弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
文京区長が原告に対し平成18年3月20日付け18文都建第674号をも
ってした行政情報非公開決定を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,文京区情報公開条例(平成12年文京区条例第4号。以下
「本件条例」という)に基づいて,文京区長に対し,ある一定の期間内に建。
築確認がされた建築計画概要書の2面及び3面全てを対象文書(行政情報)と
して,その公開請求をしたところ,これを非公開とする決定を受けたため,そ
の決定の取消しを求める事案である。
1関係法令の定め
(1)本件条例の定め(甲5)
ア本件条例2条2項は,本件条例において「行政情報」とは,実施機関の
職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画,写真,フィルム及び電磁
的記録であって,当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして,当該
実施機関が現に保有しているものというと定めている。
イ本件条例5条は,何人も,本件条例の定めるところにより,実施機関に
対し,行政情報の公開を請求することができると定めている。
ウ本件条例7条は,実施機関は,公開請求があったときは,公開請求に係
る行政情報に同条各号のいずれかに該当する情報(以下「非公開情報」と
いう)が記録されている場合を除き,公開請求者に対し,当該行政情報。
を公開しなければならないと定め,同条1号は「法令及び条例の定める,
ところにより,公にすることができないと認められる情報」を掲げている。
(2)建築基準法,建築基準法施行規則(昭和25年建設省令第40号)及び
文京区建築基準法施行細則(昭和58年文京区規則第27号。乙1。以下
「本件施行細則」という)の定め。
ア建築基準法93条の2は,特定行政庁は,確認その他の建築基準法令の
規定による処分並びに同法12条1項及び3項の規定による報告に関する
書類のうち,当該処分若しくは報告に係る建築物若しくは建築物の敷地の
所有者,管理者若しくは占有者又は第三者の権利利益を不当に侵害するお
それがないものとして国土交通省令で定めるものについては,国土交通省
令で定めるところにより,閲覧の請求があった場合には,これを閲覧させ
なければならないと定めている。
イ建築基準法施行規則11条の4第1項は,建築基準法93条の2の国土
交通省令で定める書類として,同施行規則別記第3号様式による建築計画
概要書等を定め,同施行規則11条の4第3項は,特定行政庁は,同条1
項の書類を閲覧に供するため,閲覧の場所及び閲覧に関する規程を定めて
これを告示しなければならないと定めている。
ウ本件施行細則36条ないし39条は,特定行政庁である文京区長が,建
築基準法施行規則11条の4第3項の閲覧の場所及び閲覧に関する規程と
して定めたものであり,その39条は,区長は,同条各号のいずれかに該
当する者に対し,概要書等(建築計画概要書を含む)の閲覧を停止し,。
又は禁止することができると定め,同条4号は,その閲覧禁止・停止対象
者として「建築物又は工作物を特定しない者」を掲げている。
2前提となる事実(当事者間に争いがない)。
(1)原告は,平成18年3月8日,文京区長に対し,本件条例に基づき,平
成17年4月1日から平成18年2月28日までに建築確認がされた建築計
画概要書の2面及び3面全てを対象文書(行政情報)として,その公開を請
求した(以下「本件公開請求」という。。)
これに対し,文京区長は,平成18年3月20日,本件公開請求に係る行
政情報の全部を非公開とする決定(18文都建第×××号。以下「本件非公
開決定」という)をした。。
(2)原告は,平成18年4月12日,本件非公開決定を不服として,文京区
長に対し,異議申立てをしたところ,同年8月23日,これを棄却する旨の
決定を受けたため,同年10月2日,本件訴訟を提起した。
3争点及び当事者の主張
被告は,本件公開請求に係る行政情報の全部を非公開とした理由として,当
該行政情報が本件条例7条1号に定める非公開情報である「法令及び条例の定
