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平成19年12月27日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成18年(ワ)第10965号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結の日平成19年10月23日
判決
原告P1
訴訟代理人弁護士重村達郎
同松村安之
被告株式会社マイウォール
訴訟代理人弁護士會田恒司
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙1「物件目録」記載の耐震移動壁を製造,販売又は販売の申出を
してはならない。
2被告は,原告に対し,4095万円及びこれに対する平成16年9月1日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告が製造販売する耐震移動壁が,原告が有する特許権の技術的範囲
に属し,被告の製造販売行為が原告の特許権を侵害するとして,原告が,被告に
対し,特許権に基づき,被告の耐震移動壁の製造販売の差止め及び特許権侵害に
よる損害賠償金(不法行為日である平成16年9月1日から民法所定の年5分の
割合による遅延損害金を含む。)の支払を求めた事案である。
第3前提となる事実(次の事実は,当事者間に争いがないか,末尾記載の証拠等に
より認められる。)
1特許権
原告は,次の特許の特許権をP2と共有している(共有であること及び本件の
移転登録日につき甲1。以下,この特許を「本件特許」,その特許権を「本件特
許権」といい,その特許出願の願書に添付された明細書を「本件明細書」とい
う。)。
発明の名称耐震移動壁構造
出願日平成7年4月20日(特願平7−120561)
登録日平成11年10月29日
本権の移転登録日平成12年3月16日
特許番号特許第2997631号
特許請求の範囲別紙特許公報(甲2)のとおり
2構成要件の分説
本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明」とい
う。)は,次のとおり分説することができる。(以下,その記号に従って「構成
要件A」などという。)
A天井に配設されたレールに沿って走行する吊車に垂設される吊下部材2と,
該吊下部材2に吊下げられて移動可能とされる移動壁本体3とを,備え,
B上記吊下部材2は,上記移動壁本体3に上方から挿入されるスライド杆部
10を,有し,
C該スライド杆部10の下部に重量支持部9を設け,上記移動壁本体3の内
部に,該重量支持部9が下方から当接する受け面29を,形成し,
Dかつ,該重量支持部9は,該受け面29に沿って水平左右方向へ移動可能
な左右余裕代U,Uをもって該受け面29に当接し,
Eさらに,該重量支持部9を,上記当接状態から分離する下方向へ移動可能
な上下余裕代Vをもって上記スライド杆部10に,取付けた
Fことを特徴とする耐震移動壁構造。
3被告の行為
(1)被告は,別紙1「物件目録」記載の耐震移動壁(以下「イ号物件」という。
ただし,同目録の別紙図面〔以下「本件図面1」という。〕における手書きの
番号部分は説明のために付したものである。)を製造,販売している。
(2)本件図面1がイ号物件の構造を示す図面であることについては争いがない。
また,後記の原告の【予備的主張】に関しては,別紙2「被告製品の断面概念
説明図」(以下「本件説明図」という。)及び乙1の図面(以下「乙1図面」
という。)がイ号物件の構造を示す図面であることについて争いがない。
(3)被告は,平成16年9月ころ,イ号物件を長崎県美術館に納入した。
第4争点
1イ号物件の構成及び本件発明の技術的範囲の属否(争点1)
2本件特許の無効理由の有無(争点2)
3本件特許権侵害による損害賠償請求権の存否及びその数額(争点3)
第5争点に対する当事者の主張
1イ号物件の構成及び本件発明の技術的範囲の属否(争点1)について
(1)原告の主張
【主位的主張】
アイ号物件の構成
(ア)イ号物件の構成は次のとおりである(名称の後にある,後に「'」の
付された半角文字の数字は本件図面1に赤字で記載の数字をいう。以下,
【主位的主張】においては同じ。)。
a1天井に配設されたレールに沿って走行する吊車に垂設される吊下部
材2'と,該吊下部材2'に吊下げられて移動可能とされる移動壁本体3'
とを,備えている。
b1上記吊下部材2'は,上記移動壁本体3'に上方から挿入されるスライ
ド杆部10'を,有している。
c1スライド杆部10'の下部にコントボーラー9'を設け,コントボーラー
9'は基台部と立上部とを有し,基台部上面に4個のボールを備え,移
動壁本体3'の内部に4個のボールが下方から当接する受け面29'を形成
している。
d1コントボーラー9'は,受け面29'に沿って水平左右方向へ移動可能な
余裕代をもって受け面29'に当接している。
e1コントボーラー9'は,下方向へ移動可能な上下余裕代を持って上記
スライド杆部10'に取付けられている。
f1イ号物件は耐震移動壁構造に係るものである。
(イ)被告の主張について
Ⅰ被告が被告の製品の営業,販売活動において使用している資料一式
(甲5)に添付されている「大型移動間仕切パネル用吊り車の始動荷重
試験報告書」の添付図面を見れば明らかなとおり,イ号物件は,重量支
持部(コントボーラー)が転動ボールを介して受け面に接している状態
から上下に分離するものであって,被告が主張するように,水平方向ス
ライド部が上下方向には移動せず,受け面に接している状態から重量支
持部が分離するものではない。
Ⅱイ号物件が被告の主張する構成であれば,その構成を説明したパンフ
レットや設計図面等の資料が存するはずであるが,これまでの原告と被
告との事前の交渉の中で一度も提出されたことはない。
Ⅲ長崎県美術館に納入されたイ号物件が被告の主張する構成であれば,
その詳細な施工図面あるいは組立図であって元請業者の承認印のあるも
のが存在するはずであるが,これらの図面もこれまでの交渉において被
告から提出されたことはない。原告代理人は上記施工図ないし組立図の
提出を長崎県に要求したが,長崎県からも提出されなかった。
Ⅳ被告は,イ号物件の構成は,本件説明図のとおりで,H鋼やベアリン
グがあると主張する。しかし,本件図面1には,L字鋼の寸法や角パイ
プの寸法が記載されているが,H鋼は使用されていないし,本件図面1
において被告がベアリングであると主張する部分には,ベアリングであ
ることを示す表示が全くなく,材料,寸法も不明であり,外形的に侵害
を回避するために単に図面上表示されたにすぎない。
Ⅴ被告は,イ号物件の構成は,乙1図面のとおりであると主張する。確
かに,乙1図面の左側の断面図には,被告がベアリングであると主張す
る部分と杆部分との間に斜線で表示された部分が存在するが,同部分に
は材料等の表示がなく,詳細は不明であるし,同部分は本件図面1には
存しない。同部分は乙1図面の⑯の「コントローラー本体ガイド」を指
していると考えられ,これが真に設置されているとするならば,本件図
面1にも表示されて然るべきである。したがって,乙1図面は,本件図
面1の施工図であるとはいえない。
Ⅵよって,イ号物件の構成は,原告が主張するとおりである。
イ本件発明の構成要件充足性
イ号物件は,次のとおり,本件発明の構成要件を充足する。
(ア)構成要件A
構成要件Aと構成a1とは一致する。
(イ)構成要件B
構成要件Bと構成b1とは一致する。
(ウ)構成要件C
構成c1は,スライド杆部10'の下部にコントボーラー9'を設け,移動壁本
体3'の内部に,コントボーラー9'が下方から当接する受け面29'を形成した
ものなので構成要件Cと一致する。
(エ)構成要件D
構成d1は,コントボーラー9'が移動壁本体3'の受け面29'に沿って水平方
向移動可能な左右余裕代をもって,受け面29'に当接するように構成されて
いるので,構成要件Dと構成d1は一致する。
(オ)構成要件E
構成e1は,コントボーラー9'が,下方向へ移動可能な上下余裕代をもっ
て,スライド杆部10'に取付けたものであるから,構成要件Eと構成e1は一
致する。
(カ)構成要件F
イ号物件は,耐震移動壁構造に係るものでなので,構成要件Fと構成f1
は一致する。
(キ)まとめ
以上のとおり,本件発明の構成要件AないしFとイ号物件の構成a1ない
しf1は一致し,イ号物件は本件発明の技術的範囲に属する。
【予備的主張】
仮に,イ号物件は,前記の【主位的主張】のとおりではなく,被告が後記
(2)【原告の主位的主張について】ア(イ)において主張するとおり,本件説明
図及び乙1図面に記載のものであったとしても,その構成は次のとおりである
と説明することができる(名称は,前記の【主位的主張】とは異なり,本件説
明図に記載の名称を用いている。以下,【予備的主張】においては同じ。)。
アイ号物件の構成
a2天井に配設されたレールに沿って走行する吊車に垂設される吊下部材
(吊ボルト)と,該吊下部材に吊下げられて移動可能とされる移動壁本
体とを備えている。
b2上記吊下部材は,上記移動壁本体に上方から挿入されるスライド杆部
(杆体)を有している。
c2スライド杆部の下部に重量支持部を固着すると共に,重量支持部の上
面に水平方向のみスライド可能な水平方向スライド部を設け,水平方向
スライド部は基台部とその立上部とを一体に有し,基台部上面に4個の
転動球を備え,立上部の左右側面にそれぞれ一対のベアリングを備えて
いる。移動壁本体の内部にH鋼およびガイドからなる係止部材を移動壁
本体に一体的に設け,この係止部材の下面を前記の4個の転動球が下方
から当接する受け面としている。
d2重量支持部は,上記受け面に沿って水平左右方向へ移動可能な左右余
裕代をもって上記受け面に,水平方向スライド部の基台部(以下,単に
水平方向スライド部という。)を介して当接している。
e2重量支持部は,水平方向スライド部を介して上記受け面に当接する状
態から,前記受け面に対し分離する下方向へ移動可能な上下余裕代を持
って上記スライド杆部に取付けられている。
f2イ号物件は耐震移動壁構造に係るものである。
イ本件発明の構成要件充足性
(ア)文言侵害
イ号物件は,次のとおり,本件発明の構成要件を充足する。
Ⅰ構成要件A
構成要件Aと構成a2は一致する。
Ⅱ構成要件B
構成要件Bと構成b2は一致する。
Ⅲ構成要件C
イ号物件の重量支持部は,係止部材を介して移動壁本体の重量を支持
しうるように形成されたもので,構成要件Cの重量支持部と同一概念の
ものである。また,イ号物件の移動壁本体の内部には,水平方向スライ
ド部を介して重量支持部により重量が支持され,かつ水平方向スライド
部を介して重量支持部が下方から当接する受け面が形成されているので,
イ号物件は,スライド杆部の下部に移動壁本体の重量を支持する重量支
持部を設け,移動壁本体の内部に,重量支持部が水平方向スライド部を
介して下方から当接する受け面を形成したものである。
確かに,本件発明の実施例は,重量支持部が移動壁本体の受け面に直
接当接しているのに対し,イ号物件は,重量支持部が水平方向スライド
部を介して移動壁本体の受け面に当接しているという点が異なる。
しかし,「重量支持部」は吊下部材のスライド杆部に,移動壁本体を
下方から係止してその重量を支持しうるように膨出形状に設けられたも
のであり,「受け面」は移動壁本体の重量が支持されるために「重量支
持部」の被支持面となるように設けられたものであるところ,このよう
な機能は,「重量支持部」と「受け面」とが「直接的」に当接する場合
においても「間接的」に当接する場合においても,同一に営まれる。
そして,本件発明を実施例に示されるように「直接的」に「重量支持
部」と「受け面」とが当接する場合に限定して解釈しなければならない
理由はないので,本件発明の技術的範囲には,イ号物件のように「間接
的」に「重量支持部」と「受け面」とが当接する場合も含まれる。
以上のとおり,構成c2は,スライド杆部の下部に重量支持部を設け,
移動壁本体の内部に,重量支持部が下方から水平方向スライド部を介し
て当接する受け面を形成したもので,構成要件Cと構成c2は一致する。
Ⅳ構成要件D
イ号物件の重量支持部は,受け面に沿って水平左右方向へ移動可能な
