弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人大竹武七郎の上告趣意第一点について。
 原審公判において本件偽造公文書(証第一号)について証拠調の為されなかつた
ことは所論のとおりである、然し証拠調は事件について証拠となり得るすべての資
料について為さねばならぬものではなく、裁判所が事実認定の為め必要と認めるも
のについて為せば足るものである、そして原判決は本件偽造公文書を証拠として援
用してゐないのであるから原審が右文書について証拠調をしなかつたことをもつて
違法と云うことはできない、又原判決の挙示する証拠によつて第一審相被告人Aが
第一審相被告人Bを教唆し同人をして原判示の如き岡山刑務所医務課長C名義の診
断書一通を偽造せしめた事実を認定することができるのであるから原審が右診断書
を公文書と認定したのは正当である、従つて原判決には所論の如き違法ありと云う
ことはできない論旨は理由がない。
 同第二点について。
 しかし原判決の認定によれば被告人は第一審相被告人Aと共謀して岡山刑務所医
務課長Cを買収してDのため同人が勾留に堪えられない旨の虚偽の内容の診断書を
作成さしてこれを入手しようと決め、Aがその任に当ることになつたところAは医
務課長の買収が困難なのを知つて寧しろ医務課長名義の診断書を偽造しようと決意
し第一審相被告人Bを教唆して本件診断書を作成偽造せしめたというのである。被
告人の故意は前記認定の如くAと共謀して医務課長をして虚偽の公文書を作成する
罪(刑法第百五十六条の罪)を犯させることを教唆するに在る、しかるに現実には
前記のような公文書偽造の結果となつたのであるから事実の錯誤の問題である、か
かる場合にAのBに対する本件公文書偽造教唆について被告人が故意の責任を負う
べきであるか否やは一の問題であるが本件故意の内容は刑法第百五十六条の罪の教
唆であり結果は同法第百五十五条の罪の教唆であるそしてこの両者は犯罪の構成要
件を異にするもその罪質を同じくするものであり且法定刑も同じである、而して右
両者の動機目的は全く同一である、いづれもDの保釈の為めに必要な虚偽の診断書
を取得する為めである、即ち被告人等は最初その目的を達する手段として刑法第百
五十六条の公文書無形偽造の罪を教唆することを共謀したが結局共謀者の一人たる
Aが公文書有形偽造教唆の手段を選びこれによつて遂に目的を達したものである、
それであるからAのBに対する本件公文書偽造の教唆行為は被告人とAとの公文書
無形偽造教唆の共謀と全然無関係に行われたものと云うことはできないのであつて
矢張り右共謀に基づいてたまたまその具体的手段を変更したに過ぎないから両者の
間には相当因果関係があるものと認められる、然らば被告人は事実上本件公文書偽
造教唆に直接に関与しなかつたとしてもなおその結果に対する責任を負わなければ
ならないのである。即ち被告人は法律上本件公文書偽造教唆につき故意を阻却しな
いのである。而して原判決は以上説明の如き趣旨によつて被告人が本件診断書の偽
造を教唆したものと判断したのであつて何等違法の点はない。
 次に本件偽造公文書行使幇助の点であるが原判決によれば被告人がBの偽造した
本件診断書をAを通して受取つた上これをEに交付し因つてEが情を知らぬ弁護士
吉岡栄八をして岡山地方裁判所の係判事に提出行使するのを幇助したというのであ
るから本犯がEであることは判文上明白である、而してEが右診断書が偽造のもの
であつたことを知つてゐたと認むべき証拠はない、しかしEは被告人に依頼して医
務課長を買収して虚偽内容の診断書を作成せしめようとしたものであることは原判
決の確定した事実であつて本件診断書は偽造のものであることは知らなかつたとし
ても虚偽の診断書であると考へて之を弁護士に交付し裁判所に提出行使したもので
あるからEの故意と現実の行為との間に錯誤があつたものである。しかしこの錯誤
は前に説明したと同一の理由によつて故意を阻却するものでないからEの所為は偽
造公文書行使罪を構成するのである、そして被告人は本件診断書が偽造であること
を知らず虚偽内容の診断書と考へてこれをEに交付したとしてもEがこれを行使し
た以上前に説明したと同一の理由によりEの偽造診断書行使の幇助についても亦そ
の責任を免かれることはできない訳である、原判決の此の点に関する説明は簡に失
し多少明確を欠く恨みもあるが判文全体の趣旨から以上の説明と同趣旨であると認
められるのである、然らばこの点においても原判決には所論の如き違法はない、
 同第三点について。
 未決囚の保釈申請に要する診断書を取扱うことが被告人の職務に関するものであ
るか否かについては、原判決の認定は必ずしも明確でないが、仮りにそれが被告人
の職務に関するものでないとしても、原判決の確定したところによると被告人は岡
山刑務所医務課長買収の請託の下にその謝礼並びに被告人かDの接見等について寛
大便宜の処置を採つたことに対する謝礼としてEが提供した現金五千円のうち金三
千円をその趣旨を知りながら受取つたというのであつて被告人がDの接見等につい
て寛大便宜の処置を採つたことに対する謝礼の趣旨において金員を受取ることは被
告人の職務に関するものであることは容疑の余地のないところである、そして右金
三千円は右の趣旨と共に医務課長買収の請託の謝礼の趣旨とに対し不可分的に包括
して提供されたものに外ならないと認められる、かくの如く職務行為に対する謝礼
と職務外の行為に対する謝礼と不可分的に包括して提供された金員を公務員がその
事実を知りながら之を収受した場合にはその金員全部は包括して不可分的に賄賂性
を帯ぶるものであるから原判決が被告人の右犯行を公務員としてその職務に関し賄
賂を収容したものであるとしたことは正当であつて論旨は理由がない。
 よつて本件上告は理由がないから刑事訴訟法第四百四十六条により主文の如く判
決する。この判決は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 福尾彌太郎関与
  昭和二三年一〇月二三日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    藤   田   八   郎
 裁判官小谷勝重は差支のため署名捺印することができない
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義

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