弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
被告は原告に対し金五〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四〇年一〇月三〇日
から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを二〇分し、その一を被告の負担とし、その一九を原告の負担とす
る。
       事   実
第一、当事者双方の求める裁判
一、原告訴訟代理人は
(一) 被告は原告に対し金一〇、八九八、七五三円およびこれに対する昭和四〇
年一〇月三〇日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決ならびに(一)につき仮執行の宣言を求めた。
二、被告訴訟代理人は
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求めた。
第二、請求原因
一、原告は飯田市および下伊那郡下において園芸農業を営む者が協同の力によつて
園芸農業の普及発達につとめるとともに、農業経営の改善に資し、組合員の経済的
社会的地位の向上をはかり、あわせて国民経済の発展に寄与することを目的とする
組合で、その組合員数は一、二三五名であり、被告は紙類の販売ならびに加工を目
的とする資本金五〇〇万円の会社である。
二、原告はその組合員らの果実の共同出荷の便宜のために各地区毎に共選場(果実
を共同出荷する場所)を設け、各共選場にはこれを表示する名称を付し、各共選場
においてその代表者を選任し、その代表者がこれを管理している。
三、被告は昭和三七年以降において別紙目録記載の果実を充填する包装用紙である
シワ紙(クレープ紙)を使用して果実を包装する構造について、次のような実用新
案権を受けた。
(1) 登録番号 第五七五九三五号
 出願日 昭和三四年一〇月二七日
 登録日 昭和三七年九月一一日
 名称 果物包装体
 登録請求の範囲 果物に皺紙を巻装した巻物状体をほぼ立方形かつ閉鎖形に形成
してなる果物包装体の構造
(2) 登録番号 第七一六〇八一号
 出願日 昭和三六年五月三〇日
 登録日 昭和三八年四月二日
 名称 果物包装体
 登録請求の範囲 柔軟な内包装紙を果物の上下面の一方に包装紙の隅部周部を集
中重合させて被包しこれを皺紙で果物の上下面の他方側に皺紙の隅部周部を集中重
合させて被包してなる果物包装体
(3) 登録番号 第七三九七二九号
 出願日 昭和三六年八月一六日
 登録日 昭和三九年五月二九日
 名称 果物包装体
 登録請求の範囲 果物を包紙を介して故紙にクレーおよび硫酸盤土を添加した再
生紙よりなる皺紙にて包装してなる果物包装体
四、被告の有する右各実用新案権は右各「名称」および「登録請求の範囲」に記載
のとおりシワ紙を使用して果物を包装する構造である「包装体」にあつて、被告は
別紙目録記載のシワ紙を使用して果物を包装する構造である「包装体」について実
用新案権を有するものではあるが、右「シワ紙」そのものについては被告は実用新
案権その他何等の権利もないのであるから、右シワ紙そのものについての権利でな
い前記実用新案権に基き原告に対し右シワ紙そのものについて使用禁止等を求める
ことはできない。
五、しかるに被告の有する実用新案権に抵触しない方法で右シワ紙を使用すること
が可能である筈なのに、被告は右シワ紙を使用することが前記各登録請求の範囲に
抵触するとして、昭和四〇年六月以降同年九月までの間に原告、訴外神稲農業協同
組合および原告の各共選場等計五一名に対し、右シワ紙そのものについての使用禁
止およびシワ紙の執行官保管を命ぜられたき旨などの九件に及ぶ仮処分申請を当庁
へなし、当庁から昭和四〇年(ヨ)第二〇号、同年(ヨ)第二七号、同年(ヨ)第
二八号、同年(ヨ)第二九号、同年(ヨ)第三〇号、同年(ヨ)第三一号、同年
(ヨ)第三二号、同年(ヨ)第三三号および同年(ヨ)第三四号各事件(同年
(ヨ)第二〇号事件の債務者は原告と右訴外神稲農業協同組合、その他の事件の債
務者名はいずれも原告の各共選場、ただし同年(ヨ)第二八号事件のみ右訴外神稲
農業協同組合が原告の共選場とともに債務者となつている)としてシワ紙の使用を
禁止する等の旨の仮処分決定がなされ、右各仮処分決定に基き被告は同年六月九
日、同年九月七日、同月一六日以降五日間に亘つて執行官をして原告所有の多数の
シワ紙について仮処分の執行をなさしめた。
 なお原告は昭和三九年度は(被告に対する実用新案権の実施料を支払つて)長野
県経済事業農業協同組合連合会から二、五九四、〇〇〇枚のシワ紙を一枚の単価三
七銭として金九、四三九、五一〇円で購入したが、昭和四〇年度は大進製紙株式会
社から直接一二、八八七、〇〇〇枚のシワ紙を一枚の単価二八銭として金三、六〇
七、五〇〇円で購入したものであつて、昭和三九年度のシワ紙と昭和四〇年度のシ
ワ紙とは色が異つて一見識別が可能であるにかかわらず、被告は原告の組合員らの
抗議を無視して、右長野県経済事業連から購入した昭和三九年度購入のシワ紙まで
も多数執行した。
六、原告は被告の右不法行為によつてその所有のシワ紙を使用することができず、
これがため次のような損害を蒙つた。
(イ) 原告の社会的名誉および信用を毀損されたことによる損害
 原告は一、二三五名の果樹栽培を営む組合員を有する組合であるが、被告によつ
