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平成24年12月25日宣告平成20年第591号,第699号
判決
主文
被告人を懲役3年及び罰金1500万円に処する。
未決勾留日数中80日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは,金5万円
を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から5年間その懲役刑の執行を猶予
する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成6年7月20日から平成18年8月18日までの間,大阪市a
区b町c丁目d番e号(当時)に本店を置き,コンピュータソフトウエアの開発
及び販売等を目的とする株式会社A(以下「A」という。)の代表取締役として,
業務全般を統括管理していたものであるが
第1平成9年5月30日から同18年8月18日までの間はAの取締役であ
り,その後引き続き同20年4月28日まではAの代表取締役であったB及
びAのスタッフオペレーションズディビジョン(以下「SOD」という。)統
括部長代理であったCらと共謀の上
1被告人が議決権のすべてを自己の計算において所有し支配している株式
会社D(以下「D」という。)に対して,Aが,平成12年4月1日から
平成13年3月31日までの事業年度の業績を回復させるため,同月頃消
費者金融システムをDに総額約17億円でリースする契約を締結するなど
し,Dに対し同リース契約に基づく継続的なリース料債権を有していたと
ころ,Dに支払能力が無かったため,当初は被告人において,Dに資金を
貸し付けて,その支払いに充当させていたものの,その後もDからAに上
記リース料が支払われる見込みが無く,被告人がDに対する貸付けを止め
たため,このままDからの上記リース料の支払が滞り特別損失の計上に至
れば被告人やBの経営上の責任が問われかねない状況になったことから,
Aから株式会社E(以下「E」という。)を介してDに資金を提供し,あ
たかもDの資金でAに対し前記リース料が継続的に支払われているように
装って,上記責任を免れるとともに,被告人のDに対する前記貸付金の返
済にも充当させようと企て,被告人及びBの上記責任を免れる目的及び被
告人のDに対する貸付金の返済を行う目的で,被告人及びBにおいてAの
取締役としてその資産を適正に管理するなど忠実にその業務を遂行すべき
任務に背き,Eに対し,外注費を支払う理由がないのに,Dへの上記資金
提供の手段として,Eに対する外注費支払いの名目で,別紙1記載のとお
り,平成14年7月26日から同18年5月16日までの間,24回にわ
たり,大阪市a区fg丁目h番i号所在の株式会社F銀行(現株式会社G
銀行)H支店ほか4か所において,同支店ほか2行に開設されたA名義の
普通預金口座から,仙台市j区k町l丁目m番n号所在の株式会社I銀行
J支店ほか1行に開設されたE名義の普通預金口座に,合計17億797
5万円を送金し,もって,Aに対し,同金額相当の財産上の損害を加え
2前記契約に基づくリース料の支払い終了後も引き続き,AからEを介し
てDに資金を提供し,被告人のDに対する前記貸付金の返済に充当させよ
うと企て,被告人の利益を図る目的で,Bにおいて前記Aの代表取締役と
しての任務に背き,前記資金提供の手段として,前同様の名目で,別紙2
記載のとおり,平成18年10月25日から同19年3月22日までの間,
4回にわたり,前記株式会社G銀行H支店において,同支店に開設された
A名義の普通預金口座から,仙台市j区op丁目q番r号所在の株式会社
K銀行J支店に開設されたE名義の普通預金口座に合計1億9950万円
を送金させ,もって,Aに対し,同金額相当の財産上の損害を加え
第2株式会社L証券取引所(当時)に株式を上場していたAの有価証券報告書
を提出するに当たり,Aの取締役兼SOD部長として総務経理等の管理部門
全般を統括していたB,及び上記Cらと共謀の上,Aの業務に関し,平成1
6年4月1日から平成17年3月31日までの事業年度につき,同年6月3
0日,前記本店所在地のA事務所内に設置されたAの使用に係る入出力装置
から,開示用電子情報処理組織を使用して,内閣府の使用に係る電子計算機
に備えられたファイルに記録させる方法により,さいたま市s区tu番地v
所在のM財務局において,同財務局長に対し,Aの経常損失が6億1060
万2000円,当期純損失が9億9212万1000円であったにもかかわ
らず,当期に計上できない売上げを計上するなどの方法により,経常利益を
3億2289万1000円,当期純利益を2億3537万2000円と記載
した損益計算書を掲載する有価証券報告書を提出し,もって重要な事項につ
き虚偽の記載のある有価証券報告書を提出したものである。
(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
第1判示第1の事実(会社法違反)について
1争点
弁護人は,判示第1の事実について,被告人がBらと共謀したことはなく,被
告人には図利加害目的も故意もない旨主張し,被告人もこれに沿う供述をするの
で,これらの点につき補足して説明する。
2前提となる事実について
判示冒頭のとおり,被告人が平成6年7月20日から平成18年8月18日ま
での間Aの代表取締役として同社の業務全般を統括管理していたこと,また,判
示第1の事実のうち,Bが平成9年5月30日から平成18年8月18日までの
間はAの取締役であり,その後引き続き平成20年4月28日までAの代表取締
役であり,Eに対する外注費支払いの名目で,別紙1及び2記載のとおり,A名
義の預金口座からE名義の預金口座に送金がなされたこと自体は証拠上明らか
であるところ,さらに,関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
Aは,韓国内において,消費者金融業が発展することが見込まれたことから,
消費者金融業者等が顧客の与信状況を集約する個人信用情報センター(以下,
「情報センター」という。)を韓国内に設立し,Aの情報システムを情報セン
ターに売り上げることによってAの収益を上げるビジネスを視野に入れ,平成
12年12月20日,AのN支店を設立し,同支店の支店長には,同社のSO
Dの部長であったBが就任した。
そして,韓国の大手銀行などに共同出資を依頼するなど,情報センターの設
立に向けた活動は,Bの他,韓国内でコンサルタント会社の役員をしていたO
も行うこととなった。
その後,韓国内で消費者金融を発展させていくためには,情報センターとと
もに,消費者金融業者向けのコンピュータシステム(以下「消費者金融システ
ム」という。)を専用回線経由で複数の事業者に対して貸与する事業(以下,
「ASP事業」という。)も併せて展開すべきであるということになり,平成
13年3月14日,資本金10億ウォン(当時約1億円)で,Dが設立された。
なお,その設立費用等には,平成13年3月6日ころ,株式会社F銀行(現
株式会社G銀行)H支店の被告人名義の普通預金口座から引き出され,韓国の
Oの銀行口座に振り込まれた9000万円と,Bが直接韓国に持参した100
