弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件訴えを却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた判決
一 原告ら
被告は東京都に対し一〇二一万四〇〇〇円を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 原告らの請求原因
一 原告らは東京都の住民であり、被告は昭和四四年八月から昭和四七年九月まで
東京都議会議長の職にあつたものである。
二 被告は、東京都議会議長に在職中、議会関係予算に基づく支出を適正に行うべ
き義務を負つていたにもかかわらず、これに違反して、東京都の公金合計一〇二一
万四〇〇〇円を次のとおり違法に支出した。
1 昭和四七年一月から同年四月までの間に、議会運営費のうち交際費(いわゆる
議長交際費)一六三万四二五六円、報償費八万円及び特別旅費一〇七万七五六〇円
について架空支出又は水増請求を行つて、これを裏経理の収入に計上し、その収入
を財源として法令上の根拠なしに各党対策費合計一四四万四〇〇〇円(その内訳は
別表(一)のとおりである。)及び幹部職員手当合計二二七万円(その内訳は別表
(二)のとおりである。)を支出した。
2 昭和四六年一二月四日特別旅費より六五〇万円を委託料に流用したうえ法令上
の根拠なしに国会対策費として支出した。
三 前項の各支出が違法である所以をふえんすれば、次のとおりである。
1 前項1の支出について
(一) 公金は会計諸規定に定められた手続に基づいて支出されなければならない
ところ、架空支出又は水増請求の方法により裏経理をつくり、これをもつて法定外
の支出にあてることは、もとより単なる予算の流用の問題ではなく、明らかに会計
上の手続に違反するものである。
(二) 公金は、予算に定められた目的のために使用されなければならない。した
がつて、本件の交際費及び報償費は議長が表意者として行う接待、贈答、餞別、慶
弔、賛助等の交際上要する費用のために支出されるべきものであり、また、特別旅
費は議員の出張に関する旅費及び費用弁償のために支出されるべきものである。し
かるに、被告が右交際費等によつて支出した各党対策費なるものは、その使途の実
態が不明で、いずれも右に述べた本来の目的以外の目的のために使用されている。
また、幹部職員手当なるものは、議長、副議長及び局長以下の議会局幹部に対して
毎月定例的に定額が渡し切りで支給されていたものであるが、これらは実質におい
て法令上の根拠のない手当の支給にほかならず、右交際費等としての本来の目的に
従つた支出とはいえない。
2 同2の支出について
(一) 東京都予算事務規則二〇条一項は「歳出予算の経費の金額は、各目の間ま
たは各節の間において相互にこれを流用することができない。」と規定し、同条二
項において、例外的に、歳出予算の執行上やむをえない場合に限つて、局長と財務
局長との協議により右流用をすることを認めているにすぎず、しかも、同条三項に
より、流用後は局長は直ちにこれを出納長及び財務局長に通知すべきものとされて
いる。しかるに、被告が特別旅費から流用した国会対策費六五〇万円については、
右に述べた流用の実体的及び手続的要件を欠いている。なお、右六五〇万円は、形
式上は特別旅費から委託料の科目に流用されたうえで支出されているが委託料支払
いの根拠となる委託契約もなんら存在しなかつた。
(二) 右六五〇万円の支出にあたつては、東京都会計事務規則七六条一項一〇号
及び一四号の規定による資金前渡の方法によつているが、後記(三)のような支出
の目的に照らせば、右各号に定める資金前渡の要件を充たしていないものというべ
きである。
(三) 本件国会対策費なるものは、真実は、年末に議長から都議会各党の議員に
対していわゆるお歳暮として渡されたものである。したがつて、その支出は使途に
おいても是認することのできない違法なものである。
四 被告は、以上のような公金の違法支出によつて東京都に対し合計一〇二一万四