て多数の仮処分の執行を受けたため、右一、二三五名の組合員およびその家族ら数
千名の者達は昭和四〇年度の梨の出荷が不可能になり三億数千万円にのぼる損害を
蒙るかもしれないと考えて甚だしく動揺し、原告は理事者らが手分けして各組合員
の説得に廻り昭和四〇年九月二五日に当庁同年(ヨ)第三五号妨害排除仮処分決定
を得て漸く平静に戻つたのであるが、一時は原告とその組合員らとの往復折衝は全
く戦場のような惨憺たる状態であり、また右各仮処分の執行については新聞紙上に
も報ぜられて長野県下の関係官公庁、果樹栽培業者および下伊那郡下の住民の殆ん
どに知れわたり、原告はこのため社会的名誉および信用を甚だしく毀損されたもの
で、原告のこの損害を金銭をもつて償うためには、原告において金三〇〇万円の支
払を受けるのが相当である。
(ロ) 得べかりし利益の損失
 原告は被告による前記仮処分ことに昭和四〇年九月一六日以降五日間にわたつて
なされた多数の仮処分によつて、原告が昭和四〇年度出荷の梨の包装用に予定した
シワ紙の使用を禁ぜられたために梨の出荷ができず、やむなく原告はシワ紙の代り
にパツクを購入して使用することとし、急遽訴外株式会社文昌堂洋紙店にパツクを
五七二、五九〇枚注文し(第一回の注文が三〇万枚、第二回の注文が二七二、五九
〇枚である)、同枚数のパツクを購入したのであるが、急場の間に合わず、右訴外
会社において製作したパツクを順次原告に送付し、原告はこれをさらに傘下の共選
場へ送つて出荷させることとしたが、その間約半ケ月間は出荷計画に重大な齟齬を
きたし、昭和四〇年九月一六日以降同月二二日までの出荷の総減車数は八六貨車の
多きに及び(同月九月一六日は計画貨車数が二二貨車のところ実車数は一一貨車で
あつてその減車数は一一貨車、同月一七日は計画貨車数が二二貨車のところ実車数
は一六貨車であつてその減車数は六貨車、同月一八日は計画貨車数が二二貨車のと
ころ実車数は六貨車であつてその減車数は一六貨車、同月一九日は計画貨車数が二
二貨車のところ実車数は七貨車であつてその減車数は一五貨車、同月二〇日は計画
貨車数が二四貨車のところ実車数は八貨車であつてその減車数は一六貨車、同月二
一日は計画貨車数が二四貨車のところ実車数は一二貨車であつてその減車数は一二
貨車、同月二二日は計画貨車数が二四貨車のところ実車数は一四貨車であつてその
減車数は一〇貨車である)、また梨の価格は偶々同年九月一六日以降同月二二日ま
での間において一箱につき平均金一八〇円の値下りをしたのであるが、右八六貨車
の減車数のうち五〇貨車は被告による前記仮処分に起因するとみるべきであつて、
一貨車の積載量は梨五〇〇箱であるから、その総箱数は二五、〇〇〇箱となり、こ
れに値下りの一箱金一八〇円の損害金を乗ずると、原告が被告の前記仮処分によつ
て蒙つた得べかりし利益の損失は金四五〇万円となる。
(ハ) パツクの購入使用による資財格差の損害
 原告は被告の前記仮処分によつて昭和四〇年度産梨の出荷に使用することを予定
していたシワ紙の使用を禁ぜられたため、その出荷をはかるため前記のようにパツ
クを訴外株式会社文昌堂洋紙店に注文し、昭和四〇年九月一三日から同年一〇月一
日までの間に三五万枚、同年一〇月二日に二二二、五九〇枚を購入したが、パツク
の購入価額は一枚九円五〇銭であるところから、右パツクの購入代金は金五、四三
九、六〇五円となり原告は右金員の出金を予儀なくされたもので、原告は該パツク
を使用して同年九月一六日から同年一〇月二〇日までの間に梨一〇万箱を出荷した
のであるが、シワ紙の購入価額は一枚二八銭ではあるが、シワ紙使用とパツク使用
の場合の工賃差は七円五〇銭(パツク使用の場合の方が工賃が安い)であるところ
から、梨一箱の資財の格差はパツク使用の場合は金二六円八〇銭高くなる(その計
算の根拠は次のとおりである)から、原告は被告の前記仮処分によつて一〇万箱の
資財格差として金二六八万円の損害を蒙つた。
 なおパツク使用の場合金二六円八〇銭高くなるという計算の根拠は
(1) シワ紙包装1c/s当り
シワ紙55枚×28銭=15円40銭
木毛0・3K×40円=12円(1Kあたり40円)
新聞紙外ビニール 2円
計 29円40銭 (A)
(2) パツク詰1c/s当り
パツク 3枚×9円50銭=28円50銭
片ダンボール 3枚×4円50銭=13円50銭
新聞紙スナロール、ビニール 11円70銭
木毛 0・25×40円=10円
計 63円70銭 (B)
(3)シワ紙使用とパツク詰の手間代差額
シワ紙包装1人1日16c/s日当600円
 1c/s当り37円50銭
パツク詰 1人1日20c/s日当600円
 1c/s当り30円
差引 37円50銭-30円=7円50銭 (C)
(4) パツク使用の場合高くなる計算の根拠
(B)-(A)-(C)=63円70銭-29円40銭-7円50銭=26円80

(ニ) 残品となつたパツクを一年間ねかすことによる金利、倉庫料相当額の損害
 原告は前記のようにパツクを五七二、五九〇枚購入して一〇万箱の梨を出荷した
が、一箱につきパツクを三枚必要とするので、一〇万箱の梨の出荷には三〇万枚の
パツクで足り、二七二、五九〇枚は残品となつたもので、右パツクの代価は金二、
五八九、六〇五円であつて、原告はこの残品となつたパツクを来年の出荷時期まで
の一年間ねかさなければならず、また右パツクの保管を倉庫業者に依頼したところ
