティシュペーパー収納箱。」(審決謄本4頁最終段落~5頁第1
段落)が記載されていると認定したところ,原告は,引用例2には,「各押
し上げ片側に食い込む係止用凹み(係止用凹みの最奥部で相互に押し合うも
の)が形成される」ものは記載されていないとして,審決の同部分の認定は
誤りである旨主張する。
()まず,原告主張の点に関する本願補正発明の構成について検討する。2
ア本願補正発明は,前記第2の2の本願補正発明の要旨によれば,収納箱
の底部に形成された相対向する2個の屈折片を起立させたとき,相互に「各
屈折片側に食い込む係止部」を形成して,当該係止部の「最奥部」において
屈折片が相互に接触して係止し,当該最奥部相互をつなぐ仮想線と基端に形
成された相互に平行な起立折目線との交差角度が「92°~120°」であ
るという構成を有するものである。ここで,「各屈折片側に食い込む係止
部」,「最奥部」の技術的意義が必ずしも明らかとはいえない。
イそこで,本件明細書の発明の詳細な説明をみると,以下の記載がある。
(ア)「【作用】本発明に係るティシュペーパー収納箱においては,実質的
な係止関係を形成する係止点を繋ぐ線と,起立折目線との交差角度が鈍
角とされている。このため,屈折片を切り起こして使用する時,互いに
係止し合う屈折片同士が,双方で折目方向に沿って押し合う形となる。
したがって,折目方向に沿った外側の方向に力がかかった場合,たとえ
ばティッシュペーパー収容箱の底部が鉛直上側方向に撓んだ場合であっ
ても,屈折片同士の係止関係は崩壊し難い。」(段落【0009】)
(イ)「中央ミシン目31は,折目線内側端33D,33Cにそれぞれ端を
発し,屈折片40A,40Bに,それぞれ相手側の屈折片の方向に張り
出す上側係止片41A,41Bを形成するように,係止点34A,34
Bまで延在する上側張出部31A,31Bと,屈折片40A,40Bに
それぞれ上側張出部31A,31Bと同じ方向に張り出す下側係止片4
2A,42Bを形成するように,係止点34A,34Bと,対称点35
とを繋いでなる下側張出部31C(S字,逆S字部に相当する。)とに
よって構成されている。また,上側係止片41,下側係止片42によっ
て係止部が構成されており,屈折片40A,40Bを起立させたときに,
この係止部が相手の屈折片40B,40Aに食い込む。係止点34は係
止部の最奥部にあたる。この中央ミシン目31は,切り起こして使用す
る際に係止される関係上,対称点35を対称点とした点対称形状とされ
ている。そして,係止点34A,34Bを結んだ仮想線Lと折目線32
A,32Bとが形成する角度θは95°とされている。切り起こして使
用される屈折片40A,40Bは,図3および図4に示すように,係止
点34でそれぞれが接触して係止されるが,仮想線Lが傾斜を有してい
るため,係止されている屈折片40A,40Bには,矢印で示す方向と
反対方向に若干の撓みを生じる。撓んでいる屈折片40A,40Bには
復元力が発生し,その復元力によって上側係止片41A,41Bがそれ
ぞれ矢印で示す方向に付勢され,屈折片40A,40Bは係止点34に
おいて強固に係止される。したがって,たとえば底面20がティシュペ
ーパー収納箱10の内面方向に向けて撓んだ場合でも,切り起こされた
屈折片40A,40Bの係止関係が崩れることはほとんどなくなる。」
(段落【0012】~【0014】)
(ウ)「たとえば図6に示すように,切込み部分を除いて,中央線が同一直
線上に存在するようにしてもよい。また,図7に示すように,各折目線
が裂開用ミシン目と繋がれていない態様とすることもできる。また,係
止点34A,34Bを結んだ仮想線Lと折目線32A,32Bとが形成
する角度θが大きすぎると,S字部,逆S字部が引っ掛かり,ゆがみが
大きくなることで指で押し成形することが困難となる。この点に鑑み,
本発明者等が実験を行った結果,角度θは,屈折片の大きさや材質等に
も影響されるが,92°~120°の範囲に設定するのが望ましく,そ
の範囲内で最も好ましい角度が95°であることも判明した。」(段落
【0016】,【0017】)
(エ)「【発明の効果】以上の説明から明らかなとおり,本発明によれば,
切り起し時に係止状態とされている両屈折片の係止力が大きくなり,も
って両屈折片の係止関係が容易に崩壊することのないティシュペーパー
収納箱を提供することが可能となる。」(段落【0018】)
ウ上記記載によれば,本願補正発明において,係止部は,屈折片に形成さ
れた上側係止片及び下側係止片で構成され,係止部の最奥部に当たる点が
