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平成29年1月19日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成27年(ワ)第9648号不正競争行為差止等請求事件(甲事件)
平成27年(ワ)第10930号不正競争行為差止等請求事件(乙事件)
口頭弁論終結日平成28年11月15日
判決
原告株式会社ジオン商事
同訴訟代理人弁護士岩坪哲
同速見禎祥
被告玉一商店株式会社
同訴訟代理人弁護士澁谷歩
主文
1被告は,別紙被告商品目録記載1,同3の各商品を製造し,販売
し,又は販売の申出をしてはならない。
2被告は,別紙被告商品目録記載1,同3の各商品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,1084万1977円及び内金789万7
488円に対する平成27年9月1日から,内金294万4489
円に対する平成27年11月12日から各支払済みまで年5分の割
合による金員を支払え。
4原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5訴訟費用はこれを5分し,その2を原告の負担とし,その余を被
告の負担とする。
6この判決は,第3項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙被告商品目録記載1ないし同3の各商品を製造し,販売し,又
は販売の申出をしてはならない。
2被告は,別紙被告商品目録記載1ないし同3の各商品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,1722万5759円及び内金1277万0759円
に対する平成27年9月1日から,内金445万5000円に対する平成27年1
1月12日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
本件のうち甲事件は,別紙原告商品目録記載1,同2の各商品(以下「原告商品
1」,「原告商品2」という。)を製造,販売していた原告が,別紙被告商品目録
記載1,同2の各商品(以下「被告商品1」,「被告商品2」という。)を製造販
売する被告に対し,下記Ⅰ,Ⅱの請求をした事案であり,乙事件は,別紙原告商品
目録記載3の商品(以下「原告商品3」という。)を製造,販売していた原告が,
別紙被告商品目録記載3の商品(以下「被告商品3」という。)を製造販売する被
告に対し,下記Ⅲの請求をした事案である。

Ⅰ被告商品1の製造販売行為についての請求
被告商品1は原告商品1の形態を模倣した商品であり,その販売行為が不正競争
防止法2条1項3号の不正競争に該当することを理由とする同法3条1項に基づく
製造販売等の差止請求,同条2項に基づく廃棄請求のほか,同法4条に基づく79
0万6237円(弁護士費用損害71万8749円を含む。)の損害賠償請求及び
これに対する不法行為の後の日である平成27年9月1日から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害請求
Ⅱ被告商品2の製造販売行為についての請求
ⅰ被告商品2は原告商品2の形態を模倣した商品であり,その販売行為が不正
競争防止法2条1項3号の不正競争に該当することを理由とする同法3条1項に基
づく製造販売等の差止請求,同条2項に基づく廃棄請求のほか,同法4条に基づく
486万4522円(弁護士費用損害44万2229円を含む。)の損害賠償請求
及びこれに対する不法行為の後の日である平成27年9月1日から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金請求(主位的請求)
ⅱ被告商品2は著作物である原告商品2を複製又は翻案した商品であるとして,
著作権(複製権又は翻案権)侵害を理由とする著作権法112条1項に基づく差止
請求,同条2項に基づく廃棄請求のほか,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償
請求として上記ⅰと同額の損害賠償請求(第1次的予備的請求)
ⅲ被告商品2の製造販売行為が一般不法行為を構成することを理由とする,一
般不法行為に基づく差止請求,廃棄請求のほか,損害賠償請求として上記ⅰと同額
の損害賠償請求(第2次的予備的請求)
Ⅲ被告商品3の製造販売行為についての請求
ⅰ被告商品3は原告商品3の形態を模倣した商品であり,その販売行為が不正
競争防止法2条1項3号の不正競争に該当することを理由とする同法3条1項に基
づく製造販売等の差止請求,同条2項に基づく廃棄請求のほか,同法4条に基づく
295万2937円(弁護士費用損害26万8448円を含む。)の損害賠償請求
及びこれに対する不法行為の後の日である平成27年11月12日から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求(主位的請求)
ⅱ被告商品3は著作物である原告商品3を複製又は翻案した商品であるとして,
著作権(複製権又は翻案権)侵害を理由とする著作権法112条1項に基づく差止
請求,同条2項に基づく廃棄請求のほか,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償
請求として上記ⅰと同額の損害賠償請求(第1次的予備的請求)
ⅲ被告商品3の製造販売行為が一般不法行為を構成することを理由とする,一
般不法行為に基づく差止請求,廃棄請求のほか,損害賠償請求として上記ⅰと同額
の損害賠償請求(第2次的予備的請求)
1判断の基礎となるべき事実(争いのない事実並びに各項末尾記載の証拠及び
弁論の全趣旨により容易に認定できる事実。なお,甲事件において提出された証拠
を甲A,乙A,乙事件において提出された証拠を,甲B,乙Bと表記する。)
(1)当事者
ア原告は,婦人用高級服飾品の製造及び販売を行う会社である。
イ被告は,婦人服等の製造及び販売を行う会社である。
(2)原告商品の販売
原告は,平成26年4月以降,原告商品1,同2を販売し,同年1月以降,同3
を販売した。なお,原告商品1の小売価格は2万8000円又は3万円(いずれも
税抜価格),原告商品2のそれは1万9000円(税抜価格),原告商品3のそれは
2万4000円又は2万6000円(いずれも税抜価格)である。(甲A1,甲B1,
