弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主          文
1 被告は,海部津島環境事務組合の職員であるAに対して同組合から退職手当金を
支給する際,同人の愛知県海部郡弥富町職員としての在職期間を通算して同手当
金の支出を命じてはならない。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
   主文同旨
第2 事案の概要
  本件は,地方自治法上の一部事務組合である海部津島環境事務組合(以下「本件
組合」という。)を設置した市町村の住民である原告らが,同組合の管理者である被
告に対し,同組合の職員であるAが退職するに際し,同人がかつて勤務していた愛知
県海部郡弥富町の職員としての在職期間を通算して退職手当金の支出命令(以下
「本件支出命令」という。)を発することが違法であると主張して,同法292条,242条
の2第1項1号に基づき,その差止めを求めた住民訴訟である。 
 1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)
  (1) 当事者等
ア 津島市及び愛知県海部郡の4町(蟹江町,弥富町,佐屋町,佐織町)は,昭
和39年6月18日,ごみを衛生的,効率的に処理するために「津島市ほか四
町衛生組合」を設立した。同組合は,昭和51年11月15日,同郡の7町村(七
宝町,美和町,大治町,十四山村,飛島村,立田村,八開村)の参加を得るこ
とにより,「津島市ほか十一町村衛生組合」に組織変更された。他方,津島市
及び同郡の7町村(蟹江町,十四山村,飛島村,弥富町,佐屋町,立田村,佐
織町)は,昭和41年9月13日,し尿の共同処理のために「海部津島衛生組
合」を設立し,さらに,昭和48年3月1日,同郡の4町村(七宝町,美和町,大
治村(現大治町),八開村)の参加を得た。その後,上記市町村は,平成12年
4月1日,これらの管理運営等を効率的に行うために,海部津島衛生組合を
解散して,その事務を「津島市ほか十一町村衛生組合」に統合し,名称を現在
の「海部津島環境事務組合」に変更した(乙6。以下,名称変更の前後を通じ
て「本件組合」という。)。
イ 原告らは,いずれも本件組合を設置した市町村の住民である。
ウ 被告は,本件組合の管理者として,退職金の支出を命ずる権限を有する者
である。
  (2) 本件に至る経緯
ア Aは,昭和50年1月1日,弥富町の事務吏員として採用された後,昭和54
年11月から昭和60年3月31日までの間,同町から本件組合に派遣され,庶
務係長,企画調整係長として勤務した。その後,同人は,派遣期間満了に伴
って弥富町に戻り,総務係長(監査委員事務局書記,選挙管理委員会書記併
任),民生部衛生係長(弥富町他4町村伝染病隔離病舎組合書記併任),民
生部衛生課長を歴任した(甲5,乙1,弁論の全趣旨)。
イ 本件組合は,平成2年3月14日,当時,弥富町の民生部衛生課長であった
Aを同年4月2日付けで採用することを決め,同町長に対し,割愛を依頼した
(同日付2津十一衛第103号。甲5,乙1)。
ウ 弥富町長によって上記割愛が承認されたことを受けて,本件組合の当時の
管理者は,Aについて,平成2年4月2日付けで採用の辞令を発令すること,
退職手当の計算の前提となる勤続期間について,同人が弥富町を退職時に
支給された退職手当の額を納付した場合には,弥富町における在職期間を
本件組合の在職期間に通算することを,平成2年3月29日付けで,決裁した
(甲8。同書証中に「平成元年3月14日付」,「平成元年4月2日付」とあるの
はいずれも明らかな誤記と認められる。また,原告らは,同書証中の決裁年
月日等が虚偽である旨主張するが,この主張を認めるに足りる証拠はな
い。)。
エ 弥富町長は,平成2年3月31日付けでAが同町を辞職することを承認し(甲
7),他方,本件組合は,同年4月2日付けでAを本件組合の事務吏員として
採用し,同人に対し副主幹(総務担当)を命じた(甲9)。
オ Aは,平成2年4月27日,愛知県市町村職員退職手当組合長あてに,弥富
町長による証明書付きの退職手当請求書及び添付書類を提出した(甲5,
6)。同組合長は,同年5月28日,裁定給料月額を26万5600円,在職期間
を昭和50年1月1日から平成2年3月31日までの15年3月として,Aの退職
手当額329万3440円を算出,裁定し(甲10),翌日,同金額をAに支給した
(弁論の全趣旨)。
カ Aは,平成2年6月28日,上記退職手当金に相当する金額を本件組合に納
入し,同組合は,いったんは同金員を雑収入として計上した。その後,同組合