めるところにより,公にすることができないと認められる情報」に該当すると
主張するので,本件の争点は,本件公開請求に係る行政情報が同号の非公開情
報に該当するか否かである。
(1)被告の主張
本件条例7条1号の規定は,ある情報につき法令又は他の条例に非公開の
定めがある場合はその定めを優先させるという趣旨であるところ,本件施行
細則39条は,建築基準法及び同法施行規則の委任を受けて制定された規程
であるから上記の「法令」に該当し,かつ,同条4号は「建築物又は工作,
物を特定しない者」に対しては建築計画概要書の閲覧を停止又は禁止するこ
とができる旨を定めているから上記の非公開の定めに該当する。したがって,
本件公開請求に係る行政情報は,建築物又は工作物を特定しない場合として,
本件条例7条1号の非公開情報に該当する。
なお,建築計画概要書等の閲覧制度は,周辺住民の協力のもとに違反建築
物を未然に防止するとともに違反建築物の売買を防止することを目的とする
ものであり,建築計画概要書の写しを大量に一括で請求するなど上記閲覧制
度の目的を逸脱する者には閲覧をさせないことができると解されるから,建
築物等を特定しない閲覧を制限する本件施行細則に違法はない。
(2)原告の主張
本件施行細則39条4号は,概要書等の閲覧を拒絶することができる一場
合を示したにすぎず,概要書等に記載された情報を公にしてはならない趣旨
を定めたものではない。そもそも,建築基準法93条の2は,建築確認等に
関する書類を「閲覧させなければならない」としているのであるから,特定
行政庁がこれを制限することはできないはずである。また,原告が本件公開
請求で求めたのは「写しの交付」であって「閲覧」には含まれない。した,
がって,本件施行細則39条4号は,本件条例7条1号にいう非公開を定め
た法令には該当せず,本件公開請求に係る行政情報は,同号の非公開情報に
該当しない。
第3当裁判所の判断
1本件条例7条1号の趣旨について
本件条例7条1号が「法令及び条例の定めるところにより,公にすることが
できないと認められる情報」を非公開情報とした趣旨は,法令又は他の条例が,
わざわざある情報を非公開とする趣旨の定めを設けている場合は,その定めを
優先させ,当該情報については本件条例の適用においても非公開とすることに
あると解される。
このように,本件条例7条1号は,法令又は他の条例がある情報を非公開と
している趣旨を本件条例より優先させようというものであるから,法令又は他
の条例が,当該情報を全て非公開としている場合はもとより,ある特定の条件
を満たした場合にのみ公開するというように公開に関する条件設定をしている
場合も含まれると解するのが相当である。
2本件施行細則39条4号の定めと非公開情報該当性について
(1)ところで「法令」とは,一般に「法律」及び行政機関の定める法形式,,
である「命令」すなわち政省令や規則等を指し,本件条例7条1号にいう
「法令」もこのような意味内容を有するものと解されるところ,本件施行細
則39条の定めは,建築基準法を実施するための同法施行規則11条の4第
3項の委任に基づいて,特定行政庁である文京区長が定めた規程(規則)で
あるから,本件条例7条1号にいう「法令」に該当すると解される。そして,
本件施行細則39条は,1号ないし4号に該当する場合には,特定行政庁で
ある文京区長に対し,建築計画概要書等の閲覧を停止し,又は禁止する権限
を付与しており,文京区長が当該権限を行使して閲覧を停止又は禁止した場
合には,その結果として,建築計画概要書等に記載された情報が当該閲覧請
求者に対して開示されないこととなる。
(2)そうすると,特定行政庁である文京区長が,本件条例上の実施機関とし
て保有する建築計画概要書について,本件条例に基づき公開請求を受けた場
合であっても,文京区長が,本件施行細則39条1号ないし4号に該当する
として,当該公開請求をした者への閲覧を禁止することが相当であると判断
した場合には,その判断が裁量権の逸脱,濫用に当たるものでない限り,当
該建築計画概要書に係る情報は,法令の定めるところにより,公にすること
ができないと認められる情報として,本件条例7条1号の非公開情報に該当