〇〇〇円の損害を与えたものであるから、これを東京都に賠償する義務がある。
五 そこで、原告らは、昭和四七年九月二一日及び同年一〇月六日被告の右公金の
違法支出につき東京都監査委員に対し地方自治法二四二条一項に基づく監査請求を
行つたところ、同年一一月一六日付で監査結果が原告らに通知された。
六 しかしながら、原告らは、右監査結果及び監査委員のした勧告に不服があるの
で、同法二四二条の二に基づき被告に対し東京都が被つた一〇二一万四〇〇〇円の
損害を補填すべきことを求める。
第三 請求原因に対する被告の答弁
一 請求原因一の事実は認める。
二 同二のうち、議会運営費のうちから原告ら主張のとおりの各党対策費、幹部職
員手当及び国会対策費が支出されたことは認めるが、その余は否認する。
三 同三1の主張は争う。同2のうち、東京都予算事務規則中に原告ら主張のとお
りの規定があること、本件の国会対策費六五〇万円が特別旅費から委託料に流用さ
れたうえで資金前渡の方法により支出されたことは認めるが、その余は争う。
四 同四の主張は争う。
五 同五の事実は認める。
第四 被告の主張
一 東京都議会議長としての被告の行為は、地方自治法二四二条の監査請求及び同
法二四二条の二の住民訴訟の対象となるものではない。これらの規定によれば、監
査請求及び住民訴訟の対象となるのは、普通地方公共団体の長若しくは委員会若し
くは委員又は普通地方公共団体の職員の行為に限られているところ、議会の議長
は、普通地方公共団体の長、委員会若しくは委員ではないし、また、普通地方公共
団体の職員にもあたらないというべきだからである。
東京都議会議長の行為が監査請求又は住民訴訟の対象となるものでないことは、同
議長が公金の支出等をなしうる地位にないことからも、明らかである。すなわち、
地方自治法上、予算の執行権は普通地方公共団体の長に専属するとされており(同
法一四九条二号)、歳出予算に従つて支出を命令することは右予算の執行権に含ま
れるが、この支出命令に基づいて現金等を支払う出納事務は、出納長若しくは収入
役の権限に属するものとされている(同法一七〇条)。そして、普通地方公共団体
の長は、その権限に属する事務の一部を当該地方公共団体の吏員に委任することが
でき(同法一五三条一項)、東京都においては、議会局を含む各局に属する収入及
び支出の命令に関する事務は当該局の予算事務を主管する課長又は副参事に委任さ
れている(東京都会計事務規則二条一号、六条一号)。したがつて、東京都の議会
関係予算の支出は、当該予算を主管する議会局管理部経理課長の支出命令に基づき
出納長が現金等の支払いをすることによつて行われるのであつて、東京都議会議長
には右支出についてなんらの権限もないのである。
二 請求原因二1の支出について
1 原告らは裏経理の収入があつたかのように主張するが、その大部分は交際費、
報償費又は特別旅費として資金前渡を受けたものをその目的に従つて支出するため
に議会局管理部庶務課において一時保管していたものにすぎず、その保管や記帳の
仕方に東京都会計事務規則に適合しない点があつたとしても、支出自体までが当然
に違法となるものではない。
2 議会運営費のうちの交際費は、その使途につき法令上格別の制限があるわけで
はない。これから支出した本件の各党対策費は、議長と都議会各党との折動等の費
用にあてられたものであるから、もとより交際費としての目的の範囲内であるし、
また、幹部職員手当は、議長、副議長及び議会局幹部職員に対しそれぞれの職務上
の交際に要する費用として支給されたものであるから、これを交際費のうちから支
出しうることも当然である。
報償費については、原告らの主張する裏経理の収入に計上された八万円を超えて実
際に二八万二八四〇円の慶弔費が支出されているから、実質上他の目的に使用され
たとはいえない。
原告らの主張する特別旅費一〇七万七五六〇円のうち九二万円については、実際に
旅費として使用されている。残額につき所定の流用の手続をとることなく各党対策
