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平成31年(行ヒ)第40号求償権行使懈怠違法確認等請求及び共同訴
訟参加事件
令和2年7月14日第三小法廷判決
主文
1原判決中,被上告人に対してAに対する求償権に基
づく金員の支払を請求することを求める請求に関す
る部分を次のとおり変更する。
(1)上告人らの控訴に基づき,第1審判決主文第6項
及び第7項を次のとおり変更する。
被上告人は,Aに対し,2682万4743円及
びこれに対する平成25年4月17日から支払済
みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。
上告人らのその余の請求を棄却する。
(2)被上告人の控訴を棄却する。
2被上告人に対してB,C及びDに対する求償権に基
づく金員の支払を請求することを求める請求に関す
る上告人らの上告を却下する。
3上告人X1及び同X2のその余の上告を棄却する。
4訴訟の総費用は,これを9分し,その8を上告人ら
の負担とし,その余を被上告人の負担とする。
理由
上告代理人瀬戸久夫ほかの上告受理申立て理由第2について
1大分県教育委員会(以下「県教委」という。)の職員らは,教員採用試験に
おいて受験者の得点を操作するなどの不正(以下「本件不正」という。)を行い,
大分県(以下「県」という。)は,これにより不合格となった受験者らに対して損
害賠償金を支払った。本件は,県の住民である上告人らが,被上告人を相手に,地
方自治法242条の2第1項4号に基づく請求として,本件不正に関与したAらに
対する求償権に基づく金員の支払を請求すること等を求める住民訴訟である。
2原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)県教委は大分県公立学校の教員採用試験を実施している。平成19年度採
用に係る試験(以下「平成19年度試験」という。)が実施された当時,小・中学
校教諭及び養護教諭の教員採用試験の事務は県教委の義務教育課人事班が担当し,
その合否の決定は教育長が行っていた。県教委には,教育長を補佐し義務教育部門
を統括する教育審議監が置かれていた。
(2)平成19年度試験の当時教育審議監であったAは,特定の受験者を平成1
9年度試験に合格させてほしいなどの相当数の依頼を受け,当時人事班の主幹であ
ったEに対し,これらの依頼に係る受験者の中からAが選定した者を合格させるよ
う指示した。上記の指示の中には,Aが,県内の市立小学校の教頭であったB及び
その妻であり県内の市立小学校の教諭であったC(以下,併せて「B夫妻」とい
う。)から100万円の賄賂を収受し,B夫妻の子を平成19年度試験に合格させ
るよう便宜を図ってもらいたい旨の依頼を受けたことによる指示もあった。
当時義務教育課長であったFは,上記依頼のほかにも相当数の同様の依頼を受
け,Eに対し,これらの依頼に係る受験者の中からFが選定した者を合格させるよ
う指示した。
Eは,上記の各指示を受け,受験者の得点を操作した上で教育長に合否の判定を
行わせ,上記各指示に係る受験者(B夫妻の子を含む。)を合格させた。
Aは,義務教育課長等に対する不正な依頼があることを知りながら,F及びEに
よる不正を是正しなかった。
(3)県は,平成22年12月,和解に基づき,平成19年度試験において本来
合格していたにもかかわらず本件不正により不合格とされた者のうち31名に対
し,総額7095万円の損害賠償金を支払った。
また,平成20年度採用に係る大分県公立学校の教員採用試験においても,本件
不正が行われたところ,県は,平成23年3月,和解に基づき,同試験において本
来合格していたにもかかわらず本件不正により不合格とされた22名に対し,総額
1950万円の損害賠償金を支払った。
(4)県は,上記(3)の損害賠償金に関し,平成24年2月までに,県教委の幹部
職員等から合計4842万4616円,県教委の教育委員有志等から500万円の
各寄附を受けた。
また,県は,上記(3)の損害賠償金に係る求償債務の弁済として,平成24年2
月までに,B夫妻から44万4687円,Aから195万3633円の各支払を受
けた。
3原審は,上記事実関係等の下において,Aは,F及びEと共同して,その職
務を行うについて,本件不正を故意に行ったものであり,県がA,F及びEに対し
て有する求償権の総額につき,県が支払った平成19年度試験に係る損害賠償金7
095万円から,県に対してされた寄附のうち平成19年度試験に係るものに充当
すべき4192万1624円及びB夫妻から受けた弁済のうちB夫妻が求償債務と
して負担すべき25万円を控除すると2877万8376円となるとした上,要旨
次のとおり判断して,Aに対して金員の支払請求をすることを求める請求のうち9
55万7717円を超える部分を棄却すべきものとした。
国家賠償法1条1項は代位責任の性質を有することからすると,同条2項に基づ
く求償権は実質的には不当利得的な性格を有し,求償の相手方が複数である場合に
は分割債務になるから,A,F及びEは県に対し分割して求償債務を負うと解する
のが相当である。そして,本件不正が行われた当時の上記3名の職責及び関与の態
様等を考慮すると,県は,Aにつき4,Fにつき3.5,Eにつき2.5の各割合
による求償権を取得するから,Aに対して求償すべき金額は,上記3名に対して有
していた求償権の総額である2877万8376円の4割に相当する1151万1
350円から,Aによる弁済額を控除した955万7717円である。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)国又は公共団体の公権力の行使に当たる複数の公務員が,その職務を行う
について,共同して故意によって違法に他人に加えた損害につき,国又は公共団体
