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平成17年(行ケ)第10700号審決取消請求事件
平成19年4月25日判決言渡,平成19年3月14日口頭弁論終結
判決
原告株式会社荏原製作所
訴訟代理人弁護士大野聖二
同弁理士渡邉勇
同伊藤茂
被告株式会社神鋼環境ソリューション
訴訟代理人弁理士藤本昇
同中谷寛昭
同小山雄一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2004−80205号事件について平成17年8月18日に
した審決中「特許第3153091号の請求項1ないし20に係る発明につい
ての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
(1)原告は,発明の名称を「廃棄物の処理方法及びガス化及び熔融燃焼装置」
とする特許第3153091号(平成7年2月9日出願〔特願平7−220
00号〕。優先権主張・平成6年3月10日,同年4月15日。平成13年
1月26日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
(2)被告は,平成16年10月26日,原告を被請求人として,本件特許を無
効にすることを求めて審判の請求をし,原告は,平成17年1月17日付け
訂正請求書により特許請求の範囲の記載等の訂正(以下「本件訂正」とい
う。)を請求した。
特許庁は,上記無効審判請求を無効2004−80205号事件として審
理した上,平成17年8月18日,「訂正を認める。特許第3153091
号の請求項1ないし20に係る発明についての特許を無効とする。」との審
決をし,その謄本は,同月25日,原告に送達された。
2本件訂正後の明細書(甲44。以下「本件明細書」という。)の特許請求の
範囲の請求項1ないし20に記載された発明(以下,請求項1に記載された発
明を「本件発明1」,請求項2に記載された発明を「本件発明2」などといい,
これらを一括して「本件発明」という。)の要旨
【請求項1】廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融
スラグ化する方法において,
流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し,該廃棄物を該流動層炉に供給し,
炉内を450℃∼650℃に維持し,該流動層炉内の循環流中でガス化してガ
スとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし,該流動層炉より排出
された該ガスと該微粒子となったチャーを旋回熔融炉に供給して1300℃以
上にて灰分を熔融してスラグ化することを特徴とする廃棄物の処理方法。
【請求項2】前記流動層炉は,流動層温度が450℃∼650℃に維持され
ることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】前記流動媒体の循環流は,流動媒体が沈降する移動層と流動媒
体が上昇する流動層により形成され,流動媒体が該移動層及び流動層を通り循
環することを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】前記移動層は質量速度が比較的小さい流動化ガスによって形成
され,前記流動層は質量速度が比較的大きい流動化ガスによって形成されるこ
とを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】前記流動媒体の循環流は,質量速度が比較的小さい流動化ガス
と質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給することにより形成されることを
特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項6】前記質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大
きい流動化ガスは,ともに空気であることを特徴とする請求項4又は5記載の
方法。
【請求項7】前記流動層炉へ供給される流動化ガスは,廃棄物の燃焼に必要
な理論燃焼空気量の30%以下の空気量を含むことを特徴とする請求項4乃至
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】前記廃棄物に含まれる不燃物を流動層炉の炉底部より排出する
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】前記流動媒体は砂であることを特徴とする請求項1乃至8のい
ずれか1項に記載の方法。
【請求項10】廃棄物をガス化する流動層炉と,該流動層炉内で生成された
ガスとチャーを燃焼して灰分を熔融する熔融炉とを備えたガス化及び熔融燃焼
装置において,
前記流動層炉は流動化ガスを炉内に供給する流動化ガス供給手段を備え,該
流動化ガス供給手段によって炉内に流動媒体の循環流を形成し,炉内を450
℃∼650℃に維持して炉内に供給された廃棄物を該流動層炉内の循環流中で
ガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし,
前記熔融炉はガスとチャーを燃焼する燃焼室を備え,該燃焼室によって前記
流動層炉より排出されたガスと該微粒子となったチャーを燃焼して1300℃
以上にて灰分を熔融してスラグ化することを特徴とするガス化及び熔融燃焼装
置。
【請求項11】前記流動層炉は,流動層温度が450℃∼650℃に維持さ
れることを特徴とする請求項10記載の装置。
【請求項12】前記流動媒体の循環流は,流動媒体が沈降する移動層と流動
媒体が上昇する流動層により形成され,流動媒体が該移動層及び流動層を通り
循環することを特徴とする請求項10又は11記載の装置。
【請求項13】前記移動層は質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給する
手段によって形成され,前記流動層は質量速度が比較的大きい流動化ガスを供
給する手段によって形成されることを特徴とする請求項12記載の装置。
【請求項14】前記流動化ガス供給手段は,質量速度が比較的小さい流動化
ガスを供給する手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する手段と
からなることを特徴とする請求項10又は11記載の装置。
【請求項15】前記熔融炉の燃焼室は,ほぼ垂直方向の軸線を有する円筒形
室からなり,該円筒形室の頂部に前記ガスとチャーを導入し,該円筒形室で該
ガスとチャーを旋回させ,該円筒形室の下部には水平方向に対して傾斜して延
びた室が連通され,前記熔融した灰分を該傾斜して延びた室の底部よりスラグ
として排出することを特徴とする請求項10乃至14のいずれか1項に記載の
装置。
【請求項16】廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔
融スラグ化する方法において,
流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し,該廃棄物を該流動層炉に供給し,
流動層温度を450℃∼650℃に維持し,該流動層炉内の循環流中でガス化
してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし,該流動層炉よ
り排出された該ガスと該微粒子となったチャーを旋回熔融炉に供給して灰分を
熔融してスラグ化することを特徴とする廃棄物の処理方法。
【請求項17】前記流動媒体の循環流は,流動媒体が沈降する移動層と流動
媒体が上昇する流動層により形成され,流動媒体が該移動層及び流動層を通り
循環することを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項18】前記移動層は質量速度が比較的小さい流動化ガスによって形
成され,前記流動層は質量速度が比較的大きい流動化ガスによって形成される
ことを特徴とする請求項17記載の方法。
【請求項19】廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔
融スラグ化する方法において,
流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し,該循環流は流動媒体が沈降する移
動層と流動媒体が上昇する流動層が形成され,流動媒体が該移動層及び流動層
を通って循環する循環流であり,
該廃棄物を該流動層炉に供給し,流動層温度を450℃∼650℃に維持し,
該流動層炉内の循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環
流中で微粒子とし,該廃棄物に含まれる不燃物と流動媒体を該流動層炉の炉底
部より排出し,該不燃物と該流動媒体を分別した後に該流動媒体を該流動層炉
に戻し,
該流動層炉より排出された該ガスと該微粒子となったチャーを旋回熔融炉に
供給して灰分を熔融してスラグ化することを特徴とする廃棄物の処理方法。
【請求項20】前記不燃物と流動媒体は,前記炉底部より下方へ取り出し,
水平方向に定量排出した後,該不燃物と該流動媒体は分別されることを特徴と
する請求項19記載の方法。
3審決の理由
()審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件発明1ないし9,16ない1
し18は,特公昭62−35004号公報(甲7,以下「甲7公報」という。
なお,審決における「特開昭62−35004号公報」との記載は誤記と認
める。)に記載された「固形廃棄物を流動層熱分解炉に供給し,該熱分解炉
の流動層にてガス化した後,サイクロン燃焼炉にて灰分を溶融スラグ化する
方法において,該流動層内の熱分解により生成されたガス並びにチャー及び
灰分の微粒子を,サイクロン燃焼炉に供給し,サイクロン燃焼炉では灰分が
捕捉され溶融スラグとなって排出口より排出される固形物の燃焼方法。」の
発明(以下「甲7の発明1」という。)及び特開平6−307614号公報
(甲14,以下「甲14公報」という。)に記載された発明(以下「甲14
発明」という。)並びに周知の技術に基づいて,本件発明10ないし14は,
甲7公報に記載された「供給された固形廃棄物をガス化する流動層熱分解炉
と,該流動層内の熱分解により生成された可燃性ガス及びチャー並びに部分
燃焼により発成した灰分及び燃焼排ガスを導入して該可燃性ガスと該チャー
を燃焼し,高負荷燃焼により灰分を熔融するサイクロン燃焼炉とを備えた固
形物の燃焼装置において,前記流動層熱分解炉は流動層の流動化空気供給ブ
ロワを備え,前記サイクロン燃焼炉は可燃性ガスとチャーを燃焼する燃焼室
を備え,該燃焼室によって前記流動層熱分解炉より排出された可燃性ガスと
微粒子となったチャーを燃焼して灰分を捕捉し,熔融スラグ化として排出口
より排出される固形物の燃焼装置。」の発明(以下「甲7の発明2」とい
う。),甲14発明及び周知の技術に基づいて,本件発明15は,甲7の発
明2,甲14発明,特開平3−241214号公報(甲19,以下「甲19
公報」という。)に記載された発明及び周知の技術に基づいて,本件発明1
9及び20は,甲7の発明1,平成2年8月27日発行燃料協会誌69巻1
1号「無破砕旋回流型流動燃焼炉とその応用技術」(甲11,以下「甲11
文献」という。)に記載された発明(以下「甲11発明」という。)及び周
知の技術に基づいて,それぞれ当業者が容易に発明をすることができたもの
であるとして,本件発明1ないし20に係る特許は,特許法29条2項の規
定に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該当するので,無
効とすべきものであるとした。
なお,特許法29条の適用については,優先権の主張を認めず,現実の出
願日である平成7年2月9日(以下「本件出願日」という。)を基準とする
とした。
()審決が認定した,本件発明1と甲7の発明1の一致点及び相違点2
ア一致点
廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融スラグ化
する方法において,該廃棄物を該流動層炉に供給し,該流動層炉より排出
されたガスと微粒子となったチャーを旋回熔融炉に供給して灰分を熔融し
てスラグ化する廃棄物の処理方法。
イ相違点
(ア)相違点A
本件発明1は「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し」たものであ
るのに対し,甲7(注,甲7公報)には,このような構成について明示
の記載がない点。
(イ)相違点B
本件発明1は「(流動層)炉内を450℃∼650℃に維持し」たも
のであるのに対し,甲7には,このような構成について明示の記載がな
い点。
(ウ)相違点C
本件発明1は(該廃棄物を)「該流動層炉内の循環流中でガス化して
ガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし」たものであ
るのに対し,甲7には,このような構成について明示の記載がない点。
(エ)相違点D
灰分を熔融してスラグ化することについて,本件発明1は「1300
℃以上にて」するものであるのに対し,甲7には,温度については何ら
記載がない点。
()審決が認定した,本件発明10と甲7の発明2の一致点及び相違点3
ア一致点
廃棄物をガス化する流動層炉と,該流動層炉内で生成されたガスとチャ
ーを燃焼して灰分を熔融する熔融炉とを備えたガス化及び熔融燃焼装置に
おいて,前記流動層炉は流動化ガスを炉内に供給する流動化ガス供給手段
を備え,前記熔融炉はガスとチャーを燃焼する燃焼室を備え,該燃焼室に
よって前記流動層炉より排出されたガスと微粒子となったチャーを燃焼し
て灰分を熔融してスラグ化するガス化及び熔融燃焼装置。
イ相違点
(ア)相違点E
本件発明10は「該流動化ガス供給手段によって炉内に流動媒体の循
環流を形成し」たものであるのに対し,甲7には,このような構成につ
いて明示の記載がない点。
(イ)相違点F
本件発明10は「(流動層)炉内を450℃∼650℃に維持し」た
ものであるのに対し,甲7には,このような構成について明示の記載が
ない点。
(ウ)相違点G
本件発明10は「炉内に供給された廃棄物を該流動層炉内の循環流中
でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子と
し」たものであるのに対し,甲7には,このような構成について明示の
記載がない点。
(エ)相違点H
灰分を熔融してスラグ化することについて,本件発明10は「130
0℃以上にて」するものであるのに対し,甲7には,温度については何
ら記載がない点。
()審決が認定した,本件発明19と甲7の発明1の一致点及び相違点4
ア一致点
廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融スラグ化
する方法において,該廃棄物を該流動層炉に供給し,該流動層炉より排出
されたガスと微粒子となったチャーを旋回熔融炉に供給して灰分を熔融し
てスラグ化する廃棄物の処理方法。
イ相違点
(ア)相違点I
本件発明19は「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し」たもので
あるのに対し,甲7には,このような構成について明示の記載がない点。
(イ)相違点J
本件発明19は「該循環流は流動媒体が沈降する移動層と流動媒体が
上昇する流動層が形成され,流動媒体が該移動層及び流動層を通って循
環する循環流であり」としたものであるのに対し,甲7には,このよう
な構成について明示の記載がない点。
(ウ)相違点K
本件発明19は「流動層温度を450℃∼650℃に維持し」とした
ものであるのに対し,甲7には,このような構成について明示の記載が
ない点。
(エ)相違点L
本件発明19は「該流動層炉内の循環流中でガス化してガスとチャー
を生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし」たものであるのに対し,
甲7には,このような構成について明示の記載がない点。(注,審決の
相違点Lの摘示〔審決謄本45頁第8段落〕は,「本件発明19は『該
流動層炉内の循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該
循環流中で微粒子とし』と」というものであるが,「相違点Lは,本件
発明1において前記認定した相違点Cと全く同じ構成のものである」
〔同46頁第4段落〕との記載から,上記のものと認める。)
(オ)相違点M
本件発明19は「該廃棄物に含まれる不燃物と流動媒体を該流動層炉
の炉底部より排出し,該不燃物と該流動媒体を分別した後に該流動媒体
を該流動層炉に戻し」としたものであるのに対し,甲7には,このよう
な構成について明示の記載がない点。
第3原告主張の審決取消事由
審決は,甲7の発明1の認定を誤り(取消事由1),本件発明1と甲7の発
明1の一致点の認定を誤り,相違点を看過し(取消事由2),相違点Aないし
Cについての認定判断を誤り(取消事由3ないし5),本件発明1の奏する顕
著な効果を看過し(取消事由6),本件発明2,6,7,10,11,16及
び19についての進歩性の認定判断を誤り(取消事由7ないし13),本件発
明1,10,11,16及び19を直接又は間接に引用する本件発明3ないし
9,11ないし15,17,18及び20についての進歩性の認定判断を誤り
(取消事由14),その結果,本件発明1ないし20は,当業者が容易に発明
をすることができたものであるとの誤った結論を導いたものであり,違法であ
るから取り消されるべきである。
1取消事由1(甲7の発明1の認定の誤り)
(1)審決は,甲7公報には,「流動層内の熱分解により生成された可燃性ガス
並びにチャー及び灰分の微細粒子,すなわち微粒子を,サイクロン燃焼炉に
供給すること」(審決謄本25頁第6段落)が記載されているとして,「固
形廃棄物を流動層熱分解炉に供給し,該熱分解炉の流動層にてガス化した後,
サイクロン燃焼炉にて灰分を溶融スラグ化する方法において,該流動層内の
熱分解により生成されたガス並びにチャー及び灰分の微粒子を,サイクロン
燃焼炉に供給し,サイクロン燃焼炉では灰分が捕捉され溶融スラグとなって
排出口より排出される固形物の燃焼方法。」(同頁最終段落)との甲7の発
明1が記載されていると認定したが,誤りである。
()審決は,本件発明1を含む本件発明の技術的意義を正解しなかったために,2
甲7の発明1の認定を誤ったものである。
甲7の発明1においては,流動層において熱分解過程が行われ,この熱分
解過程が行われた結果生成したチャーが微細な粒子であるので,流動層炉内
において,生成されたチャーを微粒子とする処理を行う必要がなく,そのた
めの構成もない。また,特公平1−52654公報(甲38)に記載の発明
においては,流動層で熱分解を行わせてガスとチャーを生成し,熱分解生成
ガスを旋回溶融炉に導入して,高温燃焼を行わせて灰分を溶融スラグ化する
に当たり,処理対象物や熱分解の条件によってはチャーが流動層炉内に滞留
してしまうので,生成したチャーを流動層から溢流させて流動層炉外に抜き
出して,別途,粉砕処理して溶融炉に供給していた。また,特開昭54−4
3902号公報(甲39)に記載の発明においても,流動層熱分解炉で熱分
解により生成されたチャーを流動層炉外へ溢流させて粉砕処理していた。
本件発明は,上記のような従前の事情に着目し,本件明細書の段落【00
57】等に記載されているように,流動媒体の循環流中で,熱分解(ガス
化)を行ってガスとチャーを生成し,ガス化の結果生成したチャーを生成ガ
スから分離して,循環流中で微粒子とするといった処理をしたものである。
その結果,本件発明においては,チャーを流動層炉内にとどまらせずに,可
燃ガスに同伴して溶融炉に供給することができ,炉内に供給される廃棄物の
質や量が変動しても低温域で廃棄物をガス化させて安定して可燃ガスと多量
のチャーを生成し,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成
ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融燃焼炉に
おいて利用できるようにしたという技術的意義がある。
()甲7公報には,熱分解で生成された微細な粒子のチャーと可燃性ガスが,3
そのままサイクロン燃焼炉に供給されることが記載されている。熱分解過程
において,可燃ガスと,粒径の細かな熱分解生成物(チャー)や,粒径の粗
い熱分解生成物(チャー)が生成され,粒径の粗い熱分解生成物(チャー)
が,流動する流動媒体により解砕されたり,また,流動化ガスにより供給さ
れる酸素によって燃焼されたりして,細かくなり,微細な粒子のチャーが生
成されることがあり,熱分解過程におけるこのような現象は,流動化ガスに
より酸素が供給される流動層において,廃棄物の熱分解を行ってガスとチャ
ーを生成する際に生じる一般的な現象である。
したがって,甲7の発明1においては,熱分解過程が行われた結果生成し
たチャーが微細な粒子であるので,流動層炉内において,生成されたチャー
を微粒子とする処理を行う必要がなく,そのための構成もない。
これに対し,本件発明は,流動媒体が下降する移動層において廃棄物がガ
ス化されてガスとチャーが生成され,ガス化によって生成されたガスはフリ
ーボードへと抜け,ガス化によって生成されたチャーを,流動媒体の循環流
により可燃ガスとは分離して流動媒体が上昇する流動層へと移動させて,比
較的酸素含有量の多い周辺流動化ガスにより部分酸化させて微粒子とする処
理をさらに行っている。
したがって,甲7公報には,本件発明1の,流動媒体が下降する移動層に
おける「ガス化してガスとチャーを生成し」に対応する「熱分解過程により
ガスとチャーを生成し」は存在するが,ガス化により生成されたチャーをさ
らに微粒子とする処理を行うという,流動媒体が上昇する流動層における
「該チャーを微粒子とし」との構成は記載されていないのであり,甲7公報
に流動層中で熱分解過程により可燃ガスとチャーを生成し,生成された該チ
ャーをさらに微粒子としていることが記載されているとして,甲7の発明1
を「固形廃棄物を流動層熱分解炉に供給し,該熱分解炉の流動層にてガス化
した後,サイクロン燃焼炉にて灰分を溶融スラグ化する方法において,該流
動層内の熱分解により生成されたガス並びにチャー及び灰分の微粒子を,サ
イクロン燃焼炉に供給し,サイクロン燃焼炉では灰分が捕捉され溶融スラグ
となって排出口より排出される固形物の燃焼方法。」と認定した審決は誤り
である。
2取消事由2(本件発明1と甲7の発明1の一致点の認定の誤り,相違点の看
過)
(1)審決は,本件発明1と甲7の発明1は,「廃棄物を流動層炉にてガス化し
た後に,熔融炉にて灰分を熔融スラグ化する方法において,該廃棄物を該流
動層炉に供給し,該流動層炉より排出されたガスと微粒子となったチャーを
旋回熔融炉に供給して灰分を熔融してスラグ化する廃棄物の処理方法。」
(審決謄本26頁第2段落)の点で一致すると認定したが,誤りである。
前記1のとおり,甲7の発明1は,流動層内の熱分解により生成されたガ
ス並びに生成された状態で微粒子のチャー及び灰分をサイクロン燃焼炉に供
給するものであり,「流動層炉内の循環流中でガス化してガスとチャーを生
成し該チャーを該循環流中で微粒子とし,該流動層炉より排出された該ガス
と該微粒子となったチャーを旋回熔融炉に供給」している本件発明1とは,
流動層炉から溶融炉にチャーを供給する過程が全く異なっているから,本件
発明1と甲7の発明1が,流動層から溶融炉に同じように微粒子のチャーが
供給されているとして,一致点を認定した審決は誤りである。
()審決は,本件発明1の「該流動層炉より排出された該ガスと該微粒子とな2
ったチャーを旋回熔融炉に供給して」との構成について,本件発明1と甲7
の発明1との相違点として認定しておらず,相違点を看過した。
本件発明1と甲7の発明1では,溶融炉に供給されるガスとチャーを得る
過程が異なるのであるから,溶融炉に供給されるガスとチャーが一連の過程
を経て得られるものであることを規定した本件発明1の「該流動層炉より排