費及び幹部職員手当にあてた点は東京都会計事務規則に違反するものであるが、そ
の支出目的までが違法であつたわけではない。
三 同二2の支出について
本件の国会対策費六五〇万円は、国に対する東京都関係予算獲得のための運動費と
して、被告が共産党を除く他の都議会各党に交付したものである。
右金員は、特別族費から委託料に流用したうえ委託料として支出されているが、こ
の流用については、東京都予算事務規則二〇条二項に基づく議会局長と財務局長と
の協議を経ている。なお、右流用にあたり形式上委託契約が存在しなかつたことは
原告ら主張のとおりであるが、議会局の委託料は、都の一般部局の委託料とは異な
り、議会運営費として使用されるものを予算編成上委託料の科目に計上するのが慣
例となつているのである。したがつて、委託料に流用して国会対策費を支出したこ
とは、なんら違法ではない。
四 被告は、本件の各党対策費のうち昭和四七年三月二七日の三〇万円、同年四月
三日の五万円、同年四月一九日の一〇万円及び幹部職員手当のうち議長分一〇〇万
円を受領して、これを議長としての交際費に使用したことはあるが、その他の支出
についてはなんら関与せず、その支出の事実すら知りえなかつたものである。
第五 被告の主張に対する原告らの反論
一 被告の主張一について
地方自治法が住民による監査請求及び住民訴訟の制度を認めたのは、地方公共団体
の公金等は住民の負担に係る公租公課によつて形成されたもので、住民全体の利益
のため管理、処分されるべきものであるから、地方公共団体の役職員が違法若しく
は不当にこれを管理、処分したときには、実質上その損害を被る住民自身のイニシ
アテイブによつて右違法、不当の行為を防止、匡正する措置を講ずる必要があり、
かつまた、これが憲法に定める地方自治の精神にも合致するからである。このよう
な立法趣旨にかんがみれば、監査請求及び住民訴訟の対象となる行為の主体は、同
法二四二条一項に列挙された者に限らず、地方公共団体の公金等の支出、管理、処
分等をなしうる地位にある者はすべてこれに含まれるものと解すべきである。
そこで、東京都議会議長が東京都の公金等の支出、管理、処分等をなしうる地位に
あるかどうかについてみると、東京都において議会関係予算の支出命令に関する事
務が知事から議会局管理部経理課長に委任されていることは被告主張のとおりであ
るが、予算の執行としては、支出命令の前提としてまず支出の原因となるべき契約
その他の行為すなわち地方自治法二三二条の三にいう支出負担行為がなされるので
あり、議会関係予算については、この支出負担行為は議会局の庶務の一環として処
理され、事案の決定を行う際にその所要経費の支出も同時に決定されるごととなつ
ているのである。そして、議会局の庶務については、議長の命を受けた局長がこれ
を掌理して所属職員を指揮監督し、また、局長は議会局の庶務につき議長に報告し
なければならず(同法一三八条七項、東京都議会議会局処務規程五条)、更に、局
長その他の議会局職員の任免は議長の権限とされている(同法一三八条五項)。こ
れらの規定によれば、議会局の庶務を統理する立場にある議長は、議会局の庶務の
一環として処理される議会関係予算の支出負担行為についても、局長その他の職員
を指揮してこれを統理する責任と義務を負うものであることが明らかである。そし
て、右支出負担行為は、その内容及び手続において法令又は予算の定めるところに
従つて適正に行われなければならないのであるから(同法二三二条の三)、結局、
議長は、議会局に配当された予算の執行につき、自ら支出負担行為を適正に行うべ
きことはもちろん、局長以下の処理についてもそれが適正に行われるよう指揮監督
する責任と義務を負つているものといわなければならない。
このように、議長が議会関係予算の執行にあたり支出負担行為を統理すべきもので
ある以上、公金の支出、管理、処分等をなしうる地位にあるものとして、監査請求
及び住民訴訟の対象となる行為の主体に含まれると解すべきである。
二 同四について
