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主文
1江東東税務署長が原告らそれぞれに対して平成19年2月13日付
けでした,別紙A「処分目録」記載1~5の各処分をいずれも取り消
す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求(なお,別紙A「処分目録」で定める略称等は,以下においても用いる
こととする。)
主文と同旨
第2事案の概要等
1事案の要旨
本件は,原告らが,平成▲年▲月▲日の亡P1の死亡によって開始した相続
(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告をしたところ,江東東税務
署長から,平成19年2月13日付けで別紙A「処分目録」記載1~5の各
(1)記載の各相続税に係る更正処分及び同各(2)記載の各過少申告加算税賦課決
定処分(同別紙記載1~5の各括弧書内の一部取消し及び減額の前後を問わず,
上記の各相続税に係る更正処分を,以下「本件各更正処分」といい,上記の各
過少申告加算税賦課決定処分を,以下「本件各賦課決定処分」という。)を受
けたことにつき,①本件各更正処分は,本件相続に係る相続財産(以下「本件
相続財産」という。)中の株式会社P2(以下「P2」という。)及びP3株
式会社(以下「P3」といい,P2と併せて「本件各会社」という。)の各株
式の価額の評価等を誤ってされたものであり,相続税法22条に違反するもの
である,②仮に上記①の点に誤りがなかったとしても,原告らにおいては,申
告に係る納付すべき相続税額が過少であったことにつき国税通則法(以下「通
則法」という。)65条4項にいう正当な理由があったというべきであるなど
と主張して,本件各更正処分及び本件各賦課決定処分(これらを併せて,以下
「本件各処分」という。)の取消しを求める事案である。
2関係法令等の定め
別紙1「関係法令等の定め」に記載したとおりである(同別紙で定める略称
等は,以下においても用いることとする。)。
3前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがないか,当事者に
おいて明らかに争わない事実である。本項に掲げた事実を,以下「前提事実」
という。)
(1)原告ら,P4及びP5は,いずれも平成▲年▲月▲日に死亡した亡P1の
子であり,本件相続における共同相続人である(亡P1と原告ら,P4及び
P5との親子関係につき甲2の1~5。なお,上記共同相続人を総称して,
以下「本件相続人ら」という。)。
(2)アP2は,昭和23年に設立された合成樹脂及び金属等による容器・キャ
ップ・医療用具・医薬部外品等の製造及び販売等を目的とする資本金の額
が4億3200万円の株式会社である(乙6)。本件相続の開始の日の直
前期末である平成15年5月31日の時点における同社の総資産価額(帳
簿価格)は2120億7568万0565円,従業員数は5291名であ
り,当該直前期末以前1年間である平成14年6月1日から平成15年5
月31日までの事業年度における同社の取引金額は1882億0001万
0637円であって(甲3),同社は大会社に当たる。
イP3は,昭和41年に設立された不動産の取得及び管理等を目的とする
資本金の額が9億9000万円の株式会社である(乙7)。本件相続の開
始の日の直前期末である平成15年2月28日の時点における同社の総資
産価額(帳簿価格)は98億2222万8821円,従業員数は5名以下
であり,当該直前期末以前1年間である平成14年3月1日から平成15
年2月28日までの事業年度における同社の取引金額は3億6845万2
448円であって(甲3),同社は中会社に当たる。
ウ本件相続の開始の時点(平成▲年▲月▲日)において,P2は,P3の
発行済株式総数198万株のうち165万9240株(発行済株式総数の
83.8%)を有しており,また,P3は,P2の発行済株式総数864
万株のうち645万3400株(発行済株式総数の約74.7%)を有し
ていたものである。なお,P2の株式(以下「P2株式」という。)及び
P3の株式(以下「P3株式」といい,P2株式と併せて「本件各会社株
式」という。)は,いずれも取引相場のない株式に当たるところ,本件相
続の開始の時点におけるP2株式の価額を大会社についての原則的評価方
式である類似業種比準方式を用いて評価すると,1株当たり4653円と
なる。
(3)本件相続財産には,P2株式64万6400株及びP3株式17万820
0株が含まれている。
(4)原告らによる本件相続に係る相続税の申告(以下「本件申告」という。),
本件各処分,本件各処分についての原告らの異議申立て及びこれらに対する
江東東税務署長の各決定(以下「本件各異議決定」という。),これらの各
決定を不服としての原告らの審査請求及びこれらに対する国税不服審判所長
の各裁決(以下「本件各裁決」という。)並びに江東東税務署長が平成23
年2月28日付けでした本件相続に係る相続税の納付すべき税額を減額する
内容の各更正処分(以下「本件各再更正処分」という。)及び本件各賦課決
定処分に係る過少申告加算税の額を減額する内容の各賦課決定処分(以下
「本件各変更決定処分」という。)の経緯は,それぞれ,被告別表1「課税
の経緯」の1-1から1-5までの各表の「期限内申告」欄,「本件各処
分」欄,「異議申立て」欄及び「同上決定」欄,「審査請求」欄及び「同上
裁決」欄並びに「本件各再更正処分」欄に記載されているとおりである。
(5)原告らは,平成21年1月21日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著
な事実)。
4本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張並びに相続税額に関する原
告らの主張
(1)本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張の要点は,後記6に被告
の主張の要点として掲げたもののほか,別紙2「本件各処分の根拠等に関す
る被告の主張」に記載のとおりである(なお,同別紙で定める略称等は,以
下においても用いることとする。)。
(2)相続税額に関する原告らの主張の要点は,後記6に原告らの主張の要点と
して掲げたもののほか,別紙3「相続税額に関する原告らの主張」に記載の
とおりである。
5争点
(1)本件相続開始時に本件各会社が有していた資産(本件各会社株式を除
く。)の価額に係る評価額(争点1)
(2)P2が株式保有特定会社(評価通達189の(2))に該当するか否か(争
点2)
(3)本件各会社株式の「時価」(相続税法22条)の評価方式及びその金額
(争点3)
(4)原告らにつき通則法65条4項に規定する正当な理由が認められるか否か
(争点4)
6争点に関する当事者の主張の要点
(1)本件相続開始時に本件各会社が有していた資産(本件各会社株式を除
く。)の価額に係る評価額(争点1)
ア原告らの主張の要点
本件相続開始時に本件各会社が保有していた資産(本件各会社株式を除
く。)の評価額は,①P2については,原告別紙3の「P2の資産及び負
債」と題する表の「資産の部」の各「科目」欄(「有価証券(P3株
式)」,「合計」,「株式等の価額」及び「株式保有割合」の各欄を除く。
同原告別紙の個々の「科目」欄については,以下「原告別紙3の『現金』
欄」のように略称する。)にそれぞれ対応する「原告らの主張」欄に記載
されているとおりであり,②P3については,原告別紙1の「P3の資産
及び負債」と題する表の「資産の部」の各「科目」欄(「有価証券(P2
株式)」及び「合計」の各欄を除く。同原告別紙の個々の「科目」欄につ
いては,以下「原告別紙1の『現金』欄」のように略称する。)にそれぞ
れ対応する「原告らの主張」欄に記載されているとおりである。なお,原
告らにおいて被告の主張と異なる評価額を主張している資産に関する原告
らの主張は,次のとおりである。
(ア)本件相続開始時にP2が保有していた資産の評価額について
aP3株式以外の株式(その内訳は,甲2の1~5の各表1-5の
付表1参照)
(a)P6株式会社(以下「P6」という。)の株式(甲2の1~5の
各表1-5の付表1№5及び表3-1~6参照)
P6の資産のうち,①仮払金(法人税2408万2900円及び
都民税506万9900円)は,資産性がないことから0円と評価
すべきであり,②事業税還付金の額は745万3200円が正しい。
また,③平成15年5月にされた減額更正による還付金1億034
6万0900円を未収税金として計上すべきであり,さらに,④平
成16年の固定資産税6万7400円が負債として未払計上されて
いないので,これを負債に計上すべきである。以上を前提とすれば,
P6の株式の1株当たりの評価額は2万1836円とすべきであり,
P2が保有する8181株の評価額は合計1億7864万0316
円となる。
(b)P7(以下「P7社」という。)の株式(甲2の1~5の各表
1-5の付表1№2及び表2-1~3参照)
①本件各異議決定及び本件各裁決においては,P7社の資産及び
負債につき,直前期末である平成15年12月31日の時点にお
ける為替レートである1米ドル当たり118.30円を用いて米
ドルを用いた評価額から円を用いた評価額への換算を行っている
ところ,上記の換算については,課税時期(課税時期が土曜日で
あったためその前日である平成16年2月27日)の時点におけ
る為替レートである1米ドル当たり108.57円を用いて行う
べきである(評価通達4-3)。
②P7社は,P8(アメリカ合衆国法人。以下「P8社」とい
う。)に対して255万2263.50米ドルの債権を有してい
たが,同社が同国の連邦倒産法第11章(いわゆるチャプター1
1)の適用を受けて倒産したため,同社の再生計画に基づき,債
権額の20%である50万9418.72米ドルについて,平成
16年1月7日以降,3か月ごとに24回に分割して1回当たり
2万1225.78米ドルずつの弁済を受けることとなった。評
価通達によれば,上記債権のうち上記の50万9418.72米
ドルを超える部分は,債権の価額には算入されず(同通達205
の(2)のいわゆる柱書),また,22回目以降の弁済額合計6万
3677.34米ドル)も,同様に債権の価額に算入されないこ
とになるから(同通達205の(2)ロ),P8社に対する上記債
権の評価額は,44万5741.38米ドルとなる。
③以上を前提とすると,P7社の株式の1株当たりの評価額は2
88万6615円とすべきであり,P2が保有する900株の評
価額は合計25億7995万3500円(原告らの主張のまま。
原告別紙3中の「P3以外の株式等」と題する表参照)となる。
b仮払金
原告別紙3の「P2の資産及び負債」と題する表の「資産の部」の
「仮払金」の内訳は,同原告別紙の「仮払金」と題する表に記載され
ているとおりであるところ,これらの仮払金のうち「永年勤続表彰
者」及び「給料」については,いずれも資産性がなく0円と評価すべ
きである。また,「海外旅費」については,1万米ドルのキャッシュ
であるため,課税時期(課税時期が土曜日であったので,その前日で
ある平成16年2月27日)における為替レートである108.57
円によって円を用いた評価額への換算をすべきであり,その評価額は
108万5700円となる。
c前払費用
前払費用は,短期間で費用化されるものであり,資産性が無いもの
であるから,0円と評価すべきである。
d外貨預金
本件相続開始当時,P2は,P9に係る当座預金1万0575.9
1米ドルを保有していたところ(原告別紙3の「当座預金」と題する
表参照),本件各異議決定及び本件各裁決においては,上記預金は1
31万1672円と評価されていた。この評価額は,直前期末である
平成15年12月31日の時点における為替レートである1米ドル=
118.30円を用いて邦貨への換算を行ったものであるが,課税時
期(課税時期が土曜日であったためその前日である平成16年2月2
7日)の時点における為替レートである1米ドル=108.57円を
用いて行うべきであり,そうすると,P9に係る当座預金の評価額は
114万8227円となる。
e機械装置
純資産価額の算定上,建物(建物に含まれる建物付属設備を含
む。)以外の減価償却資産は,通常,未償却残高で評価されるところ,
その減価償却資産について特別償却(通常より割増をした償却)が行
われている場合には,通常の減価償却が行われた場合より未償却残高
が少なくなっている。機械装置(甲2の1~5の各表1の付表2「資
産の部」)については,特別償却を行わなかった場合の未償却残高を
計算し,これを評価額とするのが相当であるというべきであり,その
総額は485億8828万3281円となる(甲46の1~3,51
の1~3の2,52,53)。
f土地
(a)P2が保有する原告別紙17記載の各土地の評価額(時価)は,
最低でも本件各裁決が用いた路線価による評価額(倍率方式による
評価額を含む。以下同じ。甲3の別表4参照)に1.25を乗じた
額(路線価による評価額を0.8で割り戻した額。以下「路線価割
戻評価額」という。)であるものというべきであり,また,上記各
土地のうち原告らにおいて行った価格調査(いわゆる簡易鑑定)に
よる評価額が路線価割戻評価額を超えるもの(同別紙において「価
格調査による額により評価」したとされているもの。)については,
当該調査による評価額(甲23の1~8。以下「簡易鑑定による評
価額」という。)を採用すべきである。
(b)すなわち,路線価は,「評価上の安全性をも考慮して評定した価
額(地価公示価格と同水準価格の8割程度の価格)」(甲55)に
より評定されているものである。本件においては,P2が保有する
上記各土地を路線価により評価すると,P2の有する各資産の評価
額の合計額のうちに占める「株式等の価額の合計額(相続税評価額
によって計算した金額)」の割合が25%を超え,P2株式は株式
保有特定会社の株式として評価すべきこととなる結果,被告の主張
によれば1株当たり1万9002円(本件相続財産に含まれる64
万6400株では合計122億8289万2800円)となる一方,
路線価と比較してより「時価」に近い価格である路線価割戻評価額
及び簡易鑑定による評価額により上記各土地を評価すると,P2が
株式保有特定会社に該当しないことになり,P2株式については原
則的評価方式である類似業種比準価額方式により評価すべきことに
なって,その評価額は1株当たり4653円(64万6400株で
は合計30億0769万9200円)となる。このように,P2株
式を評価するに当たり,同社が保有する資産を評価の安全性を考慮
した価額である路線価により評価すると,そうでない場合と比較し
て,その評価額が4倍に跳ね上がるというのであるから,上記各土
地を評価通達の定める路線価方式により評価することは著しく不適
当であり,それ以外の,客観的時価を超えることがなく,しかし客
観的時価により近似する価額を求め得るような方法で評価するのが
相当である(東京高裁平成11年8月30日判決・税務訴訟資料2
44号400頁参照)。
そして,路線価割戻価額及び簡易鑑定による評価額を用いた前記
(a)のような評価方式は,客観的時価を超えることがなく,しかし
客観的時価により近似する価額を求め得るような方法として合理的
なものというべきである。
(c)したがって,P2が保有する原告別紙17記載の各土地の評価額
(時価)は,同原告別紙の各「主張額」欄記載の価額(単位・円)
に記載されているとおりである。
(イ)本件相続開始時にP3が保有していたP7社の株式(甲2の1~5の
各表17-5の付表3№2参照)の評価について
前記(ア)a(b)のとおり,P7社の株式の1株当たりの評価額は288
万6615円とすべきであるから,P3が保有する40株評価額は合計
1億1466万4600円となる(原告らの主張のまま。原告別紙1中
の「P2以外の株式」と題する表参照)。
イ被告の主張の要点
本件相続開始時に本件各会社が保有していた資産(本件各会社株式を除
く。)の評価額は,①P2については,被告別表13の「1.資産及び負
債の金額(課税時期現在)」欄の「資産の部」の各「科目」欄(「有価証
券(株式及び出資)」欄中の「P3」欄,「合計」欄を除く。)に対応す
る各「相続税評価額」欄に記載されているとおりであり,②P3について
は,被告別表9の「1.資産及び負債の金額(課税時期現在)」欄の「資
産の部」の各「科目」欄(「有価証券(株式及び出資)」欄中の「P2」
欄,「合計」欄を除く。)に対応する各「相続税評価額」欄に記載されて
いるとおりである。なお,これらの各資産のうち,前記ア(ア)及び(イ)に掲
げられているものに関する被告の主張は,次のとおりである。
(ア)本件相続開始時にP2が保有していた資産の評価額について
aP3株式以外の株式
(a)P6の株式
①P6の株式に関する原告らの主張(前記ア(ア)a(a))のうち,
仮払金(同①),事業税還付金(同②)及び未払固定資産税(同
④)に関する部分は,相当なものというべきである。
②平成15年5月にされた減額更正による還付金(前記ア(ア)a
(a)③)については,原告らは,その金額を明らかにする資料等
を提出していないが,国税に関するものについては,甲11の1
に記載された原告ら主張額(法人税還付金額については,平成1
3年3月期1426万6600円及び平成14年3月期4784
万1800円。消費税還付金については,平成13年3月期20
9万1300円及び平成14年3月期745万0600円。)の
とおりである。一方,地方税に関するもの(地方税還付金及び事
業税還付金)については,平成13年3月期分については,甲1
1の1に記載された原告ら主張額(地方税還付金295万320
0円,事業税還付金421万6100円)であるが,平成14年
3月期分については,法人税額が4824万7700円から40
万5900円に減額となっていることから,地方税還付金は99
0万3100円,事業税還付金は1481万9700円というこ
とになる。したがって,上記還付金の金額は,合計1億0354
万2400円ということになる。
③前記①及び②を前提にすると,P6の株式の評価額は,1株当
たり2万1835円(被告別表21の第3表「4.株式及び株式
に関する権利の価額」欄内の「株式の評価額」欄の金額)となり,
P2が保有するP6の株式8181株の評価額は,合計1億78
63万2135円となる。
(b)P7社の株式
①本件においては,原告らが主張するとおり,1米ドル当たり1
08.57円として,P7社の保有する資産及び負債の価額の邦貨
換算をすることが相当である。②また,P7社のP8社に対する2
55万2263.50米ドルの債権については,同社の再生計画に
おいて切り捨てられる金額及び課税時期後5年を経過した日後に弁
済されることとなる部分の金額の合計額210万6522.12米
ドル(前記①による邦貨換算後の金額2億2870万5106円。
なお,原告らは,この額を2億2870万4000円と算定してい
るが,これは,原告らの計算過程における1ドル未満の金額を切り
捨てているなどの端数計算の相違に起因するものと考えられる。)
を除いて評価するのが相当である。
以上を前提とすれば,P7社の株式の評価額は,1株当たり28
6万6614円(被告別表22の第3表「4.株式及び株式に関す
る権利の価額」欄内の「株式の評価額」欄の金額)となり,P2が
保有するP7社の株式900株の評価額は,合計25億7995万
2600円となる。
b仮払金
(a)原告らは,仮払金のうち11億7495万2300円が法人税に
係るものである旨主張するが,原告らの主張する上記金額は,法人
税に係る仮払金9億7376万3600円及び住民税に係る仮払金
2億0118万8700円の合計金額である。そして,上記法人税
及び住民税に係る仮払金については,原告ら主張のとおり,資産性
は認められない。
(b)原告らが資産性がないと主張する仮払金のうち,永年勤続表彰者
に係る金員並びに給与及び海外旅費については,原告らはこれらの
仮払金の資産性がないことを立証する証拠を提出しておらず,また,
被告が調査した限りにおいても,原告らの上記主張を裏付ける事実
は見当たらないから,資産性がないものとは認められない。
c前払費用
原告らは,前払費用は短期間で費用化されるものであり,資産性が
ないものであるから,零円で評価すべきである旨主張する。しかし,
前払費用の資産計上の要否については,課税時期における資産性(財
産性)の有無により決すべきものであるところ(乙23),原告らは,
上記前払費用が資産性がないものであることを立証する証拠を提出し
ておらず,また,被告が調査した限りにおいても,原告らの上記主張
を裏付ける事実も見当たらないから,原告らが主張する前払費用につ
いては,資産性がないものとは認められない。
d外貨預金
(a)本件においては,原告らが主張するとおり,1米ドル当たり10
8.57円としてP2が保有する外貨預金の邦貨換算をするのが妥
当である。
(b)原告らは,P9に係る当座預金131万1672円について,誤
った為替相場(平成15年5月31日時点の為替相場である1米ド
ル当たり118.30円)に基づいて1万0575.91米ドルを
円換算したものであると主張するようであるが,そもそも,原告ら
が主張する1万0575.91米ドルを上記為替相場(1米ドル当
たり118.30円)に従って換算しても,131万1672円と
はならない(1万0575.91米ドル×118.30円≒125
万1130.15円となる。)。また,甲19の2には,平成15
年5月31日現在のP9の当座預金として131万1672円と記
載されている一方で,甲19の4には,P2がP9の当座預金とし
て1万0575.91米ドルを保有していることを証する記載は見
当たらず,被告の調査した限りにおいても,1万0575.91米
ドルを保有している事実は見当たらない。したがって,原告らの上
記主張は,その金額の算定根拠を欠いている。
e機械装置
原告らは,特別償却が行われている機械装置について,特別償却を
行わなかった場合の未償却残高485億8828万3281円を評価
額とすべきである旨主張する。
しかし,被告が主張するP2の株式保有割合約25.9%(株式保
有特定会社の判定上の割合は,1%未満の端数を切り捨てた25%と
なる。)は,P2の保有する株式及び出資の価額の合計額795億5
158万1000円(被告別表13の○イ欄の金額)を同社の総資産価
額3069億9835万5000円(同別表の①欄の金額)で除して
算出されたものであるところ,仮に,上記総資産価額に,原告らの主
張する機械装置の未償却残高の増加額(すなわち純資産価額の増加額)
2億0010万7627円を加算して株式保有割合を算出したとして
も同社の株式保有割合は約25.8%(同別表の○イ欄の金額795億
5158万1000円を,同別表の①欄の金額3069億9835万
5000円に機械装置の未償却残高の増加額2億0010万7627
円を加算し,1000円未満の端数を切り捨てた金額3071億98
46万2000円で除して算出)となるにすぎず,P2が株式保有特
定会社に当たるか否かの判定には特段の影響はない。
また,P2株式について,評価通達189-3に定めるS1+S2
方式により評価する場合,S1の金額(株式保有特定会社が有する株
式等と当該株式等に係る受取配当収入がなかったとした場合の同社株
式の会社規模に応じた原則的評価方式による評価額。評価通達189
-3の(1))は,類似業種比準方式により評価した金額(被告別表18
⑫欄の金額)又は純資産価額方式により評価した金額(同別表18⑬欄
の金額)のいずれか低い金額となる(同別表18⑮欄の金額)。そして,
被告主張に係るP2株式のS1の金額は,類似業種比準方式により評
価した金額4504円(同別表18⑮欄の金額)となるところ,仮に,
同社の資産の価額に,原告らの主張する機械装置の未償却残高の増加
額(すなわち純資産価額の増加額)2億0010万7627円を加算し
て純資産価額方式により評価したとしてもなお,類似業種比準方式に
より評価した金額の方が低額となることに変わりはない。なお,P2
株式に係るS1の金額を類似業種比準方式により算出する場合に,上
記純資産価額の増加額が影響することはなく,したがって,仮に,原
告ら主張に係る機械装置の評価額を前提としても,結局のところ,被
告主張に係るP2株式の評価額に影響はなく,その結果,P3株式の
評価額にも影響がない。
以上のとおり,仮に,原告ら主張に係る機械装置の評価額を前提と
しても,被告主張に係るP2の株式保有特定会社の判定や本件各会社
の株式に係る各評価額には何ら影響はない。
f土地
(a)株式保有特定会社の判定は,飽くまでも,課税時期において評価
会社の有する「各資産をこの通達に定めるところにより評価した価
額の合計額のうちに占める株式及び出資の価額の合計額の割合」
(株式保有割合)が評価通達189の(2)に定める基準(大会社に
つき25%,中会社及び小会社につき50%)を超えているか否か
によって行われるべきものであるから,路線価割戻価額を基に株式
保有割合を計算するという原告ら主張の方法に合理性がないことは
明らかである。
(b)原告らは,評価通達は,その6において,同通達に定める評価方
式を画一的に適用すると著しく課税の公平を欠くこととなる場合に,
個々の財産の価額に応じた適正な時価評価が行えるよう定めている
ところ,本件では,評価の安全性を考慮した結果として,かえって
株価が跳ね上がるという事態が生じているのであり,これは正に,
「評価通達に定める評価方式を画一的に適用することによって実質
的な租税負担の公平を著しく害することが明らかな場合」に当たる
旨主張する。
しかしながら,そもそも本件各会社株式の評価額は,別紙2「本
件各処分の根拠等に関する被告の主張」の第3の2のとおり算定さ
れるべきであり,当該算定された評価額が正に適正な評価額である
から,「株価が跳ね上がる」と認識すること自体が誤りである。
また,その点はおくとしても,原告らは,路線価割戻評価額によ
り評価すべきものとする各土地(原告別紙17記載の各土地のうち,
簡易鑑定による評価額により評価したもの以外のもの。)について,
「評価通達に定められた評価方式を画一的に適用することによって,
かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らか」な
具体的事情を何ら主張立証していない。原告らは,結局のところ,
P2の株式保有割合を引き下げる手段として,同社が保有する土地
の一部につき,その評価額をし意的に引き上げているにすぎない。
(c)特定の納税者あるいは特定の相続財産についてのみ評価通達に定
める方式以外の方法によってその評価を行うことは,たとえその方
法による評価額がそれ自体としては相続税法22条の定める時価と
して許容できる範囲内のものであったとしても,納税者間の実質的
な租税負担の公平を欠くことになるため許されないというべきであ
って,評価通達に定める評価方式を画一的に適用することによって,
かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかな場
合に初めて,評価通達6により国税庁長官の指示を受けて評価する
こととなるというべきところ,原告らは,簡易鑑定による評価額
(甲23の1~8)によるべきとする各土地(原告別紙17記載の
各土地のうち,「価格調査による額により評価」したとされている
もの。)について,評価通達に定める評価方式によらず調査価格に
よるべきとする根拠,すなわち「評価通達に定められた評価方式を
画一的に適用することによって,かえって実質的な租税負担の公平
を著しく害することが明らか」な具体的な事情を一切明らかにして
いない。仮に,原告らにおいて路線価割戻評価額により評価すべき
ものとした各土地についてと同様,「本件では,評価の安全性を考
慮した結果として,かえって株価が跳ね上がるという事態が生じ
て」いることをその根拠とするのであれば,原告らの主張が失当で
あることは,前記(b)で述べたとおりである。
(イ)本件相続開始時にP3が保有していたP7社の株式の評価について
前記(ア)a(b)のとおり,P7社の株式の1株当たりの評価額は286
万6614円とすべきであるから,P3が保有する40株評価額は合計
1億1466万4560円となる。
(2)P2が株式保有特定会社(評価通達189の(2))に該当するか否か(争
点2)
ア原告らの主張の要点
(ア)評価通達の定めの非合理性
a会社の有機的事業体としての価値を反映した上場会社に対する株式
市場の評価を基にして類似業種の非上場会社の株式を評価する類似業
種比準方式は,少なくとも上場会社との比較に適している大会社の株
式については,純資産価額方式よりも明らかに優れている。また,会
社の有機的事業体としての価値が各会社資産の時価を単純に合計した
ものを上回る保証はなく,純資産価額方式による評価が株式の最低限
の価額を示すということもない。したがって,P2のような大会社の
株式については,原則として類似業種比準方式をもって評価すべきで
あり,純資産価額方式そのもの又は純資産価額方式を加味した別の評
価方式を用いることが許容されるのは,そのような原則からの逸脱に
関して合理的な必要性が存在する場合において,その必要性の面から
合理的な範囲内に限られるものというべきである。
b前記aのとおり,大会社の株式については類似業種比準方式をもっ
て評価するのが原則ではあるが,株式を保有させる目的で用意した持
株会社に保有株式を譲渡して,その譲渡された株式の時価が持株会社
の株式の評価額に反映されないような状態を作出することによる節税
ないし租税回避行為に対応するため,そのような持株会社の株式につ
いて,類似業種比準方式ではなく,純資産価額方式又は純資産価額方
式を加味した評価方式を用いることは合理的であり,その意味では,
株式保有特定会社の株式について特別の評価方式が設けられているこ
と自体には合理性がある。
しかし,資産中に占める土地等の割合が70%以上(土地等以外の
資産の割合が30%以下という非常に低い割合)となっている会社の
みを土地保有特定会社とする評価通達189の(3)に定める土地保有
特定会社に関する基準とは異なり,大会社につき株式保有割合が2
5%で株式等以外の資産の割合が75%と相当高い割合となっている
会社をも一律に株式保有特定会社とする同通達189の(2)の定める
基準は,合理性に欠ける。すなわち,そのような基準では,被告の主
張するように,平均的な会社における株式等以外の資産の割合が8
0%台であったとしても,それが75%へと平均的な会社のそれから
多少低下するだけで,株式保有特定会社に該当することになってしま
い,問題であるし,類似業種比準方式において標本会社とされる会社
には,株式保有割合が100%に近い持株会社も含まれており,形式
的に株式保有割合が高い持株会社であることのみをもって,類似業種
比準方式による評価という原則から逸脱する合理性はない。節税ない
し租税回避行為としての要素が現に存在するか,少なくともそのよう
な要素の存在が明らかに推認できるような状況において初めて,株式
保有特定会社の株式としての特別の評価方式を用いることに合理性が
あるというべきである。
c被告が評価通達189の(2)に定める基準の合理性の根拠として掲
げる法人企業統計に基づく数値でも,有価証券が総資産に占める割合
は,本件相続が生じた平成15年度において17.39%であり,2
5%から大きく離れた数値とはいえない。しかも,かかる法人企業統
計に基づく数値は,簿価に基づく数値であって,一般的な企業におけ
る時価による株式保有割合が10%台であることについては何も裏付
けがないところ,時価と簿価はかい離していることが一般的であるし,
かかる時価と簿価のかい離が非常に大きなものとなっていることもよ
くあることである(P2も,簿価によれば株式保有割合は約3.6%