左右余裕代をもって受け面に,水平方向スライド部を介して当接するよ
うに構成されている。
確かに,本件発明の実施例は,重量支持部が移動壁本体の受け面に直
接当接して,スライド杆部の下部の重量支持部が受け面に沿って水平左
右方向へ移動可能なように構成されているのに対し,イ号物件は,重量
支持部が移動壁本体の受け面に水平方向スライド部を介して当接して,
スライド杆部の下部の重量支持部が受け面に沿って水平左右方向へ移動
可能なように構成されている点で異なる。
しかし,本件発明における「当接」とは,スライド杆部の下部に設け
た「重量支持部」が,「受け面」を被支持面として移動壁本体の重量を
支持しうるような状態であることを意味する。そして,「当接」した状
態で「水平左右方向へ移動可能」とは,「重量支持部」によって移動壁
本体の重量が支持された状態においても,地震の横揺れにより,吊下部
材が移動壁本体に対して左右方向へ揺れたときにおいて,吊下部材の重
量支持部が移動壁本体の受け面に沿って水平左右方向へ移動自在(スラ
イド自在)となって,吊下部材に作用する外力が小さくなり,吊下部材
の破損を防止でき,かつ,移動壁本体も破損しない作用効果を奏しうる
動きを意味することが明らかである。
このような作用効果を奏しうる動き,すなわち「当接」した状態で
「水平左右方向へ移動可能」な動きによる機能は,「重量支持部」と
「受け面」が「直接的」に当接する場合においても「間接的」に当接す
る場合においても,水平左右方向に自由に相対移動しうるように構成さ
れている限り,同一に営まれることは明らかである。
そして,本件発明を実施例に示されるように,「直接的に当接した状
態で水平左右方向へ移動可能」に限定して解釈しなければならない理由
はないので,本件発明の技術的範囲には,イ号物件のように「間接的に
当接した状態で水平左右方向へ移動可能」の場合も含まれる。
したがって,構成d2は,重量支持部が移動壁本体の受け面に沿って水
平方向移動可能な左右余裕代をもって,水平方向スライド部を介して受
け面に当接するように構成したものであり,構成要件Dと構成d2は一致
する。
Ⅴ構成要件E
確かに,イ号物件の重量支持部は,構成e2のとおり,水平方向スライ
ド部を介し受け面に当接する状態から,受け面に対し分離する下方向へ
移動可能な上下余裕代をもって,スライド杆部に取り付けられているの
に対し,本件発明の実施例では,重量支持部が受け面に直接当接する状
態から,受け面に対し分離する下方向へ移動可能な構成となっている。
しかし,「当接状態」とは,スライド杆部の下部に設けた「重量支持
部」が,「受け面」を被支持面として,移動壁本体の重量を支持しうる
状態,すなわち重量支持状態を意味し,移動壁本体とスライド杆部の重
量支持部ひいては吊下手段との上下方向位置が一体的位置関係にあるこ
とを意味している。そして,「分離する下方向へ移動可能」とは,地震
が発生し,吊下部材が突き下げられると,該吊下部材の重量支持部が移
動壁本体の受け面から分離して吊下部材が下降することにより,下方へ
の撓みを吸収でき,吊下部材と移動壁本体に,突き下げによる外力が伝
わらないようにできるという作用効果を奏しうる動きを意味することは
明らかである。
このような作用効果を奏しうる動き,すなわち「分離する下方向へ移
動可能」な動きは,移動壁本体と重量支持部(吊下部材)とが,上下方
向一体的位置関係から上下方向分離位置関係に変化しうる動きのことを
意味しており,「重量支持部」と「受け面」とが「直接的」に当接する
当接状態から「分離する下方向へ移動可能」な場合においても,「重量
支持部」と「受け面」とが「間接的」に当接する当接状態から「分離す
る下方向へ移動可能」な場合においても,同一の機能が営まれることは
明らかである。
そして,本件発明を実施例に示されるように,「直接的」に当接する
当接状態から,「分離する下方向へ移動可能」な場合に限定して解釈し
なければならない理由はないので,本件発明の技術的範囲には,イ号物
件に示されるような「間接的」に当接する当接状態から「分離する下方
向へ移動可能」な場合も含まれる。
したがって,イ号物件の構成e2は,重量支持部が移動壁本体の受け面
に対し,水平方向スライド部を介して当接する当接状態から,受け面に
対し分離する下方向へ移動可能な上下余裕代をもって,スライド杆部に
取り付けたもので,構成要件Eと構成e2は一致する。
Ⅵ構成要件F
イ号物件は,耐震移動壁構造に係るものであるので,構成要件Fと構成
f2は一致する。
Ⅶまとめ
以上のとおり,本件発明の構成要件AないしFとイ号物件の構成a2な
いしf2は一致するので,イ号物件は本件発明の技術的範囲に属する。
(イ)均等
仮に,イ号物件について文言侵害が認められないとしても,イ号物件は,
本件発明と均等であって,本件発明の技術的範囲に属する。
Ⅰ本質的部分
本件発明の作用効果は以下の通りである。
①通常は,吊下部材のスライド杆部の下部の重量支持部が,移動壁
本体の受け面に当接して,その重量支持部にて移動壁本体の重量を
支持している。地震が発生すると,横揺れと縦揺れにより,建築構
造物に上下方向の撓みが生じる。そして,吊下部材が突き下げられ
ると,該吊下部材の重量支持部が移動壁本体の受け面から分離して
該吊下部材は下降する。このため,下方への撓みを吸収でき,吊下
部材と移動壁本体に,突き下げによる外力が伝わらない。吊下部材
は上下余裕代の長さの範囲内で,移動壁本体に相対的に下降できる。
②また,地震の横揺れにより,吊下部材が移動壁本体に対して左右
方向へ揺れると,吊下部材の重量支持部が移動壁本体の受け面に沿
って水平左右方向へ移動自在であるので,吊下部材に作用する外力
が小さくなり,吊下部材の破損を防止できる。かつ,移動壁本体も
破損しない。重量支持部は,受け面の左右余裕代の長さの範囲内で
左右方向へ移動できる。
そして,上記①②の作用効果を奏するにあたっての本件発明の本質的
構成は,重量支持部が受け面と対応して水平左右方向へ移動可能な左右
余裕代をもって受け面と相対していること,重量支持部が外力に伴って
下方向へ移動可能な余裕代をもってスライド杆部に取り付けられている
ことであって,重量支持部が受け面と直接接していることは本件発明の
作用効果の発揮にあたって必要不可欠ではない。
本件明細書の[0028]には「しかして,移動壁本体3に,重量支持
部9の転動ボール21…が下方から転動自在に当接する受け面29を形
成する」とあり,同[0030]には「重量支持部9は,受け面29に沿
って水平左右方向へ移動可能な左右余裕代U,Uをもって該受け面29
に当接する。即ち,転動ボール21…は,移動壁本体3の受け面29に
沿って水平左右方向へ移動可能な左右余裕代U,Uをもって該受け面2
9に当接する。」と記載されているとおり,本件発明の水平方向スライ
ドの作用効果が発揮する上で本質的な点は,転動球が受け面に直接接し
ていることであり,イ号物件もまさしく転動球が受け面と接して動くこ
とにより水平方向の外力を吸収しようとするものである。
また,同[0033]には「スライド杆部10(即ち吊下部材2)は,
受け面29に重量支持部9の転動ボール21…が当接した状態における
段付部32とストッパ面33との上下寸法Hだけ,移動壁本体3に対し
て下方へスライド可能となる。」と記載されているとおり,上下方向の
スライド作用において,「当接」という言葉は,単に通常の状態での重
量支持部の位置状態を示すものに過ぎず,上下のスライド作用において
重量支持部が受け面と直接接している必要は全くなく,同[0052]に
おいても「吊下部材2が移動壁本体3に相対的に突き下げられると,図
13,図14に示すように,吊下部材2が移動壁本体3に相対的に下降
して,受け面29に対して重量支持部9が下方へ分離する。」とされて
いるとおり,受け面と重量支持部9が直接接していることは上下方向の
外力吸収作用とは無関係である。
そして,イ号物件は,上下方向の外力吸収の作用効果とは無関係な部
分について権利侵害を回避するために設計変更しているにすぎない。
被告は,「下方向へ移動可能な上下余裕代V」は公知技術であると主
張するが,乙5,乙6のいずれにおいても,その実用新案登録請求の範
囲,考案の詳細な説明の文言上も図面上にも,上下余裕代は全く表記さ
れておらず,公知であるとはいえないのであり,被告は,単に,表面的
ないし外観上の構造の同一性を述べているにすぎない。
Ⅱ置換可能性
イ号物件は,本件発明と全く同一の作用効果を奏しており,重量支持
部が受け面と直接接しない構造に置換することは可能である。
すなわち,地震が発生すると,横揺れと縦揺れにより,建築物に上下
方向の撓みが生じ,吊下部材が突き下げられると,重量支持部が,水平
方向スライド部を介して受け面に当接する重量支持状態から,受け面に
対し分離する下方向へ移動し,移動壁本体に対し吊下部材は上下方向移
動がフリーな状態となる。このため,下方への撓みを吸収でき,吊下部
材と移動壁本体に突き下げによる外力が伝わらず,吊下部材は上下余裕
代の長さの範囲内で,移動壁本体に相対的に下降できる。
また,重量支持部が水平方向スライド部を介して受け面に当接してい
る状態のときに,地震の横揺れで吊下部材が左右方向へ揺れると,重量
支持部が,水平方向スライド部を介して移動壁本体の受け面に沿って水
平左右方向へ自在にスライドし,これにより吊下部材に作用する外力が
小さくなり,吊下部材の破損を防止でき,かつ,移動壁本体も破損しな
い。
被告は,イ号物件は本件発明とは作用効果が異なると主張し,本件発
明は横揺れと縦揺れの双方に対して,下方にも水平方向にも揺さぶられ
ると音を立てて動き回り,スムーズな双方の揺れの吸収は不可能である
と主張する。しかし,本件明細書の〔0010〕に記載されているとおり,
横揺れと縦揺れの場合は,吊下部材の重量支持分が受け面から分離する
という作用が働くのであり,水平左右方向へのスライドは横揺れの場合
のみで,横揺れは,吊下部材の首振継手分の首振り作用による力の吸収
が先行しているので,スムーズな双方の揺れの吸収が不可能ということ
はなく,水平左右方向のスライドで水平方向の振動を吸収し,重量支持
部の分離によって上下方向の振動を吸収するという点において,本件発
明とイ号物件の作用効果はまったく同じである。
Ⅲ置換容易性
水平方向スライド部と重量支持部を別構造にし,水平方向スライド部
を重量支持部とともに水平左右方向にスライドさせ,重量支持部のみを
下方向へ移動可能とすることは,設計上の微差にすぎず,当業者が簡単
に思いつくことである。
乙1図面の中央部の図によれば,水平方向スライド部と受け面はボル
トによって連結されているため下方向に分離しないが,転動球とそれが
直接に接している面は,本来ならば分離可能であり,本件発明と同一作
用を果たすにもかかわらず,権利侵害を回避するためボルトで連結され
ているのであり,重量支持部のみを下方向に移動可能とすることはたや
すくできる。
イ号物件のベアリングは,水平方向スライド部が基台部と立上部一体
となって水平方向に移動するために付加されていると考えられるが,こ
れを付加することによる特別の作用効果は全くなく,無用の長物である。
Ⅳ意識的除外
イ号物件の構成を意識的に除外をしたことはなく,その裏付けはまっ
たくない。
(ウ)まとめ
イ号物件が本件発明と実質的に同一又は均等であることは明白である。
(2)被告の主張
【原告の主位的主張について】
アイ号物件の構成
(ア)構成a1は認め,その余は否認する。
原告は,本件図面1は乙1図面と異なると主張するが,本件図面1は,
耐震移動壁の構造をおおざっぱに表した図面にすぎず,正確性には欠ける
ものであり,正確な図面は乙1図面である。
また,原告は,甲5に本件説明図と異なる図面が添付されていると主張
するが,原告が指摘する甲5の図面は,長崎県美術館における耐震移動壁
の構造を表示したものではない。
(イ)イ号物件の構成は,本件説明図及び乙1図面のとおりであり,説明を
補足すると次のとおりである(名称の後にある半角文字の数字は本件説明
図に記載の数字をいう。以下,被告の主張においては同じ。)。
移動壁本体にはH鋼1が設けられるが,H鋼1にはガイド2が溶接により
