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平成12年(行ケ)第431号 特許取消決定取消請求事件
平成14年10月1日口頭弁論終結
判         決
原      告     ソニー株式会社
訴訟代理人弁理士     松 隈 秀 盛
同            角 田 芳 末
被      告     特許庁長官太田信一郎
指定代理人   藤 内 光 武
同            橋 本 恵 一
同            小 林 信 雄
同            大 橋 良 三
主         文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が平成11年異議第74945事件について平成12年9月26日に
した特許取消決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「カメラ一体型ビデオレコーダ」とする特許第291
3704号の特許(平成1年10月31日特許出願(以下「本件出願」とい
う。),平成11年4月16日特許権設定登録。以下「本件特許」といい,その発
明を「本件発明」という。)の特許権者である。
本件特許について,特許異議の申立てがなされ,特許庁は,これを平成11
年異議第74945号事件として審理し,その結果,平成12年9月26日に,
「特許第2913704号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定をし,同
年10月16日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲(請求項1。本件特許に係る特許請求の範囲は,請求項1以
外には存在しない。)
「撮像ビデオ信号を生成するカメラ部と該撮像ビデオ信号を記録媒体に記録す
る記録部とを備えたビデオカメラ装置において,
上記カメラ部は,
撮像素子からの撮像アナログ信号をデジタル信号に変換するアナログ-デジ
タル変換手段と,
上記アナログ-デジタル変換手段からのデジタル信号から,デジタル輝度
信号及びデジタル色差信号から構成されるデジタルコンポーネント信号を生成する
デジタル信号処理手段と,
を備え,
上記記録部は,
上記カメラ部から出力された上記デジタルコンポーネント信号を受け取り,
該デジタルコンポーネント信号を上記記録媒体に記録できるようにデジタル的に処
理するデジタル信号処理手段と,
上記記録部のデジタル信号処理手段から出力された上記輝度信号及び色差
信号から構成されたコンポーネント信号で記録媒体に記録する記録手段とを備えた
ことを特徴とするビデオカメラ装置。」
3 決定の理由の要点
別紙決定書の写し記載のとおり,本件発明は,特開平1-220593号公
報(審判甲第1号証,本訴甲第3号証。以下「刊行物1」という。)記載の発明
(以下「刊行物1発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることがで
きたものであるから,本件特許は特許法29条2項に違反してなされたものであ
る,と認定判断した。
第3 原告主張の決定取消事由の要点
決定の理由中,(1)手続の経緯,(2)訂正の適否は認める。(3)特許
異議申立についての判断のうち,決定書2頁12行の「しかも,」から19行の
「決定する。」までは争い,その余は認める。
決定は,本件発明と刊行物1発明との相違点を看過し(取消事由1),「刊
行物1記載のデジタル信号の形で圧縮という信号処理を行う技術思想がビデオカメ
ラ装置にも適用可能であることは,当業者には自明の事項である」(決定書2頁1
2行~14行)との誤った判断をした結果,相違点についての判断を誤ったもので
あり(取消事由2),これらの誤りがそれぞれ結論に影響を及ぼすことは明らかで
あるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点の看過)
(1) 本件発明は,「カメラ部」と「記録部」とから成るビデオカメラ装置であ
り,アナログ-デジタル変換手段とデジタルコンポーネント信号を生成するデジタ
