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平成22年7月9日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第184号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成22年5月7日
判決
横浜市戸塚区〈以下略〉
原告A
同訴訟代理人弁護士堤浩一郎
同樋口華恵
東京都千代田区〈以下略〉
被告新日本製鐵株式会社
同訴訟代理人弁護士加茂善仁
同緒方彰人
同伊達有希子
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,150万円及びこれに対する平成14年7月24日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,被告の設置する研究施設の研究職員であった原告が,被告が後記2
(3)の発明につき特許出願をするに当たり共同発明者である原告を意図的に発
明者から除外して出願したことよって,発明者としての名誉権,人格権を侵害
されたと主張して,被告に対し,不法行為(民法709条)による損害賠償請
求権に基づき,慰謝料150万円及びこれに対する不法行為の後である平成1
4年7月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の
支払を求める事案である。
2前提となる事実(証拠等を掲記した事実を除き,当事者間に争いがない)。
()当事者1
,,(),,ア原告は昭和36年被告当時は八幡製鉄株式会社に入社し以後
被告の設置する研究施設において研究職としての業務に従事し,平成15
年3月31日に定年退職した。
イ被告は,鉄鋼の製造・販売等を目的とする株式会社である。(弁論の全
趣旨)
()先行発明2
被告は,以下の内容の特許出願の出願人である(以下,この特許出願に係
る発明を「先行発明」という(甲2)。)。
ア出願番号特願2000−526444号
イ出願日平成10年12月25日
ウ発明者B,原告,Cほか3名
エ発明の名称高純度Siの製造方法および装置
()本願発明3
被告は,平成14年7月23日,以下の内容の特許出願をした(以下,こ
の出願を「本件出願」といい,本件出願に係る発明を「本願発明」という。
また,本件出願の明細書を「本件明細書」といい,別紙として添付する。。)
(甲5)
平成18年5月15日,被告が,新日鉄マテリアルズ株式会社との間で,
被告の新素材事業部において遂行する事業に関する権利義務を新日鉄マテリ
アルズ株式会社に承継させる吸収分割契約を締結し,同年7月1日を効力発
生日として会社分割を行ったことより,本願発明の特許を受ける権利は新日
鉄マテリアルズ株式会社へ承継され,同年10月19日,本願発明の出願人
の名義は新日鉄マテリアルズ株式会社に変更された(乙8,9)。
ア出願番号特願2002−213853号
イ出願日平成14年7月23日
ウ発明の名称Si製造方法
エ発明者B,D,C及びE
オ特許請求の範囲
別紙記載の【特許請求の範囲】のとおり
3争点
()原告は本願発明の発明者か(争点1)1
()不法行為の成否及び損害額(争点2)2
4争点に関する当事者の主張
()争点1(原告は本願発明の発明者か)1
〔原告の主張〕
ア本願発明の特徴的部分
本願発明の主たる特徴的部分は,特許請求の範囲の請求項1及び請求項
2にある。
すなわち,SiO固体へアルカリ金属元素の酸化物,水酸化物,炭酸化
,,,,物フッ化物のいずれか又はアルカリ土類金属元素の酸化物水酸化物
炭酸化物,フッ化物のいずれか,又はこれらの化合物の2種以上を,Si
O固体のモル数の1/20以上1000倍以下となる量を添加し以下ア(「
ルカリ添加」ということがある,該混合物をSiの融点以上2000。)
℃以下に加熱して化学反応を行わせることによりSiを生成させ,該Si
を反応副生成物から分離回収することが特徴的部分である。
そして,アルカリ金属元素としては,入手の容易性,工業的使用の観点
から,Naが最も一般的であり,また,SiOとの反応性の観点からは2
強アルカリであるNaOHが最も有望と考えられる。このような観点から
すると,NaOHを使用した実験に成功することが本願発明の完成に極め
て重要であった。
イ原告が行った実験
●(省略)●
原告は,●(省略)●の本件プロジェクトのミーティングにおいて,B
