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裁判例


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平成12年(行ケ)第245号 審決取消請求事件(平成13年3月14日口頭弁
論終結)
          判         決
       原      告   【A】
       被      告   特許庁長官 【B】
       指定代理人      【C】
       同          【D】
       同【E】
       同          【F】
          主         文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   特許庁が平成10年審判第17740号事件について平成12年5月30日
にした審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、平成8年1月13日、名称を「小屋裏収納庫付き住宅」とする発明
(以下「本願発明」という。)について特許出願(特願平8-32593号)をし
たが、平成10年9月25日、拒絶査定を受けたので、同年11月5日、これに対
する不服の審判の請求をした。特許庁は、同請求を平成10年審判第17740号
事件として審理した上、平成12年5月30日、「本件審判の請求は、成り立たな
い。」とする審決をし、その謄本は、同年6月18日、原告に送達された。
2 本願発明の要旨
   小屋裏のある部屋と床が前記部屋の床より高い勾配天井の部屋とを隣り合わ
せに配置するとともに、前記小屋裏の側面を勾配天井の部屋に向けて開口させたこ
とを特徴とする小屋裏収納庫付き住宅。
 3 審決の理由
   審決の理由は、別添審決謄本記載のとおり、本願発明は、特開平6-323
010号公報(以下「引用刊行物」という。)記載の発明(以下「引用例発明」と
いう。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特
許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決は、引用例発明の認定及び本願発明と引用例発明との一致点の認定を誤
り(取消事由1、2)、ひいては、本願発明が引用例発明に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたとの誤った判断をしたものであるから、違法として取り
消されるべきである。
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り1)
  (1) 審決は、引用例発明の「高床面室70」が本願発明の「小屋裏」に相当す
るとの認定を前提に、「引用刊行物に記載された発明の『屋根裏のある室70
B』・・・は、・・・本願発明の『小屋裏のある部屋』に相当する。」(審決謄本
2頁32行目~35行目)と認定したが、誤りである。
  (2) すなわち、屋根の裏側にある小屋組以上の空間であること及び同空間の下
方が天井によって区画されていることが屋根裏の要件であるところ、引用例発明の
高床面室70は、床を従来の小屋裏収納庫より低い位置に配することによって小屋
裏空間を室空間の一部として利用するものであって、小屋組より下の空間も含んで
いるから、屋根裏の要件を満たさない。
  (3) 被告は、特許文献を引用し、屋根裏が「屋根の裏側にある小屋組以上の空
間」のみを意味するとは解せないと主張するが、特許文献における用語は、その意
味を定義すれば特定の意味で使用することもできるから、必ずしも普通の意味で使
用されているとは限らない。また、被告の解釈によれば、引用例において屋根裏と
は到底認め難い低床面室30aまでも屋根裏に入ることとなるから、被告の解釈に
誤りがあることは明らかである。
 2 取消事由2(一致点の認定の誤り2)
   審決は、低床面室30a、高床面室70及び高床面室の下階の室70Bの3
室を考慮して引用例発明を認定したが、最上階に隣接する部屋の形状と構造に特徴
がある本願発明と対比する場合には、引用例発明については、最上階に隣接する低
床面室30aと高床面室70との2室のみによりこれを認定するのが相当であっ
て、室70Bを考慮すべきではない。
第4 被告の反論
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り1)について
  (1) 「屋根裏」とは、「天井がないために見えている屋根の裏側」又は「木造
や鉄骨造の建物で屋根裏にある空間。下方は天井によって区画され、小屋組を隠し
ている。時には登り梁構造などとして使用人の居室、物置とする例もある。」とい
う意味を有するものである。
  (2) 天井が小屋組よりも下方にある場合には、その天井と屋根の裏側との間の
空間も「屋根裏」又は「小屋裏」というから、屋根裏が「屋根の裏側にある小屋組
以上の空間」のみを意味するとはいえない。
  (3) 本願発明の特許請求の範囲においては、「小屋裏のある部屋」、「小屋裏
の側面を勾配天井の部屋に向けて開口させ」及び「小屋裏収納庫付き住宅」とのみ
記載され、「小屋裏」について条件又は限定が付されているものではないから、こ
の要件を原告主張のように限定して解すべきではない。また、「小屋裏」は、時に
は「使用人の居室」とすることもあるのであるから、居室としての機能を果たし得
る高さを有するものも含まれる。
  (4) 引用例発明において、室70Bの上方には高床面室70が設けられてい
る。高床面室70は、上方に屋根裏6が、下方に室70Bの天井が存するのである
