弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

○ 主文
一 原判決を取消す。
二 被控訴人が控訴人に対して平成元年九月五日付けでした東京都会文書の開示等
に関する条例に基づく公文書非開示決定処分を取消す。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
主文と同旨
二 控訴の趣旨に対する答弁
控訴棄却
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 控訴人の地位
控訴人は、東京都文京区内に事務局を有する「情報公開法を求める市民運動」と称
する団体に事務局長として勤務している者であり、東京都公文書の開示等に関する
条例(以下「本条例」という。)五条三号の「都の区域内に存する事務所又は事業
所に勤務する者」として、本条例による公文書の開示を請求することができる。
2 本件開示請求
控訴人は、平成元年八月二三日、被控訴人に対して、「個人情報実態調査に関して
警視庁から入手、取得した一切の文書」について、本条例による開示の請求をした
(以下「本件開示請求」という。)。
3 本件処分等
(一) 被控訴人は、同年九月五日、控訴人に対し、本件開示請求の対象となって
いる文書が警視庁から提出された「個人情報保護対策の検討について」と題する文
書(以下「本件文書」という。)であるとした上、本件文書が開示しないことがで
きる公文書の範囲を定めた本条例九条八号所定の情報(監査、検査、取締り、徴税
等の計画及び実施要領、渉外、争訴、交渉の方針、契約の予定価格、試験の問題及
び採点基準、職員の身分取扱い、学術研究計画及び未発表の学術研究成果、用地買
収計画その他実施機関が行う事務事業に関する情報であって、開示することによ
り、・・・・・・関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの、当該事
務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるお
それがあるもの又は・・・・・・)が記載されている公文書に当たるものとして、
これを開示しないとの決定(以下「本件決定」という。)をし、そのころ、控訴人
に対し、「本条例九条八号に該当」との理由を付してその旨を通知をした。
(二) 本条例七条四項は、開示の請求に係る公文書を開示しない旨の決定をする
場合には、非開示決定通知書に非開示の理由を付記しなければならないものと規定
している。
4 しかし、本件決定は、それに付された理由が本条例七条四項に違反する不備な
ものであり、また、本件文書が本条例九条八号に定める文書に該当するとした点に
おいて違法であるから、その取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は不知。
2 同2及び3(一)、(二)の各事実はいずれも認める。
三 抗弁
1 公文書開示請求権の性質及び本条例の解釈基準
公文書開示請求権は、憲法二一条等の憲法の規定に基づいて直接的に発生する権利
ではなく、条例により、公文書の開示を求める権利を認める規定が置かれたことに
より発生するものであって、条例によって創設される権利である。
したがって、本件開示請求も本条例の規定、殊に一条及び五条によって初めて認め
られるのであり、それが認められるか否かは、法文解釈の一般原則と本条例の各条
項、殊に、本条例の解釈及び運用を定めた三条及び開示しないことができる公文書
について定めた九条の解釈によって判断すれば足りるのであって、非開示について
定めた条項を文言以上に厳格かつ制限的に解釈すべき理由はない。
2 本件文書の性質及び本条例九条八号該当性
(一) 東京都総務局は、昭和六三年一〇月から一二月にかけて、個人情報保護条
例制定の準備作業として、各部局(知事部局、公営企業局、警視庁、消防庁等)が
保有している個人情報の実態調査を行った。その調査方法は、「個人情報実態調査
票」に所定事項の記入を求め、これを提出させるというものであった。
(二) 本件文書は、右調査において警視庁から提出されたものであるが、個人情
報が記載されている電子ファイル件数と文書件数(以下双方を併せて「ファイル件
数」という。)、その登録個人数、収集先別ファイル件数、利用範囲別(内部利
用、外部利用の別)ファイル件数等の外、登録個人数内訳、ファイル件数(登録個
人数別分布状況ファイル件数)が記録されている。
(三) 右文書の提出に際しては、警視庁から、警視庁が保有する情報は、警視庁
独自の情報ばかりではなく、全国的なものが多いなど、警察情報の特殊性などを理
由として、行政内部においてのみ使用し、これを公にしないことを条件とすること
を強く求められた結果、それを条件として取得したものである。