出された該ガスと該微粒子となったチャーを旋回熔融炉に供給して」との構
成も本件発明1と甲7の発明1の相違点として認定されるべきである。
3取消事由3(相違点Aについての認定判断の誤り)
(1)審決は,相違点Aに係る本件発明1の構成について,「甲7(注,甲7公
報)の流動層炉の流動層中に発生する流れを,相違点Aに係る本件発明1の
構成,すなわち『流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し』たことは,甲7
の発明1に上記認定した周知の技術を適用することにより当業者であれば容
易に想到することができたものというべきである。」(審決謄本27頁第5
段落)と認定判断したが,誤りである。
()相違点Aに係る本件発明1の構成は,ガス化溶融の流動層炉において,流2
動層内に循環流という流動媒体の流れを形成して,その流動媒体の流れを有
する流動層において,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,生成され
たチャーをさらに微粒子とするための構成である。
甲7の発明1には,本件発明1の,流動媒体が下降する移動層におけるガ
ス化の過程に対応する熱分解過程は存在するが,ガス化により生成されたチ
ャーを流動媒体が上昇する流動層においてさらに微粒子とするという本件発
明1の構成はない。また,審決が「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成
し」を周知の技術と認定する根拠とした特開平2−147692号公報(甲
8,以下「甲8公報」という。),特開昭57−124608号公報(甲1
0,以下「甲10公報」という。)及び甲11文献(以下,甲8公報,甲1
0公報及び甲11文献を併せて「甲8公報等」ともいう。)のいずれにも,
循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,チャーを循環流中で微粒子と
するとの構成は開示されていない。
したがって,審決において,周知の技術と認定された「流動層炉内に流動
媒体の循環流を形成し」との構成を,甲7の発明1の流動媒体の流れに適用
して流動媒体の流れを変えても本件発明1の「該チャーを微粒子とし」との
構成が得られることはないから,甲7の発明1に,周知又は公知の技術をど
のように組み合わせても,本件発明1の「該チャーを微粒子とし」との構成
が得られることはない。
()審決は,以下の各点を看過し,相違点Aの容易想到性についての判断を誤3
った。
ア審決は,流動媒体の流れと流動層の機能の関係を看過した。
相違点Aに係る本件発明1の構成は,ガス化溶融の流動層炉において,
流動媒体の循環流を形成して,その流動媒体の流れを有する流動層におい
て,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,生成されたチャーをさら
に微粒子としているのである。それに対し,甲7の発明1においては,甲
7の発明1の流動層の流動媒体の流れにおいて,可燃ガスと微細なチャー
が生成されるという流動層の機能が発揮されている。そして,流動層炉は,
種々の目的に使用され,使用目的に応じて,種々の要素の最適化の範囲が
異なり,容易に相互移行は行えず,空気量(酸素量)等を調整することに
より,使用目的に応じてガス化にも焼却にも適用し得るということはない。
甲7の発明1に,周知の技術と認定された循環流を適用すると,甲7の
発明1の流動層内での物質・熱の移動の態様が変更されて,甲7の発明1
の流動層の「可燃ガスと微細なチャーが生成される」という機能を変質さ
せ,甲7の発明1の流動層熱分解炉の機能及び甲7の発明1そのものの機
能を変質させる。したがって,発明の本質的な機能に係る甲7の発明1に
おける流動層の流動媒体の流れを変更することに当業者が容易に想到する
ことはない。
イ審決は,相違点Aに係る構成の作用機能を看過した。
甲8公報に記載された技術においては,流動層内の循環流においてガス
化反応を完結しチャーをガスに転換させてしまうものであり,流動層炉か
らは可燃ガスが排出され,チャーの排出は例外的である。すなわち,甲8
公報の下降移動層における「乾留してガスとチャーを生成し」との過程は,
本件発明1における「ガス化してガスとチャーを生成し」に対応するもの
であるが,生成されたチャーはガス化反応が完結されてガスに転換されて
しまい微粒子とされることはなく,流動媒体が上昇する流動層からチャー
が排出されることはない。流動層炉から排出されるチャーは,下降移動層
で生成されたチャーのうち粒径がかなり細かいものが,例外的に下降移動
層から排出されるものであり,「ガス化してガスとチャーを生成し該チャ
ーを微粒子とし」て排出するという本件発明1の構成は開示されていない。
甲10公報には,焼却炉の発明が記載され,熱分解炉においても焼却炉と
同様である旨の記載があるが,それは単なる例示的な記載で,熱分解炉と
して使用する場合の具体的な構成及び作用機能についての実質的な記載は
ない。甲11文献に記載された技術においては,流動層内に循環流という
流動媒体の流れを形成し,燃焼物は,流動層内で短時間に焼却されて燃え
尽きてしまい,流動層炉からは燃焼排ガスが排出される。
すなわち,甲8公報等に記載された技術は,いずれも,流動層内に循環
流という流動媒体の流れを形成して,その循環流を有する流動層内でガス
化反応や燃焼を完結させるもので,流動層からガスとチャーを排出せず,
流動層炉全体についても可燃ガスとチャーを排出しない。
したがって,甲7の発明1の中核をなす「可燃ガスと微細なチャーが生
成される」という機能と密接に関係する流動媒体の流れに,炉内でガス化
反応や燃焼を完結させて可燃ガスとチャーを排出していない流動層炉が記
載されている甲8公報等に記載された技術を適用することに当業者が容易
に想到することはない。
ウ審決は,流動媒体の流れと流動層の機能との組合せの関係を看過した。
流動媒体の流れは流動層の機能と密接に結びついている。循環流も流動
の一態様であるが,流動の条件によって,流動層炉における流動層の機能
は異なってくる。甲7の発明1においては,甲7の発明1の流動層の流動
媒体の流れにおいて,可燃ガスとチャーが生成されるという流動層の機能
が発揮されていて,流動媒体の流れと流動層の機能の組合せが示されてい
る。他方,甲8公報等に記載された技術は,循環流を有するが,いずれも,
流動層炉から可燃ガスとチャーを排出しておらず,「流動媒体の循環流」
と「可燃ガスとチャーを生成」する流動層の機能との組合せは開示されて
いない。
甲7の発明1に,周知技術と認定された流動媒体の循環流を形成する技
術を適用した場合,甲7の発明1の流動層がもともと持っていた機能とそ
の流動層に形成された流動媒体の循環流とがどのように結び付くかは不明
であり,審決は,流動媒体の流れと流動層の機能との密接な関係について,
その整合性を何ら吟味することなく,前例のない「流動媒体の流れ」と
「流動層の機能」の組合せである,「流動媒体の循環流」と「可燃ガスと
チャーを生成」するという組合せを認定したものであり,このような組合
せに当業者が容易に想到することはない。
()甲7の発明1に,甲8公報等に記載された技術を組み合わせることには阻4
害要因があるにもかかわらず,審決は,「被請求人(注,原告)が主張する
阻害事由は根拠がないものといわざるを得ない。」(審決謄本49頁第1段
落)としたものであり,誤りである。
ア甲7公報には,循環流が形成されていない流動層熱分解炉とサイクロン
燃焼炉との組合せにより,両方法の長所が生かされ短所が相殺されて消滅
し,相乗的な極めて顕著な効果を奏していることが記載され,技術的思想
として,甲7の発明1の流動層を他の流動層に置き換えることができない
ことが記載されている。
そして,流動層で生成した可燃ガス,チャー及び灰分の混合物を次段の
サイクロン燃焼炉に導入するという機能を有する甲7の発明1の流動層に
代えて,可燃ガス及びチャーを次段に導入するという機能を有さず完全ガ
ス化あるいは完全燃焼という機能と結びついていた循環流を適用すること
は,上記の甲7の発明1の「流動層熱分解方法とサイクロン燃焼方法とを
組み合わせることにより,両方法の長所が生かされ短所が相殺されて消滅
し,相乗的は極めて顕著な効果を伴う固形物の燃焼方法及びその装置を提
供する」(甲7公報の7欄17行目∼8欄3行目)との目的に反すること
となり,その組合せの阻害要因が認められる。
甲7の発明1において,流動媒体の流れとして循環流を採用した場合に
は,流動層炉の「流動方式」は「バブリング式」とは区別された「内部循
環式」となり,ガス化溶融システムそのものの基本的条件を変更すること
となり,甲7の発明1の流動層熱分解炉とサイクロン燃焼炉との組合せの
関係を壊して,甲7の発明1が想定していない他の組合せに変えることに
等しいものである。
イ甲7の発明1に,甲8公報等に記載された技術を適用すると,キャリー
オーバーの問題(サイクロン燃焼炉に供給される固形物のうち,粒径の小
さな粒子がサイクロン燃焼炉をすり抜けてしまう現象)が発生するので,
その適用には阻害要因が存在する。本件出願日当時,旋回流溶融炉のスラ
グ化率は高くても80%であり,キャリーオーバーが生じることは当業者
の技術常識であった。
甲7の発明1は,「集じん后も発じん防止などに特別な対策を要す
る。」ことを課題としていて,前段の流動層に微粒子化の機能を有する循
環流を採用し,次段のサイクロン燃焼炉に,より微細なチャー等が供給さ
れることは,甲7の発明1の目的に反する改変となる。また,微細なチャ
ー等が供給されることにより,「サイクロン燃焼炉の高性能化」が必要と
なれば,そのこと自体が,甲7の発明1に循環流を組み合わせることを阻
害する要因となる。
4取消事由4(相違点Bについての認定判断の誤り)
()審決は,甲14公報に「ガラス繊維を含む廃棄プラスチックスを燃焼分解1
させる流動層熱分解炉と旋回燃焼炉を備えた廃棄物焼却方法において,流動
層炉(流動層熱分解炉)内の温度を500∼600℃に温度制御することが
記載されている」(審決謄本27頁第6段落)として,「相違点Bに係る本
件発明1の構成は,甲7の発明1に甲14に記載された発明(注,甲14発
明)を適用することにより当業者であれば容易に想到することができたもの
というべきである。」(同頁第7段落)と判断したが,誤りである。
()甲14発明は,被処理物を「ガラス繊維を含む廃棄プラスチックス」に特2
化した発明であり,チャーの発生は意識しておらず,その500℃から60
0℃という流動層炉(流動層熱分解炉)内の温度範囲は,「ガラス繊維を含
む廃棄プラスチックス」を処理する場合にガラス繊維が軟化溶融してしまう
という問題を解消するために選択されたものである。
他方,甲7の発明1は,一般の廃棄物を流動層熱分解炉でガス化してガス
とチャーを生成し,サイクロン燃焼炉でガスとチャーを燃焼して灰分をスラ
グ化する2段の廃棄物の処理技術である。
チャーについて意識しておらず,被処理物が甲7の発明1とは異なる「ガ
ラス繊維を含む廃棄プラスチックス」に特化され,その特化された被処理物
固有の問題を解決するためにガラス繊維が軟化溶融しないように特定された
甲14発明の流動層炉内の温度範囲と,一般の廃棄物をガス化してガスとチ
ャーを生成し次段のサイクロン燃焼炉に供給する甲7の発明1の熱分解炉の
温度範囲は技術的意義が異なるので,甲14発明の温度範囲を,甲7の発明
1に結び付ける動機付けはない。
(3)本件発明1の本質から,甲7の発明1に甲14公報に記載された流動層炉
内の温度範囲を適用することができない。
本件発明1のガス化溶融炉においては,溶融炉で灰分を溶融するために,
溶融炉を一定の高温に維持する必要があり,そのために流動層炉において可
燃分(可燃性ガス,タール及びチャー)をできるだけ多く安定して生成させ,
その安定,多量に生成した可燃分(可燃性ガス,タール及びチャー)を溶融
炉に供給する必要がある。本件発明1において,流動層炉の温度を450℃
から650℃としたのは,多量の可燃分(可燃性ガス,タール及びチャー)
をできるだけ多く安定して生成させるためである。これに対し,甲14公報
には,多量の可燃分(可燃性ガス,タール及びチャー)をできるだけ多く安
定して生成させるという技術的思想は全く開示されていない。したがって,
甲14公報に開示されている500℃から600℃という流動層炉の温度範
囲の技術的意義と本件発明1において流動層炉の温度範囲を450℃から6
50℃とすることの技術的意義は全く異なるものである。そして,循環流を
備えた流動層により,ガス,タール,チャーの多量の可燃分を含む生成ガス
を得て,生成されたチャーを循環流中で微粒子としてガスに同伴されやすく
し,多量に生成されたガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融
炉に安定して供給するという新規な目的,課題に対応するために最適化され
た温度範囲を規定したのが相違点Bに係る本件発明1の構成であり,このよ
うな目的,課題は,甲14公報には開示されておらず,当業者は,本件発明
1の課題自体を知らないのであるから,それを最適化する数値範囲を知るこ
とはできず,この点に進歩性があるのは明らかである。
5取消事由5(相違点Cについての認定判断の誤り)
(1)審決は,相違点Cに係る本件発明1の構成について,「(該廃棄物を)
『該流動層炉内の循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該
循環流中で微粒子とし』たことは,甲7の発明1に周知の技術を適用した結
果として当業者には自明の事項であるから,甲7の発明1と周知の技術に基
づいて当業者であれば容易に想到することができたものというべきであ
る。」(審決謄本28頁第3段落)と認定判断したが,誤りである。
(2)相違点Cに係る本件発明1の「(該廃棄物を)該流動層炉内の循環流中で
ガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし」とい
う構成は,廃棄物を循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,ガス化に
より生成されたチャーを循環流中でさらに微粒子とすることによってガスと
微粒子となったチャーを得る一連の工程を規定したものであり,次段の溶融
炉に供給する「該ガスと該微粒子となったチャー」を得るための構成である。
審決は,相違点Cについての判断に当たり,甲7公報に「熱分解過程で可
燃ガスとチャーが生成され,該チャーと該灰分が微細粒子,すなわち微粒子
となることが記載されていると認められる。」(審決謄本27頁最終段落∼
28頁第1段落)と認定して,甲7公報にも,熱分解過程でガスとチャーを
生成し,生成されたチャー(該チャー)を微粒子として次段の溶融炉に供給
する「該ガスと該微粒子となったチャー」を得るための構成が記載されてい
ると認定したが,甲7の発明1においては,熱分解により生成した微細なチ
ャーと可燃性ガスが,熱分解流動層炉から排出されサイクロン燃焼炉に供給
されるのであって,熱分解で生成されたチャーが生成された状態で微細粒子
であり,生成されたチャーがさらに微粒子とされることはない。したがって,
審決の上記認定は誤りであり,誤った認定に基づく相違点Cについての判断
は誤りである。
()審決は,「なお,この認定(注,甲7公報に,都市ごみのような廃棄物を3
流動層熱分解炉に供給すると,流動層内の部分燃焼により灰分が発生し残部
が熱分解されるが,この熱分解過程で可燃ガスとチャーが生成され,該チャ
ーと該灰分が微細粒子,すなわち微粒子となることが記載されていること)
は,甲10(注,甲10公報)の上記3c(注,「このような状態の焼却炉
6の炉内に,原料投入口60から投入されたごみは下降移動層46の頂部に
下降する。頂部付近においては流動媒体の流れは外側から中心に向かつて集
中する方向に流れるので,ごみはこの流れに巻き込まれて下降移動層46の
頂部にもぐり込まされる。・・・下降移動層46の中では部分的に熱分解が
行なわれ可燃ガスが発生する。」)及び3d(注,「下降移動層46の表面
にびん,アイロンなどの如き重くかつ大きな物体を落下せしめて供給した場
合,これらの物体は瞬時に空気室44の上まで落下するのではなく,下降移
動層46に支えられて,流動媒体の流れと共に徐々に下降する。そのため,
可燃物はかなりの大きさのものでも,下降移動層46の中で徐々に下降して
いるうちに乾燥,ガス化,燃焼が行なわれ,裾に達するときには大半が燃焼
して細片化しているので,流動層の形成を阻害することがない。従つて,ご
みは予め破砕機で破砕をしなくとも,給じん装置5で破袋する程度で差支え
なく,破砕機や破砕工程を省略しコンパクトな装置とすることができ
る。」)に掲記した記載からも裏付けられる」(審決謄本28頁第1段落)
と認定したが,誤りである。
甲7の発明1においては,熱分解で生成されるチャーが生成された状態で
微細粒子であり,生成されたチャーがさらに微粒子とされることは記載され
ていないから,審決は裏付ける対象そのものを誤っている。また,甲7の発
明1の流動層には流動媒体の循環流は存在しないのに対し,甲10公報に記
載された焼却炉の流動層は流動媒体の循環流を有し,甲7の発明1と甲10
公報に記載された発明では,流動層における流動媒体の流れが相違し,流動
化の条件が変われば流動層炉の機能も変わるから,流動層の流動媒体の流れ
の条件が明らかに異なる甲10公報の記載をもって,甲7の発明1の流動層
の機能を裏付けることはできない。また,甲10公報の焼却炉においては,
生成された可燃ガスも「細片化された可燃物」も完全燃焼してしまい,熱分
解過程でチャーを生成し,生成されたチャーをさらに微粒子として微粒子と
なったチャーを得る工程は記載されていないし,チャーは,燃え尽きる過程
において出現するのかどうかも不明なもので,たとえ出現するとしても一時
的に出現するものにすぎない。したがって,甲10公報の記載から,甲7公
報に可燃ガスを生成すること及び熱分解過程で生成されたチャーをさらに微
粒子として可燃ガスと微粒子となったチャーを得る工程が記載されているこ
とを裏付けることはできない。
6取消事由6(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)
(1)審決は,「本件発明1の作用効果を検討しても,甲7及び甲14に記載
された各発明(注,甲7の発明1及び甲14発明)並びに周知の技術から当
業者の予測を超えるような格別顕著な効果を奏するものとみることはできな
い。」(審決謄本29頁第4段落)と判断したが,本件発明1の奏する顕著
な効果を看過したものであり,誤りである。
(2)本件発明1は,流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し,廃棄物をガス
化して生成した可燃ガスをあまり燃焼させずに次段の溶融炉に供給するとと
もに,循環流中でチャーを微粒子とすることにより,流動層炉で生成した可
燃ガス及びチャーをともに安定して溶融炉に供給することができ,対象とす
るごみが質的及び量的に変動するごみ処理特有の課題において,ガス,ター
ル,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得て,ガス,タール,チ
ャーの可燃分の大部分を次段の旋回溶融炉において利用できるという顕著な
効果を奏するものである。
これに対し,甲7の発明1,甲14発明及び審決が周知技術認定の根拠と
した甲8公報等には,対象とするごみが質的及び量的に変動するごみ処理特
有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成
ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の旋回溶融炉に
おいて利用できるものであるとの効果は一切記載されていない。本件発明1
のような問題意識がなければ,甲7の発明1,甲14発明及び周知技術から,
その効果を当業者が容易に予測し得たということはできないことは明らかで
ある。また,甲7の発明1には,本件発明1の効果を奏するための構成をほ
とんど欠いているから,甲7の発明1,甲14発明及び周知技術をどのよう
に組み合わせても,本件発明1の構成に想到することはないのであり,本件
発明1の効果は,甲7の発明1等から予測できるものではない。
7取消事由7(本件発明2についての進歩性の認定判断の誤り)
()審決は,「上記の事実に照らせば,請求項2で付加した構成,すなわち,1
『流動層炉は,流動層温度が450℃∼650℃に維持されること』は,本
件発明の出願前に当業者には周知の技術であったものと認められる。本件発
明2の作用効果を検討しても,甲7及び甲14に記載された各発明(注,甲
7の発明1及び甲14発明)並びに周知の技術から当業者の予測を超えるよ
うな格別顕著な効果を奏するものとみることはできない。したがって,本件
発明2は,本件発明1について前示した理由に上記の理由を加えた理由によ
りその進歩性が否定されるものであるから,本件発明2の出願日前に国内に
おいて頒布された刊行物である甲7及び甲14に記載された各発明並びに周
知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべき
である。」(審決謄本30頁第3段落∼第5段落)としたが誤りである。
()引用文献記載の発明に周知技術を適用して特許出願に係る発明の構成を得2
ることが容易であったと認められるためには,当該周知技術が引用文献記載
の発明に適用されることに適した内容のもの,すなわち,適用上の適性があ
るものであり,かつ,当該周知技術を適用して特許出願に係る発明の構成を
得ることが技術的合理性の見地からみて可能であり,また,相当であること
を前提とする。そして,周知技術が適用上の適性がある技術であるというた
めには,それが単に,引用文献記載の発明及び特許出願に係る発明と技術分
野を異にしないものであるのみならず,技術的思想として,これらの発明に
近接し,これと共通の要素を持つものでなければならない。
甲7の発明1の流動層熱分解炉は,廃棄物をガス化して,ガスとチャーを
生成し,生成されたガスとチャーをサイクロン燃焼炉に供給するためのもの
である。また,本件発明2は,次段の溶融炉で灰分を溶融する場合,溶融炉
を1300℃以上の高温に保つ必要があり,流動層炉で生成した可燃分をで
きるだけ多く安定して溶融炉に熱源として送り込む必要があるため,特に,
流動層温度を450℃から650℃に維持することにより,廃棄物をガス化
して可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得ることができ,ガス,タール,
チャーの可燃分の大部分を溶融炉で利用できるようにしたものである。すな
わち,本件発明2は,ガス化溶融炉を大前提として,溶融炉にガス,タール,
チャーの可燃分の大部分を送って利用できるようにするための構成を備える
ものである。
これらに対し,審決が周知技術の根拠とした文献に記載された技術は,い
ずれも単なる流動焼却炉に係るものであり,廃棄物を流動層炉でガス化して
ガスとチャーを生成し,溶融炉にガスとチャーを送って利用できるようにし
ようとの技術的思想は全く存在しない。審決が周知技術の根拠とした文献の
うち,平成4年7月発行エバラ時報No.156「高効率燃焼型流動床焼却
施設」(甲12,以下「甲12文献」という。)は,流動床焼却施設につい
ての記載であり,流動層から排出されるのは可燃ガスであり,チャーが排出
されることは記載されていないし,流動層の温度範囲は,ガス化が完全に行
われ,かつ,ガス化速度を緩慢とするための温度範囲である。また,甲25
公報に記載された流動層焼却炉では,流動層炉より可燃ガスとチャーを排出
することは記載されていないし,流動層の温度範囲は,都市ごみの着火温度
以上で,かつ,クリンカ及びNOの発生や散気ノズルの損傷を回避するたX
めの温度範囲である。特開平3−75406号公報(甲26,以下「甲26
公報」という。)には,流動層炉から可燃ガスとチャーを排出することは記
載されていないし,その温度範囲は,焼却炉において安定した燃焼を維持す
るためのものにすぎない。また,特開昭62−169921号公報(甲27,
以下「甲27公報」という。)には,流動層炉より可燃ガスとチャーを排出
