弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金一五、〇〇〇円に処する。
     右罰金を完納することができないときは、金一、五〇〇円を一日に換算
した期間被告人を労役場に留置する。
     原審および当審における訴訟費用は、全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、東京高等検察庁検察官検事鈴木信男が差し出した東京地方検
察庁検察官検事伊藤栄樹作成名義の控訴趣意書に記載してあるとおりであるから、
これを引用し、これに対して当裁判所は、次のように判断する。
 控訴趣意第一点(訴訟手続の法令違反ないし事実誤認の主張)について
 所論は、原判決が、被告人に対する本件酒酔い運転の公訴事実につき、警察官に
よつて採取された被告人の本件尿は、被告人に対し偽計を用いこれを錯誤に陥し入
れて採取したと同様のものであり、かつ尿中のアルコール度を検査する真意を告知
すれば被告人がこれに応じないことが推認される場合であるのに、令状なくして採
取したことは、憲法三五条、刑訴法二二二条(原判決は二一三条と記載している
が、これは明らかな誤記と認められる。)、二二五条または二一八条等の定める令
状主義の原則を潜脱し、憲法三一条、刑訴法一条の要求する適正手続にも違反する
ものであるから、右尿は事実認定の証拠としては使用できないものであり、右尿中
に含有するアルコールの程度の鑑定結果を記載した鑑定書も、右尿と同じく事実認
定の証拠とはなしえないものと判断し、結局被告人が酒に酔いまたは酒気を帯び
て、身体に呼気一リットルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを保有する
状態にあった事実が認められないとして、無罪の言渡しをしたのは、憲法、刑訴法
の解釈を誤って採証演則に関する訴訟手続の法令違反をおかし、ひいては事実を誤
認したものであつて、これが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、破棄を
免れないと主張する。
 そこでまず、本件において問題となる尿の採取及び鑑定の各過程について検討す
るに、原審証人A、同B、同C、同Dの各供述、当審証人E、同Bの各供述、D作
成の鑑定書二通、司法警察員作成の鑑定嘱託書謄本、当審において取調べた被疑者
留置規則実施要綱(昭和四二年五月二五日通達甲三号)謄本、警視庁刑事部刑事管
理課長作成の「玉川警察署被疑者留置運営内規の報告受理について」と題する書
面、警視庁玉川警察署長作成の「玉川警察署被疑者留置運営内規の送付について」
と題する書面、「玉川警察署被疑者留置運営内規の制定について」と題する書面
(右内規を含む)謄本を総合すれば、次の事実が認められる。即ち、被告人は、昭
和四七年九月一九日午前〇時四四分ごろ、東京都世田谷区ab丁目c番d号付近道
路上において、酒酔い運転の現行犯人として警察官に逮捕されたものであるとこ
ろ、酒酔いの事実を否認し、呼気検査に応ぜず、玉川警察署に連行されてからも右
検査を拒否していたが、同日午前二時五分ごろ同署留置場に入監させられたこと、
当時玉川警察署留置場における夜間の留置人の処遇は、被疑者留置規則(昭和三二
年国家公安委員会規則四号)、前記被疑者留置規則実施要綱および玉川警察署被疑
者留置運営内規に則って行われていたが、留置人の夜間の用便に際しての処置につ
いて、右要綱第三、看守の項の「13看守者の遵守事項」中の(15)には、「夜
間、留置人が不時に疾病、用便等を訴えたときの留置人の出房は、必ず幹部の指揮
を受け、他の看守者立会いのうえ措置しなければならない。」と規定されており、
また右内規二一条には、「看守者は夜間宿直体制に入つてからの留置人の起床、就
寝、用便、急病等に際し、必ず宿直幹部の立会いを求めてこれらを行う」べき旨定