から、これによつて金利として(年一割、一ケ年分として、272,590×9円
50銭×0・1=258,900円の計算方法により)金二五八、九〇〇円を負担
し、倉庫料相当額として金五万円を現実に支払つたことにより、計金三〇八、九〇
〇円の損害を蒙つた。
(ホ) 残品となつたシワ紙を一年間ねかすことによる金利、倉庫料相当額の損害
 被告の仮処分によつて執行されたシワ紙は昭和三九年度購入分一二三、五〇〇
枚、昭和四〇年度購入分二、〇八五、五五〇枚計二、二〇九、〇五〇枚であるが、
右のほか仮処分によつて使用が禁止されたために残品となつたシワ紙が昭和四〇年
度に購入したもの三五〇万枚あるところから、被告の仮処分によつて残品となつた
シワ紙は合計五、七〇九、〇五〇枚であるが、シワ紙一枚の単価は二八銭であるか
ら右シワ紙の代価は金一、五九八、五三四円であつて、原告はこれを一年間ねかさ
なければならず、また右シワ紙の保管を倉庫業者に依頼したところから、これによ
つて金利として(年一割、一ケ年分として、5,709,050×28銭×0・1
=159,853円の計算方法により)金一五九,八五三円を負担し、倉庫料相当
額として(仮処分執行の分につき2,209,500枚÷1,500枚(1梱)×
36円=53,000円((一梱月額三円宛))、残品(使用不能分)につき3,
500,000梱÷1,500枚(1梱)×85円=203,305円の計算によ
り)金二五万円を現実に支払つたことにより、計金四〇九、八五三円の損害を蒙つ
た。
七、よつて原告は被告に対し前項(イ)ないし(ホ)の合計額金一〇、八九八、七
五三円およびこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四〇年一〇月三〇日から完
済に至るまで(原告は果実の生産ならびに販売業者であり、被告も商人であつて本
件不法行為は商行為に基因するものであるから)商法所定六分の割合による遅延損
害金の支払を求める。
第三、請求原因に対する答弁
一、請求原因第一項の事実中被告の目的および資本金の部分は認めるが、その余の
事実は不知。
二、同第二項の事実は不知。
三、同第三項の事実は認める。
四、同第四項の事実中被告の有する実用新案権がシワ紙を使用した果物の包装体に
あることは認めるが、その余は否認する。
五、同第五項の事実中被告がその主張のような九件の仮処分申請をなして、当庁か
らシワ紙の使用を禁止する等の仮処分決定がなされたことは認めるが、その余の事
実は否認する。
六、同第六項の事実は否認する。
第四、被告の主張
一、被告の仮処分申請には違法はない。
(一) 原告主張の仮処分申請において、被告が被保全権利として主張した被告の
有する三つの実用新案権はいずれも「果物包装体」という構造を対象とするもので
あつて、その包装体を構成する「シワ紙」を対象とするものではなく、また「包装
方法」を対象とするものではないが、しかし同じシワ紙でもそれが果物包装体のた
めに用いられ、しかもそれが被告の有する三つの登録実用新案のいずれかの要件に
該当するものとなつたときには、権利侵害となる。
 三つの実用新案権の技術内容は次のとおりである。
(1) 登録第五七五九三五号実用新案はその公報の記載から明らかなようにその
登録請求の範囲は「図面に示すように果物2に皺紙1を巻装した巻物状体3をほぼ
立方形かつ閉鎖形に形成してなる果物包装体の構造」というにあり、その包み方が
断面S字形をなしている果物包装体を指すものともいうことができるが、原告の組
合員らが前記仮処分決定がなされた当時実際に出荷にあたつて用いていた包装体は
右のS字形をなしていたものである。もつとも原告は昭和四〇年七月一九日付通知
書によりいわゆる「オダチン包み」を指導しているが、右は前記仮処分決定のなさ
れた後の事情に属し、のみならずその後の同年八月二六日の被告の実地調査におい
てもなおS字形の包装体を使用していたのである。
(2) 登録第七一六〇八一号実用新案はその公報の登録請求の範囲の記載から明
らかなように「柔軟な内包装紙を果物の上下面中の一方に、包装紙の隅部、周部を
集中重合させて被包し、これを皺紙で果物の上下面の他方側に皺紙の隅部、周部を
集中重合させて被包してなる果物包装体」というのであり、原告自ら提示する方法
は右の登録請求の範囲に記載のとおりの包装体を作つていることになる。
(3) 登録第七三九七二九号実用新案はその公報の登録請求の範囲の記載から明
らかなように、「果物1を包装23を介して故紙にクレーおよび硫酸盤土を添加し
た再生紙よりなる皺紙6に包装してなる果物包装体」をいうのであつて、原告の各
組合員が使用している果物包装体が包紙およびシワ紙の二重包装になつており、し
かもそのシワ紙は「故紙にクレーおよび硫酸盤土を添加した再生紙」であるから、
原告において右登録請求の範囲に記載のようなシワ紙を果物包装体として使用する
こと自体が被告の有する実用新案権を侵害することとなる。
 以上のように原告の各組合員が使用している果物包装体は、被告の有する実用新
案権を侵害するものである。
 しかも原告はその組合員のためにその当時果物包装体として使用する目的で訴外
大進製紙株式会社から同会社製造のシワ紙を斡旋したものであつて、斡旋したシワ
紙は果物包装体以外の使用目的に供することは考えられていなかつたのであるか
ら、原告の斡旋したシワ紙はまさしくこのような権利侵害の行為に用いられたもの