から,上記アルカリ添加の問題についての問題提起を初めて受け,●(省
略)●Si抽出実験を原告が担当することなった。
このミーティングの際にBが配布した資料(甲7)には,疑問点や問題
点が多数記載されており,同日時点においては本願発明は全く完成してい
なかった。このように,アルカリ添加に関しては未解明の部分が多々あっ
たため,原告は,独創的・創造的な考えに基づき,●(省略)●,アルカ
リ添加に関する実験に着手した。
(ア)●(省略)●
(イ)●(省略)●
(ウ)●(省略)●
(エ)●(省略)●
(オ)●(省略)●
ウ本願発明の発明者
本願発明の特徴的部分であるアルカリ添加の問題を着想したのはBであ
っても,着想の段階では,アルカリ添加によりどのような具体的問題が発
生するのか,その問題発生を防止するにはどうすべきか,Si製造のため
の安定した化学反応を起こさせるためにはどうすればよいのか等について
は,全く解明されていなかった。
このような状況の中で,原告は本件プロジェクトのメンバーの1人とし
て,他のメンバーと討議しながら4回の本実験を行い,その結果4回目の
実験においてSiの塊を製造することに成功し,よってSi製造のための
。,()安定した化学反応の知見を得たものであるこのことは原告が●省略
●に行った実験の成功に基づき,被告が,同日付けで「Siサンプル作,
成スケジュール(甲28)という書面を直ちに作成したことからも裏付」
けられる。
このように,原告が本願発明の特徴的部分につき,創造的・主体的に大
きく貢献したことは明らかであり,原告は本願発明の発明者である。
エ被告の主張に対する反論
被告は,Bが自らの着想に基づきSiO固体にアルカリ添加してSiを
抽出する実験を行い,効率良くSiを抽出することに継続して成功してい
たため,原告が本願発明に関する実験に関与する前である●(省略)●の
時点で,本願発明は完成していたと主張する。
しかし,●(省略)●時点においては,当該技術思想が当業者が実施で
きる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていたとはいえず,
この時点において本願発明が完成していたとはいえない。
●(省略)●,Si抽出は完全に成功したわけではなく大きな課題を抱
えていたといえ,●省略●時点においても,本願発明が完成していたとい
うことはできない。
〔被告の主張〕
ア本願発明の特徴的部分
発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」,
(特許法2条1項)をいうから,特許法による「発明者(共同発明者」)
といえるためには,当該発明における技術的思想の創作行為に現実に関与
すること(創作的関与)が必要であり,そのためには,当該特許請求の範
囲に記載された発明の構成のうち,従前の技術的課題の解決手段に係る部
分(発明の特徴的部分)の完成に現実に関与(創作的関与)することが必
要である。
本願発明は,シリコン(Si)製造工程等から発生する工業的価値のな
かった各種形態の一酸化珪素(SiO)固体からSiを安価に効率良く製
造することを目標とした発明であり,本願発明の特徴的な部分は,SiO
固体へアルカリを添加し,該混合物をSiの融点以上2000℃以下に加
熱し,化学反応を行わせることによりSiを反応副生成物から分離回収す
ること,すなわち,SiOにアルカリを添加して効率良くSiを抽出する
というところにある。
したがって,本願発明の発明者たり得るためには,SiO固体からSi
を製造するに当たり,SiO固体へのアルカリ添加を着想したり,SiO
固体へのアルカリ添加につながる具体的な提案をしたり,アルカリ添加に
ついて独自の発想に基づいて実験をするなどして,その着想・提案を具体
化した者であることが必要である。
しかしながら,原告が本願発明に関する実験に関与したのは,本願発明
が完成した後のことであり,また,原告が行った実験は,Bからの詳細な
実験条件の指示を受けて行われたものであり,かつ,その条件や得られた
結果もBが実施した実験と同一のものである等,何ら創作的な関与が認め
,。られないものであるから原告を本願発明の発明者ということはできない
イ本願発明の完成時期
本願発明は,遅くとも●(省略)●までには,①反復実施可能性,②具
体性,③客観性を備えており,原告が本願発明に関する実験を行う前に完
成していた。
本願発明の完成に至る経緯は以下のとおりである。