0万円の合計1億円が充てられたが,これに関しては,同日付けで,被告人か
らOに対し1億円を無担保無利息で貸し付けた旨の消費貸借契約書が作成さ
れた。
また,株主には,Oの他,同人の勧める韓国の大学教授のP,D設立の際協
力してもらった会計法人の職員であったQがなり,代表理事にはOが就任し
た。もっとも,その後,Qの株式は,同月15日に,また,Pの株式は,平成
14年2月8日頃に,それぞれOに売り渡された。
ところで,Aは,平成12年11月20日頃,平成12年4月1日から平成
13年3月31日までの事業年度(以下,事業年度については,事業年度の終
期の年月を用いて「平成13年3月期」などという。)の業績予想について,
通期の売上高を35億5500万円,経常利益を12億5000万円,当期純
利益を6億4000万円と発表していたが,平成13年2月頃になり,これに
含めていた情報センター設立に関する10億円程度の売上げを計上できる見
込みが立たなくなったことなどから,その業績予想を下方修正せざるを得ない
状況となり,これを免れるためには,同年3月中旬の時点で12億円の売上げ
を計上しなければならない事態となった。さらに,平成13年3月下旬頃にな
ると,4億円の売上げを計上できる予定であったRの案件が,翌期に持ち越し
になったことから,その分の売上げも足りない状況に陥った。
このような状況にあった平成13年3月31日ころ,Aは,S株式会社(当
時。以下「S」という。),Dとの間で,Aが,Sに対し,消費者金融システ
ムを16億円で売却した上,Aが,Sから,同消費者金融システムを総額17
億0994万円でリースを受け,リース料を,平成13年7月末日から,毎月
末日に,60回にわたり,月に2849万9000円を支払うとともに,さら
に,Aが,Dに対し,同じ条件で,同消費者金融システムをリースするとの内
容のファイナンスリース契約を締結した。
その結果,Aは,平成13年3月期に16億円の売上げを計上することがで
き,同期の決算を,売上高36億6870万3000円,経常利益12億62
30万9000円,当期純利益6億7591万1000円とすることができた
が,この16億円の売上げを計上できなかった場合には,経常損失が計上され
る見込みであった。
しかしながら,Dは,設立後,株式会社T(以下「T」という。)との間で
消費者金融システムの利用について契約を締結した以外に契約を締結するこ
とができず,収益が上げられない状況が続いた(なお,Tは,被告人が,Dが
Aから導入した消費者金融システムを用いて,韓国で消費者金融業を営もうと
考え,平成13年4月頃,被告人が100%出資して設立した会社である。)。
そのため,Dは,同年8月から平成14年6月までの間,被告人から合
計で33億8000万ウォン(3億3800万円相当)の貸し付けを受け
て,ハードウェアのリース料等設備にかかる経費やAに対するリース料の
支払いをしていた。
Dでは,平成14年6月頃,Oが代表者を退任し,Tに利用させていた消費
者金融システムの保守を担当していた職員1名を除き,Dの全従業員を解雇し
て,その業務をAN支店に引き継がせ,事実上閉鎖された。そして,Dでは,
平成14年7月22日頃,新たな代表者にAN支店の従業員であったUが就任
し,その後,OからUにDの株式を移転させる手続が行われた。その際,Uが
OからDの全株式を買い取った旨の平成14年8月28日付け契約書が作成
され,同年9月3日,株式会社F銀行(現株式会社G銀行)H支店の被告人名
義の普通預金口座から,Dの資本金に相当する10億ウォン(1億円相当)が
U名義の銀行口座に送金されて,同資金がUからOに送金されたが,同年9月
12日,同資金はOから上記被告人名義の銀行口座に返還されていた。
そして,平成14年7月頃になり,被告人が今後Dに貸し付けを行わない旨
の意向を示したことから,Dがリース料の支払いをできなくなるというおそれ
が生じ,そのようなことになれば,Aも平成15年3月期の決算にリース料の
残額を特別損失として計上しなければならないという事態に陥った。
そこで,BとCは,Aの従前の外注先であったEに外注費という名目で資金
を送金し,EからDに取引を装ってDに送金する,という方法を考えた(以下
「送金スキーム」という。)。
そして,Bは,平成14年7月25日頃,Eの代表取締役Vに対し,上
記送金スキームについて説明して協力を依頼したところ,Vはこれを了承
した。
その後,Aは,平成14年7月から平成18年5月にかけて,別紙1記載の
とおり24回に分けて,Eへ送金を行ったが,その具体的方法は,AとEの間
において内容虚偽のソフトウェア開発請負個別契約書を作成し,それに対応し
た請求書等を作成するなどして,あたかもこれらの契約に基づく正規の外注費
の支払いであるかのように装うものであった。すなわち,別紙1の各送金は,
Eとの間で消費者金融システムの開発を目的としたソフトウェア開発請負個
別契約を締結した旨の内容虚偽の契約書と,E名義の内容虚偽の請求書に基づ
いて行われていた。
そして,C及びSODに所属してAの経理等を担当していたWは,Eへの外
注費名目で行っていた送金について,可能な限り,多額の売上計上が可能な大
型案件の売上原価として会計処理をし,そのような処理が困難な場合は,Dの
Aに対するリース料の支払いを意図的に滞らせたり,Eへの送金を行わせない
などして対応していた。
以上のような方法により,判示のとおり,平成14年7月26日から平成1
8年5月16日までの間,合計24回にわたり,合計17億7975万円が,
AからE名義の普通預金口座に送金され,そのうち,Eに支払う手数料や各種
税金等を除いた残額の合計14億8896万円が,EからDの口座に送金され
た。
そして,Dに送金された14億8896万円のうち,12億3064万
3838円がAに対するリース料の支払いに充てられるとともに,1億0
702万8468円が被告人のDに対する貸付金の返済に充てられ,被告
人は,平成14年8月からほぼ毎月にわたって,その返済を受けていた。
上記の送金により,平成18年6月末をもって,DのAに対するリース料の
支払いが完了し,また,同年8月18日には,被告人が私的な事情からAの代
表取締役を辞任して,後任の代表取締役にBが就任した(もっとも,被告人は,
その後もAの発行済株式総数の約3分の1を保有する大株主であった。)が,
その後も送金スキームにより,別紙2記載のとおり,同年10月25日から平
成19年3月22日までの間,4回にわたり,合計1億9950万円がAから
E名義の普通預金口座に送金された。そして,Eに送金された金員のうち,同
社に支払う手数料や海外源泉税等を除いた合計1億6515万円が同社から
Dに送金され,そのうちの1億4868万6468円が貸付金の返済として被
告人に渡されていた。
その後,被告人とDとの間で,平成19年5月10日頃,Dが事業を廃業す
るため,同年4月30日の返済をもって,元金及び利息の支払いを終了するも
のとし,同年5月1日以降の元金及び利息については請求しない旨の金銭消費
貸借変更契約書及び覚書が交わされ(もっとも,被告人に最終の送金がなされ
たのは,同月7日であった。),それ以降,AからEへの送金が中止され,D
も閉鎖された。
3Bの供述の信用性について