(四) 本件文書は本条例九条八号前段が定める文書のうち「その他実施機関が行
う事務事業に関する情報」に該当する。
(五) 前記の本件文書の取得経過に照らし、また、警視庁が本条例による情報公
開の実施機関でないことからすれば、本件文書を開示すれば警視庁と東京都との協
力信頼関係が損なわれるとともに、今後の類似の調査に対する警視庁側の協力をも
困難にし、被控訴人の行う事務事業の円滑な執行に支障が生ずる恐れがあるから、
本件文書は本条例九条八号の開示しないことができる文書に該当する。
なお、控訴人は、右のように解するならば、行政機関相互間において非開示の合意
をすればいかなる文書も非開示とすることができる文書に該当してしまう旨主張す
るが、本件において、被控訴人が公開しない旨を約した情報提供者である警視庁
は、本条例上、情報公開の実施機関ではないのであるから、その約束を尊重して、
信頼関係を保持する必要がある。しかし、本条例上、実施機関から除外されている
のは、警視庁と議会だけであって、その他の行政機関はすべてが実施機関である。
そうすると、仮に、実施機関相互間で非公開の合意がされたとしても、情報を提供
した行政機関は、本来保有している情報についての実施機関であるから、情報提供
を受けた行政機関がその合意を理由に開示を拒んでも、情報を提供した実施機関に
開示請求をすれば、開示請求者はその目的を達することができるのであるから、控
訴人が懸念するような事態は生じない。
3 本件決定の理由付記の適法性
(一) 本条例七条四項は、本条例九条各号の規定のいずれに該当するかなど、公
文書を開示することができない理由を七条二項に規定する書面(文書非公開通知
書)に具体的に付記することを実施機関に義務づけるものであるが、その趣旨とす
るところは、決定権者の慎重かつ合理的な判断を確保するため及び処分の理由を相
手方に知らせるためにある。
そうすると、非開示決定にその理由が全く示されていない場合は、右七条に違反す
るものとして違法な処分となる恐れがあるが、少なくとも、本条例九条に列挙され
ている非開示事由のうちいずれの事項に該当するかが明示されていれば、右七条の
義務づけている理由付記は一応されていると解すべきである。
ところで、本条例九条八号の場合には非開示理由が複数存するため、開示請求者に
とっては、「九条八号」との記載だけでは、具体的に八号中のいずれの事由に該当
することを理由に非開示とされたかを知り得ないという不利益が生ずることも考え
られる。しかし、その場合でも、開示請求者が既にその事由を知っている場合に
は、理由付記は「八号該当」の記載だけで十分にその目的を達しているというべき
であり、仮に、開示請求者が具体的には八号中のいずれの事由によって非開示とさ
れたかを知らず、また、非開示決定通知書自体からもそれが直ちに判明しない場合
であっても、電話による問い合わせや直接窓口に出向いて詳しく説明を求めれば容
易に知り得るのであるから、非開示の理由が全く付されていない場合とは異なると
いうべきである。したがって、開示請求者が非開示の理由が本条例九条各号のうち
いずれの事由に該当するためによるものか知らない場合であっても、本条例が義務
付けている理由付記としては、最小限として本条例九条各号のいずれに該当するか
が明記されていれば足りると解すべきである。
(二) 本件においては、本件文書が非開示文書に当たる理由としては本条例九条
八号に該当する旨が公文書非開示決定通知書に明記されており、加えて、本件開示
請求の文書が、個人情報実態調査に関して、被控訴人が、本条例に定める実施機関
から除外されている警視庁から入手・取得した文書であることからすれば、控訴人
は本件文書の非開示の理由が本条例九条八号に定められた事由のうち、その情報を
開示することにより、関係当事者である警視庁との信頼関係が損なわれ、ひいて
は、被控訴人が行う将来の事務事業の円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるとい
うことにあることは、容易に認識できたものというべきである。
(三) また、控訴人は、平成元年九月一四日、右通知書を持参して非開示の理由
を質問してきたが、その際控訴人は既に非開示の理由を十分に認識していたばかり
でなく、更に、控訴人に対して、被控訴人の担当職員において、本件文書は外部に
公表しないことを条件に、警視庁の協力により取得した情報であり、これを開示す
ることになれば、都と警視庁との協力、信頼関係は損なわれるとともに、今後、個
人情報保護制度確立に向けての事務の円滑な執行に著しい支障が生ずる恐れがある
旨を説明した。したがって、控訴人は、それにより本件決定における非開示の理由
を十分認識した。
(四) 以上のとおり、被控訴人は、非開示決定通知書に本件決定の非開示の理由