Bは,従来のSi抽出方法における問題点,すなわち,スケールアップ
が困難で工業的利用が不可能であるという問題の解決方法を検討していた
ところ,●(省略)●,Si抽出時にアルカリを添加するという着想を得
た。そして,この着想に基づき,●(省略)●を添加してSi抽出実験を
行い,それ以降も様々なアルカリ土類金属を添加し,また,その添加割合
や昇温温度等の条件を変えながらSi抽出実験を行い,Si抽出効率の変
。(),,()化を調査した●省略●これらの実験の成功によりBは●省略
●を添加することによって,効率良く,かつ,再現性良くSiを抽出でき
ることを確認し,この時点で,アルカリを添加してSiを抽出するという
技術を確立させた。●(省略)●
そして,本願発明における反応は,アルカリ化合物等を添加して全体を
液体化する反応,すなわち試料全体が溶融状態となる反応(液相反応)で
あって,液相反応においては,試料の量にかかわりなく同様の反応が進む
ことが一般的であるから,数十g単位の試料を用いたBの実験の成功によ
って,本願発明は確立されたといえる。
このように,Bは,自らの着想に基づきSiO固体にアルカリを添加し
てSiを抽出する実験を継続的に行い,効率良くSiを抽出することに継
続して成功しており,●(省略)●時点で,Si抽出の通常の知識経験を
持つ者であれば何人でもBの採用した方法によって効率良くSiを抽出で
きるに至っており,原告が本願発明に関する実験を行う前に,本願発明は
完成していたといえる。
ウ原告の実施した実験について
本願発明は,遅くとも●(省略)●までには完成したものであり,同時
に,同日までにはユーザーへのサンプル提供用のシリコンを製造するに適
したSiの抽出条件のめどもついたため,Bは,本願発明を利用してユー
ザーへのサンプル提供を行うために,試料の量を増やしてSiを製造する
実験を行うこととした。
そこで,Bは,●(省略)●,本件プロジェクトのミーティングにおい
て,本件プロジェクトのメンバーに対し,Bが●(省略)●までに行って
きた実験内容とその結果を説明した上で,ユーザーへのサンプル提供に向
けて,今後,㎏級のSiOに●(省略)●を添加してSiを抽出すること
としたいとの提案を行った。そして,●(省略)●,Bは,原告に対し,
実験指示メモ(乙1)を交付し,数百グラム級の試料を用いてSiを抽出
する実験を行うよう指示した。
その後,原告は,●(省略)●にSi抽出実験を行ったが,これらは,
Bが既に行った実験を通じてユーザーへのサンプル提供用のシリコンを製
造するに適した実験条件のめどがついたことから実施されたものであり,
いずれも,Bから詳細な実験条件の指示を受けて行われ,かつ,その条件
や得られた結果もBが実施した実験と同内容のものであった。
したがって,原告は,本願発明の完成に当たり創作的に関与したとはい
えず,原告が本願発明の発明者(共同発明者)に当たらないことは明らか
である。
()争点2(不法行為の成否及び損害額)2
〔原告の主張〕
原告は本願発明の発明者であるにもかかわらず,被告は,本件出願の際,
原告を意図的に発明者から除外して出願を行った。この被告の行為は不法行
為を構成する。
,,,,被告は本件出願において発明者としては極めて軽い立場であるDC
Eを発明者として処遇し,原告のみを発明者から排除している。そのため,
原告は,通常の発明者以上に発明者としての名誉権,人格権を著しく侵害さ
れ,著しい精神的苦痛を受けたものであり,その相当な慰謝料は150万円
を下らない。
〔被告の主張〕
否認ないし争う。
第3当裁判所の判断
1争点1(原告は本願発明の発明者か)について
()発明者とは,発明(自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のも1
の〔特許法2条1項)を完成させるための精神的作業を行った者をいい,〕
また,発明は,その技術内容が,当該の技術分野における通常の知識を有す
る者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具
体的・客観的なものとして構成されたときに完成したと解すべきである(最
高裁昭和52年10月13日第一小法廷判決・民集31巻6号805頁参
照)から,発明者とは,自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与
した者,すなわち,当該技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的