一体化され,吊ボルト3と杆体4はカプラー5によって連結されている。
H鋼及びガイドには,上下に貫通する貫通孔6が設けられ,貫通孔6には
水平方向スライド部7が狭設されている。水平方向スライド部7は,上部側
面に設けられた4個のベアリング8と下方のガイドの下面と対面する面部
分に設けられた穴に下部の略半分が入っている転動球9によって狭設され
上下方向には移動しない。
貫通孔6は,水平方向スライド部7が水平方向へ移動可能な余裕代をもつ
ように水平方向スライド部7の貫通部分よりも大きい(太い)構成となっ
ている。このような構成から,水平方向スライド部7は,水平方向にはス
ライド可能であるが,上下方向には移動しない。
水平方向スライド部7は,上部はベアリング8によって,下部は転動球9
によってH鋼1及びガイド2に狭設されていることから水平方向にはスムー
ズにスライドすることが可能である。
水平方向スライド部7の中央には貫通孔10が設けられ,杆体4は貫通孔10
に(水平方向にスライドする)余裕代のない状態で貫通されている。杆体
4の最下部には重量支持部11が設けられている。杆体4は,カプラー5の下
面が水平方向スライド部の上面に接する範囲で上下方向へ移動することが
できる。
イ本件発明の構成要件充足性について
構成a1が構成要件Aと一致することは認め,その余は否認する。
原告がc1において「スライド杆部10'の下部にコントボーラー9'を設け,コ
ントボーラー9'は基台部と立上部とを有し」との構成について,基台部の他
に立上部が存在することは,コントボーラーが上下に移動することを妨げる
ことになり,原告が主張する上下の揺れを吸収するという効果は生じない。
【原告の予備的主張について】
アイ号物件の構成について
(ア)構成a2,b2,f2は認め,構成c2,d2,e2は否認する。
(イ)原告は,構成c2につき「重量支持部の上面に水平方向のみスライド可
能な水平方向スライド部を設け」と主張するが,重量支持部の「上面」に
水平方向スライド部が設けられているわけではない。また,「移動壁本体
の内部にH鋼およびガイドからなる係止部材を移動壁本体に一体的に設け,
この係止部材の下面を前記の4個の転動球が下方から当接する受け面とし
ている」と主張するが,イ号物件において「受け面」は,水平方向スライ
ド部の下面の重量支持部が当接する面である。
(ウ)原告は,構成d2について「重量支持部は…水平方向スライド部の基台
部…を介して当接している」と主張するが,重量支持部が当接しているの
は水平方向スライド部の下面そのものである。水平方向スライド部を介し
て当接する受け面は存在しない。
(エ)原告は,重量支持部が原告の主張する「受け面」である係止部材の下
面から分離する方向へ移動可能な上下余裕代をもって,スライド杆部に取
り付けられる旨主張するが,重量支持部は,水平方向スライド部の下面か
ら分離するものであり,原告が主張するように係止部材の下面から分離す
るものではない。
イ本件発明の構成要件充足性
(ア)文言侵害について
Ⅰ構成要件A,Bがそれぞれ構成a2,b2と一致することは認めるが,そ
の余は否認する。
Ⅱ構成要件Cについて
原告は,イ号物件は,係止部材を介して移動壁本体の重量を支持しう
るように形成されたものであると主張するが,イ号物件は,水平方向ス
ライド部の下面によって移動壁本体の重量を支持している点で構成要件
Cとは異なる。
また,原告は「水平方向スライド部を介して重量支持部により重量が
支持され」と主張するが,重量を支持しているのは水平方向スライド部
の下面そのものである。
原告は,「重量支持部」と「受け面」が「間接的」に当接すると主張
するが,「当接」はその漢字から明らかなとおり,「当って接する」の
意味であり,「当る」は広辞苑にも記載されているように「接触する」
「くっつく」の意味であるから,「当接」はくっついて接している状態
をいうのであり,他の部分を介している状態は含まれない。このように
「間接的に当接」というのはありえない状態である。
Ⅲ構成要件Dについて
本件発明の移動壁の重量は,構造力学上はスライド杆部側ではスライ
ド杆部全体に荷重がかかっているところ,本件明細書では,スライド杆
部全体を「重量支持部」としているのではなく,視覚上スライド杆部に
おいて直接的に荷重を受け止める「膨出形状」部分が「重量支持部」と
表現されている。「受け面」も,「重量支持部」に対応して視覚的に直
接荷重を受け止めている部分が「受け面」と表現されているのであり,
これ以外に「重量支持部」も「受け面」も存在しない。
原告は,「重量支持部」と「受け面」の「機能」なるものを持ち出し
て,荷重がかかる部分は「受け面」であると主張しているが,このよう
な原告の主張は,本件明細書の記載と明らかに矛盾する。
イ号物件では,構造力学上は,水平方向スライド部,H鋼,ガイド等
の全体に荷重がかかっているのであり,水平方向スライド部上部のベア
リングにはもちろんのこと,H鋼が移動壁本体と接する部分にも大きな
荷重がかかる。原告の主張によれば,これらベアリングやH鋼と接する
部分も,他の部分を介して「間接的に当接」する「受け面」ということ
になり,「受け面」は多数存在することになってしまう。
原告が「間接的に当接」していると主張するH鋼の下面は,他の部分
と同様に荷重を受けているだけである。このように,イ号物件では,重
量支持部は受け面に沿って水平左右方向に移動可能な構成となっていな
い。
(イ)均等の主張について
原告の主張は否認する。イ号物件は本件発明と均等ではないし,その違
いは設計上の微差でもない。
Ⅰ本質的部分
本件発明のうち「天井に配設されたレールに沿って走行する吊車に垂
設される吊下部材と,該吊下部材に吊下げられて移動可能とされる移動
壁本体とを,備え,上記吊下部材は,上記移動壁本体に上方から挿入さ
れるスライド杆部を,有し,該スライド杆部の下部に重量支持部を設け,
上記移動壁本体の内部に,該重量支持部が下方から当接する該重量支持
部を,上記当接状態から分離する下方向へ移動可能な上下余裕代Vをも
って上記スライド杆部に取付けたことを特徴とする移動壁構造。」の構
成は,乙5,7からも明らかなとおり,本件特許出願前から公知であり,
移動壁において一般的に用いられていた構成である(乙7の第1図では,
移動壁の左右上部からスライド杆部が挿入され,スライド杆部の下部に
重量支持部が設けられ移動壁本体の内部に重量支持部が下方から当接す
る受け面が設けられていることが明らかである。)。
したがって,本件発明の本質的部分は,水平左右方向への揺れを吸収
するためにどのような構成を用いたかという点にあるところ,「重量支
持部は,受け面に沿って水平左右方向へ移動可能な左右余裕代U,Uを
もって受け面に当接」している構成部分が本件発明の本質的部分である。
本件特許出願前の公知技術では,「重量支持部」と「受け面」との当
接状態から分離する下方への余裕代を設ける構成とされていたのに対し,
本件発明では,同当接部分において水平左右方向へ移動可能な左右余裕
代をも設けた点が特徴的な構成である。
言い換えれば,重量支持部と受け面との当接ポイントにおいて下方へ
の分離と左右への移動の双方の動きを可能とした点に本件発明の本質的
な特徴がある。
イ号物件は,このような本質的な構成を用いていない。
なお,原告は,乙5,乙6において,下方向へ移動可能な上下の余裕
代はなく,「下方向へ移動可能な上下余裕代」を設けることは公知では
ないと主張するが,乙5の3図,乙6の1図,2図,8図,乙7の1図
等において,下方向へ移動可能な上下余裕代が設けられていることは一
目瞭然である。
Ⅱ置換可能性
イ号物件は,前記に述べた構成の違いから,本件発明と同一の作用効
果を有するものということはできず,むしろ,本件発明より更に優れた
作用効果を有する。
すなわち,本件発明は,重量支持部と受け面とが当接する場所におい
て,下方への分離と水平左右方向への移動を可能にし,同一ポイントに
おいて地震の縦揺れと横揺れの双方の振動が移動壁に伝わるのを防止す
るもので,同じポイントで上下方向と水平左右方向の揺れを吸収するた
め,双方の振動をスムーズかつ充分に吸収することができない。
これに対し,イ号物件は,水平方向スライド部において水平方向の振
動を吸収し,重量支持部において上下方向の振動を吸収するため,双方
の振動がスムーズに吸収され,移動壁に振動が伝わりにくい。
このように,イ号物件では,本件発明よりも効果的に上下方向及び水
平左右方向の振動を吸収できる点において作用効果が異なる。
Ⅲ置換容易性
前述のとおり,イ号物件の構成は,水平方向の振動と上下方向の振動
とを別々の構成によって吸収するものであるから,同一のポイントで両
方向の振動を吸収せんとする本件発明から,当業者は容易に想到するこ
とはできない。
原告は,水平方向スライド部の基台部と立上部がボルトによって連結
されている点について,権利侵害を回避するための単なる設計変更にす
ぎないと主張するが,各構成部分を一体化するための手段として,溶接
という方法を用いようが,ボルトで連結するという方法を用いようが,
特別問題視されるべきことではない。
Ⅳ意識的除外
本件発明における本質的な構成は,前述のとおり,重量支持部の当接
部分において下方への揺れと水平方向への揺れを吸収せんとする構成で
あり,水平方向の揺れを吸収するために別個の構成を付加することは本
件発明から意識的に除外されている。
2本件特許の無効理由の有無(争点2)について
(1)被告の主張
ア新規性
本件発明は,次のとおり,乙5の公開実用新案公報(実開平6−1670。
以下そこに記載されている発明を「乙5発明」という。)に記載された技術
と同一であるから,無効理由がある。
(ア)構成要件A
乙5発明の転向部5及び吊支ボルト4は,本件発明の「吊下部材」に相
当するし,乙5発明の間仕切パネル7は吊下部材に吊下されて移動可能な
移動壁に相当するので,構成要件Aを備えている。
(イ)構成要件B
乙5発明の吊支ボルト4は,間仕切パネル7の上方から挿入されており,
構成要件Bを備えている。
(ウ)構成要件C
乙5発明では,吊支ボルト4の下部に螺着したナット14及びその凸球
面状が重量支持部として設けられており,乙5発明の吊下ボルト4に螺着
したナット14の凸球面状が下方から当接する支持部材9下面の凹球面状
とした通孔縁部17が構成要件Cの「受け面」に該当するので,構成要件
Cを備えている。
(エ)構成要件D
乙5の図3では,通孔13は通孔全体において(通孔の上から下に至る
全体において)吊支ボルト4の直径よりも大きく空けられており,水平左
右方向へ移動可能な余裕代をもって受面に当接されていることが明らかで
あり,乙5の〔0028〕において「…両面が滑動する…」と説明されて
いるので,乙5発明でも水平左右方向へ移動可能な余裕代をもって当接さ
れていることが明らかであり,構成要件Dを備えている。
原告は,ボルトは通孔に対して「遊挿」されているので,嵌合したまま
動くに過ぎず,左右に余裕代をもって動くのではないと主張するが,「遊
挿」は左右に余裕代のある状態を指し,左右に余裕代があるからこそ「嵌
合したまま動く」のである。
(オ)構成要件E
乙5発明における吊支ボルト4に螺着したナット14は,当接状態から
分離する下方向へ移動可能な構成になっていることが乙5の図3等から明
らかである。
(カ)構成要件F
乙5の〔0006〕では「間仕切パネルの移動時のパネルぶれを少なく
し,かつ安定して吊支出来る移動間仕切パネルの吊支装置」であると記載
され,パネルぶれを少なくするという点は,耐震においても全く同様であ
るから,乙5発明が耐震移動壁構造そのものであることは明らかである。
イ進歩性1
仮に,乙5発明において,構成要件Dを備えていなかったとしても,本件
発明は,乙5発明に乙6の実用新案公報(実公平7−6431)に記載され
た発明を加味することにより容易に想到することができた発明であるから,
無効理由がある。
すなわち乙6に係る考案は,移動間仕切りランナ装置の考案であり,ハン
ガブロック13の下部が「重量支持部」であり,吊下部材14のハンガブロ
ックとの係合面が「受け面」に相当する。
そして,乙6の図5及び3ページ5欄38行目以下に「ハンガブロック1
3にローラ部材13b1,13b1を備えるときは,吊下部材14の透孔1
