弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 申請人の本件申請は、いずれもこれを却下する。
二 申請費用は申請人の負担とする。
       理   由
一 本件申立の要旨
(一) 申立の趣旨
1 被申請人は申請人に対し、金一〇万〇、八五〇円及び昭和五四年四月一日以降
毎月二五日限り金二万七、二〇〇円を仮に支払え。
2 申請費用は被申請人の負担とする。
(二) 被保全権利
1 申請人は被申請人に従業員として雇傭されている者であるが、被申請人は昭和
四一年二月二八日申請人を解雇したとして以後今日に至るまで申請人が雇傭契約に
基づき提供する労務の受領を拒否している。
 しかしながら右解雇は無効であり、申請人は被申請人に対し、他の従業員と同等
の待遇を受ける権利がある。
2(1) 賃金増額分
 申請人の所属する名古屋放送労働組合(以下組合という)と被申請人は、昭和五
四年四月二七日昭和五四年度の賃金増額に関する協定(同月一日実施)を結んだ。
申請人は、右組合の組合員であり、被申請人の従業員であるから、右協定は当然に
その効力が及ぶところ、これによれば、申請人の昭和五四年度の賃金増額分は、基
本給、住宅手当、家族手当を併わせて金二万一、二〇〇円となる。
従つて申請人は、同月一日以降毎月右金員の支払を請求する権利がある。
(2) 金一封(奨励金)
 また被申請人は、申請人を除く従業員全員に対し、昭和五四年三月一日奨励金と
して基本給の〇・五か月分を支給した。右奨励金は、就業規則、給与規則にいわゆ
る賞与の一部であり、労基法第一一条にいう賃金である。申請人は被申請人の従業
員であるから、右奨励金の支払を請求する権利があり、右金額は、金九万四、八五
〇円となる。
(3) 資格手当
 被申請人は申請人と同期の従業員の一部を昭和五一年三月から主事に任じ、主事
手当の支払を始め、昭和五四年三月一日以降は申請人を除く同期の従業員の全員に
毎月六、〇〇〇円の主事手当を支払つている。
被申請人会社において、主事は賃金上の格付であり、待遇の一つでしかない。
 申請人は、被申請人の従業員であるから、他の従業員が一定の待遇を受けるに至
つたときは、それと同等の待遇を受ける権利がある。
 してみれば、申請人は遅くとも昭和五四年三月一日以降は主事としての待遇を受
け、一か月金六、〇〇〇円の主事手当の支払を受ける権利がある。
(三) 必要性
 申請人は被申請人から支払われる賃金を唯一の生計手段とする労働者であるとこ
ろ、被申請人が申請人の解雇を主張して賃金を任意に支払わないため、当庁昭和四
一年(ヨ)第六三二号事件の仮処分決定及びその後の数次にわたる追加仮処分によ
つて現在毎月合計金二二万九、七〇〇円の賃金の支払を受けている。しかし右のう
ち税金等を差し引かれるので、手取金額は金一九万〇、六六四円にしかならない。
一方依然として続く物価の上昇、インフレ、消費構造の変革といつた社会的、経済
的な問題を考慮すると、右収入は申請人の生活を維持するに十分なものとはいえな
い。更にまた申請人には本件各請求を必要とする次のような事情がある。
(1) 被申請人が、申請人の解雇の撤回をせず、申請人を就労させることも任意
に賃金を支払うこともしないため、毎年毎回賃金支払を求める裁判を起したり、被
申請人に解雇の撤回と復職を求める活動をしなければならず、そのための訴訟費用
等が必要である。
(2) 申請人の家族は、妻と子供一人であるところ、妻は病弱で働きに出ること
が困難であり、子供の成長に伴う出費増がある。
(3) 申請人は情報産業労働者として、知的、創造的労働力を維持する必要があ
り、文化費等にも相当の支出をしなければならない。
以上のような次第で、本件請求が容れられないときは、申請人は著しい損害を蒙る
おそれがある。
よつて申立の趣旨どおりの裁判を求める。
二 当裁判所の判断
(一) 被保全権利
1 本件記録によれば、申請人が被申請人に対し、雇傭契約上の権利を有する地位
にあることは、当裁判所昭和四一年(ヨ)第六三二号仮の地位を定める仮処分決定
により仮に定められており、右仮処分決定は現に効力を有することが認められるか
ら、申請人は被申請人の従業員としての権利を有するといわなければならない。
2 ところで、本件記録によれば、申請人の所属する組合と被申請人との間に申請
人主張の日にその主張のような協定が結ばれたこと、右協定の効力として申請人が
その主張のとおりの賃金増額分の請求権を有するに至つたことが認められる。
3 また本件記録によれば、被申請人は、昭和五四年三月一日に奨励金として基本
給の〇・五か月分を全従業員に支払うことを決定し、同日申請人を除く他の従業員