以上の事実によれば,別紙1及び2記載の各送金は,取引の実体を伴わ
ず,Aに財産上の損害を与えるものであることは明らかであるところ,こ
のような送金を行うことになった経緯などについて,Bは,当公判廷にお
いて,概ね次のとおり供述する。
平成13年2月中旬頃,被告人から,Lのプレスリリースで発表してい
た売上げが見込めない状況になったので,平成13年3月期のAの売上げ
を16億円確保するため,韓国にASP事業を行う会社を立ち上げ,Aと
ソフトの使用許諾契約を締結するよう指示された。さらに,被告人から,
この会社の設立にあたり,資本金を自分で負担することや,Oを株主とし,
同人を中心に役員構成にすることなどを指示された。しかし,被告人が資
本金を出すということになると関連当事者取引に該当する可能性があった
ので,これが公にならないようにするため,被告人がOに対し個人で貸し
付けを実行してこれを資本金にすることとし,被告人の口座から引き出し
た1億円のうち,9000万円をOが自分の口座に振り込み,1000万
円を現金で韓国に持ち込んだ。そして,この立ち上げたDとAの取引につ
いて,被告人からリースにするよう指示があり,Sと打合せをした結果,
AとSが販売契約をし,さらにAとDで転リース契約をするという仕組み
にすることとなった。金額については,当初12億円ということで許可が
下りたが,Aの売上げが4億円足りなくなったことから,急きょ16億円
にすることで交渉を行い,最終的にその金額でリース契約を締結した。
その後,Dは,取引先が事実上T1社しかなかったことから,被告人か
ら資金を借りてリース料を支払っていたが,平成14年7月下旬頃になり,
被告人が,もうその資金を払わないなどと言い出した。しかし,被告人か
ら融資を受けないと,平成15年3月期にリースの残代金約14億円につ
いて特別損失としなければならないことになり,その理由を説明すること
になると,被告人がDの主たる経営者であるということが露見し,前期の
16億円の売上げが不正なものであったことも発覚してしまう危険が生じ
た。そして,そのような事態になれば,株主から追及され,調査が入って
実体が分かれば証取法違反で逮捕,起訴されたり,役員を解任されるなど
のおそれがあった。しかし,被告人の意思は固く,被告人がAで払うよう
方法を考えろと言ったので,Dへの送金を担当していたCと協議し,Aが
Eと取引をし,EがDと取引をしたような形にして資金を流し,それを原
資にDからリース料をAに支払ってもらうというスキームを考え,被告人
にこれを提案して了承を得た。そして,EのV社長にこのスキームを実行
することの承諾を得たことやEとの契約を他の大型案件の原価に組み入れ
たことなどについても被告人に報告し,その了承を得ていた。ただ,第1
回の送金に際しては,時間がなかったことから,稟議書や代表取締役印押
印申請書を作成する手続をとっていないが,Eとの間の契約書には,被告
人が自ら代表取締役の印を押した。
上記のような送金をすることにより,平成18年6月末の支払いをもっ
て,DのAに対するリース料の支払いが完了することとなったが,そのこ
ろから,被告人に対し,何度も,Dを清算して閉鎖することなどを申し入
れた。しかし,被告人から,Dに貸し付けたおよそ3億円についてはいか
なる方法でも返すようになどと,Dは閉鎖せず,Eへの送金を続ける旨の
指示があり,同年8月18日に被告人がAの代表取締役を辞任し,自分が
代表取締役に就任した後も,被告人からDへの貸付金を返済することを引
継事項とされていた。また,同年9月末頃,被告人宅を訪れ,Dを閉鎖さ
せて欲しい,借入の返済も打ち切らせて欲しいとお願いしたが,被告人か
らどうしても返さなければならないと言われ,不正送金を強要されたので,
別紙2番号1,2のとおりEに送金した。さらに,平成19年1月頃にも,
Wとともに,再度被告人に対し,Dからの返済を止めることを申し入れた
が,被告人から,残額の半分くらいは返して欲しい,返してくれるまでは
Dは閉鎖しないと言われた。そこで,別紙2番号3,4記載のとおり,E
に送金を続けた。そして,平成19年4月になり,ようやく被告人がDか
らの全額回収をあきらめてくれた。
以上のとおり供述する。
Bの供述は,先に認定した証拠上争いなく認められる事実と符合して
おり,自然で十分納得できる内容である。すなわち,Dの設立経緯や実
態に関しては,Aの平成13年3月期の決算内容,SやDとのリース契
約の内容,OやUを株主に据える際の被告人とOやUとの各金銭消費貸
借契約の内容,被告人がDに多額の金銭を貸し付けたことなどの客観的
な事実とよく符合している。また,Eを介して送金するスキームを実施
するに至る経緯に関しては,2回目以降の送金が,毎回,被告人が決裁
をしていた代表取締役印押印申請に基づき作成されていたA・E間の契
約書により行われていたことや,被告人自身,このA・E間の契約が架
空であると知っていたことなどといった事実とよく符合している。さら
に,Dがリース料を完済した後の送金スキームの実施に関しては,Dに
着金した金額の約90%が被告人のDに対する貸付金の返済に充てられ
ていることや,Dのリース料の支払いが完済してから一定期間,送金ス
キームの利用がなかったという事実とよく符合している。
②のみならず,Bの供述は,他の証人の供述と符合し,あるいはこれに
裏付けられている。
まず,Cは,Dの設立経緯や実態について,「Bから,被告人が出資
して韓国にASP事業を行う会社を立ち上げ,その会社にAが売上げを
上げるので検討するように言われた。この話が出る前の時点では,Aの
平成13年3月期の当初の業績予想値に比べて,売上高や経常利益など
は大幅に少なくなる見込みであった。検討した結果,被告人が代表者で
あり,大株主でもあるAと被告人が出資した会社との取引になると,関
連当事者取引として有価証券報告書に記載しなければならず,対外的に
お手盛り的な売上げとみられるという問題点があった。直接の出資者が
被告人だと,どう見ても関連当事者取引であることが明らかになるので,
被告人から金を借りた人が直接の出資者になるという形をとる方がいい
のではないかということをBに伝えた。リース契約の金額が最終的に1
6億円になったのは,平成13年3月期の経常利益を12億円のライン
に合わせるためであると理解していた。そして,D設立後は,毎月,そ
の損益と資金の状況について資料を被告人に送って,Dの資金の必要額
について被告人に報告し,被告人にDへの貸付けをお願いしていた。」
などと供述し,また,Eを介して送金するスキームを実施することとな
った経緯については,「平成14年7月ころ,被告人が,Dへの貸付に
ついては,もう払わないと言い出したので,Bと一緒に引き続き貸し付
けをするようお願いに行くと,被告人は,『もう払わん,会社の方で何
とかせえ。』と言った。そこでBと相談した結果,売上原価のところで
外注費で用意するしかないかなということになり,この方法については,
Bから被告人に伝えることになった。Eを介してDに資金提供をしなか
った場合には,AのDに対する未収金がたまって損失になってしまう可
能性が高かったと思う。送金に必要な契約書類の押印については,1回
目のもの(平成14年7月)は,稟議書や代表取締役印押印申請による