甲B2)
(3)被告商品の販売
被告は,平成27年4月以降,被告商品1ないし同3を販売した。なお被告商品
1,同2はアンサンブルとして販売され,その小売価格は1万円(税抜価格)であ
る。また被告商品3は,ジャケットとのアンサンブルとして販売され,その小売価
格は1万円(税抜価格)である。(甲A3,甲B2ないし甲B4)
(4)原告商品の外観
原告商品1の外観は別紙原告商品写真目録記載1のとおりであり,原告商品2の
外観は別紙原告商品写真目録記載2のとおりであり,原告商品3の外観は別紙原告
商品写真目録記載3のとおりである。
(5)被告商品の外観
被告商品1の外観は別紙被告商品写真目録記載1のとおりであり,被告商品2の
外観は別紙被告商品写真目録記載2のとおりであり,被告商品3の外観は別紙被告
商品写真目録記載3のとおりである。
2争点
(1)被告商品1ないし同3は,原告商品1ないし同3をそれぞれ模倣した商品で
あるか。
(2)被告商品2,同3による著作権侵害の成否
(3)被告商品2,同3の販売行為が一般不法行為を構成するか。
(4)損害の額
第3当事者の主張
1争点1(被告商品1ないし同3は,原告商品1ないし同3をそれぞれ模倣し
た商品であるか。)について
(原告の主張)
(1)被告商品1ないし同3の各形態は,原告商品1ないし同3の各形態に依拠し
て作り出されたものであり,以下のとおり,各商品の形態は実質的に同一であるか
ら,被告商品1ないし同3は,それぞれ原告商品1ないし同3の形態をそれぞれ模
倣した商品であるといえる。
(2)原告商品1と被告商品1の形態の実質的同一性について
ア原告商品1と被告商品1の形態の対比
(ア)原告商品1の形態の構成は,別紙対比表1の原告商品1の形態欄記載のとお
りであり,被告商品1の形態の構成は,別紙対比表1の被告商品1の形態欄記載の
とおりである。
(イ)被告商品1の形態a1ないしa4は,原告商品1の形態A1ないしA4と同
一である。
(ウ)したがって,原告商品1と被告商品1の形態は実質的に同一であり,被告商
品1は原告商品1の形態を模倣したものといえる。
イ被告主張に対する反論
(ア)原告商品1と被告商品1のボタンの色の違いについては,「ブラウスの
生地とほぼ同色」という観点からすれば,むしろその特徴は同一といえるし,
ボタンの柄や窪みの有無についても,ブラウス全体の形態の中でまさに微細な
差異というしかなく,広告宣伝の場面でも各商品の特徴として全く挙げられて
いない微差にすぎない。
(イ)原告商品1は黒色,オフホワイト,ピンク及びブルーの4色で展開して
おり,原告商品1にはベージュ色に近いオフホワイトのものも含まれる。被告
商品1がベージュ色をしていることから,原告商品1と顕著な相違があるとは
いえない。
(3)原告商品2と被告商品2の形態の実質的同一性について
ア原告商品2と被告商品2の形態の対比
(ア)原告商品2の形態の構成は,別紙対比表2の原告商品2の形態欄記載のとお
りであり,被告商品2の形態の構成は,別紙対比表2の被告商品2の形態欄記載の
とおりである。
(イ)原告商品2と被告商品2の形態は,以下の点で共通している。
a袖はノースリーブであり,裾部分は左右にスリットが入っている点。
b全体が単色の生地で構成され,色がオフホワイトである点。
c胸部分には,以下のとおり広範囲にわたって花柄の刺繍が施されている点。
(a)花柄の刺繍は5輪の花及び花周辺に配置された13枚の葉からなる点。
(b)5輪の花のうち2輪が比較的大きく,刺繍中央部に正面視,左右に1輪ずつ
配されている点(正面視右側の花を「花①」,正面視左側の花を「花②」という)。
(c)他の3輪は比較的小さく,花①の正面視右上方に1輪(以下,「花③」とい
う。),花②の正面視左上方に1輪(以下,「花④」という。),花①と②が接す
る点の正面視下方に1輪(以下,「花⑤」という。)が配されている点。
(d)花の輪郭はチェーンステッチ風に刺繍されており,花①及び花②の花びら部
分は変形ステッチで刺繍されている点。
(e)花③ないし花⑤の花びら部分はメッシュ状のステッチで刺繍されている点。
(f)葉は,花③の周囲に5枚が,花①の正面視下方に2枚が,花①と花②が接す
る点の正面視上方に1枚が,花②の正面視下方に2枚が,花②と花④が接する点の
正面視上方に1枚が,花④の正面視左方に2枚が配されている点。葉はいずれもロ
ング&ショートステッチで刺繍されている。刺繍糸の色は生地と同色である点。
(ウ)原告商品2と被告商品2の形態は,以下の点で相違している。
aネックラインが,原告商品2は丸みを帯びたスクエア型であるのに対し,被
告商品2は丸首型である点。また,原告商品2は,両脇下にダーツが取られている
のに対し,被告商品2はダーツが取られていない点。
b原告商品2は,大部分が単色無地の生地で構成され,襟首の直下が同色のレ
ース生地で切り替えがされているのに対し,被告商品2は切り替えがなく,全体が
単色無地の同一生地で構成されている点。
(エ)検討
原告商品2のシルエット自体は,女性用のランニングとして比較的一般的なもの
であって,ほぼ唯一の装飾である胸部分に大きく展開された花柄刺繍が重要な特徴
点である。また,胸部分の刺繍は,オリジナルのデザインであり創作性が高い。
一方,両ランニングのシルエットに関する相違点を見ると,脇下にダーツがある
形状も,ダーツがない形状もいずれもごく一般的なものであって,原告商品2のダ
ーツがある形状を被告商品2のようにダーツがない形状とすることは着想が極めて
容易であり,改変の程度は乏しい。また,ネックラインが原告商品2のように丸み
を帯びたスクエア型である形状も,被告商品2のように丸首型である形状も,いず
れもごく一般的な形状であって,改変の着想は極めて容易であり,改変の程度は乏
しい。
さらに,両ランニングの生地に関する相違点を見ると,原告商品2のように,生
地の一部を同色のレース生地に切り替える構成も,被告商品2のように切り替えが
なく全体が同一の生地である構成も,いずれもごく一般的なものであって,原告商
品2の生地を被告商品2のようにする着想は極めて容易であり,改変の程度は乏し
い。
以上のとおり,原告商品2と被告商品2は,胸部分の花柄刺繍という創作性の高
い原告商品2における特徴的形態において共通している一方,ダーツの有無,ネッ
クラインの種類,生地の切り替えの有無という,いずれもありふれた形状において