である。
 そして原告の組合員は前記登録実用新案のとおりの構造の果物包装体を作り上げ
てこれを箱詰めとして原告組合に出荷し、原告は組合員のためにこれを各地の市場
に送荷していたので、果物包装体について権利を有する被告としてはこれを黙視し
得ないので、差止請求権を行使し仮処分決定を得たのである。
(二) このように「果物包装体」について権利を有する場合、その差止請求権の
対象となりうるものは、「果物包装体」そのものに対し差止請求権を行使しうるこ
とは当然であるが、果物包装体のみに限られるものではない。本件においては原告
はその組合員が侵害行為をしていることについて、その材料を斡旋し、供給してい
るのであるから、実用新案法第二七条第二項にいう「侵害の行為を組成した物」を
提供する行為の中止を求めることができるのは当然の事理といわなければならな
い。
(三) のみならず本件シワ紙はその当時における組合員のためその果物包装体に
使用するためにのみ原告が斡旋していたのであるから、この行為は実用新案法第二
八条にいう「登録実用新案に係る物品の製造にのみ使用される物を業として」実施
している場合にも該当し、この点からみても原告の権利侵害は明白である。本件に
おいては差止請求権の行使が違法であるかどうかが問題とされねばならない。
(四) かくして原告の権利侵害行為を組成する物件たる果物充填包装用シワ紙
(クレープ紙)(ただし縦横とも二五センチメートルないし三五センチメートルの
長さのもの)について実施行為の差止を命ずる旨の仮処分決定がなされても、これ
をもつて違法の行為ということはできない。
 なお本件については当庁より昭和四〇年六月三日右シワ紙について譲渡貸渡又は
使用の各禁止の仮処分決定が発せられ、該決定正本は原告にそのころ送達され、右
決定においては同時に執行官保管を命ずる旨も附加されたが、原告に対する関係で
は執行されていない。
二、原告には損害の発生はない。
(一) 社会的名誉および信用を毀損されたことによる損害である慰藉料請求権は
自然人に限られるべきであつて、法人である原告が被告に対し慰藉料を請求しうる
根拠はないので、本訴中被告に対し慰藉料の支払を求める原告の請求部分は失当で
ある。
(二) 原告はその構成組合員から果実を買取つてそれを再販売するものではな
く、組合員から果実の委託販売を受けて委託手数料を徴しているにすぎないから原
告主張のような損害が発生したとしても、それは個々の組合員が蒙つた損失であつ
て、原告の蒙つた損失ではない。原告は梨の価格の値下りによる損失があつたこと
を理由としてその得べかりし利益を喪失した旨主張するが、農業協同組合は同組合
法第八条により営利を目的とするものではなく、値上りによる利益もしくは値下り
による損失は、営利を目的とする個々の組合員に帰するようになつているのみなら
ず、原告がその組合員の生産した梨を市場に出荷するについて、いつどこの市場に
いくらで売つたかについては何らの主張もないので、原告の右主張はそれ自体あり
えないことに基く主張である。
 よつて原告の本訴請求は理由がないから失当として棄却さるべきである。
第五、被告の主張に対する原告の答弁
一、被告主張の一の事実は全部否認する。原告は仮処分決定を受けたのちに古来か
ら一般的に使用されているいわゆる公知公用の「オダチン」包を指導し、原告の組
合員は全部これにならつて被告の実用新案権を侵害したことはなかつた。
二、同二の事実も否認する。原告は農業協同組合法に基く組合で、同法第一〇条第
一、二項によりその組合員の生産する果物を委託販売するものでないことが明らか
であり、しかも原告は独立の経済的主体として本件果物を各市場に販売しているの
であるから、その代金等が値下りにより減額されれば、原告が損害を受けるのであ
つて、原告の主体が被告の前記仮処分決定の執行により損害を受けたものであると
ころからしても、被告の前記主張は不当である。
第六、証拠関係(省略)
       理   由
一、被告が紙類の販売ならびに加工を目的とする資本金五〇〇万円の会社であるこ
とは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一五号証の二(原告定款の内
容)と証人【A】、同【B】(第二回)の各証言によると、原告はその定款第一条
にて園芸農業を営む者が協同の力によつて園芸農業の普及発達に努めると共に農業
経営の改善に資し組合員の経済的社会的地位の向上を図りあわせて国民経済の発展
に寄与することを目的とすると規定し、またその第四条にて原告の地区は長野県下
伊那郡および飯田市を区域とする旨規定していること、原告の組合員数は八九〇名
であること、原告の下部組織として各地区に原告の組合員らが生産した果実を共同
集荷する場所である共選場が設置され、各共選場において集荷された果実は荷造り
された上これを原告へ出荷し、原告においてこれを消費地の市場へ送荷するという
いわゆる果実販売の斡旋をする関係にあつて、共選場は原告自ら直接経営するもの
ではないが、その各共選場にはこれを表示する名称を付し、各共選場においてその
代表者を選任し、これを原告へ届け出てその承認を得るという方法がとられてお
り、各共選場は選出されたその代表者がこれを管理していることが認められ、これ
に反する証拠はない。
二、被告が昭和三七年以降において別紙目録記載の果実を充填する包装用紙である
