弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における未決勾留日数中五百日を本刑に算入する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 被告人本人の上告趣意について。
 被告人は警察において連日の拷問に堪え切れず調書に如何なる事が書いてあるか
も知らず署名捺印した旨並びに今迄世話になつていたAの親さんから依頼され第一
審の第一、二回公判において事件を黙認した旨主張するがこれを認むべき資料がな
いから、右主張は採用できない。その余の主張は、第一審裁判所の適法になした事
実の認定乃至その裁量に属する証拠の取捨判断等を非難するに帰し、刑訴四〇五条
の上告理由として採ることはできない。
 弁護人江原綱一の上告趣意について。
 所論前段は、第一審判決中に採用されている被告人の司法警察職員又は検事に対
する供述及び公判における供述はすべて被告人がヒロポン中毒の症状下になされた
自白を含むもので憲法三八条二項違反であるというのであるが、前記被告人の各供
述がいずれも所論のような中毒症状下になされた自白であると認むべき資料が存在
しないのであるから、所論は、既にその前提において採用できない。
 次に、所論後段は、第一審判決中では重大な事実誤認、採証の偏頗、捜査取調上
の疑点があるにもかかわらず、原審裁判所が弁護人の証人調申立を却下しているの
は、憲法三七条二項の違反であるというのである。しかし、裁判所が弁護人の証人
調申立を却下したからといつて憲法三七条二項違反といえないことは、既に当裁判
所屡次の判例であるばかりでなく、所論刑訴三九三条によれば、控訴裁判所は、前
条の調査をするについて必要があるときは、事実の取調を請求することができるも
のであつて、第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかつた証拠でその
事由が疏明されたものについてはこれを取り調べなければならないものである。し
かるに原審における所論証人調の申立が右のごとき取調をしなければならない場合
に当らないことは明白であるから、原審がこれを却下したからといつて違法である
ということもできない。そして、記録を精査しても、第一審判決中に所論の誤認、
偏頗等があるとは認められないから、本件については刑訴四一一条を適用すべきも
のとも思われない。
 よつて刑訴四〇八条、刑法二一条、刑訴一八一条に従い裁判官全員一致の意見で
主文のとおり判決する。
  昭和二八年一月一七日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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