弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定を取り消す。
     本件を和歌山地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 本件抗告理由は、別紙抗告理由書記載のとおりであつて、これに対する当裁判所
の判断は、次のとおりである。
 破産債権者の同意による破産廃止においては、債権届出期間内に届出をなした総
破産債権者の同意のみを要するという見解と債権届出期間経過後破産法第三五一条
第一項に定める異議申立期間経過前に届出をなした破産債権者がある場合には、な
お、これらの者全員の同意をも要するという見解がある。そして、後者の見解は、
債権届出期間経過後右異議申立期間経過前に届出をなした破産債権者もまた同条第
二項により破産廃止の申立につき異議申立権を有することをその根拠とするのであ
る。
 しかし、破産法第三四七条第一項の規定は、破産債権者の同意による破産廃止の
要件を定めたものであつて、その同意を要する者の範囲を「債権届出の期間内に届
出を為したる総破産債権者」と明定している。しかも、実質的に考えて、この範囲
の破産債権者の同意があれば、破産宣告によつて一旦開始した破産手続をその目的
を達しないままで、中止し、もつて、破産者を保護しても破産法ないし破産廃止制
度の本来の精神に反するとはいえない。一方、同法第三五一条の規定は、債権届出
期間経過後同条第一項の定める異議申立期間経過前に届出をなした破産債権者もま
た同条第一項の異議申立権を有することを定めたに過ぎない。すなわち、右規定
は、これらの破産債権者にも破産廃止の申立につきその要件を欠いている等の異議
を申立てる機会を与えるを相当とするという見地から、単に異議申立権を与えたに
過ぎず、同法第三四七条第一項の同意権までも与えたものではなく、その異議申立
があつた場合には、同法第三五二条により、破産廃止の決定をなすに必要な条件が
具備するか否かにつき、意見を聴取される効果を生ずるだけであつて(もつとも、
これらの破産債権者も同法第一一二条により、破産廃止の決定に対しては即時抗告
をなし得る。)、右異議申立権を有するからといつて、直ちに、破産廃止につき、
これらの破産債権者の同意を得るを要すると断定することは妥当でない。もし、同
意による破産廃止につき、これらの破産債権者の同意をも得ることを要するという
見解に従うと、債権届出期間内に届出る熱意をもたず、しかも通常小数であるこれ
らの破産債権者の意思により、破産廃止が妨げられ、殊に、異議申立期間経過直前
に届出た破産債権者の同意までも得なければならないとすることは、その傾向を更
に助長し、不測の困難を破産廃止申立権者たる破産者に強いる結果となり、同意に
よる破産廃止制度の精神に反するものであるというべきである。
 <要旨>以上の次第であるから、破産債権者の同意による破産廃止においては、債
権届出期間内に届出をした破産債権者全員の同意を要するだけで、右期間経
過後破産法第三五一条第一項の定める異議申立期間経過前に届出をした破産債権者
の同意は、これを要しないものであると解するを相当とする。従つて、債権届出期
間内に破産債権の届出が全然なされない場合、又は届出があつたが全部取下げられ
た場合には、破産債権者の同意は不要となり、たとえ、右期間経過後異議申立期間
経過前に届出た破産債権者があつてもその同意を要しないで破産者は、適法に、破
産廃止の申立をなし得るわけである。
 本件についてみるに、記録によると、債権届出期間は当初昭和二七年一月七日ま
でと定められたが、後に同年四月三〇日までと変更せられ、右期間内に破産債権の
届出は、全然なかつたところ右期間経過後同年一一月四日に新潟県経済農業協同組
合連合会(但し昭和三三年三月三一日石井武次郎及び島得一に対し破産債権を譲
渡)、昭和二九年一月一九日に株式会社紀陽銀行、同年九月二二日にAからそれぞ
れ破産債権の届出がなされたことが認められる。そうすると、破産者たる抗告人
は、前説示により、債権届出期間経過後異議申立期間経過前に届出た右破産債権者
らの同意(又は、同意がない場合の担保提供)を要しないで、破産廃止の申立を適
法になし得る筋合であつて、以上と異つた見解に立ち、抗告人の破産廃止の申立を
不適法として却下した原決定は失当である。
 よつて、原決定を取り消し、本件を原裁判所に差し戻すのを相当と認め、主文の
とおり決定する。 (裁判長裁判官 井関照夫 裁判官 安部覚 裁判官 松本保
三)

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