弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件訴えをいずれも却下する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,アメリカ合衆国軍隊(以下「米軍」という。)のいわゆるα基地の
海軍施設(以下「α海軍施設」という。)に米軍が使用する原子力空母又は原
子力潜水艦が入港している間,「β」ポイントと「γ」を結ぶ経VOR/DME
路について,航空機を飛行させてはならない。
2国土交通大臣は,δ空港から離陸しようとする航空機について,α海軍施設
に米軍が使用する原子力空母又は原子力潜水艦が入港している間,「β」ポイ
ントと「γ」を結ぶ経路を飛行する飛行計画については,航空法VOR/DME
97条1項の承認を与えてはならない。
3被告は,α海軍施設に米軍が使用する原子力空母又は原子力潜水艦が入港し
ている間,「β」ポイントと「γ」を結ぶ経路について航空機をVOR/DME
飛行させた場合,原告1名につき入港中1日当たり1000円の割合による金
員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,横浜市,神奈川県横須賀市又は千葉県習志野市に住む原告らが,被
告に対し,α海軍施設に米軍が使用する原子力空母又は原子力潜水艦(以下,
これらを併せて「米軍原子力艦船」という。)が入港している間,その上空に
ある「β」ポイントと「γ」を結ぶ経路(以下「本件経路」といVOR/DME
う。)を航空機が飛行することにより,航空機が米軍原子力艦船に衝突する危
険性があるなどと主張して,人格権に基づき,α海軍施設に米軍原子力艦船が
入港している間における航空機の本件経路の飛行の差止めを求めるとともに
(以下,本件訴訟のうちこの請求に係る部分を「本件民事訴訟」という。),
行政事件訴訟法37条の4に基づき,α海軍施設に米軍原子力艦船が入港して
いる間における航空機の本件経路の飛行に係る飛行計画の承認(航空法97条
1項)の差止めを求め(以下,本件訴訟のうちこの請求に係る部分を「本件行
政訴訟」という。),さらに,α海軍施設に米軍原子力艦船が入港している間
における航空機の本件経路の飛行により精神的苦痛を被ると主張して,その間
において航空機に本件経路を飛行させた場合に,原告1人につき1日当たり1
000円の損害賠償を求める(以下,本件訴訟のうちこの請求に係る部分を
「本件国家賠償請求訴訟」という。)事案である。
2関係法令の定めと通達
()航空法施行規則1
ア1条
航空法(昭和27年法律第231号。以下「法」という。)第2条第5
項の規定による航空保安施設は,次のとおりとする。
1航空保安無線施設電波により航空機の航行を援助するための施設
(以下略)
イ5条の2
有視界飛行方式とは,計器飛行方式以外の飛行の方式をいう。
ウ97条
第1条第1号に掲げる航空保安無線施設の種類は,次のとおりとする。
1から3まで(略)
4(超短波全方向式無線標識施設をいう。以下同じ。)VOR
5及び6(略)
7(距離測定装置をいう。以下同じ。)DME
(以下略)
エ203条1項
法第97条第1項及び同条第2項の規定による飛行計画には,次に掲げ
る事項(計器飛行方式による飛行に係るものであつて代替空港等を定めな
いもの又は有視界飛行方式による飛行に係るものにあつては,第10号に
掲げる事項を除く。)を明らかにしなければならない。
1航空機の国籍記号,登録記号及び無線呼出符号
2航空機の型式及び機数
3機長(ただし,編隊飛行の場合は編隊指揮者)の氏名
4計器飛行方式又は有視界飛行方式の別
5出発地及び移動開始時刻
6巡航高度及び航路
7最初の着陸地及び離陸した後当該着陸地の上空に到着するまでの所要
時間
8巡航高度における真対気速度
9使用する無線設備
代替空港等10
持久時間で表された燃料搭載量11
搭乗する総人数12
その他航空交通管制並びに捜索及び救助のため参考となる事項13
オ209条の2
(ア)1項
航空情報の内容は,次に掲げる事項とする。
1空港等及び航空保安施設の供用の開始,休止,再開及び廃止,これ
らの施設の重要な変更その他これらの施設の運用に関する事項
2空港等における航空機の運航についての障害に関する事項
3第173条の飛行禁止区域及び飛行制限区域に関する事項
4第189条第1項第1号の飛行の方式,同項第2号及び第3号の規
定による気象条件並びに同項第3号の規定による進入限界高度,進入
限界高度よりも高い高度の特定の地点及び目視物標並びに第204条
の規定による気象条件に関する事項
5航空交通管制に関する事項
6ロケツト,花火等の打上げ,航空機の集団飛行その他航空機の飛行
に影響を及ぼすおそれのある事項
7気象に関する情報その他航空機の運航に必要な事項
(イ)2項
航空情報の提供は,書面又は口頭(無線電話によるものを含む。)に
より行うものとし,航空情報を提供する場所その他航空情報の提供に関
し必要な事項は,告示で定める。
()原子力関係施設上空の飛行規制について(昭和44年空航第263号。以2
下「263号通達」という。)