である。)。被告は,あたかも原告らの側で一般的な企業における時
価による株式保有割合が25%以上であることを示す必要があるかの
ように主張するが(後記イ(ア)e),株式保有割合25%以上という
基準の合理性については,そのような基準を定立した被告側において
その裏付けを示すべきである。
d例えば,株式保有割合50%超というようなその数値だけで持株会
社と分類することに合理性のある数値を用いるのならばともかくとし
て,株式保有割合25%以上という数値のみをもって持株会社と位置
づけることは通常はない数値であり,かつ,一般的な企業における株
式保有割合と著しくかい離していることが明らかでもない数値をもっ
て,一律に株式保有特定会社としてしまうという基準は,相当ではな
い。株式保有割合25%以上という数値を用いるのならば,せいぜい
株式保有割合25%以上の会社については節税ないし租税回避行為と
しての要素が存在するか否かを重点的に審査するとでもいうように,
株式保有特定会社としての最終的な認定に必ずしも直結しない基準と
して用いるのが,合理性の面から許容できる限度であるものというべ
きである。
(イ)評価会社と他の会社との間で株式の持ち合い関係がある場合における,
株式保有割合の計算方法
a通達は,税務当局における法令の統一的な執行を確保する機能を果
たすための上級行政庁から下級行政庁への命令ないし指針であり,税
務当局における一種のマニュアルとしての役割を果たすものである。
通達に正面から定められていない事項につき,通達の部分的な文言に
こだわり,それ自体を解釈の対象とするのは,マニュアルに正面から
定められていない事項につき,その部分的な文言にこだわり,それの
みに基づきマニュアル対象業務の解決を図ろうとするのと同様であっ
て,正しい手法とはいえない。
評価通達189の(2)は,評価会社の株式保有割合の計算において
分母及び分子に当てはめるべき評価会社の各資産の評価につき,「こ
の通達に定めるところ」による旨を定めているところ,同項が株式保
有割合という株式保有特定会社に該当するか否かの基準に関する定め
であることからすれば,同項にいう「この通達に定めるところ」とは,
同通達のそれ以外の部分を指すと考えるのが自然であるとも考えられ
るのであって,そこに株式保有特定会社等の株式の評価に関する定め
も含まれるのかどうかは,同通達の文言自体から明らかなわけではな
く,評価会社が保有する他の会社の株式の評価につき,当該他の会社
が株式保有特定会社に該当することを考慮しなければならないかどう
かにつき正面から答える定めが同通達にあるわけでもない。
b被告が主張するように,評価会社の株式保有割合を計算するに当た
り,評価会社と株式の持ち合い関係がある他の会社が株式保有特定会
社に該当するか否かを判断しなければならないとすると,当該他の会
社が保有する株式を発行している評価会社が株式保有特定会社に該当
するか否かをまず判断しなければならないことになるから,判断しな
ければならないことが堂々巡りをしてしまう結果となり,妥当ではな
い。評価会社が株式保有特定会社に該当するか否かを判断するために
評価会社の株式保有割合を計算する場合において,評価会社と他の会
社との間で株式の持ち合い関係があるときは,当該他の会社が株式保
有特定会社に該当するか否かに関係なく,評価会社が保有する当該他
の会社の株式を原則的評価方式で評価して評価会社の株式保有割合を
計算すべきである。
平成16年12月に東京国税局課税第一部の資産課税課及び資産評
価官が作成した資産税審理研修資料(甲4)においても,上記のよう
な株式保有割合の計算方法が支持されている。被告は,甲4は,簡便
性の見地から採り得る判定方法として示されたものにすぎず,本件に
おいてはそのような簡便な判定方法を用いるのは合理性がない旨主張
するが,いくら精緻な計算により株式保有割合を計算しようとも,そ
の計算された株式保有割合が25%以上であることにより,持株会社
としての実態があることが裏付けられるとはいえないし,ましてや節
税ないし租税回避行為としての要素があるなどとは結論付けられない。
そうである以上は,株式保有割合を無駄に精緻に行うことよりも,持
株会社としての実態があるか否かを考慮する方が,株式保有特定会社
の株式としての特別の評価方式を用いる場合を画する基準として,は
るかに合理的である。
(ウ)P2が株式保有特定会社に該当しないこと
aP2は,5000人以上の従業員を擁し,化粧品,シャンプー・リ
ンス,薬品,洗剤,食品等のペットボトル,容器等の製造販売により
売上高1882億円を有する,合成樹脂容器の製造販売では我が国ト
ップシェアを誇る一流企業であり,また,被告の主張によっても,P
2の株式保有割合は26%程度であって,それは異常と決め付けられ
るような数値ではない。上記のように大半のリソースは自ら行う事業
に用いており,またほとんどの利益は自ら行う事業から得ているP2
は,株式保有目的の持株会社には該当せず,ましてや原告ら株主が本
来直接保有しているはずの株式を間接保有に切り替えるために用意し
た持株会社ではない。したがって,前記(ア)dにおいて述べたとおり,
株式保有割合25%以上という基準を,節税ないし租税回避行為とし
ての要素が存在するか否かを重点的に審査する対象を画するというよ
うな株式保有特定会社としての最終的な認定に必ずしも直結しない基
準として用いた場合,P2は,株式保有特定会社として取り扱われる
べき会社ではない。
b別紙3「相続税額に関する原告らの主張」第1の1の第1段落のと
おり,本件各会社がそれぞれ保有する資産等を本件各異議決定及び本
件各裁決に記載されている価額で評価した場合(ただし,P2保有の
P3株式は,前記(イ)bにおいて述べたところに従い,原則的評価方
式により評価した。)であっても,P2の株式保有割合は約18%に
すぎず,大会社を株式保有特定会社と評価すべき基準として評価通達
189の(2)が定める25%を下回るので,P2が株式保有特定会社
に当たらないことは明らかである。
c仮に,被告主張のとおり,株式保有割合の計算に当たってP2保有
のP3株式を株式保有特定会社の株式として評価すべきものであると
しても,前記(1)アにおいて述べた本件各会社の保有する資産等の正
しい評価額を反映させると,別紙3「相続税額に関する原告らの主
張」第1の1の第2段落のとおり,P2の株式保有割合は約24.
6%となり,25%に達しないことになるから,やはりP2は株式保
有特定会社に当たらないこととなる。
d被告は,株式保有割合を算出する算式の分子となる「株式及び出資
の価額の合計額」に含めていなかったP10優先株式(甲2の1~5
の各表1-5の付表4の№1参照)につき,評価通達188-4及び
188-5の定めを挙げるとともに,国税庁のホームページに掲載さ
れた種類株式の評価に関する質疑応答事例の写し(乙31)を提出し
て,同通達189の(2)にいう「株式」とは旧商法上の株式をいうか
ら,上記「株式及び出資の価額の合計額」に含めるべきものである旨
主張する。
しかし,評価通達188-4及び188-5は,いずれも特殊な種
類株式の評価に関する定めであって,「株式」の意義について定めた
ものではなく,また,乙31においても「株式とは何か」が定義され
ているわけではないから,上記のような被告の主張の根拠とはならな
い。乙31では,被告のいう「P10優先株式とその内容がほぼ同一
の株式」を,株式であるにもかかわらず「利付公社債」という債券に
準じて評価すべきものとされているのであるから,株式保有特定会社
の判定に際して問題となる「株式」の解釈に当たっても,実質的に債
券と同様の性質を有する株式はこれを除くという結論を導くことも容
易である(本件各異議決定においては,このように解釈したからこそ,
わざわざ「有価証券(株式及び出資)」とは区別して「有価証券(そ
の他)」という項目を立てた上で,P10優先株式を後者に含めるこ
ととし,その価額を「株式及び出資の価額の合計額」から除外したの
ではないかと考えられる。)。
また,仮に,P10優先株式の価額が「株式及び出資の価額の合計
額」に加算されるとしても,P2の株式保有割合が25%未満となる
ことに変わりはない。
イ被告の主張の要点
(ア)財産評価の原則と評価通達の定めの合理性
a相続税法22条にいう「時価」とは,相続開始時における当該財産
の客観的な交換価格をいうものと解すべきであるが,課税実務上は,
評価通達に定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価する
こととされている。これは,相続財産の客観的な交換価格を個別に評
価する方法を採ると,その評価方式,基礎資料の選択の仕方等により
異なった評価額が生ずることを避け難く,また,課税庁の事務負担が
重くなり,課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等か
ら,あらかじめ定められた評価方式により画一的に評価する方が,納
税者間の公平,納税者の便宜及び徴税費用の節減という見地から見て
合理的であるという理由に基づくものと解される。
そうすると,特に租税平等主義という観点からして,評価通達に定
められた評価方式が合理的なものである限り,これを画一的に適用す
るという形式的な平等を貫くことによって,かえって実質的な租税負
担の公平を著しく害することが明らかな場合を除き,特定の納税者な
いし相続財産についてのみ同通達に定める方式以外の方法によって評
価を行うことは,その方法による評価額がそれ自体としては相続税法
22条の定める時価として許容できる範囲内のものであったとしても,
納税者間の実質的負担の公平を欠き,許されないというべきである。
殊に,本件各会社株式のような取引相場のない株式にあっては,市場
価格が形成されていないため,合理的と考えられる評価方式によって
時価を評価するほかなく,同通達の定める評価方式が合理性を有する
限り,それによって得られた評価額をもって「時価」と推定すること
を妨げないというべきである。
b評価通達は,評価会社の事業規模に応じて異なる評価方式を採用し,
そのうち類似業種比準方式は,大会社(上場会社に匹敵するような事
業規模の評価会社)の株式について適用される方式である。
しかし,大会社の中には,上場会社に比べて会社の総資産のうちに
占める各資産の保有状況が株式や土地などの特定の資産に偏った会社
等も見受けられる。このような会社の株式の価額は,その保有する株
式や土地等の価値に依存する割合が高いものと考えられ,かかる会社
の株式については,一般の評価会社に適用される類似業種比準方式に
より適正な株価の算定を行い難く,同方式による評価額と適正な時価
との間に開差を生ずることになる。そして,この開差がこれを利用し
た租税回避行為の原因にもなっていることから,課税の公平の観点か
ら,そのような開差の是正及び評価の一層の適正化を図る目的で,平
成2年8月3日付け直評12・直資2-203をもって評価通達の一
部改正(この改正を,以下「評価通達の平成2年改正」という。)が
行われたものであり,同改正により定められた同通達189は,評価
会社の資産の保有状況,営業の状態等が一般の会社と異なる「株式保
有特定会社」等の株式につき,「特定の評価会社の株式」として特別
な評価方式により評価することとした(具体的な評価方式は,同通達
189-2以下において定められている。)。
c①株式保有特定会社に該当するか否かを判断する際の株式保有割合
を大会社25%,中会社及び小会社50%とし,②株式保有特定会社
の株式の評価方式としてS1+S2方式を設けた評価通達の平成2年
改正の背景と趣旨について,当該改正当時の担当官は,次のとおり説
明している(乙11)。
(a)前記①について
株式保有割合25%又は50%という基準は,当時の会社の株式
保有割合の実態を調査した上で設けたものであるところ,大会社に
ついての25%という数値自体,一般の会社に比べたらかなり異常
な数字である。すなわち,法人企業統計等では,資本金10億円以
上の会社の株式保有割合は7.8%との数字があるが,これを実際
の相続税評価額ベースに直すとそれを若干下回ると考えられ,2
5%でも一般会社の3,4倍という数字になるから,そこで線引き
をする理由はある。
(b)前記②について
株式保有特定会社の株式の評価においてS1+S2方式が採用さ
れた理由は,純資産価額方式に対して簡便法を設ける必要があるこ
とと,実際に事業を行っている部分について,類似業種比準方式を
できるだけ認めたいということの2点にある。
d(a)甲5においては,評価通達189の(2)において株式保有特定会
社に該当する基準が大会社につき株式保有割合25%と定められて
いる根拠につき,大会社に属する会社の株式保有割合の実態を調査
した上で,その平均的な保有割合の倍くらいの数値として25%の
基準を設定した旨述べられている。これを法人企業統計(乙12の
1・2)の数字で実際に確認してみると,平成元年度(調査期間は
平成元年4月1日~平成2年3月31日)では,資本金10億円以
上の金融業及び保険業を除くすべての業種の営利法人(本邦に本店
を有する合名会社,合資会社,合同会社及び株式会社をいう。)全
数について,流動性資産の「有価証券」(売買目的有価証券及び1
年内に満期の到来する有価証券等をいう。)と固定資産の「投資有
価証券」(関係会社株式等が投資有価証券に区分される。)を合計
した有価証券(以下,単に「有価証券」という。)の全資産(ただ
し,評価通達により純資産価額を計算する際,「繰延資産」は資産
に計上していないことから,当該計算においても控除。以下同
じ。)に占める割合は11.78%であり,固定資産の「投資有価
証券」のみが総資産に占める割合は7.38%である。また,評価
通達改正年の平成2年度(調査期間は平成2年4月1日から平成3
年3月31日)の上記営利法人における,有価証券が総資産に占め
る割合は12.30%であり,固定資産の「投資有価証券」のみが
総資産に占める割合は7.88%であって,上記の25%という基
準の根拠とされた数値と整合している。
なお,これを相続開始日である平成▲年▲月▲日を含む平成15
年度(調査期間は平成15年4月1日~平成16年3月31日)に
ついて確認すると,上記営利法人において,有価証券が総資産に占
める割合は17.39%であり,固定資産の「投資有価証券」のみ
が総資産に占める割合は16.31%である(乙13)から,上記
通達改正当時の数値に比し,資本金10億円以上の法人における株
式保有割合は上昇している。この理由としては,①平成9年の私的
独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」
という。)の改正により,持株会社の規制が解かれたことや,②当
該持株会社が解禁されたことを契機として,企業の組織再編に必要
な商法等の整備が進められたことなどが挙げられるが,当該数値は,
評価通達189の(2)に定める25%の基準に比し,なお低い水準
であって,平成15年度の法人企業統計に表れた株式保有割合の数
値が,平成2年の評価通達改正時における平成元年度及び同2年度
の各数値よりも高いことをもって,上記評価通達189の(2)が定
める基準が直ちにその合理性を失うものではない。
(b)また,評価通達189-3に定めるS1+S2方式については,
前記c(b)のとおり,株式保有特定会社においても実際に事業を行
っていることが評価額に反映されるようにするために,本来の事業
に係る部分については類似業種比準方式により評価することを認め,
評価会社の所有する資産のうち株式等についてのみ純資産価額とし
ての価値を反映させようとするものであり,それらの株式等の影響
を排除した後の「一般の評価会社」としての会社の事業実態に応じ
た原則的評価方式による評価額をも併せ考慮しているのであるから,
このようなS1+S2方式によって評価することも株式保有特定会
社の株式の評価方式として合理的な方法というべきである。
e法人企業統計における企業の有する資産の価額が簿価に基づき計算
されていることは否定しないが,各企業によって,所有する資産の種
類,取得時期及び取得価額,有価証券の時価等は千差万別であり,全
ての法人について,簿価により株式保有割合を算出した方が相続税評
価額により算出されたそれよりも割合が低くなるというような状況に
なるとは限らない。むしろ,乙11でも指摘されているように,相続
税評価額に置き換えることによって土地の含み益も顕在化することに
なるから,その場合,株式保有割合は更に低いものになることが十分
想定される。したがって,平成15年度において,法人企業統計の対
象法人における株式保有割合を時価に基づいて計算すると,法人企業
統計に基づく平均値を超えて25%以上となっているものと見ること
はできないから,評価通達189の(2)に定める前記c①の基準(大
会社に関するもの)が不合理であるとはいえない。
(イ)評価会社と他の会社との間で株式の持ち合い関係がある場合における
株式保有割合の計算方法に関する原告らの主張について
a原告らは,評価会社と評価会社が保有する株式の発行会社との間で
株式の持ち合い関係がある場合には,当該発行会社が株式保有特定会
社に該当するか否かに関係なく,その評価会社が保有する株式を原則
的評価方式で評価して評価会社が株式保有特定会社に該当するか否か
を判断することが妥当であり,甲4によれば,このような判定方法は
税務当局においても採用されているなどと主張する。
しかし,評価通達189の(2)は,評価会社の株式保有割合の算定
に当たっては「評価会社の有する各資産をこの通達に定めるところに
より評価した価額」による旨定めているのであるから,評価会社の保
有する取引相場のない株式についても「この通達に定めるところによ
り評価」すること,すなわち,同通達189が準用する同通達178
ただし書にいう「特定の評価会社の株式」に当たるか否かを考慮した
上で,評価会社の株式保有割合を決定することは明らかである。また,
甲4は,その体裁から明らかなとおり,東京国税局管内の資産課税部
門の審理担当職員が担当する納税相談事務ないし納税申告書等の審理
事務に資する目的の下,各税務署等に寄せられた個別の相談事例を基
にして各法令や関係通達の適用に当たり留意すべき事項を掲載した部
内研修の資料であり,その位置付けは飽くまで研修教材にすぎないの
であって,税務執行に当たり統一的に事務処理を行うための基準を定
めた行政部内における上級官庁から下級官庁に対する職務命令である
通達とはその性格をおよそ異にするものである。
b甲4に記載された株式保有特定会社該当性の判定方法(以下「甲4
記載の判定方法」という。)は,以下の考え方に基づくものである。
すなわち,評価会社と同社が保有する取引相場のない株式の発行会
社の間で相互に株式を持ち合っている場合には,一方の会社の総資産
価額(相続税評価額)の計算上,他方の会社の株式の価額が影響し,
これが互いに連鎖することから,株式保有割合,すなわち各社が株式
保有特定会社に当たるか否かについても一義的に確定できない場合が
あり,かかる場合は,いずれか一方の会社が株式保有特定会社に該当
するか否かを判定するに先立ち,他方の会社の株式に係る評価上の区
分(評価方式)を仮に決定し,その価額を算定しなければならないと
いう循環に陥ることになる。この点,理論上は,相互に取引相場のな
い株式を持ち合っている各評価会社の一方が「株式保有特定会社」に
当たるか否かの判定に当たっては,他方の会社の株式についても純資
産価額方式(相続税評価額)により評価した価額をもって算定するの
が相当であると考えられるが,その一方で,評価会社が保有する取引
相場のない株式の発行会社の中には上場会社に匹敵するような事業規
模の会社もあり,それらの会社の株式について一律に純資産価額方式
(相続税評価額)によるとすることは,評価通達の合理性を担保して
いる一要素である納税者の便宜及び徴税費用の節減という「簡便性」
の見地に照らし,煩瑣な点は否定できないことなどからすれば,相互
に株式を持ち合う各評価会社のいずれもが株式保有特定会社に当たる
か否かを一義的に確定できない場合は,株式保有割合の算定に当たり,
ある程度簡便性に考慮した方法によることも許容されるものと解され,
株式保有割合が極めて高い場合(明らかに株式保有特定会社に当たる
ような場合)などではない限り,相互保有株式につき「一般の評価会
社」に適用される事業規模に応じた原則的評価方式による価額をもっ
て評価会社の株式保有割合を算定することにも相応の合理性があると
考えられる。そこで,甲4においては,相互に株式を持ち合っている
評価会社がそれぞれ「株式保有特定会社」に該当するか否かを判定す
るに当たっては,原則として双方の会社の株式を事業規模に応じた原
則的評価方式で評価し,株式保有割合を算定することとしているので
ある(同号証131ページ)。
このように,甲4記載の判定方法は,相互に株式を持ち合っている
評価会社がそれぞれ「株式保有特定会社」に該当するか否かを判定す
るに当たり,そのいずれもが「株式保有特定会社」に該当するか否か
が不明な場合において,専ら簡便性の見地から採り得る判定方法とし
て示されたものであって,その研修教材としての性格から,自ずと一
般的・標準的な事例に対して採用されることを想定したものである。
したがって,甲4記載の判定方法を個別事案に対して採用するに当た
っては,相続税法22条にいう「当該財産の取得の時における時価」
に照らして妥当性があるか否かを検証することが不可欠である。甲4
記載の判定方法は,本件のように相互に株式を持ち合う評価会社の一
方が明らかに株式保有特定会社に当たるような事例にまで一律に採り
得る方法として示されたものではない。
cこれを本件についてみれば,①P3は,保有するP2株式を除いて
も株式保有特定会社に該当するのであって(別紙2「本件各処分の根
拠等に関する被告の主張」第3の1(4)ウ),P3株式の評価上の区
分は一見して明らかであるから,本件は,そもそも,甲4記載の判定
方法が前提とするような,相互に取引相場のない株式を持ち合う各評
価会社の株式の評価方式を決定するに当たり,一方の株式の評価方式
を仮に決定しなければならないという循環に陥る事例ではない。②ま
た,評価通達189の(1)~(5)に掲げる「特定の評価会社の株式」に
ついて,類似業種比準方式の適用を制限し,あるいは排除し,原則と
して純資産価額方式(相続税評価額)により評価することとしている
(同通達189-2~189-5)理由は,そのような会社の株式に
ついては類似業種比準方式により適正な株価の算定を行い難いという
点にあるが,本件のように相互に株式を持ち合う一方の会社が一見し
て「特定の評価会社」に該当する事例においても,同社株式につき事
業規模に応じた原則的評価方式による価額をもって他方の会社の株式
保有割合を算定すると,評価通達189の(2)が準用する同通達17
8ただし書の定めに背理し,評価通達が評価の適正化を図るため「特
定の評価会社の株式」という評価上の区分を設け,別途評価方式を定
めた評価通達の平成2年改正の趣旨をも没却する。③さらに,原告ら
も,仮に本件においてP3がP2株式を保有していなかったとした場
合,すなわち,両社が株式の持ち合い関係にない場合には,P2の株
式保有割合を算定するに当たり,同社が保有するP3株式につき株式
保有特定会社の株式として評価することを争うものではないと考えら
れるが,原告らの主張に従うと,この場合,P3がP2株式をわずか
数株でも保有するに至り,両社が株式の持ち合い関係になりさえすれ
ば,P3株式は併用方式により評価することになって不合理である。
このように,P2の株式保有割合の算定に当たり,総資産の大半を
株式等で占めているP3株式をあえて「一般の評価会社」に適用され
る併用方式により評価するということには合理性が認められず,P2
の株式保有割合は,P3株式につき「株式保有特定会社の株式」とし
て評価した価額をもって算定すべきである。
(ウ)P2が株式保有特定会社に該当すること
a前記(1)イにおいて述べた本件各会社の保有する資産等の評価額を
前提とすれば,別紙2「本件各処分の根拠等に関する被告の主張」第
3の1(4)オの第1段落のとおり,P2の総資産価額(相続税評価
額)は3069億9835万5000円となり,そのうち株式等の価
額(評価通達189の(2)における「株式及び出資の価額の合計
額」)は795億5158万1000円となるから(被告別表13の
○イの金額),P2の株式保有割合は,約25.9%となり,P2が株
式保有特定会社に該当することは明らかである。
bなお,別紙2「本件各処分の根拠等に関する被告の主張」第3の1
(4)オの第2段落のとおり,本件各更正処分(ただし,本件各再更正
処分による減額前のもの。)において,P10優先株式については,
評価通達189の(2)における「株式及び出資の価額の合計額」には
含まれないものとされていたが,同通達188-4及び188-5の
定めにおける「株式」の意義との対比からすれば,P10優先株式も
その価額を同通達189の(2)における「株式及び出資の価額の合計
額」に含めるべき株式に当たるものというべきであるから,P2の株
式保有割合の算定上の「株式及び出資の価額の合計額」は,P10優
先株式の価額10億円を含む795億5158万1000円(被告別
表13の○イの金額)とすべきである。
ただし,P10優先株式をもって,その価額を同通達189の(2)
における「株式及び出資の価額の合計額」に含める株式に当たらない
ものと解してP2の株式保有割合を算定したとしても,(795億5
158万1000円-10億円)÷3069億9835万5000円
≒25.5%となるから,P2が株式保有特定会社に該当することに
変わりはない。
(3)本件各会社株式の「時価」(相続税法22条)の評価方式及びその金額
(争点3)
ア原告らの主張の要点
(ア)P2株式につき原則的評価方式を用いるべきこと
既に述べたとおり,P2は株式保有特定会社には該当しないから,P
2株式の時価については,評価通達179に定める原則的評価方式(大
会社であるP2においては同通達179の(1)に定める方式)によるべ
きである。したがって,本件相続開始時点におけるP2株式の時価は,
1株当たり4653円(本件相続財産に含まれる64万6400株では,
合計30億0769万9200円)ということになる(別紙3「相続税
額に関する原告らの主張」第1の2(2))。
なお,P3株式については,株式保有特定会社の株式として評価する
ことになるところ,上記のようなP2株式の時価,前記(1)アにおいて
述べたP3保有の資産及び負債の価額(原告別紙1参照)等を前提とす
れば,本件相続開始時点におけるP3株式の時価は,1株当たり1万9
132円(本件相続財産に含まれる17万8200株では,合計34億
0932万2400円)ということになる(別紙3「相続税額に関する
原告らの主張」第1の2(2))。
(イ)原告らが本件申告において用いた評価方式の合理性
a原告らは,本件申告において,本件各会社がいずれも株式保有特定
会社に該当することを前提とした上で,まずP3が保有するP2株式
の類似業種比準方式に基づく価額を基にP3株式をS1+S2方式で
評価し,その結果得られたP3株式の評価額を基にP2株式をS1+
S2方式で評価して,本件相続に係る相続財産中の本件各株式の評価
額(時価)を算出したものであるが,これは次のような考え方に基づ
く。
すなわち,いずれも株式保有特定会社であるA社及びB社が互いの
株式を持ち合っている場合に,両社の株式を純資産価額方式ないしS
1+S2方式で評価しようとすると,いずれの会社についても保有す
る持合い株式が当該会社の発行する株式の評価に影響を与えてしまい,
評価が循環してしまうという問題が生ずる。そこで原告らは,2つの
株式保有特定会社が株式の持合いを行っている場合に,まず出発点と
してどちらかの株式の評価を決めなければならないとすれば,持合い
株式の価額による評価の影響を比較的受けにくい方の会社の株式をま
ず出発点として決めるのが適切であると考え,本件では,P2の方が
P3より株式保有割合が低いことは明白であり,また,既に述べたと
おりP2は上場企業と何ら変わらない事業実態があるので,P3株式
の価額によりP2株式の評価が受ける影響は比較的軽微であることが
合理的に推測できることから,まず,P3株式をS1+S2方式で評
価するために用いるP3保有のP2株式の価額を算出する目的に限定
して,P2株式を類似業種比準方式により評価した。これは,たとえ
最終的には相続財産としてのP2株式を純資産価額方式ないしS1+
S2方式で評価する必要があるとしても,上場企業と変わらない事業
実態があり,かつ,保有するP3株式の価額により評価に影響を受け
にくい会社の株式であるP2株式を,まず評価の循環を絶つ目的で,
P2保有のP3株式の評価を決めずに実行できる唯一の評価方式であ
る類似業種比準方式を用いて評価することが,適切かつ最も問題の少
ない方法であると考えられたからである。
本件申告において原告らが用いた上記のような評価方式は,①最終
的には通達に定める株式保有特定会社の株式の評価方式を用いて本件
各会社株式を評価していること,②一連の評価の過程においては類似
業種比準方式を用いてはいるが,それは相続財産についてではなく,
持合い株式について評価の循環を絶つのに必要な限度で用いるのみで
あること,③P2は,上場企業と変わらない事業実態があり,株式保
有割合も低く,その株式の評価に類似業種比準方式を用いることに本
来問題はないはずであること,④保有する株式の価額に影響されずに
評価する唯一の方式が類似業種比準方式であること,⑤まず,持合い
株式の価額による評価の影響を比較的受けにくい方の会社の株式につ
き,保有する株式の価額に影響されない方式で評価するなど,持合い
株式に関する評価の循環の絶ち方による影響を最小限にすることにも
最大限の配慮を払っているものというべきことに照らせば,評価の循
環をどこかで絶たなければならないという所与の条件の下では極めて
合理的なものであったというべきである。
b被告別表14-3の「本件設例1」においては,A社及びB社の間
に株式の持ち合いはなく,A社株式が2億円,B社株式が2000万
円であるから,A社の純資産額(持ち合い株式は含まれない。)の額
は2億円であり,B社の純資産額(持ち合い株式は含まれない。)の
額は2000万円ということになる。ところが,同「本件設例2」に
おいて調整計算を行わない場合として示されている計算においては,
A社株式の1株当たりの価額は「(200,000,000円+20,000,000円×9
0%)÷100,000株」であり,B社株式の1株当たりの価額は「(20,00
0,000円+200,000,000円×80%)÷2,000株」であるとされているか
ら,A社のB社株式を除いた純資産額は2億円であり,B社のA社株
式を除いた純資産額は2000万円であることが前提とされているよ
うに見受けられるが,A社のB社株式を除いた純資産額が2億円であ
るならA社の純資産額は2億円より高いはずであり,B社株式の1株
当たりの価額の計算においてA社株式分として加算される金額は「20
0,000,000円×80%」より大きいはずであるし,また,B社のA社株
式を除いた純資産額は2000万円であるならB社の純資産額は20
00万円より高いはずであり,A社株式の1株当たりの価額の計算に
おいてB社株式分として加算される金額は「20,000,000円×90%」
より大きいはずである。つまり,被告が「本件設例2」において調整
計算を行わない場合として示している計算の中では,持合株式の評価
において,その持合株式の発行会社が保有する持合株式の存在を完全
に無視しているから,それぞれの株式が過少に評価されるのは当たり
前である。
原告らが主張する前記aの方式においては,本件相続財産中のP2
株式をS1+S2方式により評価する中で,P2保有のP3株式をS
1+S2方式により評価してその価値を反映させており,また,本件