すると解するのが相当である。
(3)この点につき,原告は,建築基準法93条の2は,国土交通省令で定め
る書類について,閲覧の請求があった場合には,これを閲覧させなければな
らないと定めているから,特定行政庁がこれを制限することはできないと主
張する。
しかしながら,建築基準法は,建築物の敷地,構造,設備及び用途に関す
る最低の基準を定めて,国民の生命,健康及び財産の保護を図るという目的
の下に制定された法律であり(1条,また,同法93条の2において閲覧)
の対象とされている書類は,建築物の建築基準法令への適合性を担保するた
めの処分等に関するもので,当該処分等に係る建築物若しくは建築物の敷地
の所有者,管理者若しくは占有者又は第三者の権利利益を不当に侵害するお
それがないものとして国土交通省令で定めるものに限定されていることから
すると,同条による閲覧の制度は,建築物の所有者等の権利利益に配慮しつ
つ,当該建築物の周辺住民及びこれを取得しようとする者の生命,健康及び
財産の保護を図るため,これらの者に対し,当該建築物が違反建築物である
か否か,その建築物によって自らの敷地や建築物等がどのような影響を受け
るかなどを知らせるために設けられた制度であると解される。したがって,
たとえば自らの営業活動等による利益のために閲覧請求をする場合など,明
らかにこの制度の趣旨と異なる目的で閲覧請求をする場合にまで閲覧を認め
ることは,そもそも同条が予定していない事態であって,法は,このような
いわば濫用的な閲覧請求の場合まで保護する趣旨ではないと解すべきである。
そうすると,本件施行細則39条4号に定める「建築物又は工作物を特定し
ない者」からの閲覧請求の場合には,上記のような閲覧制度の趣旨にそぐわ
ない濫用的な閲覧請求である蓋然性が極めて高いから,そのような者に対し
て区長が閲覧を停止又は禁止することができるとした同号の定めが,建築基
準法93条の2に違反して無効であるということはできない。
また,原告は「閲覧」と「写しの交付」は異なるから「写しの交付」,,
を求める情報公開請求の場合には,本件施行細則39条4号によって「閲
覧」が禁止されるものであっても「写しの交付」はされるべきであるという
趣旨の主張もするが「閲覧」と「写しの交付」は異なるからといって,,
「閲覧」を禁止したものの「写しの交付」を認めていたのでは,閲覧の停止
又は禁止を認めた同号の規定が全く無意味になるから,同号の規定は,閲覧
が停止又は禁止される場合には当然に写しの交付等の方法による情報開示も
許さない趣旨を含むものと解すべきである。
3本件へのあてはめ
以上に検討したところを本件にあてはめると,原告の本件公開請求は,平成
17年4月1日から平成18年2月28日までに建築確認がされた建築計画概
要書の2面及び3面全ての公開を求めるというものであり,建築物又は工作物
を特定しない請求であることが明らかである。そして,原告は,本件公開請求
の目的につき,不動産に関連する情報が積極的に開示され流通することは,不
動産の流動化・証券化にとって不可欠の要素であり,本件公開請求はこのよう
な社会の要請に応えるものである旨を主張するが,そのような目的は,前記の
ような建築基準法93条の2の閲覧制度の趣旨に沿わないいわば濫用的な閲覧
請求であり,このような請求に対して,文京区長が本件施行細則39条4号に
該当するとして建築計画概要書の閲覧を禁止するとした判断には,何ら裁量権
の逸脱,濫用があるとは認められないから,本件公開請求に係る行政情報は,
本件条例7条1号に定める非公開情報に該当すると認められる。
したがって,本件公開請求に係る行政情報の全部を非公開とした本件非公開
決定は適法である。
第4結論
以上によれば,原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の
負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり
判決する。
東京地方裁判所民事第3部
定塚誠裁判長裁判官
古田孝夫裁判官
工藤哲郎裁判官

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