弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は、控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決を取り消す。(第一次的請求として)被控訴人は控訴人
に対し原判決添付別紙物件目録記載の鋼材と同種同量の鋼材を引き渡せ。もし右引
渡が不能のときは金二〇、四七〇、三八八円およびこれに対する昭和四四年八月一
六日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被控訴
人の負担とする。(第二次的請求として)被控訴人は控訴人に対し金一六、〇一
八、六〇〇円およびこれに対する昭和四四年八月一六日から支払ずみに至るまで年
五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被控訴人の負担とする。」との判決な
らびに右給付請求の部分について仮執行の宣言を求める旨申し立て、被控訴代理人
は、主文第一項と同旨の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張、証拠関係は、次のとおり付加訂正するほかは、原判
決の事実欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
 控訴代理人は、第二次的請求につき、
 一、 原判決添付別表第二の番号5および6の荷渡指図書は、被控訴人の発行に
かかるものであり、被控訴人の本来の営業活動としてなされたものであるから、被
控訴人とAと共同してなした不法行為であるというべきである。
 二、 仮に被控訴人自身の不法行為でないとしても、被控訴人の担当社員がAと
共同してなした不法行為であり、この不法行為は被控訴人の社員がその職務に関し
てしたものであるから、被控訴人は民法七一五条により使用者として右不法行為に
対する責任を負わなければならない。
 と陳述した。
 原判決六枚目裏三行目の「慣行されている」とあるを「慣習として行なわれてい
る」、同九枚目表三行目の「第二号証の一ないし七」とあるを「第二号証の一ない
し七(ただし、第二号証の七は写し)」と各訂正する。
         理    由
 一、 当裁判所は、控訴人の本訴請求をいずれも理由がないと判断するが、その
理由の詳細は、次に付加訂正するほかは、原判決の理由欄に記載のとおりであるか
ら、これを引用する。
 <要旨>二、 原判決一一枚目裏四行目の「本件荷渡指図書」から同一三枚目裏八
行目の「そして、」までを削除し、ここに「本件荷渡指図書は法律が直接に
は規定していない証券であつて、商法所定の倉庫証券とはその性質・効力を異にす
るものであることは明らかである。一般に、寄託者から受寄者たる倉庫業者に対し
荷渡先を指定したうえこれに受寄物たる商品を引き渡すことを依頼するいわゆる荷
渡指図書(または荷渡依頼書)が、荷渡先から第三者に交付されたのちであつて
も、特段の事情のない限り、寄託者において受寄者に対する通知により依頼(指
図)を撤回することができると解するのが相当である(最高裁判所昭和三五年三月
二二日第三小法廷判決、民集一四巻四号五〇一頁参照)。そして、荷渡指図書の性
質に関しては、荷渡指図書の所持人は弁済受領資格を有するにとどまり、受寄者
(被指図人)に対する荷渡指図書記載の物品の引渡請求権を有せず、荷渡指図書の
引渡を受けることにより右物品につき第三者に対抗しうる所有権を取得するもので
もないと解すべきであるから、この性質に鑑み、右特段の事情とは、受寄者による
引受ないし荷渡指図書の所持人に対する引渡をいい、従つて、これらの特段の事情
のない限り、寄託者は、荷渡指図書の呈示後でも、受寄者に対する意思表示によ
り、有効に荷渡指図の撤回をすることができ、何人にも右撤回の効力を主張するこ
とができると解すべきである。
 ところで、本件においては、控訴人より右特段の事情についてはなんら主張・立
証がないのであるから、被控訴人は受寄者(倉庫業者)に対する通知により本件鋼
材の引渡依頼を撤回することができるものであるところ、原審の証人Aの証言及び
弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一号証の一、二、原審の証人
Bの証言によつて真正に成立したと認められる同第二号証の一ないし六、右証人
A、同Bの各証言によれば、被控訴人は昭和四三年一〇月一五日Aの代理人である
その兄との間において、本件鋼材等の売買契約を合意解除したうえ、その翌日頃右
受寄者に対し本件鋼材の引渡を差し止めるよう、引渡依頼を撤回したものであるこ
とが認められる。
 そうすれば、控訴人は本件荷渡指図書によつて本件鋼材を受領する資格をも確定
的に失うことになつたものといわなければならない。控訴人がこのような受領資格
を確定的に失うに至るのは、荷渡指図書の性質・効力から当然生ずるものである。
以上により、控訴人が本件荷渡指図書の所持人であることを理由に、被控訴人に対
し本件鋼材の引渡請求権を有しないことはもちろん、単にその受領資格をも有しな
いことになつたのであるから、控訴人の鋼材引渡請求が右いずれの意味におけるも
のとしても、その請求の理由のないことは明らかである。また、控訴人が右の受領
資格を確定的に失うに至るのは、荷渡指図書の性質・効力から当然生ずるものであ
ることは前記のとおりであるから、このことと被控訴人とAとの売買契約の解除に
より第三者である控訴人がAとの売買契約により取得した権利が害されない(民法
五四五条一項但書)ということとは別問題である。従つて、民法五四五条一項但書
に関する控訴人の主張も採用の限りでない。(控訴人がAとの売買契約に基づき本
件鋼材の所有権を現実に取得したとして、その所有権に基づき被控訴人に対し右鋼
材の引渡を請求していないから、この点についでは判断しない。)。」を加える。
 同一四枚目表四行目の「なお」とあるを「更に」と改め、同六行目「右記載行
為」の前に「前述のような荷渡指図書の性質・効力からみて、」を加え、同八行目
の「は困難」とあるを「のできないことは明らか」と改める。
 原判決一四枚目表九行目から一六枚目表一行目までの二の全文を削除し、同一六
枚目表二行目の三を二と改め、同行目の「いずれも」の前に「その余の点について
判断するまでもなく、」を加え、同一六枚目裏九行目の「これ」とあるを「右撤
回」と改める。
 三、 そうすれば、控訴人の本訴請求をいずれも棄却した原判決は結局において
相当であり、控訴人の控訴は理由がないから、これを棄却すべきである。よつて、
訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 満田文彦 裁判官 真船孝允 裁判官 鈴木重信)

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