弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金五千円に処する。
     右罰金を完納することができないときは、金五百円を一日に換算した期
間被告人を労役場に留置する。
     被告人に対し、公職選挙法第二百五十二条第一項の選挙権及び被選挙権
を有しない期間を二年に短縮する。
     原審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、記録に綴つてある和歌山区検察庁検察官事務取扱検事可児
定見並びに弁護人黒川英夫のそれぞれ作成にかかる各控訴趣意書に記載のとおりで
あるから、いずれもこれを引用する。
 弁護人の控訴趣意について。
 論旨は原判決の事実誤認を主張し、原判決は被告人らが選挙用ポスターを身体の
胸部背部に掲示して第二種原動機付自転車を運転走行し又は同自転車の荷台に右ポ
スターを掲示して走行したことをもつて、これらのポスターを多数の者に回覧させ
もつて法定外文書を頒布したとみなされる行為をしたと認定しているが、本件ポス
ターはいずれも選挙管理委員会の検印を受けた正規の選挙運動用ポスターであつ
て、その性質上公職選挙法第百四十二条第三項にいわゆる回覧板その他の文書図画
又は看板の類にあたらないものであり、且つ、元来選挙運動用ポスターはこれを掲
示して不特定多数の通行人に供覧することを目的とするものであるから、右ポスタ
ーを原動機付自転車に掲示するなどして移動しながら通行人に供覧しても、これを
もつて同条第一項の文書図画の領布とみなさるべき回覧行為であると認定するのは
誤りであるというのである。
 <要旨>よつて案ずるに、公職選挙法(以下単に法という)によると、当該選挙に
関する事務を管理する選挙管理委員会の行う検印を受け、又はその交付する
証紙をはつた法第百四十三条第一項第五号の選挙運動のために使用するポスターに
ついても、法第百四十四条の二ないし第百四十五条の規定があつて、無制限な掲示
は許されておらず、また、選挙運動のために使用する文書図面は、法第百四十二条
第一項により、同項各号に規定されている通常葉書のほかは、頒布することができ
ないこととされており、さらに同条第三項本文には「選挙運動のために使用する回
覧板その他の文書図画又は看板(プラカードを含む。以下同じ。)の類を多数の者
に回覧させることは、第一項の頒布とみなす。」と規定されていて、かかる類の回
覧はいわゆる「みなす頒布」として禁止されているのである。そして右の「選挙運
動のために使用する回覧板その他の文書図画又は看板の類」とは、その回覧を禁止
する法の趣旨及び同条第三項但書の規定の内容に照らし、回覧板、看板のほか、ポ
スター、立札、たすき、腕章等であつても右但書に該当する場合を除いてはすべて
これを含むものと解するのが相当であり、また右にいわゆる「回覧」とは、同一の
文書図画又は看板の類を、これを移動することによつて特定又は不特定の多数人に
見せる行為をいい、その方法は回覧板等のように順次手渡して見せる方法による
と、プラカード等のように同一人が持ち歩いて多数人に見せる方法によるとを問わ
ず、ひとしく禁止されていると解するのを相当とする。このことは同条第三項但書
の規定が、法第百四十三条第一項第二号のポスター、立板、ちょうちん及び看板の
類を、法第百四十一条の規定により選挙運動のために使用することを許されている
自動車又は船舶に取り付け、若しくは候補者がその使用するたすき、胸章及び腕章
の類を着用したままで、移動して多数人に見せることが回覧行為であることを前提
とし、且つ、右但書に定める回覧のみを同項本文の例外としてこれを許容している
ところからも明らかである。従つて、たとえ前記選挙管理委員会の検印を受け又は
その証紙をはつた選挙運動用のポスターであつても、これを法第百四十一条により
選挙運動のために使用することを許されている自動車以外の自動車その他の車輌に
取り付け、又は二輪自動車、原動機付自転車の類を運転し若しくはこれに同乗する
者がその身体に取り付けて、道路等人目に触れる場所を走行して多数人にこれを見
せる行為は、法第百四十二条第三項本文の回覧にあたるものといわねばならない。
 これを本件についてみるに、原判決挙示の証拠によると、被告人は原判示Aほか
四名と共謀のうえ、ベニヤ板に貼布した参議院(全国区)議員候補者Bの氏名写真
入りの選挙運動用ポスター二枚(いずれも選挙管理委員会の検印のあるもの)を自
己の胸部及び背部に取り付けて第二種原動機付自転車を運転し、右Aほか四名にお
いてその各荷台にそれぞれ右と同様の選挙運動用ポスター二枚宛を取り付けた第二
種原動機付自転車五台をそれぞれ運転して被告人に追従し、相ともに、昼間通行人
のある道路を約三十二粁にわたつて走行し、その間右ポスター合計十二枚を多数人
に見せたことが認められるから、被告人らは法第百四十一条第一項により禁止され
ている文書図画の頒布とみなされる回覧をしたものであることが明らかである。従
つて原判決の事実認定は相当であり、その他記録を精査しても原判決に事実誤認の
かどはなく、また法令の解釈適用の誤りもない。論旨は理由がない。
 検察官の控訴趣意について。
 論旨は原判決が被告人に科した罰金五千円につき二年間刑の執行を猶予したのは
その量刑著るしく軽きに失し不当であるというのである。よつて記録を精査し案ず
るに、原審は被告人を罰金五千円に処しながら、二年間右刑の執行を猶予したもの
であるが、本件は被告人が原判示の五名を指揮して、ことさらに選挙人の関心を引
くために原判示のような珍奇な方法でポスターの回覧をしたもので、右犯行の動
機、態様、被告人の果した役割に徴するとその犯情は一概に軽視できないものがあ
り、これに被告人の収入、生活状況その他諸般の事情を考慮すると、原判決が摘記
する諸点を斟酌考量しても、被告人に対する五千円の罰金について特にその刑の執
行を猶予すべき事案とは考えられず、実刑を科するのが相当と認められる。従つて
原審の量刑は軽きに失し不当であるから、破棄を免れな、い。論旨は理由がある。
 よつて刑事訴訟法第三百九十七条第一項、第三百八十一条により原判決を破棄
し、同法第四百条但書により更に判決する。
 原判決の確定した事実に法律を適用すると、被告人の原判示所為は公職選挙法第
二百四十三条第三号、第百四十二条第三項、第一項、刑法第六十条に該当するの
で、所定刑中罰金刑を選択し、その金額の範囲内で被告人を罰金五千円に処し、右
罰金を完納することができないときは刑法第十八条により金五百円を一日に換算し
た期間被告人を労役場に留置すべく、諸般の情状により公職選挙法第二百五十二条
第四項を適用して被告人に対し同条第一項の選挙権及び被選挙権を有しない期間を
二年に短縮し、原審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により
これを被告人に負担させることとする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 奥戸新三 裁判官 竹沢喜代治 裁判官 野間礼二)

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