4a1を長孔に形成することにより(第5図),透孔14a1の長さに応じ
て,ハンガブロック13が吊下部材14に対して相対移動することができ」
との記載から,重量支持部たるハンガブロックがその受け面に沿って水平左
右方向へ移動可能な左右余裕代U,Uをもって該受け面に当接する構成が記
載されている(本件発明の実施例である第4図ないし第6図にはローラ部材
に相当する転動ボールを取り付けた構造が明記されている。)。
したがって,本件特許出願前の時点で,乙5発明と乙6に記載された構成
に基づいて,移動壁の分野における通常の知識を有する者は,本件発明を容
易に発明することができた。
ウ進歩性2
仮に,乙5は,「耐震移動壁構造」という表現が用いられていないことか
ら,本件発明とは異なるとしても,乙5の〔0001〕に「横振れを少なく,
かつ安定して吊支」と記載されていることから,乙5発明を「耐震移動壁」
として用いることは,移動壁の通常の知識を有する者が容易に考えることで
ある。
エ信義則違反について
原告は,被告が本件発明の実施について和解金を支払うなどの合意をしな
がら,本件訴訟において本件特許の無効を主張することは信義則に反すると
主張する。
しかし,合意書(甲6)は,長崎県美術館へのイ号物件の納入を意図的に
除外しながら,本件特許の有効性等を問題とはせずに,紛争を和解によって
解決したものであり,上記合意書において,本件特許の有効性を以後争わな
いといった条項も存在しない。したがって,長崎県美術館への納入等につい
て本件特許権侵害を主張された場合に,本件特許の無効を主張することは信
義則に反しない。
(2)原告の主張
ア新規性について
乙5発明は,間仕切りパネル移動時のパネル振れを少なくし,かつ安定し
て吊支できる移動間仕切りパネル吊支装置を提供することを課題とするもの
であって,その課題解決手段として,天井に配設したガイドレールに沿って
走行するランナの下面に垂設した吊支ボルトの下部を通孔に遊挿して,この
吊支ボルトの下端部に螺着したナットの凸球面状とした上面を,支持部材下
面の凹球面状とした通孔縁部に嵌合するものである。
すなわち,支持部材の凹球面状の通孔縁部とナットの凸球面によって形成
される仮想球体の中心が,この振動の支点となり,さらに両面が滑動するこ
とにより,吊支ボルトと間仕切りパネルの重心のずれが生ずることがなくな
り,また,両者の接触は硬質合成樹脂と金属によるものであるため,いった
ん振動を開始しても振動の減衰力が大きく,すみやかに安定した状態に静止
するものである。
その結果,間仕切りパネルが振れ動いても,吊支ボルトに螺着したナット
の凸球面状とした上面が支持部材下面の凹球面状とした通孔縁部に対して滑
動し,適正に嵌合復帰することにより,間仕切りパネルが自動的に鉛直にな
るように吊下され,また,間仕切りパネルを速やかに安定した状態に静止さ
せることができる。
したがって,乙5発明は,支持部材の凹球面状の通孔縁部とナットの凸球
面との間の滑動接触により,間仕切りパネルを自動的に鉛直に吊下させたり,
間仕切りパネルを速やかに安定した状態に静止させるという効果を有するの
であって,課題,構成,作用においても,本件発明とは異なっている。
なお,乙5の実用新案登録請求の範囲,考案の詳細な説明のどこにも,
「余裕代」についての文言はないし,ボルトは通孔に対して「遊挿」すなわ
ち固定されない程度に挿入され,ボルトの直径と通孔の大きさはほぼ等しい
から余裕代はない。また,「滑動」は,凹面が凸面の頂上部を支点として嵌
合したまま動くに過ぎず,左右に余裕代をもって動くのではない。被告は,
「水平左右方向への移動可能な左右余裕代」「下方向へ移動可能な上下余裕
代」のいずれについても乙5の図3から明らかであると主張するが,同図か
ら明らかであるとはいえないし,乙5にはその文言すらない。
よって,乙5発明をもって,本件発明に新規性がないということはできな
い。
イ進歩性1について
(ア)前記アのとおり,乙5発明は,課題,構成,作用において,本件発明
とは異なっているので,乙5発明に乙6に記載された発明を加味しても,
本件発明に容易に想到することはできない。
(イ)乙6の考案は,間仕切りパネルが常に正しく鉛直方向に吊下されて静
止し,間仕切りパネルの表面が不揃いにならないようにすることを目的と
して,間仕切りパネルを揺動自在に吊下させるために,間仕切りパネルの
吊下部材に対して下側から係合するハンガブロックを用いるものであり,
その係合分の上面が,上方に向けて凸に形成され,間仕切りパネルPの厚
さ方向の中心を最高点として両側に穏やかに傾斜する曲面に形成されてお
り,ハンガブロックと吊下部材の接触により,常に正しく鉛直方向に静止
させようとするものである。
乙5発明においても,乙6の考案においても,下方向へ移動可能な上下
の余裕代という発想はないから,乙5発明に乙6の考案を組み合わせても
本件発明に想到することはできない。
(ウ)乙6の考案のローラー部材は,ハンガブロックと吊下部材の点接触に
より,間仕切りパネルを鉛直に吊下させるものであるが,吊下部材の通孔
を長孔にすれば,相対移動が可能となって,間仕切りパネルの移動がスム
ーズになるという付随的効果を有するものである。
他方,本件発明は,受け面に沿って水平左右方向に移動可能な余裕代を
もって受け面に当接させることにより,すなわち面的接触により地震によ
る横揺れの力を吸収しようとするものである。乙6の考案を面的接触にす
れば,パネルを鉛直に吊下させるというそもそもの乙6の考案の目的を達
成できなくなるのであり,面的接触で力を吸収することを想起するには阻
害要因が存する。
乙5発明は,前記アのとおり,凸面と凹面のそれ自体は動きのない球面
滑動により間仕切りパネルを鉛直に吊下させようとするものであり,乙6
の考案は,上記のとおり,ハンガブロックと吊下部材との線的あるいは点
的接触によって吊下部材を鉛直に吊下させようとするものであるから,乙
5発明と乙6の考案を組み合わせても,面による力の吸収を想起すること
はできず,本件発明に想到することはできない。
ウ進歩性2について
前記アのとおり,乙5発明は,課題,構成,作用において,本件発明とは
異なっているので,本件発明は,移動壁の通常の知識を有する者が乙5発明
から容易に考えることができるものではない。
エ信義則違反
被告は,本件特許について,本件訴訟になってから無効主張をしているが,
平成17年11月16日作成の原告・被告間の合意書(甲6)等から明らか
なとおり,被告は,本件特許が有効であることを前提に本件発明の実施につ
いて和解金を支払っているので,本件訴訟に至って本件特許の無効を主張す
るのは信義則に反する。
3本件特許権侵害による損害賠償請求権の存否とその数額(争点3)について
(1)原告の主張
被告は,平成16年9月竣工の長崎県美術館内にイ号物件を納入したが,原
告が,耐震移動壁構造設置工事を請け負っていれば,少なくとも,1億365
0万円の請負金額で耐震移動壁構造を請負うことができたのであって,409
5万円の利益を得ることができたのであり,原告の利益率は30%であるから,
原告は被告の特許権侵害により金4095万円の損害を被った。
(2)被告の主張
争う。
第6当裁判所の判断
1争点1(イ号物件の構成及び本件発明の技術的範囲の属否)のうちの原告の
【主位的主張】について
原告の【主位的主張】にかかるイ号物件の構成e1は,「コントボーラー9'は,
移動壁本体3’との関係で,下方向へ移動可能な上下余裕代を持って上記スライ
ド杆部10'に取付けられている。」というものである。
その趣旨は,原告が,【主位的主張】において,①「被告において営業販売し
ている物件は,重量支持部(コントボーラー)が転動ボールを介して受け面に接
している状態から上下に分離するものであって,答弁書記載の如く,水平方向ス
ライド部が上下方向には移動せず,受け面に接している状態から重量支持部が分
離するものではない。」と主張し(前記第5の1(1)【主位的主張】ア(イ)Ⅰ,
平成19年1月29日付け準備書面(1)4頁),②イ号物件の作用効果①'として
「吊下部材2'が突き下げられると,コントボーラー9'が下方向へ移動し」(訴状
4頁)と主張し,③【予備的主張】において,【主位的主張】でいう「コントボ
ーラー9'」の一部(【予備的主張】でいう「重量支持部」)が分離して下方向へ
移動することを前提とした主張をしていることとの対比からすると,「コントボ
ーラー9'全体(そのうちの一部分の場合も含むという意味ではない。)が,移動
壁本体3’に対し,下方向へ移動可能な上下余裕代を持って上記スライド杆部10'
に取付けられている」という意味であり,移動壁本体3'に対し,下方向へ移動可
能な部分は,コントボーラー9'の一部分(例えば,【予備的主張】でいう「重量
支持部」に当たる部分)である場合も含むという意味ではないと解される。
しかし,本件全証拠によっても,イ号物件は,「コントボーラー9'全体が,移
動壁本体3’に対し,下方向へ移動可能な上下余裕代を持って上記スライド杆部1
0'に取付けられている」ものとして,原告の主張する構成e1を備えるものである
と認めることはできない。
以下,原告が,イ号物件が構成e1を備えていると主張する根拠(イ号物件の構
造は,本件説明図及び乙1図面のとおりであるとする被告の主張を否定する根
拠)について,順次,検討する。
(1)乙1図面は本件図面1とは異なる耐震異同壁構造を示す図面であるという
主張(前記第5の1(1)【主位的主張】ア(イ)Ⅴ)について
アはじめに
原告は,本件図面1をイ号物件の構成を示す図面であることを前提としつ
つ,【主位的主張】においては,乙1図面によりイ号物件の構成は被告が主
張するような構造であるということはできないと主張し,その根拠として,
本件図面1と乙1図面とに相違点があるので,乙1図面はイ号物件の図面で
はないと主張する。そこで,まず,乙1図面に記載されている耐震移動壁構
造がどのようなものであるかについて検討する。
イ乙1図面の記載
証拠(各事実の末尾に記載)及び弁論の全趣旨によれば,乙1図面には,
平成16年4月8日付けで作製された「M−3型.150㎜厚展示パネル用
耐震機器」の「遊動側組立図」として,次の耐震移動壁構造が記載されてい
ることが認められる(別紙3の図面〔以下「本件図面2」という。〕参照。
同図面は,乙1図面の「パネル中央側」と「パネル端側」の一部を抜粋し,
色と手書きの数字(赤色で,数字の後に「#」が付されている。)を判決に
おいて加筆したものである。名称の後にある,後に「#」の付された半角文
字の数字は上記手書きの数字をいう。以下,本件図面2についていう場合は
同じ。)。
(ア)移動壁本体3#とこれを吊り下げる吊下部材2#があり,吊下部材2#は吊
ボルト21#により吊り下げられていると共に,天井に配設されたレールに
沿って走行する吊車に垂設される(下線部分は,乙1図面ないし本件図面
2には図示されていないが,イ号物件がこれを備えていることは,【主位
的主張】【予備的主張】を通じて争いがない。)。
(イ)移動壁本体3#の内部の吊下部材2#には,H鋼5#(黄緑部分)及びガイ
ド6#(濃緑部分)があり(乙1),H鋼5#とガイド6#は溶接により一体化
されている(乙1,4)。
(ウ)H鋼5#及びガイド6#には,貫通孔7#があり,コントローラー4#(黄色
部分)が貫通孔7#を通じてH鋼5#及びガイド6#を貫通している(乙1)。
上記貫通孔7#におけるコントローラー4#とH鋼5#ないしガイド6#との関係
は,水平方向左右に移動可能な余裕の空間71#がある(乙1)。コントロ
ーラー4#の基部41#と立上部42#は,ボルト46#で固定されて一体化されて
いる(乙1)。
コントローラー4#の立上部42#の前後方向側面の上部(H鋼5#ないし(エ)
ガイド6#に貫通しないで現れている部分)には4個のローラ44#が設けら
れており,ローラ44#は,H鋼5#ないしガイド6#の水平部上面の上にある
(乙1)。
(オ)コントローラー4#の基部41#の水平部上面でガイド6#の水平部下面と
対面する部分には,4個の凹面半球状の穴45#が設けられ,その凹面半球
状の各穴45#には,合計4個の転動球43#の下部の略半分がそれぞれ入って
おり,転動球43#はガイド6#の水平部下面である受け面61#と接している