異なるにすぎず,さらに,ダーツがあるものをなくしたり,生地の切り替えがある
ものをなくしたり,ネックラインをポピュラーな幾つかのパターンの中で置換する
などは,着想が極めて容易であり,改変の程度も乏しく,創作的な要素も皆無であ
る。
また,被告商品2の改変は,単に原告商品2の形状を省略するだけのものであっ
て新たなデザインを生み出したり,創作性を発揮したりするものではない。
したがって,原告商品2と被告商品2の形態は実質的に同一であり,被告商品2
は原告商品2の形態を模倣したものといえる。
ウ原告商品3と被告商品3について
(ア)原告商品3の形態の構成は,別紙対比表3の原告商品3の形態欄記載のとお
りであり,被告商品3の形態の構成は,別紙対比表3の被告商品3の形態欄記載の
とおりである。
(イ)原告商品3と被告商品3の形態は,以下の点で共通している。
aチュニック丈のTシャツである点。
b黒地の上に白色の横縞柄を配した以下の3段階のボーダー柄で構成される点。
(a)身頃部分の肩部から胸部及び袖部の上部は,黒地上に,約30~32mm程
度の間隔で幅約9mm程度の白色の横縞柄が6本配されている点
(b)身頃部分の胸部から腹部は,黒地上に,約9~10mm程度の間隔で幅約5
~6mm程度の白色の横縞柄が10本配されている点
(c)身頃部分の裾部は,黒地上に,約37~38mm程度の間隔で幅約38~4
0mm程度の白色の横縞柄が3本配されている点。
(d)胸部分には,つる部分に2枚の葉をつる部分から僅かに離間させて左右に各
1枚あしらった黒色のりんごのデザインが付されている点。りんごの大きさは,高
さ(つるの先端からりんごの下端まで)が約150mm程度,幅が約106~10
9mm程度である点。りんごの大部分には,チュールのテープによるコード刺繍で
一見ばらの花弁のような柄が配置され,向かって右端部の一部分は花のような形で
チュールが配置されていない欠けた部分がある点。欠けた部分の大きさは,高さが
約55~58mm程度,幅が約39~40mm程度である点。りんご柄の周囲には,
りんご柄に沿うように多数のラインストーンが,りんご柄から直近の2列分はりん
ご柄を取り囲むように2列分密に配置され,3列目以降はややばらついた印象とな
るように列数や間隔を変えて配置されている。ラインストーンが配置されている範
囲は,高さが約180~187mm程度,幅が約154~158mm程度である点。
(ウ)原告商品3と被告商品3の形態は,以下の点で相違している。
a原告商品3は長袖であるのに対し,被告商品3は半袖である点。
b被告商品3が半袖であることに伴い,袖部分には上記(イ)b(b),(c)のボーダ
ー柄がない点。なお,ボーダー柄の幅及び間隔に微細な違いはあるが,相違点とし
て認めるほどの差異はない。
cりんごの大部分に重ねられたチュールのコード刺繍の粗密が被告商品3にお
いては原告商品3と比較してやや粗い点。なお,りんご柄の大きさに微細な違いは
あるが,相違点として認めるほどの差異はない。
d原告商品3にはロゴがあるが,被告商品3にはない点。
(エ)検討
原告商品3のデザインの特徴点は,3段階に区分されたボーダー柄と胸部分に大
きく配置されたりんご柄のデザインである。りんご柄のデザインの下に配された
「Chamois」というロゴは,3段階に区分されたボーダー柄と胸部分に大き
く配置されたりんご柄のデザインと比較して,原告商品3の形態上の特徴点として
需要者の目を惹く力は弱い。
そして原告商品3と被告商品3は,長袖と半袖の違いはあるものの,全体のシル
エットが共通し,さらに,3段階に区分されたボーダー柄という生地の構成及びり
んご柄のデザインという原告商品3の重要な特徴点がいずれも同一ないし酷似して
いるし,原告商品3のりんご柄はオリジナルのデザインであり,創作性が高いから,
被告商品3は,原告商品3の重要な特徴点において共通している。
他方,原告商品3が長袖で被告商品3が半袖という相違があるが,この点は,袖
丈の違いという機能上の差異にすぎず,改変の程度も乏しい。また,袖丈の違いに
伴う袖部分のボーダー柄の表出の仕方の違いも,長袖と半袖という機能上の差異か
ら生じる当然の相違点にすぎない。ボーダー柄の間隔や幅,りんご柄のサイズの微
妙な違い等は,両商品の実質的同一形態を否定する材料として考慮に値しない。
そのほか原告商品3と被告商品3は,りんご柄に重ねられているチュールのコー
ド刺繍の粗密にやや差があるが,形状や素材という具体的なデザイン形態は完全に
模倣されたもので,両商品の差は単に材質をやや粗悪にしたことに伴うものにすぎ
ず,具体的な形態の差異とはいえない。
原告商品3には「Chamois」というブランドロゴがあり,被告商品3には
ブランドロゴがないが,原告商品のロゴは背景となるボーダー柄生地と一体的に溶
け込んでいるため読みにくいものとなっており,原告商品3の形態上の特徴点とし
て需要者の目を惹く力は弱いから,被告商品3に異なる形態上の特徴をもたらさな
い。また,Tシャツにおいて,ロゴをなくすというのは,改変と言えない程度の極
めて安易な着想にすぎず,被告商品3に新たな形態上の特徴を与えることはない。
以上のとおり,原告商品3と被告商品3の共通点は,創作性の高い原告商品3の
特徴的部分にあるのに対し,原告商品3と被告商品3の相違点は原告商品3の重要
な特徴点とはいえない部分にあり,いずれも改変の着想が容易な,ありふれた改変
にすぎないから,原告商品3と被告商品3の形態は酷似し,実質的に同一であり,
被告商品3は原告商品3の形態を模倣したものといえる。
(被告の主張)
(1)被告商品1ないし同3の各形態は,原告商品1ないし同3の各形態に依拠し
て作り出されたものではなく,各商品の形態は以下のとおり実質的に同一ではない
から,被告商品1ないし同3は,それぞれ原告商品1ないし同3の各形態を模倣し
た商品ではない。
(2)原告商品1と被告商品1の形態の実質的同一性について
原告主張に係る原告商品1の形態の構成については素材及び生地の点を除き認め,
被告商品1の形態の構成について認めるが,原告商品1と被告商品1とは,①色彩
(黒色とベージュ色),②生地の透け感,③ボタンのデザイン(原告商品1のボタ
ンは黒,柄はなく,等間隔に窪みがあるのに対し,被告商品1のボタンは,ベージ
ュ色に柄があり,窪み等はない)の点で異なり,実質的に同一の形態であるとはい
えない。
(3)原告商品2と被告商品2の形態の実質的同一性について
ア原告主張に係る原告商品2及び被告商品2の形態の構成については否認ない