ル信号処理手段を備えた「カメラ部」と,上記デジタルコンポーネント信号を記録
媒体に記録できるようにデジタル的に処理するデジタル信号処理手段と該デジタル
信号処理手段の出力を記録媒体に記録する記録手段とを備えた「記録部」とに分か
れている。
これに対し,刊行物1発明のディジタル電子スチルカメラは,刊行物1の
第1図(別紙図面参照)に図示されているとおり,カメラ部と記録部とが一体とし
て構成されたもの,である。すなわち,刊行物1発明のディジタル電子スチルカメ
ラは,制御回路24によって全体が制御されるものであり,刊行物1の第1図の信
号処理回路40と帯域圧縮回路80との間で2つに分けてカメラ部と記録部とに分
離して考える必要は全くない。刊行物1発明は,カメラ部と記録部とを分けるとい
う技術思想を開示も示唆もしていない。
「一体」という用語が,カメラ部と記録部とが物理的に一つに結合してい
るということを意味するのであれば,本件発明のビデオカメラ装置も,「一体」と
して構成されているということになる。しかし,原告のいう「一体」とは,機能的
にみて統合的に動作すること意味する。刊行物1発明ではカメラ部と記録部とが機
能的に統合的に制御されて動作する。これに対し,本件発明ではカメラ部と記録部
とが別々に独立して動作する。このことは,本件発明を特定する特許請求の範囲に
おいて「カメラ部」と「記録部」とが分かれていることが明記され,両者が概念的
に分けて考えられていることから明らかであり,そうでなくとも,願書に添付した
明細書及び図面(以下「本件明細書」という。)の記載から明らかである。
(2) 刊行物1発明のディジタル電子スチルカメラは,主として静止画を扱うも
のであるから,メモリの容量も比較的小さい(半導体メモリ等が使われる。)。こ
れに対し,本件発明のビデオカメラは,動画を扱うため記録容量も大きくする必要
がある(磁気テープ等が使われる。)。このように,刊行物1発明のディジタル電
子スチルカメラと本件発明のビデオカメラとは,記録手段及びその駆動方法におい
て相違する。
(3) 決定は,本件発明と刊行物1発明の上記各相違点を看過したものであり,
これが結論に影響を及ぼすことは明らかである。
2 取消事由2(相違点判断の誤り)
決定は,本件発明がビデオカメラ装置であるのに対し,刊行物1発明はデジ
タル電子スチルカメラであるとの,両発明の相違点につき,「刊行物1記載のデジ
タル信号の形で圧縮という信号処理を行う技術思想がビデオカメラ装置にも適用可
能であることは,当業者には自明の事項である」(決定書2頁12行~14行)と
認定判断した。しかし,この認定判断は誤りである。
刊行物1には,「デジタル信号の形で圧縮という信号処理を行う」ことは開
示されているものの,これを「ビデオカメラ装置」に適用することが可能であるこ
とは,開示も示唆もされておらず,このような転用が当業者に自明であるというわ
けでもない。
被告は,特開昭63-117594号公報(甲第4号証。決定が,ビデオカ
メラ装置が周知であることを示す例として挙げているもの。以下「甲第4号証刊行
物」という。)を挙げて,ビデオカメラ装置に関し,輝度信号と色差信号とをそれ
ぞれ別々に記録再生するようにしたものが周知であったと主張し,このことから,
刊行物1発明の信号処理技術をビデオカメラ装置に適用することは容易であった,
と主張する。しかし,「輝度信号と色差信号を別々に記録再生する」ことは,「コ
ンポーネント信号の形で記録再生すること」とは関係するものの,「デジタル信号
の形で信号処理する」ことを示してはいない。
本件発明は,「デジタル信号の形で圧縮という信号処理を行う」ことに要点
があるのではなく,「信号をカメラ部からデジタルの形で取り出し,記録部でデジ
タルの形でその信号を受け取ってデジタル信号処理を行う」ことに要点があるので
ある(本件発明を特定する特許請求の範囲には,「圧縮」の語の記載はない。)。
刊行物1発明が,「デジタル信号の形で圧縮という信号処理を行う」もので
あるとしても,同刊行物から,ビデオカメラ装置において「カメラ部から記録部へ
の信号の受け渡しがデジタル信号で行われる」ことに想到することが,容易である
とすることはできない。