被告が本件支出の大部分に関与しなかつたとの主張は否認する。交際費、報償費及
び特別旅費の支出にあたつては支出決定原議及び支出伺が作成され、また、資金前
渡を受けた交際費の清算については前渡金支払明細書が作成され、これらのそれぞ
れについて被告が議長として決裁を行つていたのであるから、その支出を知らない
はずはなく、むしろ、被告から進んで裏経理からの支出を積極的に指示したものも
存在する。
第六 証拠(省略)
○ 理由
本訴は、被告が東京都議会議長として東京都の公金合計一〇二一万四〇〇〇円を違
法に支出し、同額の損害を東京都に被らせたとして、地方自治法二四二条の二の規
定に基づき右損害の補填を求める住民訴訟である。
しかし、当裁判所は、東京都議会議長としての被告の行為は右住民訴訟の対象とな
るものではないと考える。その理由は次のとおりである。
一 地方自治法二四二条及び同条の二の規定によれば、住民訴訟は、普通地方公共
団体の長若しくは委員会若しくは委員又は普通地方公共団体の職員について、違法
な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは
債務その他の義務の負担があると認めるとき又は違法に公金の賦課若しくは徴収若
しくは財産の管理を怠る事実があると認めるときに、これを提起することができる
ものと定められている。すなわち、住民訴訟の対象となる行為の主体としては、普
通地方公共団体の長、委員会、委員又は職員の四者が法定されているのであつて、
住民訴訟が法律の規定によつて特に認められた民衆訴訟であることに照らせば、右
の定めは限定列挙であると解される。
ところで、議会の議長が普通地方公共団体の長、委員会及び委員のいずれにもあた
らないことは明らかである。問題は普通地方公共団体の職員にあたるかどうかであ
るが、地方自治法の規定の仕方や用語例から考えると、右にいう職員とは、副知事
及び助役(同法一六一条以下)、出納長及び副出納長、収入役及び副収入役(同法
一六八条)、出納員その他の会計職員(同法一七一条)、吏員その他の職員(同法
一七二条、一七三条)、特別の資格又は職名を有する職員(同法一七三条の二)、
議会事務局の事務局長、書記長、書記その他の職員(同法一三八条)、各委員会の
事務局長、書記長、書記その他の職員(同法一八〇条の五、一九一条、二〇〇条、
地方公務員法一二条、地方教育行政の組織及び運営に関する法律一九条、土地収用
法五八条等)を指すものであり、立法機関たる議会の議長、副議長その他の議員を
含まないと解するのが相当である。それゆえ、議会の議長の行為は、形式上、住民
訴訟の対象として法定されたものにあたらない。
二 次に、地方自治法一四九条によれば、普通地方公共団体における予算の執行そ
の他の財務会計に関する事務は、法令に別段の定めのあるものを除き、すべて当該
地方公共団体の長の権限に属するものと定められている。これを予算の執行につい
ていうと、成立した予算に基づいて、歳入を収入し、支出の原因となるべき契約そ
の他の行為(同法二三二条の三にいう支出負担行為)をし、支出を命令し、あるい
は債務負担行為(同法二一四条)に基づく債務負担をし、経費の流用をする等予算
を実行するための一切の手続の執行権は、地方公共団体の長に専属するものであり
(同法一四九条二号)、支出の手続のうち支出命令に基づく現金の出納事務だけ
が、長の予算執行権から分離されて出納長又は取入役の職務権限とされているので
ある(同法一七〇条)。
これらのことは、議会関係の予算の執行(支出負担行為を含む。)その他の財務会
計に関する事務についても全く同様であつて、議会が執行機関に依存することなく
自主的に活動をするからといつて、議会関係の財務運営までが議会の議長や議会局
職員の権限とされているわけではない。もつとも、地方公共団体の長は、その権限
に属する事務の一部を長の補助機関たる当該地方公共団体の吏員に委任し又は代理
させることができるので(同法一五三条一項)、議会局職員につきこれを吏員に併