相続財産中のP3株式につきS1+S2方式で評価する中で,P3保
有のP2株式の評価には類似業種比準方式を用いているが,P2株式
の類似業種比準価額は,P2保有のP3株式の価額を含むP2の純資
産価額や,P2がその保有するP3株式につき受ける利益を含むP2
の利益などに基づいて計算されており,P2保有のP3株式の価値が
反映されているのであって,原告らの主張は,被告が「調整計算を行
わない場合」として示しているものとは完全に異なるものである。
(ウ)本件において被告が主張する評価方式は納税者に対して強制されるべ
きものではないこと
a取引相場のない株式の評価方式においては,同じ株式の評価でも
様々な合理的な評価方式が存在する可能性がある。もちろん,課税事
務処理の合理化や公平性の観点から,通達に規定される典型的な場面
における評価方式の統一化という要請はあるものの,通達に少なくと
も直接的には規定されていないような非典型的な場面における評価方
式については,これを税務当局の考えに基づき統一化しようとするこ
とは,税務当局の独断専行というべきものである。相続税につき採ら
れている申告納税方式は,納税者の申告における判断を第一とし,そ
れに誤りがある場合にのみ税務当局が更正をすることにより税額を確
定させていく課税方式であり,納税者の申告における判断が特に「誤
り」に該当しないのに,税務当局の判断で納税者の申告における判断
を覆すのは,申告納税方式の基本的な考え方に反する。相続税のよう
な申告納税方式が採られている税に関しては,通達に直接的な定めが
ない評価に関する問題については,納税者が申告において採用した方
式が合理的である限り,更正の対象とすべきではない。
b株式を持ち合う関係にある2つの株式保有特定会社の一方が大会社
である場合においては,本件において被告が適用を主張する連立方程
式を用いた評価方式は,納税者が申告において採用した合理的な評価
方式を排除してまで適用を強制されるべきものではない。通達に直接
的に定められている評価方式であれば,合理性がある限りは,他にも
合理的な方法があり得る場合であっても,通達に定める方式で統一す
ることも正当化されるかもしれないが,被告が主張する評価方式は,
公刊物でない文献(乙8)や,公刊物でも単に筆者の「個人的見解」
を示しただけの文献(乙9,10)において示されているものにすぎ
ず,そのような評価方式が他の合理的な評価方式を排除すると解する
のは不当であり,そのような理解は,納税義務の発生についての予測
可能性の確保という意味での租税法律主義に反する。
しかも,これらの文献の事例では,株式の持ち合いをしている会社
がいずれも中会社ないしは小会社であって,評価会社が保有する株式
の評価に直ちに左右されずに評価会社の株式の評価を決める方法とし
て根拠ある評価方式がないため,通達所定の評価方式の欠如という問
題の解決を図って連立方程式に基づく数式を編み出しているものと考
えられる。これに対し,本件のように株式を持ち合う関係にある2つ
の株式保有特定会社の一方が大会社である場合には,前記(イ)のとお
り,原則的評価方式である類似業種比準方式は,評価会社の保有株の
評価に直ちに左右されないため,まず出発点としてその大会社の株式
でもう一方の会社に保有されるものを類似業種比準方式で評価し,そ
れを基に当該もう一方の会社を純資産価額方式ないしS1+S2方式
で評価した上で,出発点において類似業種比準方式で評価した大会社
の株式も純資産価額方式ないしS1+S2方式で評価するという合理
的な方法があるので,連立方程式に基づく数式を用いなくとも,合理
的な評価計算を行うことが可能であり,状況が異なる。
c被告が主張する評価方式は,相続財産である個人保有の株式保有特
定会社A社の株式と株式保有特定会社B社の保有するA社の株式とは,
その評価において必ず合致しなければならないとの考え方を前提とし
たものであると思われる。
しかし,上記のような前提を採ることが相当であるとは考えられ
ない。確かに,同じA社の株式であれば誰が保有しているもので
あろうとも同じ価額を有していると考える方が妥当なようにも見
えるが,評価の目的により同じものの評価額が異なるのは,例え
ば相続税の計算目的での評価と遺産分割目的での評価とが異なる
ことが通常であるのと同様に,不合理なことではない。まず評価
の循環を絶つ目的でP3保有のP2株式を類似業種比準方式によ
り評価することは前記(イ)のとおり十分合理性を有するのであり,
その結果として,P3株式をS1+S2方式で評価するための前
提としてのみされるP3保有のP2株式の評価と,本件相続財産
自体の評価としてされるP2株式の評価とが異なることとなって
も不都合はなく,むしろ通達に定めのない数式などを用いずに評
価を行う上では必要なことである。
イ被告の主張の要点
(ア)被告が主張する評価方式の合理性
別紙2「本件各処分の根拠等に関する被告の主張」第3の1及び前記
(2)イにおいて述べたとおり,①本件各会社は,いずれも株式保有特定
会社に当たるから,本件各会社株式の価額は,いずれも評価通達189
-3の定める方式により評価すべきであるところ,②本件各会社株式に
ついては,いずれもS1+S2方式による評価額が純資産価額方式によ
る評価額よりも低い価額が算定されることから,本件各会社株式につい
ては,いずれもS1+S2方式により評価するのが相当である。
本件各会社のように相互に株式を持ち合っている「株式保有特定会
社」の場合は,それぞれのS2の金額の計算上,所有する他方の会社の
株式の価額を算入する必要があり,一見,相互の株式の価額が計算上循
環し,その価額を確定することができないかのように見える。しかしな
がら,相互に株式を持ち合っている株式保有特定会社の貸借対照表の関
係を図示すれば,被告別表14-1上段の概要図のとおりであり,これ
らの関係を数式化すれば,同表下段のとおりとなって,両社の1株当た
りの純資産価額(相続税評価額)の計算上算入される持ち合い株式の各
価額は,所与の数値を基にこの数式を用いて求めることができる。この
方法によれば,一方の会社の株式についてS1+S2方式によって得ら
れた1株当たりの価額(ただし,S2の金額の計算上,法人税額等相当
額を控除しないもの)が他方の会社の純資産価額(相続税評価額)に算
入される当該株式の1株当たりの価額と一致し,相互に矛盾のない株式
の価額を合理的に算出することができる。つまり,相互に株式を持ち合
う「株式保有特定会社」の株式の適正な時価を求めるに当たっては,か
かる計算方法によることが最も適切といえる。
そして,相互に株式を持ち合っている会社の株式の関係を数式化して
価額を求める被告主張の数式は,「資産税関係質疑応答事例集(平成1
3年3月)」(乙8)に登載されているところであり,これはすべての
税務署の窓口に設置され,納税者において自由に閲覧できるようになっ
ている。また,当該数式は,実務家向けの複数の公刊物にも記載され
(乙9,10。乙9の税務相談事例集については,平成元年版から,そ
の考え方が登載されている〔乙17〕。),さらには,相互に株式を持
ち合ったいずれもの会社がいずれも株式保有特定会社に該当する場合の
評価についても,一部の公刊物(乙18,19)に示されている。これ
らのことからすれば,原告らは,本件各会社株式の評価額を算定するに
当たり,被告主張の方式により株式の評価額を算定しなければならない
ことを容易に認識できたものと考えられる。加えて,評価通達1の(3)
は,「財産の評価に当たっては,その財産の価額に影響を及ぼすべきす
べての事情を考慮する。」と定めているところ,このような株式の持ち
合いが行われているという事情は,財産の価額に影響を及ぼす事情であ
ることは明らかである。以上のとおり,本件は,原告らが「納税義務の
発生についての予測可能性の確保という意味での租税法律主義に反す
る」として,殊更に租税法律主義を問題とすべきような場面ではない。
(イ)被告が主張する評価方式を採らない場合の不合理性
前記(ア)において述べたところを,被告別表14-3「設例を用いた
計算の検証」において検証すると,以下のとおり,相互に株式を持ち合
っている場合の株式の評価額の算定においては,被告が主張する評価方
式を用いることによってこそ適正な株価を算定することができるのであ
って,これを用いない場合には,著しく不合理な株価が算定されること
となる。
a被告別表14-3の本件設例1に記載したとおり,A社及びB社が
株式の持合いをしていない場合,甲の保有する資産は,A社株式2億
円とB社株式2000万円との合計金額である2億2000万円と算
定することができる。他方,同別表の本件設例2に記載したとおり,
本件設例1と同様の資産状況でありながら,A社及びB社が相互に高
い割合で株式の持合いをしていた場合,本件設例2の2(1)に記載の
とおり,調整計算を行わずに,単純に他の一方を純資産価額に加算す
ると,実質的には,甲がその企業価値2億2000万円のすべてを保
有・支配(仮に,A社及びB社を解散又は清算した場合の財産は,株
式を保有している甲株主にすべて帰属することとなる。)しているに
もかかわらず,甲が保有する各株式の評価額は,A社株式が4360
万円,B社株式が1800万円で,その合計金額は6160万円とな
り,甲がA社株式及びB社株式を直接保有する場合の2億2000万
円と比し,著しく低い価額で評価されることとなる。このように,単
純に他の一方を加算しただけでは,法人間で相互に保有している価値
が最終的に個人に帰属する株式の価値に適正に反映されず,著しく不
合理な株価が算定される結果となる。
b被告別表14-3の本件設例2の2(2)に記載したとおり,A社及
びB社が相互に保有する株価の算定において被告が主張する調整計算
を行ったところ,同ア及びイに記載のとおり,甲が保有する各株式の
評価額は,A社株式が1億5570万円,B社株式が6428万56
00円で,その合計金額は2億1998万5600円となり,これは,
甲がA社株式及びB社株式を直接保有する場合の2億2000万円と
ほぼ同額である。したがって,被告主張の調整計算を行うことにより,
甲がA社及びB社の各株式を保有し,両社を支配している場合の企業
価値(2億2000万円)を,同人が保有する各株式(A社株式2万
株及びB社株式2000株)の価額に適正に反映させることができる。
c前記a及びbのとおり,いずれも株式保有特定会社であるA社及び
B社が株式を相互に持ち合っている場合において適正な株価を算定す
るには,被告が主張する連立方程式を用いた方式を行うことは必須で
あり,特に,その相互に持ち合う株式の割合が高いときには,この方
式を用いなければ,看過できないほどに不合理な株価が算定されるこ
ととなる。本件においては,本件各会社が株式保有特定会社に該当し,
両社の株式を純資産価額方式若しくは「S1+S2」方式で評価する
ことになるから,株式の評価額が相互に連鎖することとなり(被告別
表14-1参照),必然的に,被告が主張する連立方程式による調整
計算によらなければ,本件各会社株式の評価額,すなわち企業価値が
正しく算定されないものであって,原告らが主張する評価方式では,
そもそも適正な株価を算定できないことが明らかである。
なお,前記a及びbのような被告の主張は,相互に株価が連鎖する
ことの調整を行わなければ正しい企業価値が算定できないことを明ら
かにするために,分かりやすい簡単な数字を当てはめて示したもので
あって,これを論難する原告らの主張は,被告の主張を曲解するもの
である。
(4)原告らにつき通則法65条4項に規定する正当な理由が認められるか否か
(争点4)
ア原告らの主張の要点
通則法65条4項は,過少申告であったことについて正当な理由がある
と認められる場合には過少申告加算税を課さない旨を規定しているところ,
ここに「正当な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の責めに
帰することのできない客観的な事情があり,当初から適法に申告し納税し
た納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに,過少申告
による納税義務違反の発生を防止し,適正な申告納税の実現を図り,もっ
て納税の実を挙げようとするという過少申告加算税の趣旨に照らしても,
なお,納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合と
解されている(最高裁平成16年(行ヒ)第86号,第87号同18年4
月25日第三小法廷判決・民集60巻4号1728頁参照)。
仮に,前記(3)イにおいて被告が主張する評価方法が,本件各会社株式
を評価するに当たって用いられるべき方法であると最終的に判断されるこ
とがあったとしても,株式保有特定会社2社が株式を持ち合っている場合
にそれらの株式をいかに評価すべきかについては,法令・通達の定め等が
あるわけではないのであって,前記(3)ア(イ)aに述べたとおり合理性を有
する評価方法を用いて申告を行った原告らを責めて過少申告加算税まで課
するというのは,明らかに納税者である原告らに酷であるし,それは客観
的に納税者に入手可能であって,かつ,申告の際に納税者が依拠できる評
価方法についての指針が欠如していたという,納税者の責めに帰すること
のできない客観的事情に基づくものである。したがって,本件では,前記
(3)ア(イ)aにおいて述べた評価方法を用いて本件申告を行ったことにつき
正当な理由があり,原告らに対して本件各賦課決定処分をし,過少申告加
算税を課することは,通則法65条4項に反するというべきである。
イ被告の主張の要点
前記(3)イにおいて述べたとおり,連立方程式による調整計算を行わな
い方法では,そもそも適正な株価を算定できないことは明らかであり,原
告らが本件申告において採用した本件各会社株式の評価方法は,合理的な
ものではないから,原告らが申告で用いた本件各会社株式の評価方法が合
理性を有することを前提として,本件各賦課決定処分が原告らに酷である
との原告らの主張は,その前提から理由がない。また,「客観的に納税者
に入手可能であって,かつ,申告の際に納税者が依拠できる評価方法につ
いての指針が欠如していた」との原告らの主張に理由がないことも,前記
(3)イ(ア)において述べたところに照らして明らかである。以上からすれば,
本件申告において原告らが前記(3)ア(イ)のような評価方法を採用したこと
について,通則法65条4項所定の正当な理由は認められない。
第3当裁判所の判断
1P2が株式保有特定会社(評価通達189の(2))に該当するか否か(争点
2)について
(1)相続財産の価額の評価に関する基本的な考え方について
ア相続税法22条は,相続により取得した財産の価額につき,同法第3章
において特別の定めがあるものを除き,当該財産の取得の時における時価
によるべき旨を定めているところ,ここにいう時価とは,当該財産の客観
的な交換価値をいうものと解される。
イところで,相続税に係る課税実務においては,評価通達において相続財
産の価額の評価に関する一般的基準を定め,画一的な評価方式によって相
続財産の価額を評価することとされている。このような方法が採られてい
るのは,相続税の課税対象である財産には多種多様なものがあり,その客
観的な交換価値が必ずしも一義的に確定されるものではないため,相続財
産の客観的な交換価格(時価)を上記のような画一的な評価方式によるこ
となく個別事案ごとに評価することにすると,その評価方式,基礎資料の
選択の仕方等により異なった金額が相続財産の「時価」として導かれる結
果が生ずることを避け難く,また,課税庁の事務負担が過重なものとなり,
課税事務の効率的な処理が困難となるおそれもあることから,相続財産の
価額をあらかじめ定められた評価方式によって画一的に評価することとす
るのが相当であるとの理由に基づくものと解される。
ウそして,評価通達に定められた評価方式が当該財産の取得の時における
時価を算定するための手法として合理的なものであると認められる場合に
おいては,①前記イのような相続税に係る課税実務は,納税者間の公平,
納税者の便宜,効率的な徴税といった租税法律関係の確定に際して求めら
れる種々の要請を満たし,国民の納税義務の適正な履行の確保(通則法1
条,相続税法1条参照)に資するものとして,同法22条の規定の許容す
るところであると解され,②また,取引相場のない株式については,反復
継続的に取引がされず,客観的な市場価額が形成されることがないことか
ら,合理的と考えられる評価方式によって時価を評価するほかないものと
いうべきところ,上記①において指摘した観点に照らせば,同通達の定め
る評価方式によって算定された金額をもってその「時価」であるものと評
価することもまた,同条の規定の許容するところであると解される。
さらに,上記の場合においては,同通達の定める評価方式が形式的に全
ての納税者に係る相続財産の価額の評価において用いられることによって,
基本的には租税負担の実質的な公平を実現することができるものと解され
るのであって,同条の規定もいわゆる租税法の基本原則の1つである租税
平等主義を当然の前提としているものと考えられることに照らせば,特段
の事情があるとき(同通達6参照)を除き,特定の納税者あるいは特定の
相続財産についてのみ同通達の定める評価方式以外の評価方式によってそ
の価額を評価することは,たとえその評価方式によって算定された金額が
それ自体では同条の定める時価として許容範囲内にあるといい得るもので
あったとしても,租税平等主義に反するものとして許されないものという
べきである。
エなお,これまで述べたところからすれば,評価通達に定められた評価方
式が当該財産の取得の時における時価を算定するための手法として合理的
なものであることについては,被告側においてこれを立証すべきものとい
うべきである。
(2)評価通達189の(2)の定めのうち,大会社につき株式保有割合が25%
以上である評価会社を一律に株式保有特定会社としてその株式の価額を同通
達189-3の定めにより評価すべきものとする部分に合理性が認められる
か否かについて
ア評価通達に株式保有特定会社の株式の価額につき特別な評価方式によっ
て評価すべきものとする旨の定めが置かれた経緯等
(ア)評価通達は,評価会社をその事業規模に応じて大会社,中会社及び小
会社に区分し(同通達178),それぞれの区分に属する評価会社の株
式の価額の評価において用いるべき原則的評価方式を定めている(同通
達179。類似業種比準方式は,大会社の株式の価額の評価において用
いるべき評価方式とされているが〔同項の(1)〕,中会社及び小会社の
株式の価額の評価においても,同方式による評価額が考慮され得るもの
とされている〔同項の(2)及び(3)〕。)。
(イ)しかし,評価会社の中には,会社の資産構成が類似業種比準方式にお
ける標本会社に比して著しく株式等に偏っているものが見受けられる。
このような評価会社の株式の価額は,その有する株式等の価値に依存す
る割合が高いものと考えられるため,上記のような原則的評価方式によ
っては適正な株式の価額の評価を行い難く,原則的評価方式による評価
額と適正な時価との間に開差が生ずることとなり,このような開差がこ
れを利用したいわゆる租税回避行為の原因ともなっていたため,課税の
公平の観点から,そのような開差の是正及び株式の価額の評価の一層の
適正化を図ることを目的として,評価通達の平成2年改正により,株式
保有特定会社の株式の価額につき,いわゆる純資産価額方式又はS1+
S2方式という原則的評価方式とは異なる特別な評価方式によって評価
すべき旨の定めが置かれるに至ったものである(現行の同通達189の
(2)及び189-3参照。乙4,11,弁論の全趣旨)。
イ前記アのような評価通達の枠組みの合理性について
(ア)まず,前記ア(ア)のような評価通達における原則的評価方式の定めに
関しては,取引相場のない株式の価額の評価について,取引相場のない
株式の発行会社である評価会社にはその規模が上場会社に匹敵するもの
から個人企業と変わらないものまで千差万別のものがあることを踏まえ,
前記(1)イにおいて述べた種々の要請に応えつつ合理的かつ実態に即し
た株式の価額の評価を行うための評価方式として,合理的なものである
と認められる。
(イ)次に,株式保有特定会社の株式の価額の評価に関する評価通達の定め
(ただし,株式保有特定会社に該当するか否かの基準の合理性について
は,後記ウにおいて別途検討する。)に関しても,資産構成が類似業種
比準方式における標本会社に比して著しく株式等に偏っている評価会社
の株式の価額の評価について,評価通達の平成2年改正の理由として述
べられているとおり(前記ア(イ)),このような評価会社の株式の価額
はその有する株式等の価値に依存する割合が一般に高いものと考えられ
ることを考慮した上で,①当該会社の有する資産の価値を的確に反映し
得る評価方式である純資産価額方式又は②株式保有特定会社の事業の実
態を株式の価額の評価に反映させるために部分的に類似業種比準方式を
取り入れた評価方式であるS1+S2方式によるべきこととしたもので
あって,これらは,前記(1)イにおいて述べた種々の要請に応えつつ合
理的かつ実態に即した評価を行うための株式の価額の評価方式として合
理的なものであると認められる。
ウ評価通達189の(2)の定めのうち,大会社につき株式保有割合が25%
以上である評価会社を一律に株式保有特定会社としてその株式の価額を同通
達189-3の定めにより評価すべきものとする部分の合理性について
(ア)この点,被告は,評価通達189の(2)の定めのうち,大会社につき株
式保有割合が25%以上である評価会社を一律に株式保有特定会社として
その株式の価額を同通達189-3の定めにより評価すべきものとする部
分の合理性につき,①法人企業統計等では,資本金10億円以上の会社の
株式保有割合は7.8%とされているところ,相続税評価額ベースに直す
とこの数値を若干下回ると考えられ,25%という数値は一般会社の3,
4倍(あるいは,平均的な株式保有割合の倍くらい)となるから,評価通
達においては,大会社につき株式保有割合25%を株式保有特定会社に該
当するか否かの基準としたなどとする評価通達の平成2年改正の立案担当
者の発言(甲5,乙11)を引用した上で,②法人企業統計(乙12の
1・2)において,資本金10億円以上の金融業及び保険業を除く全ての
業種の営利法人全数につき,固定資産の「投資有価証券」のみが総資産に
占める割合(株式保有割合)は,平成元年度が7.38%,平成2年度が
7.88%とされており,上記①の説明と整合していること,③本件相続
の開始の日を含む平成15年度の法人企業統計(乙13)における上記②
と同様の範囲の営利法人全数についての株式保有割合は16.31%とさ
れているところ,この数値は,評価通達189の(2)に定める大会社につ
いての25%の基準に比してなお低い水準であり,また,法人企業統計に
おける資産価額が簿価に基づき計算されているものとしても,全ての法人
につき,簿価により算出された株式保有割合が相続税評価額により算出さ
れたそれよりも割合が低くなるとは限らず,平成15年度において,法人
企業統計の対象法人の株式保有割合を時価に基づいて計算した場合の平均
値が25%以上となっているとはいえないことからすれば,評価通達18
9の(2)に定める大会社についての25%の基準が不合理であるとはいえ
ないなどと主張する。
(イ)aしかし,被告も自認するとおり,法人企業統計における営利法人の資
産の価額は,簿価に基づき算定されているものであるのに対し,評価通
達における株式保有割合の計算は,課税時期において評価会社の有する
各資産を同通達に定めるところにより評価した価額,すなわち時価に基
づいてすべきものとされている(同通達189の(2))ことからすれば,
被告主張の法人企業統計を基に算定された株式保有割合をもって,上記
統計の調査期間における評価通達に定める方法により算定した大会社の
株式保有割合の実態と常に一致するものと断ずることはできないものと
いうべきである。
bもっとも,法人企業統計を基に算定された資本金10億円以上の金融
業及び保険業を除く全ての業種の営利法人の株式保有割合の数値が,平
成元年度においては7.38%,平成2年度においては7.88%と,
同通達189の(2)において大会社が株式保有特定会社に該当するか否
かの基準とされている25%と比して一見して格段に低いものとなって
いたこと(乙12の1・2)からすれば,評価通達の平成2年改正がさ
れた当時においては,前記aにおいて指摘した点を考慮してもなお,評
価通達に定めるところにより算定した株式保有割合が25%以上である
大会社につき,一律に,資産構成が類似業種比準方式における標本会社
に比して著しく株式等に偏っているものとして株式保有特定会社に該当
するものと扱うことには,前記(1)イにおいて述べた観点に照らし,合
理性があったものというべきである。
しかし,①評価通達の平成2年改正がされた後,平成9年の独占禁止
法の改正によって従来は全面的に禁止されていた持株会社が一部容認さ
れることとなり(同法9条4項1号参照),これを契機として,商法等
において,持株会社や完全親子会社を創設するための株式交換等の制度
の創設,会社の合併に関する制度の合理化,会社分割制度の創設といっ
た企業の組織再編に必要な規定の整備が進められるなど,本件相続の開
始時においては,評価通達の平成2年改正がされた当時と比して,会社
の株式保有に関する状況は大きく変化したものというべきところ,②本
件相続の開始時を調査期間に含む平成15年度の法人企業統計を基に算
定された資本金10億円以上の金融業及び保険業を除く全ての業種の営
利法人の株式保有割合の数値は16.31%であり(乙13),平成元
年度及び平成2年度のそれのように同通達189の(2)において大会社
が株式保有特定会社に該当するか否かの基準とされている25%と比し
て,一見して「格段に低い」ものとまでは評価し難いこと,③本件全証
拠によっても,本件相続の開始時において上記②の営利法人につき時価
(相続税評価額)に基づいて株式保有割合を算定した場合の数値が,お
しなべて平成15年度の法人企業統計を基に算定された上記②の株式保
有割合の数値(16.31%)よりも大幅に低くなるものと推認すべき
ような証拠ないし事情は見当たらないこと,④法令上,子会社の株式の
取得価額(最終の貸借対照表において別に付した価額があるときはその
価額)の合計額の当該会社の総資産の額に対する割合が100分の50
を超える会社が持株会社とされ,特別な規制がされていること(独占禁
止法9条4項1号〔本件相続開始時の同条5項1号〕)などに鑑みれば,
前記(1)イにおいて述べた観点を考慮しても,少なくとも本件相続の開
始時においては,評価通達に定めるところにより算定した株式保有割合
が25%以上である大会社の全てについて,一律に,資産構成が類似業
種比準方式における標本会社に比して著しく株式等に偏っており,その
株式の価額の評価において類似業種比準方式を用いるべき前提を欠くも
のと評価すべきとまでは断じ難いものというべきである。そうすると,
少なくとも本件相続の開始時を基準とすると,評価通達189の(2)の
定めのうち,大会社につき株式保有割合が25%以上である評価会社を
一律に株式保有特定会社としてその株式の価額を同通達189-3の定
めにより評価すべきものとする部分については,いまだその合理性は十
分に立証されているものとは認めるに足りないものといわざるを得ない。
(3)P2が株式保有特定会社に該当するか否かについて
アこれまで述べたとおり,①資産構成が類似業種比準方式における標本会
社に比して著しく株式等に偏っている会社を株式保有特定会社とし,その
発行に係る取引相場のない株式の価額の評価において純資産価額方式又は
S1+S2方式という特別な評価方式を用いること自体には合理性が認め
られるものというべきであるが,②少なくとも本件相続の開始時において
は,評価通達に定めるところにより算定した株式保有割合が25%以上で
ある大会社を一律に株式保有特定会社としてその株式の価額を同通達18
9-3の定めにより評価すべきものとすることの合理性を認めるに足りな
いものというべきことからすれば,本件相続の開始時において大会社に該
当するP2が株式保有特定会社に該当するか否かについては,株式保有割
合に加えて,その企業としての規模や事業の実態等を総合考慮して判断す
るほかないものというべきである。
イP2は,昭和23年に設立された資本金の額が4億3200万円の株式
会社であり,本件相続の開始の日の直前期末である平成15年5月31日
の時点における総資産価額(帳簿価格)は2120億7568万0565
円,従業員数は5291名であり,当該直前期末以前1年間である平成1
4年6月1日から平成15年5月31日までの事業年度における同社の取
引金額は1882億0001万0637円であって,東京都江東区内に所
在する本店の外に全国各地に工場ないし研究施設を有し,合成樹脂容器の
製造販売においては我が国においてトップシェアを有している会社である
(前提事実,甲33,乙6,弁論の全趣旨)。また,P2株式の時価総額
を,類似業種比準価額の計算において用いられる標本会社である上場企業
の平成16年3月31日時点における株式の時価総額と比較すると,本件
裁決において認定されたP2株式の価額及び本件申告に係るP2株式の価
額のいずれを用いた場合においても,P2株式の時価総額は,上記標本会
社たる上場企業の株式の時価総額の大部分を上回っている(甲6)。これ
らの点からすれば,P2の企業としての規模や事業の実態等は,上場企業
に匹敵するものであったものというべきである。
また,被告の主張によってもP2の株式保有割合は約25.9%にとど
まるところ,大会社における独占禁止法上の規制の変更等に伴う株式保有
割合の前記(2)ウ(イ)bに述べたような動向や,上記のようなP2の企業と
しての規模や事業の実態等にも照らせば,本件相続の開始時において,P
3がその発行済株式総数の約74.7%を有していたことを考慮しても,
P2株式の価額の評価に関しては,原則的評価方式による評価額と適正な
時価との間の開差を利用したいわゆる租税回避行為の弊害を危ぐしなけれ
ばならないものとはいい難いものというべきである(なお,被告において
も,本件に関しては,その準備書面(5)2頁において述べるとおり,本件
各会社が株式を持ち合っている状況につき,租税回避行為であるなどの主
張はしていないところである。)。
以上述べたところを勘案すると,本件相続の開始時のP2については,
その株式の価額の評価において類似業種比準方式を用いるべき前提を欠く
株式保有特定会社に該当するものとは認めるに足りないものというべきで
ある。
2本件相続開始時に本件各会社が有していた資産(本件各会社株式を除く。)
の価額に係る評価額(争点1)並びに本件各会社株式の「時価」(相続税法2
2条)の評価方式及びその金額(争点3)について
(1)P2株式について
P2は,大会社に該当する一方(前提事実),前記1のとおり,現行の評
価通達189の(2)の定めるところに従って株式保有特定会社に該当するも
のとしてその株式の価額を同通達189-3の定めにより評価することは相
当とは認められないから,P2株式の価額については,原則的評価方式であ
る類似業種比準方式によって評価するのが相当というべきである(したがっ
て,P2に関しては,争点1につき判断する必要がないことになる。また,
P2が評価通達189の(2)の株式保有特定会社に該当するものとの前提を
とらない以上,本件各会社がいずれも株式保有特定会社に該当する場合にお
いて問題となる争点3についても判断する必要がないことになる。)。
そうすると,本件相続の開始時におけるP2株式の「時価」(相続税法2
2条)は,1株当たり4653円ということになる(前提事実)。
(2)P3株式について
ア本件相続開始時におけるP3の資産の価額及び負債に係る評価額につい