決定は,相違点の判断を誤っている。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(相違点の看過)について
(1) 本件発明を特定する特許請求の範囲には「撮像ビデオ信号を生成するカメ
ラ部」と「該撮像ビデオ信号を記録媒体に記録する記録部」とが,一体であるか,
一体でないかを特定する構成は記載されていない。したがって,本件発明は,「撮
像ビデオ信号を生成するカメラ部」と「該撮像ビデオ信号を記録媒体に記録する記
録部」が一体として構成されたものも含むものであるから,刊行物1発明がカメラ
部と記録部とが一体として構成されているものであるとしても,この点において,
本件発明と刊行物1発明との間に相違はない。
原告は,刊行物1発明は,カメラ部と記録部とを分けるという技術思想を
示唆していない,と主張する。原告がここで主張する「分けるという技術思想」の
意味は明確でない。しかし,いずれにせよ,刊行物1発明は,本件発明の「撮像ビ
デオ信号を生成するカメラ部」と「該撮像ビデオ信号を記録媒体に記録する記録
部」とを備えており,この点において,本件発明との間に相違するところはない。
(2) 原告は,刊行物1発明のディジタル電子スチルカメラは,主として静止画
を扱うものであるため,メモリの容量が小さく,半導体メモリ等が使われるのに対
し,本件発明のビデオカメラは,動画を扱うため記録容量も大きくする必要があ
り,磁気テープ等が使われるので,両者は,記録手段及びその駆動方法において相
違する,と主張する。
しかし,本件発明を特定する特許請求の範囲には,単に「記録媒体」と記
載されているだけであり,本件発明の「記録媒体」に半導体メモリ等も磁気テープ
等も含まれることは,明らかである。
(3) 以上のとおりであるから,決定に原告主張の相違点の看過はない。
2 取消事由2(相違点判断の誤り)について
原告は,刊行物1には,「デジタル信号の形で圧縮という信号処理を行う」
ことは開示されているものの,ビデオカメラ装置にこの信号処理を行うことを適用
することが可能であることは,開示も示唆もされておらず,このような転用は当業
者にとって容易なことではない,と主張する。
しかし,甲第4号証刊行物には,従来の技術として「VTR付TVカメラと
して,輝度信号と色差信号とを夫々別々に記録再生するようにしたものが知られて
いる。」(1頁右欄8行~10行)との記載がある。本件発明は「撮像部と記録部
が一体化されたカメラ一体型VTR等に用いて好適なビデオカメラ装置に関す
る。」(甲第2号証1頁2欄9行~10行)ものであり,カメラ一体型VTRと甲
第4号証刊行物に記載されたVTR付TVカメラは同様なものであるから,本件特
許出願前において,本件発明のビデオカメラ装置の好適例であるカメラ一体型VT
Rについて,輝度信号と色差信号とをそれぞれ別々に記録再生するようにしたもの
は周知であった。刊行物1発明も,輝度信号と色差信号とをそれぞれ別々に記録す
るものであるから,刊行物発明を本件発明の好適例である周知のVTR付TVカメ
ラに適用することは,当業者にとって格別困難なことではない。
原告は,本件発明はデジタル信号の形で圧縮という信号処理を行うこと自体
に骨子があるのではなく,信号をカメラ部からデジタルの形で取り出し,記録部で
デジタルの形でその信号を受け取ってデジタル信号処理を行うことに骨子がある,
と主張する。しかし,刊行物1発明も,信号をカメラ部からデジタルの形で取り出
し,記録部でデジタルの形でその信号を受け取ってデジタル信号処理を行うもので
あるから,原告の上記主張は,失当である。
原告は,「圧縮」は特許請求の範囲に記載されていない,と主張する。しか
し,本件発明の「デジタル信号処理手段」は,刊行物1発明の「帯域圧縮回路」を
含むものであるから,原告の主張は,失当である。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について
(1) 原告は,本件発明では,カメラ部と記録部とが分けられているのに対し,
刊行物1発明では,カメラ部と記録部とが一体として構成されている点で相違す
る,と主張する。
刊行物1発明の「撮像デバイス22」,「ADC36」,「輝度信号Y及