係止点となり,各屈折片が係止する。
そして,本願補正発明は,「前記両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と
前記起立折目線との交差角度が,92°~120°」という構成を有する
ものであり,特許請求の範囲の「前記両屈折片を起立させたときに,前記
各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込み前記各係止部の最奥部が相
互に接触して係止される」との記載を併せ考えると,本願補正発明は,係
止時において,「各屈折片側に食い込む係止部」の「最奥部」が,それぞ
れ,対向する係止部の最奥部において,単に,相互に接触して係止するの
みならず,屈折片の若干のたわみにより,相互に押し合う状態を生じさせ
る構成であり,その結果,屈折片の最終的な係止状態において,より強固
な係止力を発揮させるという作用効果を奏するものであることが認められ
る。
()他方,引用例2(甲8)には,以下の記載がある。3
ア「上面に取出口用切取線を設けたティシュペーパーの紙箱において,該
箱の底壁に2個の押し上げ片が相対向するとともに互いに側部が相接し,
かつ互いに押し上げ片の頂部と基部とがほぼ同じ位置になるように押し上
げ片形成用切取線を設け,該切取線の中央の切取線に沿って押し上げ片の
頂部近くにそれぞれ係止用凹み用切取線を設けるとともに外側の切取線を
押し上げ片の基部がわで中央の切取線よりやや長くして押し上げ片の基部
がわの中央の切取線端部と外側の切取線端部との間にそれぞれ傾斜した折
り線を設けてなるティシュペーパー用箱。」(実用新案登録請求の範囲)
イ「外側のミシン目6”,6”を中央のミシン目6’より押し上げ片の基
部がわ8”でやや長くして基部8”がわの中央のミシン目6’と外側のミ
シン目6”との間にそれぞれ傾斜した折り線10,10を設けて,この折
り線10,10より押し上げ片8,8を折り曲げると,押し上げ片8,8
は互いに外側方向へと屈曲して互いに係止用凹み9,9でかみ合わないよ
うに考えられるが,実際に試作品を造つて実験してみると紙箱の底壁に設
けた両押し上げ片8,8同志がよく係合し,かつ係止用凹み9,9でうま
くかみ合つて係止することができる。」(5頁第2段落)
ウ「この考案のティシュぺーパー用箱の底壁に設けた押し上げ片形成用切
取線に沿つて切取ることにより形成した押し上げ片の基部がわを実施例の
ように傾斜した折り線にしたことにより両押し上げ片を箱の中へと折り線
に沿つて折り曲げると押し上げ片同志が互いによく係合することができる
し,更に押し上げ片の頂部近くにそれぞれ係止用凹みを設けたことにより
両押し上げ片は係止用凹みで互いによくかみ合うためによく係止して押し
上げ片が倒れることがないから,箱に収容した残りのティシュペーパーを
常に確実に押し上げていることができる。」(6頁第2段落)
()上記()によれば,引用例2には,「共通の中央のミシン目によって相接43
し,これに連なる非共通の外側のミシン目を有し,それぞれ裂開可能でかつ
相対向して切り起こし可能な2個の押し上げ片を箱の底部に形成した収納箱
において,各押し上げ片に係止用くぼみが形成されるように構成し,前記両
押し上げ片を起立させたときに,前記各係止用くぼみがそれぞれ相手側の係
止用くぼみとかみ合って係止されるように構成した,ティシュペーパー収納
箱。」が記載されている。
そうすると,引用例2には,ティッシュペーパー収納箱の底部に形成され
た2個の押し上げ片を起立させたとき,各係止用くぼみが,それぞれ相手方
の係止用くぼみとかみ合って係止されることが記載されており,その点で,
本願補正発明と同様に,上側及び下側係止片で構成される係止部を有するこ
とにより係止するものであるが,引用例2発明の「係止用凹み」は,本願補
正発明の「前記両係止部の最奥部相互をつなぐ仮想線と前記起立折目線との
交差角度が,92°~120°」となる構成を有していないため,単に,係
止部において,相互に接触して係止するのみであり,本願補正発明と異なっ
て,係止時に屈折片にたわみが生じないので,係止部の「最奥部」が押し合
わず,「各係止部が相手方の係止部に食い込(む)」という構成を有するも
のではない。
確かに,引用例2の上記記載によれば,引用例2発明においては,「外側
の切取線を押し上げ片の基部がわで中央の切取線よりやや長くして押し上げ
片の基部がわの中央の切取線端部と外側の切取線端部との間にそれぞれ傾斜
した折り線」が設けられているため,その押し上げ片を起立させる際,当初