(ア)本件相続の開始時におけるP3の資産の価額及び負債のうち,P2株
式及びP7社の株式の価額以外のものに係る評価額については,当事者
間に争いがない。
(イ)前記(1)のとおり,本件相続の開始時におけるP2株式の価額に係る
評価額は1株当たり4653円であるから,P3の有するP2株式64
5万3400株(前提事実)の価額に係る評価額は,4653円×64
5万3400株=300億2767万0200円となる。
(ウ)P7社の株式については,①1米ドル当たり108.57円として,
同社の有する資産の価額及び負債につきその金額の邦貨としての計算を
すべきこと,②同社のP8社に対する255万2263.50米ドルの
債権の価額については,同社の再生計画において切り捨てられる金額及
び課税時期後5年を経過した日より後に弁済されることとなる部分の金
額の合計額である210万6522.12米ドルを除いた金額と評価す
べきことは,当事者間に争いがなく(なお,この債権の価額に算入しな
い金額の邦貨への換算については,210万6522.12米ドル×1
08.57円≒2億2870万5106円〔円未満切捨て。被告主張
額〕とするのが相当である。),弁論の全趣旨によれば,P7社の株式
の価額については,被告別表22の第3表「4.株式及び株式に関する
権利の価額」欄内の「株式の評価額」欄に記載されているとおり,1株
当たり286万6614円と評価するのが相当である。
そうすると,P3の有するP7社の株式40株(当事者間に争いがな
い。)の価額に係る評価額は,286万6614円×40株=1億14
66万4560円となる。
(エ)以上述べたところからすれば,本件相続の開始時におけるP3の資産
の価額及び負債に係る評価額は,被告別表9の「資産の部」欄及び「負
債の部」欄の各「相続税評価額」欄に記載されているとおりとなる。
イP3株式の「時価」(相続税法22条)の評価方式及びその金額につい