び色差信号R-Y,B-Y」,「信号処理回路40」が,本件発明の「撮像素
子」,「撮像素子からの撮像アナログ信号をデジタル信号に変換するアナログ-デ
ジタル変換手段」,「デジタル輝度信号及びデジタル色差信号から構成されてるデ
ジタルコンポーネント信号」,「上記アナログ-デジタル変換手段からのデジタル
信号から,デジタル輝度信号及びデジタル色差信号から構成されるデジタルコンポ
ーネント信号を生成するデジタル信号処理手段」にそれぞれ相当し,刊行物1発明
の上記の各部分を合わせたものが,本件発明の「カメラ部」に相当することは,当
事者間に争いがない。
刊行物1発明の「帯域圧縮回路80」,「制御回路24及びメモリ90」
が,本件発明の「上記カメラ部から出力された上記デジタルコンポーネント信号を
受け取り,該デジタルコンポーネント信号を上記記録媒体に記録できるようにデジ
タル的に処理するデジタル信号処理手段」,「上記記録部のデジタル信号処理手段
から出力された上記輝度信号及び色差信号から構成されたコンポーネント信号で記
録媒体に記録する記録手段」にそれぞれ相当し,刊行物1発明の上記の各部分を合
わせたものが,本件発明の「記録部」に相当することも,当事者間に争いがない。
このように,刊行物1発明においても,本件発明の「カメラ部」に相当す
る部分及び本件発明の「記録部」に相当する部分を,それぞれ概念的に区別して認
識することができることは明らかである。
原告は,刊行物1発明においては,本件発明におけるのとは異なって,
「カメラ部」と「記録部」とが「一体」となっている,と主張する。この主張の当
否を検討するに当たっては,まず,そこにいう「一体」とは何を意味するものなの
か,が問題である。
「カメラ部」と「記録部」とが物理的に一つに結合しているかどうかとい
う観点からは,本件発明も刊行物1発明も「カメラ部」と「記録部」とが物理的に
一つに結合しており,この点において両発明間に相違はないから,上記「一体」と
は物理的に一つに結合していることを意味するものではないことは,明らかであ
り,これは,原告も自認するところである。
原告は,「一体」とは,機能的にみて統合的に動作することをいう,と主
張する。原告のいう「機能的にみて統合的に動作することをいう」との主張の趣旨
は必ずしも明確でない。しかし,原告の,刊行物1発明のディジタル電子スチルカ
メラは,制御回路24によって全体が制御されるものであり,刊行物1の第1図の
信号処理回路40と帯域圧縮回路80との間で2つに分けてカメラ部と記録部とに
分離して考える必要は全くない,との主張からみて,「カメラ部」と「記録部」と
が同じ制御回路によって制御されることを,「一体」と表現しているものと理解す
ることができる。
しかしながら,本件発明のビデオカメラ装置が制御手段(回路)を有する
ことは自明のことであり,この制御手段(回路)については,本件発明の特許請求
の範囲において,何ら限定がなされていないことは明らかであるから,制御手段
(回路)の構成は,本件発明と刊行物1発明との相違点となり得ないというべきで
ある。
原告は,本件発明の特許請求の範囲においては,「カメラ部」と「記録
部」とが分かれていることが明記され,カメラ部と記録部とを概念的に分けるとい
う技術思想が示唆されている点において,刊行物1発明と相違する,と主張する。
しかしながら,刊行物1発明においても,本件発明の「カメラ部」に相当する部分
及び本件発明の「記録部」に相当する部分を,それぞれ概念的に区別して認識する
ことができることは前記のとおりである。原告の主張は,単に,同じ事項を表すの
に,本件発明においては,刊行物1発明では用いられていないカメラ部と記録部と
いう用語を用いている,と言っているだけのことであり,このようなことが,技術
思想と呼べるようなものでないことは明らかである。また仮に,これを技術思想と
呼ぶことが許されるとしても,本件発明にそのような技術思想があり,刊行物1発
明にそれがないことが,両発明の構成の相違に結合していないことは前述したとこ
ろから明らかであるから,これをもって両発明の相違点とすることはできないので
ある。
原告の主張は,いずれも採用することができない。
