弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人(附帯控訴人)の家屋明渡請求および附帯控訴による損害金の
請求はいずれもこれを棄却する。
     訴訟費用は第一、二審共被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、
二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴につき「本件附帯控訴
を棄却する。」との判決を求め、
 被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との
判決を求め、附帯控訴につき、「附帯被控訴人は附帯控訴人に対し、
 一、 昭和三一年一二月一日より昭和三二年一二月三一日迄一ケ月につき金一万

 二、 昭和三三年一月一日より同年一二月三一日迄一ケ月につき金一二、〇〇〇

 三、 昭和三四年一月一日より原判決主文掲記の家屋明渡済にいたるまで一ケ月
につき金一三、〇〇〇円
 の各割合による金員を支払え。附帯控訴費用は附帯被控訴人の負担とする。」と
の判決を求めた。 当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は
 被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という)訴訟代理人において、(一)
本件家屋は訴外Aが昭和三〇年三月一日所有権保存登記をし、同年五月九日訴外B
に、同年九月八日訴外Cに順次所有権移転登記がなされたものなるところ、被控訴
人は昭和三一年二月一八日訴外Cに対し金六〇万円を貸与し、その担保として同人
所有の本件家屋につき代物弁済の予約をなし、同月二〇日所有権移転請求権保全の
仮登記をうけ、同年九月九日右代物弁済として本件家屋を取得し、同年九月一四日
右所有権移転登記を経たものである。(二)なお、附帯控訴により、控訴人(附帯
被控訴人、以下単に控訴人という)に対し、昭和三一年一二月一日以降本件家屋明
渡済にいたるまでの損害金の支払を求める。すなわち、控訴人は昭和三一年一二月
一日以降被控訴人所有の本件家屋を不法占有し、被控訴人の本件家屋の使用収益を
妨害し、被控訴人に対し賃料相当の損害を加えている。そして右損害金は昭和三一
年一二月一日より昭和三二年一二月末日迄は月額一万円、昭和三三年一月一日より
同年一二月末日迄は月額一二、〇〇〇円、昭和三四年一月一日以降は月額一三、〇
〇〇円を相当とする。と述べ、控訴人主張の抗弁(賃借権)事実を否認し、本件家
屋が二戸建家屋の西側の一戸であることは争わないが、訴外Dが本件家屋の現在の
所有者であることはもちろん、過去においてこれが所有者であったことは否認す
る。同人は登記簿上所有者として登載されたことはない。と附陳し、原審提出の甲
第一号証を撤回し、当審において新に甲第一号証、同第二号証の一ないし三、同第
三、四号証を提出し、乙第一号証の成立を認め、乙第四号証中官署作成部分は認め
るがその余は不知、爾余の乙号各証はすべて不知と述べ、控訴代理人において、
(一)本件家屋は二戸建家屋の西側の一戸で訴外Dが建築して原始取得したもの
で、現在も同人の所有であるから被控訴人の所有であることを前提とする本訴請求
は失当である。すなわち、右訴外人は本件家屋及びその東側の一戸(二戸続)の家
屋を新築し、昭和二九年一二月一六日右二戸を各九〇万円で訴外Cに売渡し、本件
家屋については手附金一〇万円を受取ったのみで残金は同月末までに登記と引換に
支払を受ける約であつたところ支払わないので昭和三〇年五月一〇日到着の内容証
明郵便により同月一四日迄に右残代金を支払うべく催告したが右Cにおいて催告期
間内にその支払をしなかつたので昭和三〇年五月一五日本件家屋についての右売買
契約を解除した。
 右の次第で本件建物は依然として訴外Dの所有である。されば被控訴人の主張す
るA名義の保存登記は無権限でなされた無効のものであつて、これに基く登記はす
べて無効であり被控訴人がその後かりに訴外Cより本件家屋を代物弁済として取得
したとしても同訴外人は元来無権利者であるから被控訴人において有効に所有権を
取得することは出来ない。
 (二) かりに被控訴人が本件家屋の所有権を有効に取得したとしても、控訴人
は昭和二九年八月当時の所有者である訴外Dより本件家屋を賃借し来り、引続いて
居住しているものであるから控訴人は被控訴人に対し賃借権を以て対抗出来る。従
つて控訴人の不法占有を前提とする被控訴人の本件家屋明渡請求並に損害金の請求
は失当である。と陳べ、乙第一、二号証同第三号証の一ないし三、同第四号証、同
第五号証の一、二を提出し、当審証人D、同B、同Aの各証言、当審における控訴
人本人尋問の結果を援用すると陳べ甲第二号証の一、三は不知、その余の甲号各証
の成立を認めると述べた
 外は原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。
         理    由
 先づ本件家屋が被控訴人の所有であるか否かについて判断する。成立に争のない
甲第一号証(登記簿謄本)によれば本件家屋について(一)昭和三〇年二月一日訴
外A所有名義で保存登記がなされ、(二)訴外Bを権利者として昭和三〇年二月一
四日所有権移転請求権保全仮登記(原因同日代物弁済予約)、同年五月九日所有権
移転本登記(原因同月七日代物弁済)、(三)訴外Cを権利者として同年九月八日
所有権移転登記、(四)被控訴人を権利者として、昭和三一年二月二〇日所有権移
転請求権保全仮登記(原因同月一八日代物弁済予約)、同年九月一四日所有権移転
本登記(原因同月九日代物弁済)の登記がなされていることが認められる。しかし