(ア)P3は中会社に該当するものであるところ(前提事実),前記アにお
いて述べたところからすれば,同社の有する資産の価額(相続税評価
額)の合計額は665億3772万7000円であり,その有する株式
等の価額の合計額は604億0447万0000円であって,その株式
保有割合は約90.8%ということになるから,同社が評価通達189
の(2)にいう株式保有特定会社に該当することは明らかというべきであ
る(なお,本件においては,原告らも,同社が株式保有特定会社に該当
することを自認している。)。
(イ)前記(ア)からすれば,P3株式の価額については,評価通達189-
3の定めによって評価するのが相当である。
そして,①前記アにおいて述べたP3の資産の価額及び負債に係る評
価額を前提とすれば,P3株式の1株当たりの純資産価額(相続税評価
額)は3万2212円(被告別表9の⑪の金額)となる。②また,弁論
の全趣旨に照らせば,P3株式の1株当たりの類似業種比準価額は60
6円(被告別表10の○29の金額)となるから,S1+S2方式によった
場合におけるP3株式の価額に係る評価額は,被告別表11及び12の
とおり,1株当たり3万1189円となる。以上からすれば,本件相続
に係る原告らの各相続税の課税価格等の計算においては,P3株式の価
額につき,より低額な評価額である上記②(1株当たり3万1189
円)をもってその「時価」(相続税法22条)であるものと認めるのが
相当である。
3本件相続に係る原告らの各相続税の課税価格及び納付すべき税額について
前提事実並びに前記1及び2で述べたところに加えて,本件全証拠及び弁論
の全趣旨を勘案すると,本件相続に係る原告らの各相続税の課税価格及び納付
すべき税額は,以下のとおりであるものと認められる。
(1)課税価格の合計額(別紙4順号5「課税価格(3+4)」欄のうち「合
計」欄の金額)
上記金額は,本件相続人らに係る相続税の各課税価格の合計額であり,そ
れぞれ次のアの本件相続により取得した財産の価額の合計額から,同人らが
承継又は負担をする次のイの債務等の金額を控除し,さらに,相続税法19
条の規定により課税価格に加算する次のウの贈与により取得した財産の価額
を加算した金額につき,通則法118条1項の規定により1000円未満の
端数を切り捨てた後の以下の各金額(別紙4順号5「課税価格(3+4)」
欄のうち「取得者」欄の各金額)を合計した金額である。
原告P1118億7747万3000円
原告P1219億0997万3000円
原告P1319億0997万3000円
原告P1419億0997万3000円
原告P1519億0769万3000円
他の相続人38億1994万6000円
ア取得財産の価額(別紙4順号1「取得財産の価額」欄のうち「取得者」
欄の各金額)
原告P1118億6046万5010円
原告P1219億0430万2010円
原告P1318億8836万7010円
原告P1419億0430万2010円
原告P1518億8608万7010円
他の相続人38億0860万4021円
上記の各金額は,①相続税法55条の規定に基づき,課税価格の計算上,
本件相続人ら各人が本件相続により取得したものとして計算するいわゆる
未分割財産の各価額に,②同法3条の規定に基づき本件相続人らが本件相
続により取得したものとみなす財産の各価額(次の(イ)の金額)をそれぞ
れ加算した金額である。
なお,同法55条は,相続により取得した財産の全部又は一部が共同相
続人によってまだ分割されていないときは,その分割されていない財産に
ついては,各共同相続人が原則として民法(同法904条の2を除く。)
の規定による相続分の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課
税価格を計算する旨規定しているところ,ここにいう民法(同法904条
の2を除く。)の規定による相続分とは,同法900条から903条まで
に規定する相続分をいうものと解するのが相当である(基本通達55-1
〔乙2〕参照)。そうすると,次の(ア)の未分割の本件相続財産(積極財
産)の価額の合計額に本件相続人ら各人が取得した民法903条に規定す
る特別受益の価額(別紙6順号1「特別受益の価額」欄のうち「合計」欄
の金額)を加算したものを本件相続に係る相続財産とみなし,これにつき
同法900条4号に規定する本件相続人らの相続分の割合に応じたそれぞ
れの価額(同表順号5「本来的相続分額(3×4)」欄のうち「取得者」
欄の各金額)から,各人の特別受益の価額〔同表順号1「特別受益の価
額」欄のうち「取得者」欄の各金額〕を控除した金額(同表順号6「具体
的相続分額(5-1)」欄のうち「取得者」欄の各金額)をもって,本件
相続人ら各人が取得する上記①の未分割財産の価額とするのが相当である。
(ア)未分割の本件相続財産(積極財産)の価額の合計額
111億8712万7071円
上記金額は,次のaないしeの各財産の価額に係る評価額の合計額で
ある(別紙7の順号6「評価額(円)」欄)。
aP2株式30億0769万9200円
前記2(1)において述べたとおり,本件相続の開始時におけるP2
株式の「時価」(相続税法22条)は,1株当たり4653円である
ものと認められるから,本件相続財産中のP2株式64万6400株
の価額に係る評価額は,4653円×64万6400株=30億07
69万9200円となる(別紙7の順号1「評価額(円)」欄)。
bP3株式55億5787万9800円
前記2(2)イ(イ)において述べたとおり,本件相続の開始時における
P3株式の「時価」(相続税法22条)は,1株当たり3万1189
円であるものと認められるから,本件相続財産中のP3株式17万8
200株の価額に係る評価額は,3万1189円×17万8200株
=55億5787万9800円となる(別紙7の順号2「評価額
(円)」欄)。
cP16株式3388万4400