められていたこと、なお同署留置場の房内には便所が設けられていなかったこと、
当夜同署留置場において看守勤務についていたB巡査は、被告人の入房に先立ち身
体検査をした際、入房後不時に被告人から用便の申出があると宿直幹部の立会が必
要となるので、入房前に用便をさせておくのがよいと考え、被告人に対し「トイレ
に行くか」と尋ねたものの、被告人が「行きたくない」と答えたので、午前二時二
〇分ごろ同人を入房させたところ、ほどなく被告人から用便の申立があったので、
前記諸規定に則り宿直幹部の立会を求めるため、留置場備付けのインターホンで宿
直事務室に連絡をしたが、応答がなくその立会が得られなかつたため、被告人に房
内で用便をさせようと考え、以前留置人が病気のときに使用したおまる様の便器が
たまたま留置場横の物入れに保管されていたので、その便器を出して被告人に渡
し、立会幹部が来られないからこの便器の中に尿をしてくれと告げたところ、被告
人は午前二時三〇分ころ房内において右便器内に排尿し、排尿した右便器をBに引
き渡したこと、当夜内勤宿直主任(宿直幹部)として勤務していた警察官Eは、前
記のように玉川署に連行されて来た被告人の取調べに当り、これを終えて午前二時
二〇分ごろ事務室に戻つた際、警視庁から神田警察署管内の派出所に爆弾が投入さ
れたので庁舎等を警戒するようにとの緊急電話指令が入つていたことを知り、これ
に基づき警察署庁舎および付属施設周辺の警備を実施すべく、直ちに宿直警察官を
指揮して庁舎周辺等を巡視点検させ、自らもその巡視に出て午前二時四〇分ころ事
務室に戻ったなどの事情があつたため、同人をはじめ他の宿直幹部はいずれもBの
前記インターホンによる連絡を知らず、被告人の用便の立会に行けなかつた状況に
あったこと、前記B巡査は、被告人を入監させる際、交通係のF巡査より、被告人
が酒酔い運転の容疑で逮捕され入監する者でアルコール度の検知が未了であること
を告げられ、被告人から用便の訴えがあつたときは小便をとつておいてくれとの依
頼を受けていたので、被告人の排泄する尿がアルコール度を検定する資料に用いら
れることはその予想するところであつたが、前記のように被告人が用便を訴えた際
には、右のことには触れず、前記のとおりのことのみを申し向けて便器を差し入れ
たこと、そして同巡査は、F巡査より前記の依頼を受けていたため、被告人から受
け取つた右便器内の尿を便所に流すことをせず、便器はふたをして看守室に置き保
存したこと、そして同日午前五時ころ宿直事務室に尿をとつてあるから取りに来る
ようにと連絡したところ、同署交通係のC巡査が牛乳の空瓶を持つて留置場に来
て、便器内にあつた尿の全量を右牛乳瓶に移し入れ、その口をビニ―ル製の袋で塞
ぎ輪ゴムでとめて持帰り、同日午前九時三〇分ころ前記F巡査とともに右牛乳瓶入
り尿及び鑑定嘱託書を携行して玉川警察署を出発し、警視庁科学検査所に行つて係
官にこれを渡し鑑定を依頼したこと、同検査所第二化学科主事D作成の昭和四七年
九月二八日付鑑定書は右牛乳瓶入り尿(容量約五〇ミリリツトル)を資料としてし
た鑑定結果を記載したものであること、その他被告人は、現行犯逮捕された現場で
警察官がうがい用に差し出した水筒の水を飲み干したほか、玉川警察署に到着後調
室内洗面所において湯のみ茶碗に四杯の水を飲み、その後取調を受けている途中に
捜査係の室にある便所に排尿に行き、これを終ってのち水道の蛇口に口をつけて若
干の水を飲んだこと、以上の各事実を認めることができる。被告人は、原審並びに
当審公判においてB巡査から便器を差し入れられたことは記憶にあるが、その中に
排尿をした記憶はないと供述し、弁護人は、入監前に大量に水を飲んだ被告人の排
尿の量がわずかに五〇ミリリツトルであることはあり得ないことであり、被告人の
供述をも総合して考えれば、本件において鑑定の資料とされた尿が被告人の尿であ
るということはすこぶる疑わしいというが、被告人の原審並びに当審におけるこの