として、本条例の具体的な条項を記載したのであるから、理由付記に不備はない。
仮に、開示請求権者が、処分当時、既に非開示の事由を知っている場合であって
も、非開示の理由として本条例の具体的な条項の記載だけでは足りず、更に、その
具体的な内容をも記載すべきであるとしても、本件においては、右(三)のとお
り、被控訴人は、本件決定後、控訴人に対し、具体的な非開示事由を説明している
のであるから、本件決定を取り消さなければならない程の違法性はないというべき
であり、したがって、本件決定の理由付記は適法である。
四 抗弁に対する認否及び反論
1 抗弁1の主張は争う。
(一) 国や地方自治体が保有する情報の開示ないし提供を求める権利(知る権
利)は、国民主権原理(憲法前文、一条、一五条)、表現の自由(憲法二一条)、
健康で文化的な最低限度の生活を営も権利(憲法二五条)、個人の尊重・生命自由
及び幸福追求権(憲法一三条)など憲法諸条項に複合的な根拠を有する基本的人権
であり、情報を保有する者に対して、その情報の開示、提供を求めることを内容と
する積極的な権利である。
すなわち、人の表現過程とは、思想・情報の収集-判断-伝達の過程である。自由
な思想・情報の伝達は、自由な思想・情報の収集なしには成立しない。したがっ
て、真に表現の自由が保障されるためには、自由に情報に接しこれを摂取する権利
が保障されることが不可欠である。そして、これは単に情報の自由な獲得を公権力
が妨げてはならないという消極的な保障に止まらず、情報を保有するものに対して
積極的に情報の開示、提供を請求する権利と構成される。
しかし、知る権利は、表現の自由の派生原理としてだけではなく、憲法の基本原理
である国民主権原理に重要な根拠を有するものである。民主主義は、主権者である
国民が政治過程に積極的に参加し、自主的に政策を決定ないし選択し、政府の行為
を監督する制度であるが、その自主的な判断形成、監督の前提としての政策決定に
係わる多様な情報が自由に獲得できなければならない。国民によって監督されるべ
き国家が国民に知らせるべき情報を取捨選択する権利はない。したがって、国家
は、国民に対し、情報を開示するのが原則である。
また、健康で文化的な最低限度の生活を営むためには、経済的、物質的な保障は勿
論として、単にそれだけに止まらず、健康に害を与えるような事項に関する情報、
逆に健康で文化的な生活を営むために有益な情報を摂取することが必要である。人
間が人間らしく自己実現をしていくためにも、多様な情報を獲得することが不可欠
である。
(二) もとより、右の積極的意味の情報開示請求権は、憲法上の権利であるにし
ても、あくまで抽象的権利であり、これを直ちに具体的権利と解することはでき
ず、具体的な立法が必要ではある。本条例は、右の憲法に由来する情報開示請求権
を具体化したものである。そして、その具体的立法に当たっては、憲法に由来する
情報公開請求権を具体化するものである以上、憲法の保障の趣旨に適合するもので
なければならない。したがって、情報公開条例を制定するに当たっては、公開を原
則とし、公開を制限する規定は合理的理由のある必要最小限度のものにするべきで
ある。公開を制限する規定が右の限度を超えるときは、その規定は違憲となる。
(三) 本条例九条八号の規定は、その前段において「その他実施機関が行う事務
事業に関する情報」と包括的に規定し、また、後段においても、「都の行政の公正
もしくは円滑な運営に著しい支障が生ずることが明らかなもの」と包括的な一般条
項的規定としている。このような規定は、明確性を欠くとともに、両者を組み合わ
せた場合には更に規制範囲は包括的かつ漠然としたものとなることは明らかであ
る。このような規定は、公開を制限する規定としての合理的な理由のある必要最小
限度の範囲を超えるものであるから、違憲無効である。
仮に、本条例九条八号の規定を合憲的に限定解釈をするのであるならば、本条例
は、その制定過程に鑑みても、行政側の恣意的な解釈・運用を排し、都民の公開請
求権の実質的な保障を図ろうとしたものであるから、規定の文理や趣旨に照らして
厳格に解釈されるべきである。その場合、同号によって保護されるべき利益が、情
報公開をすることの公益性や有用性と比較衡量して実質的に保護に値する正当な利
益であるか否か、そして、情報公開によってその利益が侵害されることになるか否
かを検討されるべきである。
2 (一)抗弁2(一)の事実は認める。
(二) 同(二)の事実は不知。
(三) 同(三)の事実は否認する。警視庁と被控訴人との間に被控訴人において
積極的に本件文書を公開しないとの趣旨の合意はあったとしても、本条例による開
示請求がされた場合においても非開示とするとの趣旨までの合意は存在しなかっ
た。
本件文書は、警視庁が都に資料として提供し得る情報として、自らの業務に支障が