議会は,同年10月9日,上記329万3440円を退職手当基金積立金として
計上する補正予算案を可決,成立させ(乙2,3),さらに,平成3年10月31
日,その内容を含む決算を承認した(乙4)。
ク原告らは,平成15年7月7日,本件組合監査委員に対し,被告が本件支出
命令を発することの差止め等を求めて住民監査請求をしたが(甲1),同監査
委員は,同年8月25日,同請求を棄却(一部却下)するとの決定をし(甲2),
原告らにその旨通知した。
  (3) 関係条例(抜粋)
ア 津島市ほか十一町村衛生組合の給料,旅費,退職年金,退職一時金その
他給与に関する条例(平成12年3月10日条例第21号改正前の昭和42年2
月10日条例第1号。以下「本件組合旧条例」という。甲1)
   (趣旨)
    第1条 この条例は,地方自治法(昭和22年法律第67号)第204条並びに第2
05条の規定に基づき,組合職員に対して支給する給料,手当,旅費
等について必要な事項を定めるものとする。
   (給料,手当,旅費等の額及び支給方法)
    第2条 津島市ほか十一町村衛生組合職員の給料,旅費,退職年金,退職一時
金その他給与の額及び支給方法は,津島市職員の例による。
イ 海部津島環境事務組合職員の給料,旅費,退職年金,退職一時金その他
給与に関する条例(平成12年3月10日条例第21号により,本件組合旧条例
を改正したもの。以下「本件組合条例」という。乙8)
   (趣旨)
    第1条 この条例は,地方自治法(昭和22年法律第67号)第204条並びに第2
05条の規定に基づき,組合職員に対して支給する給料,手当,旅費
等について必要な事項を定めるものとする。
   (給料,手当,旅費等の額及び支給方法)
    第2条 海部津島環境事務組合職員の給料,旅費,退職年金,退職一時金その
他給与の額及び支給方法は,津島市職員の例による。
ウ 津島市職員の退職手当に関する条例(昭和29年9月28日条例第22号。以
下「本件条例」という。甲3)
第1条,第2条,第2条の2 略
(普通退職の場合の退職手当)
    第3条 次条又は第5条第1項若しくは第2項の規定に該当する場合を除くほか
退職した者に対する退職手当の額は退職の日におけるその者の給料
(略)の月額(略)にその者の勤続期間に次の各号に区分して当該各号
に掲げる割合を乗じて得た額の合計額とする。
(1) 1年以上10年以下の期間については1年につき100分の100
     (2) 11年以上20年以下の期間については,1年につき100分の1 10
     (3) 21年以上24年以下の期間については,1年につき100分の1 20
     2 略
    第4条 25年以上勤続して退職した者(略),20年以上25年未満の期間勤続し
て退職した者(略)又は勤務公署の移転により退職した者であって任命
権者が市長の承認を得たものに対する退職手当の額は退職の日におけ
るその者の給料月額にその者の勤続期間を,次の各号に区分して当該
各号に掲げる割合を乗じて得た額の合計額とする。 
(1) 1年以上10年以下の期間については,1年につき100分の12 5
     (2) 11年以上20年以下の期間については,1年につき100分の1 37.5
     (3) 21年以上30年以下の期間については,1年につき100分の1 50
(4) 31年以上の期間については,1年につき100分の125
2 略
第5条,第5条の2ないし4,第6条 略
  (勤続期間の計算)
    第7条 退職手当の算定の基礎となる勤続期間の計算は職員として引き続いた
在職期間による。
2前項の規定による在職期間の計算は職員となった日の属する月から,退職し
た日の属する月までの月数による。
     3 職員が退職した場合(略)において,その者が退職の日又はその翌日に再び
職員になったときは,前2項の規定による在職期間の計算については引
続いて在職したものとみなす。
     4 略
5第1項に規定する職員としての引き続いた在職期間には,職員以外の地方公
務員又は国家公務員(国家公務員退職手当法(昭和28年法律第182
号)第2条に規定する者をいう。以下同じ。)(以下「職員以外の地方公務
員等」と総称する。)が引き続いて職員となったときにおけるその者の職
員以外の地方公務員等としての引き続いた在職期間を含むものとする。
この場合において,その者の職員以外の地方公務員等としての引き続
いた在職期間については,前4項の規定を準用して計算するほか,次の
各号に掲げる期間をその者の職員以外の地方公務員等としての引き続
いた在職期間として計算するものとする。ただし,退職により,この条例
の規定による退職手当に相当する給与の支給を受けているときは,当該