点に関する各供述は、その他の証拠と対比して到底信用できないものであり、入監
前に相当量の水を飲んだ事実があつても、前記のとおり入監前に一度捜査係の室の
便所において相当量の排尿をしたことが認められる本件の場合においては、入監後
二五分位を経過した時点における排尿の量が五〇ミリリツトルであつても、異とす
るには足りないと考えられるのであるから、弁護人の所論は容れることができな
い。弁護人は、また、F巡査からの依頼により被告人の尿を保存することを予定し
ていたそのB巡査が被告人の用便に際し宿直幹部の立会を求めたということは、あ
り得ないことである旨、及び、そもそも前記被疑者留置規則実施要綱及び玉川警察
署被疑者留置内規中の留置人の夜間の用便に関する規定は、いずれも、刑訴法に根
拠を有しない違法な規定であるのみならず、憲法の保障する基本的人権、特に生理
に関する自由を侵害するものである旨論ずるが、右要綱及び内規は、国家公安委員
会が警察法五条一、二項、同法施行令一三条に基づき逮捕された被疑者の留置を適
正に行うため必要とする事項を定めた昭和三二年国家公安委員会規則四号、被疑者
留置規則等に根拠を有するものであつて、それらの中の夜間の用便等につき宿直幹
部の指示を受けることまたはその立会を要する旨の定めは、事故防止の見地からす
るそれなりの合理的理由のある規定であつて、疾病等でやむを得ない者については
房内で便器を使用させることができる旨の規定(要綱13の(16))があること
に徴すれば、本件のように宿直幹部の立会が得られない場合に応急措置として房内
において便器を使用することを禁ずる趣旨のものとも解せられないのであるから、
その規定自体は、人の生理の自由を特別に侵害するものとはいえず、これを違法、
違憲とする理由はない。
 またB巡査は、留置人の夜間の用便については宿直幹部の立会を要する定めにな
つているため、一応形式的に宿直事務室に連絡を取つたとみられるのであつて、F
巡査よりあらかじめ被告人の尿を採取保存することを依頼せられていたにかかわら
ず、宿直事務室に連絡したことを架空の全くの虚構のことであるといわなければな
らない理由はないのであるから、叙上の点に関する弁護人の所論もまた容れること
はできない。
 そこで、以上の事実関係を前提として、本件尿の採取行為の適法性及びD鑑定書
の証拠能力の有無について考えてみるに、被告人が現行犯逮捕の現場においても、
玉川警察署に連行されたのちにおいてもその呼気検査を拒否し続けていたことは前
段認定のとおりであるが、前段認定のとおりの尿の採取経過によつてみれば、本件
尿の採取は、酒酔い運転の罪の容疑によつて身柄を拘束されていた被告人が、自然
的生理現象として尿意をもよおした結果、自ら排尿の申出をしたうえ、看守係巡査
が房内に差し入れた便器内に任意に排尿し、これを任意に右巡査に引渡したことに
帰するものであつて、この採取行為を違法というべき理由を発見することはできな
い。原判決は、立会の幹部が来られないというのは単なる口実であるといい、本件
尿は、偽計を用い被告人を錯誤に陥し入れて採取したのと同様であるとするが、立
会の幹部が来られないということが単なる口実ではなかつたことは、前段認定のと
おりであるばかりでなく、被告人が尿意をもよおして排尿を申し出て排尿した尿で
あることは、右のことの如何にかかわらず動かし難い事実である。もつとも、看守
係のB巡査が、被告人の尿がその中に含まれているアルコール度検出のための資料
とされることを知りながら、そのことを告げないで便器を差し入れたことは前段認
定のとおりであり、原判決も、被告人の原審公判廷における供述を根拠として、
「被告人は自己の尿中にあるアルコールの程度を検査する意図であることを知った
ならば、尿の排泄を断念するか、あるいは排泄した尿を任意に捜査官に引き渡さな
かつたものと推認できる」とし、右の点においても被告人を錯誤に陥し入れたこと
になるものとしていると解せられるが、本件被告人のように、酒酔い運転の罪の容