シワ紙(クレープ紙)を使用して果実を包装する構造について、原告が請求原因第
三項において主張するような(1)ないし(3)の実用新案権を受けたこと、被告
の有する各実用新案権がシワ紙を使用して果物を包装する構造である包装体にある
こと、被告が昭和四〇年六月以降同年九月までの間に原告、訴外神稲農業協同組合
および原告(傘下)の各共選場等計五一名に対し、右シワ紙そのものについての使
用禁止とシワ紙の執行官保管を命ぜられたき旨などの九件に及ぶ仮処分申請を当庁
へなし、当庁から昭和四〇年(ヨ)第二〇号、同年(ヨ)第二七号、同年(ヨ)第
二八号、同年(ヨ)第二九号、同年(ヨ)第三〇号、同年(ヨ)第三一号、同年
(ヨ)第三二号、同年(ヨ)第三三号、同年(ヨ)第三四号各事件として右シワ紙
の使用を禁止する等の仮処分決定がなされたことはいずれも当事者間に争いがな
く、成立に争いのない甲第八号証の一、同第九号証の一、同第一〇号証の一、同第
一〇号証の二の一ないし三、同号証の三の一ないし三、同号証の四の一ないし八、
同号証の五の一ないし八、同号証の六の一ないし四、同号証の七の一ないし九、同
号証の八の一ないし八、同号証の九の一ないし五と本件弁論の全趣旨によると、被
告は昭和四〇年六月三日当庁に債務者を原告と訴外神稲農業協同組合として前記の
ような仮処分申請をなし、同日当庁から同年(ヨ)第二〇号事件として右申請どお
りの仮処分決定がなされ、右決定はそのころ原告に送達されたが、被告は右事件の
仮処分決定正本に基き同年六月九日右訴外神稲農業協同組合において執行官をして
果物充填包装用シワ紙(クレープ紙)について仮処分の執行をなさしめ、右シワ紙
に対する同組合の占有を解き、執行官がこれを保管する旨告知せしめたところ、右
執行に際し右訴外組合専務理事から執行された右シワ紙のうち一〇、五〇〇枚は昭
和三九年度に同訴外組合が原告から購入したものの残品である旨を執行官に申し立
てたので、執行官において仮処分執行調書にその旨の記載をしたこと、右の昭和四
〇年(ヨ)第二〇号事件においては原告に右シワ紙の在庫がなかつたこともあつ
て、原告に対する関係では被告からは直接仮処分の執行がなされず、右訴外神稲農
業協同組合に対してのみ仮処分の執行がなされたこと、さらに被告はその後同年九
月七日原告傘下の訴外(ヤ)共撰所こと【B】方において、同年(ヨ)第二七号仮
処分決定正本に基き執行官をして前記シワ紙について右と同様の仮処分の執行をな
さしめたほか、その余の各事件に基き同年九月一六日以降同月二〇日までの間の五
日間に亘つて原告傘下の各共撰場(所)または撰果場(所)等において、執行官を
して前記シワ紙について前同様の仮処分の執行をなさしめたことが認められ、これ
に反する証拠はない。
三、ところで、原告は被告のなした申請に基く前記仮処分決定が違法であると主張
するのに対して、被告は右仮処分申請には違法はないと主張するので、右仮処分が
違法であるかどうかについて判断する。
 成立に争いのない甲第一号証ないし第三号証の各一、二、および本件弁論の全趣
旨によると、被告の有する三つの実用新案権はいずれもその(実用新案)登録請求
の範囲の記載からみて果物包装体の構造もしくは果物包装体をその対象とするもの
であつて、その果物包装体を構成するシワ紙そのものを対象とするものではなく、
また果物包装の方法をも対象としているものではないことが認められるので、シワ
紙を使用して果物を包装し果物包装体が作られた場合、その果物包装体の構造もし
くは果物包装体の全部について、被告が実用新案権を有するというものではなく、
その果物包装体の構造もしくは果物包装体が被告の有する前記三つの実用新案の各
登録請求の範囲に記載されたいずれかの要件に該当するものとなつたときにはじめ
て権利侵害となるものというべく、シワ紙を使用して果物包装体を作る場合被告の
有する前記各実用新案の方法に抵触することなくその包装をすることが可能である
とすれば、
その可能とされる方法によれば被告の有する右実用新案についての権利侵害とはな
らないものと解することができる。
 そこで本件についてみるに、成立に争いのない甲第一号証ないし第三号証の各
一、二、乙第六号証、同第八号証、証人【C】の証言により真正に成立したものと
認める甲第六号証の一ないし五、同第一六号証ないし第一八号証の各二、証人
【D】、同【A】、同【B】(第一回)の各証言により真正に成立したものと認め
る甲第七号証、証人【E】の証言により真正に成立したものと認める甲第二一号
証、証人【F】の証言により真正に成立したものと認める乙第一七号証と証人
【D】、同【A】、同【G】、同【B】(第一回)、同【C】、同【F】、同
【E】の各証言および本件弁論の全趣旨を総合すると、原告は昭和三九年度は訴外
長野県経済事業農業協同組合連合会から被告に対する実用新案権の実施料を支払つ
てシワ紙を一枚の単価三六銭ないし三八銭として購入したが、シワ紙の購入につい
て被告に右実用新案権の実施料を支払うのに対比すれば訴外大進製紙株式会社から
購入した方がその単価が安いところから、昭和四〇年度は右訴外大進製紙株式会社
からシワ紙を直接購入することとして、同訴外会社からこれを一枚の単価二八銭と
して購入したもので、昭和三九年度に原告が購入したシワ紙は昭和四〇年度のそれ
とは色が異り、前者の方が後者よりも色が薄く一見して識別が可能であること、被