ない範囲で作成、提供したもので、その内容は、被控訴人の主張を前提にしても、
警視庁が保有する文書及び電子ファイルについての数に過ぎないから、警視庁が非
公開の合意の前提にした本件文書の公開によって生ずるとした警察業務の支障が生
ずることはない。警察に関する情報は、警察白書等によってこれまでにも概括的な
ものから詳細かつ具体的なものまで公表されており、それらと比較しても本件文書
の内容は警察の業務に支障を来すものではなく、本件文書を非開示とする実質的理
由は何ら存しない。
なお、仮に、控訴人が主張するとおりの合意が存したとしても、行政機関相互間で
非開示の合意がされれば開示する必要がないとするならば、そのような合意をする
ことによって、本条例の趣旨を潜脱することができることになり、不当である。
(四) 同(四)の主張は争う。本号の「その他」は、その前の「監査、検査、取
締り、徴税等の計画・・・用地買収計画」が例示であり、それに類似する事務事業
に限定されると解すべきであり、被控訴人の解釈、運用もそれを前提にして行われ
ていたのである。したがって、本件文書は本号前段の定める情報には該当しない。
(五) 同(五)の主張は争う。公文書の開示によって生ずるとされろおそれ、危
険については、それが具体的に存在することが客観的に明白であるか否かを検討し
なければならない。したがって、単に被控訴人が「関係当事者間の信頼関係が損な
われる」とか「将来の同種の事務事業の円滑な執行に支障が生ずるおそれがある」
と判断しただけでは足りず、それらのおそれあるいは危険が具体的に存在するかを
客観的に判断する必要がある。
ところで、前記(三)のとおり、本件文書に関しては、警視庁と被控訴人との間
に、本条例に基づく開示請求があった場合にまで開示しないとの合意は存在しなか
ったのであるから、両者の信頼関係が損なわれるおそれはない。
また、前記(二)記載の本件文書の内容からすれば、将来の同種の事務事業の円滑
な執行に支障が生ずるおそれは全く存しない。
3 (一)同3(一)の主張は争う。通常、行政処分に理由の付記が要求されるの
は、(1)行政の決定の公正さの担保、(2)処分理由を相手方に知らせることに
よる不服申立ての便宜の供与の二点に理由が存するが、それ故、理由は一義的に明
確なものでなければならず、実質的にも都民の殆どは本条例の条文の内容を知らな
いのであり、仮に知っているとしても、都民にその条文解釈を求めることは不可能
に近いことを強いることになるから、本条例七条四項の規定は、単に非開示の根拠
条文を明らかにすれば足りるとするものではなく、それと併せて具体的な非開示理
由を付記することを要求しているものと解すべきである。
(二) 同(二)の主張は争う。本条例九条八号は、都の行政全般について、非開
示を相当とする可能性のある事情を抽象的に類型化したものであるが、控訴人が開
示を求めた文書は「個人情報実態調査に関して警視庁から入手・取得した一切の文
書(一九八八年度分)」という漠然としたものであり、控訴人としては右文書の具
体的内容を知らなかったのであるから、開示請求をした文書が右条項のうちどの事
由に該当するか、具体的に当てはめようもない。
(三) 同(三)の事実中、同日、控訴人が被控訴人の担当者から非開示理由の説
明を受けたことは認めるが、その内容は否記する。右の機会に、被控訴人から、本
件文書が外部に公表しないことを条件に警視庁から提供されたものである旨の説明
を受けたことはない。右(一)の理由付記を必要とするところからすれば、開示請
求時において、請求者が個人的に知りえた事情や事後的な被控訴人の口頭説明など
は、決定の公正さを担保するものではなく、非開示理由の一義的明確性や分かりや
すさを損なうものであるから、これらによって付記理由の不備を補うことはできな
い。
(四) 同(四)の主張は争う。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 成立に争いのない甲第一、四、六及び一〇号証、弁論の全趣旨により成立が認
められる甲第五号証及び弁論の全趣旨によれば、請求原因1の事実が認められ、右
認定に反する証拠はない。以上によれば、控訴人は本条例による公文書の開示を請
求できるものである。
二 先ず、本件決定の理由付記の適否について判断する。
1 本条例七条四項は、実施機関が公文書の非開示決定をする場合には、その日開
示決定通知書に非開示の理由を付記しなければならない旨規定しているところ、本
件決定の非開示通知書にはその理由として「東京都公文書の開示等に関する条例第
九条第八号に該当」とのみ記載されていたことは当事者間に争いがない。
2 一般に、法が行政処分に理由を付記すべきものとしているのは、処分庁の判断
の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するともに、処分の理由を相手方に知ら