から、本願発明の「小屋裏」に相当するものというべきである。
 2 取消事由2(一致点の認定の誤り2)について
   上記のとおり、引用例発明の高床面室70が「小屋裏」に相当するから、引
用例発明において、本願発明の「小屋裏のある部屋」に相当するものは、引用刊行
物の図4に示された、高床面室70の下方に天井を有する室70Bである。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り1)について
  (1) マグローヒル科学技術用語大辞典(甲第4号証)には、「屋根裏」の意味
について、「屋根の裏側で小屋組以上の部分,または建築最上階の部屋で,小屋組
の位置に設けたもの.」(1426頁)と記載され、この記載を文字どおりに解す
るならば、「屋根裏」の用語は、小屋組以下の部分を含まない意味であることとな
る。
  (2) 建築大辞典(乙第1号証)には、「屋根裏」の意味について、「①・・・
屋根の裏側.・・・②・・・屋根裏にある空間。下方は天井によって区画され,小
屋組を隠している.・・・『小屋裏』とも称される.しかし,時には登り梁構造な
どとして使用人の居室,物置とする例もある.」(1541頁)と記載され、「屋
根裏」の用語が「小屋裏」と同義であるとされている。
  (3) 実願昭54-138930号(実開昭56-56529号)のマイクロフ
ィルム(乙第2号証)における「屋根裏空間8」(2頁9行目)、実願昭59-1
48434号(実開昭61-63633号)のマイクロフィルム(乙第3号証)に
おける「小屋裏4」(6頁6行目)及び特開平1-242383号公報(乙第4号
証)における「屋根裏」(2頁左下欄3行目)は、いずれも小屋組以下の部分を含
む意味で用いられている(これら乙号証の各第1図)。
  (4) そうすると、一般に、「屋根裏」又は「小屋裏」の用語は、その空間が小
屋組以下の部分を含むものと含まないものの双方の意味で用いられていると認めら
れ、引用例発明において、小屋組以下の部分を含む高床面室70が本願発明の小屋
裏に相当するとした審決の認定に、誤りはない。
 2 取消事由2(一致点の認定の誤り2)について
  (1) 引用刊行物(甲第3号証)には、「本願発明に係る蔵型収納付き建物は、
上下階に亘って複数の室を配置した建物において、天井高に差を設けた室を下階に
配置し、前記天井高の差に応じて室間の床面に高低差を設けた室を上階に配置し、
高床面室の床面から屋根裏までの空間を蔵型収納空間として構成した。」(1欄4
5行目~50行目)、「次に図4に基づいて、蔵型収納付き建物の他の実施例(第
2実施例)について説明する。図4は第2実施例に係る蔵型収納付き建物の断面図
であり、・・・前記高床面室70の下階を2層に分割し、低床面室30aの下階を
比較的天井高を高くした室とした・・・前記高床面室70の下階に例えば台所や便
所や浴室等の水まわり70Aを配置し、その上層に高い天井高を必要としない室7
0Bを配置することができ、また前記低床面室30aの下階に天井高の高さを活か
した居室70C等を配設することができ、しかも前記高床面室70の床面から天井
裏までの空間を蔵型収納空間7にすることができる。」(4欄42行目~5欄8行
目)との記載があり、図4においては、高床面室70の下側に「高い天井高を必要
としない室70B」があること、高床面室70及び室70B上部に隣接して低床面
室30aがあること、低床面室30aの天井は勾配天井であることが図示されてい
る(5頁)。
  (2) 審決は、引用例発明を「屋根裏のある室70Bと、床が前記室70Bの床
より高い勾配天井の居室3aとを隣り合わせに配置するとともに、屋根裏空間を利
用した蔵型収納空間7の側面を勾配天井の居室3aに向けて開口させたことを特徴
とする蔵型収納付き建物。」(審決謄本2頁26行目~29行目)と認定し、この
ような構成を有する引用刊行物図4の実施例を引用例発明として認定したものと認
められる。なお、審決は、上記認定部分において、「居室3a」として引用刊行物
図2の符番を用いているが、図2の実施例は上記の構成を有しないから、「居室3
a」は「居室30a」の誤記であることが明らかである。
  (3) そうすると、引用例発明において、高床面室70は、室70Bの天井と屋
根との間の空間であって、上記1で説示したとおり「屋根裏」に相当するから、
「室70B」は「屋根裏のある室70B」ということができる。
  (4) 原告は、引用例発明を本願発明と対比する場合に室70Bを考慮すべきで
はないと主張するが、引用例発明の高床面室70は、隣接する居室30a及び下側
にある室70Bとの関係を考慮してその位置が定められるべきものであるから、本
願発明と引用例発明との一致点の認定において、高床面室70と室70Bとの位置
関係を考慮することは当然である。
 3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消す
べき瑕疵は見当たらない。
   よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用
の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判
決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官   篠   原   勝   美
            裁判官   石   原   直   樹
            裁判官   長   沢   幸   男

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