に支払つたこと、右奨励金は被申請人の就業規則、給与規則にいわゆる賞与とみな
され、労基法第一一条にいう賃金と認められること、申請人につき右金額を算出す
れば、金九万四、八五〇円となり、申請人は右金員の請求権があることが認められ
る。
4 資格手当については、被申請人によつて主事に任命されていない申請人が、こ
れを当然に請求する権利があることは、本件記録によつて未だ認めるに足りない。
(二) 必要性
 本件記録によれば申請人は被申請人から支払われる賃金を唯一の生計手段とする
労働者であること、申請人は、昭和四一年に地位保全と賃金相当額の仮払を命ずる
仮処分決定に基づき毎月一定額の支払を受け、その後昭和四二年より昭和五三年ま
でほぼ毎年改定された賃金増額分等の仮払仮処分を申請してこれが認められ、その
結果右各仮処分決定に基づき申請人は現在毎月合計金二二万九、七〇〇円(手取額
金一九万〇、六六四円)の仮払を受け、これらとは別に、夏季及び年末各一時金に
ついても仮処分申請をして認められ、昭和五三年は夏季分金九五万円、年末分金一
〇四万円の各仮払を受け、これらによつて妻と小学四年生の女子一人との生計を維
持していることが認められる。一方本件記録によれば、名古屋市における標準生計
費(愛知県人事委員会昭和五三年四月調べ)が三人家族の場合金一四万六、三六〇
円であることが認められ、昭和五三年五月以降の物価の上昇による生計費の増加を
考慮しても、なお申請人は標準を上回る生活水準を維持していると推認される。
 ところで右の如く解雇された労働者が、解雇の効力を争つて訴訟中、賃金相当額
等の仮払を求める仮処分を申請し、これが認められて毎月一定額の支払を受け、そ
の後賃金増額改定等があれば、それに相応する追加仮処分を受け、また夏季、年末
等の一時金についても、その一部について仮払仮処分を受けて臨時的或いは季節的
支出にあてもつて一応の生活水準を維持していると認められているような場合は、
その後に他の解雇されない従業員と使用者との間で再度賃金増額等協定が成立した
というだけで直ちに右増額分等についての仮払の必要性を肯定するのは相当でな
く、改めて増額等の支払を求める部分についての必要性を慎重に判断すべきは当然
である。そして右必要性は、過去において数次にわたる仮処分決定の都度判断され
ているとみられるので、今回の仮処分の必要性は、これらの数次にわたる仮処分の
うちの直近のものの発令時以降仮処分債権者において増額分等の仮処分を受けなけ
ればならないような家庭経済生活上の追加的事情例えば消費者物価の上昇、家族数
の増加等の発生があつたか否かを中心に判断するのが相当である。そこでこの点に
つき判断するに、本件記録によれば、申請人において、特に支出を必要とする事情
として申請人の妻の父の還暦祝のための資金として友人から借入れた金五万円の返
済、生命保険掛金の支払、自動車税、固定資産税、自動車の任意保険料、浄化槽清
掃費用の各支払、子女の水泳教室の授業料等の支払の必要を主張している。これら
の事情のうち、妻の生命保険の加入と子供の水泳教室参加等は、直前の仮処分決定
後に生じた家庭経済上の追加的事情とみられるが、申請人が、現在の仮払金の範囲
内で支出可能と判断して任意に加入したものと認められ、不可避的な支出増加の事
情ということはできない。その余の事情は、従来からも負担してきている恒常的な
支出であつて特に今回の仮処分申請までに新たに発生した支出原因ではない。友人
からの借入金は一回的なもので一時金で支出が可能であると思料される。したがつ
てこれらは、本件における必要性を肯定する事情とはなし得ないものであるが、か
りにこれらをやむを得ない支出増と認めたとしても、現在申請人が受けている毎月
の仮払金が前記標準生計費をかなり上回つているばかりか昨年一年間に二〇〇万円
に近い一時金を受領していることと対比してみると、物価上昇等の一般事情を考慮
に入れても、なお本件賃金増額分等の支払を今直ちに受けなければ、申請人の生活
が困窮を来たし、著しい損害を蒙るとは認められず、その他本件記録に顕われた一
切の事情を考慮しても、右請求の必要性を認めることができない。
 以上の次第であつて申請人の本件申請は前認定のとおり、被保全権利ないし必要
性の疎明がなく、保証をもつて疎明に代えることも相当でない。
よつて申請費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定す
る。
(裁判官 井上孝一 佐藤寿一 島本誠三)

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