は,各押し上げ片は共辺部において相互に押し合う関係になる。しかし,各
押し上げ片は,頂部近くに設けられた係止用くぼみが相互にかみ合うことに
より係止されるのであり,その係止の際,なお,係止用くぼみが相互に押し
合うことについては,引用例2には何ら記載もないし,示唆もない。引用例
発明2には,本願補正発明のような,係止時における屈折片のたわみにより,
係止部の「最奥部」において,相互に押し合う状態を生じさせるようにし,
その結果,強固な係止力を発揮させるという技術的思想がないものといわざ
るを得ない。
したがって,引用例2には,本願補正発明の「前記両屈折片を起立させた
ときに,前記各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込(む)」という構
成が記載されていないので,「各押し上げ片側に食い込む係止用凹み(係止
用凹みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成される」ものは記載されてい
ないといわざるを得ず,これが記載されているとして引用例2発明を認定し
た審決は誤りである。
()被告は,引用例2において,「折り線10,10」と「係止用凹み9,5
9」の最奥部相互をつなぐ仮想線とのなす角度(引用例2発明の交差角度)
は,「係止用凹み9,9」の深さと位置により変化することとなるが,引用
例2には,その深さと位置を限定する記載はなく,引用例2の第3図,第5
図あるいは第7図に示されているような位置で深さが浅ければ,引用例2発
明の交差角度が鈍角となるのであるから,引用例2には,引用例2発明の交
差角度が鈍角であることも示されており,「各押し上げ片側に食い込む係止
用凹み(係止用凹みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成される」ものが
記載されていると主張する。
しかし,引用例2の記載及び図面において,係止用くぼみの位置及び深さ
を変えることについては,記載もなく,また示唆もされていない。前記のと
おり,引用例2には,本願補正発明のような,係止時において,屈折片のた
わみにより,係止部の「最奥部」において,相互に押し合う状態を生じさせ
るようにし,その結果,強固な係止力を発揮させるという技術的思想がなく,
係止用くぼみがかみ合うことにより係止するという構成の発明が記載されて
いると解するほかないのであり,被告の上記主張は,前提を欠くものである。
()したがって,審決の引用例2発明の認定は誤りであり,この誤りが審決の6
結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,原告主張の取消事由1は理由
がある。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
()審決は,「引用例1発明におけるティッシュペーパー収納箱に,ティッシ1
ュペーパー収納箱の技術分野の点で,技術分野の関連性を有する引用例2発
明のティシュペーパー収納箱を適用して,引用例1発明において,上側係止
片と前記下側係止片とによって各屈折片側に食い込む係止部が形成されるよ
うに構成し,前記両屈折片を起立させたときに,前記各係止部がそれぞれ相
手側の係止部に食い込み前記各係止部の最奥部が相互に接触して係止される
ように構成し,前記両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記起立折目線と
の交差角度を,90°より大きくし,その際に,この交差角度を,92°~
120°に設計上の数値の特定をなし,相違点2に係る本願補正発明のよう
な構成をとろうとすることは,当業者ならば容易に想到し得たことであ
る。」(審決謄本7頁第4段落)と判断したが,原告は,その判断の誤りを
主張する。
()審決の上記判断は,引用例2発明が,両屈折片を起立させたときに,係止2
用くぼみの最奥部で,相互に押し合うという構成を有することを前提として,
両屈折片を起立させたときに,係止用くぼみの最奥部が相互に押し合うとい
う構成を有さない引用例1発明に引用例2発明を適用すれば,各係止部がそ
れぞれ相手側の係止部に食い込み,両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前
記起立折目線との交差角度を92°~120°に特定するという,相違点2
に係る本願補正発明の構成をとることが,当業者ならば容易に想到し得たと
するものである。
しかし,上記1のとおり,引用例2発明は,「各押し上げ片側に食い込む
