弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人小林彌之助の上告理由第一点について。
 第一審における被告本人B(被上告人)に対する臨床訊問が途中で、立会の医師
の勧告によつて打ち切られ、上告人側に反対訊問の機会が与えられなかつたことは、
所論のとおりである。
 しかし、右の場合、裁判所が本人訊問を打ち切つた措置を違法と解し得ないこと
は、民訴二六〇条の趣旨からして当然であり、その後、再訊問の措置を採らなかつ
たのも、右本人の病状の経過に照らし、これを不相当と認めたためであることが、
記録上窺い得られるところである。従つてこのように、やむを得ない事由によつて
反対訊問ができなかつた場合には、単に反対訊問の機会がなかつたというだけの理
由で、右本人訊問の結果を事実認定の資料とすることができないと解すべきではな
く、結局、合理的な自由心証によりその証拠力を決し得ると解するのが相当である。
(なお、上告人が第一、二審において異議を述べ、または被上告人本人の再訊問を
申請したような事実は記録上認められない)。しからば、原判決には所論の違法は
なく、論旨は採用し難い。
 同第二点について。
 理由齟齬をいうけれども、その実質は、原審の適法になした証拠の取捨、事実認
定を非難するに帰し、採用できない。
 同第三点について。
 所論は、原審口頭弁論終結後に生じた事実を前提とするもので、採用に値しない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官小谷勝重の左記少数意見
を除き、裁判官一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官小谷勝重の少数意見(論旨第一点に対する)は次のとおりである。
 民訴二九四条一項(同三四二条により当事者訊問に準用)の反対訊問権は、主訊
問による供述とは異なつた、或はそれとは全く正反対な供述、偽証の露呈並びに供
述の信憑性を明らかにせんこと等を目的とするものであるから、反対訊問の機会を
与えない供述は、その後の再訊問と相俟つか、または反対訊問権者において積極的
にその訊問権を拠棄したものと認められる場合でない限り、主訊問による供述だけ
では、一方的な訊問でいまだ完結しない、供述としては未完成なものと解すべきで
あり、したがつて該供述はいまだ裁判の資料となし得ないものと解するを正当と考
える。そして本件の場合、反対訊問権者たる上告人において積極的に反対訊問を抛
棄したものと認められる資料は記録上窺い得ないのである。されば論旨は理由があ
り、右供述を証拠に採つた原判決はこの点において破棄を免れないものと思料する。
 なお、多数意見中「なお上告人が第一、二審において異議を述べ、また被上告人
本人の訊問を申請したような事実は記録上認められない」との枯弧内の判示は、そ
の趣旨(1)上告人において、反対訊問の機会を与えられず、したがつて本件訊問
の結果は証拠資料たり得ない旨の異議を述べない限り、責問権の拠棄として裁判所
は該供述を証拠とすることができるとの趣旨の判示と解せられるのであるが、多数
意見も判示する如く、本件の場合の訊問の打ち切り及び裁判所が職権(民訴三三六
条)による再訊問の措置を採らなかつたことについては何等の違法も瑕疵も存しな
いのであるから、これを責問権の一事由の場合と解することはできないものと考え
る。
 次に(2)右の如く上告人Bのその後の病状の経過に照し民訴二六〇条の趣旨に
従つて、裁判所すら再訊問を不相当と認めたくらいであるから、上告人が再訊問の
申請をしなかつたのは当然のことであつて、これが再訊問の申請をしなかつたこと
をもつて、恰かも責問権の拠棄に当るが如く判示することは、わたくしの到底賛同
し難いところである。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克

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