疑によつて身柄を拘束されている被疑者が自然的生理現象の結果として自ら排尿の
申出をして排泄した尿を採取するような場合、法律上いわゆる黙秘権が保障されて
いる被疑者本人の供述を求める場合とは異なり、右尿をアルコール度検査の資料と
することを被疑者に告知してその同意を求める義務が捜査官にあるとは解せられな
いのであるから、右のことを告知して同意を求めなかつたことをもつてその採取行
為を違法とする理由の一とすることはに賛同できない。特に本件被告人の場合は、
容疑事実を否認していたことは別としても、呼気検査を拒否したばかりか、逮捕後
大量の水を飲み体内のアルコール度の稀薄化を意図していたと認められるのである
から、尚更である。
 弁護人は、本件の場合、被告人は、その尿が便所に捨でられると思つていたから
便器に排尿したもので、これを検査に使用するといえば当然に反対することが予想
された場合であるから、便所に捨てるというような道徳上または常識上承認される
処置を完了するまでは、被告人が排泄した尿は、排泄着たる被告人の占有に属した
物であり、これについて適法な法的手続をとらず、勝手に検査の用に供した措置は
違法であると論ずるが、各人がその自宅の便所以外の場所において日常排泄する尿
の如きものは、特段の意思表示のない以上は、排泄の瞬間にこれに対する権利を放
棄する意思をもつて排泄するというのが社会常識上も首肯できる解釈であり、被告
人の場合もその例外ではなかつたと認むべきてあるから、排泄後の占有が依然とし
て被告人にあつたことを前提とする所論は、採ることができない。
 これを現行刑訴法上の立場から考えても、理論的には、裁判官の発する鑑定処分
許可状・差押令状を得てこれを採取することその他の方法が考えられないではない
としても、刑訴法二一八条二項が「身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは
足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸
にしない限り、前項の令状によることを要しない。」と規定していることとの対比
からいつても、本件の場合のように、被疑者が自ら排泄した尿をそのまま採取した
だけでその身体を毀損するなどのことの全くないものは、むしろ右二一八条二項に
列挙する各行為と同列に考えるのが相当である。その他、酒気帯び状態ないしは酒
酔い状態の有無は、他の徴憑によつてこれを判定することが不可能でない場合にお
いても、できる限り科学的検査の方法によつて明らかにされることが望ましいとこ
ろ、尿はその性質上飲酒後の時間の経過とともにアルコールの含有量を漸減して行
くものであつて、飲酒後なるべく早い時間に採取される必要性、緊急性がある<要
旨>ことも、考慮に値いしないことではなく、上述のところを彼此総合すれば、本件
のように、酒酔い運転の罪の容疑により身柄を拘束されている被疑者が、自
然的生理現象の結果として自ら排尿方を申し出て担当看守者が房内に差し入れた便
器内に排尿した場合に、担当看守者が尿中のアルコール度を検定する資料とする意
図をもつて右便器内の尿を保存採取することは、たとえ右担当看守者が房内に便器
を差し入れ被疑者をしてこれに排尿させる際当該尿を右検定の資料とする意図があ
ることを告知しなかつた場合であつても、憲法及び刑訴法の規定する令状主義の原
則及び適正手続に違反する無効の証拠収集であるということはできない(原判決が
引用する仙台高等裁判所の判決は、採血に関するものであり、本件とは事案を異に
し、適切ではない。)。
 そうとすれば、本件において、前記B巡査が便器内に保存したうえ、C巡査が牛
乳空瓶に移し入れて警視庁科学検査所に持参した尿は、これを証拠として使用でき
ないという理はないのであり、右尿中のアルコール度を鑑定したD作成の鑑定書
も、その作成者であるDが原審公判廷において証人として尋問をうけ真正に作成し