係止用凹み(係止用凹みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成される」も
のではなく,係止用くぼみの最奥部で,相互に押し合い,各係止部がそれぞ
れ相手側の係止部に食い込むという構成を有しないものであって,この点は
引用例1発明と同様である(前記第2の3()イ(イ)の相違点2の認定参照)2
から,そもそも引用例1発明に引用例2発明を適用する動機付けを欠くとい
うほかない。
したがって,引用例2発明の誤った認定を前提としてされた,相違点2に
ついての審決の判断は,誤りであるといわざるを得ない。
()被告は,乙1マイクロフィルムをあげて,ティシュペーパー収納箱におい3
て,両屈折片を起立させ係止が完了したときに,各係止部がそれぞれ相手側
の係止部に食い込むようにすることは,本件出願時に当該技術分野において
広く知られていた技術であること,不確実な係止という引用例1発明の課題
点を解決するために,引用例1発明における,最奥部で相互に接触させた係
止部同士の接触の度合いを,少し強くするか,少し弱くするか検討すること
は,当業者であれば,設計上当然行うことであるとして,引用例1発明にお
いて,引用例2発明や本件出願時に当該技術分野において広く知られていた
技術を参考にして,両屈折片を起立させたときに,各係止部がそれぞれ相手
側の係止部に食い込まない点を,各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い
込むようにすることは,当業者ならば,容易に想到し得た旨主張する。
アそこで,検討すると,乙1マイクロフィルムには以下の記載がある。
(ア)「本考案は,ティシュペーパー収納箱の底部に略S字形(又は略逆S
字形)の裂開可能部を設け,該裂開可能部に沿って箱底部を内側に裂開
して形成される二つの舌片を互いに掛止させることによって,収納され
ているペーパーの持ち上げ及び支持を効果的にしたティシュペーパー収
納箱を提供するものである。」(2頁最終段落~3頁第1段落)
(イ)「第1~3図に示すように本考案に従ってティシュペーパー収納箱の
底部に設けられる裂開可能部は,端辺部1,1’,側辺部2,2’,及
び該側辺部に挟まれた共辺部3とから成る略S字形又は略逆S字形を成
す。・・・しかして,本考案に従えば,共辺部3は,少なくともその中
央部分が側辺部2,2’と鋭角を成していることが必要である。」(3
頁第2段落)
(ウ)「箱の底部に上記のごとき形状の裂開可能部を形成しておけば,第4
図のように該裂開可能部に沿って箱底部を内側に裂開することによって
二つの舌片が形成され,該舌片は共辺部上の一点で掛止し合うことによ
って箱内部に収納されているティシュペーパーを持ち上げ,支持するこ
とができる(第5図参照)。このときミシン目等の裂開によって生じた
共辺部上の凸状部の存在によって舌片の掛止が一層容易になる。本考案
に従い収納箱の底部に設けられる略S字形または略逆S字形の裂開可能
部は,第1図に示すように,その共辺部の全域が概ね直線を成していて
もよい。しかしながら,本考案の好ましい態様においては,共辺部は,
その中央部分が側辺部と鋭角を成すと共に,その両端にわん曲部分4,
4’(第2図参照),あるいは,側辺部と鈍角を成す折れ曲がり部分5,
5’を有するようにしておく(第3図参照)。このような形状の裂開可
能部に沿って箱底部を内側に裂開した場合は,生じる二つの舌片は,共
辺上のわん曲部分または折り曲がり部分上においても互いに接触するこ
とができ,両舌片の掛止が一層強固になる。」(3頁最終段落~5頁第
1段落)
イこれによれば,乙1マイクロフィルムには,ティシュペーパー収納箱の
底部に,端辺部1,1’,側辺部2,2’,及び,該側辺部に挟まれ,少
なくともその中央部分が側辺部2,2’と鋭角を成す共辺部3とから成る
略S字形又は略逆S字形の裂開可能部を設け,該裂開可能部に沿って箱底
部を内側に裂開して形成される二つの舌片を互いに共辺部上の一点で掛止
させることによって,収納されているペーパーを持ち上げ,支持すること
ができるようにした技術が記載され,共辺部の全域が直線であってもよい
が,両端にわん曲部分あるいは折れ曲がり部分を形成すると,両舌片の掛
止が一層強固になることが記載されている。
したがって,乙1マイクロフィルムには,「ティッシュペーパー収納箱
において,両屈折片を起立させ係止が完了したときに,各係止部がそれぞ
れ相手方の係止部に食い込むようにする技術」(乙1技術)が開示されて