し争う。
イ原告商品2と被告商品2は,①色彩(黄色とベージュ色),②ネックライン
の形状(スクエア型と丸首型),②両脇下のダーツの有無,③襟首下のレース生地
の切り替え部分の有無という相違点がある。また,原告は,胸部の花柄刺繍を重要
な特徴点と主張するが,婦人向けの衣類において花柄の刺繍はそれほど特徴的なも
のではないし,刺繍自体にも,花の輪郭部分の強調の有無という点に一見してわか
る相違点がある。そうすると,これらの諸点を考慮すると,原告商品2と被告商品
2の形態が実質的に同一であるとはいえない。
(4)原告商品3と被告商品3について
ア原告主張に係る原告商品3及び被告商品3の形態の構成については否認ない
し争う。
イ原告商品3と被告商品3は,①長袖と半袖の違い及びこれに伴う袖部分のボ
ーダー柄の有無,②ボーダー柄の幅及び間隔,③りんご柄の大きさ,④りんご柄に
重なる刺繍の粗密,⑤りんご柄部分がボーダー柄になっているか否か,⑥りんご柄
下の「Chamois」というロゴの有無の点で相違する。また,原告は,ボーダ
ー柄とりんご柄のデザインを重要な特徴点と主張するが,衣類,特にTシャツにお
いてはモノトーンのボーダー柄も,りんごを模した絵柄についてもそれほど特徴的
なものではなく,かつ,ボーダー柄には幅や間隔という点,りんご柄に関してはそ
の大きさに加え,「Chamois」のロゴの有無といった一見してわかる相違点
がある。そうすると,これらの諸点を考慮すると,原告商品3と被告商品3の形態
は実質的に同一であるとはいえない。
2争点2(被告商品2,同3による著作権侵害の成否)について
(原告の主張)
ア原告商品2,同3の著作物性
原告商品2については,花柄刺繍のデザイン部分が単体で,又は,その部分も含
めた原告商品2全体のデザインが著作物である。
原告商品3については,りんご柄デザイン部分が単体で,又は,その部分も含め
た原告商品3全体のデザインが著作物である。
原告商品2,同3のデザインは,原告デザイナーがオリジナルで製作したもので
あり,作成者の個性が発揮されたものであるから,「思想又は感情を創作的に表現
したもの」(著作権法2条1項1号)に該当し,著作物性を有する。
以上の原告商品2,同3のデザインは,衣服という実用品に用いるものであるか
ら,いわゆる「応用美術」に該当するが,「応用美術」であることをもって,他の
著作物と比較してより高度な著作物性(創作性)が要求されるわけではない。
イ被告商品2,同3による著作権(複製権又は翻案権)侵害
被告は,原告商品2に依拠して被告商品2のデザインをし,原告商品3に依拠し
て被告商品3のデザインをしたものであり,各商品のデザイン(形態)が酷似してい
ることは争点1で主張したとおりである。
したがって,被告商品2,同3は,それぞれ原告商品2,同3の著作権(複製権
ないし翻案権)を侵害して制作された商品である。
(被告の主張)
ア原告商品2,同3の著作物性
原告商品2,同3のデザインは,応用美術に該当するものであるところ,これら
を純粋美術と同視すべき事情はないことから,著作物とはいえない。
イ被告商品2,同3による著作権(複製権又は翻案権)侵害
原告の主張は争う。
(3)被告商品2,同3の販売行為が一般不法行為を構成するか。
(原告の主張)
原告は,商品のデザインを制作するためにデザイナーを雇用するなどし,商品化
のために資金・労力を投下し,新たなデザインの制作に努めている。
被告が,原告商品2,同3のデザインを完全にコピーして酷似した被告商品2,
同3を製造販売する行為は,取引における公正かつ自由な競争として許されている
範囲を甚だしく逸脱し,法的保護に値する原告の営業の利益を侵害するものである。
とりわけ,被告は,原告販売に係る商品のデザインをターゲットとして繰り返し
模倣行為を行っているのであるから,かかる行為は不正競争行為や著作権侵害行為
に該当しないとしても一般不法行為を構成するというべきである。
(被告の主張)
原告の主張は争う。
(4)損害の額
(原告の主張)
ア被告商品1の製造販売による損害について
(ア)原告商品1の1着当たりの売上金額は●(省略)●であるから,原告の受け
る利益の額は5834円である。
(イ)被告は,平成27年3月から同年8月頃までの間に,少なくとも被告商品1
を1232着販売した。
(ウ)したがって,被告による被告商品1の販売によって原告に生じた損害の額は,
不正競争防止法5条1項の適用により,少なくとも上記(ア)の原告の受ける利益の
額5834円に上記(イ)の被告商品1の販売数量1232着を乗じた額である71
8万7488円である。
(エ)被告の不正競争と因果関係のある弁護士費用相当の損害額は71万8749
円を下らない。
イ被告商品2の製造販売による損害について
(ア)原告商品2の1着当たりの売上金額は●(省略)●であるから,原告の受け
る利益の額は3917円である。
(イ)被告は,平成27年3月ないし同年8月頃までの間に,少なくとも被告商品
2を1129着販売した。
(ウ)したがって,被告による被告商品2の製造販売によって原告に生じた損害の
額は,少なくとも上記(ア)の原告の受ける利益の額3917円に上記(イ)の被告商品
2の販売数量1129着を乗じた額である442万2293円である(被告の行為
が不正競争を構成する場合は不正競争防止法5条1項の適用により,著作権侵害を
構成する場合は著作権法114条1項の適用による。)。
(エ)被告の行為(不正競争,著作権侵害又は一般不法行為)と因果関係のある弁護
士費用相当の損害額は44万2229円を下らない。
ウ被告商品3の製造販売による損害について
(ア)原告商品3の1着当たりの売上金額は●(省略)●であるから,原告の受け
る利益の額は6901円である。
(イ)被告は,平成27年5月14日から同年6月12日までの間に,少なくとも
被告商品3を389枚販売した。
(ウ)したがって,被告による被告商品3の製造販売によって原告に生じた損害の
額は,少なくとも上記(ア)の原告の受ける利益の額6901円に上記(イ)の被告商品
3の販売数量389着を乗じた額である268万4489円である(被告の行為が
不正競争を構成する場合は不正競争防止法5条1項の適用により,著作権侵害を構
成する場合は著作権法114条1項の適用による。)。
(エ)被告の行為(不正競争,著作権侵害又は一般不法行為)と因果関係のある弁護
士費用相当の損害額は26万8448円を下らない。