上記金額は,本件訴えにおいて原告らが主張するP16株式の1株
当たりの価額に係る評価額9966円に本件相続財産中のP16株式
の株数3400株を乗じた金額である(別紙7の順号3「評価額
(円)」欄)。
dP17株式2億3418万4728

上記金額は,本件訴えにおいて原告らが主張するP17株式の1株
当たりの価額に係る評価額616万2756円に本件相続財産中のP
17株式の株数38株を乗じた金額である(別紙7の順号4「評価額
(円)」欄)。
eその他の財産23億5347万8943円
上記金額は,本件相続財産のうちP2株式,P3株式,P16株式
及びP17株式を除くその余の財産の価額に係る評価額の合計額であ
る(別紙7の順号5「評価額(円)」欄)。
(イ)みなし相続財産の価額の合計額(別紙6順号7「みなし相続財産の価
額」欄のうち「合計」欄の金額)20億6500万0000円
上記金額は,相続税法3条1項2号の規定により,本件相続人らが本
件相続により取得したものとみなす亡P1の死亡により支給が確定した
退職手当金につき,同法12条1項6号に基づき計算した非課税限度額
を超える部分の金額であり,本件相続人らが平成16年12月27日に
江東東税務署長に提出した本件申告書(乙3)第10表「退職手当金な
どの明細書」記載の金額と同額である。
なお,本件相続人ら各人につきその本件相続により取得した財産の価
額に加算する各金額(別紙6順号7「みなし相続財産の価額」欄のうち
「取得者」欄の各金額)については,上記非課税限度額を超える部分の
金額を本件相続人ら各人が均等に取得したものとして計算するのが相当
である(基本通達3-25の(2)ハ(注)。乙2)。
イ債務等の金額(別紙4順号2「債務等の金額」欄のうち「取得者」欄の
各金額)
原告P11449万3169円
原告P12449万3169円
原告P13449万3169円
原告P14449万3169円
原告P15449万3169円
他の相続人898万6338円
上記の各金額は,本件相続人らが承継又は負担をする亡P1の債務及び
葬式費用の金額であり,本件申告書記載の本件相続人ら各人の「債務及び
葬式費用の金額」(乙3・第1表及び同表(続)③各欄並びに第13表⑦
各欄の金額)と同額である。
ウ相続開始前3年以内の贈与に係る加算額(別紙4順号4「法19条によ
る加算額」欄のうち「取得者」欄の各金額)
原告P112150万2000円
原告P121016万5000円
原告P132610万0000円
原告P141016万5000円
原告P152610万0000円
他の相続人2033万0000円
上記の各金額は,相続税法19条1項の規定により本件相続人ら各人の
課税価格に加算する本件相続開始前3年以内に上記各人が亡P1から贈与
を受けた財産の価額であり,本件申告書記載の上記各人の「純資産価額に
加算される暦年課税分の贈与財産価額」(乙3・第1表及び同表(続)⑤
各欄並びに第14表④各欄の金額)と同額である。
(2)納付すべき相続税額
本件相続に係る原告らの納付すべき相続税額は,これまで述べたところを
基にして相続税法15条ないし17条並びに19条1項及び20条の各規定
に従って算定すると,次のとおりとなる。
ア課税遺産総額(別紙5順号4「課税遺産総額(1-3)」欄の金額)
132億1503万1000円
上記金額は,相続税法15条の規定により,前記(1)の課税価格の合計額
から,5000万円と1000万円に本件相続に係る相続人の数である7を
乗じた金額7000万円との合計額1億2000万円(別紙5順号3「遺産
に係る基礎控除額」欄の金額)を控除した金額である。
イ法定相続分に応ずる取得金額(別紙5順号6「法定相続分に応ずる取得
金額」欄のうち「取得者」欄の各金額)
原告P11(法定相続分7分の1)18億8786万1000円
原告P12(法定相続分7分の1)18億8786万1000円
原告P13(法定相続分7分の1)18億8786万1000円
原告P14(法定相続分7分の1)18億8786万1000円
原告P15(法定相続分7分の1)18億8786万1000円
他の相続人(法定相続分7分の1×2)37億7572万2000円
上記の各金額は,相続税法16条の規定により,前記アの課税遺産総額
を本件相続人らが民法900条4号の規定による相続分の割合に応じて取
得したものとした場合におけるその各取得金額であり,基本通達16-3
(乙2)の取扱いにより,各人ごとに1000円未満の端数を切り捨てた
後の金額である。
ウ相続税の総額(別紙4順号6「相続税の総額」欄のうち「合計」欄の金
額及び別紙5順号8「相続税の総額」欄の金額)
62億7851万3500円
上記金額は,前記イの各金額に,それぞれ相続税法16条に規定する税
率を乗じて算出した金額(別紙5順号7「相続税の総額の基となる税額」
欄のうち「取得者」欄の各金額)の合計額である。
エ原告ら各人の算出税額(別紙4順号8「算出税額(6×7)」欄のうち
「取得者」欄の各金額)
原告P118億8396万7917円
原告P128億9926万9845円
原告P138億9926万9845円
原告P148億9926万9845円
原告P158億9819万6356円
上記の各金額は,相続税法17条の規定により,前記ウの金額に,前記
(1)の課税価格の合計額(別紙4順号5「課税価格(3+4)」欄のうち
「合計額」欄の金額)のうちに原告ら各人の課税価格(同別紙順号5「課
税価格(3+4)」欄のうち「取得者」欄の各金額)が占める割合をそれ
ぞれ乗じて算出した金額である。
オ税額控除額(別紙4順号9「税額控除額」欄のうち「取得者」欄の各金
額)
原告P11523万4068円
原告P12125万6400円
原告P13634万9681円
原告P14125万6400円
原告P15634万9148円
上記の各金額は,次の(ア)及び(イ)の各金額を原告ら各人ごとに合計した
金額である。
(ア)贈与税額控除額(別紙4付表順号1「贈与税額控除額」欄のうち「取
得者」欄の各金額)
原告P11480万0900円
原告P1281万3000円
原告P13591万0000円
原告P1481万3000円
原告P15591万0000円
上記の各金額は,相続税法19条1項括弧書の規定により,原告ら各
人の納付すべき相続税額の計算上贈与税の税額として控除する金額であ
り,本件申告書記載の各人の「暦年課税分の贈与税額控除額」(本件申
告書〔乙3〕並びに原告準備書面(7)別紙5及び別紙10における各第
1表及び同表(続)⑫欄の金額)と同額である。
(イ)相次相続控除額(別紙4付表順号2「相次相続控除額」欄のうち「取
得者」欄の各金額)
原告P1143万3168円
原告P1244万3400円
原告P1343万9681円
原告P1444万3400円
原告P1543万9148円
上記の各金額は,平成▲年▲月▲日の亡P18(亡P1の夫)の死亡
によって開始した本件第一次相続により亡P1が取得した財産(その価
額46億5214万6749円)につき課せられた相続税額771万4
000円(原告準備書面(7)別紙5及び同別紙10における各第7表の
⑥欄の金額)に相当する金額について,相続税法20条各号の規定によ
り計算した,原告ら各人の納付すべき相続税額の計算上控除する相次相
続控除の金額である。
カ原告らの納付すべき相続税額(別紙4順号10「納付すべき税額(8-
9)」のうち「取得者」欄の各金額)
原告P118億7873万3800円
原告P128億9801万3400円
原告P138億9292万0100円
原告P148億9801万3400円
原告P158億9184万7200円
上記の各金額は,前記エの原告ら各人の算出税額から,前記オの税額控
除額をそれぞれ控除した金額(ただし,通則法119条1項の規定により
100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
4本件各処分の適法性について
本件相続に係る原告らの納付すべき相続税額は,それぞれ前記3(2)カのと
おりであり,いずれも本件申告において原告らが申告した納付すべき税額(被
告別表1-1ないし1-5の各順号1の各「納付すべき税額」欄記載の金額)
の範囲内であるから,本件各更正処分は,本件申告に係る各納付すべき税額を
超えるその全部が違法なものであるといわざるを得ない。そして,このことを
前提とすると,本件各賦課決定処分もまた,その全部が違法なものであるとい
うことになる。
5結論
以上の次第であって,原告らの請求はいずれも理由があるからこれらを認容
し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官八木一洋
裁判官田中一彦
裁判官塚原洋一
(別紙A)
処分目録
1原告P11関係
(1)被相続人P1(以下「亡P1」という。)の平成▲年▲月▲日相続開始に
係る原告P11の相続税に係る更正処分(ただし,平成19年6月27日付
け異議決定により一部取り消され,かつ,江東東税務署長が平成23年2月
28日付けでした更正処分により減額された後のもの。)のうち納付すべき
税額10億7095万円を超える部分
(2)過少申告加算税賦課決定処分(ただし,平成19年6月27日付け異議決
定により一部取り消され,かつ,江東東税務署長が平成23年2月28日付
けでした賦課決定処分により減額された後のもの。)
2原告P12関係
(1)亡P1の平成▲年▲月▲日相続開始に係る原告P12の相続税に係る更正
処分(ただし,平成19年6月27日付け異議決定により一部取り消され,
かつ,江東東税務署長が平成23年2月28日付けでした更正処分により減
額された後のもの。)のうち納付すべき税額10億6954万8900円を
超える部分
(2)過少申告加算税賦課決定処分(ただし,平成19年6月27日付け異議決
定により一部取り消され,かつ,江東東税務署長が平成23年2月28日付
けでした賦課決定処分により減額された後のもの。)
3原告P13関係
(1)亡P1の平成▲年▲月▲日相続開始に係る原告P13の相続税に係る更正
処分(ただし,平成19年6月27日付け異議決定により一部取り消され,
かつ,江東東税務署長が平成23年2月28日付けでした更正処分により減
額された後のもの。)のうち納付すべき税額10億7202万8100円を
超える部分
(2)過少申告加算税賦課決定処分(ただし,平成19年6月27日付け異議決
定により一部取り消され,かつ,江東東税務署長が平成23年2月28日付
けでした賦課決定処分により減額された後のもの。)
4原告P14関係
(1)亡P1の平成▲年▲月▲日相続開始に係る原告P14の相続税に係る更正
処分(ただし,平成19年6月27日付け異議決定により一部取り消され,
かつ,江東東税務署長が平成23年2月28日付けでした更正処分により減
額された後のもの。)のうち納付すべき税額10億6954万8900円を
超える部分
(2)過少申告加算税賦課決定処分(ただし,平成19年6月27日付け異議決
定により一部取り消され,かつ,江東東税務署長が平成23年2月28日付
けでした賦課決定処分により減額された後のもの。)
5原告P15関係
(1)亡P1の平成▲年▲月▲日相続開始に係る原告P15の相続税に係る更正
処分(ただし,平成19年6月27日付け異議決定により一部取り消され,
かつ,江東東税務署長が平成23年2月28日付けでした更正処分により減
額された後のもの。)のうち納付すべき税額10億7202万8100円を
超える部分
(2)過少申告加算税賦課決定処分(ただし,平成19年6月27日付け異議決
定により一部取り消され,かつ,江東東税務署長が平成23年2月28日付
けでした賦課決定処分により減額された後のもの。)
以上
(別紙1)
関係法令等の定め
第1相続税法(平成16年法律第84号による改正前のもの。以下「相続税法」
という。)の定め
相続税法22条は,同法第3章で特別の定めのあるものを除くほか,相続,
遺贈又は贈与により取得した財産の価額は,当該財産の取得の時における時価
により,当該財産の価額から控除すべき債務の金額は,その時の現況による旨
を定めている。
第2財産評価基本通達(昭和39年4月25日付け直資56・直審(資)17に
よる国税庁長官通達であり,平成17年5月17日付け課評2-5「財産評価基
本通達の一部改正について(法令解釈通達)」による改正前のもの。乙1,24。
以下「評価通達」という。)の定め
1評価通達1(評価の原則)
評価通達1の(2)は,財産の価額は,時価によるものとし,時価とは,課税
時期(相続,遺贈若しくは贈与により財産を取得した日若しくは相続税法の規
定により相続,遺贈若しくは贈与により取得したものとみなされた財産のその
取得の日又は地価税法2条4号に規定する課税時期をいう。以下同じ。)にお
いて,それぞれの財産の現況に応じ,不特定多数の当事者間で自由な取引が行
われる場合に通常成立すると認められる価額をいい,その価額は,同通達の定
めによって評価した価額による旨を定めている。
2評価通達6(同通達の定めにより難い場合の評価)
評価通達6は,同通達の定めによって評価することが著しく不適当と認めら
れる財産の価額は,国税庁長官の指示を受けて評価する旨を定めている。
3評価通達168(評価単位)
評価通達168は,株式及び株式に関する権利の価額は,それらの銘柄の異
なるごとに,次に掲げる区分に従い,その1株又は1個ごとに評価する旨を定
めている。
(1)上場株式(証券取引所〔平成14年法律第65号による改正前の証券取引
法2条14項に規定する証券取引所をいう。以下同じ。〕)に上場されてい
る株式をいう。以下同じ。)
(2)気配相場等のある株式
気配相場等のある株式とは,①登録銘柄(日本証券業協会の内規によって
登録銘柄として登録されている株式〔日本銀行出資証券を含む。〕をいう。
以下同じ。)及び店頭管理銘柄(同協会の内規によって店頭管理銘柄として
指定されている株式をいう。以下同じ。),②公開途上にある株式(証券取
引所が内閣総理大臣に対して株式の上場の届出を行うことを明らかにした日
から上場の日の前日までのその株式〔登録銘柄を除く。〕及び日本証券業協
会が株式を登録銘柄として登録することを明らかにした日から登録の日の前
日までのその株式〔店頭管理銘柄を除く。〕をいう。)並びに③国税局長の
指定する株式(上記①及び②以外の株式で評価通達169の定めにより国税
局長が指定する株式をいう。)をいう。
(3)取引相場のない株式(前記(1)及び(2)に掲げる株式以外の株式をいう。以
下同じ。)
(4)~(8)(省略)
4評価通達178(取引相場のない株式の評価上の区分)
評価通達178は,取引相場のない株式の価額は,評価しようとするその株
式の発行会社(以下「評価会社」という。)が次の表の大会社(以下「大会
社」という。),中会社(以下「中会社」という。)又は小会社(以下「小会
社」という。)のいずれに該当するかに応じて,それぞれ同通達179の定め
によって評価するが(本文),同族株主以外の株主等が取得した株式又は特定
の評価会社の株式の価額は,それぞれ評価通達188又は189の定めによっ
て評価する(ただし書)旨を定めている。