任したうえで、その吏員としての資格においてこれに議会関係予算の執行その他の
財務会計に関する事務を委任し又は代理させることは可能であるが、議会の議長に
ついては、その地位にかんがみ、これに対して右のような委任をし又は代理をさせ
ることは法の予定するところではないと考えられる。けだし、議会の議長はもとよ
り地方公共団体の吏員ではないし、これに対する右のような委任又は代理は立法機
関と執行機関の権限分立の建前にもそわないからである。東京都における議会関係
予算の執行についてみても、、その支出の命令に関する事務は、東京都会計事務規
則二条一号、六条一号及び東京都議会議会局処務規程三条の規定によつて、知事か
ら議会局の予算事務を主管する同局管理部経理課長に委任されており、議会関係予
算の支出は右経理課長の支出命令に基づき出納長が現金等の支払いをすることによ
つて行われることとなつている。また、右支出の原因となるべき支出負担行為につ
いては、東京都議会局の所掌に係る事項に関する契約の委任等に関する規則等によ
り、知事から議会局職員に委任されているが、議会の議長がその資格においてなん
らかの支出負担行為をする職務権限をもつことを認めた規定は存在しない。
してみると、議会の議長は、制度上、地方公共団体の支出負担行為をも含む予算の
執行その他の財務会計上の事務を担任する権限ないし地位を有するものではないと
いうほかなく、そうであるとすれば、かかる議長のする行為が一般的に住民訴訟の
対象にならないとすることは、財務会計上の事務処理の非違是正を狙いとする住民
訴訟制度の趣旨からしても首肯しうるところというべきである。
三 原告らは、議会関係予算に基づく支出負担行為は議会局の庶務の一環として処
理され、議会の議長はこれを指揮監督するものであるから、議長が公金の支出等を
なしうる地位にあることは明らかであると主張する。
地方自治法の規定によれば、議会の議長は議会の事務を統理し(同法一〇四条)、
議会局長は議長の命を受けで議会の庶務を掌理することとされている(同法一三八
条七項)。それゆえ、議会局における事案の決定につき議長が指揮監督の権限を有
することは明らかである(東京都議会議会局処務規程九条以下参照)。しかしなが
ら、議長の指揮監督のもとに議会の庶務として行われる事案の決定(例えば、特定
物品の購入を決定したり、あるいは具体的な交際、報償等の実施及びそのための費
用額を決定したりすること)と、右決定に基づいてされる予算執行上の支出負担行
為(例えば、特定物品につき売買契約を締結したり、あるいは予算中から交際費、
報償費等として一定額を支出することを決定したりすること)とは、制度上これを
区別することを要する。前述したとおり、支出負担行為を含む議会関係予算の執行
は、議会局の固有の事務ではなく、議会局職員が地方公共団体の吏員としての資格
で地方公共団体の長から委任(代理を含む。)された事務であるから、右支出負担
行為については、受任者たる議会局職員は委任者たる地方公共団体の長江指揮監督
に服すべき筋合のものであり、議会の議長には右支出負担行為自体を直接に指揮監
督する権限はないといわなければならない。実際問題としては、議長が費用の出捐
を伴う事案の決定をしたときは、それに続く支出負担行為についても事実上なんら
かの影響を及ぼすことがありうることは否定しえないとしても、地方自治法の規定
によれば、支出負担行為をする職員は、法令又は予算の定めるところに従つてこれ
をしなければならず(同法二三二条の三)、右職員が故意又は重大な過失により法
令の規定に違反して支出負担行為をし地方公共団体に損害を与えたときは、その損
害を賠償しなければならない(同法二四三条の二第一項)とされているのであり、
この点からみても、支出負担行為は事案の決定とは別個にこれから独立して行うべ
きことが要請されていることは明らかである。右両者を一体視する原告らの前記主
張は、前提において失当というほかはない。
なお、本件当時の東京都議会議会局における交際費等の支出又は使用の手続は、成