標記について,航空機による原子力関係施設(別添)に対する災害を防止
するため,下記のとおり措置することとしたので,通知する。

1施設附近の上空の飛行は,できる限り避けさせること。
2施設附近の上空に係る航空法第81条ただし書の許可は行わないこと。
()原子力関係施設上空の飛行規制について(平成13年国空航第884号。3
以下「884号通達」という。)
標記については,昭和44年7月5日付空航第263号をもって,航空機
による原子力関係施設に対する災害を防止するため,施設付近の上空の飛行
AIPはできる限り避けるよう要請し,原子力関係施設の位置等については
をもって周知してきたところであるが,今般のアメリカ合衆国における連続
テロ事件の発生にかんがみ,上記通達の趣旨について再度傘下会員に対し周
知徹底するよう取り計らわれたい。
本件については,航空情報(ノータム)を発行する予定である。RJTD
なお,原子力関係施設付近の上空に係る航空法第81条但し書の許可につ
いては,従来通り行わないこととしているので,念のため申し添える。
3前提事実
本件の前提となる事実は,次のとおりである。証拠及び弁論の全趣旨により
容易に認めることができる事実等は,その旨付記した。その余の事実は,当事
者間に争いがない。
()当事者等1
原告らは,横浜市,神奈川県横須賀市又は千葉県習志野市に居住する者で
ある。(弁論の全趣旨)
()本件経路2
ア「β」ポイントは,航空機が通過する際の固定ポイントであり,北緯×
×度××分××秒,東経××度××分××秒に位置するものである。(甲
3)
イ「」とは,航空法施行規則97条4号所定の(超短波全VOR/DMEVOR
方向式無線標識施設)と同条7号所定の(距離測定装置)が同位置DME
に併設されたものをいうところ,「γ」は,北緯××度××VOR/DME
分××秒,東経××度××分××秒に位置するものである。(甲3,乙3
の2)
ウ本件経路は,δ空港からε空港(ζ空港)及びη空港への主要なルート
として使用されている。
()米軍原子力艦船3
アα海軍施設に派遣されることが予定されている米軍原子力空母である○
○は,加圧水型原子炉2基を搭載する米軍原子力艦船である。○○は,平
成20年8月19日にα海軍施設に入港する旨の報道がされていたが,本
件口頭弁論終結時において,いまだα海軍施設に入港していない。(甲7,
弁論の全趣旨)
イ米軍原子力潜水艦は,原子炉1基を搭載する米軍原子力艦船である。
()本件訴えの提起4
原告らは,平成19年12月14日,本件訴えを提起した。(当裁判所に
顕著な事実)
4争点
()本案前の争点1
ア本件民事訴訟の適法性
イ本件行政訴訟の適法性
ウ本件国家賠償請求訴訟の適法性
()本案の争点2
アα海軍施設に米軍原子力艦船が入港している間における航空機の本件経
路の飛行により,原告らの人格権が侵害される具体的危険性があるといえ
るか。
イα海軍施設に米軍原子力艦船が入港している間における航空機の本件経
路の飛行に係る飛行計画の承認をすることが,国土交通大臣の裁量権の範
囲を逸脱し,又は濫用するものであるといえるか。
ウα海軍施設に米軍原子力艦船が入港している間における航空機の本件経
路の飛行を制限しないことにより,国家賠償請求権が発生するといえるか。
5当事者の主張
()争点()ア(本件民事訴訟の適法性)について11
(被告の主張)
本件民事訴訟に係る請求は,国土交通大臣に対し,航空機の飛行を禁止す
る措置を執ることを求めるものであって,航空行政の主管庁としての国土交
通大臣の行政規制権の行使(取消変更又はその発動)を求めているものにほ
かならないから,本件民事訴訟は不適法である。
()争点()イ(本件行政訴訟の適法性)について21
(原告らの主張)
ア原告適格
(ア)航空法は,航空機の航行の安全及び航空機の航行に起因する障害の
防止を図るだけではなく,当該航空機が地上に墜落した場合等に,それ
に起因する障害の発生をできるだけ防止すること,すなわち,飛行ルー
トの周辺住民の生命及び身体の安全を図ることも,その目的に含めてい
るというべきである。したがって,航空路付近の住民の安全は,法律上
保護された利益である。
(イ)原子力発電所が新設されたことにより,「θ」が廃止TRANSITION
され,航空路が変更されたと思われる事例があること,ι原子力発電所
の上空に民間訓練試験空域があるところ,その一部に同空域から除外さ
れた空域が存在すること,κ原子力発電所及びλ原子力発電所の上空に
自衛隊訓練試験空域があるところ,その一部に同空域から除外された空
域が存在すること,航空自衛隊の部内規則において,原子力関連施設の
上空の飛行は原則として行わない旨規定されていること,国土交通大臣
が航空法97条1項の飛行計画の承認を行うに当たっては,その前提と
して,航空路誌等によって事前に航空路が指定されており,その航空路
を飛行する計画であることが確認できた場合には,飛行計画が承認され
ていること,航空路の指定に当たっては,墜落事故が起きた場合の被害
の大きさが考慮されていることなどからすると,原告らに飛行計画の承