することは記載されていないし,流動層の温度範囲は,焼却炉において流動
層内での燃焼を安定して行うことができるようにするための温度範囲にすぎ
ない。
したがって,審決が周知技術認定の根拠とした各文献には,溶融炉にガス
とチャーを送って利用できるようにするために,特に流動層温度を450℃
から650℃に維持し,廃棄物をガス化して,可燃ガスとチャーを得て流動
層炉から排出することができるようにしたという技術的思想は全く示されて
おらず,技術的思想として,本件発明2,甲7の発明1に近接し,これと共
通する要素を持つものとはいい難いものであるから,その技術は,甲7の発
明1に基づいて本件発明2の構成を得るのに用い得るような適用上の適性を
有するものとは認められない。
()審決は,本件発明2の格別顕著な効果を否定したが,誤りである。3
本件発明2は,特に流動層温度を450℃から650℃に維持することに
より,廃棄物をガス化して,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均
質な生成ガスを得ることができるようにし,溶融炉にガス,タール,チャー
の可燃分の大部分を送って利用できるようにするという効果を有するもので
ある。
これに対し,甲7公報,甲14公報及び審決が周知技術認定の根拠とした
文献のいずれにも,上記効果,特に流動層温度を450℃から650℃に維
持することにより,廃棄物をガス化して,ガス,タール,チャーの可燃分を
多量に含む均質な生成ガスを得ることができるようにし,溶融炉にガス,タ
ール,チャーの可燃分の大部分を送って利用できるようにするとの効果は全
く示されていないから,本件発明2の構成は,当業者の予測を超える格別顕
著な効果を奏するものである。
8取消事由8(本件発明6についての進歩性の認定判断の誤り)
(1)審決は,「本件発明4及び5についての判断においてそれぞれ前示した周
知の技術に照らせば,請求項6で付加した構成,すなわち『質量速度が比較
的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気で
あること』は,本件発明の出願前に当業者には周知の技術であったものと認
められる。本件発明6の作用効果を検討しても,甲7及び甲14に記載され
た各発明(注,甲7の発明1及び甲14発明)並びに周知の技術から当業者
の予測を超えるような格別顕著な効果を奏するものとみることはできない。
したがって,本件発明6は,本件発明4又は5について前示した理由に上記
の理由を加えた理由によりその進歩性が否定されるものであるから,本件発
明6の出願日前に国内において頒布された刊行物である甲7及び甲14に記
載された各発明並びに周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすること
ができたものというべきである。」(審決謄本33頁第8段落∼34頁第2
段落)としたが,誤りである。
()本件発明6は,特許請求の範囲の請求項1,請求項5及び請求項6の構成2
を有する。そして,本件発明6における「前記流動媒体の循環流は,質量速
度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給す
ることにより形成され,前記質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度
が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気であり」との構成は,流動層炉内
の流動媒体の循環流中に,質量速度が比較的小さい流動化ガスが供給され流
動媒体が下降する空気量の少ない部分と質量速度が比較的大きい流動化ガス
が供給され流動媒体が上昇する空気量が多い部分を形成させることを規定す
るものであり,「ガス化してガスとチャーを生成し該チャーを微粒子とし」
との構成と有機的に結合して,流動層において熱分解(ガス化)を行い,熱
分解過程の結果生成された流動層炉内にとどまりがちなチャーを,流動層炉
外に抜き出すことなく,流動層内で熱分解過程の結果生成されたチャーを微
粒子とする処理をさらに行わせるようにして該微粒子となったチャーを該ガ
スとともに次段の溶融炉に供給するようにしたものである。
これに対し,甲7の発明1は,流動媒体が下降する空気量の少ない移動層
における本件発明6の「ガス化してガスとチャーを生成し」に対応する「熱
分解過程によりガスとチャーを生成し」は存在するが,ガス化により生成さ
れたチャーを流動媒体が上昇する空気量の多い流動層においてさらに微粒子
とする本件発明6の「該チャーを微粒子とし」との構成はない。
また,審決が周知技術認定の根拠とした,甲8公報,甲10公報及び甲1
1文献には,いずれも,循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,生成
したチャーを循環流中で微粒子とすることは記載されていない。そもそも,
本件発明5に係る構成についての周知技術の認定の根拠となった甲8公報に
は,本件発明6で付加された構成である「前記質量速度が比較的小さい流動
化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気であり」は記載
されていないのであり,甲8公報は引用文献として適切ではない。
甲7の発明1に,「前記流動媒体の循環流は,質量速度が比較的小さい流
動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給することにより形成さ
れ,前記質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動
化ガスは,ともに空気であり」との技術をどのように組み合わせても,「循
環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子と
し」との本件発明6に係る構成に想到することはできない。
(3)「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し,前記流動媒体の循環流は,質
量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスを供
給することにより形成され,前記質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量
速度が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気であり」との技術は,焼却炉
において周知であっても,ガス化炉においては周知ではなく,また,公知で
もない。
流動層焼却炉において循環流を形成する場合には,質量速度の比較的小さ
い流動化ガスと質量速度の比較的大きい流動化ガスはともに燃焼用空気とさ
れるのに対し,流動層ガス化炉において循環流を形成する場合には,質量速
度の比較的小さい流動化ガスと質量速度の比較的大きい流動化ガスにはガス
化剤が使用される。ガス化炉に係る甲8公報においては,流動化ガスは,
「空気とスチームとの混合物又は酸素とスチームとの混合物」とされ,「中
央部の室22から噴出する流動化ガス中の酸素濃度は,両側縁部の室21,
23から噴出する流動化ガスよりも低いか,あるいはスチームのみとしても
よい。」と記載されていて,流動化ガスとして空気を使用することは記載さ
れていない。
流動化ガスとして可燃物を燃焼させるために空気を用いていた焼却炉の技
術分野において周知の技術手段であるからといって,可燃分を燃焼により消
費しないで可燃分として回収するために空気以外のガス化剤を流動化ガスと
して用いていたガス化炉の技術分野においてまで周知の技術手段であるとす
ることはできない。
9取消事由9(本件発明7についての進歩性の認定判断の誤り)
審決は,本件発明7で付加した「前記流動層炉へ供給される流動化ガスは,
廃棄物の燃焼に必要な理論燃焼空気量の30%以下の空気量を含むことを特徴
とする」との構成が,「本件発明の出願前に当業者には周知の技術であったも
のと認められる」(審決謄本35頁第3段落)とし,「本件発明7の作用効果
を検討しても,甲7及び甲14に記載された各発明(注,甲7の発明1及び甲
14発明)並びに周知の技術から当業者の予測を超えるような格別顕著な効果
を奏するものとみることはできない。したがって,本件発明7は,本件発明4
ないし6について前示した理由に上記の理由を加えた理由によりその進歩性が
否定されるものである」(同頁最終段落∼36頁第2段落)と認定判断したが,
誤りである。
本件発明7の「前記流動層炉へ供給される流動化ガスは,廃棄物の燃焼に必
要な理論燃焼空気量の30%以下の空気量を含むこと」との構成は,「循環流
中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子と」する
ための構成であり,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,生成したチャ
ーをさらに微粒子とするための空気比を規定しているものである。
これに対し,審決が周知技術認定の根拠とした特開昭55―46370号公
報(甲28,以下「甲28公報」という。)には,チャー及び可燃ガスに関す
る記載は全くないし,特開平4―327707号公報(甲29)においては,
流動層に供給される荒粒子の理論空気量に対して100%以上であり,同公報
に記載された流動層からは残存酸素を含む流動燃焼ガスが排出されるのであり,
可燃ガスとチャーは排出されず,特開平7−35322号公報(甲30,以下
「甲30公報」という。)には,チャーの生成に関する記載はない。
したがって,審決が周知技術認定の根拠とした公報には,いずれも,流動層
からガスとチャーを排出する記載はなく,これらの文献に記載された空気比が,
廃棄物をガス化してガスとチャーを生成する流動層の空気比として周知である
ということはできない。
10取消事由10(本件発明10についての進歩性の認定判断の誤り)
(1)本件発明10と甲7の発明2の一致点の認定の誤り
審決は,本件発明10と甲7の発明2とは「廃棄物をガス化する流動層炉
と,該流動層炉内で生成されたガスとチャーを燃焼して灰分を熔融する熔融
炉とを備えたガス化及び熔融燃焼装置において,前記流動層炉は流動化ガス
を炉内に供給する流動化ガス供給手段を備え,前記熔融炉はガスとチャーを
燃焼する燃焼室を備え,該燃焼室によって前記流動層炉より排出されたガス
と微粒子となったチャーを燃焼して灰分を熔融してスラグ化するガス化及び
熔融燃焼装置。」(審決謄本38頁第2段落)の点で一致するとしたが,誤
りである。
本件発明10の「微粒子となったチャー」は,本件発明10の「該流動層
炉内の循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で
微粒子とし」とするものであり,生成したチャーを循環流中でさらに微粒子
としたものであるのに対し,甲7の発明2においては,熱分解によって生成
したのが「微細な粒子のチャー」であり,これらのチャーは異なるのである
から,これらを同じものとした審決の一致点の認定は誤りである。
()相違点Eについての認定判断の誤り2
相違点Eに係る本件発明10の構成は,相違点Aに係る本件発明1の構成
に「流動化ガス供給手段」によって循環流を形成するとの構成を付加したも
のであり,取消事由3(相違点Aについての認定判断の誤り)と同様の理由
により,審決の認定判断には誤りがある。
()相違点Fについての認定判断の誤り3
相違点Fに係る本件発明10の構成は,相違点Bに係る本件発明1の構成
と同じであり,取消事由4(相違点Bについての認定判断の誤り)と同様の
理由により,審決の認定判断には誤りがある。
(4)相違点Gについての認定判断の誤り
相違点Gに係る本件発明10の構成は,相違点Cに係る本件発明1の構成
と同じであり,取消事由5(相違点Cについての認定判断の誤り)と同様の
理由により,審決の認定判断には誤りがある。
(5)本件発明10の奏する顕著な効果の看過
審決は,「また,本件発明10の作用効果を検討しても,甲7及び甲14
に記載された各発明(注,甲7の発明2及び甲14発明)並びに周知の技術
から当業者の予測を超えるような格別顕著な効果を奏するものとみることは
できない。」(審決謄本40頁第7段落)と判断したが,方法の発明である
本件発明1に対応する装置の発明である本件発明10は,本件発明1と同様
の構成を有し,取消事由6(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)と同様
の理由により,審決の認定判断には誤りがある。
11取消事由11(本件発明11についての進歩性の認定判断の誤り)
審決は,本件発明11について,当業者が容易に想到することができたと
判断したが,本件発明11は,方法の発明である本件発明2に対応する装置
の発明であり,取消事由7(本件発明2についての認定判断の誤り)と同様
の理由により,審決の認定判断には誤りがある。
12取消事由12(本件発明16についての進歩性の認定判断の誤り)
審決は,「請求項16に記載された構成は,本件発明1の構成のうち,
『(流動層)炉内を450℃∼650℃に維持し』との構成を『流動層温度
を450℃∼650℃に維持し』とし,『1300℃以上にて』を削除した
ものであるが,この『流動層温度を450℃∼650℃に維持し』とした点
については,本件発明2で前示したとおり,本件発明の出願前に当業者には
周知の技術であったものにすぎない。したがって,本件発明16は,本件発
明1の方法の発明を引用した本件発明2について前示したものと同様の理由
により,本件発明16の出願日前に国内において頒布された刊行物である甲
7及び甲14に記載された各発明(注,甲7の発明1及び甲14発明)並び
に周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものという
べきである。」(審決謄本43頁最終段落∼44頁第2段落)と認定判断し
たが,誤りである。
本件発明16の構成のうち,「流動層温度を450℃∼650℃に維持
し」との構成については,取消事由7(本件発明2についての認定判断の誤
り)のとおり,審決の認定判断には誤りがあり,相違点A及びCに係る本件
発明16の構成についても,取消事由3(相違点Aについての認定判断の誤
り)及び取消事由5(相違点Cについての認定判断の誤り)と同様の理由に
より,審決の認定判断は誤りである。
13取消事由13(本件発明19についての進歩性の認定判断の誤り)
(1)相違点Iについての認定判断の誤り
審決は,「相違点Iは,本件発明1において前記認定した相違点Aと全く
同じ構成のものであるから,相違点Aについて前示した理由により,相違点
Iに係る構成,すなわち,『流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し』たこ
とは,甲7の発明1に前記認定した周知の技術を適用することにより当業者
であれば容易に想到できたものというべきである。」(審決謄本46頁第1
段落)と認定判断したが,取消事由3(相違点Aについての認定判断の誤
り)のとおり,相違点Aについての審決の認定判断は誤りであるから,誤り
である。
(2)相違点Kについての認定判断の誤り
審決は,「相違点Kは,請求項2において付加した構成と実質的に同じ構
成のものであるから,本件発明2について前示した理由により,相違点Kに
係る構成,すなわち『流動層温度を450℃∼650℃に維持し』とした点
は,本件発明の出願前に当業者には周知の技術にすぎなかったものと認めら
れる。」(審決謄本46頁第3段落)と認定判断したが,「流動層温度を4
50℃∼650℃に維持し」とした点については,取消事由7(本件発明2
についての認定判断の誤り)のとおり,本件発明2についての審決の認定判
断は誤りであるから,誤りである。
(3)相違点Lについての認定判断の誤りについて
審決は,「相違点Lは,本件発明1において前記認定した相違点Cと全く
同じ構成のものであるから,相違点Cについて前示した理由により,相違点
Lに係る構成,すなわち『流動層炉内の循環流中でガス化してガスとチャー
を生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし』た点は,甲7の発明(注,甲
7の発明1)に周知技術を適用した結果として当業者には自明の事項である
から,甲7の発明と周知技術に基づいて当業者が容易に想到できたものであ
るというべきである。」(審決謄本46頁第4段落)と認定判断したが,取
消事由5(相違点Cについての認定判断の誤り)のとおり,相違点Cについ
ての審決の認定判断は誤りであるから,誤りである。
(4)審決は,「本件発明19の作用効果を検討しても,甲7及び甲11に記載
された各発明(注,甲7の発明1及び甲11発明)並びに周知の技術から当
業者の予測を超えるような格別顕著な効果を奏するものとみることはできな
い。」(審決謄本47頁第3段落)と認定判断したが,誤りである。
本件明細書の段落【0057】等によれば,本件発明19では,流動層炉
内に流動媒体の循環流を形成し,廃棄物をガス化して生成した可燃ガスをあ
まり燃焼させずに次段の溶融炉に供給するとともに,循環流中でチャーを微
粒子にすることにより,流動層炉で生成した可燃ガス及びチャーをともに安
定して溶融炉に供給することができ,対象とするごみが質的及び量的に変動
するごみ処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に
含む均質な生成ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段
の旋回溶融炉において利用できるものである。また,本件明細書によれば,
本件発明19は,現在の焼却システムでは,有価金属の回収が困難である
(段落【0007】)という問題を解決し,廃棄物中の有価金属を還元雰囲
気の流動層炉内から酸化しない状態で取出し回収する(段落【0008】)
ために,流動層炉の炉底部より不燃物を流動媒体とともに排出し,該不燃物
と該流動媒体を分別した後に該流動媒体を該流動層炉に戻すようにしたもの
である。これにより,流動媒体は循環使用され,鉄,アルミ等の有価金属を
酸化しない状態で回収できるので,リサイクルに好適であり(段落【005
8】),顕著な効果を奏するものである。
14取消事由14(本件発明3ないし9,11ないし15,17,18及び2
0についての進歩性の認定判断の誤り)
審決は,本件発明3ないし9,11ないし15,17,18及び20につ
いて,いずれも,当業者が容易に想到することができたと判断したが,本件
発明3ないし9,11ないし15,17,18及び20は,本件発明1,1
0,16及び19を引用する発明であり,本件発明1,10,16及び19
についての審決の認定判断が誤りであるから,本件発明3ないし9,11な
いし15,17,18及び20についての審決の進歩性の認定判断は,いず
れも誤りである。
第4被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(甲7の発明1の認定の誤り)について
()原告は,審決が,本件発明1を含む本件発明の技術的意義を正解しなかっ1
たために,甲7の発明1の認定を誤った旨主張するが,その主張する本件発
明の技術的意義なるものは,本件明細書の記載と全く矛盾する。すなわち,
原告は,本件発明について,流動層炉内に循環流を形成して,多量のチャー
を微粒子化してガスに同伴しやすくし溶融炉に供給するという作用を有する
ことを前提として,本件発明の意義を主張するが,本件明細書には,チャー
をできるだけ飛散させずガス化させる旨が記載されている。これは,多量に
生成したチャーを安定して溶融炉に供給するという作用とは全く矛盾するも
のであり,本件明細書に記載された流動層炉は,原告が主張する作用と全く
反対の作用を有しているものである。
()原告は,甲7公報には,本件発明1の流動媒体が上昇する流動層における2
「該チャーを微粒子とし」との構成は記載されていない旨主張するが,甲7
公報には,「熱分解の生成ガス中に含まれるチャー及び灰分が微粒子とな
る」(3欄32行目∼34行目)と記載されていて,審決が,甲7公報に,
「流動層内の熱分解により生成された可燃性ガス並びにチャー及び灰分の微
細粒子,すなわち微粒子を,サイクロン燃焼炉に供給すること」(審決謄本
25頁第6段落)が記載されていると認定したことに誤りはない。
流動層内における熱分解は連続して進行するものであるから,甲7公報の
「微粒子となる」とは,流動層中の廃棄物が流動層の熱により乾留され,乾
留生成物たるチャーが連続的に熱分解が進行して一酸化炭素等のガスとなり,
徐々に小さくなって微粒子となることを意味し,そうであるから,本件発明
について,明細書に「該チャーを循環流中で微粒子とし」との記載はないが,
「流動層炉から微粒子が排出される」との記載があることから,「該チャー
を循環流中で微粒子とし」を追加する訂正(平成14年2月25日付け訂正
請求,甲3)が認められた。
2取消事由2(本件発明1と甲7の発明1の一致点の認定の誤り,相違点の看
過)について
原告は,審決が甲7の発明1の認定を誤ったことを理由として,審決の本件
発明1と甲7の発明1の一致点の認定を誤りである旨主張するが,前記1のと
おり,審決の甲7の発明1の認定に誤りはないから,失当である。
また,原告は,審決が甲7の発明1の認定を誤り,本件発明1と甲7の発明
1との相違点を看過した旨主張するが,甲7の発明1についての審決の認定に
誤りはないから,失当である。
3取消事由3(相違点Aについての認定判断の誤り)について
()原告は,審決の甲7の発明1の認定が誤りであることを前提として,甲71
の発明1に周知又は公知の「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し」との
技術をどのように組み合わせても,本件発明1の「該チャーを微粒子とし」
との構成が得られることがない旨主張するが,審決の甲7の発明1の認定に
何ら誤りがないから,失当である。
()原告は,審決が,流動媒体の流れと流動層の機能の関係を看過した旨主張2
する。
しかし,甲7の発明1に,流動層を循環流としたものを適用すると,甲7
の発明1の流動層の機能を変質させることとなるとする原告の主張は何ら根
拠がない。甲7の発明1の流動層を循環流としても,甲7の発明1の「ガス
とチャーを生成する」という流動層の機能は何ら変質することはないし,仮
に,流動の態様によって多少の程度の差が生じることはあったとしても,当
業者は,供給する空気量や廃棄物量などを適宜調整して所望の機能を発揮さ
せることができる。
また,甲7公報には,流動層の流動媒体の流れを限定する事項は全く記載
されていないし,甲7の発明1の流動層に,周知技術である「流動層炉内に
流動媒体の循環流を形成し」との構成を適用すると,「可燃ガスとチャーを
生成する」という機能が失われるならば,「流動層炉内に流動媒体の循環流
を形成し」という構成と「ガスとチャーを生成し,該チャーを微粒子とす
る」という構成を有する本件発明1が実施し得ないものとなる。
そして,そもそも,流動層炉というものは,「循環流」の有無にかかわら
ず,空気量(酸素量)等を調整することにより,その使用目的に応じてガス
化にも焼却にも適用し得るものである。甲8公報等の記載からも,「流動媒
体の循環流」を有する流動層では,ガス化を行ったり,焼却を行ったりでき
るものである。
()原告は,審決が,相違点Aに係る構成の作用機能を看過した旨主張する。3
しかし,原告が主張する「ガスとチャーを排出しない」という機能は,相
違点Aに係る「循環流」という構成自体の機能ではなく,原告が流動層炉全
体について評価した機能であり,原告は,実質的に,循環流の機能を流動層
炉全体の機能にすり替えて主張しているのであり,失当である。また,甲8
公報や甲10公報には,必然的にガスとチャーが排出される熱分解炉が記載
されており,これらがガスとチャーを排出しない旨の原告の主張は前提を欠
く。
()原告は,審決が,流動媒体の流れと流動層の機能との組合せの関係を看過4
したとして,甲7の発明1に循環流を形成する技術を適用した場合に,甲7
の発明1の流動層がもともと持っていた機能と循環流とがどのように結び付
