弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決および第一審判決中被告人らに関する部分(但し第一審判決につ
いては有罪部分)を破棄する。
     本件を広島地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 被告人Aの弁護人中川鼎の上告趣意は、事実誤認の主張、被告人Bの弁護人熊谷
林作の上告趣意は、違憲をいうが、実質は事実誤認、単なる法令違反の主張、被告
人Cの弁護人山田重雄の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張、被告人D
の弁護人青柳盛雄の上告趣意は、憲法違反、判例違反をいう点もあるが、実質は単
なる法令違反、事実誤認の主張、被告人Eの弁護人山本孝の上告趣意は、違憲をい
うが、実質は単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に
当らない。
 職権をもつて調査すると、原判決の支持する第一審判決が認定した被告人らに対
する関税法違反の犯罪事実(同判決第二の一の(一)ないし(五)、第七の(三)、
第一二の(一))は、要するに、被告人らが単独または共謀の上、昭和二七年五月
ないし七月、東京都、広島県下において、駐留濠洲軍人からその所有にかかる関税
免除物品たる外国自動車を、法定の輸入手続を経ないで譲受け、以てこれに対する
関税を逋脱したというのであり、右事実について第一審判決は、昭和二九年法律六
一号による改正前の関税法七五条一項、八三条三項、昭和二七年法律一一二号日本
国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う関税
法等の臨時特例に関する法律(以下特例法という)一二条一項、日本国との平和条
約一二条(b)(l)(i)等を適用した上、右関税法違反罪と被告人らに関する
他の罪とをそれぞれ刑法四五条前段の併合罪に当るものとして処断していることが
明らかである。
 しかして、特例法一二条一項(但し昭和二九年法律六一号による改正前のもの)
は、合衆国軍隊、その構成員等以外の者が、同六条掲記の関税免除物品を日本国内
において譲受けようとするときは、右譲受を輸入とみなして関税法等を適用する旨
規定しているが、駐留濠洲軍人所有の外国自動車は、同六条の規定の対象とされて
おらず、また、日本国との平和条約一二条(b)(1)(i)は、日本国が連合国、
その国民等に対し関税等についての最恵国待遇を与える旨を規定したに過ぎないの
であるから、この規定を根拠に関税免除物品たる駐留濠州軍人所有の外国自動車の
譲受について特例法一二条を準用することはできない。したがつて、本件当時他に
その適用ないし準用を肯定しうるなんらの法律上の根拠がない以上、これを前提と
して譲受人に対し関税逋脱罪の成立を認めることは許されない筋合である。
 されば、被告人らの本件駐留濠洲軍人所有外国自動車(右自動車が特例法付則二
項本文の適用を受けるものであることを認められる資料は記録上存しない。)の譲
受について、特例法一二条一項のほか昭和二九年法律六一号による改正前の関税法
の規定を適用して関税逋脱罪の成立を認めた第一審判決およびこれを支持した原判
決には法令の解釈適用を誤つた違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすもので
あつて、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。
 よつて刑訴四一一条一号、四一三条本文に従い、裁判官全員一致の意見で主文の
とおり判決する。
 検察官 平出禾公判出席
  昭和三九年九月二九日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    田   中   二   郎

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