(2) 原告は,刊行物1発明のディジタル電子スチルカメラは,主として静止画
を扱うものであるから,メモリの容量も比較的小さい(半導体メモリ等が使われ
る。)のに対し,本件発明のビデオカメラは動画を扱うため記録容量も大きくする
(磁気テープ等が使われる。)必要があるので,刊行物1発明のディジタル電子ス
チルカメラと本件発明のビデオカメラとは,記録手段及びその駆動方法が相違す
る,と主張する。
しかし,本件発明の特許請求の範囲においては,記録手段として,「記録
媒体」と記載されているにすぎない。「記録媒体」の語は,一般的に,半導体メモ
リ及び磁気テープを含む広い概念であることは,当業者でない者においても明らか
なことであり,半導体メモリを本件発明のビデオカメラの記録手段として用いるこ
とが困難であることが自明であるといった特段の事情を認めることもできないか
ら,本件発明における「記録媒体」の語は,上記のとおり一般的な意味のものとし
て理解するべきである。したがって,記録手段において,本件発明と刊行物1発明
とは相違しないというべきである。
原告の主張は採用することができない。
(3) 以上のとおりであるから,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点判断の誤り)について
(1) 決定は,本件発明と刊行物1発明との相違点(「本件発明はビデオカメラ
装置であるのに対して,刊行物1記載の発明ではデジタル電子スチルカメラである
点で相違する」(決定書2頁8行~10行)こと)について,「ビデオカメラ装置
は周知のものであり(特許異議申立人鈴木徹の提出した参考資料1(特開昭63-
117594号公報)(判決注・甲第4号証刊行物)を参照),しかも,刊行物1
記載のデジタル信号の形で圧縮という信号処理を行う技術思想がビデオカメラ装置
にも適用可能であることは,当業者には自明のことであるから,本件発明は,刊行
物1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」
(決定書2頁10行~15行)と判断した。
(2) 原告は,刊行物1発明は,「デジタル信号の形で圧縮という信号処理を行
う」ことは開示しているものの,これによって,デジタル信号の形で圧縮という信
号処理を行うことを「ビデオカメラ装置に」適用することが可能であることを示唆
してはおらず,また,このような転用をすることが,当業者に自明であるわけでも
ない,と主張する。
決定は,上記のとおり,本件発明がビデオカメラ装置であるのに対し,刊
行物1発明がデジタル電子スチルカメラであるという相違点について,刊行物1発
明のデジタル電子スチルカメラを,周知のビデオカメラ装置に置き換えることが容
易である,としたものである。
刊行物1中には,同刊行物記載の信号処理の技術をビデオカメラ装置に適
用することを直接述べる記載も,これを示唆する記載は見当たらないことは,原告
主張のとおりである(甲第3号証)。しかしながら,原告の主張は,刊行物1発明
における信号処理の技術をビデオカメラ装置に適用することが刊行物1に開示又は
示唆されている場合には,上記の置換えが容易である,という限りにおいては正し
いものの,同刊行物中に上記開示又は示唆がなければ,上記の置換えが容易とされ
ることはおよそありえない,という趣旨であれば,誤りである。主たる引用例自体
に,相違点に係る構成に関して,その克服が容易であることを根拠付ける記載がな
くとも,他の引用例あるいは周知事項から,相違点に係る構成が容易であるとされ
ることが少なくないことは,当裁判所に顕著な事実だからである。
原告は,刊行物1発明の,デジタル信号の形で圧縮という信号処理を行う
技術思想をビデオカメラ装置にも適用することが可能であることは,当業者に自明
の事項ではない,と主張する。
しかしながら,もともと,一般的にみても,デジタル電子スチルカメラと
ビデオカメラ装置とが,技術的に共通するところを多く有し,技術的に近い関係に
あることは論ずるまでもないところである。かえって,甲第4号証刊行物(特開昭
63-117594号公報。昭和61年11月5日出願)には,従来技術として,
「VTR付きTVカメラとして,輝度信号と色差信号とを夫々別々に記録再生する
