弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 東京高等検察庁検事長代理検事岡琢郎の上告趣意第一点について。
 賄賂は公務員の職務に関する行爲に對する不法の報酬であるから、公務員が、他
人から金品利益の供與を受けた場合に、それが職務に関する行爲に對する不法の報
酬であるかどうかを定めるには單に事實上の判斷のみを以て足るものでなく、或は、
職務の内容に関し、或は、その職務と利益との関連性に関し法律上の判断を加えな
ければならないことは勿論である。しかしながら、それには、まづ右職務内容と利
益との関連性等について法律上の判断の基礎となるべき事實関係が確定されなけれ
ばならないことも、亦、言うを待たぬところである。本件において、検察官はその
公判請求書において被告人Aの当時における鐵道官吏としての職務内容と、同人が
被告人Bから金品利益を収受した事實、並びに、被告人Aが、その職務に関して被
告人Bのために同書記載のごどく「同人及びその知人等のため同人が依頼せる貨車
又病客車に對する配車方並びに乗車券等の購入に付」いて便宜の取計いをした事實
を主張した上、右金品の授受は、右便宜の取計らいを受けた事に對する謝禮並将來
も同様便宜の取計らいありたき趣旨の下になされたものであるとの事實を主張した
のであるが、これに對し原判決は、被告人Aの当時における職務内容と、檢察官主
張のような金品授受の事實は証拠上、これを認めることはできるけれども、検察官
主張のような趣旨において右金品が授受されたことその他、右金品が被告人Aの職
務に関する行爲に對する不法の報酬としてなされた事實は、本件においてこれを認
めるに足る証拠はないと判斷したのであつて、賄賂罪の成否を判斷するに当つて、
その金品がいかなる趣旨において授受されたかは、もとより、証拠によつて認定す
るを要する事實問題であることは勿論であるからこの点において、檢察官の主張す
るような事實関係の存在を認める証拠がないとする以上、これに對する法律判斷を
加えるまでもなく結局、本件贈收賄事實については、犯罪の証明不十分であるとい
うに歸着することは当然であつて、原判決の判斷に所論のような違法ありとするこ
とはできないのである。
 同第二点について。
 証拠の取捨、判斷、事實の認定は、原審の自由裁量に属するところであり、これ
を非難するに歸する論旨は採用し難く、かつ、原判決に所論のような経驗則違背の
点のあることもみとめられない。
 同第三点について。
 被告事件について、犯罪の証明がない爲めに、無罪の判決を言渡す場合において、
所論のような理由の説明をすることは、法の要請するところではないのであるから、
原判決の説示を以て所論のように、理由不備の違法あるものとすることはできない。
 被告人C、同Dの弁護人大高三千助の上告趣意、同弁護人坂野英雄の上告趣意及
び被告人Bの弁護人徳岡一男の上告趣意第一点、同弁護人三輪壽壯の上告趣意第一
点、第二点について。
 本件犯罪当時における國有鐵道共濟組合は、明治四〇年勅令一二七号鐵道共済組
合令(昭和二二年法律七二号によつて「國會の議決により法律に改められたもの」
とせらる)によつて組織された運輸部内の職員の相互救濟を目的とする組合で(同
令一条)運輸大臣がこれを統理するものでめる。(昭和一五年鐵道省令七号國有鐵
道共濟組合規則一、二条)しかして、國有鐵道共濟組合物資部は、國有鐵道共濟組
合規則九二条に基いて、同組合に附帯して施設せられ、組合員の「生計及勤労上必
要ナル物資ヲ調達配給スルヲ以テ目的」とし、「物資ノ購入、加工、並ニ配給」「
食堂ノ經營」「其ノ他ノ目的ヲ達スルニ必要ナル事業」を行うものであり、(昭和
一九年運輸通信大臣達二五三号國有鐵道共済組合物資部規程二条、三条)その事務
は、運輸大臣がこれを「統理」し、鐵道局長は、当該鐵道局所属物資部の事務を「
監理」するものである。(同規程四条)しかして、運輸大臣は鐵道部内の職員をし
て國有鐵道共済組合の事務に従事せしめることのできることは、又、前記鐵共濟組
合令三条の規定するところである。
 被告人Cは昭和二一年四月以降東京鐵道局、新橋管理部厚生課長兼新橋食糧増産