認の差止めの訴えの原告適格が認められるべきである。
イ損害の重大性
(ア)ひとたび航空機が米軍原子力艦船に衝突し,原子力災害が発生した
場合,生命及び身体の安全に回復不能な重大な損害が生じる。
(イ)原子力安全・保安院作成の「実用発電用原子炉施設への航空機落下
確率に対する評価基準について」(以下「本件評価基準」という。)に
基づき,α海軍施設に停泊する米軍原子力艦船への航空機落下確率を試
算したところ,本件評価基準が定める判断基準である10回/炉・年−7
を大きく超えるものであった。
ウ補充性
(ア)本件民事訴訟が不適法である場合,本件行政訴訟以外には「その損
害を避けるために他に適当な方法がない」というべきである。
(イ)原告らにおいて米軍原子力艦船の入港それ自体を差し止める法的手
段が十分に整備されていない現状においては,航空機が米軍原子力艦船
に衝突して引き起こされる原子力災害の発生を避けるためには,α海軍
施設上空における航空機の飛行を制限する以外に,他に適当な方法はな
い。
(被告の主張)
ア原告適格
(ア)航空法97条1項が,計器飛行方式の場合に,飛行計画の承認まで
要する旨定めたのは,専ら所管行政官庁の航空交通管制業務その他の業
務を円滑かつ迅速に行うという趣旨目的であって,各航空機が航行する
航路周辺の住民等の個々人が当該航空機の墜落事故等によって生命,身
体等を侵害されないという個別具体的な利益を保護することを目的とし
たものではない。もとより,円滑な航空交通管制業務の確保は,航空機
の航行の安全を目的とし,これに資するものであり,その結果航空機の
墜落を防止することにもなるが,これにより得られる住民の利益は,一
般公益(反射的利益)にほかならない。
(イ)航空法1条の「航空機の航行に起因する障害」とは,直接には,航
空機の墜落事故等による個々の国民等の生命及び身体等に対する侵害を
想定したものではない。
仮に,原告らが主張するように,航空法97条1項が,同法1条の目
的規定にかんがみ,各航空機が航行する航路の周辺住民等個々人の個別
具体的な利益まで保護することを目的としていると解するのであれば,
少なくとも,当該具体的な利益の保護を受ける者の範囲が特定されてい
るか,あるいは,特定することができる場合でなければならないと解さ
れるところ,個々の航空機の航行に当たって,当該航空機の墜落事故等
によって生命,身体等が侵害される危険性がある者を一定の範囲に特定
することは不可能である。
したがって,航空法97条1項は,同法1条を加味しても,特定の範
囲の者の個別具体的な利益を保護することを目的としているのではなく,
一般的公益(国民等全体の利益)の保護のみを目的としているというべ
きであり,このことは,同法97条1項の飛行計画の承認をするに当た
り,利害関係者等第三者の意見を聴取するなどの手続的規定が何ら設け
られていないことからも裏付けられる。
(ウ)飛行計画は,指定された航空路を飛行する計画であることが確認さ
れれば承認されるというものではない。また,航空路の指定に当たって,
原子力施設の上空を避けるような考慮がされているということはない。
イ損害の重大性
(ア)「重大な損害」が生ずるか否かを判断するに当たっては,処分がさ
れることにより維持される行政目的の達成の必要性を踏まえた処分の内
容及び性質と,当該処分によって原告が被るおそれのある損害の性質及
び程度とを,損害の回復の困難の程度を考慮した上で比較衡量し,行政
目的の達成を犠牲にしても原告を救済しなければならない必要性がある
か否かの観点から検討すべきである。
航空機がα海軍施設の上空を通る航路を航行しているからといって,
当該航空機が何らかの原因で偶然にα海軍施設の上空付近で墜落するに
至り,しかも,その墜落した航空機がα海軍施設に停泊している米軍原
子力艦船に衝突する可能性がどの程度あるのか,そして,仮にそのよう
な衝突があった場合に当該艦船の原子炉が破壊されるなどして大規模な
原子力災害が発生する可能性がどの程度あるのかについて,明らかにさ
れていない。
他方,δ空港周辺空域は,同空港を離発着する航空機で混雑している
ところ,原告ら主張に係る飛行ルートは極めて重要な飛行ルートであり,
これを使用できないとなると航空行政に甚大なる影響が生ずる。
したがって,本件においては,行政目的達成を犠牲にしても事前救済
をする必要性があるほどの重大な損害を生ずるおそれは認められない。
(イ)本件評価基準をその対象外である米軍原子力艦船に当てはめること
自体が失当である上,本件評価基準にのっとって計算上の航空機落下確
率を算出したからといって,α海軍施設上空を飛行する航空機がα海軍
施設に停泊する米軍原子力艦船に衝突することによって大規模な原子力
災害が発生し,原告らの生命及び身体に重大な損害を生ずる具体的危険
性を裏付けるものではない。
()争点()ウ(本件国家賠償請求訴訟の適法性)について31
(被告の主張)
民訴法135条は,あらかじめ請求する必要がある場合に限り,例外的に
将来の給付を求める訴えを許容しているところ,本件においては,この必要
性が何ら明らかにされていない。