決裁をとっていないが,自分とBが被告人に口頭で説明し,被告人の了
解をもらった。その後のものは,代表取締役印押印申請書の決裁を被告
人から直接もらって送金していた。Dの代表者がOからUに交代すると
きも,その進捗状況を報告書にまとめて被告人に提出している。」など
と供述している。
また,平成14年7月頃からDの業務を担当していたWは,「AとE
との間の架空契約及び送金について,被告人に対し,主に事前に口頭で
内容を説明して承認を得,その内容に沿った稟議書と契約書を作成し,
代表取締役印押印申請書を添付して決裁を得ていた。その作業の進捗状
況については,週間作業報告書の形式で報告していた。DのAに対する
リース料が未収になるときやEの架空契約分を他の大型案件に付けられ
ず,Eに送金できないときなどは,被告人にその旨報告し,了承を得て
いた。リース契約が終了した後,自分やBは,被告人にEに対する送金
の打ち切りを再三申し入れていたが,被告人から貸したものは返して欲
しいなどと言われた。」などと,被告人がEへの送金が架空契約に基づ
く不正なものであることを認識していたことを裏付ける内容を,各送金
の状況を交えながら具体的に供述している。
さらに,Oは,「自分自身ではASP事業の会社を立ち上げる考えは
全くなかったが,Bから,被告人が資金を出すので,この会社の株主と
代表者になってくれと依頼された。金を出したり個人保証をしたりする
ことができないなどと言って最初は断ったが,資金は被告人が出すとい
うことであり,また,Bから大丈夫だといわれ,被告人からも電話で直
接『大丈夫,そんなことさせへんから,心配せんでいい』などといわれ
たので,この依頼を引き受けた。自分自身が事業をするという考えはな
く,被告人に名前を貸すというぐらいの感覚だった。自分の会社じゃな
いので,Dの財務内容をAに報告する義務があると考え,毎月Cに報告
して被告人に承認をもらうという形を取っていた。AとDとのリース契
約の金額が12億円から16億円に急に上がったときも,被告人に電話
で『自信がない,責任がとれない。』などと言うと,被告人は『大丈夫,
大丈夫,そんなもん,おれの会社やからそんなん心配せんでええで。』
と言ってくれたので,大丈夫だろうと思った。平成13年11月頃,情
報センターが韓国で事業化できないことが判明し,被告人がやってきて,
『6か月やるからDを黒字転換できるようにせえ。でけへんかったらも
う終わりや。』などと言われたが,結局顧客の獲得ができなかったので,
平成14年6月にDの代表理事を辞めることになった。」などと供述す
る。
これらのうち,Wについては,Bとかねて愛人関係にあり,当公判廷
における供述当時も同人と関係があることが窺われることから,その供
述の信用性については慎重に検討する必要がある。しかしながら,Cや
Oについては,各供述時点において,Bはもとより,Aとも関係がある
ことは窺われないのであって,このような事情を踏まえると,同人らが
ことさらに虚偽の供述をしなければならないような事情は見いだせない
のである。そして,Wの供述も,Dへの送金に関する基本的な事実関係
については,Cのそれと軌を一にするものであり,その限りにおいては
信用性を認めることができるというべきである。そうすると,Bの供述
は,C,W,Oの供述にも符合するというべきである。
③以上からすると,Bの供述は,基本的に信用することができるという
べきである。
これに対し,弁護人は,まず,①韓国におけるASP事業はBとOが企
画したものであり,Dの商号はOの発案により決まり,従業員の人選や事
業活動等はすべてBとOが決定していること,②BらがD設立後,その資
金を自由に使っていること,③Dの株式移転に際して発生する証券取得税
を被告人が一切負担していないこと,④Eを経由した資金移動がB自身の
判断で金額や時期を決めていることやDの財務内容について被告人にほと
んど報告が行われていないこと,⑤被告人には,Dの解散が知らされてお
らず,残余財産の分配も行われていないことなどからすると,Dは被告人
の支配する会社とはいえないから,被告人の出資によりDが設立されたと
のBの供述は不自然である旨主張する。
しかしながら,①については,確かに,ASP事業は,被告人の企画し
たものではないけれども,平成13年3月期のAの売上げを確保するため
に,既に企画のあった事業をする会社を被告人が立ち上げようと考えたと
しても不自然ではないし,Bの供述によれば,役員構成や具体的な営業活
動はOに一任すると被告人が述べていたというのであって,このことから
すると,従業員の人選や給与等をBとOが決めていたことも十分納得でき
る。次に,②については,確かに,関係証拠によれば,Bが交際費等の名
目でかなりの金額を費消しており,平成14年春頃には,AN支店やDでの交
際費等の支出について,被告人から叱責されて解雇されかかったことは認められ
るけれども,Oの供述によれば,これらは営業活動として接待をしていたときの
費用であり,韓国では日本とは飲食代金のシステムがかなり違っていて金がかか
るというのであって,このような供述に照らすと,Bにおいて経費節約の配慮が
不足していたことは窺えるものの,Bらが個人的な遊興のためにこれらの金を使
っていたとはいえない。また,③については,関係証拠によれば,確かに,
OからUへのDの株式移転に際し,その証券取得税を被告人が一切負担し
ておらず,Oにおいてその申告手続をしてこれを納付していることは認め
られるけれども,B及びOの供述によれば,その金銭はAが負担し,Oが
Bからもらって払ったというのであり,また,このころには,被告人はD
にこれ以上の貸付をしないと言っていたのであるから,証券取得税につい
て,Oが納付手続をしていることや,被告人がこれを負担しなかったこと
が,被告人がDに出資したことと必ずしも矛盾するものではない。むしろ,
被告人名義の普通預金口座からDの資本金に相当する金銭がU名義の銀行
口座に送金された後,これがUからOに送金され,さらにOから上記被告
人名義の銀行口座に返還されていたという資金の流れなどに照らすと,被
告人がOやUに対する貸付の形式をとってDに出資していると考えるのが
自然である。さらに,④については,確かに,関係証拠によれば,稟議決
裁が資金移動後に行われていることが多いことが認められ,その金額や時
期についてもBらの判断に基づいて行われていることは窺えるけれども,
Bの供述によれば,これらはEに対する不正送金のつじつまを合わせるた
めに行われているもので,事後決裁であることから,直ちに被告人の了解
なしに行われたということにはならないし,Wの供述によれば,平成17
年以降被告人が決算資料を見せてくれと言って報告を求めたことはないこ
とは,証券取引等監視委員会に対する質問調書に記載のとおりであるが,
月単位,週単位で作成していた資金管理表に基づいて定期的に報告を行っ
ていたというのであって,被告人に対しDの財務内容について全く報告が
なされていなかったとはいえない。そして,⑤については,確かに,弁護
人が主張するような事実は認められるけれども,Dへの貸付金の返済打ち
切りに関するBの被告人に対する依頼は,Dの解散を前提にしていたもの
で,被告人が上記貸付金の全額回収をあきらめた時点で,Dの解散を了承