(乙1)。
(カ)杆体10#(オレンジ色部分)は,吊ボルト21#に連結され,コントロー
ラー4#の中央に設けられた挿通用孔8#を介して挿通され,杆体10#の下部
には重量支持部9#(ピンク色部分)が設けられており,杆体10#と重量支持
部9#はボルト11#により結合されている(乙1)。上記挿通用孔8#における
杆体10#とコントローラー4#との関係は,水平方向左右に余裕の空間はな
いが,コントローラー4#の立上部42#の先端ないしローラ44#の先端からそ
の上にある部材までの間には,コントローラー4#が静止時を基準とすると
上方向に移動可能な余裕代12#があり,コントローラー4#は,杆体10#に対
し,上下方向に移動可能である(乙1)。
(キ)コントローラー4#は,地震による横揺れがあると,転動球43#により,
H鋼5#ないしガイド6#に対し,水平方向左右に余裕の空間71#の範囲で左
右にずれて移動するが,移動しても転動球43#においてガイド6#の受け面6
1#に接し続ける(乙1)。
(ク)重量支持部9#は,通常は,コントローラー4#と接しているが,地震に
よる縦揺れにより移動壁本体3#が突き上げられると,コントローラー4#か
ら離れて,コントローラー4#の立上部42#の先端ないしローラ44#の先端か
らその上にある部分までの間の余裕代12#の範囲で,杆体10#と共に相対的
に下方向に(コントローラー4#,H鋼5#,ガイド6#,移動壁本体3#は相対
的に上方向に)移動する(乙1)。
(ケ)移動壁本体3#(青色部分)は,H鋼5#と結合されている(乙1)。
ウ乙1図面に記載された耐震移動壁構造の構成
上記認定に係る耐震移動壁構造は,本件発明の構成要件に準じれば次のよ
うにいうこともできる。
a*天井に配設されたレールに沿って走行する吊車に垂設される吊下部材
2#と,該吊下部材2#に吊下げられて移動可能とされる移動壁本体3#とを
備えている。
b*上記吊下部材2#は,上記移動壁本体3#に上方から挿入される杆体10#
を有している。
c*杆体10#の下部に重量支持部9#を設け,上記移動壁本体3#の内部に,
重量支持部9#の上部に水平方向にのみスライド可能なコントローラー4#
を設け,コントローラー4#はその基部41#及び立上部42#が一体であり,
コントローラー4#の基部41#の水平部上面に4個の転動球43#を備え,コ
ントローラー4#の立上部42#の前後方向側面上部に4個のローラ44#を備
えている。移動壁本体3#の内部にH鋼5#及びガイド6#を一体的に設け,
ガイド6#の下面を前記の4個の転動球43#が下方から直接当たって接す
る受け面61#としている。
d*該重量支持部9#の上部に設けられたコントローラー4#は,ガイド6#の
受け面61#に沿って水平左右方向へ移動可能な左右余裕代71#をもって該
受け面61#に直接当たって接している。重量支持部9#は,コントローラ
ー4#の基部41#の下面に直接当たって接している。
e*該重量支持部9#を,上記コントローラー4#の基部41#の下面と直接当
たって接している状態から,分離する下方向へ移動可能な上下余裕代12#
をもって上記杆部10#に取付けられている。
f*イ号物件は耐震移動壁構造に係るものである。
エ乙1図面に記載された耐震移動壁構造の動作
上記認定に係る耐震移動壁構造では,コントローラー4#の基部41#と立上
部42#はボルト46#で固定されて一体化されており,コントローラー4#の立上
部42#に設けられたローラ44#がH鋼5#ないしガイド6#の水平部上面の上にあ
るため,コントローラー4#は,その基部41#及び立上部42#共に,移動壁本体
3#に対し,下方向には移動できないことが認められる。
他方,杆体10#と重量支持部9#はボルト11#により接合されているのに対し,
コントローラー4#と重量支持部9#は,特にボルト等によって接合されておら
ず分離可能な構造となっている上に,杆体10#は,吊ボルト21#に連結され,
コントローラー4#の中央に設けられた挿通用孔8#を介して挿通されているか
ら,地震による縦揺れがあった場合には,重量支持部9#は,杆体10#と共に,
コントローラー4#の基部41#から離れて相対的に下方向に移動するものと認
められる。
したがって,乙1図面に記載されている耐震移動壁構造についていえば,
本件図面2のコントローラー4#の基部41#と重量支持部9#を合わせたもの
(本件図面1の「コントボーラー9'」)は,移動壁本体3#に対し,「その全
体が下方向へ移動可能な上下余裕代を持って上記スライド杆部10'に取付け
られている」ものではなく(むしろ,前記のとおり,コントローラー4#は,
杆体10#との関係では,静止時を基準として上方向へ移動可能な余裕代12#を
有し,杆体10#とは結合されていない。),そのうちの重量支持部9#のみが,
移動壁本体3#に対し,下方向へ移動可能な上下余裕代12#を持って杆部10#に
結合されている。
オ本件図面1と乙1図面の異同
イ号物件の図面であることに争いがない本件図面1と乙1図面の抜粋であ
る本件図面2とを対比すると,別紙4(本件図面1に,本件図面2に対応す
る各部分について色分けし,本件図面2に対応する数字を赤色で記入したも
のである。)のとおり,吊ボルト21#に連結された吊下部材2#,移動壁本体3
#,移動壁本体3#内にある吊下部材2#の一部である杆体10#,杆体10#とボル
ト11#で結合されている重量支持部9#,杆体10#を挿通用孔8#に挿通させ,ロ
ーラ44#と転動球43#を有し,基部41#と立上部42#からなり,ガイド6#の受け
面61#で転動球43#が当接するコントローラー4#,H鋼5#と一体となり貫通孔
7#にコントローラー4#を貫通させているガイド6#といった各部材の存在,各
部材同士の位置関係等において,よく一致していることが認められ,乙1図
面を簡略にしたものが本件図面1であるように思われる。
カイ号物件の耐震移動壁構造の動作
イ号物件のコントボーラー9'(本件図面1)は,本件図面2のコントロー
ラー4#の基部41#と重量支持部9#を併せたものに対応するから,乙1図面が
イ号物件の図面であるとすれば,イ号物件は,本件図面1のコントボーラー
9'(本件図面2のコントローラー4#の基部41#と重量支持部9#を併せたも
の)のうち,重量支持部9#のみが,移動壁本体3#に対し,下方向へ移動可能
な上下余裕代12#を有するものであって,「コントボーラー9'全体(その一
部の場合もあるという趣旨は含まない。)が,移動壁本体3’に対し,下方
向へ移動可能な上下余裕代を持って上記スライド杆部10'に取付けられてい
る」ものではないということになり,構成e1を有するものではないこととな
る。
キ原告の主張について
(ア)原告は,本件図面1について,①L字鋼の寸法や角パイプの寸法が記
載されているが,H鋼は使用されていない,②被告がベアリングであると
主張する部分には,ベアリングであることを示す表示が全くなく,材料,
寸法も不明であるから,そのベアリングの記載は,外形的に侵害を回避す
るために単に図面上表示されたものにすぎないと主張する。
しかし,本件図面1と乙1図面を対比すると,本件図面1には「H鋼」
である旨の記載はないものの,乙1図面のH鋼(本件図面2のH鋼5#)に
対応する部材(別紙4の5#・黄緑部分)が図示されている。同様に,被告
がベアリングであると主張する部分(別紙4の44#)も,正しくはローラ
であるが(広辞苑によれば,「ベアリング」は「軸受」であり,「ロー
ラ」は「円形状のころがるもの」であるところ,上記部分は軸受けとはな
っていない。なお,乙1図面によれば別の部分が「ベアリング」とされて
いる。),本件図面1にはこれに対応する部分が図示され(別紙4の44
#),乙1図面には寸法等も表示されていることが認められる(乙1)。
そして,本件図面1と乙1図面を対比すると,乙1図面は詳細であるの
に対し,本件図面1は簡略であることが認められるから,本件図面1にお
いて,乙1図面に記載されている部材名や材料,寸法が記載されていない
部分があることをもって,イ号物件の図面であることに争いがない本件図
面1と乙1図面がまったく別の耐震移動壁壁構造の図面であるということ
はできない。
(イ)原告は,乙1図面の左側の断面図には,被告がベアリングであると主
張する部分と杆部分との間に斜線で表示された部分が存在するが,①同部
分には材料等の表示がなく,詳細は不明である,②同部分は本件図面1に
は存しない,③同部分は乙1図面の⑯の「コントローラー本体ガイド」を
指していると考えられ,これが真に設置されているとするならば,本件図
面1にも表示されて然るべきであるとして,乙1図面は,本件図面1の施
工図であるとはいえないと主張する。
しかし,乙1図面の⑯の「コントローラー本体ガイド」は,本件図面2
の42#(コントローラー4#の立上部42#)であり,それは本件図面1におい
ても表示されている(別紙4の42#)。そして,前記のとおり,本件図面
1が乙1図面よりも簡略なものであることからすれば,本件図面1におい
て,別紙4の42#に相当する部分に材料等の表示がないとしても,そのこ
とをもって,乙1図面(本件図面2)が,本件図面1の施工図であること
を否定することはできない。
(2)営業用資料(甲5)の図面がイ号物件の構成を示す図面であるという主張
(前記第5の1(1)【主位的主張】ア(イ)Ⅰ)について
原告は,被告が営業活動に使用している資料一式(甲5)の図面によれば,
イ号物件は,コントボーラー9'が転動ボールを介して受け面に接している状態
から上下に分離するものであると主張する。
確かに,甲5には,「耐震展示パネル(クレビス型)」,「耐震展示パネル
(リンクボール型)」として,「コントボーラー⑦」がその上面に設けられた
転動ボールによって「下ガイド⑤」の下面に直接接している図(甲5の40,
41枚目)と,「〔b〕直下地震(上下動)対策」として,「コントボーラー
⑦」(上記転動ボールも含む)が「下ガイド⑤」の下面から分離して下方向に
移動している図(甲5の42,43枚目)が記載されている。
しかし,証拠(甲6の1)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,かつて長崎
県美術館以外の工事において,本件発明を始めとする原告が特許権を有する特
許発明を原告の許諾なく実施し,平成17年11月ころ,原告に対し,その損
害賠償の問題解決も含めた和解金550万円を支払ったことが認められる。上
記事実に照らせば,甲5は,上記和解金支払の対象となった工事を示す営業資
料であって,長崎県美術館の工事を示すものではない可能性も否定できない。
そして,甲5の上記の「耐震展示パネル(クレビス型)」,「耐震展示パネ
ル(リンクボール型)」と表示された図及び「直下地震(上下動)対策」とし
て「コントボーラー⑦」が「下ガイド⑤」の下面から離れて下方向に移動して
いる図では,別紙4の44#の部材(本件図面2のローラ44#に相当する部材)が
存在せず,このために,床面が突き上げられた場合,「コントボーラー⑦」が
ローラ44#とH鋼5#の干渉による妨げなく,相対的に下方向に移動でき,これに
より,「パネル本体」は,「上ガイド④」,「下ガイド⑤」の内面をすべり面
として,「アブソーブカプラー⑥」に沿って自由にスライドすることができる
という構造であることが認められる(甲5の41枚目右下の説明参照)。
したがって,甲5の上記各図面は,イ号物件の図面である本件図面1とは異
なる耐震移動壁構造が記載されているものであるというべきである。
(3)交渉経過で図面の提出はなかったという主張(前記第5の1(1)【主位的主
張】ア(イ)Ⅱ)について
原告は,イ号物件が被告の主張する構成であれば,その構成を説明したパ
ンフレットや設計図面等の資料が存するはずであるが,これまでの原告と被
告との事前の交渉の中で一度も提出されたことはないと主張する。
しかし,被告が,原告との事前交渉において,イ号物件の構成を示す図面
や資料を提出しなかったとしても,原告が入手している被告の営業用資料
(甲5)がイ号物件の構成を示す図面であるということはできないことは前
記のとおりであるし,乙1図面(本件図面2)は,原告と被告との交渉にお