したがって,本件国家賠償請求訴訟は,将来の給付の訴えの利益を欠き,
不適法である。
()争点()ア(人格権侵害の具体的危険性の有無)について42
(原告らの主張)
ア個人の生命及び身体の安全が侵害され,又は侵害される具体的な危険が
ある場合には,人格権に基づき,その侵害の排除又は予防のために侵害行
為の差止めを求めることができる。
そして,被告がα海軍施設に米軍原子力艦船が入港中,その上空におい
て航空機の飛行制限をしない状態を継続した場合,α海軍施設に入港する
米軍原子力艦船に航空機が衝突する現実の危険性を無視できず,航空機と
米軍原子力艦船が衝突することになれば,原子炉が破壊され,放射性物質
が大気中に放出され,首都圏が壊滅的な被害に襲われる可能性がある。そ
の結果,原告らは,そのような重大な事故の発生により,生命及び身体に
対する重大な被害を及ぼす放射線被ばくを受ける現実的危険性にさらされ
ている。
イ前示のとおり,本件評価基準に基づき,α海軍施設に停泊する米軍原子
力艦船への航空機落下確率を試算したところ,本件評価基準が定める判断
基準である10回/炉・年を大きく超えるものであった。−7
(被告の主張)
α海軍施設上空を航行する航空機が墜落して米軍原子力艦船に衝突するこ
とによって大規模な原子力災害が発生する可能性は極めてまれであり,現実
的可能性としては到底想定し得ないのであるから,人格権が侵害される具体
的危険性を認めることはできない。
()争点()イ(国土交通大臣の裁量権の逸脱又は濫用の有無)について52
(原告らの主張)
ア263号通達,884号通達及び航空路誌において,原子力施設の上空
における航空機の飛行が完全に禁止されているにもかかわらず,α海軍施
設の上空においては,航空機の飛行が全く制限されていない。このような
状態を放置した場合,α海軍施設に入港する米軍原子力艦船に航空機が衝
突する現実の危険性を無視することはできず,航空機と米軍原子力艦船が
衝突すれば,原子炉が破壊され,放射性物質が大気中に放出され,首都圏
が壊滅的な被害に襲われる可能性がある。
イδ空港から関西方面へ飛行する場合,α海軍施設上空を通らなくても,
他に代替の飛行ルートがあり,航空機の飛行に重大な支障は生じない。
ウしたがって,他の原子力施設の上空において,航空機の飛行を制限して
いるのと同様に,α海軍施設の上空においても,少なくとも米軍原子力艦
船が入港中は,航空機の墜落事故によって原子力災害が発生しないよう,
国土交通大臣は,δ空港から離陸しようとする航空機について,α海軍施
設の上空のルートを通過する飛行計画の承認をしてはならない義務がある
というべきである。
エそれにもかかわらず,国土交通大臣が飛行計画の承認をすることは,そ
の裁量権を逸脱し,又は濫用したものというべきである。
(被告の主張)
ア国土交通大臣は,各航空機の各飛行計画ごとに考慮すべき事情に十分配
慮して,飛行計画を承認することとされていたのであり,本件においては,
その裁量権を行使することが裁量権の逸脱又は濫用となるといった事情は
何らうかがえない。また,たとえ本件経路付近にα海軍施設があり,そこ
に米軍原子力艦船が停泊していたからといって,そもそも,α海軍施設上
空を航行する航空機が墜落して米軍原子力艦船に衝突することによって大
規模な原子力災害が発生する可能性は極めてまれであり,現実的可能性と
しては到底想定し得ず,本件経路における航空機の航行を一律に禁止すべ
きであるとは到底いえないから,国土交通大臣が本件経路における飛行計
画の承認をすることが,その裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用するもので
あるということはできない。
イ航空法97条1項の飛行計画の承認は,その対象を計器飛行方式の場合
に限定しているところ,263号通達及び884号通達や航空路誌の記載
において,原子力発電所等の施設の上空をできるだけ避けるべきであると
しているのは,有視界飛行方式を想定しているものであって,計器飛行方
式の場合を想定したものではなく,これらが同項の処分要件の解釈に影響
するものではない。
()争点()ウ(国家賠償請求権の有無)について62
(原告らの主張)
ア航空機の飛行について規制権限を有する国土交通大臣は,α海軍施設の
上空において,少なくとも米軍原子力艦船が入港中は,航空機の飛行を制
限する義務があるにもかかわらず,これを怠り,航空機の飛行を制限して
いない。
イこれにより,原告らは,α海軍施設の上空を航空機が通過するたびに,
原子力災害発生の具体的な危険にさらされ,精神的な苦痛を被ることにな
る。原告らの上記精神的な苦痛を慰謝するためには,米軍原子力艦船が入
港している間において航空機に本件経路を飛行させた場合,原告1名につ
き1日当たり1000円の割合による金員の支払が相当である。
(被告の主張)
ア航空法97条1項は,国土交通大臣に対し個別の国民に対する職務上の
義務を負わせた規定ではない。
イまた,航空法97条1項は,公益を図る目的で定められたものである以
上,同項によって原告らが何らかの法律上保護された利益を有していると