おり,乙1マイクロフィルムが本件出願の13年前である昭和56年に公
開されたものであることからすると,本件出願時,本願補正発明に係る技
術分野において広く知られていた技術であるといえないこともない。
しかし,乙1技術は,両屈折片を起立させ係止が完了したときに,各係
止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込むようにするというものであるが,
そもそも,乙1技術は,二つの舌片を互いに共辺部の一点で押し合うこと
によってはじめて掛止させるものであり,このことは,共辺部の全域が直
接である場合に限らず,両端に湾曲部分あるいは折れ曲がり部分を形成す
る場合も同様であって,乙1技術において,二つの舌片を互いに共辺部の
一点で押し合うようにすることは,二つの舌片を掛止させるための必須の
構成であり,不安定な掛止をより確実なものとするようなものではない。
これに対し,本願補正発明は,上側係止片及び下側係止片で構成される係
止部を有する構成において,その係止部の「最奥部」を係止点として係止
し,係止時において,「各屈折片側に食い込む係止部」の「最奥部」が,
それぞれ,対向する係止部の最奥部において,単に,相互に接触して係止
するのみならず,屈折片の若干のたわみにより,相互に押し合う状態を生
じさせる構成であり,その結果,屈折片の最終的な係止状態において,よ
り強固な係止力を発揮させるというものであって,係止のための技術的思
想が異なるものであり,係止方法につき,乙1技術においては,本願補正
発明のような技術的思想はない。
加えて,引用例1発明の認定には争いがないところ,引用例1(甲7)
の「揚支片a,a’は主に張出部c,c’を弾性的に変形しながらS字状
部17沿いに相対変位し,基点15,15’が対面する位置で張出部b’,
c’およびb,cの谷間で交叉するように掛止することができる(第3,
4図)。」(2頁4欄30行目~35行目)との記載によれば,引用例1
発明は,揚支片の基点が対面する位置において張出部の谷間で揚支片が交
叉することにより二つの揚支片を掛止させるものと認められる。
そうすると,引用例1発明と,乙1技術とは,揚支片ないし舌片を掛止
させるための作用においてそもそも異なるのであり,仮に,乙1技術のよ
うな,二つの舌片を互いに共辺部の一点で押し合うことによって掛止させ
る技術が本件出願時に周知のものであったとしても,この技術をいかにし
て引用例1発明に適用するのかということ自体,想定することが困難であ
り,動機付けを欠くというべきである。
以上によれば,乙1技術を参酌して,当業者が,引用例1発明及び引用
例2発明から,本願補正発明の「前記両屈折片を起立させたときに,前記
各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込み前記各係止部の最奥部が相
互に接触して係止されるように構成し,前記両係止部の最奥部相互を繋ぐ
仮想線と前記起立折目線との交差角度が,92°~120°」との構成に
想到することが容易であるとはいえない。
ウまた,被告は,不確実な係止という引用例1発明の課題点を解決するた
めに,引用例1発明における,最奥部で相互に接触させた係止部同士の接
触の度合いを,少し強くするか,少し弱くするか検討することは,当業者
であれば,設計上当然行うことであるとも主張する。
しかし,引用例1発明も引用例2発明も,上記のとおり,本願補正発明
のような,係止部の「最奥部」において,屈折片のたわみにより,相互に
押し合う状態を生じさせるという技術的思想は開示していないのであって,
そのような技術的思想の前提もないところで,被告の主張する試行錯誤を
することが,当業者の通常の創作能力の発揮として設計上当然行うことで
あるとはいえない。
したがって,被告の上記主張は採用できない。
()以上のとおり,引用例1発明において,相違点2に係る本願補正発明の構4
成に想到することが,当業者にとって容易であるとした審決の判断は誤りで
あり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
したがって,原告の取消事由2も理由がある。
3以上によれば,原告主張の取消事由1及び2は理由があるから,審決は違法
として取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官篠原勝美
裁判官宍戸充
裁判官柴田義明

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