弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を取消す。
     原判決別紙第一、第二、第三目録記載の各物件は控訴人の所有であるこ
とを確認する。
     被控訴人は控訴人に対し右第一目録記載の貨物自動車につきその所有名
義変更登録手続をなし、同第二、第三目録記載物件とともにこれを引渡せ。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、
 被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張は、
 控訴代理人において、
 一、 控訴人が本件手形保証債務を履行したときは、本件譲渡担保物件は控訴人
において任意に処分して本件求償債権の弁済に充当し得る特約があつたから、その
特約により控訴人は本件物件の所有権を確定的に取得したのでこれが引渡及び原判
決別紙第一目録記載の貨物自動車については、道路運送車輌法第十三条第三十九条
自動車登録令第十条第十一条の規定により、その名義変更登録手続を求めるもので
ある。
 二、 手形行為は一般に会社がその営業のために為し得る行為であるから、会社
の目的の範囲内の行為である。従つて被控訴会社の金千二百万六百三十八円五十一
銭の本件約束手形の振出行為が被控訴会社の目的の範囲内の行為であること論ずる
までもない。手形保証人の債務は被保証人の債務とは独立し、被保証債務の形式上
の瑕疵を除き、被保証人に属する他の如何なる抗弁をもつてしても、自己の債務の
履行を拒むことはできない。
 従つて本件約束手形の振出の原因たる繊維類買受契約につき、仮りに被控訴人主
張のような人的抗弁事由が存在したとしても、控訴人は手形所持人に対し右人的抗
弁事由をもつてしては、保証債務の履行を拒否することができない。
 よつて控訴人は手形所持人たる訴外繊維貿易公団との和解によつて手形保証債務
を消滅せしめ、同公団より本件手形の交付を受けたので被保証人たる被控訴人に対
し、その求債権として、本件手形金債権を原始的に取得したものである。
 本件譲渡担保契約は右有効に取得した求債権としての手形債権の弁済確保のため
締結されたものであつて、有効なること勿論である。
 被控訴代理人において、
 一、 仮りに控訴人主張のような譲渡担保契約が成立したとするも、それは控訴
人より被控訴人が金八百万円の融資を受ける約束があつたので、その融資の担保と
して本件契約を締結したものであるから本件は法律行為の要素に錯誤があり、従つ
て無効である。
 二、 仮りに本件手形保証が有効であるとするも、控訴人は手形債権者たる前記
公団との間における和解契約によつて本件手形債務を消滅せしめ、金額及び支払方
法を異にする別個の普通金銭支払債務に更改した。その結果基本債務たる手形債務
の消滅によりその従属的手形保証債務も同時に消滅したものである。従つて手形法
第三十二条第三項による手形債務の支払を履行したものではないから、手形上の求
償権は発生しない。
 三、 被控訴人は控訴人が訴外公団との間において前記の裁判上の和解を為すに
当つて本件手形行為の原因行為たる売買契約は無効だから右和解には異議がある
旨、控訴人に対し通告し、控訴人もその事実を知悉していたのであるから、本件求
債権の請求には応ぜられない。
 控訴代理人において、
 一、 右被控訴人の錯誤による無効の抗弁は否認する。
 二、 手形法第三十二条第三項に謂うところの「支払」とは民法第四百五十九条
第一項に謂うところの「弁済その他自己の出捐を以つて債務を消滅せしむべき行
為」と同一の意味であつて狭義の弁済の外更改代物弁済等を含むと解すべきものだ
から右控訴人の二の抗弁はその理由がない。
 三、 なるほど控訴人は当初訴外公団に対し本件手形振出の原因たる繊維類の売
買契約が要素の錯誤による無効なものであるとの被控訴人の主張に同調して共同戦
線を張つて争つたことは認める。
 しかしながら約束手形に保証を為した以上、そのような原因関係上の事由の主張
は法律上認められないので、控訴人は右公団との間に前記のように裁判上の和解を
したものである。
 従つて手形保証人たる控訴人が被控訴人に対して有する求償権たる本件手形上の
権利は独立のものであつて、主たる債務者たる被控訴人が所持人たる公団に対し有
する人的抗弁をもつて対抗されない権利であるから右被控訴人の三の抗弁も理由が
ない。
 とそれぞれ陳述した外は、原判決事実摘示と同一(但し被控訴会社が控訴人主張
のようにその定款を変更したことを争うとあるは争はないと訂正する。)であるか
らここにこれを引用する。
 証拠として、