いうことはできない。
ウさらに,原告らは,一般的,抽象的かつ漠然とした不安感について主張
するのみで,航空機の航行によって原告ら個人のいかなる具体的かつ私的
な権利利益が侵害されるのかという点について何ら主張していない。
エしたがって,原告らの主張は失当である。
第3当裁判所の判断
1争点()ア(本件民事訴訟の適法性)について1
()国土交通大臣は,航空法その他航空行政に関する法令の規定に基づき,航1
空行政の主管者として,航空機の安全性,航空従事者,航空路,飛行場,航
空保安施設,航空機の運航,航空運送事業者等に関する広範な行政上の規制
権限を有するものであり,このような国土交通大臣に付与された航空行政上
の権限には,公権力の行使をその本質的内容とするもの(以下,これらを総
称して「航空行政権」という。)が当然に含まれているということができる。
()ところで,原告らの本件民事訴訟に係る請求は,被告に対し,α海軍施設2
に米軍原子力艦船が入港している間における航空機の本件経路の飛行の差止
めを民事上の請求として求めるものである。しかし,このような請求は,前
記()で述べたところに照らすと,国土交通大臣にゆだねられた航空行政権1
の行使の取消し,変更又はその発動を求める請求を不可避的に包含すること
になるものであるから,本件民事訴訟は,不適法であるといわざるを得ない
(最高裁昭和51年(オ)第395号同56年12月16日大法廷判決・民
集35巻10号1369頁参照)。
2争点()イ(本件行政訴訟の適法性)について1
()行政事件訴訟法9条は取消訴訟の原告適格について規定するが,同条11
項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,
当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は
必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政
法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させる
にとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべき
ものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法
律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され,又は必然的
に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有
するものというべきである。
そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有
無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみに
よることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮される
べき利益の内容及び性質を考慮すべきであり,この場合において,当該法令
の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係
法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を
考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場
合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び
程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)。(以上につき,最高裁平
成16年(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決・民集59巻1
0号2645頁参照)
このような取消訴訟の原告適格の考え方は,差止めの訴えの原告適格につ
いても,そのまま当てはまるものというべきである。
上記の見地に立って,原告らが航空法97条1項の飛行計画の承認の差止
めを求める訴えの原告適格を有するか否かについて検討する。
()ア航空機が飛行しようとするときは,原則として,国土交通省令で定める2
ところにより国土交通大臣に飛行計画を通報しなければならず(航空法9
7条2項),航空機が計器飛行方式により,航空交通管制圏(航空機の離
陸及び着陸が頻繁に実施される国土交通大臣が告示で指定する空港等並び
にその付近の上空の空域であって,空港等及びその上空における航空交通
の安全のために国土交通大臣が告示で指定するもの(同法2条13項))
若しくは航空交通情報圏(同空港等以外の国土交通大臣が告示で指定する
空港等及びその付近の上空の空域であって,空港等及びその上空における
航空交通の安全のために国土交通大臣が告示で指定するもの(同条14
項))に係る空港等から出発し,又は航空交通管制区(地表又は水面から