エ販売時期に関する被告の主張について
原告商品1ないし同3は,いずれも被告商品1ないし同3の販売が開始された後
も販売されていたから,被告商品1ないし同3が原告商品1ないし同3の販売期間
終了後のシーズンに販売されたものではない。また,原告は,被告商品1ないし同
3の販売開始後に,原告商品1ないし同3を追加的に販売することができたから,
被告商品の販売開始時期が原告商品のそれより1年遅れたからといって,被告商品
の製造販売と原告の損害との間に因果関係がないことにならない。
(被告の主張)
ア被告が,被告商品1ないし同3を販売したことは認めるが,その余の原告の
主張は否認ないし争う。
イ被告商品1ないし同3は,原告商品1ないし同3の販売終了後に販売された
ものであるから,被告商品の製造販売と原告の損害との間に因果関係はない。
第4当裁判所の判断
1争点1(被告商品1ないし同3は,原告商品1ないし同3をそれぞれ模倣し
た商品であるか。)について
(1)被告商品1について
ア証拠(甲A7)及び弁論の全趣旨によれば,原告商品1及び被告商品1を正
面視した,それぞれの形態は,別紙対比表1(認定)の各該当欄記載のとおりであ
り,原告商品1と被告商品1を正面視した形態の共通点,相違点は次のとおり認め
られる。
(ア)原告商品1と被告商品1を正面視した形態の共通点
原告商品1と被告商品1は,①前ボタン式で丸首襟の形状をしており,全体に透
け感のある素材で構成されている点,②前身頃のボタン部の左右部分に,縦方向に
一定幅で区切られた範囲において,ハシゴ状柄のレース生地が用いられ,上下にわ
たって一定間隔で,水平方向の開口部を有している点,③前身頃の上記②のデザイ
ン部の外側(腕側)部分は,2種類の花柄の刺繍が施されており,裾部分は同質素
材であるものの刺繍のないデザインに切り替えられ,縦向きにタックがとられてい
る点,④袖口部分に上記③の前身頃部分と同様のレース生地の花柄が使用されてい
る点で共通である。
(イ)原告商品1と被告商品1を正面視した形態の相違点
原告商品1と被告商品1は,①原告商品1の方が被告商品1より生地の透け感が
高く,②原告商品1のボタンは黒色で柄はなく,等間隔に窪みがあるのに対し,被
告商品1のボタンは,ベージュ色に柄があり,窪み等はない点,③原告商品1は黒
色なのに対し,被告商品1はベージュ色である点で相違している。
イ以上により検討するに,両商品は,①丸首襟の形状をしていること,②前身
頃のボタン部の左右部分に,縦方向に一定幅で区切られた範囲においてハシゴ状柄
のレース生地が用いられ上下にわたって一定間隔で水平方向の開口部がある部分が
設けられていること,③その外側部分及び袖口部分には二種類の花柄の刺繍が交互
に施されているのに袖部分及び裾部分には刺繍が施されていないという組み合わせ
となっているという,両商品の特徴をなす点で正面視した形態が共通している。そ
して,両商品を背面視した形態はほぼ同一であるから,両商品は商品全体の形態が
酷似し,その形態が実質的に同一であるものと認められる。
もっとも,原告商品1と被告商品1には,前記のような相違点が認められるが,
これらはいずれも商品全体を特徴付ける形態とかかわりがなく,また,相違点に係
るデザインは,この種の部位のデザイン手法としては,いずれもごくありふれたも
のである。そのため,これら相違点は,わずかな改変に基づくもので商品の全体的
形態に与える変化が乏しく,商品全体から見てささいな相違にとどまるものと認め
られるから,被告商品1の形態が原告商品1の形態と実質的に同一であるとの上記
判断に影響を及ぼすものではないというべきである。
ウそして,このように被告商品1と原告商品1の形態が実質的に同一であると
いえることのほか,被告商品1の販売開始時期が原告商品1の販売開始時期にほぼ
1年遅れることに加え,被告が被告商品1の形態を独自に作り出したとの主張立証
をしているわけではないことからすると,被告商品1の形態は原告商品1に依拠し
て作り出されたものと認められる。
エしたがって,被告商品1は,原告商品1を模倣した商品というべきである。
(2)被告商品2について
ア証拠(甲A7)及び弁論の全趣旨によれば,原告商品2及び被告商品2を正
面視した形態は,別紙対比表2(認定)の各該当欄記載のとおりであり,原告商品2
と被告商品2を正面視した形態の共通点,相違点は次のとおり認められる。
(ア)原告商品2と被告商品2を正面視した形態の共通点
原告商品2及び被告商品2は,①袖がノースリーブであり,裾部分には左右にス
リットが入っている点,②全体が単色の生地で構成され,胸部分には,広範囲にわ
たって本体と同色の花柄の刺繍(大きさの異なる5輪の花及び花周辺に配置された
13枚の葉)が施されている点,③その花柄の刺繍の5輪の花及び葉の大きさや位
置関係並びに花弁部分及び葉に施されたステッチの種類がほぼ同一である。
(イ)原告商品2と被告商品2を正面視した形態の相違点
原告商品2と被告商品2は,①ネックラインが,原告商品2は角部で丸みを帯び
たスクエア型であるのに対し,被告商品2は通常の丸首型である点,②原告商品2
は,両脇下にダーツが取られているのに対し,被告商品2にはダーツが取られてい
ない点,③原告商品2は,前身頃と後身頃の生地が正面から見える前肩部分で目立
つように縫い合わされているのに対し,被告商品2はそのような仕上げがされてい
ない点,④原告商品2は,襟首の直下に,本体と同色のレース生地での切り替え部
分が設けられているのに対し,被告商品2は同切り替え部分がない点,⑤原告商品
2は黄色であるが,被告商品2はベージュ色である点で相違している。
イ以上により検討するに,原告商品2と被告商品2の正面視した形態は,いず
れもノースリーブであり,その胸部分に花柄の刺繍が施されている点で形態全体が
似ており,とりわけ花柄の刺繍部分などは同一であって被告商品2の形態が原告商
品2に依拠して作られたことを容易にうかがわせるものであるが,商品正面の目立
つ場所に集中している,ネックラインの形状,前身頃と後身頃の縫い合わせの仕上
げの仕方,さらには襟首直下のレース生地による切り替え部分の有無で相違してい
る。
そして,これらの相違点は,ありふれた形態であるノースリーブのランニングシ
ャツの全体的形態に変化を与えており,およそ両商品を対比してみたときに商品全
体から見てささいな相違にとどまるものとは認められないから,両商品を背面視し
