弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人竹下義樹の上告理由について
 一 本件は、亡Dの共同相続人の一人である上告人が、他の共同相続人ないしそ
の相続人である被上告人らがDの相続財産である土地を売却して、その代金を被上
告人らのみで分配し、上告人の相続権を侵害したとして、被上告人らに対し不当利
得の返還を求め、これに対し、被上告人らが、上告人の請求は相続回復請求権の行
使であるとし、同請求権はDの死後二〇年の経過により時効消滅したと主張してい
る訴訟である。
 二 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 Dは、岐阜県大垣市a町b丁目c番の宅地(以下「従前土地」という。)を
所有していたが、右土地は、大垣市を施行者とする土地区画整理事業の対象地とな
った。
 2 Dは、昭和三〇年九月二四日に死亡した。Dの相続人は、妻F、嫡出子であ
るG及びH並びに非嫡出子である上告人、被上告人B1、同B2、I及びJであっ
た。
 Fは、昭和四七年一二月一一日に死亡した。Fの相続人は、養子である被上告人
B3である。
 3 大垣市は、昭和五一年二月二七日、土地区画整理登記令二条四号に基づき、
Dの共同相続人らに代わって、職権で従前土地につき所有権保存登記手続をしたが、
その際、共同相続人らのうち被上告人B3、同B1、同B2、G及びHだけを共有
持分権者として上告人、I及びJを脱漏し、その共有持分を、被上告人B3が九分
の三、同B1及び同B2が各九分の一、G及びHが各九分の二とした(以下「本件
登記」という。)。
 4 従前土地は、昭和五一年一〇月二七日付け換地処分により、同所d番の宅地
(以下「本件土地」という。)に換地された。その後、Gの持分(九分の二)につ
いては被上告人B4がその全部を、Hの持分(九分の二)については被上告人B5
及び同B6が九分の一ずつを各相続し、その旨の持分移転登記を了した。
 5 被上告人らは、平成三年三月一〇日、本件土地を代金五〇〇二万二〇〇〇円
でK外一名に売却し、持分全部移転登記を了し、代金を登記簿上の持分割合に応じ
て被上告人らのみで分配した。
 三 原審は、次のように判断して相続回復請求権の時効消滅を認め、上告人の請
求を棄却すべきものとした。
 1 相続財産について、共同相続人のうちの数人において自己の本来の持分を超
える部分が他の共同相続人の持分に属することを知りながら、又は当該部分につい
ても自己に相続権があると信ぜられるべき合理的な事由がないにもかかわらず、そ
の部分もまた自己の持分に属するものであると称してこれを占有管理している場合
には、侵害者である相続人は相続回復請求権の消滅時効を援用して自己に対する侵
害の排除の請求を拒むことはできない。
 2 侵害者である相続人が侵害部分が他の共同相続人の持分に属することを知っ
ていたかどうか、又は当該部分についても自己に相続持分があるものと信ぜられる
べき合理的な事由があったかどうかは、相続権侵害行為がされた時点を基準として
判断すべきである。本件においては、昭和五一年二月二七日の本件登記によって上
告人の相続権侵害が開始されたものというべきである。
 3 被上告人らが侵害部分が上告人の持分に属することを知っていたこと、又は
侵害部分についても被上告人らに相続持分があるものと信ぜられるべき合理的な事
由がなかったことを認めるに足りる証拠はない。かえって、本件においては被上告
人らにおいて積極的に侵害行為をしたものではなく、大垣市の誤った代位登記によ
り結果的に上告人の持分を侵害することとなった経緯やDに関して極めて複雑な相
続関係が生じていたことなどにかんがみると、被上告人らにはこの点に関する悪意
ないし過失はなかったものと推認される。
 四 しかしながら、原審の右三3の判断は、これを是認することができない。そ
の理由は、次のとおりである。
 1 共同相続人のうちの一人又は数人が、相続財産のうち自己の本来の相続持分
を超える部分について、当該部分の表見相続人として当該部分の真正共同相続人の
相続権を否定し、その部分もまた自己の相続持分であると主張してこれを占有管理
し、真正共同相続人の相続権を侵害している場合にも民法八八四条は適用される。
しかし、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が、他に共同相続人が
いること、ひいて相続財産のうち自己の本来の持分を超える部分が他の共同相続人
の持分に属するものであることを知りながらその部分もまた自己の持分に属するも
のであると称し、又はその部分についてもその者に相続による持分があるものと信