・客観的なものとして構成する創作活動に関与した者を指すというべきであ
る。そのため,当該発明について,例えば,管理者として,部下の研究者に
,,,対して一般的管理をした者一般的な助言・指導を与えた者補助者として
研究者の指示に従い,単にデータを取りまとめた者若しくは実験を行った者
又は発明が完成した後に関与した者等は,発明者には当たらない。また,発
明者となるためには,1人の者がすべての過程に関与することが必要なわけ
ではなく,共同で関与することでも足りるというべきであるが,複数の者が
共同発明者となるためには,課題を解決するための着想及びその具体化の過
程において,一般的・連続的な協力関係の下に,それぞれが重要な貢献をな
すことを要するというべきである。
以上の観点から,本願発明の内容及び原告の関与の程度を総合考慮して,
原告が本願発明の特許請求の範囲の請求項1及び2の発明(以下「本願発明
1及び2」という)の発明者に当たるか否かについて,検討する(本願発。
明の特徴的部分が特許請求の範囲の請求項1及び2の発明部分にあることは
当事者間に争いがない。。)
()本願発明の内容2
ア本件明細書の「特許請求の範囲」の請求項1及び2の記載(甲5)
【請求項1】
SiO固体へ,アルカリ金属元素の酸化物,水酸化物,炭酸化物,フ
ッ化物のいずれか,又はアルカリ土類金属元素の酸化物,水酸化物,炭
酸化物,フッ化物のいずれか,又はこれらの化合物の2種以上を,総量
のモル数がSiO固体のモル数の1/20以上1000倍以下となる量
を添加し,該混合物をSiの融点以上2000℃以下に加熱し,化学反
応を行わせることによりSiを生成させ,該Siを反応副生成物から分
離回収することを特徴とするSi製造方法。
【請求項2】
SiO固体へ,アルカリ金属元素の酸化物,水酸化物,炭酸化物,フ
ッ化物のいずれか,又はアルカリ土類金属元素の酸化物,水酸化物,炭
酸化物,フッ化物のいずれか,又はこれらの化合物の2種以上を含有す
る物質を,含有される前記化合物のモル数の総量がSiO固体のモル数
の1/20以上1000倍以下となる量を添加し,該混合物をSiの融
点以上2000℃以下に加熱し,化学反応を行わせることによりSiを
生成させ,該Siを反応副生成物から分離回収することを特徴とする
Si製造方法。
イ本件明細書の「発明の詳細な説明」の記載(甲5)
①【発明の属する技術分野】
「本発明は,安価に製造されたSiO,もしくは従来廃棄されていたSi
,。」Oから工業的及び経済的にSiを製造する方法に関するものである
(段落【0001)】
②【従来の技術】

「SiOからSiを製造する経済的な方法としては,先に本発明者らが特
願2000−526444号で開示した方法がある。すなわち,SiO
固体を1000℃以上1750℃以下に加熱し,液体又は固体のSiと
固体のSiOに分解反応させ,生成したSiをSiOから分離するこ22
とを特徴とするSi製造方法である。該方法によれば,特にSiの融点
1412℃以上では生成したSi粒が自然に合体成長し副生成物のSi
Oから自然に分離するので,生成Siの回収は容易である。しかしな2
がら,該方法は原料SiOを反応容器内にできるだけ均質で高密度に充
填する必要があり,充填密度が低かったり充填が不均質であるとSiの
分離が不完全となり,Siの回収効率が低下するという問題があった。
この理由としては,生成Siは副生成物のSiOに濡れ難いために分2
離するが,原料SiOの充填が不完全で隙間があるとその部分に生成
Siが留まってしまうために,Siの回収効率が低下するためであると
考えられる。しかし,先に述べたSi単結晶引き上げ工程や珪石を炭素
で還元するSi製造工程等で発生するSiOは,平均粒径が1μm以下
の微粒子や,長辺が1cm以上の薄片状のものや,長辺が1cm以上の
不定形の塊状のものであり,これらのSiOを反応容器内に均質で高密
度に充填するには,微粒子の場合には造粒が必要であり,薄片状や塊状
の場合はある程度の粉砕と粒度選別が必要である。これらの煩雑な工程
を要するために,上記の副生SiOを原料としたSi製造を行う場合に
は,工業的及び経済的に問題があった(段落【0007【000。」】,
8)】
③【発明が解決しようとする課題】
「本発明は,上記課題に応えるべくなされたものであって,均質で高密度
に充填しにくい形状のSiOであっても,すなわち,微粒子,鱗片状,