立に争いのない甲第五号証の一ないし四〇、第六号証の一ないし三一、第七号証の
一六いし二二、第八、第九号証の各一ないし三一、第一〇号証の一ないし一二、第
一一号証の一ないし四、第一二号証の一ないし三、証人A、B、同C、同Dの各証
言と東京都会計事務規則の関係規定とを総合すれば、おおむね次のようなものであ
つたことが認められる。すなわち、(一)交際費については、議会局管理部庶務課
長が毎月初めに当該月の大体の必要額につき支出決定原議(例えば甲第五号証の
二)を作成し、同課長名義の資金前渡請求書に経理課長の支出命令を得たうえ、み
ずから資金前渡受者として現金を受領、保管し、具体的な交際の必要を生じた都
度、その支出金額、支出先、支出理由等を記載した支出伺(例えば同号証の四)に
つき議長、議会局長らの決裁を受けて、右保管金から必要額を使用する者に交付す
る(ただし、実際には右支出伺に対する議長の決裁印は月末か翌月初めに一括して
押されることが多かつた。この点は次の報償費の支出伺についても同様であ
る。)。(二)報償費については、慶弔、賞賜等の必要を生じた都度、前同様の支
出伺(例えば甲第一〇号証の三)につき議長、議会局長らの決裁を受けたうえで、
庶務課長が支出決定原議(例えば同号証の二)を作成し、同課長名義の資金前渡請
求書に経理課長の支出命令を得、みずから資金前渡受者として現金を受領し、使用
する者に交付する。(三)議員旅費としての特別旅費については、庶務課人事係長
が出張者、出張先、出張用務、出張期間及び出張費用等を記載した支出決定原議
(例えば甲第一二号証の二、三)を作成して議長、議会局長らの決裁を受け、同係
長名義の資金前渡請求書に経理課長の支出命令を得たうえ、みずから資金前渡受者
として現金を受領し、出張者に交付する。(四)委託料については、経理課長が支
出決定原議(甲第一一号証の二)を作成し、議会局長の決裁を得たうえ、同課長名
義の資金前渡請求書によりみずから資金前渡受者として現金を受領し、使用する者
に交付する。以上のとおりであつたことが認められ、これに反する証拠はない。
右事実によると、東京都議会議会局においては、交際費、報償費及び特別旅費の支
出又は使用には議長の決裁を必要としていたことが明らかであるが、前述のように
事案の決定と支出負担行為とは区別すべきものであることから考えると、議長の右
決裁は、具体的な交際、報償、出張の実施とそれに要する費用額等を確定するとい
う意味における事案の決定について議会の事務統理者としてする指揮監督権の行使
にほかならず、それ以上のものではないと解するのが相当である。右議長の決裁が
実際上議会局職員の行う支出負担行為に影響していたとしても、そのゆえに、議長
が右支出負担行為そのものを指揮監督する関係にあつたとすることはできない。
これを要するに、東京都議会議長は、予算の執行として東京都の公金の支出をなし
うる地位にはなかつたといわざるをえないのである。
以上の理由により、東京都議会議長としての被告の行為は、住民訴訟の対象たりえ
ないものと解すべきである。本件において原告らの主張するような議会関係予算の
違法な支出を是正するためには、その支出負担行為を含む予算執行権を知事から委
任されている議会局職員の行為又は右支出負担行為の確認(同法二三二条の四第二
項)を怠つた出納長の行為をとらえて住民訴訟を提起することが可能であり、議長
の行為をその対象に含ましめなくても、是正の目的を達しえなくなるものではな
い。
よつて、本件訴えは法定の被告適格を有しない者に対する訴えとして不適法という
べきであるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法
七条、民事訴訟法八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤 繁 中根勝士 菊池洋一)
別表(一)、(二)(省略)

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