弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
      原判決を破棄する。
      本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人安木健の上告受理申立て理由第1について
 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 上告人A1実業株式会社(以下「上告人A1実業」という。)は,貸ビル
業等を営む会社であり,被上告人は,不動産賃貸業を営む会社である。
 (2) 上告人A1実業は,建物所有を目的として,原判決別紙物件目録記載1の
土地(以下「本件1土地」という。)につき昭和59年12月1日に,同記載2の
土地(以下「本件2土地」という。)につき昭和63年4月22日に,それぞれ被
上告人と賃貸借契約を締結し,それ以降,これらの土地を被上告人から賃借してい
る。上告人A2棟は,建物所有を目的として,同記載3の土地(以下「本件3土地」
という。)につき昭和62年11月4日に被上告人と賃貸借契約を締結し,それ以
降,これを被上告人から賃借している(以下,本件1土地,本件2土地及び本件3
土地を「本件各土地」と総称する。また,本件各土地に係る賃貸借契約を「本件各
賃貸借契約」と総称する。)。
 (3) 本件各賃貸借契約には,3年ごとに賃料(月額。以下同じ。)の改定を行
うものとし,改定後の賃料は,従前の賃料に消費者物価指数の変動率を乗じ,公租
公課の増減額を加算又は控除した額とするが,消費者物価指数が下降したとしても
,それに応じて賃料の減額をすることはない旨の特約(以下「本件特約」という。)
が付されている。賃料の具体的な計算方法は,第1審判決別紙1及び2記載のとお
りである。
 (4) 本件1土地の賃料は昭和63年4月1日に,本件各土地の賃料は平成3年
4月1日及び平成6年4月1日に,それぞれ本件特約に従って改定された。しかし
,平成9年4月1日には,被上告人が本件特約により増額された賃料を請求したが
,上告人らがこれに応じなかった。また,平成12年4月1日には,賃料の改定は
されなかった。本件各賃貸借契約に係る賃料の推移は,第1審判決別紙「物件目録
一の土地の賃料の推移」,「物件目録二の土地の賃料の推移」及び「物件目録三の
土地の賃料の推移」に記載されたとおりであり,平成6年4月1日以降の賃料は,
本件1土地が54万5790円,本件2土地が144万7441円,本件3土地が
54万2682円である。
 (5) 平成6年4月時点の本件各土地の価格は,本件1土地が5億9670万円
,本件2土地が8億0260万円,本件3土地が3億2000万円であったが,そ
の後,急激に下落した。平成13年2月時点の本件各土地の価格は,それぞれ,1
億5100万円,2億0310万円,8100万円であった。
 (6) 上告人らは,平成13年4月13日,被上告人に対し,借地借家法11条
1項の規定に基づき,翌日以降の賃料を,本件1土地につき44万2000円に,
本件2土地につき82万1000円に,本件3土地につき31万6000円に,そ
れぞれ減額すべき旨の意思表示をした。
 2 本件は,上告人らが,被上告人に対し,本件各土地の賃料は上告人らによる
上記賃料減額請求権の行使により減額されたと主張して,減額後の賃料の確認を請
求する訴訟である。なお,上告人らは,原審において請求を減縮し,確認を求める
減額後の賃料を,本件1土地につき45万8000円,本件2土地につき84万9
000円,本件3土地につき32万5000円とした。
 3 原審は,次のとおり判断して,上告人らの請求をいずれも棄却した。
 (1) 本件特約のような賃料の改定に関する特約(以下「賃料改定特約」という。)
は,賃料改定の際に改定の可否及び改定額をめぐって当事者間に生じがちな紛争を
事前に回避するために,当事者の合意により,あらかじめ賃料改定の時期及び改定
額の決定の基準を定め,これに基づいて賃料の改定を行おうとするものである。賃
料改定特約は,改定額の決定の基準が客観的な数値であって,賃料に比較的影響を
与えやすい要素によるものであるときは,契約自由の原則にのっとり,その効力を
肯定すべきである。本件特約は,消費者物価指数という客観的な数値であって賃料
に比較的影響を与えやすい要素を改定額の決定の基準とするものであるから,その
効力を否定することは相当でない。したがって,本件特約に基づかない上告人らの
賃料減額の意思表示の効力を認めることはできない。
 (2) もっとも,賃料改定特約がある場合でも,契約締結当時に当事者が予想し
得なかった著しい事情の変更が生じ,賃料改定特約をそのまま適用することが著し
く不合理な結果を招来するときには,事情変更の原則を適用することにより,賃料
改定特約の適用を制限すべきである。しかし,本件においては,いまだ事情変更の
原則により本件特約の適用を排除すべき事態には至っていないと認めるのが相当で
ある。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 (1) 前記確定事実によれば,本件各賃貸借契約は,建物の所有を目的とする土
地の賃貸借契約であるから,本件各賃貸借契約には,借地借家法11条1項の規定
が適用されるべきものである。
 本件各賃貸借契約には,3年ごとに賃料を消費者物価指数の変動等に従って改定
するが,消費者物価指数が下降したとしても賃料を減額しない旨の本件特約が存す
る。しかし,借地借家法11条1項の規定は,強行法規であって,本件特約によっ
てその適用を排除することができないものである(最高裁昭和28年(オ)第86
1号同31年5月15日第三小法廷判決・民集10巻5号496頁,最高裁昭和5
4年(オ)第593号同56年4月20日第二小法廷判決・民集35巻3号656
頁,最高裁平成14年(受)第689号同15年6月12日第一小法廷判決・民集
57巻6号595頁,最高裁平成12年(受)第573号,第574号同15年1
0月21日第三小法廷判決・民集57巻9号1213頁参照)。したがって,【要
旨】本件各賃貸借契約の当事者は,本件特約が存することにより上記規定に基づく
賃料増減額請求権の行使を妨げられるものではないと解すべきである(上記平成1
5年10月21日第三小法廷判決参照)。
 なお,前記の事実関係によれば,本件特約の存在は,本件各賃貸借契約の当事者
が,契約締結当初の賃料額を決定する際の重要な要素となった事情であると解され
るから,衡平の見地に照らし,借地借家法11条1項の規定に基づく賃料増減額請
求の当否(同項所定の賃料増減額請求権行使の要件充足の有無)及び相当賃料額を
判断する場合における重要な事情として十分に考慮されるべきである(上記平成1
5年10月21日第三小法廷判決参照)。
 (2) したがって,上告人らは,借地借家法11条1項の規定により,本件各土
地の賃料の減額を求めることができる。そして,この減額請求の当否及び相当賃料
額を判断するに当たっては,賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情そ
の他諸般の事情を総合的に考慮すべきであり,本件特約の存在はもとより,本件各
賃貸借契約において賃料額が決定されるに至った経緯や本件特約が付されるに至っ
た事情等をも十分に考慮すべきである。
 5 以上によれば,本件特約の存在を理由として上告人らによる賃料減額請求権
の行使を否定し,事情変更の原則が適用される場合に限って賃料の減額が認められ
るとした上で,本件はそのような場合に当たらないとして上告人らの請求を棄却し
た原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論
旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上告人らの賃料減額請求の当
否等につき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 藤田
宙靖)

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