200m以上の高さの空域であって,航空交通の安全のために国土交通大
臣が告示で指定するもの(同条12項)),航空交通管制圏若しくは航空
交通情報圏を飛行しようとするときは,国土交通省令で定めるところによ
り国土交通大臣に飛行計画を通報し,その承認を受けなければならない
(同法97条1項)。そして,飛行計画には,①航空機の国籍記号,登録
記号及び無線呼出符号,②航空機の型式及び機数,③機長(ただし,編隊
飛行の場合は編隊指揮者)の氏名,④計器飛行方式又は有視界飛行方式の
別,⑤出発地及び移動開始時刻,⑥巡航高度及び航路,⑦最初の着陸地及
び離陸した後当該着陸地の上空に到着するまでの所要時間,⑧巡航高度に
おける真対気速度,⑨使用する無線設備,⑩代替空港等(計器飛行方式に
よる飛行に係るものであって代替空港等を定めないもの又は有視界飛行方
式による飛行に係るものを除く。),⑪持久時間で表された燃料搭載量,
⑫搭乗する総人数,並びに⑬その他航空交通管制並びに捜索及び救助のた
め参考となる事項が明らかにされなければならない(同法施行規則203
条1項)。
このようにして,飛行計画の承認を受け,又は飛行計画を通報した航空
機は,原則として,航空法96条1項の国土交通大臣の指示に従うほか,
飛行計画に従って航行しなければならず(同法97条3項),航空交通管
制区,航空交通管制圏又は航空交通情報圏において航行している間は,国
土交通大臣に当該航空機の位置,飛行状態その他国土交通省令で定める事
項を通報しなければならず(同条4項),また,飛行計画の承認を受け,
又は飛行計画を通報した航空機の機長は,当該航空機が飛行計画で定めた
飛行を終わったときは,遅滞なく国土交通大臣にその旨を通知しなければ
ならない(同法98条)。
イところで,航空法は,次に掲げる飛行の方式を計器飛行方式という旨規
定している(同法2条17項)。
(ア)航空機の離陸及び着陸が頻繁に実施される国土交通大臣が告示で指
定する空港等からの離陸及びこれに引き続く上昇飛行又は同空港等への
着陸及びそのための降下飛行を,航空交通管制圏又は航空交通管制区に
おいて,国土交通大臣が定める経路又は航空法96条1項の規定により
国土交通大臣が与える指示による経路により,かつ,その他の飛行の方
法について同項の規定により国土交通大臣が与える指示に常時従って行
う飛行の方式
(イ)前記(ア)の空港等以外の国土交通大臣が告示で指定する空港等から
の離陸及びこれに引き続く上昇飛行又は同空港等への着陸及びそのため
の降下飛行を,航空交通管制区である部分を除く航空交通情報圏におい
て,国土交通大臣が定める経路により,かつ,航空法96条の2第1項
の規定により国土交通大臣が提供する情報を常時聴取して行う飛行の方

(ウ)前記(ア)の飛行以外の航空交通管制区における飛行を航空法96条
1項の規定により国土交通大臣が経路その他の飛行の方法について与え
る指示に常時従って行う飛行の方式
ウ前示のとおり,航空機が,計器飛行方式により,航空交通管制圏若しく
は航空交通情報圏に係る空港等から出発し,又は航空交通管制区,航空交
通管制圏若しくは航空交通情報圏を飛行しようとするときは,国土交通大
臣に飛行計画を通報し,その承認を受けなければならないところ,航空法
が上記場合に,飛行計画の通報だけではなく,国土交通大臣による飛行計
画の承認を要することとしたのは,前記航空法等の規定からすると,計器
飛行方式が,一定の経路により,かつ,国土交通大臣が与える指示に常時
従い,又は国土交通大臣が提供する情報を常時聴取して行う飛行の方式で
あることを考慮し,航空機相互間の衝突の防止,航空機と障害物との衝突
の防止,並びに航空交通の秩序ある流れの維持及び促進といった航空交通
管制の観点から,飛行計画を審査し,それを承認することにより,安全か
つ円滑な航空機の航行を確保しようとしたものであると解するのが相当で
ある。
エこのことは,航空交通管理管制官又は航空管制官が管制業務及びこれに
関連する業務を実施するに当たって準拠すべき基準を定めた「航空保安業
務処理規程第5管制業務処理規程」(乙5)において,航空法97条1
項の飛行計画の承認につき,①管制業務を行う機関は,センターATM
(空域における航空交通及び気象の状況を考慮した飛行経路の設定,航空
交通量の監視及び調整その他の航空交通の管理に関する業務を行う機関)
による承認に従って航空機に対し承認を発出するものとすること,②
センターは,航空交通流(空中における航空機の交通の量及び特性ATM
並びに飛行する空域等の条件によって生じる航空交通の状況)管理上必要
と判断される場合は,飛行計画との相違事項又は(交通流制御を実EDCT
施する場合に管理管制官が管制指示として航空機に発出する出発制限時
刻)その他の指示を,関係する管制区管制所(航空路管制業務及び進入管
制業務を行う機関)等に通知すること,③管制区管制所等は,センATM
ターから上記②の航空交通流管理上の指示を受領した場合は,これに従っ
て航空機に対し承認を発出するものとし,当該指示を受領しなかった場合