いて一度も提出されたことがなかったとしても,そのことから直ちに本件図
面1の施工図であることを否定されるものではない。
(4)元請業者の承認印等のある図面が存在しないという主張(前記第5の1(1)
【主位的主張】ア(イ)Ⅲ)について
原告は,長崎県美術館に納入されたイ号物件が被告の主張する構成であれ
ば,その詳細な施工図面あるいは組立図であって元請業者の承認印のあるも
のが存在するはずであるが,これらの図面もこれまでの交渉において被告か
ら提出されたことはないし,原告代理人の要求にもかかわらず,上記施工図
ないし組立図は長崎県からも提出されなかったと主張する。
しかし,各調査嘱託の結果及び甲8ないし12(枝番も含む。)によれば,
①長崎県美術館は,施主及び所有者が長崎県であり,②長崎県は,株式会社
日本設計に,美術館の建築等の工事の監理業務を一括委託しているため,同
工事の図面等に長崎県の承認印は不要であり,図面も保存しておらず,③同
工事の建設業者である株式会社大成建設は,移動壁設置工事を株式会社きん
でんに委託し,④株式会社きんでんは被告から耐震移動壁であるイ号物件を
購入したが,⑤同耐震移動壁の施工図面については被告名義の図面はなく,
株式会社きんでん名義の図面はあるが,同図面は株式会社大成建設に提出さ
れているため,株式会社きんでんは所持しておらず,株式会社大成建設が所
持しており,⑥同図面に,株式会社日本設計の施工確認印はあるが,株式会
社大成建設の承認印はなく,その理由は不明であることが認められる。
以上のとおり,イ号物件については,元請業者である株式会社大成建設の
承認印のある図面があると認めるに足りる証拠はないから,これらが被告や
長崎県から提出されないことをもって,乙1図面がイ号物件の図面ではない
ということはできない。
(5)まとめ
以上のとおり,①イ号物件の図面とよく一致する乙1図面(本件図面2)
には構成e1を有していない耐震移動壁構造が記載されており,これがイ号物
件の図面であることを否定できないこと,②構成e1を有する耐震移動壁構造
が記載された甲5の図面は,長崎県美術館以外の工事を示す営業資料である
可能性が否定できない上に,イ号物件の図面(本件図面1)とは異なってい
ることが認められるので,イ号物件の構造として構成e1を備えているという
原告の主張は採用することができないし,他にイ号物件が構成e1を有するこ
とを認めるに足りる証拠はない。
2争点1(イ号物件の構成及び本件発明の技術的範囲の属否)のうち,原告の
【予備的主張】に係る文言侵害について
(1)イ号物件の構成
前記のとおり,原告の【予備的主張】においては,イ号物件の構成が第5の
1(2)【原告の主位的主張について】ア(イ)において被告が主張するものであ
ること,すなわち本件説明図及び乙1図面がイ号物件の図面であることは争い
がない。
そして,上記の争いのない事実によれば,イ号物件の構成は,前記1(1)イ
の(ア)ないし(ケ),同イのa*ないしf*に記載のとおりであると認められる。
(2)原告の【予備的主張】における構成要件充足性の主張の整理
原告は,【予備的主張】において,イ号物件の構成のうち構成d2,e2につき,
重量支持部と水平スライド部との関係について「重量支持部は,水平スライド
部を介して受け面に当接し」と特定する。
また,原告は,【予備的主張】において,構成要件C,D,Eの充足性につ
いて,本件発明における「当接」とは,スライド杆部の下部に設けた重量支持
部が,受け面を被支持面として移動壁本体の重量を支持しうるような状態であ
ることを意味し,重量支持部の果たす機能は,重量支持部と受け面が直接的に
「当接」する場合においても間接的に「当接」する場合においても同一に営ま
れ,「当接」を直接的に重量支持部と受け面が接する場合に限定して解釈しな
ければならない理由はないので,本件発明の「当接」には,イ号物件のように
「間接的」に重量支持部と受け面が「当接」する場合も含まれると主張する。
そこで,まず,本件発明における「当接」の意義について検討する。
(3)「当接」の意義について
ア国語的な意味
広辞苑(第5版)には「当接」という語はないが,「当」については「①
あたること。あてること。(ア)ぶつかること。対応すること。(イ)あてはま
ること。かなうこと。(ウ)その事にあたること。また,わりあてること。②
めざすところ。めあて。③まさにあるべきさま。あたりまえ。④当来の略。
未来。来世。⑤名詞に冠して,「その」「この」「今の」「さしあたって」
などの意を示す語。⑥頭8に同じ」とされており,「接」については「①つ
ぐこと。つなぐこと。ふれること。②近づくこと。③会うこと。もてなすこ
と。④うけとること。」と説明され,「当接」の国語的な意味は,「当たっ
ている状態でつながっているあるいはくっついている」ことをいうものと解
される。
イ本件明細書の記載
本件明細書の【発明の詳細な説明】には次の記載があることが認められる
(甲2)。
【0002】【従来の技術】「展示場,コンベンション,博物館等を間仕切るため
の移動壁は,一般に,天井に配設されたレールに沿って走行する吊車に,
2つの吊下部材を介して,2点で吊り下げられる。しかして,従来,折り
曲げることのできない棒状の吊下部材の下端部を移動壁本体の上端縁に固
着して,移動壁本体を吊り下げたものが公知であった。」
【0003】【発明が解決しようとする課題】「しかし,上述のような従来の移動
壁構造では,地震が発生すると,吊下部材に上下方向と左右方向の大きな
外力が作用するため,吊下部材が切断して,移動壁本体が倒れる可能性が
高くなっていた。このため,移動壁本体の転倒により,他の物品が壊れる
ことや,人が大怪我すること等があり,地震による被害が大きいという欠
点があった。」
【0004】「そこで,本発明は,上述の問題を解決して,地震が発生しても大重
量の移動壁の転倒を防止できる耐震性に優れた耐震移動壁構造を提供する
ことを目的とする。」
【0008】【作用】「…通常は,吊下部材のスライド杆部の下部の重量支持部が,
移動壁本体の受け面に当接して,その重量支持部にて吊下部材(判決注:
「移動壁本体」の誤記と認める。)の重量を支持している。地震が発生す
ると,横揺れと縦揺れにより,建築構造物に上下方向の撓みが生じる。そ
して,吊下部材が突き下げられると,該吊下部材の重量支持部が移動壁本
体の受け面から分離して該吊下部材は下降する。このため,下方への撓み
を吸収でき,吊下部材と移動壁本体に,突き下げによる外力が伝わらない。
吊下部材は上下余裕代の長さの範囲内で,移動壁本体に相対的に下降でき
る。」
【0009】「また,地震の横揺れにより,吊下部材が移動壁本体に対して左右方
向へ揺れると,吊下部材の重量支持部が移動壁本体の受け面に沿って水平
左右方向へスライド自在であるので,吊下部材に作用する外力が小さくな
り,吊下部材の破損を防止できる。かつ,移動壁本体も破損しない。重量
支持部は,受け面の左右余裕代の長さの範囲で左右方向へスライドでき
る。」
【0013】【実施例】「以下,実施例を示す図面に基づき本発明を詳説する。」
【0025】「次に,図3と図4と図5に示すように,重量支持部9は,上方へ開
口する球面状凹所24…を複数有する取付部材22と,該取付部材22の
球面状凹所24…に嵌入される転動ボール21…と,取付部材22の球面
状凹所24…の内面に敷設されると共に転動ボール21…を転動自在に受
ける多数の小球体25…と,から成る。つまり,重量支持部9は,複数の
転動ボール21…を上方突出状に有する。」
【0028】「…移動壁本体3に,重量支持部9の転動ボール21…が下方から転
動自在に当接する受け面29を形成する。」
【0030】「…重量支持部9は,受け面29に沿って水平左右方向へ移動可能な
左右余裕代U,Uをもって,該受け面29に当接する。即ち,転動ボール
21…は,移動壁本体3の受け面29に沿って水平左右方向へ移動可能な
左右余裕代U,Uをもって該受け面29に当接する。」
【0032】「また,重量支持部9を,当接状態から分離する下方向へ移動可能な
上下余裕代Vをもってスライド杆部10に,取り付ける(図1参照)。
…」
【0033】「これにより,スライド杆部10(すなわち吊下部材2)は,受け面
29に重量支持部9の転動ボール21が…当接した状態における段付部3
2とストッパ面33の上下寸法Hだけ,移動壁本体3に対して下方へスラ
イド可能となる。」
【0052】「この構造2次撓みと地震応力撓みにより,吊下部材2が移動壁本体
3に相対的に突き下げられると,図13と図14に示すように,吊下部材
2が移動壁本体3に相対的に下降して,受け面29に対して重量支持部9
が下方へ分離する。」
【0053】「これにより,上下方向の撓みを吸収することができる。即ち,移動
壁本体3と吊下部材2」に,上下方向の圧縮力が作用しないので,吊下
部材2の切断を防止できると共に,移動壁本体3の破損を防止できる。か
つ,移動壁3は倒れない。」
ウ本件明細書の記載による理解
(ア)本件発明の課題
上記の本件明細書の記載からすれば,【0002】【0003】に記載のとおり,
展示場等の間仕切りのために用いられる移動壁は,天井に配設されたレー
ルに沿って走行する吊車に,吊下部材により吊り下げられるものであり,
従来のものは,折り曲げることのできない棒状の吊下部材の下端部に,移
動壁本体の上端縁に固着して吊り下げたものが公知であったが,地震が発
生すると,吊下部材に上下方向と左右方向に作用する外力のため,吊下部
材が切断されて移動壁本体が倒れる危険があるという問題点があった。
(イ)本件発明の構成及び作用効果
そこで,本件発明は,【0004】【0008】【0009】に記載のとおり,本件
発明の構成を採ることにより,吊下部材のスライド杆部の下部にある重量
支持部を,移動壁本体と固定されているのではなく分離可能なものとし,
通常は,重量支持部が,移動壁本体の「受け面」に「当接」して移動壁本
体の重量を支持しているが,上下方向の撓みが生じて吊下部材が突き下げ
られると,重量支持部が移動壁本体の「受け面」から分離して吊下部材は
移動壁本体に対して相対的に下降し,横揺れにより吊下部材が移動壁本体
に対して左右方向へ揺れると,重量支持部が移動壁本体の「受け面」に沿
って水平左右方向へ自在にスライドし,こうして上下,左右への揺れを吸
収して吊下部材に作用する外力を小さくして吊下部材の破損を防止すると
いう作用効果を奏するものであることが理解できる。
(ウ)本件発明における「受け面」の機能
本件発明においては,1)重量支持部が「当接」しているのは,移動壁本
体の内部に形成されている「受け面」においてであり(構成要件C),2)
構成要件Cでは「当接する受け面29」,同Dでは「該受け面29に当接
し」とあるように,本件発明においては,「当接」という文言は「受け
面」という文言と極めて関連づけられて用いられている。そこで,本件発
明における「当接」の意義を解釈する上で,本件発明における「受け面」
の機能について検討する。
構成要件Cは「該スライド杆部10の下部に重量支持部9を設け,上記
移動壁本体3の内部に,該重量支持部9が下方から当接する受け面29を,
形成し,」,構成要件Dは「該重量支持部9は,該受け面29に沿って水
平左右方向へ移動可能な左右余裕代U,Uをもって該受け面29に当接
し,」,構成要件Eは「該重量支持部9を,上記当接状態から分離する下
方向へ移動可能な上下余裕代Vをもって上記スライド杆部10に,取付け
た」という記載になっており,構成要件Dで「該受け面」,構成要件Eで
「上記当接状態」という文言が用いられていること,加えて,前記のとお
り,本件明細書には,【0008】【作用】「…吊下部材が突き下げられると,
該吊下部材の重量支持部が移動壁本体の受け面から分離して該吊下部材は
下降する。」という記載があることからすれば,構成要件Cの「受け面」
と構成要件Dの「該受け面」は同一部分をいうものであり,構成要件Cの
「当接する受け面29」,同Dの「該受け面29に当接し」,同Eの「上
記当接状態」は,同一の「受け面」につき同一の態様で「当接」している
ことを意味しているものであるという解釈をするべきである。
とすれば,本件発明においては,重量支持部が「当接」している「受け
面」は,①重量支持部が「当接」することにより,「受け面」とつながっ