不定形の塊状のSiO,又は,これらの混合物であっても,SiOの形
状を整える,又は,選別する等の工程を経ることなく,そのままの形状
で不均化反応により効率よくSiを分離抽出することを課題とする」。
(段落【0009)】
④【課題を解決するための手段】

「以上のように,不明確な点を有するSiO固体ではあるが,本発明者ら
は,上記課題を解決するために,原料のSiO固体の形状に関係なく,
効率よくSiを製造する方法について鋭意検討した結果,SiO固体に
,,,,アルカリ金属元素の酸化物水酸化物炭酸化物フッ化物のいずれか
又はアルカリ土類金属元素の酸化物,水酸化物,炭酸化物,フッ化物の
いずれか,又はこれら化合物の内2種以上を添加し加熱すると,Siが
生成することを新規に見出した。例えば,大きさが数cm以上の塊状の
SiO固体にアルカリ金属酸化物の一つであるNaOをモル数でSi,2
O固体の1/2量を加え,これらを反応容器に入れ,1500℃に昇温
加熱し冷却後に様子を観察すると,SiO固体のほぼ1/2モルに相当
するSiがガラス状物質の底に一塊となり沈んでおり,前記ガラス状物
質は分析の結果,水ガラスの一種であるメタ珪酸ソーダNaSiOで23
あった。生成Siが一塊となったのは,表面エネルギーを下げるために
互いに合体したためであると考えられる。上記反応において,SiO固
体と,添加したアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物,水酸化
物,炭酸化物,フッ化物から選ばれる1種以上とを反応容器内に均質に
高密度に充填する必要はなく,従ってSiO固体の形状としては何らの
制約を受けることが無く,本発明者らが特願2000−526444号
で開示した方法とは大きく異なる。本発明は,上記知見に基づくもので
,。」(【】,【】)ありその要旨は以下の通りである段落00130014
⑤【発明の実施の形態】
「本発明に用いる原料のSiO固体は,その形状を問わない。すなわち微
粒子,薄片状,大きな塊状あるいはこれらの混合物を用いることができ
る。さらに,SiO固体,添加したアルカリ金属酸化物等を反応容器内
に均質に高密度に充填する必要もない(段落【0026)。」】
⑥「前記添加剤を構成する具体的な元素としては,アルカリ金属元素とし
てはナトリウム,カリウムが好ましく,アルカリ土類金属元素としては
,,。,マグネシウムカルシウムバリウムが好ましい前記添加剤の役割は
SiOと添加剤との反応により生成するSiO等のSi以外の化合物2
を融液としかつ低粘性とすることであるこれが達成できればSi,,。,
Oと添加剤との反応により生成したSiは容易に合体して一つの塊とな
り,Si以外の化合物との分離回収が非常に容易となる。この目的のた
めに添加する添加剤の量は,SiO固体の1/20以上のモル数が好ま
しい。さらに,添加剤を多く加えることに対しては特段の制約はなく,
例えば,Siの融点以上で溶融状態にある大量の添加剤に少量のSiO
固体を投入してもSiは分離生成する。ただ,工業的な観点を考慮する
と添加剤はSiの1000倍以下のモル数が好ましい。また,熱伝導を
効率的に行うには,添加剤の量はSiO固体の1/10以上から50倍
以下のモル数が特に好ましい。さらに,前記添加剤成分を含有する物質
を使用することも可能で,該物質中の前記添加剤成分のモル数が,Si
O固体のモル数の1/20以上1000倍以下となるように添加すれば
よい。例えば,NaOの場合では,モル数でSiO固体の1/20以2
上1000倍以下を入れれば良い。例えば,上述したように,NaO2
の代わりに水ガラス:NaO・nSiO(n=1,2,3,4,…)22
のようにNaOを含有する化合物を使用することも可能で,該化合物2
中のNaOのモル数がSiO固体のモル数の1/20以上となるよう2
に添加すれば良い(段落【0030】∼【0032)。」】
⑦本発明のSiO固体と上記添加剤との反応温度範囲はSiの融点1「,(
412℃)以上2000℃以下が好ましい。生成したSiを効率良く回
収するにはSiが小塊に分散せず一塊になることが好ましく,このため
()。,にはSiの融点1412℃以上で反応を行うことが必要である又
反応温度が2000℃よりも高温になると添加したアルカリ金属元素及
び/又はアルカリ土類金属元素の化合物の気化が激しくなるので実用的
でない。さらに反応温度が1700℃以下であれば,添加したアルカリ
金属元素及び/又はアルカリ土類金属元素の化合物の気化をより完全に