は,当該航空機の飛行計画が計画どおり承認されたものとして,航空機に
対し承認を発出するものとすること,④管制区管制所等は,上記③による
航空機に対する承認の発出に際して,管制間隔(航空交通の安全かつ秩序
ある流れを促進するため,航空交通管理管制官又は航空管制官が確保すべ
き最小の航空機間の空間)又は障害物との安全間隔の設定のため,飛行経
路,高度又は速度に関して,飛行計画の内容と異なる指示を発出する必要
がある場合には,同法96条1項の指示としてこれを発出するものとする
こと,などと規定されていることからも裏付けられる。
オ以上のとおり,航空法が,計器飛行方式により,航空交通管制圏若しく
は航空交通情報圏に係る空港等から出発し,又は航空交通管制区,航空交
通管制圏若しくは航空交通情報圏を飛行しようとする航空機に対し,飛行
計画の承認を要することとした趣旨及び目的は,航空交通管制の観点から,
安全かつ円滑な航空機の航行を確保しようとしたものであるというべきで
あって,航空路の周辺に居住する者の個別的利益を保護すべきものとする
趣旨を含むものであると解することは困難である。
()アこれに対し,原告らは,航空法1条が,「航空機の航行に起因する障害3
の防止を図る」ことを目的とする旨規定していることを理由に,航空機の
墜落により起因する障害により生命及び身体の安全を侵害されるおそれが
ある原告らは,飛行計画の承認の差止めを求める法律上保護された利益を
有する旨主張する。
イところで,航空法1条所定の上記目的は,国際民間航空条約の第16附
属書として採択された航空機の騒音に対する標準及び勧告方式に準拠して,
同法の一部改正(昭和50年法律第58号)により,航空機騒音の排出規
制の観点から航空機の型式等に応じて定められた騒音の基準に適合した航
空機につき,当時の運輸大臣がその証明を行う騒音基準適合証明制度に関
する規定が新設された際に,新たに追加されたものである(最高裁昭和5
7年(行ツ)第46号平成元年2月17日第二小法廷判決・民集43巻2
号56頁参照)。そうすると,同条所定の「航空機の航行に起因する障
害」が,航空機の騒音による障害を含むものであることは明らかであるが,
同条があえて「航空機の航行に起因する障害」との文言を用いていること
からすると,これに尽きるとの趣旨に基づくものであるとはにわかに考え
難い。
ウしかし,処分の取消訴訟における周辺住民の原告適格の有無を判断する
に当たっては,利益を受ける住民の特定性(特定の範囲の個人が他から区
別される程度にその利益を受けるといえるか)及び住民が受ける利益の個
別具体性が重要な判断基準となるのであって,差止めの訴えについても同
様に考えるのが相当であるところ,航空機の航行というその性質の特殊性
からすると,飛行計画の承認との関係において,航空機の墜落により生命
及び身体の安全を侵害される者の範囲を他から区別される程度に特定する
ことは,その性質上困難といわざるを得ない。
エまた,処分の相手方以外の者について法律上保護された利益の有無を判
断するに当たっては,処分が特定の第三者の同意を要件としていたり,処
分をするに当たって特定の第三者に意見聴取,異議申立て等の機会が保障
されるなど,処分の根拠となる行政法規における特定の個人の利益保護を
図り得る手続を定めた規定の有無が重要な判断要素の1つであるところ,
飛行計画の承認につき,このような特定の個人の利益保護を図り得る手続
を定めた規定を見いだすことはできない。
オそうすると,少なくとも本件で問題となる飛行計画の承認に関しては,
航空機の墜落から航空路の周辺に居住する者の生命,身体等の利益を個々
人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含む規定を見いだすこ
とは困難であるから,前記()で判示したことを併せ考慮すると,航空法2
1条を根拠に,原告らに飛行計画の承認の差止めの訴えの原告適格が認め
られるべきであるとする原告らの主張をにわかに採用することはできない。
()アさらに,原告らは,原子力発電所が新設されたことにより,「θ4
」が廃止され,航空路が変更されたと思われる事例があるこTRANSITION
と,ι原子力発電所の上空に民間訓練試験空域があるところ,その一部に
同空域から除外された空域が存在すること,κ原子力発電所及びλ原子力
発電所の上空に自衛隊訓練試験空域があるところ,その一部に同空域から
除外された空域が存在すること,航空自衛隊の部内規則において,原子力
関連施設の上空の飛行は原則として行わない旨規定されていることなどを
理由に,原告らに飛行計画の承認の差止めの訴えの原告適格が認められる
旨主張する。
イしかし,「θ」が原子力発電所の新設により廃止されたTRANSITION
ことを認めるに足りる証拠はない(乙3の1から3の3まで,4の1から
4の7まで参照)。
仮にこの点を措くとしても,前示のとおり,差止めの訴えの原告適格が
認められるためには,当該処分を定めた行政法規が個々人の個別的利益を
保護すべきものとする趣旨を含むと解されることが必要であるところ,原
告らが主張する事例等が存在することを理由に,直ちに,飛行計画の承認