たものであることを供述している以上、その証拠能力において欠けるところはない
というべきである。そして右鑑定書によれば、右尿中には一ミリリツトルについて
一・〇二ミリグラムのアルコールが含有されており、これを血液アルコール濃度に
換算すると、血液一ミリリツトル中のアルコール含有量が〇・七八ミリグラムとな
ることが認められるのであるから、右鑑定書は本件酒酔い運転の公訴事実の証明に
欠くことのできない証拠であるというべきである。とすれば、右鑑定書を事実認定
の証拠とはなしえないものとした原判決には、訴訟手続の法令違反があり、これが
判決に影響を及ぼすことは明らかである。
 以上説示のとおり、論旨は既に右の点において理由があり、原判決は破棄を免れ
ないので、控訴趣意第二点、事実誤認の主張)については判断を省略し、刑訴法三
九七条一項、三七九条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従つて更に次の
とおり自判する。
 (罪となるべき事実)
 被告人は、昭和四七年九月一九日午前零時四〇分ころ、東京都世田谷区ab丁目
c番d号付近道路において、酒気を帯び、アルコールの影響により正常な運転がで
きないおそれがある状態で、普通乗用自動車(軽四)を運転したものである。
 (証拠の標目)(省略)
 (事実認定についての説明)
 原判決は、原審が取調べたD作成の鑑定書を除くその余の証拠を検討したうえ、
これらの証拠によつても、被告人が公訴事実記載の日時場所において酒に酔つた状
態もしくは呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを保有する
状態にあつたと認めることはできないと結論しているが、当裁判所はこれとは見解
を異にするので、以下に簡単にその理由を説明する。
 一、 原判決がその証明力には疑問があるとする司法警察員G作成の昭和四七年
一〇月三日付実況見分調書というのは、成程、原判決の指摘するとおり、問題の被
告人の運転行為のあつた日より一二日後の昭和四七年一〇月一日に、犯行当時外観
上は通常人所有のライトバンと異るところのない警察の無線カーを運転して被告人
車を追跡したH巡査を立会人として、被告人車の当時の進行状況を指示説明させて
実施した見分の結果を記載したものには違いなく、また、当時本件関係の実況見分
調書として、同じくG巡査部長が同年九月二一日に右H巡査を立会人として作成し
た九月二三日付実況見分調書が存在したのにかかわらず、前記一〇月一日に実施し
た実況見分にH巡査か重ねて立会い指示説明をすることになつたのは、H巡査とし
ては、同巡査自身が確実に追跡をして現行犯として逮捕した場合であるから、その
必要はないつもりでいたが、その後に至り、被告人が酒酔い運転の事実を否認して
いるというので、G巡査部長の意見もあつて再度の実況見分をすることになつたと
いうのであるから、右の経緯によつてみる限り、被疑事実否認のことを意識したH
巡査において、実際にあつた以上に鮮明な蛇行運転があつたように指示説明をする
おそれがなかつたとは言い切れない。しかし、他方、右H巡査の原審公判における
供述によれば、同巡査は、当夜玉川警察署において宿直勤務中、ab丁目所在の某
アパートから住居侵入事件があつた旨の一一〇番電話を接受したため、直ちに無線
カーを運転して右アパート前に行き、折柄右無線カーの停止地点の後方から発進し
た被告人車を追跡することになつて追跡中、被告人車の通常でない進行状況から自
然に無免許運転ないしは酒酔い運転ではないかとの疑いを抱くに至つたというので
あつて、同巡査としては、幅員四メートルないしは七・八メートル位の道路上を約
四〇〇メートルの区間に亘つて、被告人車の真うしろ数メートルのところを進行し
ながら観察していたもので、被告人車の進行状況を極めて正確に観察できる立場に
あつたとみられるばかりでなく、被告人を玉川署に連行した後九月一九日の朝方さ