くかが不明である旨主張する。
しかし,流動媒体は熱媒体であり,被加熱物に効率良く熱を伝達するため
に流動という流れを必要とするものであり,甲7の発明1の流動層もこのよ
うな流動という流れによって,被加熱物を効率よく加熱して,ガス化等の機
能を発揮している。そして,周知技術である「循環流」は,流動という流れ
の一態様であることから,甲7の発明1の流動層に「循環流」を適用した場
合,その「循環流」が少なくとも,流動という流れとして機能することは明
らかである。
()原告は,甲7公報には,循環流が形成されていない流動層熱分解炉とサイ5
クロン燃焼炉との組合せにより,両方法の長所が生かされ短所が相殺されて
消滅し,相乗的な極めて顕著な効果を奏していることが記載され,技術的思
想として,甲7の発明1の流動層を他の流動層に置き換えるということがで
きないことが記載されている旨主張する。
しかし,甲7公報には,流動層熱分解炉の流動媒体の流れが,特許請求の
範囲において一切特定されていないだけでなく,実施例においても好ましい
流れやそのための条件が一切記載されていないのであり,審決は,甲7の発
明1の流動層熱分解炉とサイクロン燃焼炉との組合せを維持しつつ,前段の
流動層熱分解炉において何ら特定されていない流動媒体の流れとして,「循
環流」という周知技術を採用しているだけである。また,仮に,甲7の発明
1が,循環流が形成されていない流動層を前提とするものであったとしても,
甲7の発明1の流動層における流動媒体の流れとして,「循環流」という周
知技術を採用すると,甲7の発明1の流動層の機能が「完全ガス化あるいは
完全燃焼」となるなどあり得ない。
また,原告は,甲7の発明1に甲8公報等に記載された技術を適用すると,
キャリーオーバーが発生するので,その適用には阻害要因が存在する旨主張
する。
原告主張の上記阻害要因は,流動層における流動媒体の流れとして循環流
を採用すると,他の流動媒体の流れを採用した場合よりも飛散するチャーの
粒径が微細となってキャリーオーバーの問題が増大するということを前提と
するものと考えられるが,流動層中の微粒子は,上昇流が終末速度以上にな
ると炉外に飛散することとなり,この終末速度は,粒径が小さくなるほど小
さくなるものであって,流動層炉から飛散する微粒子の粒径は,同伴するた
めのガスの流速によって定まるものであり,循環流の有無は,飛散する最終
的な微粒子の粒径とは無関係である。また,仮に,飛散するチャーの粒径が,
他の流れを採用する場合よりも微細となるとしても,そのようなチャーは,
微細であるため自燃して短時間で消滅しやすくなるはずであり,原告のキャ
リーオーバーに関する主張は,前提から誤っている。
甲7公報には,実施例において電気集じん器を設ける旨が記載されている
のであるから,甲7の発明1においても一部のキャリーオーバーについては
予定され,それに対し,電気集じん器を設ける程度のことは甲7の発明1に
おいても予定されていることといえるし,本件明細書には,サイクロン燃焼
炉の性能の特定はなされておらず,高性能なサイクロン燃焼炉を用いること
も当然に課題を解決する発明の範囲に含まれるものであり,この程度の対策
は,課題に記載された「特別な対策」に該当するものではない。そして,現
実に,飛灰の大半(80%程度)はサイクロン燃焼炉で捕捉することができ
るのであり,実際にその程度の捕集率で十分に実機として機能しているので
あるから,高性能化したサイクロン燃焼炉において一部がキャリーオーバー
するとしても,阻害要因に該当しない。
4取消事由4(相違点Bについての認定判断の誤り)について
()原告は,被処理物が「ガラス繊維を含む廃棄プラスチック」に特化され,1
その特化された被処理物固有の問題を解決するための甲14発明の流動層炉
内の温度範囲と甲7の発明1の熱分解炉の温度範囲が技術的意義が異なり,
甲14発明の温度範囲を,甲7の発明1に組み合わせる動機付けはない旨主
張するが,失当である。
甲7の発明1と甲14発明とは,ともに廃棄物を流動層炉を用いて処理す
るものであり,技術分野を共通にするものであることから,両発明を組み合
わせる動機付けがある。また,両発明の熱分解炉は,廃棄物を熱分解し,熱
分解ガスと灰分とを次段の旋回式溶融炉に供給する点において作用機能を共
通にするものであるから,その組合せの動機付けがある。
原告は,甲14発明が「ガラス繊維を含む廃プラスチック」に特化した発
明であることを根拠に動機付けを否定するのであるが,ガラス繊維を含む廃
棄プラスチックも甲7の発明1の処理対象に含まれる。
()原告は,多量に生成されたガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段2
の溶融炉に安定して供給するという新規な目的,課題に対応するために最適
化された温度範囲を規定したのが相違点Bに係る本件発明1の構成であり,
このような目的,課題は,甲14公報に開示されていない旨主張するが,本
件発明1の技術的意義についての主張は,前記1のとおり,本件明細書の記
載と矛盾するものであり,また,甲14発明は,本件発明1と同様に,前段
で熱分解し,熱分解生成物である分解ガスを次段で利用するものであり,甲
14公報には,前段を温度制御して,次段で補助燃料が必要とならない程に
可燃分を生成するという思想も記載されていて,本件発明1と甲14発明の
流動層炉の温度範囲の技術的意義が全く異なる旨の原告の主張は根拠がない
し,結果的には,本件発明1と同じ程度に,多量の可燃分が安定して生成さ
れるものであり,その点において,本件発明1と異なるものではない。
さらに,流動層炉を用いて熱分解を行う温度として,450℃から650
℃は極めて一般的な温度であり,このことは,甲14公報,甲12文献,甲
27公報及び特開昭60−96823号公報(甲13,以下「甲13公報」
という。)等の記載からも明らかである。
5取消事由5(相違点Cについての認定判断の誤り)について
()原告は,甲7の発明1においては,熱分解で生成されたチャーが生成され1
た状態で微細粒子であり,生成されたチャーがさらに微粒子とされることは
ないとして,甲7公報に「熱分解過程で可燃ガスとチャーが生成され,該チ
ャーと該灰分が微細粒子,すなわち微粒子となることが記載されている」
(審決謄本27頁最終段落∼28頁第1段落)とした審決の認定が誤りであ
ることを前提として,相違点Cについての審決の認定判断が誤りである旨主
張するが,甲7公報についての審決の認定に誤りはないから,失当である。
()原告は,甲10公報の記載は,甲7公報において,熱分解過程で可燃ガス2
とチャーが生成され,該チャーと該灰分が微細粒子,すなわち微粒子となる
ことが記載されていることを裏付けるものではない旨主張するが,甲7の発
明1の流動層と甲10公報の流動層は,同じように流動媒体の流れが存在し,
この流動媒体中で流動媒体を介して被処理物を加熱するという点で共通し,
甲10公報の記載は裏付けとなるし,甲10公報の流動層が最終的に焼却ま
で行う流動層であっても,焼却の途中経過においてガスとチャーが生成され,
チャーが微粒子となることが示されていれば,裏付けには十分である。
6取消事由6(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)について
原告は,本件発明1について,顕著な効果を否定する審決が誤りである旨主
張するが,失当である。
原告は,本件発明1について,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次
段の溶融燃焼炉において利用できる旨主張するが,甲7公報には,流動層炉に
おいて,少量の空気で,低空気比として,熱分解に必要な発熱量に見合って部
分燃焼させ,このような部分燃焼で生じたガス及びチャーをサイクロン燃焼炉
に導入し,サイクロン燃焼炉において,特に燃料を要しない程度に利用できる
ことが記載されている。供給空気量を抑えて低温(例えば,450℃など)に
した場合に未燃成物である可燃分が多量に発生することは,技術常識であるか
ら,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融燃焼炉において利用
できるという原告主張の効果は,甲7公報のみからも,また,甲7公報及び甲
14公報の記載からも,極めて容易に予測できるものである。
また,原告は,本件発明1の「循環流」が,流動層炉内にとどまりがちなチ
ャーを微粒子とし,その大部分を溶融炉に送るという作用機能を有しているこ
とを前提として,このような「循環流」の存在と本件発明1の効果とを関係付
けているが,原告主張の「循環流」の作用機能は,前記1()のとおり,本件1
明細書の記載と矛盾し,また,甲8公報に記載された発明についての原告主張
とも矛盾する。
さらに,原告は,本件発明1が,「循環流」が流動層炉内にとどまりがちな
チャーを微粒子とし,その大部分を溶融炉に送るという作用機能を有している
ことを前提として,処理する廃棄物の質や量が変動しても変動が抑えられ,処
理対象の廃棄物が質的及び量的に変化する廃棄物処理特有の課題において,ガ
ス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得るという効果を
奏する旨主張するが,その前提が誤りであり,また,温度制御,特に低温制御
によって反応の安定化,暴発の防止などの効果が得られることは,甲12文献,
甲26公報,甲27公報の記載に照らしても,極めて常識的なものにすぎない。
7取消事由7(本件発明2についての進歩性の認定判断の誤り)について
原告は,本件発明1に「流動層炉は,流動層温度が450℃∼650℃に維
持されること」との構成を付加した本件発明2の進歩性を否定した審決の認定
判断が誤りである旨主張するが,失当である。
原告は,上記構成が周知技術であることの認定に用いられた甲12文献等に
記載された技術的思想が甲7の発明1,本件発明2と異なるとして,審決の認
定判断が誤りである旨主張する。
しかし,審決は,本件出願日当時の技術水準から見て,「流動層炉は,流動
層温度が450℃∼650℃に維持されること」が周知であるか否かを認定す
るのに,技術水準を示す資料として,先行文献を参照しているのであり,先行
文献に記載された各発明について,それを甲7の発明1に適用できるとしてい
るものではないから,原告の主張は失当である。そして,審決によって認定さ
れた周知技術は,都市ごみ等を流動層炉の熱分解,焼却によって処理するため
の技術であり,同じく都市ごみ等を流動層炉で熱分解する甲7の発明1に適用
するのに極めて適しているものである。
また,原告は,本件発明2について,本件発明1の効果と同様の効果を主張
し,本件発明2が格別顕著な効果を奏するものとみることはできないとする審
決の判断が誤りである旨を主張するが,本件発明1と同様,原告主張の効果は
認められない。
そもそも,本件発明2は,本件発明1に「流動層炉は,流動層温度が450
℃∼650℃に維持されること」との構成を付加したものであるが,本件発明
1には「炉内を450℃∼650℃に維持し」との構成が存在し,炉内には流
動層及びフリーボードが含まれるのであるから,「炉内を450℃∼650℃
に維持し」た構成を採用すると,結果的に,「流動層が450℃∼650℃に
維持されること」となる。したがって,本件発明2は,一見構成が付加されて
いるようであるが,実質的には本件発明1から何ら減縮されていないのであり,
付加した構成について議論するまでもなく,本件発明2は,本件発明1と同様
の理由によってもその進歩性が否定される。
8取消事由8(本件発明6についての進歩性の認定判断の誤り)について
原告は,甲7の発明1及び審決が周知技術認定の根拠とした文献には,いず
れも,循環流中でガス化してガスとチャーを生成し,生成したチャーを循環流
中で微粒子とすることが記載されていない旨主張し,それらにより本件発明6
に係る構成に想到することができない旨,また,「流動層炉内に流動媒体の循
環流を形成し,前記流動媒体の循環流は,質量速度が比較的小さい流動化ガス
と質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給することにより形成され,前記質
量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,と
もに空気であり」との技術は,焼却炉において周知であっても,ガス化炉にお
いては周知,公知ではない旨主張するが,失当である。
流動層炉では,空気量の調整によってガスとチャーを生成するガス化炉とし
たり可燃分をほとんど燃焼させる焼却炉とすることができるものであり,「質
量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,と
もに空気であること」との構成を有する流動層炉においても,空気量の調整次
第でガス化炉としたり焼却炉としたりできるものであるから,構成自体の周知
性はガス化炉及び焼却炉についてのいずれの文献からも認定されるものである
し,その構成は,「循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該
循環流中で微粒子と(する)」ための構成といえるものではない。また,少な
くとも甲8公報,甲10公報には,ガス化によって生成したガスと微粒子とな
ったチャーを排出することが記載されている。
9取消事由9(本件発明7についての進歩性の認定判断の誤り)について
原告は,本件発明7で付加した「流動層炉へ供給される流動化ガスは,廃棄
物の燃焼に必要な理論燃焼空気量の30%以下の空気量を含むこと」との構成
は,「循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微
粒子と(する)」ための構成であり,審決が周知技術認定の根拠とした文献に
は,いずれも流動層からガスとチャーを排出する記載はなく,これらの文献に
記載された空気比が,廃棄物をガス化しガスとチャーを生成する流動層の空気
比として周知であるということはできない旨主張するが,失当である。
そもそも,甲7公報には,「流動層での部分燃焼」が記載されているのであ
るから,「流動層炉へ供給される流動化ガスは,廃棄物の燃焼に必要な理論燃
焼空気量の30%以下の空気を含む」との構成自体の周知性を認定すれば,本
件発明7の進歩性は否定される。また,甲28公報,甲12文献,甲30公報
の記載から,「ガス化してガスとチャーを生成する流動層の空気比として理論
空気量の30%以下とすること」も十分に周知であると認められる。
10取消事由10(本件発明10についての進歩性の認定判断の誤り)につい

()原告は,審決の本件発明10と甲7の発明2の一致点の認定が誤りである1
旨主張するが,これは,取消事由2(本件発明1と甲7の発明1の一致点の
認定の誤り,相違点の看過)と同様の主張であり,取消事由2に理由がない
のと同様,失当である。
()原告は,相違点E,F及びGについての審決の認定判断の誤りを主張する2
が,それぞれ,取消事由3ないし5(相違点AないしCについての認定判断
の誤り)と同様の主張であり,取消事由3ないし5に理由がないのと同様,
失当である。また,原告は,本件発明10の奏する顕著な効果の看過を主張
するが,取消事由6(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)と同様の主張
であり,取消事由6に理由がないのと同様,失当である。
11取消事由11(本件発明11についての進歩性の認定判断の誤り)につい

原告は,方法の発明である本件発明2に対応する装置の発明である本件発
明11の進歩性を否定した審決の認定判断の誤りを主張するが,本件発明2
に進歩性がないから,失当である。
12取消事由12(本件発明16についての進歩性の認定判断の誤り)につい

原告は,本件発明16の「流動層温度を450℃∼650℃に維持し」と
の構成に係る認定判断については,取消事由7(本件発明2についての進歩
性判断の誤り)のとおり,審決の認定判断に誤りがあるから,本件発明16
についての認定判断も誤りである旨主張するが,取消事由7に理由がないか
ら,失当である。また,原告は,相違点A及びCに係る本件発明16の構成
についても,取消事由3(相違点Aについての認定判断の誤り),取消事由
5(相違点Cについての認定判断の誤り)と同様,審決の認定判断が誤りで
ある旨主張するが,取消事由3及び5に理由がないから,失当である。
13取消事由13(本件発明19についての進歩性の認定判断の誤り)につい

原告は,審決が,相違点I,K及びLに係る本件発明19の構成について
の認定判断を誤った旨主張するが,相違点I及びLについては,それぞれ,
取消事由3(相違点Aについての認定判断の誤り),取消事由5(相違点C
についての認定判断の誤り)と同様の主張であり,それらの取消事由に理由
がないから,失当であり,相違点Kについては,取消事由7(本件発明2に
ついての認定判断の誤り)と同様の主張であり,取消事由7に理由がないか
ら,失当である。
また,原告は,本件発明1の効果として主張した内容に加えて,本件発明
19は,流動媒体が循環使用され,鉄,アルミ等の有価金属を酸化しない状
態で回収できるので,リサイクルに好適であるなどの効果を奏する旨主張す
る。しかし,本件発明1の効果として主張した内容については,本件発明1
の効果についての原告の主張に理由がないから,失当であり,「鉄,アルミ
等の有価金属を酸化しない状態で回収できる」との効果は,そもそも部分燃
焼を行っている甲7の発明1においても奏されるものであり,不燃物と該流
動媒体を分別した後に該流動媒体を該流動層炉に戻すとの構成は甲11公報,
甲12公報に記載されるとおり周知の技術であって,このような構成によっ
て流動媒体が循環使用されるとの効果も極めて当たり前の効果であり,本件
発明19は,何ら顕著な効果を奏するものではない。
14取消事由14(本件発明3ないし9,11ないし15,17,18及び2
0についての進歩性の認定判断の誤り)について
原告は,本件発明1,10,16及び19についての審決の認定判断に誤
りがあることを理由として,それらの発明を引用する本件発明3ないし9,
11ないし15,17,18及び20についての審決の認定判断が誤りであ
る旨主張するが,本件発明1,10,16及び19についての審決の認定判
断に誤りはないから,失当である。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(甲7の発明1の認定の誤り)について
()審決は,甲7公報に,「固形廃棄物を流動層熱分解炉に供給し,該熱分解1
炉の流動層にてガス化した後,サイクロン燃焼炉にて灰分を溶融スラグ化す
る方法において,該流動層内の熱分解により生成されたガス並びにチャー及
び灰分の微粒子を,サイクロン燃焼炉に供給し,サイクロン燃焼炉では灰分
が捕捉され溶融スラグとなって排出口より排出される固形物の燃焼方法。」
(審決謄本25頁最終段落)である甲7の発明1が記載されていると認定し
たが,原告は,その認定が誤りである旨主張する。
()原告は,まず,審決が,本件発明1を含む本件発明の技術的意義を正解し2
なかったために,甲7の発明1の認定を誤った旨主張するので,本件明細書
についてみると,以下のとおりの記載がある。
ア「【産業上の利用分野】本発明は,流動層炉において可燃物をガス化し,
生成された可燃ガス及び微粒子を熔融燃焼炉において高温燃焼させ灰分を
熔融する方法及び装置に関する。」(段落【0001】)
イ「【従来の技術】近年,多量に発生する都市ごみ,廃プラスチック等の
廃棄物を焼却し減量化すること,及びその焼却熱を有効利用することが望
まれている。廃棄物の焼却灰は,通常,有害な重金属を含むので,焼却灰
を埋め立てにより処理するためには,重金属成分を固化処理する等の対策
が必要である。これらの課題に対応するため,特公昭62−35004号
公報の固形物の燃焼方法及びその装置が提案された。この公報の燃焼方法
においては,固形物原料が流動層熱分解炉において熱分解され,熱分解生
成物,即ち,可燃ガス及び粒子,がサイクロン燃焼炉に導入される。サイ
クロン燃焼炉の中で加圧空気により可燃分が高負荷燃焼され,旋回流によ
り灰分が壁面に衝突し溶けて壁面を流下し,熔融スラグとなって排出口か
ら水室へ落下し固化される。特公昭62−35004号公報の方法におい
ては,流動層全体が活発な流動化状態であるため,生成ガスに同伴して炉
外へ飛散する未反応可燃分が多いため,高いガス化効率が得られない等の
短所があった。また,従来,流動層炉が使用できるガス化原料としては,
石炭等の場合は,粒径0.5∼3mmの粉炭,廃棄物の場合は,数十mm
の細破砕物とされてきた。これより大きいと流動化を阻害するし,これよ
り小さいと完全にガス化されないまま未反応可燃分として生成ガスに同伴
して炉外へ飛散してしまう。従って,これまでの流動層炉では,ガス化原
料を炉に投入する前の前処理として,予め粉砕機等を用いて破砕・整粒す
ることが不可欠であり,所定の粒径範囲に入らないガス化原料は,利用で
きず,歩留まりをある程度犠牲にせざるをえなかった。」(段落【000
2】,【0003】)
ウ「上記の問題を解決するため,特開平2−147692号公報の流動層
ガス化方法及び流動層ガス化炉が提案された。この公報の流動層ガス化方
法においては,炉の水平断面が矩形にされ,炉底中央部から炉内へ上向き
に噴出される流動化ガスの質量速度が,炉底の2つの側縁部から供給され
る流動化ガスの質量速度より小さくされ,炉底側縁部の上方で流動化ガス
の上向き流が炉中央部へ転向され,炉中央部に流動媒体が沈降する移動層
が形成され,炉の両側縁部に流動媒体が活発に流動化する流動層が形成さ
れ,移動層に可燃物が供給される。流動化ガスは,空気と蒸気の混合物,
又は酸素と蒸気の混合物であり,流動媒体は,珪砂である。しかしながら,
この特開平2−147692号公報の方法は,次の短所を有する。即ち,
(1)移動層及び流動層の全体において,ガス化吸熱反応と燃焼反応が同
時に生じ,ガス化し易い揮発分がガス化すると同時に燃焼され,ガス化困
難な固定炭素(チャー)やタール分等は,未反応物として生成ガスに同伴
して炉外へ飛散し,高いガス化効率が得られない。(2)生成ガスを燃焼
させ蒸気及びガスタービン複合発電プラントに使用する場合,流動層炉を
加圧型とすることが必要であるが,炉の水平断面が矩形のため,加圧型と
することが困難である。好ましいガス化炉の内圧は,生成ガスの用途によ
って決定される。一般の燃焼用ガスとして使用する場合は,数千mmAq
程度で良いが,ガスタービンの燃料として使用する場合は,数kgf/c
m以上が必要であり,更に,高効率ガス化複合発電用の燃料として使用2
する場合には十数数kgf/cm以上が適当である。」(段落【0002
4】,【0005】)
エ「都市ごみ等の廃棄物処理については,依然として可燃性ごみの燃焼に
よる減量化が,重要な役割を担っており,それに付随して,近年,ダイオ
キシン対策,媒塵の無害化,エネルギー回収効率の向上等,環境保全型の
ごみ処理技術の必要性が増大している。我が国の都市ごみの焼却量は,約
100,000トン/日であり,都市ごみ全量のエネルギーは,我が国の
消費電力量の約4%に相当する。現在,都市ごみのエネルギーの利用率は,
約10%に止まっているが,利用率を高めることができれば,それだけ化
石燃料の消費量が少なくなり,地球温暖化防止にも寄与できる。しかしな
がら,現在の焼却システムは,次の問題を含んでいる。即ち,①HCにℓ
よる腐食の問題があり,発電効率を高くできない。②HC,NOx,Sℓ
Ox,水銀,ダイオキシン等に対する公害防止設備が複雑化してコスト及
びスペースが増大している。③法規制の強化,最終処分場の用地難等によ
り,焼却灰の熔融設備の設置が増大しているが,そのため別設備の建設が
必要であり,また電力等を多量に消費している。④ダイオキシンを除去す
るには,高価な設備が必要である。⑤有価金属の回収が困難である。」
(段落【0006】,【0007】)
オ「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,従来技術の前記の
問題点を解消することにあり,都市ごみ,廃プラスチック等の廃棄物や石
炭等の可燃物から多量の可燃分を含む可燃ガスを高効率で生成し,生成さ