ようにしたものが知られている。」(甲第4号証1頁右欄8行~10行)と記載さ
れており,ここにいう「VTR付きTVカメラ」は,本件発明の「ビデオカメラ装
置」に相当するものと認められるから(本件特許に係る明細書には,「本発明は撮
像部と記録部が一体化されたカメラ一体型VTR等に用いて好適なビデオカメラ装
置に関する」(甲第2号証1頁2欄)との記載があることが認められ,ここにいう
カメラ一体型VTRと甲第4号証刊行物に従来技術として挙げられたVTR付きT
Vカメラとは,同様の装置であることは,その用語自体から明らかである。),本
件出願時において,ビデオカメラ装置で色差信号と輝度信号とをそれぞれ別々に記
録再生するものは周知であった,と認めることができる。刊行物1発明も,輝度信
号と色差信号とをそれぞれ別々に記録するものであることは前記1(1)で述べたとお
りであるから,刊行物1発明の電子スチルカメラと周知のビデオカメラ装置とは,
具体的なこの点においても共通性を有することが明らかである。このように,刊行
物1発明の電子スチルカメラと周知のビデオカメラ装置とは,技術分野において共
通点を有する。刊行物1発明の信号処理の技術を上記周知のビデオカメラ装置に適
用することは,他にこれを妨げる特段の事情のない限り,容易であるというべきで
ある。
原告は,「輝度信号と色差信号を別々に記録再生する」ことは,「コンポ
ーネント信号の形で記録再生すること」とは関係するものの「デジタル信号の形で
信号処理する」ことを示していない,と主張する。しかしながら,本件において
は,デジタル信号の形で信号処理すること自体は刊行物1に示されており,問題と
なるのは,刊行物1のデジタル電子スチルカメラをビデオカメラ装置に置き換える
ことが容易であるか,なのであるから,デジタル信号の形で信号処理することが周
知であるか否かの点は,上記想到容易性の判断を左右するに足りるものではない。
他に,本件において,上記特段の事情を認めに足りる主張,立証はない。
決定が,刊行物1発明のデジタル信号の形で圧縮という信号処理を行う技
術思想をビデオカメラ装置にも適用することが可能であることは,当業者に自明の
事項である,としたのは上記の趣旨を述べたものであると解することができる。決
定の上記判断に誤りがあるとすることはできない。
原告は,本件発明は,「デジタル信号の形で圧縮という信号処理を行う」
ことに要点があるのではなく,「信号をカメラ部からデジタルの形で取り出し,記
録部でデジタルの形でその信号を受け取ってデジタル信号処理を行う」ことに要点
がある(本件発明の特許請求の範囲には,「圧縮」の記載はない。)のに対し,刊
行物1発明は,単に「デジタル信号の形で圧縮という信号処理を行う」ことが公知
であることを示すにとどまるから,同刊行物から,ビデオカメラ装置において「カ
メラ部から記録部への信号の受け渡しがデジタル信号で行われる」構成に想到する
ことは,容易又は自明であるとはいえない,と主張する。
しかしながら,刊行物1発明も,「信号をカメラ部からデジタルの形で取
り出し,記録部でデジタルの形でその信号を受け取ってデジタル信号処理を行う」
ものであること,刊行物1発明の「帯域圧縮回路」は本件発明の特許請求の範囲中
の「デジタル信号処理手段」に含まれることは,前記1(1)で述べたところから明ら
かである。原告の主張は,失当である。
取消事由2も理由がない。
第6 以上のとおりであるから,原告主張の決定取消事由はいずれも理由がなく,
その他決定には,これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。よって,本訴請求を棄
却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を
適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官  山  下  和  明
裁判官  設  樂  隆  一
裁判官  阿  部  正  幸
 
別紙として,甲第3号証の第1図を添付

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