給与の計算の基礎となった在職期間(当該給与の計算の基礎となるべき
在職期間がその者の在職した地方公共団体等の退職手当に関する規
定において明確に定められていない場合においては,当該給与の額を
退職の日におけるその者の給料月額で除して得た数に12を乗じて得た
数(1未満の端数を生じたときは,その端数を切り捨てる。)に相当する月
数)は,その者の職員としての引き続いた在職期間には含まないものと
する。
      (1)ないし(7) 略
以下 略
2 本件の争点
本件組合がAに対して退職手当金を支給する際,同人が従前勤務していた弥富
町の職員としての在職期間を通算することが,本件組合条例2条によって準用され
る本件条例7条5項に反するか。
 3 当事者の主張の要旨
(1) 原告らの主張
ア本件条例7条5項は,「第1項に規定する職員としての引き続いた在職期間
には,職員以外の地方公務員又は国家公務員(略)(以下「職員以外の地方
公務員等」と総称する。)が引き続いて職員となったときにおけるその者の職
員以外の地方公務員等としての引き続いた在職期間を含むものとする。」と規
定するが,ここにいう「引き続いて」は,「1日以上の空白がないもの」をいうと
解される。しかるところ,Aは,平成2年3月31日に弥富町を退職し,同年4月
2日に本件組合に採用されていて,この間に1日以上の空白があるから,「引
き続いて」職員となったときとの要件を欠き,在職期間を通算して退職手当金
を算出することはできない。
イしかも,本件条例7条5項ただし書は,「退職により,この条例の規定による退
職手当に相当する給与の支給を受けているときは,当該給与の計算の基礎と
なった在職期間(略)は,その者の職員としての引き続いた在職期間には含ま
ないものとする。」と規定するところ,Aは,弥富町を退職したことによる退職金
329万3440円を平成2年5月に愛知県市町村職員退職手当組合から受領
しており,同人が弥富町職員として在職していた期間(昭和50年1月1日から
平成2年3月31日まで)を退職金の支給の基礎となる在職期間に含めること
は許されない。
ウ しかるに,本件組合の管理者は,平成2年3月29日付けで,本件条例7条5
項に違反して,Aの弥富町における在職期間を本件組合における在職期間に
通算する旨の決裁をしており,同人の退職時には,違法な在職期間の計算に
基づく退職手当金の支出命令がなされることが確実に予想されるところ,Aが
60歳で定年退職すると仮定した場合,本来の支給額よりも約1500万円ほど
過大に支給されることになる。
エ 被告は,Aに対する発令日を平成2年4月2日としたのは,同年4月1日が日
曜日であったことによる事務上の誤りである旨主張するが,組合が事務吏員
を任命して辞令を発する際に,被告が主張するような極めて単純明白な誤り
が起こるとは考えられない。むしろ,Aは,いったんは弥富町における在職期
間が通算されないことを了承して退職手当金を受け取ったものの,平成2年6
月以降,その返納を条件として在職期間を通算することを求めたため,これに
応じた本件組合が本件条例7条5項に反する措置を執らざるを得なくなったの
が真相であると思われる。
また,被告は,本件組合の議会が,弥富町におけるAの在職期間を本件組
合におけるそれと通算することを前提とする補正予算を議決し,決算を承認し
ている旨主張するが,これらも給与条例主義に反するものとして無効である。
さらに,被告は,解釈例(乙5)によれば,本件条例7条5項が定める「引き
続いて」の解釈の例外が認められる旨主張するが,これは昭和28年7月31
日に現に在職する職員の特例を定めたものであって,本件に妥当するもので
はない。
(2) 被告の主張
ア本件組合が,Aに対する採用辞令の発令日を平成2年4月2日としたのは,
同年4月1日が日曜日であったことに起因する事務上の誤りであって,この点
についてAに何ら落ち度はない。
したがって,本件組合によるAの採用日付けは,「受入庁の手続の遅延に
よって退職の日の翌々日以後になった場合」に該当するから,このような場合
に,前後の在職期間を引き続いたものとして取り扱う解釈例(乙5)が存在する
ことに照らすと,本件組合がAの退職手当金を計算するにつき弥富町の職員
としての在職期間を通算することは違法ではない。
イ また,本件組合は,弥富町から支給された退職手当金が納付されることを条
件に,Aの弥富町の職員としての在職期間を組合職員としての在職期間に通
算する旨決定しているところ,上記条件は履行されている。しかも,本件組合
の議会は,Aが納付した退職手当金と同額を「退職手当基金積立金」として一
般管理費に計上した平成2年度補正予算を議決し,上記納付金を雑収入に