し,残余財産の分配を受けることも放棄したといえるのであるから,弁護
人主張の事情は,被告人がDに出資しているとのBの供述に疑念を抱かせ
るものとはいえない。
また,弁護人は,Xの案件について売上げが取れないことは平成13年
4月になってから判明したのであるから,平成13年3月期末にこれが判
明し,リース金額を増額したとのBの供述は虚偽である旨主張する。しか
しながら,弁護人が指摘するメール(弁48の36枚目)の内容は,Yと
いう別の案件の3月の検収がXのハード設置の遅れのため4月に延期され
たことを報告するもので,弁護人が主張するような事実が判明したことを
意味するものではなく,これをもとにしたCの供述にも誤解があるという
べきであるから,この点に関する弁護人の主張もBの供述の信用性を揺る
がすものではない。
さらに,弁護人は,Bが被告人の代表取締役退任後に,被告人の反対を
押し切って,本業とは関係のない投資を行っていることなどからすると,
その後の不正送金を被告人から強要されたとするBの供述は不自然である
旨主張する。関係証拠によれば,確かに,弁護人が主張するような事実が
認められ,この部分に関するBの供述にはやや誇張があるようにも思われ
る。しかしながら,投資等とは異なり,平成13年3月期におけるAの利
益確保のためにDを設立し,被告人にDの資金援助をしてもらったという
ことから,不正送金による被告人への返済を断り切れなかったことは十分
理解できるところであり,それを強要されたと表現することが適切である
とはいえないにしても,被告人から返済を続けるように言われたという事
実がないのに,これがあるように虚偽の供述をしているとはいえない。
その他,弁護人がいろいろと主張するところを検討しても,Bの供述の
信用性に合理的な疑いを抱かせるには至らない。
4図利目的及び共謀等について
上記2で認定した事実に,同3のとおり信用性の認められるBの供述そ
の他の関係証拠を総合すれば,被告人は,発表していた売上げが見込めな
い状況になったことから,Bに指示して,平成13年3月期のAの売上げ
を16億円確保するため,関連当事者取引であることが発覚しないよう,
Oに個人で貸し付けた形にして1億円を出資してDを立ち上げ,上記約1
7億円の金額で,AとSが販売契約をし,さらにAとDで転リース契約を
したこと,その後,Dは,取引先が1社しかなく,被告人から資金を借り
てリース料を支払っていたが,平成14年7月下旬頃になり,被告人がも
うその資金を払わないなどと言い出したことから,これがないと,平成1
5年3月期に特別損失を出すことになり,Dの主たる経営者が被告人であ
ることが露見し,前記の16億円の売上げが不正なものであったことも発
覚してしまう危険が生じ,そのような事態になれば,株主から追及され,
調査が入って実体が分かれば証取法違反で逮捕,起訴されたり,役員を解
任されるなどのおそれがあったことから,BがDへの送金を担当していた
Cと協議し,AがEと取引をし,EがDと取引をしたような形にして資金
を流し,それを原資にDからリース料をAに支払ってもらうという仕組み
を考え,被告人もこれを了承して,別紙1記載のとおり合計17億797
5万円をEに送金させ,そのうちの14億8896万円をDに送金させて,
1億0702万8468円をDに対する貸付金の返済として受け取ってい
たこと,上記のような送金をすることにより,平成18年6月末の支払い
をもって,DのAに対するリース料の支払いが完了することとなったが,
被告人は,Bに対し,D対する貸付金を引き続き返済するよう指示し,代
表取締役を辞任した後も,別紙2記載のとおり,同様の方法で合計1億9
950万円をEに送金させ,そのうちの合計1億6515万円を同社から
Dに送金させて1億4868万6468円を上記貸付金の返済として受け
取っていたことが認められる。
これらの事実によれば,被告人は,Bらと共謀の上,両名の経営上の責
任を免れる目的及び被告人のDに対する貸付金の返済を行う目的で,判
示第1の1の送金を行い,さらに,被告人のDに対する貸付金の返済を
行う目的で,判示第1の2の送金を行ったと認めるのが相当である。
これに対し,弁護人は,被告人の持株数からすると,被告人以外の全員
の株主が解任決議に賛成しても被告人を解任することができない状態にあ
ったことなどを理由に,被告人において経営上の責任を追及されることを
恐れるといった保身目的を持つはずがないと主張する。
確かに,被告人がDに対する融資を止めた経緯や,被告人が代表取締役
辞任後もDに対する貸付金の返済を求め,これをさせていたことなどから
すると,被告人には,Bと異なり,Dに対する貸付金の回収目的の方が強
かったことが窺われるし,当時の商法の規定からすると,弁護人が指摘す
るように,経営上の責任を問われにくい立場にあったことは否めない。し
かしながら,当時の商法の規定によれば,少数株主であっても,取締役解
任の訴え(旧商法257条3項)や,Aの被告人に対する損害賠償につい
ての株主代表訴訟(同法266条,267条),さらには,取締役に対す
る損害賠償請求訴訟(同法266条の3)を提起できたのであり,役員の
経営上の責任を問う法的手段が全くないわけではない。そして,被告人は,
このような経営上の責任を問われることを恐れるBが考えたEを経由した
不正送金のスキームを了承し,これをさせていたのであって,被告人もこ
のような経営上の責任を問われることを全く恐れていなかったとはいえな
いから,弁護人の主張は採用できない。
5被告人の供述について
これに対し,被告人は,当公判廷において,「DはOがやりたいと言って
持ち込んだ企画により設立された会社であり,自分はOに金を貸しただけで
あって,自分の会社ではない。Dに対しては,平成14年6月を最後に貸付
をやめたところ,その後,Dのリース料の支払いについて,Bから『E使い
ますわ。』と言われただけで,詳しい説明は聞いていない。DがSに支払っ
ているリース料ついては,AがDを保証しているので,AがEを使ってこれ
を返すというくらいの認識しかなかった。当時,Eに流れた金が,Dに行く
という意識はなく,これによりどのようなコストがかかるかも知らなかっ
た。」などと供述する。
しかしながら,被告人の上記供述のうち,Dの出資に関する部分は,上記
の争いなく認められるDの株主がOからUに交代した際の資金の流れなどの
事実に照らして不自然であるし,Eへの送金についての被告人の認識に関す
る部分も,Aが保証により支払わなければならないリース料をEに流した金
で支払う理由を理解しないままこれを了解していたというのはいささか不自
然であるし,Eに対する送金が被告人のDに対する貸付を止めたことに起因
していることや,多くの送金の際に作成された稟議書や代表取締役印押印申
請書に被告人の認印が押捺されていることなどの事実に照らしても首肯しが
たい。被告人の供述は,上記のとおり信用できるBの供述やこれに沿うCや
Oなどの供述に照らし,信用することができず,上記認定に合理的な疑いを
抱かせるには至らない。
第2判示第2の事実(証券取引法違反)について
1争点
判示第2の事実のうち,Aが,平成17年6月30日に,判示の方法により,
M財務局長に対し,平成16年4月1日から平成17年3月31日までの事業年
度につき,経常利益を3億2289万1000円,当期純利益を2億3537万