告は前記のように原告が右訴外長野県経済事業農業協同組合連合会から被告への実
用新案権の実施料を支払つて購入し訴外神稲農業協同組合等へ販売した昭和三九年
度のシワ紙についても相当数に亘つてこれが仮処分の執行をしたこと、被告が昭和
四〇年六月三日当庁から原告と訴外神稲農業協同組合を債務者とした仮処分決定が
発せられ、被告によつて同月九日右訴外組合に対してこれが仮処分決定の執行がな
されたがその執行がなされた当時は未だシワ紙の使用が必要とされる時期ではな
く、梨の出荷は八月中旬以降であつたところから、原告は同年七月一九日付の書面
をもつてその各組合員に対し、従来の果物の包装の仕方を変えて(シワ紙を果実に
巻装して立方かつ閉鎖型にしないよう)昔から行われていた風呂敷包のような「オ
ダチン包」とすることに統一したからその下部徹底をはかられたい旨を通知し、い
わゆる「オダチン包」として果実を原告に出荷するように包装についての指導をす
るようになつたこと、被告の従業員である訴外【G】が(実地調査のため)同年八
月二六日下伊那郡上郷町(当時は上郷村)所在の原告傘下の高松撰果場に赴き、同
撰果場の代表者たる訴外【D】およびその従業員に対し紙業通信の者であるとかあ
るいは週間誌のカメラマンであるとか称して、梨のシーズンであるからその荷造り
の様子を週間誌へのせたいので撰果場の写真をとらせて貰いたいと懇い、同訴外人
はシワ紙による梨包装現場の写真を撮影するとともに、さらに土産にしたいとして
同撰果場において原告名の印刷のあるダンボール箱にこん包された梨一箱を購入し
たが、同撰果場におけるシワ紙による梨の包装は被告の有する登録番号第五七五九
三五号の実用新案権の果物包装体の構造と同一のいわゆるS字形の包装のものがで
きており、また同訴外人が購入した梨のダンボール箱内の包装状態も一旦緑色の薄
紙で梨を包んだ上シワ紙で包装しているもので、シワ紙は梨を中心に紙の四隅の中
対角線上にある二つの隅を梨の上に重ね合わせ、残る二つの隅をその側方に同一方
向にS字状に巻いた被告の有する右新案権の果物包装体の構造と同じような形で包
装されていたのであるが、同年八月二六日当時右高松撰果場が梨包装のために使用
したシワ紙(ならびに右訴外【G】が土産として同撰果場から購入した梨の包装に
使用したシワ紙)は原告が昭和三九年度に訴外長野県経済事業農業協同組合連合会
から被告に対する実用新案権の実施料をも含めて購入したシワ紙の在庫の残品であ
つて、原告が昭和四〇年度に訴外大進製紙株式会社から購入したシワ紙については
同撰果場がそのシワ紙を使用して右のいわゆるS字形の包装による果物包装体を作
つたようなことはなかつたこと、原告が同年七月一九日付書面(甲第七号証)によ
り指導するようになつたいわゆる「オダチン包」は包装紙の中紙と外紙とを一緒に
持ち上げて果物を包むもので、この形態による果物包装体では被告の有する実用新
案権を侵害することにはならないが原告自ら提示するオダチン包の写真であるとい
う(甲第六号証の一、二、の)写真の示す方法によるときは、果物を包装紙の中紙
で一度包んでそれをシワ紙の上へひつくり返しておいてからシワ紙で包むという形
態をとつているもので、この包み方によつて出来る果物包装体は被告の有する登録
番号第七一六〇八一号の実用新案権の果物包装体とやや類似するもので、右実用新
案の登録請求の範囲に記載の包装体とやや類似せる包装体を作ることになり、原告
がその各組合員に指導したとする(甲第七号証の書面による)いわゆる「オダチン
包」とは異る包み方となつていること、しかし原告がその傘下組合員に右写真のよ
うな方法で包むことを現実に指導したかどうかは判然としないこと、原告はその各
組合員のために昭和四〇年度分としての果物包装体として使用する目的で訴外大進
製紙株式会社から同会社製造のシワ紙を購入してこれを右共撰場等に配布し販売し
たものであるが、右訴外会社は一般家庭から回収した故紙を購入してこれを溶か
し、ドライヤーにてシワを作つて全面乾燥した上シワ紙を製造もしくは抄造すると
いう工程を経ているもので、右訴外会社のシワ紙を化学分析した結果によれば、硫
酸イオンが見出されたことから硫酸バンドが使用され、また充填剤としてクレー等
が使用されてはいるが、その充填剤が任意に添加したものかまたは上質故紙の大量
混入によるものかは不明であるところ、右訴外会社においてはシワ紙を製造または
抄造する過程では硫酸バンドを使用したことは未だかつてなく、さらに右薬品を使
用する必要もなかつたし、また充填剤としてのクレー等を添加したことも全くなか
つたことが認められ、他に以上の認定に反する証拠はない。
 以上認定した事実によれば、原告は前記仮処分決定が発せられたのち昔から一般
的に果物の包装として行われていたいわゆる「オダチン包」を指導するようになつ
たもので、この形態によつてシワ紙を使用して果物を包装するときは、被告の有す
る前記実用新案についての権利侵害にならないものということができ、また昭和四
〇年八月二六日になしたという被告の実地調査ではなるほど原告の傘下の共撰場
(撰果場)において被告の有する実用新案のS字形の包装体の構造を作つてはいた
が、それは原告が被告への実用新案権の実施料を支払つて購入したシワ紙を使用し
てのものであつたから、これをもつて原告の各組合員が使用していた果物包装体な
いしその構造が直ちに被告の有する実用新案権を侵害するものであるとはいいがた