押さえることができるため,特に好ましい(段落【0033)。」】
⑧「本発明における圧力条件としては,特段の制限があるわけではなく,
一般的には操業が行いやすい1気圧でよい。アルカリ金属元素,アルカ
リ土類金属元素やこれらの酸化物の気化を極力押さえたいならば,反応
容器内の圧力を大気圧より高圧に保つ方が良い場合もあるが,工業的観
点から数10気圧以下が好ましい。又,アルカリ金属元素又はアルカリ
土類金属元素の水酸化物,炭酸化物を添加した場合は,Siの融点以上
へ加熱されるとこれら化合物からそれぞれHO,COが脱離するが,22
これらの脱離を促進したい場合は1気圧よりも減圧にしても良い(段。」
落【0039)】
⑨「反応容器の形態としては,アルカリ金属元素,アルカリ土類金属元素
やこれらの酸化物の気化を押さえる観点から,できれば蓋を設ける方が
よい。アルカリ金属元素及び/又はアルカリ土類金属元素の水酸化物,
炭酸化物を添加した場合は,Siの融点以上へ加熱されると,これらの
化合物からそれぞれHO,COが脱離するが,これらの気体は系外に22
放出する方が好ましいため,反応容器は一定圧以上で気体を放出する機
能,もしくは一定圧下でガスフローを行える機能を有することが好まし
い。しかし,上述の反応容器の形態は本発明にとって必須の条件という
わけではない(段落【0043)。」】
⑩「反応容器の材質としては,カーボン,各種セラミックス,各種耐火物
が使用可能であるが,添加剤とできるだけ反応しない材質を選択すべき
である(段落【0044)。」】
ウ本願発明1及び2の内容及び特徴
上記ア及びイの記載からすると,本願発明1及び2は,均質で高密度に
充填しにくい形状のSiOであっても,SiOの形状を整える,又は,選
別する等の工程を経ることなく,そのままの形状で不均化反応により効率
良くSiを分離抽出することを課題とし,SiO固体にアルカリ金属元素
の酸化物,水酸化物,炭酸化物,フッ化物のいずれか,又はアルカリ土類
金属元素の酸化物,水酸化物,炭酸化物,フッ化物のいずれか,又はこれ
らの化合物のうち2種以上を添加し加熱すると,Siが生成することが新
規に見いだされたことに基づくものである。Si以外の化合物との分離回
収を容易にするため,添加する化合物(添加剤)の量は,SiO固体の1
/20以上のモル数が好ましく,工業的な観点からは1000倍以下のモ
ル数が好ましいとされ,上記添加剤成分を含有する物質を使用することも
可能である。また,SiO固体と添加剤との反応温度の範囲については,
Siの融点(1412℃)以上2000℃以下が好ましいとされている。
そうすると,本願発明1及び2の特徴的部分は,SiO固体へ,アルカ
リ金属元素の酸化物,水酸化物,炭酸化物,フッ化物のいずれか,若しく
はアルカリ土類金属元素の酸化物,水酸化物,炭酸化物,フッ化物のいず
れか,若しくはこれらの化合物の2種以上又はこれを含有する物質を,総
量のモル数又は含有される上記化合物のモル数の総量がSiO固体のモル
数の1/20以上1000倍以下となる量を添加し,該混合物をSiの融
点(1412℃)以上2000℃以下に加熱することにより,原料のSi
O固体の形状を問わずに効率良くSiを分離抽出することができる点にあ
るということができる。
()本願発明に至るまでの経緯3
前提となる事実(第2,2)に加え,証拠(甲7,13,14,22,2
8,41,乙1∼7,10∼18,証人B,原告本人)及び弁論の全趣旨に
よると,以下の事実が認められる。
ア●(省略)●
イ先行発明におけるSi抽出方法には,SiOの充填密度が均質かつ高密
度でないとSiの回収効率が低下する等の問題があり,工業的な利用が困
難であったことから,Bは,先行発明の課題の解決方法についてDに相談
したところ,Dから,●(省略)●,これをSiにも応用できないか検討
してみてはどうかとのアドバイスを受けた。
このアドバイスに基づき,Bは,●(省略)●,Si抽出時にアルカリ
を添加する方法を着想した。
ウ●(省略)●
エその後,Bは,SiOに様々なアルカリ土類金属を添加し,また,その
添加割合や昇温温度等の条件を変えながらSi抽出実験を行い,Si抽出
効率の変化を調査した。
●(省略)●
オ●(省略)●
カ●(省略)●
キBは●省略●本件プロジェクトのミーティングにおいて●省,(),,(
略)●,アルカリ添加によるSi抽出についてのメモ(甲7)を配布し,