ている移動壁本体の重量を支持し(構成要件C),②横揺れの場合に重量
支持部が左右余裕代を利用して左右に自在にスライドする際に「当接」し
てスライドを受ける面となり(構成要件D),③縦揺れの場合に重量支持
部が上下余裕代を利用して下方向に移動する際に当接状態から分離する面
となる(構成要件E)という機能を有するものであると解される。
このように,本件発明においては,1)重量支持部が「当接」することに
より移動壁本体の重量を支持する面,2)横揺れの場合に重量支持部が左右
にスライドする際の「当接」する面,3)縦揺れの場合に重量支持部が「当
接状態」から下方に分離する面は,すべて同一の「受け面」であることを
想定している。
そして,構成要件CないしEにおいて,同一の「受け面」につき同一の
態様で「当接」していることを前提とした場合,「受け面」に当接してい
る部材も同一のものでなければならないはずであり,構成要件CないしE
においては,「受け面」に「当接」するのはいずれも「重量支持部9」と
されているところ,その意味するところは,本件発明においては,上記①
の「受け面」において「当接」することによる移動壁本体の重量を支持す
る部材,上記②の「受け面」に対して左右方向に自在にスライドする部材,
上記③の「受け面」に当接している状態から下方向に分離する部材は,い
ずれも「重量支持部」とするものである。
(エ)本件発明における「当接」の意義
上記のとおりの構成要件CないしEにおける共通する文言の関係,「受
け面」及び「重量支持部」の機能からすれば,本件発明においては,①構
成要件Cにより,重量支持部が「受け面」に「当接」することにより移動
壁本体の重量を支持し,②構成要件Dにより,横揺れの場合に,重量支持
部が上記①の「受け面」に沿って水平左右方向にスライドすることにより,
「受け面」が左右方向へ揺れたとしても「受け面」からの揺れを受け取ら
ない(重量支持部が揺れの伝達を遮断する)という作用を生じ,③構成要
件Eにより,縦揺れの場合に,重量支持部が上記①の「受け面」との「当
接状態」から下方に分離することにより,上下方向の揺れを吸収するとい
う作用を生じるものであると理解される。
このうち上記②の水平左右方向へ揺れを吸収する作用効果は,重量支持
部が「受け面」との関係で相対的に水平左右方向へスライドし,「受け
面」が左右方向へ揺れたとしても重量支持部が「受け面」からの揺れを受
け取らない(重量支持部が揺れの伝達を遮断する)ことによって奏される。
ところが,重量支持部が「受け面」と直接当たって接しているのではな
く,「受け面」との間に別の物(イ号物件では本件図面2のコントローラ
ー4#)が存在し,その別の物が左右水平方向に移動可能な構成となってい
る場合,左右への揺れを吸収する作用効果は,重量支持部が「受け面」と
の関係で相対的に水平左右方向へスライドすることによりもたらされるの
ではなく,「受け面」と直接当たって接している物(イ号物件においては
コントローラー4#)が受け面との関係で相対的に水平左右方向へスライド
し,「受け面」からの揺れを受け取らない(揺れの伝達を遮断する)こと
によりもたらされることになるものと認められる。以上の本件発明の作用
効果(特に左右方向の揺れを吸収する作用効果)において重量支持部が果
たす機能に照らせば,本件発明における重量支持部は,「受け面」と直接
当たって接していなければならないものと解されるところである。
また,本件明細書によれば,地震による揺れが発生して吊下部材が突き
下げられた場合に,重量支持部が「移動壁本体の受け面から分離して」吊
下部材が下降するというのであるから,重量支持部は,地震による揺れが
なく吊下部材が突き下げられていないという通常の状態においては,「移
動壁本体の受け面から分離していない」(間に別の物を介することなくく
っついている)ものと解するのが自然である。そして,本件明細書は,上
記通常の状態を【0008】「重量支持部が,移動壁本体の受け面に当接し
て」と説明するのであるから,その「当接」とは,「直接当たって接して
いる」(「間に別の物を介することなくくっついている」)ということを
意味するものと解するのが相当であり,このような解釈は,前記に述べた
「当接」の国語的意味とも合致するところである。
(オ)本件明細書の実施例の記述からの理解
本件明細書に記載された実施例に関する記述を見ても,【0013】【002
5】【0028】【0030】に記載のとおり,重量支持部9には,上方へ開口す
る球面状凹所24が複数設けられ,当該球面状凹所24には転動ボール2
1が上方突出状に嵌入されており,移動壁本体3の受け面29に,重量支
持部9の一部分である転動ボール21が下方から転動自在に「当接」して
いることが認められる。そして,転動ボール21は移動壁本体3に直接当
たって接していなければ,移動壁本体3に対して自在に転動して,重量支
持部9を移動壁本体3に対して左右に自在にスライドすることにより外力
を吸収することができないから,実施例においても,転動ボール21をそ
の一部分とする重量支持部9は,移動壁本体3に対し,直接当たって接す
ることにより「当接」する形態のものが想定されており,重量支持部が移
動壁本体と直接当たって接している状態を利用して,左右の揺れが生じた
ときは,重量支持部が移動壁本体に対して相対的に自在にスライドするこ
とにより,左右の揺れという外力を吸収するという機能を重量支持部に持
たせていることが理解できる。
(カ)その他
本件明細書の記載においては,「当接」は「間接的に」すなわち間に別
の物を介して接している場合も含むことを示唆する記述はない。
エまとめ
よって,本件発明において,「当接」は,国語的な意味のとおり,「当た
っている状態でつながっているあるいはくっついている」(「直接当たって
接している」「間に別の物を介することなくくっついている」とも表現し得
る。)ということを意味するものと解される。そして,「当接」の意味を上
記のとおりに解釈する限りにおいて,本件発明の構成要件の解釈において
「間接的」に「当接」するという場合を想定することはできない。
(4)構成要件Cの充足性
構成要件Cは,「該スライド杆部10の下部に重量支持部9を設け,上記移
動壁本体3の内部に,該重量支持部9が下方から当接する受け面29を,形成
し,」であるところ,前記のとおり,ここでいう「当接」は,「直接当たって
接している」(「当たっている状態でつながっているあるいはくっついてい
る」「間に別の物を介することなくくっついている」)ということを意味する
ものと解されるので,重量支持部は,移動壁本体の内部に設けられた「受け
面」に,下方から「当接」すなわち別の物を介することなく直接当たって接し
ていることが必要である。そして,前記のとおり,構成要件Cの「受け面」と
同Dの「受け面」は同一部分をいうもので,構成要件Cの「当接する受け面2
9」,同Dの「該受け面29に当接し」,同Eの「上記当接状態」は,同一の
「受け面」につき同一の態様で「当接」していることを意味しているものであ
るという解釈をするべきであり,1)重量支持部が「当接」することにより移動
壁本体の重量を支持する面,2)横揺れの場合に重量支持部が左右にスライドす
る際の「当接」する面,3)縦揺れの場合に重量支持部が「当接状態」から下方
に分離する面は,すべて同一の「受け面」であることが必要である。
イ号物件では,前記認定のとおり,構成c*は,「…上記移動壁本体3#の内部
に,重量支持部9#の上部に水平方向のみスライド可能なコントローラー4#を設
け,…コントローラー4#の基部41#の水平部上面に4個の転動球43#を備え,…
移動壁本体3#の内部にH鋼5#及びガイド6#を一体的に設け,ガイド6#の下面を
前記の4個の転動球43#が下方から直接当たって接する受け面61#としてい
る。」のであるから,移動壁本体3#の内部に設けられこれと一体となっている
H鋼5#及びガイド6#の下面にある受け面61#は,コントローラー4#に設けられ
た4個の転動球43#が下方から直接当たって接しているのであって,重量支持
部9#が下方から直接当たって接しているのではない。
したがって,イ号物件において,重量支持部9#は下方から,移動壁本体3#の
内部に設けられた受け面61#に「当接」しているということはできない。
なお,仮に,本件発明における「受け面」は,イ号物件においてはコントロ
ーラー4#の基部41#の下面であると解すれば,前記認定の構成d*のとおり,
「重量支持部9#は,コントローラー4#の基部41#の下面に直接当たって接して
いる。」ので,イ号物件は構成要件Cを充足するようにも思える。しかし,前
記のとおり,構成要件Cの「受け面」と同Dの「受け面」は同一部分をいうも
ので,構成要件Cの「当接する受け面29」,同Dの「該受け面29に当接
し」は,同一の「受け面」につき同一の態様で「当接」していることを意味し
ているものであるという解釈をすべきところ,構成要件Dの「該受け面に沿っ
て水平左右方向へ移動可能」について考えると,イ号物件において「水平方向
へ移動可能」であるのはコントローラー4#であり,その基部41#に設けられた
転動球43#が自在に転動することによりコントローラー4#が水平方向に自在に
スライドするため,「水平左右方向へ移動」する場合に沿うことになる「受け
面」は,ガイド6#の水平下部で,コントローラー4#の基部41#の水平上面と対
面し,転動球43#と接する部分である受け面61#ということになる。このように,
構成要件Cの充足性をいう場合は,イ号物件の「受け面」はコントローラー4#
の基部41#の下面であると解し,構成要件Dの充足性をいう場合は,イ号物件
の「受け面」はガイド6#の水平下部ということになってしまうので,構成要件
Cの充足性をいう場合に,イ号物件の「受け面」はコントローラー4#の基部41
#の下面であるという解釈をすることはできない。
以上より,イ号物件は,「上記移動壁本体3の内部に,該重量支持部9が下
方から当接する受け面29を,形成し,」ているということはできないから,
構成要件Cを充足しない。
(5)構成要件D,Eの充足性について
構成要件Dは「該重量支持部9は,…該受け面29に当接し」,構成要件E
は「該重量支持部9を,上記当接状態から分離する…」とあるとおり,いずれ
も重量支持部9が移動壁本体3の内部に形成されている受け面29に「当接」
していることを要件の一部とするものであるところ,前記認定のとおり,イ号
物件においては,重量支持部9#は下方から,移動壁本体3#の内部に設けられた
受け面61#に「当接」しているということはできず,上記各要件を満たさない
から,構成要件D,Eを充足しない。
(6)原告の主張について
ア構成d2,e2について
原告は,イ号物件の構成について,構成d2,e2を有すると主張する。
しかし,前述のとおり,本件発明における「当接」は,「直接当たって接
している」(「当たっている状態でつながっているあるいはくっついてい
る」「間に別の物を介することなくくっついている」)ということを意味す
るものと解されるので,イ号物件を,d2「重量支持部は,…上記受け面に,
水平方向スライド部の基台部…を介して当接している。」e2「重量支持部は,
水平方向スライド部を介して上記受け面に当接する状態」ということはでき
ない。
イ構成要件C,Dの充足性について
原告は,構成要件Cに関し,イ号物件の移動壁本体の内部には,水平方向
スライド部を介して重量支持部が下方から当接する受け面が形成されている
ので構成要件Cを充足すると主張し,その根拠として,①「重量支持部」は
吊下部材のスライド杆部に,移動壁本体を下方から係止してその重量を支持
しうるように膨出形状に設けられたものであり,「受け面」は移動壁本体の
重量が支持されるために「重量支持部」の被支持面となるように設けられた
ものであるところ,このような機能は,「重量支持部」と「受け面」とが
「直接的」に当接する場合においても「間接的」に当接する場合においても,
同一に営まれる,②本件発明を実施例のように「直接的」に「重量支持部」
と「受け面」とが当接する場合に限定して解釈しなければならない理由はな
いので,本件発明の技術的範囲には,イ号物件のように「間接的」に「重量