区分の内容
総資産価額(帳簿価額
によって計算した金
額)及び従業員数
直前期末以前
1年間におけ
る取引金額
卸売業20億円以上(従業員数
が50人以下の会社を除
く。)
80億円以上
小売・サービス

10億円以上(従業員数
が50人以下の会社を除
く。)
20億円以上大


従業員数が
100人以上の
会社又は右の
いずれかに該
当する会社
卸売業,小売・
サービス業以外
10億円以上(従業員数
が50人以下の会社を除
く。)
20億円以上
卸売業7000万円以上(従業員
数が5人以下の会社を
除く。)
2億円以上80
億円未満
小売・サービス

4000万円以上(従業員
数が5人以下の会社を
除く。)
6000万円以上
20億円未満



従業員数が
100人未満の
会社で右のい
ずれか1に該
当する会社
(大会社に該
当する場合を
除く。)
卸売業,小売・
サービス業以外
5000万円以上(従業員
数が5人以下の会社を
除く。)
8000万円以上
20億円未満
従業員数が
100人未満の
卸売業7000万円未満又は従業
員数が5人以下
2億円未満
小売・サービス

4000万円未満又は従業
員数が5人以下
6000万円未満小


会社で右のい
ずれにも該当
する会社卸売業,小売・
サービス業以外
5000万円未満又は従業
員数が5人以下
8000万円未満
上の表の「総資産価額(帳簿価額によって計算した金額)及び従業員数」及
び「直前期末以前1年間における取引金額」は,それぞれ次の(1)から(3)によ
り,「卸売業」,「小売・サービス業」又は「卸売業,小売・サービス業以
外」の判定は次の(4)による。
(1)「総資産価額(帳簿価額によって計算した金額)」は,課税時期の直前に
終了した事業年度の末日(以下「直前期末」という。)における評価会社の
各資産の帳簿価額の合計額とする。
(2)「従業員数」は,直前期末以前1年間においてその期間継続して評価会社
に勤務していた従業員(就業規則等で定められた1週間当たりの労働時間が
30時間未満である従業員を除く。以下同通達178において「継続勤務従
業員」という。)の数に,直前期末以前1年間において評価会社に勤務して
いた従業員(継続勤務従業員を除く。)のその1年間における労働時間の合
計時間数を従業員1人当たり年間平均労働時間数で除して求めた数を加算し
た数とする。この場合における従業員1人当たり年間平均労働時間数は,1
800時間とする。
(3)「直前期末以前1年間における取引金額」は,その期間における評価会社
の目的とする事業に係る収入金額(金融業・証券業については収入利息及び
収入手数料)とする。
(4)評価会社が「卸売業」,「小売・サービス業」又は「卸売業,小売・サー
ビス業以外」のいずれの業種に該当するかは,前記(3)の直前期末以前1年
間における取引金額(以下同通達178及び同通達181-2において「取
引金額」という。)に基づいて判定し,当該取引金額のうちに2以上の業種
に係る取引金額が含まれている場合には,それらの取引金額のうち最も多い
取引金額に係る業種によって判定する。
5評価通達179(取引相場のない株式の評価の原則。ここに定められている
評価の方式を,以下「原則的評価方式」ともいう。)
(1)評価通達179の(1)は,大会社の株式の価額は,類似業種比準価額によ
って評価するが(本文。この評価方式を,以下「類似業種比準方式」とい
う。),納税義務者の選択により,1株当たりの純資産価額(相続税評価額
によって計算した金額)によって評価することができる(ただし書)旨を定
めている。
(2)評価通達179の(2)は,中会社の株式の価額は,次の算式により計算し
た金額によって評価するが(本文),納税義務者の選択により,算式中の類
似業種比準価額を1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した
金額)によって計算することができる(ただし書)旨を定めている。
類似業種比準価額×L+1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計
算した金額)×(1-L)
上の算式中の「L」は,評価会社の同通達178に定める総資産価額
(帳簿価額によって計算した金額)及び従業員数又は直前期末以前1年間
における取引金額に応じて,それぞれ次に定める割合のうちいずれか大き
い方の割合とする。
ア総資産価額(帳簿価額によって計算した金額)及び従業員数に応ずる割

卸売業小売・サービス業卸売業,小売・サー
ビス業以外
割合
14億円以上(従業員
数が50人以下の会社
7億円以上(従業員
数が50人以下の会社
7億円以上(従業員
数が50人以下の会社
0.90
を除く。)を除く。)を除く。)
7億円以上(従業員
数が30人以下の会社
を除く。)
4億円以上(従業員
数が30人以下の会社
を除く。)
4億円以上(従業員
数が30人以下の会社
を除く。)
0.75
7000万円以上(従業
員数が5人以下の会
社を除く。)
4000万円以上(従業
員数が5人以下の会
社を除く。)
4000万円以上(従業
員数が5人以下の会
社を除く。)
0.60
(注)複数の区分に該当する場合には,上位の区分に該当するものとする。
イ直前期末以前1年間における取引金額に応ずる割合
卸売業小売・サービス業卸売業,小売・サー
ビス業以外
割合
50億円以上80億円未