ながら、成立に争のない乙第一号証、官署作成部分につき成立に争なく、爾余の部
分も弁論の全趣旨により真正に成立したものとみとむべき乙第四号証に、証人Dの
証言により各真正に成立したものと認められる乙第二号証、同第三号証の一ないし
三、控訴本人の尋問の結果により各成立を認めうる乙第五号証の一、二に右証言並
に控訴本人尋問の結果、証人Aの証言を綜合すると、本件家屋は東側の一戸と二戸
続きの家で訴外Dが右二戸を新築し昭和二九年八、九月頃竣工したもので同人が原
始取得したこと、控訴人は本件家屋を昭和二九年八月頃より賃借し(賃料は月一、
五〇〇円、その後昭和三一年頃より二千円)これに居住して今日に至つていること
右Dは訴外Cに対し昭和二九年一二月一六日頃東側の家を九〇万円で売渡し、その
代金を受領すると共に同日本件家屋についても代金九五万円で売買契約をし、この
契約金として同月末迄に一〇万円を支払い残金の支払を受けたら登記をする約であ
つたが、同人は昭和三〇年二月二七日に至り漸く右一〇万円を支払つただけで残金
について同年三月五日に内金三五万円、同月一五日内金二五万円、同月末日内金二
六五、〇〇〇円の三回の分割払(合計八六五、〇〇〇円)を約したのにその内三月
五日に金一〇万円を支払つたのみで右残金の支払をしない。よつて訴外Dは代理人
より同年五月九日付でCに対し同月一〇日頃到達の内容証明郵便をもつて、同年五
月一四日迄に残金七六五、〇〇〇円を持参支払うべく催告すると共に右催告期間内
に右支払わないときは売渡した本件家屋を返還されたい旨催告したが催告期間内に
右残金の支払なく、右売買契約は解除されたこと(所有権移転登記義務は最後の二
六五、〇〇〇円の支払と同時履行の関係にあり、その以前の三月五日分中二五万円
と同月一五日分二五万円合計五〇万円については移転登記義務につき弁済の提供を
要せずして附遅滞の効果を生じており、解除は有効である)、他方右Cは解除前の
昭和三〇年二月二日訴外A名義で本件家屋について前認定の保存登記をしたがAは
名義を用いられただけで訴外Dよりは勿論訴外Cより本件家屋の所有権を取得した
ことなく、右保存登記は右訴外人らの不知の間になされたものであることが各認め
られ、右認定にそわない証人Dの証言部分は信用できず、他に右認定を左右する証
拠はない。
 <要旨第一>以上認定の事実関係のもとでは本件家屋の所有権が前記売買により一
旦Cに移つたとしても解除により訴外Dに復帰したもので、その所有者
は訴外Dであつて、訴外A所有名義になされた保存登記は同人不知の間になされ、
且つ何ら実体上の権利のない登記で無効といわねばならず、固より解除の効力の及
ばない第三者の権利についてなされたものということをえない。してみれば被控訴
人がかりにその主張の如く、訴外Cより代物弁済としてその所有権を取得したとし
ても同訴外人は無権利者で、同人名義の所有権取得登記が前記A名義の無効の保存
登記に由来するものである以上、被控訴人は本件家屋の所有権を取得するに由ない
ものといわねばならない。右のことは登記に公信力がない以上承認せざるを得ない
ところである。もつとも、訴外Cの右所有権取得登記が訴外Dよりの前記解除前に
なされたものとすれば、右登記が無権利者A名義の無効の保存登記に由来するもの
であり、しかもDの意思に反してなされた不法の登記であるとしても、実体関係と
一致する登記であるから有効となり、その後の解<要旨第二>除による所有権の復帰
はその登記なくして第三者に対抗しえなくなる余地あるにしても、本件家屋につい
て右Cの所有権取得の登記がなされたのは解除後の昭和三〇年九月八日
である以上、その登記は何らの実体上の権利を伴わぬ無効のものでこの登記に基因
してDの所有権復帰登記の欠缺を主張しうべき正当の利益を有する第三者を生じる
余地がないから、前記判定を左右しない。(従来の判例によれば、法律行為の解除
や取消による不動産所有権の復帰はこれが登記のなされない限りその後に権利を取
得した者に対抗することを得ない〔大判昭一四・七・七、民集一八・七四八、最高
判昭三二・六・七、民集一一・六・九九九〕。けれどもこれらの事案はいづれも法
律行為による所有権の移転が登記された後に取消又は解除された場合復帰登記を要
する趣旨であつて、解除前買主のために有効な所有権の登記のなされていない本件
には適切でない。)してみれば本件家屋が被控訴人の所有であることを前提となる
被控訴人の本訴請求は爾余の判断をなすまでもなく失当といわねばならない。
 のみならず、前記認定のとおり、本件家屋は訴外Dが昭和二九年八月頃新築して
その所有権を原始取得し、控訴人は右新築当時同訴外人より本件家屋を賃借し(賃
料は当初月額一、五〇〇円、その後昭和三一年頃より月額二、〇〇〇円となる)、
その引渡をうけてこれに入居し現在にいたつているのであるから、被控訴人が控訴
人の右賃借後本件家屋の所有権を適法に取得し、その登記をしたとしても、控訴人
に対する本件家屋の賃貸人たる地位を承継したものというべきであるから、控訴人
は右賃借権をもつて被控訴人に対抗しうるものといわねばならない。してみれば控
訴人の賃借権に関する抗弁は理由あり、他に賃借権の消滅についての主張立証のな
い本件において、被控訴人の本件家屋明渡並に損害金の請求はたとえ本件家屋の所
有権が被控訴人に属するとしてもなお失当といわねばならない。
 よつて本件家屋の明渡請求を認容した原判決は民事訴訟法第三八六条によりこれ
を取消し、被控訴人の右請求を棄却すると共に、附帯控訴による損害金の請求も棄
却し、訴訟費用の負担につき同法第八九条第九六条を適用して主文のとおり判決す
る。
 (裁判長裁判官 宅間達彦 裁判官 増田幸次郎 裁判官 井上三郎)

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