がこれを賠償した場合においては,当該公務員らは,国又は公共団体に対し,連帯
して国家賠償法1条2項による求償債務を負うものと解すべきである。なぜなら
ば,上記の場合には,当該公務員らは,国又は公共団体に対する関係においても一
体を成すものというべきであり,当該他人に対して支払われた損害賠償金に係る求
償債務につき,当該公務員らのうち一部の者が無資力等により弁済することができ
ないとしても,国又は公共団体と当該公務員らとの間では,当該公務員らにおいて
その危険を負担すべきものとすることが公平の見地から相当であると解されるから
である。
(2)本件において,Aは,F及びEと共同して故意に本件不正を行ったという
のであり,これにより平成19年度試験において本来合格していたにもかかわらず
不合格とされた受験者に損害を加えたものであるから,県に対し,連帯して求償債
務を負うこととなる。そうすると,県は,Aに対し,2877万8376円の求償
権を有していたこととなるから,同金額からAによる弁済額を控除した2682万
4743円の支払を求めることができる。
5以上と異なる見解の下に,被上告人に対してAに対する求償権に基づく金員
の支払を請求することを求める上告人らの請求につき,求償債務が分割されるとし
てその額を算定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反があり,この点に関する論旨は理由がある。そして,以上に説示したところによ
れば,上告人らの上記請求は,Aに対して2682万4743円及びこれに対する
平成25年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求する
ことを求める限度で認容すべきである。したがって,原判決中,上告人らの上記請
求に関する部分を主文第1項のとおり変更することとする。
他方,被上告人に対してB夫妻及びDに対する求償権に基づく金員の支払を請求
することを求める上告人らの請求に関する上告については,上告人らが上告受理申
立ての理由を記載した書面を提出しないから,これを却下することとし,上告人
X1及び同X2のその余の請求に関する上告については,上告受理申立ての理由が
上告受理の決定において排除されたので,これを棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官宇賀克
也の補足意見がある。
裁判官宇賀克也の補足意見は,次のとおりである。
私は法廷意見に賛成するものであるが,原審が国家賠償法1条1項の性質につい
て代位責任説を採用し,そこから同条2項の規定に基づく求償権は実質的に不当利
得的な性格を有するので分割債務を負うとしていることについて,補足的に意見を
述べておきたい。同条1項の性質については代位責任説と自己責任説が存在する。
代位責任説の根拠としては,同法の立案に関与された田中二郎博士が代位責任説を
採ったことから,立法者意思は代位責任説であったと結論付けるものがある。しか
し,同博士が述べられているように,同法案の立法過程において,ドイツの職務責
任(Amtshaftung)制度に範をとって,「公務員に代わって(anStelledes
Beamten)」という文言を用いることが検討されたものの,結局,この点について
は将来の学説に委ねられたのであり,立法者意思は代位責任説であったとはいえな
い。
また,代位責任説と自己責任説を区別する実益は,加害公務員又は加害行為が特
定できない場合(東京地判昭和39年6月19日・下民集15巻6号1438頁,
東京地判昭和45年1月28日・下民集21巻1・2号32頁,岡山地津山支判昭
和48年4月24日・民集36巻4号542頁)や加害公務員に有責性がない場合
(札幌高判昭和53年5月24日・高民集31巻2号231頁)に,代位責任説で
は国家賠償責任が生じ得ないが自己責任説では生じ得る点に求められていた。しか
し,最高裁昭和51年(オ)第1249号同57年4月1日第一小法廷判決・民集
36巻4号519頁は,代位責任説か自己責任説かを明示することなく,「国又は
公共団体の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめ
た場合において,それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであ
るかを特定することができなくても,右の一連の行為のうちのいずれかに行為者の
故意又は過失による違法行為があったのでなければ右の被害が生ずることはなかっ
たであろうと認められ,かつ,それがどの行為であるにせよこれによる被害につき
行為者の属する国又は公共団体が法律上賠償の責任を負うべき関係が存在するとき
は,国又は公共団体は,加害行為不特定の故をもって国家賠償法又は民法上の損害
賠償責任を免れることができないと解するのが相当」であると判示している。さら
に,公務員の過失を組織的過失と捉える裁判例(東京高判平成4年12月18日・
高民集45巻3号212頁等)が支配的となっており,個々の公務員の有責性を問
題にする必要はないと思われる。したがって,代位責任説,自己責任説は,解釈論
上の道具概念としての意義をほとんど失っているといってよい。
本件においても,代位責任説を採用したからといって,そこから論理的に求償権
の性格が実質的に不当利得的な性格を有することとなるものではなく,代位責任説
を採っても自己責任説を採っても,本件の公務員らは,連帯して国家賠償法1条2
項の規定に基づく求償債務を負うと考えられる。
(裁判長裁判官林景一裁判官戸倉三郎裁判官宮崎裕子裁判官
宇賀克也裁判官林道晴)

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