12億円以上20億円未

14億円以上20億円未

0.90
25億円以上50億円未

6億円以上12億円未

7億円以上14億円未

0.75
2億円以上25億円未

6000万円以上6億円
未満
8000万円以上7億円
未満
0.60
(3)同通達179の(3)は,小会社の株式の価額は,1株当たりの純資産価額
(相続税評価額によって計算した金額)によって評価するが(本文),納税
義務者の選択により,Lを0.50として同通達179の(2)の算式により
計算した金額によって評価することができる(ただし書)旨を定めている。
6評価通達180(類似業種比準価額)
評価通達180は,同通達179の類似業種比準価額は,類似業種の株価並
びに1株当たりの配当金額,年利益金額及び純資産価額(帳簿価額によって計
算した金額)を基とし,次の算式によって計算した金額とし(前段),この場
合において,評価会社の直前期末における資本金額を直前期末における発行済
株式数で除した金額(以下「1株当たりの資本金の額」という。)が50円以
外の金額であるときは,その計算した金額に,1株当たりの資本金の額の50
円に対する倍数を乗じて計算した金額とする(後段)旨を定めている。
(1)上記算式中の「A」,「○B」,「○C」,「○D」,「B」,「C」及び
「D」は,それぞれ次による。
「A」=類似業種の株価
「○B」=評価会社の直前期末における1株当たりの配当金額
「○C」=評価会社の直前期末1年間における1株当たりの利益金額
「○D」=評価会社の直前期末における1株当たりの純資産価額(帳簿価額
によって計算した金額)
「B」=課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの配当金額
「C」=課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの年利益金額
「D」=課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの純資産価額(帳簿
価額によって計算した金額)
(2)上記算式中の「0.7」は,中会社の株式を評価する場合には「0.6」,
小会社の株式を評価する場合には「0.5」とする。
(3)上記算式中の○Cの金額が0の場合には,分母の「5」は「3」とする。
7評価通達185(純資産価額)
評価通達185は,①同通達179の「1株当たりの純資産価額(相続税評
価額によって計算した金額)」は,課税時期における各資産を同通達に定める
ところにより評価した価額(この場合,評価会社が課税時期前3年以内に取得
又は新築した土地及び土地の上に存する権利〔以下「土地等」という。〕並び
に家屋及びその附属設備又は構築物〔以下「家屋等」という。〕の価額は,課
税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するものとし,当
該土地等又は当該家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に
相当すると認められる場合には,当該帳簿価額に相当する金額によって評価す
ることができるものとする。以下同じ。)の合計額から課税時期における各負
債の金額の合計額及び同通達186-2により計算した評価差額に対する法人
税額等に相当する金額を控除した金額を課税時期における発行済株式数(平成
17年法律第87号による改正前の商法〔以下「旧商法」という。〕241条
2項に規定する自己の株式〔以下「自己株式」という。〕を有する場合には,
当該自己株式の数を控除した株式数によるものとする。同通達186-3にお
いて同じ。)で除して計算した金額とするが(本文),②同通達179の(2)
の算式及び同通達179の(3)の1株当たりの純資産価額(相続税評価額によ
って計算した価額)については,株式の取得者とその同族関係者(同通達18
8の(1)に定める同族関係者をいう。)の有する議決権の合計数が評価会社の
議決権総数の50%以下である場合においては,上記により計算した1株当た
りの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)に100分の80を乗
じて計算した金額とする(ただし書)旨を定めている。
8評価通達188(同族株主以外の株主等が取得した株式)
評価通達188は,同通達178の「同族株主以外の株主等が取得した株
式」は,次のいずれかに該当する株式をいい,その株式の価額は,同通達18
8-2の定めによる旨を定めている。
(1)同族株主のいる会社の株式のうち,同族株主以外の株主の取得した株式
この場合における「同族株主」とは,課税時期における評価会社の株主の
うち,株主の1人及びその同族関係者(法人税法施行令〔平成18年政令第
125号による改正前のもの。以下同じ。〕4条に規定する特殊の関係のあ
る個人又は法人をいう。ただし,当該法人の判定については,同条2項中
「株式の総数」は「議決権の数」と,「発行済株式の総数」は「議決権総
数」と,「数の株式」は「数の議決権」と読み替えるものとする。以下同
じ。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その
評価会社の株主のうち,株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合
計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が,その会社の議決権総数
の50%超である会社にあっては,50%超)である場合におけるその株主
及びその同族関係者をいう。
(2)中心的な同族株主のいる会社の株主のうち,中心的な同族株主以外の同族
株主で,その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未
満であるもの(課税時期において評価会社の役員〔社長,理事長並びに法人
税法施行令71条1項1号及び3号に掲げる者をいう。以下同じ。〕である
者及び課税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員となる者を除く。)
の取得した株式
この場合における「中心的な同族株主」とは,課税時期において同族株主
の1人並びにその株主の配偶者,直系血族,兄弟姉妹及び1親等の姻族(こ
れらの者の同族関係者である会社のうち,これらの者が有する議決権の合計
数がその会社の議決権総数の25%以上である会社を含む。)の有する議決
権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株
主をいう。
(3)同族株主のいない会社の株主のうち,課税時期において株主の1人及びそ
の同族関係者の有する議決権の合計数が,その会社の議決権総数の15%未
満である場合におけるその株主の取得した株式
(4)中心的な株主がおり,かつ,同族株主のいない会社の株主のうち,課税時
期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会
社の議決権総数の15%以上である場合におけるその株主で,その者の株式
取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(前記
(2)の役員である者及び役員となる者を除く。)の取得した株式
この場合における「中心的な株主」とは,課税時期において株主の1人及
びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%
以上である株主グループのうち,いずれかのグループに単独でその会社の議
決権総数の10%以上の議決権を有している株主がいる場合におけるその株
主をいう。
9評価通達189(特定の評価会社の株式)
評価通達189は,同通達178の「特定の評価会社の株式」とは,評価会
社の資産の保有状況,営業の状態等に応じて定めた次のア~カに掲げる評価会
社の株式をいい,その株式の価額は,次のア~カに掲げるところによることな
どを定めている。
(1)比準要素数1の会社の株式(評価通達189の(1))
評価通達183の(1),(2)及び(3)に定める「1株当たりの配当金額」,
「1株当たりの利益金額」及び「1株当たりの純資産価額(帳簿価額によっ
て計算した金額)」のそれぞれの金額のうち,いずれか2が0であり,かつ,
直前々期末を基準にして同項の定めに準じそれぞれの金額を計算した場合に,
それぞれの金額のうち,いずれか2以上が0である評価会社(次の(2)から
(6)に該当するものを除く。以下「比準要素数1の会社」という。)の株式
の価額は,同通達189-2の定めによる。
(2)株式保有特定会社の株式(評価通達189の(2))
課税時期において評価会社の有する各資産を評価通達に定めるところによ
り評価した価額の合計額のうちに占める株式及び出資の価額の合計額(以下
「株式等の価額の合計額(相続税評価額によって計算した金額)」とい
う。)の割合(以下「株式保有割合」という。)が25%以上(中会社及び
小会社については,50%以上)である評価会社(同通達189の(3)~(6)
のいずれかに該当するものを除く。以下「株式保有特定会社」という。)の
株式の価額は,同通達189-3の定めによる。
(3)土地保有特定会社の株式(評価通達189の(3))
課税時期において,次のいずれかに該当する会社(次の(4)から(6)までの
いずれかに該当するものを除く。以下「土地保有特定会社」という。)の株
式の価額は,評価通達189-4の定めによる。
イ①大会社又は②評価通達178に定める総資産価額(帳簿価額によって
計算した金額)が,評価会社の事業が卸売業に該当する場合には20億円
以上,卸売業以外に該当する場合には10億円以上の小会社で,その有す
る各資産をこの通達の定めるところにより評価した価額の合計額のうちに
占める土地等の価額の合計額の割合(以下「土地保有割合」という。)が
70%以上である会社
ロ①中会社又は②評価通達178に定める総資産価額(帳簿価額によって
計算した金額)が,評価会社の事業が卸売業に該当する場合には7000
万円以上,小売・サービス業に該当する場合には4000万円以上,卸売
業,小売・サービス業以外に該当する場合には5000万円以上で,前記
イに該当しない小会社で,土地保有割合が90%以上である会社
(4)開業後3年未満の会社等の株式(評価通達189の(4))
課税時期において次に掲げるイ又はロに該当する評価会社(次の(5)又は
(6)に該当するものを除く。以下「開業後3年未満の会社等」という。)の
株式の価額は,評価通達189-4の定めによる。
イ開業後3年未満であるもの
ロ評価通達183の(1),(2)及び(3)に定める「1株当たりの配当金額」,
「1株当たりの利益金額」及び「1株当たりの純資産価額(帳簿価額によ
って計算した金額)」のそれぞれの金額がいずれも0であるもの
(5)開業前又は休業中の会社の株式(評価通達189の(5))
開業前又は休業中である評価会社の株式の価額は,評価通達189-5の
定めによる。
(6)清算中の会社の株式(評価通達189の(6))
清算中である評価会社の株式の価額は,評価通達189-6の定めによる。
10評価通達189-3(株式保有特定会社の株式の評価)
評価通達189-3は,同通達189の(2)の「株式保有特定会社の株式」
の価額は,同通達185本文の定めにより計算した1株当たりの純資産価額
(相続税評価額によって計算した金額)によって評価し,この場合における当
該1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)は,当該株
式の取得者とその同族関係者の有する当該株式に係る議決権の合計数が株式保
有特定会社の同通達185ただし書に定める議決権総数の50%以下であると
きには,上記により計算した1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって
計算した金額)を基に同通達185ただし書の定めにより計算した金額とする
が(本文),上記の株式保有特定会社の株式の価額は,納税義務者の選択によ
り,次の(1)の「S1の金額」(以下「S1の金額」という。)と(2)の「S2
の金額」(以下「S2の金額」という。)との合計額によって評価する(以下,
この評価方式を「S1+S2方式」という。)ことができる(ただし書)旨な
どを定めている。
(1)S1の金額
S1の金額は,株式保有特定会社の株式の価額を同通達178本文,17
9~184,185本文,186及び186-2の定めに準じて計算した金
額とするが,評価会社の株式が同通達189の(1)の「比準要素数1の会社
の株式」の要件(同通達189の(1)の括弧書の要件を除く。)にも該当す
る場合には,大会社,中会社又は小会社の区分にかかわらず,同通達189
-2の定め(本文の括弧書,ただし書の括弧書及びなお書を除く。)に準じ
て計算した金額とし,これらの場合において,同通達180に定める算式及
び同通達185本文に定める1株当たりの純資産価額(相続税評価額によっ
て計算した金額)は,それぞれ次による。
ア評価通達180に定める算式は,次の算式による。
上記算式の適用に当たっては,次による。
(ア)上記算式中,「A」,「○B」,「○C」,「○D」,「B」,「C」及び
「D」は,評価通達180の定めにより,「○b」,「○c」及び「○d」は,
それぞれ次による。
「○b」=評価通達183の(1)に定める評価会社の「1株当たりの配当
金額」に,直前期末以前2年間の受取配当金額(法人から受ける利
益の配当及び剰余金の分配〔出資に係るものに限る。〕をいう。以
下同じ。)の合計額と直前期末以前2年間の営業利益の金額の合計
額(当該営業利益の金額に受取配当金額が含まれている場合には,
当該受取配当金額の合計額を控除した金額)との合計額のうちに占
める当該受取配当金額の合計額の割合(当該割合が1を超える場合
には1を限度とする。以下「受取配当金収受割合」という。)を乗
じて計算した金額
「○c」=評価通達183の(2)に定める評価会社の「1株当たりの利益
金額」に受取配当金収受割合を乗じて計算した金額
「○d」=次の①及び②に掲げる金額の合計額(上記計算式中の「○D」を
限度とする。
①評価通達183の(3)に定める評価会社の「1株当たりの純資産
価額(帳簿価額によって計算した金額)」に,同通達178の(1)
に定める総資産価額(帳簿価額によって計算した金額)のうちに占
める株式及び出資の帳簿価額の合計額の割合を乗じて計算した金額
②直前期末における法人税法2条18号に規定する利益積立金額に
相当する金額を直前期末における発行済株式数(1株当たりの資本
金の額が50円以外の金額である場合には,直前期末における資本
金額を50円で除して計算した数によるものとする。)で除して求
めた金額に受取配当金収受割合を乗じて計算した金額(利益積立金
額に相当する金額が負数である場合には,0とする。)
(イ)上記算式中の「0.7」は,中会社の株式を評価する場合には「0.
6」,小会社の株式を評価する場合には「0.5」とする。
(ウ)上記算式中の○Cの金額が0の場合には,分母の「5」は「3」とする。
イ評価通達185本文に定める1株当たりの純資産価額(相続税評価額に
よって計算した金額)は,同通達185本文及び186-2の「各資産」
を「各資産から株式及び出資を除いた各資産」と読み替えて計算した金額
とする。
(2)S2の金額
S2の金額は,①同通達189の(2)の「株式等の価額の合計額(相続税
評価額によって計算した金額)」からその計算の基とした株式等の帳簿価額
の合計額を控除した場合において残額があるときは,当該株式等の価額の合
計額(相続税評価額によって計算した金額)から当該残額に186-2に定
める割合を乗じて計算した金額を控除し,当該控除後の金額を課税時期にお
ける株式保有特定会社の発行済株式数(自己株式を有する場合には,当該自
己株式の数を控除した株式数をいう。以下同通達189-3において同
じ。)で除して計算した金額とし(前段),②この場合において当該残額が
ないときは,当該株式等の価額の合計額(相続税評価額によって計算した金
額)を課税時期における株式保有特定会社の発行済株式数で除して計算した
金額とする(後段)。
以上
(別紙2)
本件各処分の根拠等に関する被告の主張
第1本件各更正処分の根拠及び適法性について
被告が主張する本件相続に係る原告らの各相続税の課税価格及び納付すべき
税額(ただし,本件各再更正処分後のもの。)は,被告別表2「課税価格及び
納付すべき税額の計算明細表」に記載したとおりであり,その計算根拠及び本
件各更正処分の適法性は,次のとおりである。
1課税価格の合計額(被告別表2順号5「課税価格(3+4)」欄のうち「合
計」欄の金額)286億1895万円
上記金額は,本件相続人らに係る相続税の各課税価格の合計額であり,それ
ぞれ次の(1)の本件相続により取得した財産の価額の合計額から,同人らが承
継又は負担をする次の(2)の債務等の金額を控除し,さらに,相続税法19条
の規定により課税価格に加算する次の(3)の贈与により取得した財産の価額を
加算した金額につき,通則法118条1項の規定により1000円未満の端数
を切り捨てた後の以下の各金額(被告別表2順号5「課税価格(3+4)」欄
のうち「取得者」欄の各金額)を合計した金額である。
原告P1140億6089万円
原告P1240億9339万円
原告P1340億9339万円
原告P1440億9339万円
原告P1540億9111万円
他の相続人81億8678万円
(1)取得財産の価額(被告別表2順号1「取得財産の価額」欄のうち「取得
者」欄の各金額)
原告P1140億4388万2067円
原告P1240億8771万9067円
原告P1340億7178万4067円
原告P1440億8771万9067円
原告P1540億6950万4067円
他の相続人81億7543万8135円
上記の各金額は,①相続税法55条の規定に基づき,課税価格の計算上,
本件相続人ら各人が本件相続により取得したものとして計算するいわゆる未
分割財産の価額に,②同法3条に基づき本件相続人らが取得したものとみな
す財産の各価額(次のイの金額)をそれぞれ加算した金額である。
ところで,同法55条は,相続により取得した財産の全部又は一部が共同
相続人によってまだ分割されていないときは,その分割されていない財産に
ついては,各共同相続人が原則として民法(同法904条の2を除く。)の
規定による相続分の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価
格を計算する旨規定しているところ,ここにいう民法(同法904条の2を
除く。)の規定による相続分とは,同法900条から903条までに規定す
る相続分をいうものとされている(昭和34年1月28日付け直資10によ
る国税庁長官通達「相続税法基本通達の全部改正について」〔平成16年6
月10日付け課資2-6ほかによる改正前のもの。以下「基本通達」とい
う。〕55-1。乙2)。
したがって,次のアの未分割の本件相続財産(積極財産)の価額の合計額
に民法903条に規定する特別受益の価額(被告別表4順号1「特別受益の
価額」欄のうち「合計」欄の金額)を加算したものを相続財産とみなし,こ
れにつき同法900条4号に規定する本件相続人らの相続分の割合に応じた
それぞれの価額(同表順号5「本来的相続分額(3×4)」欄のうち「取得
者」欄の各金額)から,各人の特別受益の価額〔同表順号1「特別受益の価
額」欄のうち「取得者」欄の各金額〕を控除した金額(同表順号6「具体的
相続分額(5-1)」欄のうち「取得者」欄の各金額)をもって,本件相続
人ら各人が取得する未分割財産の価額(上記①)とした。
なお,上記で述べた金額の計算過程は,被告別表4に記載したとおりであ
る。
ア未分割の本件相続財産(積極財産)の価額の合計額(被告別表5順号6
「合計」欄のうち「評価額(円)」欄の金額)
264億7104万6471円
上記金額は,次の(ア)ないし(オ)の各財産の価額に係る評価額の合計額で
ある。なお,次の(ア)及び(イ)の各株式の価額に係る評価額の根拠は,後記
第3において述べる。
(ア)P2株式122億8289万2800円
(イ)P3株式115億6660万5600円
(ウ)株式会社P16(以下「P16」という。)の株式(以下「P16株
式」という。)
3388万4400円
上記金額は,本件訴えにおいて原告らが主張するP16株式の1株当
たりの価額に係る評価額9966円に本件相続財産中のP16株式の株
数3400株を乗じた金額である。
(エ)株式会社P17(以下「P17」という。)の株式(以下「P17株
式」という。)
2億3418万4728円
上記金額は,本件訴えにおいて原告らが主張するP17株式の1株当
たりの価額に係る評価額616万2756円に本件相続財産中のP17
株式の株数38株を乗じた金額である。
(オ)その他の財産23億5347万8943円
上記金額は,本件相続財産のうちP2株式,P3株式,P16株式及
びP17株式を除くその余の財産の価額に係る評価額の合計額である。
イみなし相続財産の価額の合計額(被告別表4順号7「みなし相続財産の
価額」欄のうち「合計」欄の金額)20億6500万0000円
上記金額は,相続税法3条1項2号の規定により,本件相続人らが本件
相続により取得したものとみなす亡P1の死亡による支給が確定した退職
手当金につき,同法12条1項6号に基づき計算した非課税限度額を超え
る部分の金額であり,本件相続人らが平成16年12月27日に江東東税
務署長に提出した本件相続に係る相続税の申告書(乙3。以下「本件申告
書」という。)第10表「退職手当金などの明細書」記載の金額と同額で
ある。
なお,本件相続人ら各人につきその本件相続により取得した財産の価額
に加算する各金額(被告別表4順号7「みなし相続財産の価額」欄のうち
「取得者」欄の各金額)については,上記非課税限度額を超える部分の金
額を本件相続人ら各人が均等に取得するものとして計算した(基本通達3
-25の(2)ハ(注)。乙2)。
(2)債務等の金額(被告別表2順号2「債務等の金額」欄のうち「取得者」欄
の各金額)
原告P11449万3169円
原告P12449万3169円
原告P13449万3169円
原告P14449万3169円
原告P15449万3169円
他の相続人898万6338円
上記の各金額は,本件相続人らが承継又は負担をする亡P1の債務及び葬
式費用の金額であり,本件申告書記載の本件相続人ら各人の「債務及び葬式
費用の金額」(乙3・第1表及び同表(続)③各欄並びに第13表⑦各欄の
金額)と同額である。
(3)相続開始前3年以内の贈与に係る加算額(被告別表2順号4「法19条に
よる加算額」欄のうち「取得者」欄の各金額)
原告P112150万2000円
原告P121016万5000円
原告P132610万円
原告P141016万5000円
原告P152610万円
他の相続人2033万円
上記の各金額は,相続税法19条1項の規定により本件相続人ら各人の課
税価格に加算する本件相続開始前3年以内に上記各人が亡P1から贈与を受
けた財産の価額であり,本件申告書記載の上記各人の「純資産価額に加算さ
れる暦年課税分の贈与財産価額」(乙3・第1表及び同表(続)⑤各欄並び
に第14表④各欄の金額)と同額である。
2納付すべき相続税額
本件相続に係る原告らの納付すべき相続税額は,相続税法15条ないし17
条並びに19条1項及び20条の各規定に基づき,次のとおり算定したもので
ある。
(1)課税遺産総額(被告別表3順号4「課税遺産総額(1-3)」欄の金額)
284億9895万円
上記金額は,相続税法15条の規定により,前記1の課税価格の合計額か
ら,5000万円と1000万円に本件相続に係る相続人の数である7を乗
じた金額7000万円との合計額1億2000万円(被告別表3順号3「遺
産に係る基礎控除額」欄の金額)を控除した後の金額である。
(2)法定相続分に応ずる取得金額(被告別表3順号6「法定相続分に応ずる取
得金額」欄のうち「取得者」欄の各金額)
原告P11(法定相続分7分の1)40億7127万8000円
原告P12(法定相続分7分の1)40億7127万8000円
原告P13(法定相続分7分の1)40億7127万8000円
原告P14(法定相続分7分の1)40億7127万8000円
原告P15(法定相続分7分の1)40億7127万8000円
他の相続人(法定相続分7分の1×2)81億4255万6000円
上記の各金額は,相続税法16条の規定により,前記(1)の課税遺産総額
を本件相続人らが民法900条4号の規定による相続分の割合に応じて取得
したものとした場合におけるその各取得金額であり,基本通達16-3(乙
2)の取扱いにより,各人ごとに1000円未満の端数を切り捨てた後の金
額である。
(3)相続税の総額(被告別表2順号6「相続税の総額」欄のうち「合計」欄の
金額及び被告別表3順号8「相続税の総額」欄の金額)
139億2047万3000円
上記金額は,前記(2)の各金額に,それぞれ相続税法16条に規定する税
率を乗じて算出した金額(被告別表3順号7「相続税の総額の基となる税
額」欄のうち「取得者」欄の各金額)の合計額である。
(4)原告ら各人の算出税額(被告別表2順号8「算出税額(6×7)」欄のう
ち「取得者」欄の各金額)
原告P1119億7524万7505円
原告P1219億9105万5750円
原告P1319億9105万5750円
原告P1419億9105万5750円
原告P1519億8994万6741円
上記の各金額は,相続税法17条の規定により,前記(3)の金額に,前記
1の課税価格の合計額のうちに原告ら各人の課税価格(被告別表2順号5
「課税価格(3+4)」欄のうち「取得者」欄の各金額)が占める割合をそ
れぞれ乗じて算出した金額である。
(5)税額控除額(被告別表2順号9「税額控除額」欄のうち「取得者」欄の各
金額)
原告P11523万8160円
原告P12125万5006円
原告P13635万0281円
原告P14125万5006円
原告P15635万0034円
上記の各金額は,次のア及びイの各金額を原告ら各人ごとに合計した金額
である。
ア贈与税額控除額(被告別表2付表順号1「贈与税額控除額」欄のうち
「取得者」欄の各金額)
原告P11480万0900円
原告P1281万3000円
原告P13591万0000円
原告P1481万3000円
原告P15591万0000円
上記の各金額は,相続税法19条1項括弧書の規定により,原告ら各人
の納付すべき相続税額の計算上贈与税の税額として控除する金額であり,
本件申告書記載の各人の「暦年課税分の贈与税額控除額」(乙3並びに原
告準備書面(7)別紙5及び別紙10における各第1表及び同表(続)⑫欄
の金額)と同額である。
イ相次相続控除額(被告別表2付表順号2「相次相続控除額」欄のうち
「取得者」欄の各金額)
原告P1143万7260円
原告P1244万2006円
原告P1344万0281円
原告P1444万2006円
原告P1544万0034円
上記の各金額は,平成▲年▲月▲日の亡P18(亡P1の夫)の死亡に
よって開始した相続(以下「本件第一次相続」という。)により亡P1が
取得した財産(その価額46億5214万6749円)につき課せられた
相続税額771万4000円(原告準備書面(7)別紙5及び同別紙10に
おける各第7表の⑥欄の金額)に相当する金額について,相続税法20条
各号の規定により計算した,原告ら各人の納付すべき相続税額の計算上控
除する相次相続控除の金額である。
(6)原告らの納付すべき相続税額(被告別表2順号10「納付すべき税額(8
-9)」のうち「取得者」欄の各金額)
原告P1119億7000万9300円
原告P1219億8980万0700円
原告P1319億8470万5400円
原告P1419億8980万0700円
原告P1519億8359万6700円
上記の各金額は,上記(4)の原告ら各人の算出税額から,前記(5)の税額控
除額をそれぞれ控除した後の金額(ただし,通則法119条1項の規定によ
り100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
3本件各更正処分の適法性
被告が主張する本件相続に係る原告ら各人の納付すべき相続税額は,それぞ
れ前記2(6)のとおりであるところ,本件各再更正処分により減額された後に
おける原告らの納付すべき相続税額(乙30の1~5の各「○課税標準等及
び税額等の計算明細」の「(1)納付税額又は還付税額の計算明細」と題する表
のうち,「⑲差引税額」欄における「更正額」欄の金額)は,いずれもこれと
同額であるから,上記のとおり減額された後の本件各更正処分は適法である。
第2本件各賦課決定処分の根拠及び適法性について
前記第1の3で述べたとおり,本件各再更正処分により減額された後の本件
各更正処分は適法であるところ,原告らは,本件相続に係る納付すべき相続税
額を過少に申告していたものである。
そして,原告らの申告に係る納付すべき相続税額が過少であったことにつき,
通則法65条4項に規定する正当な理由は認められない。
したがって,原告らに対しては,通則法65条1項の規定に基づき,本件各
再更正処分により減額となった,本件各更正処分による新たに納付すべきこと
となった税額(同法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた
後のもの。乙30の1~5の各「○加算税の額の計算明細」と題する表のう
ち,「過少申告加算税」欄の「変更決定後の賦課決定額」欄における「①加
算税の基礎となる税額」欄の金額)に100分の10の割合を乗じて計算した
金額に相当する過少申告加算税が課されることになる。
原告らに課される過少申告加算税の計算過程は,被告別表6に記載したとお
りであり,その額は,それぞれ,
原告P118990万5000円
原告P129202万5000円
原告P139126万7000円
原告P149202万5000円
原告P159115万6000円
となるところ,本件各変更決定処分により減額された後の本件各賦課決定処分
における原告らの納付すべき過少申告加算税額(乙30の1~5の各「○加
算税の額の計算明細」と題する表のうち,「過少申告加算税」欄の「変更決定
後の賦課決定額」欄における「⑤加算税の額」欄の金額)は,いずれもこれ
と同額であるから,上記のとおり減額された後の本件各賦課決定処分は適法で
ある。
第3本件各会社株式の価額に係る評価額の根拠について
1本件各会社株式の評価上の区分及び評価方式について
本件各会社株式は,いずれも評価通達168の(3)にいう取引相場のない株
式である。したがって,評価通達の定めによれば,本件各会社株式の価額の評
価方式を決定するに当たっては,本件各会社が大会社,中会社又は小会社のい
ずれであるかを判断するに先立ち,まずもって本件各会社株式が評価通達17
8ただし書にいう「同族株主以外の株主等が取得した株式」又は「特定の評価
会社の株式」に当たるか否かを判定することとなるところ,以下に述べるとお
り,①本件各会社株式は,いずれも上記「同族株主以外の株主等が取得した株
式」には該当せず,②本件各会社は,いずれも「特定の評価会社の株式」のう
ち同通達189の(2)にいう「株式保有特定会社」に該当することから,本件
各会社株式の価額は,同通達189-3に定めるS1+S2方式により評価す
ることになる。
(1)本件各会社株式は「同族株主以外の株主等が取得した株式」(評価通達1
88)に該当しないこと
本件相続財産のうちにはP2株式(64万6400株)及びP3株式(1
7万8200株)が含まれていたところ,P2とP3とは,本文第2の3
(2)ウのとおり相互に株式を持ち合っているいわゆる相互株式持ち合い会社
であり,いずれも亡P1と本件相続人らの有する株式によって議決権総数の
大半を占める同族会社であるから(被告別表7),本件各会社株式は,「同
族株主以外の株主等が取得した株式」(評価通達188)には当たらない。
(2)P2の株式は評価通達189の(4)ないし(6)で定めるところの特定の評価
会社のいずれの株式にも該当しないこと
本文第2の3(2)アのとおり,P2は,昭和23年に設立された会社であ
り,従業員5000人以上を有し,事業を継続している会社であるから,同
社は,評価通達189の(4)ないし(6)に定める特定の評価会社のいずれにも
当たらない。
(3)P2の株式は評価通達189の(3)で定めるところの「土地保有特定会社
の株式」に該当しないこと
本文第2の3(2)アのとおり,P2は大会社に該当するところ,同社のP
3株式を除く総資産価額(相続税評価額)は2552億4831万9000
円(被告別表13における①欄の金額3069億9835万5000円から
P3株式の価額517億5003万6000円を控除した金額)であり,P
2が有する土地等の価額(相続税評価額)の合計額が423億9556万3
000円であることから(被告別表13における○ハ欄の金額。同表における
「土地」欄及び「借地権」欄の各「相続税評価額」欄の金額の合計額),P
3株式の価額を分母に含めずに計算しても,同社の総資産価額のうちに占め
る土地等の価額の合計額の割合は70%に及ばない。したがって,同社が同
通達189の(3)イに定める「土地保有特定会社」にも該当しないことは明
らかである。
(4)P2の株式は評価通達189の(2)に定める「株式保有特定会社の株式」
に該当すること,また,P3の株式も「株式保有特定会社の株式」に該当す
ること
次に,P2が評価通達189の(2)に定める「株式保有特定会社」に該当
するか否かを判定することとなるが,P2の有する株式の中には取引相場の
ない株式であるP3株式が含まれていることから,P3株式の価額を評価し
なければP2の株式保有割合を算定することはできない。そこで,P3株式
の価額を評価するためには,同社が評価通達189に定める「特定の評価会
社」に該当するか否かを判定することになり,P2が「株式保有特定会社」
に該当するか否かを判定する過程で,P3が「株式保有特定会社」に該当す
るか否かも判定されることとなる。
ア本文第2の2(2)イのとおり,P3は,昭和41年に設立された会社で
あり,従業員は5人以下であるが,事業を継続していることから,同社は,
評価通達189の(4)ないし(6)に定める特定の評価会社のいずれにも当た
らない。
イ本文第2の3(2)イのとおり,P3は中会社に当たる。また,同社にお
いては,本件相続の開始の日の直後に終了した事業年度の末日が平成16
年2月29日であって,本件相続の開始の日のわずか1日後であり,その
間同社の資産及び負債について著しい増減があったとは認められないこと
から,同社の総資産価額については,上記の事業年度の末日現在をもって
算定すべきであるというべきところ,同社のP2株式を除く総資産価額
(相続税評価額)は365億1005万7000円(被告別表9における
①の金額665億3772万7000円からP2株式の価額300億27
67万円を控除した金額)であり,P3が有する土地等の価額(相続税評
価額)の合計額は4億8564万7000円であることから(被告別表9
における「土地」欄及び「課税時期前3年以内に取得した土地」欄の各相
続税評価額の合計額。原告準備書面(7)別紙2の第5表における「土地」
欄及び「3年以内取得土地」欄の各「相続税評価額」欄の金額の合計額),
P2株式の価額を分母に含めずに計算しても,同社の総資産価額のうちに
占める土地等の価額の合計額の割合は90%に及ばず,同社は,同通達1
89の(3)ロに定める「土地保有特定会社」に該当しない。
ウ次に,前記のとおり,P3が「株式保有特定会社」に当たるか否かを判
定する(P3が「株式保有特定会社」に当たることについては,原告らも
争っていないものと思料されるところではあるが,念のため,同社が「株
式保有特定会社」に該当することについて指摘しておく。)。
この点,P3が有する株式の中には,P2株式が含まれていることから,
P3における株式保有割合を算定するためには,P2株式の価額を算定し
なければならない。
まず,P3については,仮に,P2株式の価額を除いたとしても,その
有する株式等の価額の合計は303億7680万0000円にも上るので
あって(被告別表9における「有価証券」欄のうち「P2以外」欄の「相
続税評価額」欄の金額),これを前提に同社の株式保有割合を算定すると,
同社の株式保有割合は,最低でも83%となる。したがって,P3は,仮
にP2株式を有していなかったとしても,評価通達189の(2)の「株式
保有特定会社」に該当することは明らかである。
また,P3株式を除く資産及び負債を基にしたP2の1株当たりの純資
産価額(相続税評価額)は,被告別表13における①の金額3069億9
835万5000円から③の金額1266億1074万6000円及びP
3株式の相続税評価額517億5003万6000円を控除した1286
億3757万3000円を,同社の発行済株式数である864万株で除す
ることによって計算することができ,その金額は1万4888円となる。
その一方,同社の株式の1株当たりの類似業種比準価額は,4653円
(被告別表8○29の金額)となるから,評価通達179の定める評価方式に
照らせば,P2株式については,類似業種比準方式によって評価した価額
が最も低額になるため,P3が有するP2株式645万3400株の価額
は,1株当たりの類似業種比準価額4653円を基に計算した300億2
767万0200円が最も低額となる。これを前提に算定したP3の総資
産価額(相続税評価額)は,665億3772万7000円(被告別表9
の①の金額)であり,そのうち株式等の価額は,604億0447万00
00円となるから(被告別表9の○イの金額),P2株式につき原告らの主
張する類似業種比準価額を採用したとしても,P3の株式保有割合は9
0%となる。
したがって,いずれにしても,P3が,評価通達189の(2)にいう
「株式保有特定会社」に当たることは明らかである。
エP3株式については,同社が「株式保有特定会社」に当たる以上,その
価額は,評価通達189-3の定めに基づき評価することになる。
なお,P2株式の価額の評価上の区分はこの段階において確定したもの
ではないものの,P3が有するP2株式の価額を,1株当たりの類似業種
比準価額を4653円として計算した300億2767万0200円とし,
これを前提に計算すると,P3株式の1株当たりの純資産価額(相続税評
価額)は,3万2212円になる(被告別表9の⑪の金額)。また,P3
株式の1株当たりの類似業種比準価額は606円(被告別表10の○29の金
額)となるから,S1+S2方式(評価通達189-3ただし書)の内容
に照らせば,P3株式については,純資産価額方式に比べ,部分的に類似
業種比準方式を取り入れたS1+S2方式によって計算した価額の方がよ
り低額となることが明らかであり,P3株式の価額を同方式によって計算
した結果は,被告別表11及び12のとおり,1株当たりの価額が3万1
189円となる(被告別表12の○27の金額)。
この金額は,P3株式の価額の評価において,P3が有するP2株式の
価額につき最も低額となると認められる類似業種比準方式を用いて算定し,
かつ,P3株式の価額の評価において,評価通達189-3に定める計算
方法のうち最も低額になると認められるS1+S2方式を採用したもので
あるから,P3株式の最低限の価値を算定したものといえる。
オP2の有するP3株式の1株当たりの価額を3万1189円として計算
すると,その165万9240株の価額は517億5003万6000円
となる(1000円未満切捨て。被告別表13における「有価証券(株式
及び出資)」欄のうち,「P3」欄の「相続税評価額」欄の金額)。これ
を前提にP2の総資産価額(相続税評価額)を計算すると,3069億9
835万5000円となり(被告別表13の①の金額),そのうち株式等
の価額は,795億5158万1000円となるから(同表の○イの金額),
P2の株式保有割合は,25%を超える約25.9%となる。前記エで述
べたとおり,1株当たり3万1189円という価額は,P3株式の最低限
の価値を示すものであるから,P2の株式保有割合は,約25.9パーセ
ントを上回ることこそあれ,下回ることはない。したがって,P2が評価
通達189の(2)にいう「株式保有特定会社」に当たることは明らかであ
るから,本件各会社株式の価額に係る相続税評価額の算定において,P2
株式の価額として原則的評価方式である類似業種比準方式に基づく価額
(類似業種比準価額)を基礎に算定した本件各会社株式の価額に係る評価
額を用いることはできない。
なお,被告別表13の○イの金額は,同表の資産の部の「有価証券(株式
及び出資)」欄中の各金額の合計額であり,同表資産の部の「有価証券
(その他)」欄の金額は含まれない。本件各更正処分(ただし,本件各再
更正処分による減額前のもの。)に際しては,P2が有する次の表に記載
した各資産(価額の合計10億5836万8000円)を同欄に分類すべ
きものとされていたが,これらの資産のうち,旧商法222条1項に規定
するいわゆる優先株式に該当するものと認められる「P10グループ第1
1回第11種優先株式(価額合計10億円。乙27の1~乙29。以下
「P10優先株式」という。)については,評価通達188-4及び18
8-5の定めにおいて「株式」の語が旧商法上の株式を意味するものとし
て使用されており,同通達189の(2)の定めにおける「株式」の意義を
これと別異に解する理由がないことに照らせば,同通達189の(2)にお
ける「株式及び出資の価額の合計額」に含めるべき株式に当たるものとい
うべきであるから,上記株式保有割合の算定上の「株式及び出資の価額の
合計額」は,被告別表13の○イの金額のとおり,P10優先株式の価額1
0億円を含むものとすべきである。
№銘柄等価額(単位:円)
1P10グループ第11回11種優先株式1,000,000,000
2P19事業組合40,391,998
3P20事業組合2,076,061
4千葉県工業用水局15,900,000
合計額1,058,368,059
カ以上を踏まえ,株式保有特定会社としてのP2株式の価額に係る相続税
評価額算定のための評価方式について検討すると,P2が有するP3株式
の価額を1株当たり3万1189円として計算した場合のP2株式の1株
当たりの純資産価額(相続税評価額)は,2万0878円となるところ
(被告別表13の⑪の金額),同社の株式の1株当たりの類似業種比準価
額は,前記ウのとおり4653円であるから,P3株式と同様に,純資産
価額方式に比べS1+S2方式によって計算した価額の方がより低額とな
ることが明らかであり,同方式によって計算するのが相当である。
2本件各会社株式の価額に係る評価額について
(1)前記1のとおり,本件各会社はいずれも「株式保有特定会社」に当たるこ
と及びS1+S2方式による評価額が純資産価額方式による評価額よりも低
い価額が算定されることから,本件各会社株式の価額については,いずれも
S1+S2方式により評価するのが相当である。同方式は,「株式保有特定
会社」の株式の価額につき,有する株式等の影響を排除した上で「一般の評
価会社」に適用される原則的評価方式に準じた方法によって計算したS1の
金額と,有する株式等のみを純資産価額方式によって計算した価額に相当す
るS2の金額との合計額をもって評価するというものである。
この点,本件各会社のように相互に株式を持ち合っている「株式保有特定
会社」の場合は,それぞれのS2の金額の計算上,有する他方の会社の株式
の価額を算入する必要があり,一見,相互の株式の価額が計算上循環し,そ
の価額を確定することができないかのように見える。しかしながら,相互に
株式を持ち合っている「株式保有特定会社」の貸借対照表の関係を図示すれ
ば,被告別表14-1上段の概要図のとおりであり,これらの関係を数式化
すれば,同表下段のとおりとなり,両社の株式の1株当たりの純資産価額
(相続税評価額)の計算上算入される持ち合い株式の各価額は,所与の数値
を基にこの数式を用いて求めることができる。この方法によれば,一方の会
社の株式についてS1+S2方式によって得られた1株当たりの価額(ただ
し,S2の金額の計算上,法人税額等相当額を控除しないもの)が他方の会
社の総資産価額(相続税評価額)に算入される当該株式の1株当たりの価額
と一致し,相互に矛盾のない株式の価額を合理的に算出することができる。
つまり,相互に株式を持ち合う「株式保有特定会社」の株式の適正な時価を
求めるに当たっては,かかる計算方法によることが最も適切といえるのであ
る。
(2)そこで,被告別表14-1下段の数式を用いて計算したP2が有するP3
株式の価額に係る相続税評価額は1827億0508万0076円となり
(被告別表14-2右下のⅩの金額),P3が有するP2株式の価額に係る
相続税評価額は1862億9799万5106円となり(被告別表14-2
右下のYの金額),これらの金額を基に計算した本件各会社の各資産及び各
負債の金額は,それぞれ被告別表15及び16記載のとおりである。
(3)本件各会社株式に係る1株当たりの各類似業種比準価額(被告別表8及び
同10における各○29の金額)並びに各資産及び各負債の金額(被告別表15
及び同16)を基に,評価通達189-3(1)及び(2)所定の修正を加えた計
算過程は,被告別表17ないし20記載のとおりであり,結果として,S1
+S2方式に基づき計算したP2株式の1株当たりの価額は1万9002円,
P3株式の1株当たりの価額は6万4908円(被告別表18及び同20に
おける各○27の金額)となる。
したがって,本件相続に係る相続税の課税価格の計算上,本件相続人らが
本件相続により取得したものとして計算するP2株式64万6400株の価
額に係る評価額は122億8289万2800円,P3株式17万8200
株の価額に係る評価額は115億6660万5600円となる(被告別表5
順号1及び2の「評価額(円)」欄の金額)。
以上
(別紙3)
相続税額に関する原告らの主張
第1原告らの主張に基づく税額
1P2の株式保有割合
本件各会社がそれぞれ保有する資産を本件各異議決定及び本件各裁決に記載
されている価額で評価した場合でも(ただし,P2保有のP3株式は原則的評
価方式により評価した。),P2の株式保有割合は約18%にすぎず,大会社
を株式保有特定会社と評価すべき基準として評価通達189の(2)が定める2
5%を下回るので,P2は株式保有特定会社に当たらないことは明らかである。
また,上記の割合は,P2の株式保有割合を判定するに当たって,同社が保
有するP3株式を原則的評価方式により評価して算出されたものであるが,被
告主張のとおりP2保有のP3株式を株式保有特定会社の株式として評価した
としても,本件各会社の各資産の正しい評価額を反映させると,P2の株式保
有割合はやはり25%に達しないことになる。すなわち,P3の資産及び負債
の内容は,原告別紙1に記載したとおりとなるので,これに基づいて計算する
と,原告別紙2記載のとおり,S1の金額は682円,S2の金額は3万05
07円となり,その合計額は3万1189円となる。この価額は同社の1株当
たりの純資産価額3万2212円を下回るので,P3株式はS1+S2方式に
より1株3万1189円と評価すべきことになる。その上で,この価額にP2
が保有するP3株式の数である165万9240株を乗じると,その総額は5
17億5003万6360円となり,本件において原告らが主張するP2が保
有する他の資産の評価額をも加味すると,原告別紙3記載のとおり,P2が保
有する総資産の価額は3184億4610万9000円,株式等の価額は78
5億5159万円となり,P2の株式保有割合は約24.6%となる。
このように,いずれにしても,P2は,株式保有割合が25%以上の評価会
社ではないから,株式保有特定会社に当たらない。したがって,本件相続財産
中のP2株式は,原則的評価方式により評価すべきことになる。
2正しい税額
(1)税額
前記1のとおりP2株式を原則的評価方式により評価することを前提とす
ると,原告ら各人の納付すべき税額は,次のとおりとなる(原告別紙4及び
5参照)。これらの金額は,いずれも,本件申告書(乙3)に記載された金
額を下回るものであるので,本件各処分は,その全てにおいて違法であるも
のというべきであって,直ちに取り消されるべきである。
原告P117億4062万4400円
原告P127億3934万0400円
原告P137億4165万4200円
原告P147億3933万5200円
原告P157億4165万4200円
(2)計算根拠
前記(1)の結論に至る計算根拠につき,若干説明を補足する。
原告らが主張する取得財産の価額は,原告別紙6のとおりであるが,この
うち,被相続人である亡P1が保有していたP2株式64万6400株につ
いては,同社が株式保有特定会社に当たらない以上,その株式は類似業種比
準方式により算出することになるので,その評価額は,4653円(1株当
たりの評価額)×64万6400株=30億0769万9200円というこ
とになる。
P3株式については,株式保有特定会社の株式として評価することになる
ところ,P3が保有するP2株式は類似業種比準価額で評価するため,その
評価額は,上記の1株4653円のままであるが,本件における原告らの主
張を踏まえると,同社が保有する資産及び負債は原告別紙1の原告らの主張
欄記載のとおりとなる。これを基に,同社の1株当たりの純資産価額(法人
税額等相当額を控除したもの。)を算出すると,2万0208円となり,一
方,S1の金額が682円,S2の金額が1万8450円で,その合計額が
1万9132円となって,上記の1株当たりの純資産価額を下回ることにな
るので,同社を株式保有特定会社として評価した場合の価額(個人所有の場
合)は,1株当たり1万9132円となる(原告別紙7)。これに,亡P1
が保有していた株数17万8200株を乗じると,総額は34億0932万
2400円となる。
その他,P1が保有していた株式及びP17株式の正しい評価額(原告別
紙8及び9)をも反映させた上で原告らの相続税額を算出すると,前記(1)
記載のとおりの金額となる。なお,被告は,取得財産の価額の計算に当たっ
て,各相続人の特別受益を認定しているが,上記の計算に当たっては,特別
受益はないものとした。
3P2株式を株式保有特定会社の株式として評価した場合の税額
(1)税額
P2が株式保有特定会社に該当するとしても,本件各会社が相互に保有す
る株式の価額は,被告が主張する連立方程式を用いた評価方式ではなく,原
告らが確定申告時に用いた評価方式により評価されるべきであり,P2株式
を株式保有特定会社の株式として評価した場合における原告ら各人の納付す
べき税額は,それぞれ次のとおりとなる(原告別紙4及び10参照)。これ
らの金額も,本件申告書記載の金額を下回るので,やはり本件各処分はその
全てが違法となる。
原告P119億9419万6400円
原告P129億9281万0500円
原告P139億9526万4700円
原告P149億9281万0500円
原告P159億9526万4700円
(2)計算根拠
本件各会社が相互に保有する株式は,原告らが確定申告の際に用いた方式,
すなわち,以下の方法により評価した。
まず,P2株式の類似業種比準価額を基に,P3株式をS1+S2方式で
評価する。その価額は,既に述べたとおり1株当たり3万1189円となる。
続いて,この評価額を基に,P2株式をS1+S2方式で評価して,相続財
産中のP2株式の評価額とすることとなるが,その価額は,1株当たり1万
0144円となる(原告別紙11)。
その他の財産の評価は,前記2の場合と同様の評価とし,その上で,原告
らの相続税額を計算すると,それぞれ前記(1)のとおりの金額となる。なお,
P1が保有していたP16株式及びP17株式の評価については既に述べた
が,その他にP2及びP3が保有していた関係会社の株式についても,念の
ため評価明細書を添付して明らかにする(原告別紙12~16)。
以上

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