弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役二年六月に処する。
     押収してある腰紐(大阪高等裁判所昭和四五年押一一七号の六)は、こ
れを没収する。
         理    由
 弁護人上辻敏夫の上告趣意第一点について。
 所論は、刑法二〇〇条は憲法一四条に違反して無効であるから、被告人の本件所
為に対し刑法二〇〇条を適用した原判決は、憲法の解釈を誤つたものであるという
のである。
 よつて案ずるに、刑法二〇〇条は、尊属殺を普通殺と区別してこれにつき別異の
刑を規定している点ではいまだ不合理な差別的取扱いをするものとはいえないけれ
ども、その法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限つている点において、立法目的
達成のため必要な限度を遥かに超え、普通殺に関する刑法一九九条の法定刑に比し
著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法一四条一項に違反して無
効であるとしなければならず、したがつて尊属殺にも刑法一九九条を適用するのほ
かはないことは、当裁判所昭和四五年(あ)第一三一〇号同四八年四月四日大法廷
判決の示すとおりである。これと見解を異にし、刑法二〇〇条は憲法に違反しない
として、被告人の本件所為に同条を適用している原判決は、憲法の解釈を誤つたも
のにほかならず、かつ、この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、
所論は理由があることに帰する。
 同第二点および第三点について。
 所論は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらな
い。
 よつて、刑訴法四〇五条一号後段、四一〇条一項本文により原判決を破棄し、同
法四一三条但書により被告事件についてさらに判決することとする。
 原判決の確定した事実に法律を適用すると、被告人の所為は刑法一九九条に該当
するので、所定刑中有期懲役刑を選択し、右は心神耗弱中の犯行であるから、同法
三九条二項、六八条三号により法律上の減軽をし、その刑期範囲内で被告人を処断
すべきである。ところで、本件は、幼いころから不遇ながらも被害者である養父の
手で養育された被告人が、自己の夫のした若い他の女性との不始末に心を痛め、つ
いに自殺を考えるようになり、当時たまたま勤め先を解雇された一人暮しの養父の
身を案じた結果、自殺の道連れにしようとして、これを殺害するにいたつたもので
ある。養父は、日ごろから酒癖がよくなく、また年令もすでに六〇歳をこえており、
被告人が自殺したのちには、どのように他人に迷惑をかけるかも知れないと深く憂
慮していた被告人の心境は、十分察せられるけれども、夫の不始末には養父に何ら
の責任がないばかりでなく、犯行の際、被告人が養父に嘘をいつて睡眠薬をのませ
て無抵抗にしたうえ、所在の腰紐でこれを窒息死させていること、その他被告人の
本件犯行後の心境、家庭の状況等諸般の情状にかんがみると、被告人を前記刑期範
囲内で懲役二年六月に処するのを相当とする。よつて、押収してある腰紐(大阪高
等裁判所昭和四五年押一一七号の六)は、刑法一九条一項二号、二項本文によりこ
れを没収し、第一審における訴訟費用は刑訴法一八一条一項但書を適用して被告人
に負担させないこととして主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官岡原昌男の補足意見、裁判官田中二郎、同下村三郎、同色川
幸太郎、同大隅健一郎、同小川信雄、同坂本吉勝の各意見および裁判官下田武三の
反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官岡原昌男の補足意見は、次のとおりである。
 本判決の多数意見は、刑法二〇〇条が普通殺のほかに尊属殺という特別の罪を設
け、その刑を加重すること自体はただちに違憲とはいえないけれども、その加重の
程度があまりにも厳しい点において同条は憲法一四条一項に違反するというのであ
るが、これに対し、(一)刑法二〇〇条が尊属殺という特別の罪を設けていること
がそもそも違憲であるとする意見、および(二)刑法二〇〇条は、尊属殺という罪
を設けている点においても、刑の加重の程度においても、なんら憲法一四条一項に
違反するものではないとする反対意見も付されているので、わたくしは、多数意見
に加わる者のひとりとして、これらの点につき若干の所信を述べておきたい。その
内容は、当裁判所昭和四五年(あ)第一三一〇号同四八年四月四日大法廷判決にお
いて述べたわたくしの意見と同趣旨であるから、ここにこれを引用する。
 裁判官田中二郎の意見は、次のとおりである。
 私は、刑法二〇〇条の規定が憲法一四条に違反して無効であるとする本判決の結
論には賛成であるが、その判決の理由には同調することができない。その理由は、
当裁判所昭和四五年(あ)第一三一〇号、同四八年四月四日大法廷判決において述
べた私の意見と同趣旨であるから、それをここに引用する。
 裁判官小川信雄、同坂本吉勝は、裁判官田中二郎の右意見に同調する。
 裁判官下村三郎の意見は、次のとおりである。
 わたくしは、本判決が、原判決を破棄し、刑法一九九条を適用して、被告人を懲
役二年六月に処した結論には賛成であるが、多数意見が原判決を破棄すべきものと
した事由には同調し難いものがある。その理由は、当裁判所昭和四五年(あ)第一
三一〇号同四八年四月四日大法廷判決において述べたわたくしの意見と同趣旨であ
るから、ここにこれを引用する。
 裁判官色川幸太郎の意見は、次のとおりである。
 私は、多数意見の説示のうち、刑法二〇〇条が身分による差別的取扱いの規定で
あるとする点、および、これが憲法一四条一項に違反するとの結論には賛成である
が、尊属殺人につき普通殺人と異なる特別の罪を規定することが、憲法上許容され
た範囲の合理的差別であるという見解には、同調することができないのである。そ
の理由は、当裁判所昭和四五年(あ)第一三一〇号同四八年四月四日大法廷判決に
おいて述べた私の意見と同趣旨であるから、ここにこれを引用する。
 裁判官大隅健一郎の意見は、次のとおりである。
 私は、刑法二〇〇条の規定が憲法一四条一項に違反して無効であるとする本判決
の結論には賛成であるが、その判決の理由には同調することができない。その理由
は、当裁判所昭和四五年(あ)第一三一〇号同四八年四月四日大法廷判決において
述べた私の意見と同趣旨であるから、それをここに引用する。
 裁判官下田武三の反対意見は、次のとおりである。
 わたくしは、憲法一四条一項の規定する法の下における平等の原則を生んだ歴史
的背景にかんがみ、そもそも尊属・卑尊のごとき親族的の身分関係は、同条にいう
社会的身分には該当しないものであり、したがつて、これに基づいて刑法上の差別
を設けることの当否は、もともと同条項の関知するところではないと考えるもので
ある。しかし、本判決の多数意見は、尊属・卑属の身分関係に基づく刑法上の差別
も同条項の意味における差別的取扱いにあたるとの前提に立つて、尊属殺に関する
刑法二〇〇条の規定の合憲性につき判断を加えているので、いまわたくしも、右の
点についての詳論はしばらくおき、かりに多数意見の右の前提に立つこととしても、
なおかつ、安易に同条の合憲性を否定した同意見の結論に賛成することができない
のである。その理由は、当裁判所昭和四五年(あ)第一三一〇号同四八年四月四日
大法廷判決において述べたわたくしの意見と同趣旨であるから、それをここに引用
する。
 検察官横井大三、同横溝準之助、同山室章 公判出席
  昭和四八年四月四日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    石   田   和   外
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    小   川   信   雄
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝
 裁判官田中二郎、同岩田誠、同下村三郎、同色川幸太郎は、退官のため署名押印
することができない。
         裁判長裁判官    石   田   和   外

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