これに基づきSiOにアルカリを添加することによってSiを抽出するこ
とが可能である旨を説明した。原告は,この説明により,初めて,アルカ
リ添加によるSi抽出の方法を認識した。
Bは,●(省略)●,原告に対し,アルカリ添加によるSi抽出の実験
方法に関するメモ(乙1)を交付し,●(省略)●Siの抽出実験を行う
よう依頼した。
●(省略)●
()原告は本願発明の発明者か4
ア上記()イで認定したように,本願発明1及び2の特徴的部分のうち,3
SiO固体へ,アルカリ金属元素の酸化物,水酸化物,炭酸化物,フッ化
物のいずれか,若しくはアルカリ土類金属元素の酸化物,水酸化物,炭酸
化物,フッ化物のいずれか,若しくはこれらの化合物の2種以上又はこれ
を含有する物質を添加すること(アルカリ添加)により,Siを分離抽出
することを着想したのはBであって,原告ではない(この点については原
告も争っていない。。)
イ●(省略)●
一方,原告は,上記()キで認定したように,●(省略)●,本件プロ3
ジェクトのミーティングにおけるBの説明により,アルカリ添加によるS
i抽出の方法を初めて認識したものであり,また,原告が初めて行った●
(省略)●のSi抽出実験は,●(省略)●にBから交付されたメモ(乙
1)に記載された実験条件●(省略)●と全く同一の実験条件で行われた
ものである上,原告がその後に行った実験においても,●(省略)●,い
ずれもBが行った実験と同様の条件である。
そうすると本願発明1及び2の特徴的部分のうち総量のモル数がSi,,
O固体のモル数の1/20以上1000倍以下となる量を添加すること,
及び混合物をSiの融点以上2000℃以下に加熱することは,いずれも
Bが着想したものと認められ,他方,原告が着想したものと認めるに足り
る証拠はない。
ウさらに,●(省略)●Si抽出実験の実験条件や実験過程を記載したメ
モ(乙11)の記載から,これに接した当業者(本願発明の属する技術の
分野における通常の知識を有する者)であれば,●(省略)●,SiO固
体からのSi抽出を実施することが可能であったと認められることからす
れば,●(省略)●技術的思想は,遅くとも●(省略)●には,当業者に
おいて,反復実施してSi抽出という目的とする技術効果を挙げることが
できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていたものと認め
られ,発明として完成していたということができる。
このことは,上記()キで認定したように,Bから,●(省略)●,乙3
11のメモと同様の内容が記載されたメモ(乙1)を交付された原告が,
●(省略)●に乙1のメモの記載と同一の条件で実験を行った結果,Si
O固体からSiを抽出することができたことからも明らかである。
エしたがって,原告は,本願発明1及び2の特徴的部分について着想した
者ではなく,また,上記()キで認定したように,原告が本願発明に関す3
るSi抽出実験を開始したのは,本願発明が完成した●(省略)●より後
の●(省略)●であるから,原告は,着想やその具体化の過程へ関与して
いるということはできず,本願発明の発明者と認めることはできない。
なお,原告は,本願発明の完成の過程において,●(省略)●ことによ
,,り本願発明の特徴的部分につき創造的・主体的に貢献したと主張するが
原告が主張する対策は,いずれも本願発明が完成したと認められる●(省
略)●以後の同年●(省略)●に実施された実験におけるものである上,
いずれも実験方法や実験器具に関することで本願発明1及び2の特徴的部
(,,分とは直接関係のないことであるから上記()イ⑨で認定したように2
反応容器の形態は本願発明の必須の条件ではない,原告主張の上記事。)
実は前記判断を左右するものではない。
()以上検討したところによれば,原告は,本願発明の発明者であると認める5
ことはできないから,被告が,本件出願において原告を発明者としなかった
ことが原告の名誉権,人格権を侵害するものということはできず,これが不
法行為に当たるとすることはできない。
2結論
よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない
から,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
岡本岳
裁判官
鈴木和典
裁判官
坂本康博

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