た形態が同一であることを考慮したとしても,被告商品2の形態は原告商品2の形
態に酷似しているとはいえず,両商品の形態は実質的に同一であるということはで
きない。
(3)原告商品3と被告商品3
ア証拠(甲B8,甲B9)及び弁論の全趣旨によれば,原告商品3及び被告商
品3を正面視した形態は,別紙対比表3(認定)の各該当欄記載のとおりであり,原
告商品3と被告商品3を正面視した形態の共通点,相違点は次のとおり認められる。
(ア)原告商品3と被告商品3を正面視した形態の共通点
原告商品3及び被告商品3は,いずれも①チュニック丈のTシャツであり,②黒
色と白色を交互に繰り返す横縞を配したボーダー柄で構成されており,③ボーダー
柄は,ⅰ身頃部分の肩部から胸部及び袖部の上部においては,幅約30ないし32
mm程度の黒色の横縞と幅約9mm程度の白色の横縞の柄が繰り返され(以下「第
1横縞部分」という。),ⅱ身頃部分の胸部から腹部においては,幅約9ないし1
0mm程度の黒色の横縞と幅約5ないし6mm程度の白色の横縞が繰り返され(以
下「第2横縞部分」という。),ⅲ身頃部分の裾部には,幅約37ないし38mm
程度の黒色の横縞と幅約38ないし40mm程度の白色の横縞が繰り返されている
(以下「第3横縞部分」という。)点,④胸部分には,つる部分に2枚の葉をつる部
分から僅かに離間させて左右に各1枚あしらった黒色のりんごの柄(りんごの大き
さは,高さ(つるの先端からりんごの下端まで)が約150mm程度,幅が約10
6ないし109mm程度であり,りんごの大部分には,チュールのテープによるコ
ード刺繍が配置され,向かって右端部の一部分は花のような形でチュールが配置さ
れていない上下約55ないし58mm,幅約39ないし40mmの欠けた部分があ
る)が配されている点,⑤そのりんご柄の周囲には,りんご柄に沿うように多数の
ラインストーンが,上下約180ないし187mm,幅約154ないし158mm
の範囲において,りんご柄から直近の2列分はりんご柄を取り囲むように2列分密
に配置され,3列目以降はややばらついた印象となるように列数や間隔を変えて配
置されている)が施されている点で共通する。
(イ)原告商品3と被告商品3を正面視した形態の相違点
原告商品3と被告商品3は,①原告商品3が長袖であるのに対し,被告商品3が
半袖であり,これに伴い,被告商品3の袖部分には,身頃部分と同じ黒色と白色の
横縞の繰り返しがない点,②原告商品3は,肩口が黒色だけであるのに対し,被告
商品3は肩口に白色の横縞がある点,③原告商品3と被告商品3は肩口の処理が異
なるため,それに伴って原告商品3の方が低い位置まで第1横縞部分が及び,その
ため原告商品3では,りんご部分の下側の少しだけが第2横縞部分に及んでいるが,
被告商品3では,より多くの部分が第2横縞部分に及んでいる点,⑤りんごの大部
分に重ねられたチュールのコード刺繍が,被告商品3の方が原告商品3より粗く,
原告商品3においては,りんご部分と重なり合う白色の横縞部分がほとんど見えな
いのに対し,被告商品3においては,りんご部分と重なり合う白色の横縞部分は透
けて見える点,⑥原告商品3にはりんご部分の下部に「Chamois」とのロゴ
があるが,被告商品3にはない点で相違する。
イ以上により検討するに,原告商品3と被告商品3は,①商品全体に黒色と白
色の横縞が繰り返されているだけでなく,第1横縞部分,第2横縞部分,第3横縞
部分という特徴的な繰り返しパターンがほぼ同様に施されている点,②前身頃に類
似するデザインの大きなりんごの柄がほぼ同じ手法で施されている点,③そのりん
ご部分を縁取りするようにラインストーンが同じパターンで配されている点で形態
が共通しており,これらの特徴的部分で正面視した形態がほぼ同一である。そして,
両商品を背面視した形態もほぼ同一であるから,両商品は商品全体の形態が酷似し,
その形態が実質的に同一であるものと認められる。
なお,原告商品3と被告商品3は,前記ア(イ)のような相違点が多く認められる
が,衣服において長袖を半袖にする改変は極めて容易な改変であるし,横縞の本数
をごくわずかに変えたなどの相違も,商品全体に及ぶ横縞の繰り返しパターンをほ
ぼそのままになされた改変であって,わずかな改変であるといえる。そして,その
改変の結果もたらされるりんご部分との位置関係への影響などについても,商品の
全体的形態に与える変化が乏しく,商品全体から見るとささいな相違にとどまると
いうべきである。
また,りんごと重なり合う白色の横縞部分が透けて見えるか否かの相違点や,り
んご部分の下部のロゴの有無などの相違点も,個別に見れば明確な相違点として認
識できるものではあるが,下地の白色の横縞部分が透けているのはりんご部分が粗
く作られた結果にすぎないともいえるし,またロゴの付加などはありふれたデザイ
ン手法であるから,これらを上記相違点と併せて考えても,黒色と白色の横縞を3
段階の繰り返しパターンで用いその上胸部に大きなりんごの柄を施すという原告商
品3と被告商品3の基本的特徴の共通性との比較においては,やはり商品の全体的
形態に与える変化が乏しく,商品全体から見てささいな相違にとどまるものと認め
られるから,被告商品3の形態が原告商品3の形態と実質的に同一であるとの上記
判断に影響を及ぼすものではないというべきである。
ウそして,このように被告商品3と原告商品3の形態が実質的に同一であると
いえることのほか,被告商品3の販売開始時期が原告商品3の販売開始時期にほぼ
1年遅れることに加え,被告が被告商品3の形態を独自に作り出したとの主張立証
をしているわけではないことからすると,被告商品3の形態は原告商品3に依拠し
て作り出されたものと認められる。
エしたがって,被告商品3は,原告商品3を模倣した商品というべきである。
2争点2(被告商品2,同3による著作権侵害の成否)について
(1)原告は,被告商品2が原告商品2の形態を模倣した商品といえないとしても,
原告商品2の花柄刺繍部分,及び,同部分を含む原告商品2全体のデザインは著作
物であり,被告商品2は原告商品2を複製ないし翻案したものであるから,著作権
(複製権ないし翻案権)侵害が認められるように主張する。
(2)証拠(甲A8)によれば,原告商品2の花柄刺繍部分のデザインは,衣服に
刺繍の装飾を付加するために制作された図案に由来するものと認められ,また同部
分を含む原告商品2全体のデザインも,衣服向けに制作された図案に由来すること