2000円と記載した損益計算書を掲載する有価証券報告書を提出したこと,す
なわち,別紙3のとおり各売上げを計上したことを前提にした別紙4①欄記載の
損益計算書を作成し,この損益計算書を掲載した有価証券報告書をM財務局長に
提出したこと自体は,証拠上明らかであるところ,弁護人は,判示第2の事実に
ついて,Aの平成17年3月期にかかる検察官主張の別紙3の各売上げは,いず
れも事後評価として売上げに計上できるもので,架空ではないし,被告人には架
空取引であることの認識もなかった,また,仕掛品の繰越しによる特別損失の先
送り処理についても,被告人にはそのような処理がなされていたことの認識がな
かったのであるから,被告人は無罪である旨主張し,被告人もこれに沿う供述を
するので,以下,これらの点について補足して説明する。
なお,以下では,平成17年3月期のうち,平成16年4月1日から9月30
日までを「上期」,平成16年10月1日から平成17年3月31日までを「下
期」という。
2株式会社Zに対する売上計上について
前提となる事実について
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
①Aは,平成15年4月頃から,A1株式会社(以下「A1」という。)が,
A1グループ内のシステム関係の契約や保守,運用等,システムに関する業
務を行う連結子会社の株式会社Z(以下「Z」という。)を指導するなどし
て推し進めていた,A1グループ全体で使用するホストコンピュータを新た
なホストコンピュータに移行し,システムの切り替え作業を実施することで
情報システム関連のコスト削減を図る「ホストマイグレーション」と称する
業務の受注を目指し,A1及びZとの間で交渉を行った(以下「A1案件」
という。)。
その結果,Aは,同年8月18日,Zとの間で,AがZのソフトウェア開
発を請け負う旨の「ソフトウェア開発請負基本契約」とともに,ホストマイ
グレーションの準備作業にあたるホストインフラ統合作業にかかる「ソフト
ウェア開発請負個別契約」も締結し,この個別契約に基づく作業を行って,
平成16年3月頃及び5月頃の2回に分けて検収を受けていた。
②Aは,さらに本体のホストマイグレーション業務の受注へ向け,平成16
年4月頃から,B1を担当取締役として,A1及びZとの間で交渉を開始し,
Zに対し,A担当分の作業を,フェーズ1(主として,現行システムの棚卸
及びシステムの調査,コンバージョンの設計など全体の概要を決める部分)
とフェーズ2(実際のコンバージョン実施作業)に分け,それぞれについて
見積額を出すなどして交渉する一方,同年5月頃からは,A1案件の見積書
を精緻化するため,A1側のシステムの資産棚卸の現行調査などの作業を行
っていた。
しかしながら,同年6月下旬頃にいたっても,契約交渉が一向に進まなか
ったことから,B1が,Zの担当取締役であるC1に対し,ホストマイグレ
ーション業務に係る契約を締結しないのであれば,進行中の先行作業を中止
する旨通告したところ,C1が,必ず契約するので,作業を続けるよう回答
したということがあった。
また,同年8月12日には,Aの営業担当であるD1が,A1情報システ
ム部でホストマイグレーションを推し進めていた同社の取締役であるE1
に対し,ホストマイグレーション業務に関するAとZの契約締結に向けた交
渉の進捗状況を説明し,今後もAのリスクの下で先行作業を実施すること
や,先行作業のコストは,個別契約が締結された場合にその契約内容に盛り
込むこと等を申し入れ,その了承を得たこともあった。
さらに,同年9月には,B1やD1が,B1の作成した,「本契約に基づ
く『アプリケーションコンバージョン(フェーズ1)』作業は,平成16年
12月開始予定の『アプリケーションコンバージョン(フェーズ2)』作業
の先行作業として位置づけ,『アプリケーションコンバージョン(フェーズ
2)』作業にかかる契約が締結されない場合には,本契約は効力を失うもの
とします。」などと記載された覚書案も提示しながら,Zとの交渉にあたっ
ていたこともあった。
③それにもかかわらず,Zとの交渉が進展しなかったことから,被告人は,
平成16年10月21日過ぎ頃,E1に直接電話をかけ,正式な契約関係は
Zと結ぶにしても,交渉を前に進めるために,Zの親会社としての意思を明
らかにするもので構わないので,A1作成名義の注文書を発行してもらいた
い旨依頼し,E1の了承を得た。
そこで,被告人は,D1らに指示し,フェーズ1の個別契約の相手先をZ
からA1に変更した見積書及び注文書,並びに「2004年9月22日付け
注文書により貴社からご発注いただきました『アプリケーションコンバージ
ョン(フェーズ1)』につきましては,貴社または貴社指定企業と弊社との
間でソフトウェア開発請負契約を締結することといたします。従いまして,
同契約の締結が行われるまでの間,弊社から貴社に対してお支払の請求を一
切行いません」との記載がある誓約書を作成させ,同年10月22日ころ,
これらの書類をE1のもとへ持参させた。
そして,被告人は,同月26日頃,D1とともにA1本社に赴き,E1か
ら,注文書を受領したが,その際,「正式契約とは異なるものです」「カテ
ゴリーⅡに対するStepについての支払いはフェーズⅠ完了後でなけれ
ば発生致しません」などと記載された注文書付帯説明なる文書も併せて受け
取った。さらに,被告人は,E1に対し,持参した検査結果通知書を示し,
これに押印するよう求めたところ,一旦はE1に拒否されたものの,Aが進
めていた先行作業の明細が入ったCD等を渡し,検査結果通知書はこのCD
等の受取書だと思って欲しい旨述べて説得した結果,上記検査結果通知書に
E1の押印をもらうことができた。もっとも,被告人は,E1に対し,「1
0月25日」となっていた検査結果通知書の検査日欄を,「9月30日」に
改めるよう依頼し,そのように修正してもらっていた。
④Aは,その後,この見積書,注文書,検査結果通知書等により,上期にお
けるA1に対する売上げとして,現行資産棚卸分5000万円,現行システ
ム明確化分2億円の計2億5000万円を計上した。
しかし,その後,Aの会計監査人は,A1に残高確認を発送したところ,
A1の監査役から同社に対する上記売上げに該当する取引がない旨連絡を
受けた。そこで,同会計監査人は,同年11月5日,この点について被告人
に説明を求めたところ,被告人は,「A1社内で人事抗争があり,役員が勝
手にAと契約した等と言って,Aとの取引を人事抗争のツールに使っている
ところがある。しかし,こっちは注文書にA1の社長の判子をもらっており,
出るとこ出たら取れますのでご安心ください。」などと説明し,Bも同様の
説明をするなどして,1億円に減額して売上げを計上することを会計監査人
に認めさせ,上記A1に対する2億5000万円の売上げを1億円に修正し
ていたが,同会計監査人には注文書付帯説明なる文書や誓約書の存在を知ら
せていなかった。
他方,E1も,同月19日頃,D1に対し,同年10月26日頃に渡した
検査結果通知書について,正規のものではないとのE1の認識を記した「9
月30日付『検査結果通知書』に関する付帯説明」をメールで送っていたと
ころ,やがて,E1が上記A1に対する2億5000万円の売上げの計上の