 控訴代理人は、甲第一号乃至第七号証、第八号証の一乃至六を提出し、原審並び
に当審証人A、B、C、当審証人D、E、Fの各証言を援用し乙第五号証中官署作
成の部分は成立を認めるが、その余は不知、その他の同号各証はその成立を認める
と述べた。
 被控訴代理人は、乙第一号証、第二号証の一乃至四、第三号証の一、二、第四乃
至第六号証、第七号証の一、二、三を提出し原審証人F(第一、二回)、G、H、
I、当審証人J、K、原審並びに当審証人L、M(原審は第一、二回)の各証言を
援用し、甲第一、二号証、第四、五号証は成立を認めるが、その他の同号各証は不
知と述べた。
         理    由
 一、 控訴人が被控訴人の訴外繊維貿易公団(以下公団と略称する。) に対す
る繊維買受代金の内金千二百万六百三十八円五十一銭の支払につき、手形保証をし
たことは当事者間に争がない。
 右争のない事実に成立に争のない甲第一、二号証、第四、五号証、当審証人Cの
証言により成立を認める甲第三号、第六号証、真正に成立したと認める甲第七号証
(公文書)、原審並びに当審証人B、A、C、当審証人Dの各証言を綜合すると、
被控訴人が昭和二十四年八月頃右公団関西支部より繊維類を買受け、その代金合計
二億四千万円余の支払のために振出した約束手形二十五通につき控訴人は手形保証
を為したものであるがその保証に当り同年同月二十七日被控訴人は買受繊維類の処
分方法につき控訴人の承諾を得ることその売却代金、受取手形類はすべて控訴人の
管理に移すこと、被控訴人はその所有物件一切を右手形保証の担保に供することと
し、訴外Mは被控訴人の連帯保証人として手形保証により発生することあるべき求
償債務につき、その所有の不動産その他一切の財産を担保に供することの契約を締
結した。
 然るに被控訴人は右約旨に違背して、その後繊維類を無断に処分し又は売却代金
を控訴人の管理に移さない等の所為があつたので、控訴人は昭和二十五年三月二十
三日前記手形保証債務支払により将来発生すべき被控訴人に対する求償債権中金千
二百万円についてその支払担保のため、右契約に基き訴外M等の不動産及び動産に
ついて抵当権、質権を設定したものであるが更に同年六月二十三日被控訴人所有の
原判決別紙第一、第二、第三目録記載の各物件及びその他の自動車等をもつて右求
償権の増担保と為すこととし被控訴人はこれを控訴人に譲渡し、同日その引渡を了
した上改めて被控訴人が使用貸借することとし若し控訴人が右手形保証債務を履行
し求償債権が発生したときは右物件を控訴人において任意処分して弁済に充当し得
る旨の譲渡担保契約を締結してこれが公正証書を作成したものである。
 然るところその後被控訴人が右約束手形の支払をしなかつたため、控訴人は公団
より手形金支払請求の訴を大阪地方裁判所に提起せられたので昭和二十六年九月十
五日公団と裁判上の和解を為しその結果手形保証債務を控訴人固有の債務に更改す
ることによりこれを履行して本件手形二十五通の交付を受け、本件金千二百万円の
求償債権が成立したものであることが認定せられる。
 右認定に反する原審並びに当審証人F、M、L、原審証人H、I、当審証人J、
Kの各証言は措信できず、その他被控訴人提出の証拠によつては、右認定を左右す
ることはできない。
 二、 被控訴人は控訴人主張の譲渡担保契約が仮りに成立したとしても、当時控
訴人より金八百万円の融資を受ける約束があつたので、その借入金の担保のために
右契約を締結する意思であつたからその意思表示は法律行為の要素に錯誤があり無
効であると抗弁するので按ずるに、被控訴人援用の前掲証人L、F、M、I、Kの
各証言によると、被控訴人が控訴人より金八百万円程度の融資を受ける約束があつ
た旨窺われるがそれらの証言は前掲被控訴人提出援用の証拠に照すと到底措信でき
ない。
 従つて右被控訴人主張の錯誤の抗弁は肯認せられない。
 三、 被控訴人は公団と被控訴人間の本件繊維類の売買契約は被控訴会社の目的
外の行為であるから無効である。又被控訴会社は資本金十九万五千円であるのにそ
の千数百倍に当る二億数千万円に達する巨額の取引は法人の能力を著しく超過する
不健全な行為で公序良俗に反し無効である。更に目的物件たる商品は粗悪品で且つ
一部は公定価格違反のものもあつて被控訴人側に売買契約の締結について意思表示
に要素の錯誤があつたから無効である。
 以上の理由で右売買契約はいずれにしても無効であつて被控訴人には代金支払義
務がない。
 従つて被担保債務は成立しないのであるからこれが手形保証も無効である旨抗弁
するので審究するに、手形行為は一般に商事会社がその営業のために為し得る行為
であるから会社の目的の如何にかかわらず常にその範囲内の行為である。