支持部」と「受け面」とが当接する場合も含まれると主張する。
また,原告は,構成要件Dに関しても,イ号物件の重量支持部は,受け面
に沿って水平左右方向へ移動可能な左右余裕代をもって受け面に,水平方向
スライド部を介して当接するように構成されているので,構成要件Dを充足
すると主張し,その根拠として,①本件発明における「当接」とは,スライ
ド杆部の下部に設けた「重量支持部」が,「受け面」を被支持面として移動
壁本体の重量を支持しうるような状態であることを意味し,②「当接」した
状態で「水平左右方向へ移動可能」な動きによる機能は,「重量支持部」と
「受け面」が「直接的」に当接する場合においても「間接的」に当接する場
合においても,水平左右方向に自由に相対移動しうるように構成されている
限り,同一に営まれることは明らかであり,③本件発明を実施例に示される
ように,「直接的に当接した状態で水平左右方向へ移動可能」に限定して解
釈しなければならない理由はないと主張する。
確かに,重量支持部が受け面と直接当たって接しておらず,イ号物件のよ
うに間に別の物(イ号物件においてはコントローラー4#)が介在している場
合でも,結果的に本件発明の作用効果(特に左右方向の揺れを吸収する作用
効果)と同様の作用効果を奏することがあるものと認められる(後記3(2)
参照)。
しかし,本件明細書の記載によれば,本件発明における左右の揺れを吸収
する作用効果は,重量支持部が受け面と直接当たって接しつつ相対的に水平
左右方向へ移動して受け面の揺れを受け取らないことによりもたらされるも
のと解されることは前示のとおりであり,上記作用効果において重量支持部
が果たす機能に照らせば,重量支持部が受け面と直接当たって接していない
場合に,これを「当接」であるとか,構成要件C,Dを充足するとすること
はできない。そして,本件発明において,「当接」が「直接当たって接して
いる」ことを意味するとの解釈は,実施例の記載に限らず,本件明細書の他
の記載からも導かれ,かつ,国語的な意味にも合致することは前記(2)のと
おりである。原告の主張は,採用することができない。
ウ構成要件Eの充足性について
原告は,①「当接状態」とは,スライド杆部の下部に設けた「重量支持
部」が,「受け面」を被支持面として,移動壁本体の重量を支持しうる状態,
すなわち重量支持状態を意味し,移動壁本体とスライド杆部の重量支持部ひ
いては吊下手段との上下方向位置が一体的位置関係にあることを意味する,
②「分離する下方向へ移動可能」とは,地震が発生し,吊下部材が突き下げ
られると,該吊下部材の重量支持部が移動壁本体の受け面から分離して吊下
部材が下降することにより,下方への撓みを吸収でき,吊下部材と移動壁本
体に,突き下げによる外力が伝わらないようにできるという作用効果を奏し
うる動きを意味する,③「分離する下方向へ移動可能」な動きは,移動壁本
体と重量支持部(吊下部材)とが,上下方向一体的位置関係から上下方向分
離位置関係に変化しうる動きのことを意味し,「重量支持部」と「受け面」
とが「直接的」に当接する当接状態から「分離する下方向へ移動可能」な場
合においても,「重量支持部」と「受け面」とが「間接的」に当接する当接
状態から「分離する下方向へ移動可能」な場合においても,同一の機能が営
まれる,④「直接的」に当接する当接状態から,「分離する下方向へ移動可
能」な場合に限定して解釈しなければならない理由はないと述べて,本件発
明の技術的範囲には,イ号物件に示されるような「間接的」に当接する当接
状態から「分離する下方向へ移動可能」な場合も含まれると主張する。
しかし,「当接状態から分離する下方向へ移動可能」との意味は,通常の
状態では分離していない(直接当たって接している)と解するのが自然であ
ることは前示のとおりである。そして,このことも含め,本件明細書からす
れば,本件発明の「当接」が「直接当たって接している」(「当たっている
状態でつながっているあるいはくっついている」「間に別の物を介すること
なくくっついている」)という意味であることも前示のとおりである。原告
の主張は,採用することができない。
(7)まとめ
以上のとおり,イ号物件は,文言上,構成要件C,D,Eを充足しない。
3本件発明の技術的範囲の属否のうち均等について(争点1)
(1)はじめに
原告は,イ号物件の重量支持部と移動壁本体の内部の受け面との関係が「当
接」ではなく,イ号物件が文言上,構成要件C,D,E(具体的には「当接」
の要件)を充足しない場合であったとしても,イ号物件の重量支持部と移動壁
本体の内部の受け面との関係は「当接」と均等であると主張する。
そこで,以下,本件発明の「当接」に関する構成をイ号物件の「当接」に関
する構成に置き換えても同一の作用効果を生じさせることができるか(置換可
能性),できるとしても,その置換えをすることについて,当業者がイ号物件
の製造販売時に容易に想到することができたかどうか(置換容易性)について
検討する。
(2)置換可能性について
ア本件発明の作用効果
前記認定のとおり,従来の移動壁は,吊下部材の下端部に移動壁本体の上
端縁に固着して吊り下げたものが公知であったが,地震が発生すると,吊下
部材に上下方向と左右方向に作用する外力のため,吊下部材が切断されて移
動壁本体が倒れる危険があるという問題点があった。そこで,本件発明は,
吊下部材の下部にあり,移動壁本体の重量を支持している重量支持部を,固
定されているものから分離可能なものとし,通常は,重量支持部が,移動壁
本体の受け面に当接して移動壁本体の重量を支持しているが,上下方向の撓
みが生じて吊下部材が突き下げられると,重量支持部は移動壁本体の受け面
から分離し,吊下部材は移動壁本体に対して相対的に下降するようにし,横
揺れにより吊下部材が移動壁本体に対して左右方向へ揺れると,重量支持部
は移動壁本体の受け面に沿って水平左右方向へ自在にスライドするようにし
て,上下,左右の揺れによる外力を吸収して吊下部材や移動壁本体の破損を
防止するという作用効果を生じさせたものである。
イイ号物件の作用効果
他方,イ号物件は,前記認定のとおり,吊下部材,移動壁本体,杆体,重
量支持部の他に,本件発明にはないコントローラーという新たな部材を設け,
①重量支持部は,コントローラーの基部の水平部下面と当接することにより,
移動壁本体の重量を支持し,②横揺れの場合に,コントローラーの基部の水
平上面の転動球が,H鋼ひいては移動壁本体と接続されているガイドの受け
面と当接しつつ,左右に自在にスライドすることにより,左右方向の揺れに
よる外力を吸収し,③縦揺れの場合に,重量支持部がコントローラーの基部
の水平部下面との当接状態から下方に分離することにより,上下方向の揺れ
による外力を吸収するものである。
ウ置換可能性の有無
以上のとおり,本件発明も,イ号物件も,いずれも①重量支持部により,
移動壁本体の重量を支持し,②横揺れが生じた場合は,移動壁本体と接続し
ている部分の受け面と,杆体と接続ないし隣接している部分とが左右方向に
自在にスライドすることにより,横揺れによる左右方向の外力を吸収し,③
縦揺れが生じた場合は,移動壁本体と接続ないし上下方向に当接している部
分と,重量支持部とが分離して,相対的に上下方向に移動することにより,
縦揺れによる上下方向の外力を吸収し,もって地震の揺れによる吊下部材や
移動壁本体の破損を防止するという作用効果を生じさせるものであるから,
本件発明の「当接」に関する構成をイ号物件の「当接」に関する構成に置き
換えても,本件発明の目的を達成することができる。
(3)置換容易性について
ア本件発明の構成
前記のとおり,本件発明においては,①重量支持部が当接することにより
移動壁本体の重量を支持する面,②横揺れの場合に重量支持部が左右にスラ
イドする際の当接する面,③縦揺れの場合に重量支持部が当接状態から下方
に分離する面は,すべて同一の「受け面」によることを想定しているもので
ある。また,上記①の「受け面」において当接することによる移動壁本体の
重量を支持する部材,上記②の「受け面」に対して左右方向に自在にスライ
ドする部材,上記③の「受け面」に当接している状態から下方向に分離する
部材は,本件発明においては,いずれも重量支持部とするものである。
イイ号物件の構成
イ号物件においては,上記①の移動壁本体の重量を支持するために重量支
持部が当接している受け面,上記③の縦揺れの場合に重量支持部が当接状態
から分離することにより上下方向の揺れを吸収するときの当接状態から分離
する面は,いずれもコントローラーの基部の水平部下面であるが,上記②の
横揺れの場合に,左右に自在にスライドすることにより左右方向の揺れを吸
収する際にスライドする部分と当接している面は,ガイドの受け面であり,
上記①③の機能を有する面と上記②の機能を有する面は異なる。言い換えれ
ば,イ号物件は,本件発明にはない「コントローラー」という別個の部材を
取り入れ,コントローラーの面をもって重量支持部の上記①③の機能を果た
すための「受け面」とし,重量支持部の代わりにコントローラーをもって,
ガイドの「受け面」に対して上記②の機能を果たす役割を持たせているとい
う点で,本件発明と異なるものである。
また,イ号物件においては,上記①の移動壁本体の重量の支持は重量支持
部により,上記②の当接する「受け面」との関係で,左右に自在にスライド
する部材はコントローラーにより,上記③の「受け面」との当接状態から分
離する部材は重量支持部によるのであり,上記①ないし③の役割を持たせる
部材がすべて同一の部材ではなく,上記②については,本件発明にはないコ
ントローラーという重量支持部とは別の部材によるものである点で,イ号物
件は本件発明とは異なる。
ウ置換容易性の有無について
イ号物件は,1)別の部材を取り入れる,2)同一の「受け面」で3つの機能
を持たせていたところを,各機能を別の「受け面」によるものとする,3)本
件発明では重量支持部が果たしていた役割を新しい別の部材にさせるという
点で,本件発明と大きく相違するものであるが,上記相違点に係る構成を示
唆する資料はない。したがって,その相違はもはや単なる設計変更というこ
とはできず,当業者において,イ号物件の製造販売時に,上記1)ないし3)の
置き換えをすることが容易であったということはできない。
エ原告の主張について
原告は,乙1図面によれば,水平方向スライド部と受け面はボルトによっ
て連結されているため下方向に分離しないが,転動球とそれが直接に接して
いる面は,本来ならば分離可能であり,本件発明と同一作用を果たすにもか
かわらず,権利侵害を回避するためボルトで連結されているのであり,重量
支持部のみを下方向に移動可能とすることはたやすくできると主張する。
しかし,証拠(乙1)によれば,本件図面2のとおり,ボルト46#で固定さ
れているのは,コントローラー4#の基部41#と立上部42#であって,コントロ
ーラー4#と受け面61#を有するガイド6#とは,固定されていないことが認めら
れるのであり,だからこそ,コントローラー4#が受け面61#に対して左右に自
在にスライドできる構造となっているのである。
また,仮に,イ号物件のボルト46#を外してコントローラー4#の基部41#と
立上部42#を分離する改造をすることが可能であるとしても(もっとも,長
崎県美術館の壁内にあるものは,ボルトを外す作業をするためには壁を壊す
必要があるのではないかと思われ,現実の改造が容易とも認めがたい。),
イ号物件はそれが分離されていない以上,そのことは以上の判断を左右する
ものではない。この点に関する原告の主張は理由がない。
(4)まとめ
以上より,イ号物件の重量支持部と移動壁本体の内部の受け面との関係は
「当接」と均等であるということはできない。
4よって,本件請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由
がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官山田知司
裁判官高松宏之
裁判官村上誠子
別紙1
物件目録
別紙図面に示された被告が製造し販売する「マイウォール」と称する耐震移動壁。

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