もとになった検査結果通知書を発行したことがA1内で発覚し,その返還を
A1側が求めてきたことから,Aは,同年12月頃,これに応じていた。
⑤B1とD1は,同年12月頃から,C1から担当を引き継いだZ取締役の
F1との間で,フェーズ1の契約締結に向けた交渉を再開し,Zに対し,当
初フェーズ1の概算見積金額は3億6330万円であったが,そのうち,フ
ェーズ1の契約金額は5630万円とし,作業もその金額相当分に限定す
る,残りの3億0700万円相当分の作業については,フェーズ2の先行作
業としてAのリスクの下で行い,フェーズ2の個別契約が締結された場合に
は,その先行作業分の費用は,フェーズ2の契約金額に含まれるとの条件を
提示するなどし,同年12月24日には,フェーズ1にかかる個別契約の見
積金額を5630万円とする見積書を提示した上,被告人の了承を得て,平
成17年1月21日,Zとの間で,上記の条件を内容とするソフトウェア開
発請負個別契約(以下「フェーズ1契約」という。)を締結するに至った。
⑥さらに,Aでは,フェーズ2の契約締結に向けて,Zと交渉を重ねた。
まず,平成17年2月22日には,B1とD1がZに赴き,F1に対し,
フェーズ2全体の見積金額を10億7220万円と提示し,フェーズ2の先
行作業を含めた作業対価として同年3月末までに3億円の検収をして欲し
い旨求めたが,F1は,総額を10億円以内に収めたいとの意向を従前から
示していたことや,フェーズ1契約を超える分の先行作業については,フェ
ーズ2の契約が締結できたときにその対価を支払うことで合意があること
を理由に,これを拒絶した。
また,同年3月2日には,B1及びD1がBを同行してZに赴き,B
が,F1に対し,Aが相当先行作業を進めているので,先行作業につい
て検収をするよう要請したものの,F1は,Bのいう先行作業は,フェ
ーズ1契約においてフェーズ2の先行作業と位置づけたものであり,フ
ェーズ1契約で合意したとおり,現時点ではフェーズ2の契約締結もで
きていないのであるから,未だZ側に支払義務はなく,また,フェーズ
1契約の内容である作業自体も終わっていないなどとして,これを拒絶
した。
⑦そこで,B1は,同年3月14日ころ,F1に対し,まず,フェーズ1契
約に関するこの頃までの成果物の検収を持ちかけたところ,F1が,フェー
ズ1の成果物とされていた「基本構想書」,「フェーズ2の見積書」,「ホ
ストマイグレーションのプロジェクト計画書」が不足していたため,これら
の不足分を同月28日までに納品してくれるのであれば,この場で検収に応
じるとの条件を提示してきたため,これを了承し,同人から,この日のうち
に,同月14日付けの検査結果通知書を受領することができた。
さらに,B1は,F1に対し,フェーズ2の先行作業として位置づけ
られていたものについて,1億5000万円の見積書と注文書を提示し,
同額分の検収を求めたが,フェーズ2にかかる個別契約が締結されてい
ないとして,全く相手にされなかった。
⑧A社員のG1は,同年3月28日,先にF1に指摘された不足分をZに届
ける(なお,上記不足分については,検査の結果修正点が見つかったため同
日には検収されず,実際に検収されたのは同年4月上旬になってからであっ
た。)とともに,被告人の事前の指示に基づき,Zに常駐していたAの従業
員を撤収させた。
⑨これに対し,E1が被告人も交えて面談したい旨申し入れてきたことか
ら,被告人は,同年4月13日ころ,Bと同席の上,E1及びF1と面談し
た。被告人は,E1がAの従業員を撤収されて困っている旨伝えてきたのに
対し,売上げが上げられない状況で先行作業を続けてコストがかさむのは困
る旨告げた。そして,被告人は,E1から,フェーズ2の契約を締結するの
で,契約金額を以前Aが提案した10億7220万円から1億円値引きする
よう求められて,これを了承するとともに,E1に対し,上期に売上げを計
上した1億円を含めた1億5000万円の売上げにかかる検収書の作成に
協力するよう求めた。これに対し,E1は,当初,上期の残高確認の騒動が
あったため難色を示したが,Bから,A1側に残高確認が行かないようにす
ると説得されたためこれを了承し,同席していたF1に協力を指示した。
⑩B1及びG1は,上記面談内容に基づき,平成17年4月19日ころ,F
1に対し,フェーズ2の契約にかかる契約代金を9億7220万円と見積っ
てこれを提示するとともに,1億5000万円分の注文書,注文請書,納品
書,検査結果通知書を提示し,その押印等作成に協力するよう依頼した。こ
れに対し,F1は,約束は1億5000万円分の成果物に対する検収書の交
付のみであり,注文書を発行するには社内稟議による決裁が必要となるとし
てこれを拒否するとともに,検収書を発行するにしても,Aの会計監査人か
ら残高確認が絶対に届かないようにして欲しい旨念押しした。
⑪F1は,検収書の発行に消極的であったため,E1から,自分が責任を取
るので検収書の発行には応じること,ただし,建前上検収に値するだけのア
ウトプットがあることが前提であること,その判断をF1に任せることなど
が記載された「A社への検収書発行に関するSupportingLetter」なる文書が
送られていたところ,B1らから,同年4月25日頃,納品書とともに,納
入物件一覧を差し入れられ,検査結果通知書に押印するよう求められた。し
かし,F1は,納入物件一覧が紙切れだけであり,そこに記載された内容に
対応した成果物があることを何ら確認できなかったので,検収に値する成果
物がないと判断したが,E1から,検収に値する成果物が無いことについて
はこの際目をつぶって,とりあえず発行に応じるよう指示されたため,検査
結果通知書に押印等し,B1らにこれを渡した。なお,同検査結果通知書の
日付は,平成17年3月期内の売上げとするため,同年3月31日と記載さ
れた。
⑫そして,Aは,この検査結果通知書をもとに,平成17年3月期全体を通
したZに対する売上げとして合計1億5000万円を計上した。すなわち,
Aは,上期に,現行資産棚卸分として5000万円,現行システム調査とそ
の報告書として5000万円分,計1億円を計上したもののうち,現行シス
テム調査に追加作業が発生したものとして,その分を5000万円と見積も
り,上記検査結果通知書によりその検収があったものとして,下期に売上げ
を計上した。また,上期にA1に対する売上げとして計上されていた1億円
については,上記検査結果通知書の名義がZとなっていることと辻褄をあわ
せるため,Zがこれを引き継いだものとして処理していた。
⑬Aは,平成17年5月31日,Zとの間で,フェーズ2にかかるソフトウ
ェア開発請負個別契約を締結した(以下「フェーズ2契約」という。)。
そして,Aは,Zに対し,フェーズ1契約において,フェーズ2契約
に至る前の先行作業として位置づけていた3億0700万円分の作業の
うち,フェーズ2契約において「先行作業分その1」(代金1億500
0万円)とされていたものを納入し,同年6月7日,Zの検収を受けた。
ここで納入され,検収を受けたものは,F1が,同年4月25日に発
行した検査結果通知書で納品されたものとなっていた作業に対応するも
のであった。そのため,同じ作業に対して検査結果通知書が2枚存在す