 従つて被控訴会社が公団宛振出した本件金千二百万六百三十八円五十一銭の約束
手形も被控訴会社の目的の範囲内の行為であること勿論である。
 而して手形行為は、その原因関係の有効無効にかかわらずこれとは独立に有効で
あることは手形法第七条の規定に徴するも明瞭である。されば仮りに被控訴人主張
のように本件手形の原因関係たる売買契約が無効であり、従つてその代金債務も発
生しないとしてもその代金債務弁済のために振出した本件手形はこれがために無効
となることはあり得ない。
 この理は手形保証においても当然認容せられるところである。
 即ち保証は主たる手形債務の存在を前提とはするがその主たる債務の存在は形式
的であつて実質上の存在たるを要しない。
 手形法第三十二条第二項は「保証は其の担保したる債務が方式の瑕疵を除き他の
如何なる事由によつて無効なるときといえども之を有効とする」と規定してあつ
て、疑を容れる余地はない。
 而して被控訴人において本件手形の振出行為に形式上の瑕疵があつて主たる手形
債務が成立しない旨の主張も立証もしないのであるから、被控訴人の右抗弁は理由
なきものと謂わねばならない。
 四、 被控訴人は、控訴人は公団との間に裁判上の和解によつて、本件手形償務
を自己の固有債務に更改してこれを消滅させたものであつて、手形債務を支払つた
ものではないから求債権は発生しない旨抗弁する。
 <要旨第一>手形保証人がその債務を履行したときには、法は保証人を保護して
「保証せられたる者及其の者の為替手形上の債務者に対し為替手形より
生ずる権利を取得す」るものと規定し、民法上の代位とは異なり独立に原始的に手
形債権を取得せしめている。これは遡求義務者がその義務を償還した場合に更に前
者に遡求し得ると同一の趣旨によるものであるから、その主たる債務の支払は金銭
債務履行の一般原則に従つて手形金額の支払代物弁済相殺更改自己の出捐を以つて
債務を消滅せしめたるときは法律上当然主たる債務者に対し手形上の権利即ち求償
権を取得するものとしたのである。
 而も尚控訴人が所持人たる公団より裁判上の和解により本件手形を受戻し、且つ
公団に対し既に金一億五千万円もの支払を了せること当審における証人藤田喜志雄
の証言及びその証言により成立を認める甲第八号証の一乃至六により明かである。
 然らば被控訴人の右抗弁も理由がない。
 五、 被控訴人は、更に控訴人は本件売買契約の無効なることを知悉しながら、
手形保証を為し、又被控訴人の意思に反し裁判上の和解により手形債務を消滅させ
たものであるから、斯かる場合には求償権は行使できない旨主張するので、この点
について検討する。
 <要旨第二>保証人の求償権は前述のように独立に原始的に取得するものである
が、その権利の内容は所持人の権利を法律上承継するものである。然し
ながら、それは前者の抗弁が拭いさられたものであつて、被保証人は所持人に対し
て有する人的抗弁をもつて保証人に対抗することのできないものである。控訴人が
本件手形保証をする際にその原因関係につき被控訴人主張のような無効原因を知悉
していたこと即ち控訴人に害意ありとの点については、これを証するに足る証拠は
何一つない。
 尤も控訴人が本件手形債務の履行に当つて、公団との間に裁判上の和解を為す際
には、被控訴人主張のように持参人たる公団に対する被控訴人の人的抗弁事実を知
つていたことは、控訴人の自認するところであるが、保証人たる控訴人は前述のよ
うに手形行為独立の原則により、主たる債務者たる被控訴人が公団に対し有すると
主張する抗弁をもつて、自己の債務の履行を拒否する抗弁と為し得ない関係上、公
団の請求には応ぜざるを得ないものであつた。それ故に又保証人たる控訴人は前記
のように、被保証人たる被控訴人に対し十全な求償権を取得することとなるもので
ある。
 然らば被控訴人の右主張は独自の見解であつて採用する限りでない。
 原判決別紙第一目録記載の貨物自動車二台が被控訴人名義に登録されていること
及び同第二目録、第三目録記載の物件とともに被控訴人がこれを占有していること
については当事者間に争がない。
 然らば、控訴人が被控訴人に対し、右各物件の所有権の確認と、第一目録記載の
貨物自動車について、その名義変更のための移転登録手続及び第二、第三目録記載
の物件とともにその引渡を求める本訴請求は相当であるからこれを認容すべきもの
とする。
 右認定に反する原判決は失当であるからこれを取消すべきものとする。
 よつて民事訴訟法第三百八十六条第八十九条第九十六条に従つて主文のとおり判
決する。
 (裁判長判事 石丸友二郎 判事 萩原敏一 判事 呉屋愛永)

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