いし、また原告が「オダチン包」の写真であるとして提示する包み方によって作ら
れる包装体は被告の有する(登録番号第七一六〇八一号の)実用新案権の果物包装
体に抵触する疑いがないでもないが、しかし右新案権の登録請求の範囲に記載の果
物包装体と同一のものと断定することができず、しかも原告がその写真のような包
装をその傘下組合員に現実に指導していたことについてはこれを明確ならしめる証
拠がないので、これをもつて被告の有する右実用新案権を侵害したとまではいうこ
とを得ないし、さらに本件シワ紙は(登録番号七三九七二九号実用新案の登録請求
の範囲にいう)「故紙にクレーおよび硫酸盤土を添加した再生紙には該当せず、右
範囲に記載のようなシワ紙」であるということはできないので、本件シワ紙を果物
包装体として使用してもその使用自体が被告の有する実用新案権を侵害することに
はならないものというべきである。
 そうだとすれば、本件においては原告の各組合員が使用していた果物包装体もし
くは果物包装体の構造は被告の有する実用新案権を侵害するものであるとまではい
えないので、原告がその組合員のために昭和四〇年度分の果物包装体として使用す
る目的で前記訴外大進製紙株式会社から同会社製造のシワ紙を斡旋したとしても、
そしてそのシワ紙が果物包装体以外の使用目的に供することが考えられていなかつ
たとしても、右シワ紙そのものをもつて被告の有する実用新案権の権利侵害の行為
に用いられたものということはできない。従つて本件シワ紙は被告が主張する実用
新案法第二七条第二項にいう「侵害の行為を組成した物」とはいえないので、被告
は右組成物を提供する行為の中止を求めることはできないし、また原告が右シワ紙
を斡旋した行為をもつて同法第二八条にいう「登録実用新案に係る物品の製造にの
み使用される物を業として」実施している場合に該当するものともいえないので、
この点からみて原告の権利侵害が明白であるということもできない。
 とすれば、被告が当庁になした仮処分申請に基き当庁から発せられた仮処分決定
は違法のものであり、これが仮処分の執行もまた違法なものとして許されないもの
といわなければならない。
四、そこで被告が右の仮処分決定の発令を得たことおよび仮処分の執行をなしたこ
とによつて原告に対しその主張のような損害賠償の義務を負うものであるかどうか
について検討する。
(1)(イ) 原告の社会的名誉および信用を毀損されたことによる損害について
 被告は、名誉および信用を毀損されたことによる損害賠償である慰藉料請求権は
自然人に限られるべきであるから、法人である原告が被告に慰藉料を請求する根拠
がないと主張する。しかし法人においても保護せられるべき人格的利益を有するも
のであつて、それが侵害され、社会的評価が低下減退させられるときは、直ちに
「財産以外の損害」を蒙ることになるから、法人にもその賠償請求権を認めるのが
妥当である。原告は前記認定のとおり法人であるが、その構成員である各組合員か
ら独立して社会上の地位または価値を有しているものであるから、違法な手段や態
様によつてその社会的評価を毀損されない利益を有するものというべきであり、こ
れが侵害され、無形の損害が生じた場合に、その損害の金銭評価が可能である限り
民法第七一〇条の適用があるものと解すべく、その賠償額の算定は当該法人の社会
的地位、当該法人のとつた行為内容、加害者の地位、侵害行為の程度、態様等諸般
の事情を斟酌して金銭評価をすべきものと考える。
そこでこれを本件についてみるに、前記認定のように被告からなされた仮処分申請
に基く仮処分決定が発せられ、該決定正本が原告に送達され、本件シワ紙について
同時に執行官保管を命ずる旨の決定が附加され、原告以外の訴外神稲農業協同組合
および原告傘下の各共撰場等に対してはその仮処分決定の執行がなされたのに、原
告に対する関係では原告にシワ紙の在庫がなかつたこともあつてその仮処分決定は
執行されていないのであるから、原告としては被告からの違法な仮処分の執行その
ものによつて直接社会的名誉を毀損されたとはいえないが、しかし右仮処分決定正
本が原告に送達されたことによつて原告の人格的利益が侵害されたことは充分窺え
るところであり、さらに成立に争いのない甲第一一号証および本件弁論の全趣旨に
よると、本件は地方新聞紙上にも報ぜられて下伊那郡下の果樹栽培業者やその住民
にも知れわたるようになり、これがため原告の社会的評価が低下したことが推認さ
れるので、被告の違法な仮処分申請に基きなされた仮処分決定の発令という行為は
原告に対して不法行為を構成するものと解すべきであつて、原告は被告に対しこれ
によつて蒙つた非財産的損害の賠償を請求することができるものといわなければな
らない。そしてその損害額は前記認定のような原告の構成と目的、その社会的地
位、被告の地位および資本構成、被告が本件シワ紙について仮処分申請をなすに至
つた動機、方法および原告が本件に対する対策としてなした傘下組合員に対する処
理方法等諸般の事情を考慮して金五〇万円をもつて相当であると認めるから、被告
は原告に対しこの金員を支払う義務があるというべきである。
(2)(ロ) 得べかりし利益の損失、(ハ)パツクの購入使用による資財格差の
損害、(ニ)、(ホ)金利、倉庫料相当額の損害について
 原告が右(ロ)の損害を蒙つたとの主張は、原告が果物の生産ならびにその販売