れた可燃ガスの自己熱量により燃焼灰を熔融することができる処理方法及
びガス化及び熔融燃焼装置を提供することにある。本発明においては,熔
融炉へ供給される生成ガスは,自己熱量により1300℃以上の高温を発
生するような充分な熱量を持ち,チャー,タールを含む均質なガスである
ようにされ,またガス化装置から不燃物の排出が支障なく行われるように
される。本発明の別の目的は,廃棄物中の有価金属を還元雰囲気の流動層
炉内から酸化しない状態で取出し回収できるガス化方法及び装置を提供す
ることにある。本発明の更に別の目的は,図面を参照する実施例の説明に
おいて明らかにされる。」(段落【0008】)
カ「【課題を解決するための手段】上述の目的を達成するため,本発明の
廃棄物の処理方法の1態様は,廃棄物を流動層炉にてガス化した後に,熔
融炉にて灰分を熔融スラグ化する方法において,流動層炉内に流動媒体の
循環流を形成し,該廃棄物を該流動層炉に供給し,炉内を450℃∼65
0℃に維持し,該流動層炉内の循環流中でガス化してガスとチャーを生成
し該チャーを該循環流中で微粒子とし,該流動層炉より排出された該ガス
と該微粒子となったチャーを旋回熔融炉に供給して1300℃以上にて灰
分を熔融してスラグ化することを特徴とするものである。前記流動層炉は,
流動層温度が450℃∼650℃に維持される。前記流動媒体の循環流は,
流動媒体が沈降する移動層と流動媒体が上昇する流動層により形成され,
流動媒体が該移動層及び流動層を通り循環する。また,前記移動層は質量
速度が比較的小さい流動化ガスによって形成され,前記流動層は質量速度
が比較的大きい流動化ガスによって形成される。更に,前記流動媒体の循
環流は,質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流
動化ガスを供給することにより形成される。前記質量速度が比較的小さい
流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気である。
また,前記流動層炉へ供給される流動化ガスは,廃棄物の燃焼に必要な理
論燃焼空気量の30%以下の空気量を含む。また,前記廃棄物に含まれる
不燃物を流動層炉の炉底部より排出する。更に,前記流動媒体は砂である。
本発明のガス化及び熔融燃焼装置は,廃棄物をガス化する流動層炉と,
該流動層炉内で生成されたガスとチャーを燃焼して灰分を熔融する熔融炉
とを備えたガス化及び熔融燃焼装置において,前記流動層炉は流動化ガス
を炉内に供給する流動化ガス供給手段を備え,該流動化ガス供給手段によ
って炉内に流動媒体の循環流を形成し,炉内を450℃∼650℃に維持
して炉内に供給された廃棄物を該流動層炉内の循環流中でガス化してガス
とチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし,前記熔融炉はガス
とチャーを燃焼する燃焼室を備え,該燃焼室によって前記流動層炉より排
出されたガスと該微粒子となったチャーを燃焼して1300℃以上にて灰
分を熔融してスラグ化することを特徴とするものである。前記流動層炉は,
流動層温度が450℃∼650℃に維持される。前記流動媒体の循環流は,
流動媒体が沈降する移動層と流動媒体が上昇する流動層により形成され,
流動媒体が該移動層及び流動層を通り循環する。また,前記移動層は質量
速度が比較的小さい流動化ガスを供給する手段によって形成され,前記流
動層は質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する手段によって形成さ
れる。前記流動化ガス供給手段は,質量速度が比較的小さい流動化ガスを
供給する手段と,質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給する手段とか
らなる。更に,前記熔融炉の燃焼室は,ほぼ垂直方向の軸線を有する円筒
形室からなり,該円筒形室の頂部に前記ガスとチャーを導入し,該円筒形
室で該ガスとチャーを旋回させ,該円筒形室の下部には水平方向に対して
傾斜して延びた室が連通され,前記熔融した灰分を該傾斜して延びた室の
底部よりスラグとして排出する。
本発明の廃棄物の処理方法の他の態様は,廃棄物を流動層炉にてガス化
した後に,熔融炉にて灰分を熔融スラグ化する方法において,流動層炉内
に流動媒体の循環流を形成し,該廃棄物を該流動層炉に供給し,流動層温
度を450℃∼650℃に維持し,該流動層炉内の循環流中でガス化して
ガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし,該流動層炉よ
り排出された該ガスと該微粒子となったチャーを旋回熔融炉に供給して灰
分を熔融してスラグ化することを特徴とするものである。前記流動媒体の
循環流は,流動媒体が沈降する移動層と流動媒体が上昇する流動層により
形成され,流動媒体が該移動層及び流動層を通り循環する。また,前記移
動層は質量速度が比較的小さい流動化ガスによって形成され,前記流動層
は質量速度が比較的大きい流動化ガスによって形成される。
本発明の廃棄物の処理方法の更に他の態様は,廃棄物を流動層炉にてガ
ス化した後に,熔融炉にて灰分を熔融スラグ化する方法において,流動層
炉内に流動媒体の循環流を形成し,該循環流は流動媒体が沈降する移動層
と流動媒体が上昇する流動層が形成され,流動媒体が該移動層及び流動層
を通って循環する循環流であり,該廃棄物を該流動層炉に供給し,流動層
温度を450℃∼650℃に維持し,該流動層炉内の循環流中でガス化し
てガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし,該廃棄物に
含まれる不燃物と流動媒体を該流動層炉の炉底部より排出し,該不燃物と
該流動媒体を分別した後に該流動媒体を該流動層炉に戻し,該流動層炉よ
り排出された該ガスと該微粒子となったチャーを旋回熔融炉に供給して灰
分を熔融してスラグ化することを特徴とするものである。更に,前記不燃
物と流動媒体は,前記炉底部より下方へ取り出し,水平方向に定量排出し
た後,該不燃物と該流動媒体は分別される。
本発明においては,可燃物が流動層炉で可燃ガスにガス化される。
本発明の方法において,流動層炉の水平断面がほぼ円形にされ,流動層
炉へ供給される流動化ガスが,炉底中央部付近から炉内へ供給される中央
流動化ガス及び炉底周辺部から炉内へ供給される周辺流動化ガスから成り,
中央流動化ガスの質量速度が,周辺流動化ガスの質量速度より小にされ,
炉内周辺部上方における流動化ガスの上向き流が炉の中央部へ向うように
傾斜壁により転向され,それによって,炉の中央部に流動媒体(一般的に
は,硅砂を使用)が沈降拡散する移動層が形成されると共に炉内周辺部に
流動媒体が活発に流動化している流動層が形成され,炉内へ供給される可
燃物が,移動層の下部から流動層へ及び流動層頂部から移動層へ,流動媒
体と共に循環する間に可燃ガスにガス化され,中央流動化ガスの酸素含有
量が,周辺流動化ガスの酸素含有量以下であり,流動層の温度が450∼
650℃に維持される。」(段落【0009】)
キ「【作用】本発明のガス化装置は,流動層炉の循環流により熱が拡散さ
れるので,高負荷とすることができ,炉を小型にすることができる。本発
明においては,流動層炉が少量の空気で燃焼を維持できるので,流動層炉
を低空気比低温度(450∼650℃)とし,発熱を最小限に抑えて,ゆ
るやかに燃焼させることにより,可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得
ることができ,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の熔融燃焼
炉において利用できる。」(段落【0020】)
ク「本発明においては,流動層炉へ供給される中央流動化ガスの質量速度
が,周辺流動化ガスの質量速度より小にされ,炉内周辺部上方における流
動化ガスの上向き流が炉の中央部へ向うように転向され,それによって,
流動媒体の沈降拡散する移動層が炉の中央部に形成されると共に,炉内周
辺部に流動媒体が活発に流動化している流動層が形成される。炉内へ供給
された可燃物は,移動層の下部から流動層へ及び流動層頂部から移動層へ,
流動媒体と共に循環する間に可燃ガスにガス化される。可燃物は,最初に,
炉中央の下降する移動層の中で,主として揮発分が流動媒体(一般的には,
硅砂を使用)の熱によりガス化される。そして,移動層を形成する中央流
動化ガスの酸素含有量が,小さ(い)ため,移動層内で生じた可燃ガスは,
ほとんど燃焼されずに中央流動化ガスと共にフリーボードへ上昇され,発
熱量の高い良質の生成ガスとなる。移動層において揮発分が失われ加熱さ
れた可燃物,即ち,固定炭素(チャー)やタール分等は,次に流動層内へ
循環され,流動層内の比較的酸素含有量の多い周辺流動化ガスと接触し燃
焼され,燃焼ガス及び灰分に変わると共に炉内を450∼650℃に維持
する燃焼熱を発生する。この燃焼熱により流動媒体が加熱され,加熱され
た流動媒体が炉周辺部上方で炉中央部へ転向され移動層内を下降すること
により移動層内の温度を揮発分のガス化に必要な温度に維持する。可燃物
が投入される炉中央部ほど低酸素状態であるので,高い可燃分を有する生
成ガスを発生することができる。また,可燃物中の金属が不燃物取出口か
ら未酸化の有価物として回収することができる。」(段落【0021】,
【0022】)
ケ「可燃物供給口104から移動層9の上部へ供給された可燃物11は,流
動媒体と共に移動層9中を下降する間に,流動媒体の持つ熱により加熱さ
れ,主として揮発分がガス化される。移動層9には,酸素が無いか少ない
ため,ガス化された揮発分から成る生成ガスは燃焼されないで,移動層9
中を矢印116のように抜ける。それ故,移動層9は,ガス化ゾーンGを
形成する。フリーボード102へ移動した生成ガスは,矢印120で示す
ように上昇し,ガス出口108から生成ガス29として排出される。移動
層9でガス化されない,主としてチャー(固定炭素分)やタール114は,
移動層9の下部から,流動媒体と共に矢印112で示すように炉内周辺部
の流動層10の下部へ移動し,比較的酸素含有量の多い周辺流動化ガス8
により燃焼され,部分酸化される。流動層10は,可燃物の酸化ゾーンS
を形成する。流動層10内において,流動媒体は,流動層内の燃焼熱によ
り加熱され高温となる。高温になった流動媒体は,矢印118で示すよう
に,傾斜壁6により反転され,移動層9へ移り,再びガス化の熱源となる。
流動層9の温度は,450∼650℃に維持され,抑制された燃焼反応が
継続するようにされる。」(段落【0028】,【0029】)
コ「図1及び図2に示すガス化炉1によれば,流動層炉2にガス化ゾーン
Gと酸化ゾーンSが形成され,流動媒体が両ゾーンにおいて熱伝達媒体と
なることにより,ガス化ゾーンGにおいて,発熱量の高い良質の可燃ガス
が生成され,酸化ゾーンSにおいては,ガス化困難なチャーやタール11
4を効率良く燃焼させることができる。それ故,可燃物のガス化効率を向
上させることができ,良質の可燃ガスを生成することができる。」(段落
【0030】)
サ「【発明の効果】(1)本発明のガス化装置は,流動層炉の循環流によ
り熱が拡散されるので,高負荷とすることができ,炉を小型にすることが
できる。(2)本発明においては,流動層炉が少量の空気で燃焼を維持で
きるので,流動層炉を低空気比低温度(450∼650℃)とし,発熱を
最小限に抑えて,ゆるやかに燃焼させることにより,可燃分を多量に含む
均質な生成ガスを得ることができ,ガス,タール,チャーの可燃分の大部
分を次段の熔融燃焼炉において利用できる。(3)本発明においては,流
動層炉の循環流により大きな不燃物も容易に排出できる。また,不燃物中
の鉄,アルミが,未酸化の有価物として利用できる。(4)本発明によれ
ば,ごみ処理を無害化し,高いエネルギ利用率を有する方法又は設備が提
供される。」(段落【0056】∼【0059】)
上記記載によれば,本件明細書には,本件発明は,廃棄物から多量の可燃
分を含む可燃ガスを高効率で生成し,生成された可燃ガスの自己熱量により
燃焼灰を溶融することができる処理方法等の提供を目的とすること,移動層
内で生じた可燃ガスは,ほとんど燃焼されずにフリーボードに上昇し,良質
の生成ガスとなり,チャーが流動層において燃焼されることで,燃焼熱を発
生し,燃焼ガス,灰分になること,ガス化ゾーンGにおいて,良質の可燃ガ
スが生成され,酸化ゾーンSにおいては,チャー等を効率よく燃焼させ,
「それ故」(上記コ)可燃物のガス化効率を向上させ,良質の可燃ガスを生
成できることは記載されているが,生成されたチャーについて,従来技術と
比較した粒径や生成量についての記載はない。
原告は,本件発明においては,チャーを流動層炉内にとどまらせずに,可
燃ガスに同伴して溶融炉に供給することができ,炉内に供給される廃棄物の
質や量が変動しても低温域で廃棄物をガス化させて安定して可燃ガスと多量
のチャーを生成し,ガス,タール,チャーの可燃分を多量に含む均質な生成
ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融燃焼炉に
おいて利用できるようにしたという技術的意義がある旨主張するが,上記の
とおりの本件明細書の記載,殊に,上記イのとおり,従来技術の課題として,
未反応可燃分がガス化されずに炉外に飛散したこと,及び,チャー等が未反
応物として炉外に飛散し,高いガス化効率が得られなかったことが記載され
ていることを併せ考慮すると,本件発明について,ガス化効率を高め,良質
の生成ガスを得ることを目的としているものであることは認められるものの,
更に進んで,次段の溶融炉に供給するという目的で,従来技術によるものよ
りも,チャーの粒径を小さくし,また,チャーを多量に生成することについ
てまでの技術的意義が記載されているものとは認められない。
(3)甲7公報には,以下の記載がある。
ア「固形物原料を,流動層熱分解炉において熱分解を行い,熱分解生成物
をサイクロン燃焼炉に導入し,該サイクロン燃焼炉の中で加圧空気により
可燃分を燃焼せしめ,灰分の分離を行うことを特徴とする固形物の燃焼方
法。」(特許請求の範囲の請求項1)
イ「本発明は,都市ごみ,廃プラスチックなどの固形廃棄物や,スラジな
どの液の中に多く含まれている固形有機物や,石炭などの固形燃料,その
他の固形物の燃焼方法及びその装置に関するものである。」(1欄18行
目∼22行目)
ウ「周知のサイクロン燃焼炉は,強力な空気の旋回流によつて能率的な燃
焼が可能となるのみならず,高負荷燃焼を行えば灰分をサイクロン内壁に
捕捉溶融せしめて集じん性能を向上させると共に溶融スラグとして取り出
せるという利点がある」(3欄9行目∼14行目)
エ「本発明は,熱分解過程を流動層により行い,熱分解の生成ガス中に含
まれるチヤー及び灰分が微細粒子となる事実を利用して,このガスをサイ
クロン燃焼炉に導入し,此処で加圧空気によつて可燃分(ガス及びチヤ
ー)を燃焼せしめることにより,従来の方式の上記の欠点を除き,熱媒体
の凝塊形成がなく,灰分の集じん性能が良好であり,流動層炉の大きさも
小さくなり,重金属の溶出も防がれ,またサイクロン焼却炉用の特別な微
粉砕前処理を必要としない高性能でありかつコンパクトで構造簡単な固形
物の焼却方法及びその装置を提供することを目的とするものである。」
(同欄32行目∼43行目)
オ「本発明は,固形物原料を,流動層熱分解炉において熱分解を行ない,
熱分解生成物をサイクロン燃焼炉に導入し,該サイクロン燃焼炉の中で加
圧空気により可燃分を燃焼せしめ,灰分の分離を行なうことを特徴とする
固形物の燃焼方法,及び,流動層熱分解炉とサイクロン燃焼炉とを備え,
前記流動層熱分解炉の炉頂部出口と前記サイクロン燃焼炉の炉頂部入口と
を熱分解生成物移送路にて接続し,かつ前記サイクロン燃焼炉に燃焼用加
圧空気を供給する空気供給装置を備え,前記流動層熱分解炉の上部には原
料固形物供給機構を備え,下部には不燃物排出口を備え,前記サイクロン
燃焼炉の上部には排ガス出口を備え,下部には灰分排出機構を備えている
ことを特徴とする固形物の燃焼装置である。」(3欄44行目∼4欄14
行目)
カ「第1図及び第2図において,2は流動層熱分解炉,11はサイクロン
燃焼炉である。流動層熱分解炉2においては上部に原料供給装置1を備え,
下部には分散板6を備えてガス室5が仕切られている。4はガス室5へ流
動化ガスを導入するガス入口であり,この流動化ガスが分散板6より噴出
して砂を熱媒体とする流動層3を形成するようになつている。」(4欄1
6行目∼23行目)
キ「サイクロン燃焼炉11においては,上部に接線方向に入口23が設け
られ,上部中央には排ガスの出口18が設けられている。13は溶融スラ
グの流下を示す矢印であり,14は溶融スラグの排出口である。15は溶
融スラグを冷却して粒状固化するための水室,16はコンベア,17は二
重排出弁である。」(同欄28行目∼34行目)
ク「空気エジエクタ9にはブロワ10により加圧空気が供給され,フリー
ボード7からのガスを吸引し,サイクロン燃焼炉11に供給するようにな
つている。」(同欄37行目∼40行目)
ケ「都市ごみ,スラジなどの原料は原料供給装置1から流動層熱分解炉2
に供給され,流動層3内で部分燃焼によつて残部が加熱されて熱分解され
る。空気はガス入口4からガス室5に入りガス分散板6を通つて砂を流動
化させ且つ原料の一部を燃焼する。熱分解により生成したチヤーと可燃性
ガス及び部分燃焼により発成した灰分と燃焼排ガスは,全て塔頂部フリー
ボード7から分解炉出口8に出て,空気エジエクタ9においてブロワ10
により供給される加圧空気によつて,吸引加速され,空気とガスとの混合
ガスはサイクロン燃焼炉11に接線方向に高速で送られ,矢印12の方向
に強力な旋回流を生ぜしめられて熱分解生成物(ガス及びチヤー)は燃焼
される。・・・サイクロン焼却炉11の外面は水冷室(図示せず)とし内
面はカーボランダム又はクロム鉱耐火物とするとよい。高負荷燃焼を行わ
せると灰分は融けて壁面を点線矢印13のように流下し,灰分やチヤーは
旋回流に基づく遠心力によつて壁面に衝突して融灰により濡れ状態となつ
た壁面に付着し,チヤーは高速の旋回流を行う空気との間に大きな相対速
度を生ずるので極めて高い燃焼速度で燃焼する。又遠心力効果と濡れ壁効
果とによつて灰分は高い効率で補捉され溶融スラグとなつて排出口14か
ら水室15に落下し」(5欄2行目∼29行目)
コ「上述の実施例は以上の如く構成され作用するので次の如き効果を有す
る。熱分解は吸熱反応であるから,熱分解に必要な発熱量に見合つた部分
燃焼を行わせるような少量の空気を供給すればよいので,プラスチツクの
ような極めて高い発熱量の原料でも,①流動層の局部の異常高温による
熱媒体(砂)の凝塊形成が無く,②部分燃焼であるから所要空気量が少
いので,流動層の塔径を過大に設定する必要はない。又,熱分解過程を終
つたあとで③サイクロン燃焼炉自体が集じん機能を果たすのみならず,
高負荷燃焼を行えば灰分はサイクロン内壁に捕捉溶融され内壁面は濡れ状
態となつて微細な灰分の集じん性能が向上し,④灰分を溶融することに
より原料中の有害重金属が封じ込められて,埋立に際して重金属溶出を防
ぐ為の固化処理等の対策が不要となる。更に,⑤サイクロン燃焼炉に供
給される固体は熱分解で生成したチヤーと部分燃焼で生成した灰分などの
微細な粒子であるから,在来のサイクロン燃焼法に不可欠であつた原料の
微破砕処理が不要となる。などの極めて優れた効果が得られる。」(6欄
16行目∼40行目)
上記によれば,甲7公報には,固形廃棄物を流動層熱分解炉に供給し,熱
分解炉の流動層でガス化した後,サイクロン燃焼炉において灰分を溶融スラ
グ化する方法において,流動層内の熱分解により生成されたガス,チャー,
灰分をサイクロン燃焼炉に導入し,サイクロン燃焼炉では,灰分が捕捉され
溶融スラグとなって排出口から排出される固形物の燃焼方法が記載されてい
る。
そして,熱分解の結果生成し,サイクロン燃焼炉に導入されるチャーにつ
いては,「熱分解過程を流動層により行い,熱分解の生成ガス中に含まれる
チヤー及び灰分が微細粒子となる事実を利用して,」(上記エ),「熱分解
により生成したチヤーと可燃性ガス及び部分燃焼により発成した灰分と燃焼
排ガスは,全て塔頂部フリーボード7から分解炉出口8に出て,空気エジエ
クタ9においてブロワ10により供給される加圧空気によつて,吸引加速さ
れ,・・・」(同ケ),「サイクロン燃焼炉に供給される固体は熱分解で生
成したチヤーと部分燃焼で生成した灰分などの微細な粒子であるから,在来
のサイクロン燃焼法に不可欠であつた原料の微破砕処理が不要となる。」
(同コ)との記載に照らしても,流動層炉の流動層における熱分解の結果発
生するもので,流動層において,「微細粒子」となり,微破砕処理も不要で
あり,可燃性ガスに同伴するもので,微粒子となっていると認められる。
したがって,甲7の発明1を,前記()のとおり,「固形廃棄物を流動層1
熱分解炉に供給し,該熱分解炉の流動層にてガス化した後,サイクロン燃焼
炉にて灰分を溶融スラグ化する方法において,該流動層内の熱分解により生
成されたガス並びにチャー及び灰分の微粒子を,サイクロン燃焼炉に供給し,
サイクロン燃焼炉では灰分が捕捉され溶融スラグとなって排出口より排出さ
れる固形物の燃焼方法。」と認定した審決に誤りはない。
()原告は,本件発明1は,流動媒体が下降する移動層において廃棄物がガス4
化されてガスとチャーが生成され,ガス化によって生成されたガスはフリー
ボードへと抜け,ガス化によって生成されたチャーを流動媒体の循環流によ
り可燃ガスとは分離して流動媒体が上昇する流動層へと移動させて,比較的
酸素含有量の多い周辺流動化ガスにより部分酸化させて微粒子とする処理を
さらに行っているものであるとして,甲7公報には,上記構成に係る本件発
明1の「該チャーを微粒子とし」との構成は記載されていない旨主張する。
本件発明1の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2のとおり,「廃棄物
を流動層炉にてガス化した後に,溶融炉にて灰分を熔融スラグ化する方法に
おいて,流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し,該廃棄物を該流動層炉に
供給し,炉内を450℃∼650℃に維持し,該流動層炉内の循環流中でガ
ス化してガスとチャーを生成し該チャーを該循環流中で微粒子とし,該流動
層炉より排出された該ガスと該微粒子となったチャーを旋回熔融炉に供給し
て1300℃以上にて灰分を熔融してスラグ化することを特徴とする廃棄物
の処理方法。」というものであり,チャーについては,「該流動層炉内の循
環流中でガス化してガスとチャーを生成」すること,「該チャーを該循環流
中で微粒子と(する)」というものである。同記載によって,本件発明1は,
循環流中でガスとチャーが生成され,その循環流中でチャーが微粒子とされ
るという構成を備えるものであることが理解できるところ,それを超えて,
特許請求の範囲の記載が,廃棄物がガス化されてガスとチャーが生成される
工程と,生成されたチャーを流動媒体が上昇する流動層へ移動し部分酸化さ
せて微粒子とする工程という2段階の工程を規定しているものとまでは認め
られない。
そうすると,チャーについて,本件発明1に,生成させる過程と生成され
たチャーを流動媒体が上昇する流動層へ移動し部分酸化させる工程が規定さ
れていることを前提として,甲7の発明1の認定の誤りをいう原告主張は,
前提を欠くものであり,採用できない。
また,仮に,本件明細書の記載及び技術常識等から,流動層内の流動媒体
を循環流とした流動層炉において,循環流中の下降流である移動層でガス化
がされ,循環流中の上昇流である流動層においてチャーが部分酸化すること
があったとしても,後記5()のとおり,流動層内の流動媒体の流れを循環2
流とした場合には,そのような作用は当業者が容易に予測し得るものにすぎ
ないのであって,循環流におけるチャーの生成及びチャーを微粒子とするこ
とに係る構成については,別途,相違点Cとして認定され,その容易想到性
について判断されているのであるから,上記流動層においてチャーが部分酸
化することがあることが,審決の上記甲7の発明1の認定及び相違点の認定
判断に影響するものではない。
()したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。5
2取消事由2(本件発明1と甲7の発明1の一致点の認定の誤り,相違点の看
過)について
()審決は,本件発明1と甲7の発明1が,「廃棄物を流動層炉にてガス化し1
た後に,熔融炉にて灰分を熔融スラグ化する方法において,該廃棄物を該流
動層炉に供給し,該流動層炉より排出されたガスと微粒子となったチャーを
旋回熔融炉に供給して灰分を熔融してスラグ化する廃棄物の処理方法。」
(審決謄本26頁第2段落)の点で一致すると認定したのに対し,原告は,
本件発明1と甲7の発明1が,流動層炉から溶融炉にチャーを供給する過程
が全く異なっているとして,本件発明1と甲7の発明1において,流動層か
ら溶融炉に同じように微粒子のチャーが供給されているとして一致点を認定
した審決が誤りである旨主張する。
原告の同主張は,本件発明1が,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成
するという工程と,流動媒体の循環流により可燃ガスとは分離して流動媒体
が上昇する流動層へと移動させて,比較的酸素含有量の多い周辺流動化ガス
により部分酸化させて微粒子とする処理をするという工程という2段階の工
程があることを前提とするものであると解される。しかし,前記1のとおり,
本件発明1が原告主張のような構成のものであるとは認められないし,また,
仮に,循環流中の下降流である移動層でガス化がされ,循環流中の上昇流で
ある流動層においてチャーが部分酸化することがあったとしても,そのよう
な作用は当業者が容易に予測し得るものにすぎないのであって,循環流にお
けるチャーの生成及びチャーを微粒子とすることに係る構成については,相
違点Cとして認定され,その容易想到性について判断されているのであるか
ら,上記流動層においてチャーが部分酸化することがあることが,審決の相
違点の認定判断に影響するものではない。
()原告は,本件発明1と甲7の発明1では,溶融炉に供給されるガスとチャ2
ーを得る過程が異なるのであるから,溶融炉にガスとチャーが一連の過程を
経て得られるものであることを規定した本件発明1の「該流動層炉より排出
された該ガスと該微粒子となったチャーを旋回熔融炉に供給して」との構成
も,本件発明1と甲7の発明1の相違点として認定されるべきであるとして,
審決が同相違点を看過した旨主張するが,上記()と同様の理由で,失当で1
ある。
(3)したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。
3取消事由3(相違点Aについての認定判断の誤り)について
()審決は,相違点Aに係る本件発明1の構成について,「甲7(注,甲7公1
報)の流動層炉の流動層中に発生する流れを,相違点Aに係る本件発明1の
構成,すなわち『流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し』たことは,甲7
の発明1に上記認定した周知の技術を適用することにより当業者であれば容
易に想到することができたものというべきである。」(審決謄本27頁第5
段落)としたのに対し,原告は,その認定判断が誤りである旨主張する。
()そこで,相違点Aに係る流動層炉における循環流に関する本件出願日前の2
技術水準について検討する。
ア甲8公報には,以下の記載がある。
(ア)「ガス化炉の炉底部より上方に向けて噴出せしめた流動化ガスによ
り,流動媒体を流動化して形成せしめた流動層により,石炭等をガス化
する流動層ガス化方法において,・・・前記流動化ガスは,中央部より
も両側縁部が低く形成されているガス分散機構から噴出せしめられ,前
記流動化ガスの質量速度を,前記炉底の中央部付近におけるよりも,該
中央部の両側の両側縁部において,より大となし,・・・炉底の中央部
には,流動媒体が沈降する移動層を形成し,両側縁部には流動媒体が活
発に流動化している両側縁流動層を形成し,前記流動媒体を,前記移動
層内で沈降せしめ,該移動層の下部で前記両側縁部に移行せしめ,前記
両側縁流動層内で上昇せしめ,・・・炉内を循環せしめつゝ前記移動層
に石炭等を供給して該石炭等のガス化を行なわしめることを特徴とする
流動層ガス化方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(イ)「従来の流動層では,層内全体を活発な流動化状態で均一に保とう
としたため,生成ガスに同伴して炉外へ飛散する未反応チャーの量が多
く,高いガス化効率を得られなかつた。」(2頁左下欄11行目∼14
行目)
(ウ)「ガス化炉3にて生成したガスは,二段のサイクロン4によりガス
中に含まれる固形物を分離する。一段目のサイクロンで分離された固形
物中には,未反応チャーが含まれるので,再びガス化炉3に供給され
る。」(3頁右下欄最終段落)
(エ)「ガス化炉3について説明する。第2図に示すごとく,ガス化炉3
の炉底部には流動化用のガス化剤の分散板20が備えられている。分散
板20は両側縁部が中央部より低く,炉の中心線36に対してほぼ対称
な山形断面状に形成されている。両側縁部には不燃物及び灰分排出口3
0が接続され,32,33のスクリユーコンベアにより,粗大な不燃物
が流動媒体とともに排出される。」(4頁左上欄7行目∼15行目)
(オ)「予熱された酸素とスチームの混合ガスからなるガス化剤は,分散
板20から炉内に噴出し,傾斜壁24に当たつて垂直面内の旋回流とな
り,珪砂などの流動媒体をこれに沿つて動かしめて旋回流動層35が形
成される。さらに・・・炉内中央に下降移動層34が形成され,この下
降移動層34及び旋回流動層35によつて石炭は短時間にガス化反応を
完結させるため,粉砕・整粒を行なわなくとも流動化を阻害することな
く高いガス化効率を得ることが出来る。予熱された酸素とスチームの混
合ガスからなるガス化剤は,導入部の室21,22,23を経て分散板
20から上方に噴出せしめられている。両側縁部の室21,23から噴
出するガス化剤の質量速度は流動層を形成するのに十分な大きさを有す
るが,中央部の室22から噴出するガス化剤の質量速度は前者よりも小
さく選ばれている。・・・中央部の室22から噴出する流動化ガス中の
酸素濃度は,両側縁部の室21,23から噴出する流動化ガスよりも低
いか,あるいはスチームのみとしてもよい。室の数は3以上の任意の数
が選ばれる。多数の場合でも,流動化ガスの質量速度は中心に近いもの
を小,両側縁部に近いものを大となるようにする。両側縁部の室21,
23の直上に流動化ガスの上向き流路をさえぎり,流動化ガスを炉中央
に向けて反射転向せしめる反射壁として傾斜壁24が設けられてい
る。」(4頁左上欄16行目∼左下欄9行目)
(カ)「ガス化炉3の原理につき説明する。通常の流動層においては,流
動媒体は沸騰している水のごとき激しい流動状態を形成しているが,室
22の上方の流動媒体は弱い流動状態にある移動層34を形成する。こ
の移動層34の幅は,上方は狭いが,裾の方は分散板20の傾斜の作用
も相まつてやや広がつており,そこでは室21,23からの大きな質量
速度のガス化剤の噴射を受け,流動化され上方に吹き上げられる。こう
して裾の流動媒体が除かれるので,室22の直上の流動媒体の層は自重
で降下する。この層の上方には,後述のごとく旋回流を伴う流動層35
からの流動媒体が補給される。これを繰り返して室22の上方の流動媒
体は,弱い流動状態の下降移動層34を形成する。室21,23上に移
動した流動媒体は流動化され上方に吹き上げられるが,傾斜壁24によ
り反射転回して炉の中央に向いて旋回し,前述の下降移動層34の頂部
に移動し,徐々に降下し,移動層34の裾に至つて流動化され再び吹き
上がつて循環する。一部の流動媒体は,旋回流として流動層35の中で
旋回循環する。」(4頁左下欄16行目∼右下欄17行目)
(キ)「下降移動層34の中では,石炭の乾留反応が主体的に,ガス化反
応が部分的に行なわれ,ガスとチヤーが生成する。ここで生成したガス
は上方または水平方向に抜け,チヤーは流動媒体と共に両側縁部の流動
層部35へと移動し,流動化ガスとして供給された酸素とスチームの混
合ガスからなるガス化剤と,部分燃焼をともなうガス化反応を引き起こ
す。下降移動層34の中で生成するガスは,ガス化剤の質量速度が小さ
いので,燃焼による損失を減らすことができる。」(5頁左上欄11行
目∼右上欄1行目)
(ク)「下降移動層34は,流動化が比較的穏やかなので,生成したチヤ
ーのうち粒径がかなり細かいものでも,通常の流動層のようにガス化さ
れずに飛散するようなことは起らない。例え一部が飛散しても,炉外で
サイクロン4により捕集して,再度炉に戻せば,比較的容易にガス化す
ることが可能である。」(5頁右上欄4行目∼10行目)
(ケ)「そのため石炭はかなり大きなものでも,下降移動層34の中で徐
々に下降しながら乾留が行なわれ,下降移動層34の両端に達するころ
には大半が細片化したチヤーになる」(5頁左下欄3行目∼6行目)
(コ)「破砕設備が不要となるため,石炭のように簡単に破砕できない廃
木材などのバイオマス原料や廃プラスチックを,ガス化原料として利用
することが可能となる。・・・また破砕の困難な粗大不燃物を含むよう
な,例えば現状では埋立て処分されている燃焼不適ごみを,ガス化原料
として用いることもできる。」(5頁左下欄18行目∼右下欄7行目)
(サ)「⑥・・・移動層の不活発な流動化の中で乾留による微粉化が行
なわれる」(6頁右上欄12行目∼14行目)
(シ)第2図には,石炭ガス化炉の縦断面図が図示されており,下降移動
層34と流動層35とで流動媒体の循環流が形成されている構成が矢
印で示されている。
イ上記アによれば,甲8公報には,ガス化炉において流動層炉内の流動媒
体が循環流を形成していること,循環流中の「下降移動層」において,石
炭のガス化反応が部分的に行われ,ガスとチャーが生成されること,流動
層炉内の循環流中の上昇流である「流動層」において「生成されたチャー
が部分燃焼を伴うガス化反応を引き起こす」こと,「石炭」は「下降移動
層で乾留が行われ,大半が細片化したチャーになる」こと,「廃木材」,
「廃プラスチック」及び「燃焼不適ごみ」が利用可能であることが記載さ
れている。
ウ甲10公報には,以下の記載がある。
(ア)「本発明は,流動層を用いる焼却炉,熱分解炉などの熱反応炉に関す
るものである。この種の熱反応炉として,例えば都市ごみの焼却炉にお
いては,近年ストーカ炉よりも燃焼効率がよく,かつ焼却残渣の少ない
流動層炉が用いられて来ている。」(2頁左上欄2行目∼7行目)
(イ)「ブロワ7から送られた流動化空気は,空気室43,44,45を経
て分散板42から上方に噴出せしめている。両側縁部の空気室43,4
5から噴出する流動化空気の質量速度(kg/m・sec)は流動層2
を形成するのに十分な大きさを有するが,中央部の空気室44から噴出
する流動化空気の質量速度は前者よりも小さく選ばれている。・・・空
気室の数は3個以上の任意の数が選ばれる。多数の場合でも,流動化空
気の質量速度は,中心に近いものを大に,両側縁部に近いものを小にな
るようにする。両側縁部の空気室43,45の直上に流動化空気の上向
き流路をさえぎり,流動化空気を炉内中央に向けて反射転向せしめる反
射壁として傾斜壁9が設けられている。」(4頁右上欄2行目∼左下欄
1行目)
(ウ)「焼却炉6の作用につき説明すれば,ブロワ7により,流動化空気を
送り込み,空気室43,45からは大なる質量速度にて,空気室44か
らは小なる質量速度にて噴出せしめる。通常の流動層においては,流動
媒体は沸とうしている水の如く激しく上下に運動して流動状態を形成し
ているが,空気室44の上方の流動媒体は激しい上下動は伴なわず,弱
い流動状態にある移動層を形成する。この移動層の幅は上方は狭いが,
裾の方は分散板42の傾斜の作用も相まつて,稍広がつており,裾の一
部は両側縁部の空気室43,45の上方に達しているので,大きな質量
速度の空気の噴射を受け,吹き上げられる。裾の一部の流動媒体が除か
れるので,空気室44の直上の層は自重で降下する。この層の上方には
後述の如く旋回流10を伴う流動層からの流動媒体が補給され堆積する。
これを繰り返して,空気室44の上方の流動媒体は,或る領域の部分が
ほぼひとまとめとなり,徐々に下降する下降移動層46を形成する。空
気室43,45上に移動した流動媒体は上方に吹き上げられるが,傾斜
壁9に当たり反射転向して炉の中央に向きながら上昇し,炉内断面の急
増に伴い上昇速度を失い,前述の下降移動層46の頂部に落下し,徐々
に下降し,裾に至つて再び吹き上げられて循環する。一部の流動媒体は
旋回流10として流動層の中で旋回循環する。」(4頁右下欄4行目∼
5頁左上欄10行目)
(エ)「このような状態の焼却炉6の炉内に,原料投入口60から投入され
たごみは下降移動層46の頂部に下降する。頂部付近においては流動媒
体の流れは外側から中心に向かつて集中する方向に流れるので,ごみは
この流れに巻き込まれて下降移動層46の頂部にもぐり込まされる。・
・・下降移動層46の中では部分的に熱分解が行なわれ可燃ガスが発生
する。」(5頁左上欄11行目∼右上欄4行目)
(オ)「下降移動層46の表面にびん,アイロンなどの如き重くかつ大きな
物体を落下せしめて供給した場合,これらの物体は瞬時に空気室44の
上まで落下するのではなく,下降移動層46に支えられて,流動媒体の
流れと共に徐々に下降する。そのため,可燃物はかなりの大きさのもの
でも,下降移動層46の中で徐々に下降しているうちに乾燥,ガス化,
燃焼が行なわれ,裾に達するときには大半が燃焼して細片化しているの
で,流動層の形成を阻害することがない。従つて,ごみは予め破砕機で
破砕をしなくとも,給じん装置5で破袋する程度で差支えなく,破砕機
や破砕工程を省略しコンパクトな装置とすることができる。」(5頁右
上欄8行目∼左下欄1行目)
(カ)「以上は焼却炉における例を示したが,熱分解炉その他の熱反応炉に
おいても同様である。」(6頁左下欄18行目∼19行目)
(キ)第9図には,焼却炉の縦断面図が図示されており,前記(ウ)の流動媒
体の旋回流10が流動層炉の砂層中に生じていることが示されている。
エ上記ウによれば,甲10公報には,焼却炉において,質量速度の比較的
大きい流動化ガスと質量速度の比較的小さい流動化ガスを供給することに
より流動媒体の循環流を形成すること,循環流の下降移動層において,乾
燥,ガス化等が行われること,焼却炉だけでなく,その技術は熱分解炉に
おいても同様に適用できることが記載されている。
オ甲11文献には,以下の記載がある。
(ア)「一般の流動層焼却炉は,流動媒体(砂)があたかも沸騰している湯
のように上下に動いて流動するかたちの流動層を形成しているが,本技
術では移動層(のみ込み層)と流動層の組合せによって図1に示すよう
に砂が適度に循環・旋回を行い,砂の沈降に伴い投入された燃焼物を熱
砂の中にのみ込み,熱的に燃焼物を破壊し拡散する効果を持たせたもの
である。」(1034頁右欄10行目∼1035頁左欄3行目)
(イ)「TIF旋回流型流動燃焼炉の構造図を図2に示す。流動床は空気分
散部を四つのブロックに分け,おのおのに燃焼用空気を送り込むが,中
央部の2ブロックには少量の空気を入れて移動層を作り,両端の2ブロ
ックには多量の空気を入れて流動層を形成する。移動層と流動層との空
気量の比は約1:3である。」(1035頁左欄20行目∼27行
目)
(ウ)「この移動層と流動層の組合せに加えて,ディフレクタプレートによ
るガス流屈折作用の効果により,炉床全体の砂の上下運動に加えて旋回
運動が生じる構造としてある。この旋回流により,下記の特長が生ずる。
()移動層部では砂はゆっくりと斜め下方に移動している。ここに燃焼1
物が投入されると,砂の熱により蒸し焼きにされ水分がなくなりもろく
なる。()もろくなった燃焼物は砂の旋回により拡散していき,流動層2
部での激しい砂の動きにより解砕され細かくなり,短時間に燃えつきる。
()したがって大きな燃焼物でも破砕せずに焼却することができる。」3
(1035頁左欄28行目∼41行目)
(エ)「燃焼物中の不燃物は砂の動きとともに炉の両側に送られ,砂ととも
に炉外に取り出すことができる。」(1035頁左欄末行∼右欄2行
目)
カ上記オによれば,甲11文献には,焼却炉の流動層において,質量速
度の比較的大きい流動化ガスと質量速度の比較的小さい流動化ガスを供
給することにより流動媒体の循環流を形成することが記載され,流動層
中の上昇流である流動層部において,燃焼物が解砕されて細かくなり,
燃焼することが記載されている。
キ実願昭57−111269号(実開昭58−58232号)の願書に
添付された明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(甲21,
以下「甲21マイクロフィルム」という。)には,以下の記載がある。
(ア)「3.〔考案の詳細な説明〕本考案は流動床式焼却炉に関する。・
・・この様な流動床式の焼却炉に於ては硅砂等の流動媒体が使用されて
いる。この如き流動床式焼却炉には通常流動媒体(本文に於ては砂と称
する)が床面積全般に渉り流動化して,この砂の流動状態の部分の上方,
所謂フリーボードと称する部分から焼却物の投入を行つて来た。しかし
ながらこの様な作動方式の場合には,次の様な問題が経験されている。
即ち()焼却物中の比較的比重の小さい成分(例えば紙類,プラスチ1
ツクス類等)は流動する砂の上部に於て停滞浮遊する。このため,これ
らの比較的可燃性傾向の高い成分は流動する砂の上部で良好に燃焼して
もその燃焼による発生熱量は砂に伝達されることが少く従つてその熱が
有効に利用されない。()上記のため,砂の温度も不安定・不均一と2
なり,従つて排ガス温度も変動が激しい。()発生熱が砂に有効に還3
元伝達されないため,砂温を上昇させるために補助燃料(例えば助燃
油)を必要とする場合が多く,燃料の節約が困難である。上記の如き比
重の比較的低い焼却物,或いはこれらを含んだ焼却物を在来の流動床式
焼却炉により焼却を有効に行うための方策としては焼却物を砂の上部に
投入する代りに,砂の中,又は砂の底部に強制的に供給して砂の内部で
燃焼させることが考えられる。この様にするためにはスクリユーフイー
ダ,等の機械的押込作用を行う装置が必要となる。但しこの様な装置を
使用して強制押込を行うためには更に付随する問題が生ずる。即ち,
(イ)砂中,又は砂の底部に於ての投入のため,流動化状態を維持して
いる高い風圧をシールする必要がある。(ロ)スクリユーフイーダ等で
強制的に押込む場合に焼却物自体によつてシール(マテリアルシール)
を行わねばならないために,焼却物自体の形状が制限され,焼却に必要
な程度以上に細かく破砕を行う必要がある。従つて,高馬力,高性能の
破砕機が必要となる。本考案は従来の流動床燃焼方式による上記した如
き種々の欠点,問題点を克服するための流動床式焼却炉を提供すること
を目的とするものである。」(2頁3行目∼4頁8行目)
(イ)「本考案による焼却炉は具体的には,焼却炉内の砂の部分に於て二
種類の流動層を生ぜしめること,即ち一部に於ては比較的激しい流動状
態となる流動層を生ぜしめ,他方の部分に於ては流動化の程度を比較的
低度,或いは実質的に流動を行わず砂が下方に移動することにより重力
により逐次全体として下方に沈降する移動層を生ぜしめる様になつてい
る。尚上記の流動層上部から流動状態の砂は移動層の方に偏向され,又
移動層の下部からは流動層の下部に砂が移行する様にして,砂全体が二
つの移動層,流動層の間で循環する様になされている。この様な態様は
特開昭52−118858号に開示された熱反応装置に於ける流動床に
も見られるが,この例に於ては流動床に焼却物を直接投入しているため,
前述した問題が生ずる。本考案の方式に於ては炉体上部からフリーボー
ドを介して落下する如く投入すれば移動層の上部に落下した焼却物の上
に流動層の砂を受けて下方に漸次沈降する。又流動層上部に落下した焼
却物は流動層上部から移動層上部にカスケード的に移行する砂と共に移
動層上部に動き前述の如く移動層を沈降する。」(4頁9行目∼5頁1
0行目)
(ウ)「以下本考案を添付の図面により説明する。第1図,第2図は本考
案の理解に便ならしめるため,従来の炉を説明するものである。・・・
第2図は別の形態の焼却炉で・・・この炉に於ては圧縮空気源からの流
動化用圧力空気を多孔板11’又はサンドトラツプの下方の複数の空気
室12a,12b,12cを介して砂13’中に送給し,その各々の風
速を図に於ては12aより右の方の12cに至るにつれ順次大きくなし
てある。又風速の大なる部分の上方に偏向手段としてのデフレクター1
7と旋回空気送入口18を設けて空気室12a,12b,12cからの
風速差と相俟つて砂13’の循環を助長する様にしてある。」(6頁1
5行目∼8頁2行目)
(エ)「第3図に本考案による流動床式焼却炉の断面図が説明図的に示さ
れている。・・・炉体の内部下方に中央部を高く,両側部に向けて傾斜
させた多孔板21又はサンドトラツプが配置されてその下方に空気室を
形成する。空気室は22a,22b,22cに区分されている。この区
分された領域室22a,22b,22cに対応する炉内の上方部分で移
動層,流動層が形成されて・・・。A及びC領域の上方で炉体内部に於
て炉体の両側壁に夫々デフレクター24が設けられ,デフレクター24
はその下面が側壁から中央に向けて上向きに傾斜した面を有している。
・・・空気室22a,22b,22cには圧縮空気源31より空気を供
給されるが,配管に適宜な圧力調整装置又はダンパ32,33を設けて
ダンパ32からは室22a,22cに圧縮空気を供給し,ダンパ33か
ら中央の室22bに圧縮空気を供給する様にしてある。」(8頁7行目
∼9頁13行目)
(オ)「この焼却炉の作動方式について以下に説明する。前記の如く,流
動化用空気は空気室22a,22b,22c,より多孔板21を介して
夫々上方に送気され,領域A,B,Cの砂を流動化させるが,この送給
空気量は両側領域A,Cに於て中央領域Bより大きくなる様にダンパ3
2,33により制御し領域A,Cに於ては激しい流動化が生じ中央領域
Bに於ては流動化の程度を低度に,或いは実質的に流動化が行われない
程度とする。この様な送給空気量の調整,制御により,領域A,Cの砂
は激しい流動を行い上方に移行する砂はデフレクター24により中央領
域Bの上部にカスケードされる。中央領域Bの砂の高さはこのため領域
A,C,よりも高くなる傾向となる。従つて領域Bの砂は底部から領域
A,Cの側に流れる様になる。このため,上記状態となされた砂の領域
A,C,の部分を流動層,領域Bの部分を移動層と称する。デフレクタ
ーの反転偏向作用と,移動層部分A,Cと流動層部分Bとの砂層高即ち
砂量差傾向により,領域A,Cの上方に於ける流動層から移動層へ,又
B領域下方に於ける移動層から流動層への砂の移行が行われ,領域A,
C,と領域Bとの間でほぼ均一な砂の循環流が得られる。」(9頁17
行目∼10頁19行目)
(カ)「領域A,B,C,の上部にデフレクターの存在により実質的には
Bの上部に落下した焼却物中の比重の小さい部分は砂上に於て停滞し,
そこで燃焼することなくA,Cの流動層からカスケードされてくる高温
(例えば600∼800℃)の砂に覆われ移動層の砂と共に下方に沈降
する。供給された焼却物は領域Bの下方に動き多孔板21の位置に至る
間に,焼却物中にあるプラスチツク類は液化,又は一部ガス化し,水分
を含むものは更に水分を蒸発させ焼却物は概ね脆化の傾向を示す。・・
・領域A,Cの下方部分で移動層から流動層へと移行した焼却物は水分
も蒸発し,より可燃性となつているため,多量の空気(流動用並びに燃
焼用)により撹拌作用を伴つた激しい流動化状態となり,瞬時に燃焼す
る。焼却により生じたガスはデフレクター24下側と流動層領域A,C
の上方との間の間隙を通過し排気口26から排気ガス処理設備へ送られ
る。高温の砂は上記の如く再び移動層を形成し,沈降,循環を繰り返
す。」(11頁13行目∼12頁15行目)
(キ)「本考案の焼却炉は上記の如く構成されているから焼却物が砂の上
部に停滞することがなく,焼却熱等は有効に砂に還元され,又移動層で
沈降中により可燃性が高くなされて流動層に於て瞬時に燃焼し,砂の温
度を均一に安定させ,排ガス温度変動が少い。又助燃油は殆んど必要が
ない。尚焼却物は移動層に於ける脆化の進行と,流動層に於ける激しい