ぜられるべき合理的な事由があるわけではないにもかかわらずその部分もまた自己
の持分に属するものであると称し、これを占有管理している場合は、もともと相続
回復請求制度の適用が予定されている場合には当たらず、相続回復請求権の消滅時
効を援用して真正共同相続人からの侵害の排除の請求を拒むことはできない(最高
裁昭和四八年(オ)第八五四号同五三年一二月二〇日大法廷判決・民集三二巻九号
一六七四頁)。
 2 真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が他に共同相続人がいる
ことを知っていたかどうか及び本来の持分を超える部分についてもその者に相続に
よる持分があるものと信ぜられるべき合理的な事由があったかどうかは、当該相続
権侵害の開始時点を基準として判断すべきである。
 そして、【要旨】相続回復請求権の消滅時効を援用しようとする者は、真正共同
相続人の相続権を侵害している共同相続人が、右の相続権侵害の開始時点において、
他に共同相続人がいることを知らず、かつ、これを知らなかったことに合理的な事
由があったこと(以下「善意かつ合理的事由の存在」という。)を主張立証しなけ
ればならないと解すべきである。なお、このことは、真正共同相続人の相続権を侵
害している共同相続人において、相続権侵害の事実状態が現に存在することを知っ
ていたかどうか、又はこれを知らなかったことに合理的な事由があったかどうかに
かかわりないものというべきである。
 3 これを本件について見ると、次のとおりである。
 (一) 民法八八四条にいう相続権が侵害されたというためには、侵害者におい
て相続権侵害の意思があることを要せず、客観的に相続権侵害の事実状態が存在す
れば足りると解すべきであるから(最高裁昭和三七年(オ)第一二五八号同三九年
二月二七日第一小法廷判決・民集一八巻二号三八三頁参照)、本件における上告人
の相続権侵害は、大垣市が本件登記手続をしたことにより、本件登記の時に始まっ
たというべきである。
 したがって、被上告人らが相続回復請求権の消滅時効を援用するためには、Dの
相続人であり、従前地の所有名義人とされた被上告人B3、同B1、同B2、G(
被上告人B4につき)及びH(被上告人B5及び同B6につき)について、本件登
記の時点における前記の善意かつ合理的事由の存在をそれぞれ主張立証しなければ
ならない。
 (二) 原判決は、被上告人らに悪意ないし過失はなかったと判示しているが、
上告人と被上告人B1及び同B2が両親を同じくすることは証拠上明らかであり、
同B2が上告人と特に親しくしていた事実も認定されていることにかんがみると、
右判示にいう悪意ないし過失は、本件登記に上告人の相続権を侵害する部分が存す
ることについての悪意ないし過失、すなわち本件登記が存在することを知っていた
こと、又は本件登記の存在を知らなかったことに合理的な事由がなかったことをい
うものと解され、前記の善意かつ合理的事由の存在について正当に認定判断してい
るものとは認められない(原判決は、被上告人B1及び同B2については、同被上
告人らが本件登記が存在することを知っていたかどうか、又は本件登記の存在を知
らなかったことに合理的な事由があったかどうかのみを判断して、右の善意かつ合
理的事由の存在について認定判断をしておらず、被上告人B3については、信義則
違反の主張に対する判示部分において、同被上告人が本件登記の存在を知らなかっ
たこと及び上告人の身分関係について正確に分からなかったことを認定しているも
のの、同被上告人が他の共同相続人である上告人の存在を知らなかったことについ
ての合理的事由の存在を認定判断していない。)。また、被上告人B4、同B5及
び同B6については、その被相続人であるG、Hについて右の善意かつ合理的事由
の存在を認定判断すべきであるのに、原判決は、これについて何ら認定判断をして
いない。
 (三) そうすると、被上告人らによる消滅時効の援用を認めた原審の判断は、
民法八八四条の解釈適用を誤ったものというべきであり、その違法は原判決の結論
に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、
原判決中上告人敗訴部分は、破棄を免れない。そして、被上告人らが相続回復請求
権の消滅時効の援用をするための要件の存否について更に審理判断させるため、右
部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井
正雄 裁判官 大出峻郎)

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