を定めた規定が,航空路周辺に居住する者の生命,身体等の利益を個々人
の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含む規定であるというこ
とはできないから,原告らの上記主張をにわかに採用することはできない。
()ア加えて,原告らは,事前に航空路誌等により航空路が指定されており,5
その航空路を飛行する計画であることが確認できた場合に,飛行計画が承
認されることを前提に,原告らに飛行計画の承認の差止めの訴えの原告適
格が認められる旨主張する。
イしかし,前記()で述べたとおり,飛行計画の承認は,航空機相互間の2
衝突の防止,航空機と障害物との衝突の防止,並びに航空交通の秩序ある
流れの維持及び促進といった航空交通管制の観点から行われているものと
認められるのであり,飛行計画が航空路を飛行するものであることが確認
できた場合に承認されるものであると認めるに足りる証拠はないから,原
告らの主張は,その前提を欠いているといわざるを得ず,これを直ちに採
用することはできない。
()アまた,原告らは,航空路誌において,原子力施設,川崎石油化学コンビ6
ナート及びε空港の燃料施設の上空の飛行を避けるよう記載されているこ
とを理由に,原告適格が認められる旨主張する。
イところで,航空法は,国土交通大臣が,国土交通省令で定めるところに
より,航空機乗組員に対し,航空機の運航のため必要な情報を提供しなけ
ればならない旨規定し(同法99条),これを受けて,同法施行規則は,
航空情報の内容について規定している(同法施行規則209条の2)。そ
して,この航空情報の提供の形式の1つとして,国土交通省航空局が航空
機の運航に必要な恒久的情報が収録されたものである航空路誌を発行して
いるのである。
ウこのように,航空路誌は,航空機乗組員に対する情報提供の1つの手段
としての性質を有するものであるから,航空路誌に特定の場所の上空につ
いて飛行を避けるよう記載されているとしても,そのことから直ちに,国
土交通大臣による飛行計画の承認を定めた規定が,航空路周辺に居住する
者の生命,身体等の利益を個々人の個別的利益として保護すべきものとす
る趣旨を含む規定であるということは困難である。
()以上のとおり,原告らが飛行計画の承認の差止めを求めるにつき,法律上7
の利益を有しているということは困難であるから,本件行政訴訟は不適法で
あるといわざるを得ない。
3争点()ウ(本件国家賠償請求訴訟の適法性)について1
()本件国家賠償請求訴訟は,α海軍施設に米軍原子力艦船が入港している間,1
本件経路について航空機を飛行させた場合,原告1名につき入港中1日当た
り1000円の割合による損害賠償を求める訴えであって,本件口頭弁論終
結時までにα海軍施設に入港した米軍原子力艦船に係る損害賠償を求める訴
えとは解し難いから,将来発生すべき損害賠償を求める将来給付の訴えであ
ると解される(なお,米軍原子力艦船である○○が,本件口頭弁論終結時に
おいて,α海軍施設に入港していたことを認めるに足りる証拠はない。)。
()このような将来発生すべき損害賠償請求権については,損害賠償請求権の2
成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具体的
に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができ,
かつ,その場合における権利の成立要件の具備については債権者においてこ
れを立証すべきであると考えられるようなものは,将来の給付の訴えを提起
することのできる請求権としての適格を有しないものと解するのが相当であ
る(前記最高裁昭和56年12月16日大法廷判決参照)。
()そして,本件口頭弁論終結時以降において,航空機が飛行することにより3
航空路の周辺住民らが精神的被害を被ることを理由とする損害賠償請求権に
ついては,将来それが具体的に成立したとされる時点の事実関係に基づきそ
の成立の有無及び内容を判断すべきであり,かつ,その成立要件の具備につ
いては請求者においてその立証の責任を負うべき性質のものであるから,こ
のような請求権は,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権として
の適格を有しないものであるというべきである。
()したがって,本件国家賠償請求訴訟は,その性質上,将来の給付の訴えを4
提起することのできる請求権としての適格を有しないものであるから,不適
法なものというべきである。
第4結論
よって,本件訴えは,いずれも不適法であるから,これらをいずれも却下す
ることとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条,65
条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
杉原則彦裁判長裁判官
松下貴彦裁判官
島田尚人裁判官

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