計上した同年度決算を承認している。
これらによると,本件組合において条例制定権を有する議会が,Aについ
て,「引き続いて在職していたものとみなす」旨の特例を定めたと解するのが
相当であるから,本件支出命令は,本件条例7条5項に反するものではない。
第3 当裁判所の判断
 1 給与条例主義について
(1) 地方自治法204条1項は,「普通地方公共団体は,……普通地方公共団体の
……常勤の職員……に対し,給料……を支給しなければならない。」と,同2項
は,「普通地方公共団体は,条例で,前項の職員に対し,……退職手当を支給
することができる。」と,同3項は,「給料,手当及び旅費の額並びにその支給方
法は,条例でこれを定めなければならない。」とそれぞれ定め,さらに,同法204
条の2は,「普通地方公共団体は,いかなる給与その他の給付も法律又はこれ
に基く条例に基かずには,これを……前条第1項の職員に支給することができな
い。」と定めている。その上で,一部事務組合を含む地方公共団体の組合につい
ては,同法292条により,普通地方公共団体に関する規定が準用されている。
また,地方公務員法24条6項は,「職員の給与,勤務時間その他の勤務条件
は,条例で定める。」とし,同法25条1項は,「職員の給与は,前条第6項の規定
による給与に関する条例に基いて支給されなければならず,又,これに基かず
には,いかなる金銭又は有価物も職員に支給してはならない。」と定めている。
このように,法が,地方公共団体の職員等の給与や退職手当金の額及び支
給方法を条例で定めることとし,条例に基づかなければいかなる給付もなし得な
いものとしている(給与条例主義)のは,第一義的には,職員の給与等は最終的
にこれを負担する住民の総意に基づくことが憲法92条の定める住民自治の趣
旨に合致するところ,民意に基づいて選出された議員によって構成される議会が
形成する団体意思のうち,最も基本的な法規範形式である条例を支給の根拠と
することによって,住民の総意に基づくとみなすことができると考えられたことに
よる(第二義的には,給与等の支給について条例で定めることによって,職務の
公共性や中立性を確保すべき地方公共団体の職員等に対し,そこで定められた
内容の給与等の支給を受ける地位を保障することにある。)。
(2) この点について,被告は,本件組合の議会において,Aの退職手当金を計算
するに当たり,同人の弥富町職員としての在職期間を通算することを前提とした
予算が議決され,また決算が承認されたことなどを理由として,議会はかかる扱
いを許容する特例を定めたものであるから,給与条例主義に反しない旨主張す
るが,上記のとおり,法は明文で地方公共団体における職員に対する給与等を
条例で定めることを求めていること,条例と,予算の議決及び決算の承認とは,
その趣旨・目的が異なり,実質的な審議のあり方も相違しているから,議会が予
算の議決や決算の承認をしたからといって,給与条例主義の趣旨を完全に確保
することは困難と考えられるから,これらをもって条例に代えることができると解
する余地はないというべきである(最高裁判所昭和39年7月14日第三小法廷
判決・民集18巻6号1133頁参照)。
よって,被告の上記主張は採用できない。
 2 「引き続いて職員になったとき」の要件について
(1) 前記前提事実(3)のとおり,本件組合においては,退職一時金その他給与の額
及び支給方法は津島市職員の例によると定められているところ(本件組合旧条
例2条,本件組合条例2条),津島市職員の退職手当に関する条例(本件条例)
は,退職手当の算定の基礎となる勤続期間の計算は職員として引き続いた在職
期間によること(7条1項),在職期間には,職員以外の地方公務員等が引き続
いて職員となったときには,その者の職員以外の地方公務員等として引き続い
た在職期間を含むものとすること(同条5項)を規定している。そうすると,被告の
主張する在職期間の通算が許されるか否かを判断する前提として,上記の「引
き続いて職員になったとき」の意義を明らかにする必要がある。
(2) そこで検討するに,一般に,法文の意味内容を確定するに当たっては,そこに
用いられた文言を日本語の通常の用語例に従って解釈すること,すなわち文理
解釈を中心とし,これに当該法文(条例)の成立経緯,同種の法令等の解釈例な
どを参考資料として判断すべきであることはいうまでもない。
しかして,本件条例7条5項の「引き続いて職員となったとき」とは,通常,職員
たる身分が連続していること,すなわち前後の在職期間の間に職員たる身分を
有しない期間を含まないことを意味すると解される。そして,前職を退職して身分
を失った日の翌日付けで採用された場合,退職日の午後12時まで前職の身分