は明らかであるから,これらは美的創作物として見た場合,いわゆる応用美術と位
置付けられるものである。
ところで著作権法は,文化の発展に寄与することを目的とするものであり(1条),
その保護対象である著作物につき,同法2条1項1号は「思想又は感情を創作的に
表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」旨
を規定し,同条2項は「この法律にいう『美術の著作物』には,美術工芸品を含む
ものとする」旨規定している。その一方で,美術工芸品が含まれ得る実用に供され,
産業上利用することのできる意匠については,別途,意匠法において,同法所定の
要件の下で意匠権として保護を受けることができるとされている。そうすると,純
粋美術ではない,いわゆる応用美術とされる,実用に供され,産業上利用される製
品のデザイン等は,実用的な機能を離れて見た場合に,それが美的鑑賞の対象とな
り得るような創作性を備えている場合に初めて著作権法上の「美術の著作物」とし
て著作物に含まれ得るものと解するのが相当である。
(3)以上を踏まえて原告商品2についてみると,原告商品2の花柄刺繍部分の花
柄のデザインは,それ自体,美的創作物といえるが,5輪の花及び花の周辺に配置
された13枚の葉からなるそのデザインは婦人向けの衣服に頻用される花柄模様の
一つのデザインという以上の印象を与えるものではなく,少なくとも衣服に付加さ
れるデザインであることを離れ,独立して美的鑑賞の対象となり得るような創作性
を備えたものとは認められない。また,同部分を含む原告商品2全体のデザインに
ついて見ても,その形状が創作活動の結果生み出されたことは肯定できるとしても,
両脇にダーツがとられ,スクエア型のネックラインを有し,襟首直下にレース生地
の刺繍を有するというランニングシャツの形状は,専ら衣服という実用的機能に即
してなされたデザインそのものというべきであり,前記のような花柄刺繍部分を含
め,原告商品2を全体としてみても,実用的機能を離れて独立した美的鑑賞の対象
となり得るような創作性を備えたものとは認められない。
したがって,原告商品2は,著作権法2条1項1号にいう「著作物」と認められ
ないから,原告商品2が著作物であり著作権が認められることを前提として著作権
侵害をいう原告の主張が採用できないことは明らかである。
3争点3(被告商品2,同3の販売行為が一般不法行為を構成するか。)につ
いて
原告は,被告商品2が原告商品2の模倣品とは認められず,また著作権侵害が認
められないとしても,被告が原告販売商品に係るデザインをターゲットとして繰り
返し模倣行為を行っているから,かかる行為は一般不法行為を構成する旨主張する。
しかし,被告商品2の製造販売行為が不正競争防止法上も著作権法上も違法とさ
れないことは既に説示してきたとおりであるから,同じ行為について民法上の一般
不法行為責任が認められるというためには,著作権法や不正競争防止法が規律の対
象とする著作物や商品の形態の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を
侵害するなどの特段の事情が認められる必要がある。
そうしたところ,原告は,被告が,原告商品2のデザインをコピーして酷似した
商品を製造販売したことを主張するが,不正競争防止法又は著作権の保護法益とは
異なる法益侵害の事実を主張するものではないことから,上記説示したところに照
らし,この主張が失当であることは明らかである。
また原告は,被告が原告販売に係る商品のデザインをターゲットとして繰り返し
模倣行為を行っていることを指摘するところ,確かに本件で対象とした被告商品1
ないし同3については,それぞれ原告商品1ないし同3のデザインに依拠してデザ
イン制作がされたことは認められ,しかもそれがほぼ同時期になされた事実が認め
られる。
しかし,証拠(甲A3,甲A10の1の1ないし6)によれば,原告及び被告と
も,もっと多種多様の商品を毎年販売している様子がうかがえるから,これらに比
較すると本件で問題とする商品の占める割合はごく僅かであって,これだけでは,
個別の商品ごとの関係での模倣行為等を問題とすることができたとしても,これを
超えて被告が原告販売に係る商品のデザインをターゲットとして繰り返し模倣行為
を行っているとして被告の営業行為全般への違法評価まで及ぼすことはできないと
いうべきである。
したがって,被告商品2の製造販売行為が一般不法行為を構成するとする原告の
主張は,その余の判断に及ぶまでもなく理由がない。
4小括
(1)以上によれば,被告による被告商品1,同3の販売行為は,不正競争防止法
2条1項3号の形態模倣行為と認められることから,製造,販売及び販売の申出行
為の差止め及びこれらの商品の廃棄請求には理由があり,また被告が原告商品1,
同3を模倣して被告商品1,同3を制作したものである以上,少なくとも過失があ
ることは明らかであるから,被告は,後記5で認定する原告に生じた損害を賠償す
る責任を負うことになる(なお被告は,被告商品1,同3の返品を受け在庫として
保有していた旨を認めながら,既に保有していないと主張するが,在庫品が処分さ
れた事実関係を具体的に明らかにしているわけではないから,廃棄請求はなお理由
があるというべきである。)。
(2)他方,被告商品2の販売等の行為は,不正競争防止法2条1項3号該当の不
正競争行為,著作権侵害行為及び一般不法行為のいずれにも該当しないことから,
同行為の差止請求,被告商品2の廃棄請求,及び損害賠償請求にはいずれも理由が
ないというべきである。
5争点4(損害の額)について
(1)被告商品1の販売による損害について
ア証拠(甲A12)及び弁論の全趣旨によれば,原告商品1の1着当たりの売
上金額は●(省略)●であるから,原告の受ける利益の額は5834円であると認
められる。
イ証拠(甲A11)によれば,被告は,平成27年3月から同年8月頃までの
間に,少なくとも被告商品1を1232着販売した事実が認められる。
ウ原告は,不正競争を理由とする損害賠償については,不正競争防止法5条1
項の適用を前提とする損害額を主張しているところ,弁論の全趣旨によれば,原告
が被告商品1の販売期間中,同商品と同数の原告商品1を製造販売することは原告
の能力を超えないと認めることができるから,上記アで認定した原告商品1の販売
による利益の額に,上記イで認定した被告商品1の販売数量を乗じた額である71