を業とするものであることが前提となつているものと解せられる(原告はこの点に
つき原告が果物の生産ならびに販売業者であり、梨の販売についての原告の権限は
農業協同組合法に基くものであると主張している)ところ、前記認定のように原告
は組合員の経済的社会的地位の向上を図ることをその目的の一つとしており、原告
とその各組合員との間の果実の生産、販売についての関係は、原告の各組合員が生
産した果実を原告の下部組織である各共選場において集荷し荷造りしたものを原告
に出荷し、原告においてこれを消費地の市場へ送荷するという関係にあつて、原告
はいわゆる組合員の生産した果実の販売の斡旋をするという立場にあり、さらに成
立に争いのない乙第一五号証の一、二、同第一六号証の一ないし三と証人【B】
(第二回)の証言によると、果実の出荷等については原告が先ず果実の出荷計画を
樹て、貨車の手配をした上、荷造りした果実とともに原告の組合員が記載して原告
に持参した出荷伝票を原告において整理して、果実とともにこれを消費地の市場へ
送り、果実代金については各市場から原告の口座へ該代金が払込まれてくるととも
に原告に対しては仕切り書が送られてくるので、原告はその仕切に基き売上げた果
実販売代金の八割を概算払として各共選場単位にて仮払いし、各共選場においては
右仕切りに従つてその果実代金をその生産者であり出荷者である各組合員に配分
し、残額の二割については市場の手数料、運賃、原告への実費等を徴して決済する
という方法をとつているものであつて、原告は果実の生産者でないことは勿論、そ
の組合員から果実を買い受けてこれを再販売するために市場に出しているものでは
なく、果実の販売によつて原告自らが利益を得るという販売業者でもないことおよ
び原告の各組合員が出荷した果実についてその価格の変動によつて現実に果実の値
下りがあつても原告にはそれによつて損害の発生する余地がないことが認められ、
これに反する証拠はない。
 右認定の事実によると、原告は果実の生産者でもなければ販売業者でもないか
ら、原告主張のように原告が独立の経済的主体として本件果物を各市場に販売して
いるものであるとはいいがたく、その果実代金が値下りにより減額されれば、その
値下りによる損害は原告に果実を出荷した原告の個々の組合員が蒙ることになるの
であつて、原告が蒙るものではないというべく、従つて仮に原告主張のような梨の
値下りによる損害が発生したとしても、原告がその損害を蒙つたものといえない以
上、梨の値下りによる損害の有無について判断するまでもなく、被告には原告に対
しこれが損害賠償の義務はないものといわなければならない。
 また原告が右(ハ)の損害を蒙つたとの主張については、本件弁論の全趣旨によ
ると、被告が仮処分の執行をしたシワ紙は原告において昭和三九年度に訴外長野県
経済事業農業協同組合連合会から購入したものの残品と昭和四〇年度に訴外大進製
紙株式会社から購入したものであつて、しかもこれらのシワ紙は原告からすでにそ
の傘下の各共選場等に配布し販売されていたもので、原告がその組合員らにこれら
のシワ紙を斡旋したものであることが認められるので、右シワ紙はこれを原告から
斡旋を受けて買受けた共選場もしくは個々の組合員の所有となつていたものという
べきであるから、仮に原告が本件シワ紙に対する仮処分の執行のためパツクを購入
したことにより原告主張のような損害が発生したとしても、それは原告の個々の組
合員が蒙ることになるのであつて、原告が蒙るものではないというべく、従つてそ
の損害の有無について判断するまでもなく、被告には原告に対しこれが損害賠償の
義務はないものといわなければならない。
 さらに原告が右(ニ)、(ホ)の各損害を蒙つたとの主張についても、仮にその
主張のような損害が発生したとしても、それは前同様の理由により原告が蒙るもの
ではないというべきであるから、その損害の有無について判断するまでもなく、被
告には原告に対しその損害を賠償する義務はないものといわなければならない。
五、そうすると被告は原告に対し、原告が被告の違法な仮処分申請に基きなされた
仮処分決定によつて蒙つた非財産的損害である金五〇万円およびこれに対する右行
為時より後である本件訴状送達の日の翌日であること本件記録上明らかな昭和四〇
年一〇月三〇日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金(原告
は右損害金を商法所定の年六分の割合によつて求めているが、被告の右支払義務は
不法行為を原因とするものであつて、商法上の行為をその発生原因とするものでな
いのみならず、原告は既述のように商人とはいえないので、商法所定利率によるべ
き余地はない)を支払うべき義務があるものといわなければならない。
 よつて原告の本訴請求は、被告に対し前示金額の支払を求める限度において正当
であるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事
訴訟法第八九条第九二条本文を適用し、なお仮執行宣言については、本件事案の性
質に鑑みてこれを附するのは相当でないからこれを附さないこととして、主文のと
おり判決する。
(裁判官 柳原嘉藤)
(別紙)
 物件目録
一、シワ紙
ただし縦横とも二五センチメートルないし三五センチメートルの長さのもの

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