らに車を運転して先の進行路線を回つてみて被告人車の進行状況の大綱をメモして
おいたというのであるから、前記一〇月三日付実況見分調書に記載されている内容
のうち、蛇行の幅何メートル何センチ位という数量的な点はそのままには受取りか
ねるものがあるとしても、どの地点において大きな蛇行をした、どの地点において
小さな蛇行をしたとする限りにおいては、これを信用できないというべき理はない
のであり、右実況見分調書をも含めて関係証拠を総合すれば、被告人車が当時僅か
四〇〇メートルばかりを進行する間に急に対向車線内に入つてしまうような右側へ
の大きな蛇行を少くとも一回は含む合計約四回の蛇行をしたことは否定できないと
いうべきである。原判決は、かりに蛇行があつても、右は当時暴漢に追跡されてい
ると思つていた被告人がそのために運転を誤つたものと認めることができるとして
いるが、被告人が、その原審公判において供述するように、当時真実暴漢に追跡さ
れていると考えていたか否かは別として、後続車に追跡されていることを途中から
感得していたことは認めることができることではあるが、その職業経歴からいつて
も運転経験の極めて豊富な被告人が右のようにむしろ緊張して運転したとみられる
場合に約四回も運転を誤つたということは、容易には首肯しかねることであり、む
しろ他の原因、すなわち酒酔いに基因すると認めるのが相当である。
 二、 原判決は、関係証人の証言に一致しない点のあること等を挙げて酒酔いの
徴憑とみるべき言動等はなかつたとしているが、各証言内容を仔細に検討してみる
と、右の点は、各証人が同一時点の同一場面についてのみ供述しているわけではな
いことに原因するところが多く、関係証拠によれば、少くとも、酒臭が強く、足許
がふらつく等の酒酔いに原因するとみられる現象が被告人にあつたことは否定でき
ない。
 三、 原判決は、飲食量につき、被告人は前日の九月一八日午後六時ころ普通の
コツプにビール三杯、午後九時から一〇時までの間に小ジヨツキに三分の一の生ビ
ールを飲み、その後二時間三〇分くらいの間道路上に駐車させた自動車内で眠つて
いたものとし、この点をも酒に酔つた状態になかつたことの一つの論拠としている
が、前夜来の飲酒の事実等に関する被告人の供述には変転があること、被告人が逮
捕後連続的に大量の水を摂取し、体内に保有するアルコール度の稀薄化を意図して
いたとみられること、逮捕時に酒臭が強かつたこと等に徴すれば、前夜来の飲酒の
事実が原判決認定のとおりであつたかについては、合理的な疑問をさしはさむ余地
が存するというべきである。
 四、 以上の諸点に加えて、当審においてその証拠能力を認めるべきものとした
D作成の前掲鑑定書の示す被告人の保有したアルコールの程度が、尿中では一ミリ
リツトルにツき一・〇二ミリグラム、血液中では一ミリリツトル中に〇・七八ミリ
グラムであつたことを参酌すれば、本件公訴事実にいう被告人の酒酔い運転の事実
は、その証明が十分であると認められる。
 (法令の適用)
 被告人の判示所為は、道路交通法六五条一項、一一七条の二第一号に該当すると
ころ、被告人はかなり以前に道路交通法違反の罪により二回の罰金刑を受けた以外
には前科のないこと、その他諸般の情状を考慮して、所定刑中罰金刑を選択し、そ
の所定金額の範囲内で被告人を罰金一五、〇〇〇円に処し、右罰金を完納すること
ができないときは、刑法一八条により金一、五〇〇円を一日に換算した期間被告人
を労役場に留置することとし、原審および当審における訴訟費用は刑訴法一八一条
一項本文により全部被告人に負担させることとする。
 以上の次第であるから、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 上野敏 裁判官 大澤博 裁判官 千葉裕)

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