を有し,翌日の午前0時に新たな職員の身分を取得するから,その間に職員た
る身分を有しない期間は存在しないと考えられるが,その間に少なくとも1日以
上の空白の期間が存在すれば,上記の要件を満たしていないと解さざるを得な
い。
このような理解は,同項が職員以外の地方公務員等としての引き続いた在職
期間の計算について準用する同条3項が,「職員が退職した場合(略)におい
て,その者が退職の日又はその翌日に再び職員となったときは,前2項の規定
による在職期間の計算については引続いて在職したものとみなす。」と規定して
いること,国家公務員退職手当法7条(この規定は,在職期間を通算することを
認める法律が存在しなかったことが,公社,公庫等との人事交流の支障となって
いたことから,昭和48年法律第30号により新設されたものである。)も同様の規
定であるところ,退職手当の算定の基礎となる勤続期間の計算について定めた
同条1項の「職員としての引き続いた在職期間」が,文字通り,職員として身分を
保有している期間が引き続いていること,すなわち1日以上の空白がないことを
意味すると解釈されていることとも整合する。
(3) この点について,被告は,「受入庁の手続の遅延によって退職の日の翌々日
以後になった場合」にも,前後の在職期間を引き続いたものとして取り扱う旨の
解釈例(乙5)が存在するところ,本件はこの場合に当たると主張する。
なるほど,本件条例3ないし5条によれば,勤続期間が長期に及ぶにつれて
退職手当の支給率が高くなるように定められている(国家公務員退職手当法3
ないし5条も同様であるところ,これは退職手当が勤続報償としての一面を有し
ていることを反映したものと解される。)ところ,採用辞令の発令日が日曜祝日等
の公休日である場合に受入庁において実際の勤務に就くことは稀であることに
照らすと,公休日の前日をもって退職の発令日としながら,公休日に採用辞令を
発令せず,その翌日をもって発令日とした場合に,1日以上の空白があるとして
在職期間の通算を受けられない扱いをすることが果たして合理的であるかにつ
いて疑問がないではない。
しかしながら,本件条例上,空白期間が公休日に当たるからといって特別扱
いすることを許容する規定は存在しない。また,上記解釈例は,国家公務員退
職手当法施行令(昭和28年8月25日政令第215号)附則2項が「昭和28年8
月1日(以下「適用日」という。)の前日に現に在職する職員(略)の適用日の前
日以前における勤続期間の計算については,附則第3項から第7項までの規定
による……」と定め,同附則4項1号が「先に職員として在職した者であって,所
属庁の承認又は勧しょうを受けて他庁の職員となるため退職し,且つ,当該庁の
手続の遅延のため退職の日の翌々日以後において他に就職することなくその承
認又は勧しょうを受けた庁の職員となったもの」の先の職員としての在職期間を
後のそれに引き続いたものとみなすと規定していることについての解説としてな
されたものであり,かつ,上記附則は終戦前後の特殊事情を考慮して特例的な
取扱いを認めたものにすぎないことが認められるから,Aに適用ないし類推適用
する余地はないといわざるを得ない。
そうすると,被告の上記主張は採用できず,本件支出命令は違法であるとい
うべきである。
3差止めを必要とする違法行為の蓋然性について
地方自治法242条の2第1項1号所定の差止請求は,執行機関等に対して一定
の行為を行うことを事前に禁ずるものであり,同法242条1項が,「当該行為がなさ
れることが相当の確実さをもって予測される場合」に,これを監査請求の対象とす
ることを許容していることに照らすと,違法行為が実施されることが相当の確実さを
もって予測されることを要件としていると解されるところ,前記前提事実(2)ウ及びカ
の事実に照らせば,被告は,Aに対する退職手当金の支給を命ずるに当たり,弥
富町における在職期間を通算する予定であることが十分に推認できる。
したがって,本件組合が,在職期間の通算を可能とするような是正措置を講ずる
意思を表明していない以上,被告によって違法行為が行われることが相当の確実
さをもって予想されると判断するのが相当である。
 4 結論
以上の次第で,原告らの本訴請求は理由があるから認容し,訴訟費用の負担に
つき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり,判決する。
 名古屋地方裁判所民事第9部
 裁判長裁判官  加 藤 幸 雄
 裁判官  舟 橋 恭 子
 裁判官  平 山   馨

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