流動撹拌により破壊されて停滞することがなくクリンカの発生が実質的
に防止されるので,比較的大きな粒径のものも焼却可能となるから前処
理用破砕の程度は簡単,或いは省略も可能である。又投入は砂の上方か
ら行うため,投入機に於けるシールはその部分の炉内圧に対するものを
考慮するだけの簡単なものでよく,マテイアルシールの必要はなく,こ
の面からも前処理破砕の必要性が低減されるか,省略され得る。」(1
4頁10行目∼15頁6行目)
(ク)第3図には,流動層式焼却炉の縦断面図であり,流動層中で流動媒
体が,左側(領域A側)においては時計回りに,右側(領域C側)にお
いては反時計回りにそれぞれ循環し,中央部(領域B)では上方から下
方へ沈降する様子が示されている。
ク上記キによれば,甲21マイクロフィルムには,焼却炉の流動層におい
て,質量速度の比較的大きい流動化ガスと質量速度の比較的小さい流動化
ガスを供給することにより流動媒体の循環流を形成すること,流動媒体が
沈降する「移動層」において,「焼却物」が「ガス化,液化,脆化」し,
流動媒体が上昇する「流動層」において,燃焼することが記載されている。
()上記()によれば,廃棄物の処理を行うガス化炉(熱分解炉。甲8公報,32
甲10公報)及び焼却炉(甲10公報,甲11文献,甲21マイクロフィル
ム)において,流動層を設け,その流動層を循環流とすることは,本件出願
日前に,周知の技術であったと認められる。そして,流動層ガス化炉と流動
層焼却炉に係る技術は,流動層を用いて廃棄物を焼却ないし加熱して処分す
る方法の技術である点で共通し,また,流動層を循環流とする技術について,
焼却炉にも熱分解炉にも適用される(前記()ウ(カ))とされ,甲7公報にも,2
「固形物を燃焼する場合,砂などの固体粒子を熱媒体とする流動層焼却炉は
周知の様に多くの利点があるが,下記の欠点がある。・・・これを解決する
ために流動層熱分解方法が用いられ,この方法は吸熱反応であるので上記①
の問題を解決し,②の問題も部分燃焼法などを用いて解決することができる。
しかしながら,流動層熱分解方法においても③及び④の問題点を解決するこ
とはできなかつた。」(1欄末行∼3欄8行目)として,廃棄物の焼却処分
に当たり,熱分解炉と焼却炉の技術が比較検討されたことが記載されている
ように,流動層焼却炉と流動層ガス化炉が,密接に関連する技術分野に属す
るものであることは明らかである。
甲7の発明1は,廃棄物処理を行うガス化炉に係る発明であるから,上記
周知技術に係る技術分野と技術分野が重なっているということができる。
そして,甲21マイクロフィルムにおいては,焼却炉の流動層において,
流動層に循環流を設けない場合には,流動層に有効に熱が伝達されないとい
う課題があったこと,流動層に循環流を設けることにより,その課題を解決
したことが示されている(前記()キ(ア))。また,甲8公報には,流動層に2
循環流を設けなかったガス化炉においては,未反応のままでチャーが炉外へ
飛散し,高いガス化効率が得られなかったという課題が存在したこと,循環
,流を設けることにより,その課題を解決したことが示されている(同ア(イ)
(オ)及び(カ))。
甲7の発明1は,前記1()のとおり,流動層において熱分解を行うもの3
であって,流動層に対する効率的な熱の伝達を課題とし,また,ガス化によ
るガスを利用するものでガス化効率が高まることが望ましいといえるもので
あるから,その炉内の流動層について,上記甲21マイクロフィルム及び甲
8公報に記載されていた,既に知られていた課題を有していたというべきで
あり,その課題について,甲21マイクロフィルム及び甲8公報に記載され
た技術と同様,流動媒体の流れを循環流とするという構成を採用することに
より解決するという動機付けがあったと認められる。
なお,本件明細書には,甲8公報が【従来の技術】欄に掲げられ,そこに
記載の技術の短所が記載されているのであるが(段落【0004】,【00
05】),そうであるからといって,甲8公報に上記課題が記載されている
こと,それを循環流の採用により解決したこと,甲7の発明1も同様の課題
を有していたことにかんがみると,直ちに,甲7の発明1に甲8公報に記載
された技術を組み合わせることを阻害するものではない。
さらに,甲7の発明1は,流動層炉の「流動層内の熱分解によりガス化し
てガス並びにチャー及び灰分の微粒子を,サイクロン燃焼炉に供給し」,そ
れらのガス及びチャーを次段のサイクロン燃焼炉において燃焼するものであ
るが,甲8公報の記載(上記()ア(ウ),(キ)及び(ク))によれば,本件出願日2
当時,当業者は,流動層炉の流動媒体の流れが循環流である場合において,
廃棄物の熱分解により,ガス及びチャーが生成され,そのガス及びチャーを
炉外に排出するとの構成をとることが可能であると容易に理解することがで
きたものと認められる。
この点について,原告は,甲8公報に記載された技術は,流動層内の循環
流においてガス化反応を完結しチャーをガスに転換させてしまうものであり,
流動層炉からは可燃ガスが排出され,チャーの排出は例外的である旨主張す
る。しかし,上記のとおり,本件明細書の【従来の技術】欄に甲8公報が記
載されていることは,そこに記載された技術と本件発明1との関連を示すも
のであり,また,本件発明1は,甲8公報記載の技術と同様,ガス化効率を
高めることを目的としているものと解され,チャーを多量に生成することに
ついてまでの技術的意義が本件明細書に記載されているとは認められないか
ら,甲8公報に記載された技術についての原告主張の事実は,甲7の発明1
に甲8公報に記載された技術を組み合わせることを阻害するものとは認めら
れない。
以上を総合すると,甲7の発明1と甲8公報等記載の技術の技術分野の関
連性,甲7の発明1も,甲21マイクロフィルム,甲8公報に記載されてい
た,既に知られていた課題を有し,その課題を流動媒体の流れを循環流とす
ることで解決するという動機を有していたこと,当業者は,甲7の発明1の
流動層において,甲8公報等に開示された構成を採用しても,炉内に投入さ
れた廃棄物によって,循環流中でガスとチャーが生成し,それらのガスとチ
ャーを炉外に排出する構成をとることが可能であると容易に理解できること
から,当業者は,甲7の発明1に,甲8公報等において開示されている,流
動媒体を循環流とするという構成を組み合わせ,相違点Aに係る本件発明1
の構成に想到することが容易であったと認めることができる。
()原告は,甲8公報等には,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,生4
成されたチャーをさらに微粒子とする処理を行うという本件発明1の構成が
記載されていないことを理由として,甲7の発明1に対し,甲8公報等に記
載された,流動媒体の循環流を形成する技術をどのように組み合わせても,
本件発明1の構成が得られることがない旨主張する。
しかし,前記1のとおり,本件発明1について,特許請求の範囲の記載が,
廃棄物がガス化されてガスとチャーが生成される工程と,生成されたチャー
を部分酸化させて微粒子とする工程という2段階の工程を規定しているもの
とは認められず,それらが規定されていることを前提とすると解される原告
の主張は前提を欠くものであり,採用することができない。
また,仮に,本件明細書の記載及び技術常識等から,流動層内の流動媒体
を循環流とした流動層炉において,循環流中の上昇流である流動層において
チャーが部分酸化することがあったとしても,そのような作用は当業者が容
易に予測し得るものにすぎないのであって,循環流におけるチャーの生成及
びチャーを微粒子とすることに係る構成については,別途,相違点Cとして
認定され,その容易想到性について判断されているのであるから,上記流動
層においてチャーが部分酸化することがあることが,審決の相違点Aの認定
判断に影響するものではない。
(5)相違点の看過について
ア原告は,審決が,流動媒体の流れと流動層の機能の関係を看過したと主
張して,甲7の発明1に対し,周知技術と認定された循環流を適用すると,
甲7の発明1の流動層内での物質・熱の移動の態様が変更されて,甲7の
発明1そのものの機能等を変質させる旨主張する。
しかし,甲7の発明1は,「流動層内の熱分解によりガス化してガス並
びにチャー及び灰分の微粒子を,サイクロン燃焼炉に供給」するものであ
るが,甲7公報には,流動層について循環流としないことが甲7の発明1
の前提になっていることを示唆する記載はないと認められるのであって,
流動層を循環流としても,その「流動層内の熱分解によりガス化してガス
並びにチャー及び灰分の微粒子を生成」するものである以上,甲7の発明
1の本質が変更されるとは認められないから,原告の主張は失当である。
なお,この点,原告は,炉内の流動条件によって,流動層炉における流
動層の機能が異なる旨指摘するが,そもそも甲7の発明1において,流動
層を循環流としないことが前提であるとは認められないのであるから,原
告が指摘する事実は,上記判断を左右しない。
イ原告は,審決が,相違点Aに係る構成の作用機能を看過したとして,甲
8公報等に記載された技術は,いずれも,流動層内に循環流という流動媒
体の流れを形成して,その循環流を有する流動層内でガス化反応や燃焼を
完結させ,流動層炉から可燃ガスとチャーを排出していないことを主張す
る。
しかし,発明の進歩性判断における相違点についての容易想到性の判断
に当たり,相違点に係る構成を開示している発明について,進歩性判断の
対象となる発明と同じ構成を備える必要はない。そして,本件においては,
甲8公報において,流動層炉の流動層が循環流であったとしても,廃棄物
の熱分解により,ガス及びチャーを生成し,そのガス及びチャーを炉外に
排出することができることが記載されていることは,前記()ア(ウ)(キ)2,
及び(ク)のとおりである。この点について,原告は,甲8公報に記載され
た技術においては,流動層内の循環流においてガス化反応を完結し,チャ
ーをガスに転換させてしまい,流動層炉からは,可燃ガスが排出され,チ
ャーの排出は例外的である旨主張するが,前記1()のとおり,本件発明2
1は,甲8公報記載の技術と同様,ガス化効率を高めることを目的として
いるものと解され,チャーを多量に生成することについての技術的意義が
本件明細書に記載されているとは認められないから,原告主張の事実が,
甲7の発明1に,甲8公報に記載された技術を組み合わせることを阻害す
るものとは認められない。
ウ原告は,審決は,流動媒体の流れと流動層の機能との組合せの関係を看
過したとして,審決は,流動媒体の流れと流動層の機能との密接な関係に
ついて,その整合性を何ら吟味することなく,前例のない「流動媒体の流
れ」と「流動層の機能」との結びつきを認定した旨主張する。
しかし,甲7の発明1に対し,甲8公報等から認められる周知技術を組
み合わせることができることは,前記(3)のとおりであり,他方,その組
合せについて,技術的に妨げとなる要因がないことは,後記(6)のとおり
であって,原告の主張は理由がない。
()組合せの阻害要因について6
ア原告は,甲7公報には,循環流が形成されていない流動層熱分解炉とサ
イクロン燃焼炉との組合せにより,両方法の長所が生かされ短所が相殺さ
れて消滅し,相乗的な極めて顕著な効果を奏していることが記載され,技
術的思想として,甲7の発明1の流動層を他の流動層に置き換えることが
できないことが記載され,甲7の発明1の流動層に変えて,可燃ガス及び
チャーを次段に導入するという機能を有さず完全ガス化あるいは完全燃焼
という機能と結び付いた循環流を適用することは,甲7の発明1の目的に
反することとなり,その組合せの阻害要因が認められるとする。
原告は,上記主張の根拠として,甲7公報の,「流動層熱分解方法とサ
イクロン燃焼方法とを組み合わせることにより,両方法の長所が生かされ
短所が相殺されて消滅し,相乗的は極めて顕著な効果を伴う固形物の燃焼
方法及びその装置を提供する。」(7欄最終段落∼8欄第1段落)との記
載を挙げるが,上記記載は,その内容に照らしても,流動層熱分解方法と
サイクロン燃焼方法との組合せについて述べたものであって,流動層熱分
解方法の流動層の態様について,循環流を除くとか,特定の態様の流動層
に限るなどの限定があることを記載しているものとは認められない。また,
甲7公報の他の箇所においても,その流動層熱分解方法の流動層が特定の
ものに限定されていることを示唆する記載もない。流動層を循環流として
も,「流動層内の熱分解によりガス化してガス並びにチャー及び灰分の微
粒子を生成」するのであるから,甲7の発明1において,流動層を循環流
としても,甲7公報が述べる流動層熱分解方法とサイクロン燃焼方法の組
合せの意義が損なわれるものとは認められない。
この点について,原告は,甲7の発明1において,流動媒体の流れとし
て,循環流を採用した場合には,流動層炉の「流動方式」は,「バブリン
グ式」とは区別された「内部循環式」となり,ガス化溶融システムそのも
のの基本的条件を変更することとなる旨主張するが,甲7の発明1の「流
動層熱分解方法」が「バブリング式」に限定されるものであるとは認めら
れないのであるから,原告の主張は上記判断を左右しない。
イ原告は,甲7の発明1に,甲8公報等に記載された技術を組み合わせる
と,キャリーオーバーの問題が発生する旨主張する。
しかし,甲7の発明1において,ガスとともにガス化炉の外に排出され
る,「微細な粒子」等と表現されるチャーの粒径を数値的に明らかにした
記載は甲7公報にはないし,甲7の発明1の流動層炉の流動媒体が循環流
を有する場合に生成されるチャーの粒径を認めるに足りる証拠はない。本
件明細書にも,生成されるチャーの粒径の記載やチャーの粒径とキャリー
オーバーとの関係は何も記載がない。
原告は,流動層炉の流動媒体が循環流を有した場合には,そうでない場
合に比して,その生成されるチャーの粒径が小さいことを前提とした主張
をするが,甲8公報に「従来の流動層では,層内全体を活発な流動化状態
で均一に保とうとしたため,生成ガスに同伴して炉外へ飛散する未反応チ
ャーの量が多く,高いガス化効率を得られなかった。」(2頁左下欄11
行目∼14行目)との記載があるように,流動層炉の流動媒体が循環流を
有する場合,未反応チャーの炉外への排出が減少することはうかがえるも
のの,キャリーオーバーが問題となる,流動層炉から排出されるチャーの
うちでも粒径の小さいチャーについて,流動層炉の流動媒体が循環流を有
する場合に,そうでない場合に比して,必ず多量になると認める足りる証
拠はない。
そして,本件発明は,ガス化炉の流動層の流動媒体の流れを循環流とし
て,そこで生成されたチャーを次段の溶融炉に供給するものであるが,本
件明細書にも,チャーの粒径が小さくなることにより,原告が主張するキ
ャリーオーバーの問題が発生する旨が記載されているものではないし,ま
た,本件発明は,粒径の小さいチャーについて,甲7の発明1が備える構
成とは異なる特段の構成により,対応しているものとは認められない。
甲7公報には,「燃焼排ガスはサイクロン炉の出口18より熱交換器1
9,及び要すれば未捕集のダストを集じんする為の電気集じん器20を通
して系外に排出される。尚,電気集じん器20を設けた場合は,此処から
排出されるダストを再びサイクロン燃焼炉11に供給して・・・溶融固化
すると良い。」(5欄34行目∼40行目)と記載され,必要に応じて電
気集じん器を設置することが示唆されているから,旋回溶融炉において捕
捉し得ない塵芥等が発生することは,甲7の発明1においても予定されて
いるものということができる。そうすると,仮に,チャーの微細化により
サイクロンで捕捉し得ないチャーが増大したとしても,電気集じん器によ
りチャーを捕捉するなどにより対応可能であることは明らかであるから,
原告の主張するようにキャリーオーバーの増大の問題が生じるものであっ
たとしても,甲7の発明1に「循環流」を適用することを阻害するとまで
はいえない。
そうすると,甲7の発明1の流動媒体の流動層の流れを循環流とした場
合に,原告主張の阻害要因が存在するとは認められない。
()以上によれば,原告主張の取消事由3は理由がない。7
4取消事由4(相違点Bについての認定判断の誤り)について
()審決は,相違点Bに係る本件発明1の構成について,甲14公報に「ガラ1
ス繊維を含む廃棄プラスチックスを燃焼分解させる流動層熱分解炉と旋回燃
焼炉を備えた廃棄物焼却方法において,流動層炉(流動層熱分解炉)内の温
度を500∼600℃に温度制御することが記載されている」(審決謄本2
7頁第6段落)として,「相違点Bに係る本件発明1の構成は,甲7の発明
1に甲14に記載された発明(注,甲14発明)を適用することにより当業
者であれば容易に想到することができたものというべきである。」(同頁第
7段落)としたのに対し,原告はその認定判断が誤りである旨主張する。
()そこで,検討すると,甲14公報には,「ガラス繊維を含む廃棄プラスチ2
ックス中のプラスチックスを流動層熱分解炉内で熱分解して分解ガスとする
ために,プラスチックスが500℃以上で熱分解を起こす特性を有するのを
利用して,流動層熱分解炉内の温度を500℃∼600℃に温度制御して,
廃棄プラスチックス中のプラスチックスを燃焼させて分解ガスとする。」
(段落【0008】)との記載がある。
他方,甲12文献には,「()温度範囲の設定基準①流動層ごみのガ1
ス化速度をより緩慢にするためには,低温の方が好ましい。このことから上
限を700℃に設定した。一方下限は,都市ごみを構成する物質のガス化温
度に支配される。ガス化が完全に行われ,不燃物の熱しゃく減量が極めて少
ないことが重要である。紙,プラスチック等都市ごみを構成する物質の熱分
解温度は400℃以下であり,十分余裕をみて下限を600℃に設定した。
②フリーボードと後燃焼領域サーマルNOの発生を抑制し,更に飛灰にX
よるダストトラブルを防止するため上限を950℃に設定した。一方下限は,
良好な燃焼状態を確保するため800℃以上とした。」(46頁右欄下から
3行目∼47頁左欄11行目)との記載がある。また,甲13公報には,
「従来のこの種の流動床焼却方式の装置を第1図に示すが,この装置におい
ては,燃焼不適ごみ1は,先ず供給機2から流動焼却炉3内へ投入される。
この流動焼却炉3の下部には砂等の流動媒体が充填されており,空気吹込み
管から供給される空気の作用により流動層4を形成している。上記により投
入された燃焼不適ごみ1は,この流動層4中で空気吹込み管5から導入され
る空気と接触して燃焼し,焼却処理される。この場合,流動層4の温度は一
般に800℃以上の高温となるため,NOが発生する上ごみ中の重金属がX
生成ガス中へ揮散する。」(2頁左上欄3行目∼14行目),「本発明の目
的は,上記した従来技術の欠点をなくし,排ガス中のNOや重金属を増加X
させることなく,燃焼不適ごみを処理することができる流動床焼却方式の処
理方法を提供することにある。上記目的を達成するため・・・上記流動層焼
却部での焼却処理を400℃∼600℃の比較的低温下で部分酸化方式によ
り行い,次いで該処理で発生する分解ガスを空気の供給下に700∼750
℃で二次燃焼することを特長とする。上記の構成とすることにより,流動層
焼却部の温度は400∼600℃と比較的低温であるためNOの発生や重X
金属の揮散が抑制される。またこのようにして得られるNOおよび重金属X
含有の低い分解ガスが次に比較的低温下で二次燃焼されるので,可燃分の燃
焼をNOおよび重金属の増加をともなうことなく可燃分を良好に燃焼させX
ることができる。本発明において,流動層焼却部の温度を400∼600℃
に保つには,例えば流動層への吹込み空気量を理論燃焼空気量よりも少くす
ればよい。」(2頁右上欄11行目∼左下欄13行目),「第5図は,本発
明の他の実施例に係る流動床焼却方式の装置を示すもので,このものは,空
塔内の二次燃焼部に替えてその後流に独立の2次燃焼炉26を設けることと,
流動化空気の吹込み管に替えて分散板25を設けること以外は第2図に示す
装置と同様な構成である。」(3頁右下欄13行目∼18行目)との記載が
ある。さらに,特開昭55−102682号公報(乙1,以下「乙1公報」
という。)には,「熱分解炉におけるごみの燃焼割合は,炉1に供給される
空気2の量によってきまる。十分な空気量を供給すれば,投入されるごみ3
の全量が燃焼し,逆に,空気量を制限し,かつ燃焼発熱量の代替熱量を外部
から供給すれば,投入ごみ3は全量が熱分解する。熱分解炉は,上述の如く,
空気量の調整ひとつで焼却および熱分解の間での相互移行が容易に可能であ
る。通常は,熱分解炉の温度が450℃∼550℃程度になるように,供給
空気量によって燃焼割合が調整されている。熱分解炉は,その炉温度が焼却
炉の場合に比較して低いため,二次公害物質の発生や炉材上の問題が少ない
ことが特長のひとつとなっている。」(1頁右欄下から4行目∼2頁左上欄
9行目)との記載がある。
上記によれば,甲14公報に,廃棄プラスチックの熱分解に関し,流動層
熱分解炉内温度を500℃から600℃とすることが記載されているほかに
も,甲12文献においては,都市ごみの熱分解に関し,熱分解温度を600
℃から700℃とすることが記載され,甲13公報には,熱分解を行う流動
層焼却部の温度を400℃から600℃とすることが記載され,さらに,乙
1公報によれば,ごみの熱分解炉の温度が通常は,450℃から550℃で
あることが記載されている。
これらによれば,ごみを熱分解するための温度範囲として,流動層熱分解
炉の炉内温度を450℃から650℃程度とすることは,本件出願日前に,
当業者に周知のことであったと認められる。
そうすると,甲7の発明1の流動層熱分解炉は,ごみを熱分解するための
ものであって,甲7の発明1の流動層熱分解炉において,炉内温度を450
℃∼650℃の範囲に設定することは,当業者が必要に応じて適宜なし得る
程度の設計的事項にすぎないというべきである。
したがって,相違点Bに係る本件発明1の構成に当業者は容易に想到する
ことができたものと認められ,審決の結論に誤りはない。
()原告は,チャーについて意識しておらず,被処理物が甲7の発明1とは異3
なる「ガラス繊維を含む廃棄プラスチック」に特化され,その特化された被
処理物固有の問題を解決するためにガラス繊維が軟化溶融しないように特定
された甲14発明の流動層炉内の温度範囲と,一般の廃棄物をガス化してガ
スとチャーを生成し次段のサイクロン燃焼炉に供給する甲7の発明1の熱分
解炉の温度範囲は技術的意義が異なるので,甲14発明の温度範囲を,甲7
の発明1に結び付ける動機付けはない旨主張する。
しかし,上記()のとおり,廃棄プラスチックに限定されず,ごみを熱分2
解するための温度範囲として,流動層熱分解炉の炉内温度を450℃から6
50℃とすることは既に周知であったと認められるのであり,原告の上記主
張は,上記()の判断を左右するものではない。2
また,原告は,本件発明1において,流動層炉の温度を450℃から65
0℃としたのは,多量の可燃分(可燃性ガス,タール及びチャー)をできる
だけ多く安定して生成させるためであり,そのような新規な目的,課題に対
応するために最適化された温度範囲を規定したのが相違点Bに係る本件発明
1の構成である旨主張する。
しかし,上記のとおり,ごみを熱分解するための温度範囲として,流動層
熱分解炉の炉内温度を450℃から650℃とすることは既に周知であった
と認められるのであり,他方,本件明細書においては,「流動層炉内の温度
を450℃∼650℃に維持する」場合が,それ以外の温度で熱分解を行う
場合に比して,多量の可燃分(可燃性ガス,タール及びチャー)を多く安定
して生成させるものであるものである旨の記載もないし,上記温度範囲が,
そのような目的により定められたものであると認めるに足りる証拠もなく,
相違点Bに係る本件発明1の構成が,従前の熱分解炉におけるものを越えた
新規な目的,課題に対応するために最適化されたものであると認めるには足
りない。
()以上によれば,原告主張の取消事由4は理由がない。4
5取消事由5(相違点Cについての認定判断の誤り)について
()審決は,相違点Cに係る本件発明1の構成について,「(該廃棄物を)1
『該流動層炉内の循環流中でガス化してガスとチャーを生成し該チャーを該
循環流中で微粒子とし』たことは,甲7の発明1に周知の技術を適用した結