8万7488円が,原告が被告商品1の販売により受けた損害の額ということがで
きる。また,被告の不正競争行為と相当因果関係ある弁護士費用相当額は,71万
円と認めるのが相当であるから,損害額の合計は789万7488円の限度で認め
られる。
エ被告は,被告商品1は,原告商品1の販売終了後に販売された商品であるか
ら,被告商品1の販売と原告との損害との間に因果関係がないと主張するところ,
その主張の趣旨は,不正競争防止法5条1項の規定に照らせば,原告商品1は被告
商品1の販売(侵害行為)がなければ販売することができた物であることを否認す
る趣旨をいうものと解される。
確かに被告商品1は原告商品1が販売された翌年に販売開始をされた商品であり,
通常,この種の衣服では,毎シーズンごとに少しずつデザインを変えて新商品とし
て販売されることからすると,両商品は同じシーズン中に市場で直接的に競合する
関係になかったことはいえる。しかし,証拠(甲A13)によれば,原告商品1は
被告商品1の販売後も少数の在庫品が販売をされていた事実が認められ,その上,
原告は,原告商品1についての注文があれば,これに応じて製造販売をしていたで
あろうことが容易に認められる。
したがって,原告商品1は被告商品1の販売(侵害行為)がなければ販売するこ
とができた物であり,被告商品1の販売と原告との損害との間に因果関係は認めら
れるというべきである。また上記販売時期のずれは不正競争防止法5条1項ただし
書の事情というに足りないし,そのほか同項ただし書の事情となる事実についての
主張立証はないから,被告は原告に対し,上記ウ認定の損害額全額についての損害
賠償責任を負うものというべきである。
(2)被告商品3の販売による損害について
ア証拠(甲B11)及び弁論の全趣旨によれば,原告商品3の1着当たりの売
上金額は●(省略)●であるから,原告の受ける利益の額は6901円であると認
められる。
イ証拠(甲B4,甲B5,甲B10)によれば,被告は,平成27年5月14
日から同年6月12日までの間に,少なくとも被告商品3を389枚販売した事実
が認められる。
ウ原告は,不正競争を理由とする損害賠償については,原告商品1と同様,不
正競争防止法5条1項の適用を前提とする損害額を主張しているところ,弁論の全
趣旨によれば,原告は,被告商品3の販売期間中,同商品と同数の原告商品3を製
造販売することは原告の能力を超えないと認めることができるから,上記アで認定
した原告商品3の販売による利益の額に,上記イで認定した被告商品3の販売数量
を乗じた額である268万4489円が,原告が被告商品3の販売により受けた損
害の額ということができる。また,被告の不正競争行為と相当因果関係のある弁護
士費用相当額は,26万円と認めるのが相当であるから,損害の合計は294万4
489円の限度で認められる。
エ被告は,被告商品3は,原告商品3の販売終了後に販売された商品であるか
ら,被告商品3の販売と原告の損害との間に因果関係がないと主張するところ,そ
の主張の趣旨は,不正競争防止法5条1項の規定に照らせば,原告商品3は被告商
品3の販売(侵害行為)がなければ販売することができた物であることを否認する
趣旨をいうものと解される。
確かに被告商品3についても,対応商品である原告商品3との関係は,被告商品
1と原告商品1についてみたのと同様であるが,やはり証拠(甲B13)によれば,
原告商品3の被告商品3に対する関係についても,原告商品1と被告商品1につい
てみたのと同様の関係が認められるから,原告商品3は被告商品3の販売(侵害行
為)がなければ販売することができた物であり,被告商品3の販売と原告の損害と
の間に因果関係は認められるというべきである。また上記販売時期のずれは不正競
争防止法5条1項ただし書の事情というに足りないし,そのほか同項ただし書の事
情となる事実についての主張立証はないから,被告は原告に対し,上記ウ認定の損
害額全額についての損害賠償責任を負うものというべきである。
6結語
以上よれば,原告の被告に対する請求は,被告商品1,同3の製造販売行為の差
止め,これら商品の廃棄及び損害賠償として合計1084万1977円(被告商品
1の製造販売につき789万7488円,被告商品3の製造販売につき294万4
489円の合計額)及び内金789万7488円に対する不法行為の後の日である
平成27年9月1日から,内金294万4489円に対する不法行為の後の日であ
る平成27年11月12日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延
損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求にはいずれも理由がない。
よって,原告の請求は,上記理由のある限度で認容することとし,その余の請求
は理由がないからいずれも棄却することとし,訴訟費用について民事訴訟法61条,
64条本文,仮執行宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のと
おり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官森崎英二
裁判官田原美奈子
裁判官大川潤子
(別紙)
被告商品目録
1商品名綿麻刺繍アンサンブル
商品番号12153604068
のうち,下記写真のブラウス
2商品名綿麻刺繍アンサンブル
商品番号12153604068
のうち,下記写真のランニングシャツ
3商品番号2309
のうち,下記写真の半袖Tシャツ
(別紙)
原告商品目録
1ブランドシャミー
商品名丸首刺繍レース生地使用七部袖ブラウス
品番CH-70440193,CL-30440193
2ブランドシャミー
商品名丸首オリジナル刺繍レース使いランニング
品番CH-70440240
3ブランドシャミー
商品名胸部リンゴモチ-フ付きボーダー柄長袖チュニックTシャツ
品番CH-70412280,CL-30412280
(別紙)
原告商品写真目録

(1)前側
(2)後側
(3)胸部分拡大

(1)前側
(2)後側
(3)胸部分拡大

(1)前側
(2)後側
(3)胸部分拡大
(別紙)
被告商品写真目録

(1)前側
(2)後側
(3)胸部分拡大

(1)前側
(2)後側
(3)胸部分拡大

(1)前側
(2)後側
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