せて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものであり、付記すべき理由をどの程
度記載しなければならないかは、処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定の趣
旨、目的に照らしてこれを判断すべきであって、その求められている趣旨に適った
理由付記がなされていない場合には、その行政処分は、手続上のかしがある処分と
して取消しを免れないものと解すべきである(最高裁判所昭和三八年五月三一日第
二小法廷判決・民集一七巻四号六一七頁、昭和六〇年一月二二日第三小法廷判決・
民集三九巻一号一頁参照)。
以上の理は、条例が理由付記を命じた場合も同様である。そこで、本条例について
考えるに、本条例が理由付記の規定を設けた趣旨は、その請求の対象となる文書が
本条例の実施機関の内部文書等を含むことから、開示請求に対する判断が抑制的に
なったり、恣意に流れるおそれがあることなどから、その実施機関の判断の慎重、
合理性を担保し、恣意的な判断を抑制するとともに、処分理由を相手方に知らせて
不服の申立てに便宜を与えた趣旨であると解される。本条例が理由付記を命じた右
の趣旨からすれば、七条四項が定める付記すべき理由の程度は、その対象の公文書
の性質自体等から、九条各号のいずれかに該当する旨を記載すれば明確にその具体
的理由が読み取れ、七条四項の要求する付記すべき理由として十分その要件を満た
す場合が存することはあり得るとしても、一般的には、単に本条例九条各号のいず
れかに該当することのみを記載するだけでは足りず、いかなる理由で右条項に該当
するかを具体的事実に基づいて記載しなければならないと解すべきである。そし
て、右の七条四項の趣旨、目的からすれば、右の理由付記の程度は、開示請求者が
処分理由を推知できると否とにかかわらずに要求されるものであり、理由付記が不
備な場合には、口頭の説明により具体的な理由が補充されたとしても、それによっ
てその瑕疵が治癒されるものではなく、非開示決定は取消しを免れないと解するの
が相当である。
3 これを本件についてみるに、本条例九条八号は、一号から七号までの要件に該
当しないが、開示しないことが相当である場合について、その前段で対象文書の範
囲の側面から、後段で文書を開示することによって生じる障害事由の側面から、複
数の対象文書及び複数の障害事由をいずれも包括的に規定しており、非開示の理由
として、単に九条八号に該当と記載したのみでは、本件文書が九条八号前段の定め
るどの文書に該当するのか、また、いかなる事実によりどの障害事由が存するのか
全く不明であるという他はなく、本条例七条四項が求める付記すべき理由としては
不備であるというべきである。
被控訴人は、本件文書が、元来本条例の実施機関ではない警視庁によって作成され
た文書であることから、開示請求者である控訴人は当然その非開示理由を推知でき
たというべきであるから、当該条項以外に特段の理由を付記する必要はなかった
旨、また、控訴人が非開示理由を推知できなかったとしても、口頭により補充的に
説明を受ければ理由は判明するのであるから、本条例七条四項による理由付記とし
ては右以上の理由を付記する必要はない旨、そして、現に、控訴人は、本件決定の
通知を受けた後である平成元年九月一四日、被控訴人の担当職員から本件決定の理
由の説明を受けた際、既にその理由を認識しており、その上、被控訴人の担当職員
が控訴人に対し、本件文書は外部に公表しないことを条件に、警視庁から取得した
情報であり、開示すれば、都と警視庁との協力、信頼関係は損なわれるとともに、
今後、個人情報保護制度確立に向けての被控訴人の事務の円滑な執行に著しい支障
が生ずる旨を説明したから、本件決定の理由付記には不備はない旨主張するが、右
各主張が理由がないことは先に判示したとおりである。
4 以上によれば、本件決定は、その非開示決定通知書に記載された理由付記の程
度が本条例七条四項に定める要件を満たしていないから違法であるというべきであ
り、取消しを免れない。
三 以上のとおり、控訴人の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理
由があるからこれを認容すべきであり、これに反する原判決は不当であるから、行
訴法七条、民訴法三八六条により、原判決を取消し、主文のとおり判決する。
訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法九六条、八九条適用。
(裁判官 高橋欣一 伊藤 博 告原耕平)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