果として当業者には自明の事項であるから,甲7の発明1と周知の技術に基
づいて当業者であれば容易に想到することができたものというべきであ
る。」(審決謄本28頁第3段落)としたのに対し,原告は,その認定判断
が誤りである旨主張する。
()確かに,甲7公報においては,廃棄物を流動層内の熱分解によりガス化し2
てガスとチャーを生成することは記載されているが,流動層炉における循環
の有無については,明示の記載がなく,上記生成作用を「循環流中で」する
ことについての記載はない(相違点C)。
しかし,特開平2−195104号公報(甲9,以下「甲9公報」とい
う。)には,「流動層に投入された石炭は短時間で加熱により揮発分が分離
する。分離した揮発分は一部層内で燃焼し,他は層表面へ出てフリーボード
部で燃焼する。揮発分が分離した後の未燃炭素分(チャー)は,流動層中を
数10回にわたり旋回循環しながら比較的長い時間をかけて燃焼する。チャ
ーは当初揮発分の分離により多孔質状態となり,その後燃焼の進行に伴い,
漸次微小化する。」(3頁右下欄5行目∼13行目)との記載がある。
そして,甲7の発明1の流動層炉内の流動媒体の流れについて,循環流を
有するとの技術を適用した場合には,甲9公報の上記記載や前記3()ア(キ),2
オ(ウ),キ(カ)の記載に照らしても,その循環流中の熱分解過程において,廃
棄物がガス化して,ガスとチャーを生成し,また,その過程でチャーが燃焼,
解砕等により微細化するものであることは,明らかというべき事項である。
そうすると,甲7の発明1に対し,周知技術を適用して,その流動層炉内
の流動媒体の流れを循環流とすると,廃棄物をガス化してガスとチャーを生
成しチャーが微粒子化する過程が,「循環流中で」されることは,当業者に
とり明らかであるから,相違点Aについての前記1における判断と総合すれ
ば,当業者は,相違点Cに係る本件発明1の構成について,容易に想到する
ことができたと認められる。
なお,原告は,本件発明1が,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成し,
ガス化によって生成されたチャーを流動媒体が上昇する流動層において部分
酸化させて微粒子とする処理を行うというものであり,そのような構成が甲
8公報等に記載されていない旨主張する,
しかし,チャーの生成等について,本件発明1の構成として,原告主張の
構成が必ずしも認められるものではなく,また,前記3(2)によれば,甲8
公報,甲10公報及び甲21マイクロフィルムにおいて,流動層の流動媒体
の下降流において,ガス化が行われることが記載され,甲8公報において,
流動層の流動媒体の上昇流で部分燃焼がされることが記載され,甲21マイ
クロフィルムにおいて,流動層の流動媒体の上昇流でガス化後の燃焼物等が
燃焼することが記載されているのであって,これらの記載に照らせば,流動
媒体の流れが循環流である流動層炉において,技術常識から,流動層に供給
される空気量等との関係で,循環流中の下降流である移動層でガス化がされ,
循環流中の流動媒体が上昇する流動層において,チャーが部分酸化すること
があることは,当業者が容易に予測できたものであると認められる。
()原告は,相違点Cに係る本件発明1の構成は,廃棄物を循環流中でガス化3
してガスとチャーを生成し,ガス化により生成されたチャーを循環流中でさ
らに微粒子とすることによってガスと微粒子となったチャーを得る一連の工
程を規定したものであるのに対し,甲7の発明1においては,熱分解で生成
されたチャーが生成された状態で微細粒子であり,生成されたチャーがさら
に微粒子とされることはないとして,審決の認定判断の誤りを主張する。
しかし,取消事由1(甲7の発明1の認定の誤り),取消事由2(本件発
明1と甲7の発明1の一致点の認定の誤り,相違点の看過)において検討し
たとおり,原告の上記主張は,審決の認定判断を左右するものではなく,採
用できない。
()以上によれば,原告主張の取消事由5は理由がない。4
6取消事由6(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)について
()原告は,「本件発明1の作用効果を検討しても,甲7及び甲14に記載さ1
れた各発明(注,甲7の発明1及び甲14発明)並びに周知の技術から当業
者の予測を超えるような格別顕著な効果を奏するものとみることはできな
い。」(審決謄本29頁第4段落)とした審決の判断を争い,本件発明1は,
流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し,廃棄物をガス化して生成した可燃
ガスをあまり燃焼させずに次段の溶融炉に供給するとともに,循環流中でチ
ャーを微粒子とすることにより,流動層炉で生成した可燃ガス及びチャーを
ともに安定して溶融炉に供給することができ,対象とするごみが質的及び量
的に変動するごみ処理特有の課題において,ガス,タール,チャーの可燃分
を多量に含む均質な生成ガスを得て,ガス,タール,チャーの可燃分の大部
分を次段の旋回溶融炉において利用できるという顕著な効果を奏するもので
ある旨主張する。
(2)しかし,原告が主張する効果のうち,循環流中でチャーが微粒子となるこ
とは,前記5(2)のとおり,当業者が容易に予測できたことであり,また,
その結果,微粒子となったチャーが可燃ガスに同伴して溶融炉に供給できる
ことも同様である。さらに,可燃ガスの生成のために流動層熱分解路の炉内
温度を450℃から650℃程度とすることは,前記4のとおり,周知の技
術であり,同温度範囲において,生成ガスを安定して得られることは,当業
者が容易に予測できたといえるものである。このように,原告が主張する効
果は,当業者が当然に予測し得たものであり,また,これらを総合した効果
についても,当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとは認められない。
なお,原告は,本件発明1を含む本件発明に,多量のチャーを生成すると
いう技術的意義があることを主張するが,前記1(2)のとおり,そのような
技術的意義があるとは認められない。
()以上によれば,原告主張の取消事由6は理由がない。3
7取消事由7(本件発明2についての進歩性の認定判断の誤り)について
()審決は,本件発明2の進歩性について,「上記の事実に照らせば,請求項1
2で付加した構成,すなわち,『流動層炉は,流動層温度が450℃∼65
0℃に維持されること』は,本件発明の出願前に当業者には周知の技術であ
ったものと認められる。本件発明2の作用効果を検討しても,甲7及び甲1
4に記載された各発明(注,甲7の発明1及び甲14発明)並びに周知の技
術から当業者の予測を超えるような格別顕著な効果を奏するものとみること
はできない。したがって,本件発明2は,本件発明1について前示した理由
に上記の理由を加えた理由によりその進歩性が否定されるものであるから,
本件発明2の出願日前に国内において頒布された刊行物である甲7及び甲1
4に記載された各発明並びに周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものというべきである。」(審決謄本30頁第3段落∼第5
段落)としたのに対し,原告は,その認定判断が誤りである旨主張する。
()しかし,前記4()のとおり,甲12文献には,流動層の温度を600℃22
から700℃とすることが記載され,甲13公報には,熱分解を行う流動層
焼却部の温度を400℃から600℃とすることが記載されているほか,甲
27公報には,「流動層内に被焼却物を供給して焼却するに際して,その流
動層内の温度を520∼650℃に保って燃焼させることで,流動層内に投
入された被焼却物の燃焼・熱分解を緩やかに,しかも安定して行うことがで
き,ばいじんなどの発生を抑えることができる」(2頁左上欄17行目∼右
上欄3行目),「流動層の温度が520℃以下では流動層内での被焼却物の
燃焼が不安定(燃えにくくなる)となって好ましくな(い)」(3頁右上欄
末行∼左下欄2行目),「被焼却物を緩慢に燃焼し熱分解させるので分解ガ
スやばいじんの大量発生を抑制することができる。」(4頁左上欄8行目∼
10行目)との記載があり,流動層温度を520℃から650℃とすること
が記載されていると認められるから,請求項2で付加した「流動層炉は,流
動層温度が450℃∼650℃に維持されること」は,当業者には周知の技
術であり,当業者は,甲7の発明1及び周知技術に基づき,本件発明2に容
易に想到できたものと認められる。
()原告は,引用文献記載の発明に周知技術を適用して特許出願に係る発明の3
構成を得ることが容易であったと認められるためには,当該周知技術が引用
文献記載の発明に適用されることに適した内容のもの,すなわち,適用上の
適性があるものであり,かつ,当該周知技術を適用して特許出願に係る発明
の構成を得ることが技術的合理性の見地からみて可能であり,また,相当で
あることを前提とするとして,本件発明2が,溶融炉にガスとチャーを送っ
て利用できるようにするために,特に,流動層温度を450℃から650℃
に維持したのに対し,審決が周知技術の認定の根拠とした文献には,そのよ
うな技術的思想が記載されず,適用上の適性がない旨主張する。
しかし,甲7の発明1は,ごみを流動層内で熱分解する発明であるから,
上記()掲記の各文献と技術分野を共通にし,他方,請求項2で付加した2
「流動層炉は,流動層温度が450℃∼650℃に維持されること」との構
成が,次段の溶融炉にチャーを送って利用できるという原告主張の効果のた
めに特定された温度範囲であること,同温度範囲において,他の温度範囲と
比して原告が主張する効果を特に奏する旨は,本件明細書には何ら記載がな
く,これを認めるに足りる証拠もないことにかんがみると,原告の主張する
事実により,上記各文献に記載の技術を甲7の発明2に適用することができ
ないと認めることはできない。
()また,原告は,本件発明2の格別顕著な効果を否定した審決の判断を誤り4
である旨主張するが,原告主張の本件発明2の効果のうち,本件発明1と同
様の効果をいう部分は,取消事由6(本件発明1の奏する顕著な効果の看
過)と同様理由がなく,本件発明2が特に流動層温度を450℃から650
℃に維持することにより効果を奏することをいう部分は,上記()のとおり,3
同温度範囲とすることにより原告主張の効果を奏する旨の記載が本件明細書
になく,これを認めるに足りる証拠もないのであり,理由がない。
()以上によれば,原告主張の取消事由7は理由がない。5
8取消事由8(本件発明6についての進歩性の認定判断の誤り)について
(1)審決は,本件発明6の進歩性について,「本件発明4及び5についての判
断においてそれぞれ前示した周知の技術に照らせば,請求項6で付加した構
成,すなわち『質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大き
い流動化ガスは,ともに空気であること』は,本件発明の出願前に当業者に
は周知の技術であったものと認められる。本件発明6の作用効果を検討して
も,甲7及び甲14に記載された各発明(注,甲7の発明1及び甲14発
明)並びに周知の技術から当業者の予測を超えるような格別顕著な効果を奏
するものとみることはできない。したがって,本件発明6は,本件発明4又
は5について前示した理由に上記の理由を加えた理由によりその進歩性が否
定されるものであるから,本件発明6の出願日前に国内において頒布された
刊行物である甲7及び甲14に記載された各発明並びに周知の技術に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。」(審決
謄本33頁第8段落∼34頁第2段落)としたのに対し,原告は,その認定
判断が誤りである旨主張する。
(2)しかし,甲8公報の上記3(2)ア(ア),(オ)の記載,甲10公報の同ウ(イ),
(キ)の記載,甲11文献の同オ(イ)の記載,甲21マイクロフィルムの同キ
(ウ),(オ)によれば,流動層炉の流動層に循環流を形成するに当たり,質量速
度が比較的大きい流動化ガスと質量速度が比較的小さい流動化ガスを供給す
ることによって,循環流を形成すること,流動化ガスとして空気を用いるこ
とは周知の技術であったといえるから,本件発明6は,甲7の発明1に周知
技術を適用することで,当業者が容易に想到することができたと認められる。
()原告は,甲7の発明1には,ガス化により生成されたチャーを流動媒体が3
上昇する空気量の多い流動層においてさらに微粒子とする本件発明6の「該
チャーを微粒子とし」との構成はないとして,甲7の発明1に周知技術を組
み合わせても本件発明6の構成に想到しない旨主張するが,取消事由1(甲
7の発明1の認定の誤り),取消事由2(本件発明1と甲7の発明1の一致
点の認定の誤り,相違点の看過)の説示に照らし,本件発明6の構成につい
ての原告の主張は採用できず,理由がない。
()原告は,「流動層炉内に流動媒体の循環流を形成し,前記流動媒体の循環4
流は,質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化
ガスを供給することにより形成され,前記質量速度が比較的小さい流動化ガ
スと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,ともに空気であり」との技術は,
焼却炉において周知であっても,ガス化炉においては周知ではなく,また,
公知でもないとして,流動化ガスとして可燃物の燃焼させるために空気を用
いていた焼却炉の技術分野において周知の技術手段であるからといって,可
燃分を燃焼により消費しないで可燃分として回収するために空気以外のガス
化剤を流動化ガスとして用いていたガス化炉の技術分野においてまで周知の
技術手段であるとすることはできない旨主張する。
しかし,甲7公報の「21は,流動化ガスとしての空気を供給するブロワ
である。」(4欄末行∼5欄1行目),「空気はガス入口4からガス室5に
入りガス分散板6を通って砂を流動化させ且つ原料の一部を燃焼する」(5
欄6行目∼8行目)との記載のとおり,ガス化炉の発明である甲7の発明1
も,炉内に流動化ガスとして空気を供給するという構成を前提としているも
のであることからすると,ガス化炉の技術分野においては,性質上,必ず空
気以外のガス化剤を流動化ガスとして用いていたものとまでは断定すること
はできない。そうすると,焼却炉において,「流動層炉内に流動媒体の循環
流を形成し,前記流動媒体の循環流は,質量速度が比較的小さい流動化ガス
と質量速度が比較的大きい流動化ガスを供給することにより形成され,前記
質量速度が比較的小さい流動化ガスと質量速度が比較的大きい流動化ガスは,
ともに空気であり」との構成が周知であったとき,その流動化ガスが空気で
あることを理由として,同技術をガス化炉に適用することができないものと
いうことはできず,原告の主張は,採用できない。
()以上によれば,原告主張の取消事由8は理由がない。5
9取消事由9(本件発明7についての進歩性の認定判断の誤り)について
()原告は,本件発明7で付加した「前記流動層炉へ供給される流動化ガスは,1
廃棄物の燃焼に必要な理論燃焼空気量の30%以下の空気量を含むことを特
徴とする」との構成が「本件発明の出願前に当業者には周知の技術であった
ものと認められる。」(審決謄本35頁第3段落)とするなどして本件発明
7の進歩性を否定した審決の認定判断が誤りである旨主張し,その根拠とし
て,「前記流動層炉へ供給される流動化ガスは,廃棄物の燃焼に必要な理論
燃焼空気量の30%以下の空気量を含むことを特徴とする」との構成は,廃
棄物をガス化してガスとチャーを生成し,生成したチャーをさらに微粒子と
するための空気比を規定しているものであり,審決が周知技術認定の根拠と
した文献には,いずれも流動層からガスとチャーを排出する記載はなく,こ
れの文献に記載された空気比が,廃棄物をガス化してガスとチャーを生成す
る流動層の空気比として周知であるとはいえない旨主張する。
()しかし,本件発明1におけるのと同様の理由により,本件発明7も,生成2
したチャーをさらに微粒子とするという工程を規定しているものとは認めら
れない。そして,本件発明7で付加した構成に関し,本件明細書には,「第
1表に示すように,中央流動化ガス7は,水蒸気,水蒸気と空気の混合気体,
及び空気の3種の気体の内の1つであり,周辺流動化ガス8は,酸素,酸素
と空気の混合気体,及び空気の3種の気体の内の1つである。中央流動化ガ
スの酸素含有量は,周辺流動化ガスの酸素含有量以下とされる。流動化ガス
全体の空気量が,可燃物11の燃焼に必要な理論燃焼空気量の30%以下と
され,炉内は,還元雰囲気とされる。」(段落【0026】),「図3のガ
ス化装置において,図1のガス化装置の場合と同様に,中央流動化ガス7は,
水蒸気,水蒸気と空気の混合気体,及び空気の3種の気体の内の1つであり,
周辺流動化ガス8は,酸素,酸素と空気の混合気体,及び空気の3種の気体
の内の1つである。中間流動化ガスの酸素含有量は,中央流動化ガスの酸素
含有量と周辺流動化ガスの酸素含有量の間に選定される。それ故,流動化ガ
スの好適な組合せは,第2表の15通りである。各組合せにおいて,流動層
炉の中央部から周辺部へ拡がっていくにつれて,酸素供給量が増加すること
が重要である。流動化ガス全体の空気量が,可燃物11の燃焼に必要な理論
燃焼空気量の30%以下とされ,炉内は,還元雰囲気とされる。」(段落
【0033】),「図10の装置においては,流動層炉2の燃焼が低空気比
による低温部分燃焼とされ,流動層温度が450℃∼650℃に維持される
ことにより,高熱量の可燃ガスを発生させることができる。また,低空気比
により還元雰囲気で燃焼が行われるので,不燃物中に鉄,アルミが未酸化の
有価物として得られる。流動層炉2で発生された高熱量の可燃ガス及びチャ
ーは,熔融燃焼炉41において,1300℃以上の高温燃焼することができ,
灰を熔融させ,ダイオキシンを分解させることができる。」(段落【005
0】),「(2)本発明においては,流動層炉が少量の空気で燃焼を維持で
きるので,流動層炉を低空気比低温度(450∼650℃)とし,発熱を最
小限に抑えて,ゆるやかに燃焼させることにより,可燃分を多量に含む均質
な生成ガスを得ることができ,ガス,タール,チャーの可燃分の大部分を次
段の熔融燃焼炉において利用できる。」(段落【0057】)との各記載が
ある。
これによると,本件発明7の構成により,「炉内を還元雰囲気」とするこ
とができること,それにより,鉄,アルミが未酸化の有価物として得ること
ができること,また,流動層炉が少量の空気で燃焼を維持できるから,流動
層炉を低空気比,低温度とし,発熱を最小限に抑えて,ゆるやかに燃焼させ
ることにより,可燃分を多量に含む均質な生成ガスを得ることができ,ガス,
タール,チャーの可燃分の大部分を次段の溶融燃焼炉において利用できるこ
とが認められるものの,空気比を理論燃焼空気量の30%以下とすることが,
次段の溶融炉に送るためのチャーの生成のための構成であると本件明細書に
記載されているものではない。
()原告は,審決が周知技術認定の根拠とした文献には,いずれも流動層から3
ガスとチャーを排出する記載はなく,これらの文献に記載された空気比が,
廃棄物をガス化してガスとチャーを生成する流動層の空気比として周知であ
るとはいえない旨主張するが,周知技術の認定の基礎となる文献に特許出願
に係る発明の構成が記載されている必要は必ずしもない。流動層炉における
流動層の流動化空気を理論燃焼空気量の30%以下の空気とすることが本件
出願日当時,周知技術であったとき,本件発明7は,同周知技術と空気を流
動化ガスとして用いる流動層炉という点で共通の技術分野に係るものであり,
他方,本件明細書には,本件発明7で規定される理論燃焼空気量比が,次段
の溶融炉に送るためのチャーの生成のための構成であることが記載されてい
るものではないのであるから,仮に,理論燃焼空気量比に係る周知技術認定
の根拠となった文献にチャーの排出等が記載されていなかったとしても,同
周知技術を適用できないものとは認められない。
()以上によれば,原告主張の取消事由9は理由がない。4
10取消事由10(本件発明10についての進歩性の認定判断の誤り)につい

原告は,本件発明10の進歩性を否定した審決の認定判断を争うが,その
うち,本件発明10と甲7の発明2の審決の一致点の認定の誤りをいう主張
は,取消事由1(甲7の発明1の認定の誤り),取消事由2(本件発明1と
甲7の発明1の一致点の認定の誤り,相違点の看過)の説示と同様の理由に
より,採用できず,相違点EないしGについての認定判断の誤りをいう主張
は,取消事由3ないし5(相違点AないしCについての認定判断の誤り)の
説示に照らし,採用できず,本件発明10の奏する顕著な効果の看過をいう
主張は,取消事由6(本件発明1の奏する顕著な効果の看過)についての判
示に照らし,採用できず,原告主張の取消事由10は理由がない。
11取消事由11(本件発明11についての進歩性の認定判断の誤り)につい

原告は,本件発明11の進歩性を否定した審決の認定判断を争うが,本件
発明11は,方法の発明である本件発明2に対応する装置の発明であり,取
消事由7(本件発明2についての認定判断の誤り)についての判示に照らし,
採用できない。
したがって,原告主張の取消事由11は理由がない。
12取消事由12(本件発明16についての進歩性の認定判断の誤り)につい

原告は,本件発明16の進歩性を否定した審決の認定判断を争うが,本件
発明16は,本件発明1の構成のうち「(流動層)炉内を450℃∼650
℃に維持し」との構成を「流動層温度を450℃∼650℃に維持し」とし,
「1300℃以上にて」との構成を削除したものであって,本件発明1につ
いての前記説示及び取消事由7(本件発明2についての認定判断の誤り)の
説示のとおり,流動層温度を450℃から650℃に維持することが,当業
者に周知であったことに照らし,原告主張の取消事由12は理由がない。
13取消事由13(本件発明19についての進歩性の認定判断の誤り)につい

原告は,本件発明19の進歩性を否定した審決の認定判断を争うが,相違
点I,K及びLについての認定判断の誤りをいう部分については,取消事由
3(相違点Aについての認定判断の誤り),取消事由7(本件発明2につい
ての認定判断の誤り)及び取消事由5(相違点Cについての認定判断の誤
り)についての判示に照らし,理由がない。
また,原告の主張のうち,本件発明19の効果として,本件発明1の効果
と同様の効果をいう部分については,取消事由6(本件発明1の奏する顕著
な効果の看過)の説示に照らし,理由がない。本件発明19の効果として,
有価金属を酸化しない状態で回収できることをいう部分については,これは
流動層炉内を還元雰囲気として金属が酸化しないことによるものであり,当
業者が予測し得る効果にすぎず,また,不燃物を流動媒体と共に排出し,そ
れを分別した後に流動媒体を流動層炉に戻し,流動媒体を循環使用すること
も当業者が予測し得る効果である。
したがって,原告主張の取消事由13は理由がない。
14取消事由14(本件発明3ないし9,11ないし15,17,18及び2
0についての進歩性の認定判断の誤り)について
原告は,審決が,本件発明3ないし9,11ないし15,17,18及び
20の進歩性を否定したのに対し,これらの発明は,本件発明1,10,1
6及び19を引用する発明であり,本件発明1,10,16及び19につい
ての審決の認定判断が誤りであることを理由として,本件発明3ないし9,
11ないし15,17,18及び20についての審決の進歩性の認定判断が
誤りである旨主張するが,前記のとおり,本件発明1,10,16及び19
についての審決の認定判断に誤りはない。
そうすると,原告主張の取消事由14は理由がない。
15以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取
り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判
決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官篠原勝美
裁判官宍戸充
裁判官柴田義明

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