支部増産課長として、右令三条に基ずき國有鐵道共済組合新橋物資部に関する事務
を総括する職務を擔当し、被告人Dは、同年同月以降東京鐵道局新橋管理部厚生課
物資係長として、同じく同令三条にもとずき同新橋物資部に関する事務を分掌する
職務を擔当していたことは原判決の確定するところである。
 本件犯行当時における國有鐵道共濟組合は、もとより國家の行政事務を行う國家
機関ではないけれども、前記のごとき法令に基いて組織せられ、公務員たる鐵道従
業員の相互救濟、福利増進を目的とする團体であつて、これが業務の掌理について
も前敍のごとく一々法令又は大臣達によつて規定せられているのであつて、「運輸
大臣が同組合を統理し」又は、「物資部の事務を統理し」鐵道局長が当該鐵道局所
屬物資部の事務を「監理」するというも、いずれも、組合業務の執行に関するもの
であつて、かくのごとき法令に基く組合業務の執行は、運輸大臣、鐵道局長の國家
に對する職務に屬することは勿論であつて、従つて、前記令三条に基いて鐵道部内
の職員が大臣の命により組合の事務に従事する場合に於いても、その業務の執行は
同職員の公務員としての職務に屬するものといわなければならない。
 原判決の確定するところによれば被告人Bは被告人C、同Dに對し、同人等の擔
当にかかる國有鐵道共濟組合新橋物資部の業務に屬する判示のような新橋管理部長
名義の特配申請書の作成、提出等に関し種々寛大有利な取扱を受けたことの謝禮及
び將來も同様の処置を受けたい旨の趣旨を以て判示のごとき金品を供與し、被告人
C、同Dは右供與の趣旨を知つてそれぞれこれを收受したというのであるから、右
金品の授受は被告人C、Dの前記職務に関するものであることは極めて明瞭であつ
て、原判決が右の各被告人の所爲に對し刑法一九七条一九八条を適用したのは、ま
ことに正当である。
 たゞ原判決の前記被告人C、Dの職務に関する説明において、稍々明瞭を缺く憾
みがないではないけれども、その全体の趣旨とするところは、前段説明するところ
と同一に歸するものと解するのを相当とする。
 各論旨はいずれも原判決の右説明上の缺陷を攻撃し、若しくは、獨自の見解に立
つて右被告人等の職務を以て刑法一九七条にいわゆる職務に該当しないと主張する
ものであるが、その理由のないことは前段説明するところによつておのずから明ら
かである。
 被告人Bの弁護人徳岡一男の上告趣意第二点について。
 記録を調べても、所論各檢事聴取書中の被告人Bの供述が所論のように強制拷問
又は脅迫にもとずくものとは、みとめられない。又、原審公判調書をみれば、同被
告人が、原審公判において原判示第四の事實について、原判示のごとき判示同旨の
供述をしたことがわかるのであつて、原判決に所論のような違法ありとすることは
できない。
 同第三点について。
 本件繊維製品配給消費統制規則違反の行爲については、所論のような規則の改廃
にかかわらず、「犯罪後ノ法令ニ因リ刑ノ廃止」のあつたものといえないことは、
昭和二〇年法律第四四号附則四項及び昭和二二年商工省令第二五号衣料品配給規則
附則二項但書の規定によつて明らかであつて、これに反する所論の見解は採用する
ことができない。又原判決における「衣料品配給統制規則第三条」は「衣料品配給
規則第三条」の誤記であることは明白である。論旨はいずれも採用し難い。
 被告人Bの弁護人三輪壽壯の上告趣意第三点について。
 所論物償統制令にもとずく統制額指定の告示が廃止せられても、舊刑訴三六三条
の「犯罪後ノ法令ニ因リ刑ノ廃止アリタルトキ」に該当しないことは、当裁判所の
判例(昭和二三年(れ)第八〇〇号、同二五年一〇月一一日大法廷判決)の示すと
ころであるから、論旨は採用することができない。
 同第四点について。
 その理由のないことは、如上説明するところによつて明らかである。
 よつて、刑訴施行法二条、舊刑訴四四六条に従い、主文のとおり判決する。
 右は、全裁判官一致の意見である。
 検察官 安平政吉関與
  昭和二六年五月一一日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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