ることとなってしまうことから,F1は,Aから,同年4月25日に発
行した同年3月31日付け検査結果通知書を回収した。
虚偽性について
①以上の事実によれば,Aは,平成17年3月期において,同年3月31日
付け検査結果通知書に基づき,上期にもともとA1に対するものとされてい
た1億円と,下期に5000万円の合計1億5000万円を,Zに対する売
上げとして計上しているが,この売上げのもとになるフェーズ2の契約は,
同年5月31日になって締結されており,この契約に基づく納品と検収も同
年6月7日に行われているのであるから,このZに対する売上げは,同年3
月期に計上できないものであり,虚偽の計上というべきである。
②もっとも,関係証拠によれば,弁護人が指摘するとおり,Aが,A1案件
について,平成16年9月末までに売上計上に見合う程度の先行作業を終了
させていたことは認められる。
しかしながら,上記認定のとおり,平成16年9月末時点においては,フ
ェーズ2の契約はもとより,フェーズ1の契約も締結されていないところ,
そもそも,先行作業はAのリスクのもとで進めることになっていたのである
し,これらの検査結果通知書等によって,ZがAに対し支払義務を負わない
ことは,この注文書に併せてE1から渡された注文書付帯説明なる文書や,
A名義で発行した誓約書で確認されているのである。しかも,この検査結果
通知書等に基づいて計上された上期の2億5000万円の売上げについて,
Aの会計監査人から残高確認がなされた際,A1の監査役からは該当する取
引がないなどの回答がなされていたのであり,さらに,この検査結果通知書
については,一取締役に過ぎないE1においてこれを発行したことが発覚す
るや,A1側がAにその返還を求め,Aもこれに応じていたのである。
このような事情に照らすと,E1がこの検査結果通知書を発行したことを
もって,A1という会社自体が,2億5000万円ないしは1億円の債務負
担の意思表示をしたとは到底いえず,この時点においては支払いの見込みが
ないというほかないから,これを売上計上することは虚偽といわざるを得な
い。
③また,関係証拠によれば,弁護人が指摘するとおり,Aは,A1案件につ
いて,平成17年3月末までに,売上計上に見合う程度の先行作業を終了さ
せていたことは認められる。
しかしながら,上記認定事実のとおり,AとZとの間には,平成17
年3月末の時点において,フェーズ1の契約があるのみで,フェーズ2
の契約は未だ締結されていなかったところ,そのフェーズ1契約におい
て,フェーズ2の先行作業分はフェーズ2にかかる契約が締結された時
点で,その内容にかかる対価を支払うことが合意されていたのであって,
そうであるからこそ,B1らが何度もその先行作業分について検収に応
じるようZに求めても,F1は拒み続けていたのである。それにもかか
わらず,E1がAの要求する平成17年3月末日付けの検査結果通知書
の作成に同意したのは,AがZに常駐していた社員を引き上げたため,
これに困ったE1が被告人らと面談し,フェーズ2にかかる契約代金の
値引きというA1側の提案を受け入れさせるためには,下期の売上計上
をしたいとの意図のもとにされたA側の要求を受け入れざるを得ないと
考えたからに過ぎないのである。また,上記認定事実によれば,E1も,
またF1においても,上記面談後,Aから納品物を差し入れられた際,
これが5000万円の検収に値するとは考えていなかったのであり,そ
れにもかかわらず上記検査結果通知書が発行されることになったのであ
るが,これについて,F1は,その発行までの過程で,B1らに対し,
上期のことを踏まえ,Aの会計監査人から残高確認が絶対に届かないよ
うにして欲しい旨求めていたのである。そして,前記認定のとおり,A
は,平成17年5月31日に至って,ようやく,Zとの間で,フェーズ
2の契約を締結することができ,同年6月7日付けで「先行作業分その
1」が同契約の成果物として認められ,その検収がなされたのであり,
5000万円の売上計上のもとになった同年3月末日付け検査結果通知
書は流用されることなく,Zに回収されているのである。
これらの事情に照らすと,Zが,同年3月末日付け検査結果通知書を
発行したのは,Aの下期の売上計上に協力するために過ぎず,この時点
でZによる債務負担の意思表示がなされていたとはいえないのであるか
ら,この検査結果通知書に基づき,下期の売上げを計上するのも,虚偽
といわざるを得ない。
被告人の認識について
上記認定のとおり,被告人は,平成16年9月30日付の検査結果通知
書を入手するにあたり,E1に直接電話をかけ,Zとの交渉を前に進める
ため,親会社であるA1の意思を明らかにするものとして同社名義の注文
書の発行を依頼し,D1らに指示し,フェーズ1の個別契約の相手先をZ
からA1に変更した見積書や注文書とともにフェーズ1の契約が締結され
るまでの間はAからA1に支払請求を行わない旨記載された誓約書を作成
させてE1のもとへ持参させた上,A1本社に赴き,E1から注文書を受
領した際にも,これが正式契約とは異なるものであるなどと記載された注
文書付帯説明なる文書も併せて受け取っていたのであって,これらの事実
によれば,被告人は,上記検査結果通知書が,A1という会社自体の債務
負担の意思表示をしたものでないことを十分認識していたものといえるの
であり,そのことは,この売上計上にかかる残高確認について,A1の監
査役から該当する取引がない旨連絡があったことの説明をAの会計監査人
から求められた際に,同会計監査人に注文書付帯説明なる文書や誓約書の
存在を知らせていなかったことなどからも窺われるところである。
そして,上記認定事実によれば,被告人は,その後成立したフェーズ1
契約において,フェーズ2契約締結までは,フェーズ2にかかる先行作業
については対価を支払わない旨合意されていることを認識していたとこ
ろ,平成17年3月下旬に至ってもフェーズ2の契約が締結されていなか
ったため,Aの従業員を引き上げさせ,期末を過ぎた同年4月13日,B
とともにE1やF1と面談した際には,上期に売上げを計上した1億円を
含めた1億5000万円の売上げにかかる検収書の作成協力を求め,Bが
A1側に残高確認が行かないようにすると説得したことから,難色を示し
ていたE1がこれを了承したのを認識しているのである。
このような事情に照らすと,被告人は,Aの上記各検査結果通知書の発
行が,A1ないしZの債務負担の意思表示をしたものではなく,実現の不
確実なものであって,平成17年3月期の売上げに計上できないものであ
ることを認識していたと認めるのが相当である。
上記認定に反する被告人の当公判廷における供述は,B1,D1,E1,
F1,Cなどの公判供述及び,これを裏付ける,被告人が決裁したしるし
のある報告書の記載や被告人にも送信されたメールの文面等に照らし不自
然であって,にわかに措信しがたく,上記認定に合理的な疑いを抱かせる
には至らない。
3株式会社H1に対する売上計上について
前提となる事実について
上記2で認定した事実に,関係各証拠を総合すれば,以下の事実が認められ
る。
①株式会社H1(以下「H1」という。)は,平成16年3月頃,I1銀行
有限公司(以下「I1銀行」という。)に対する消費者金融事業のコンサル
ティングを目的として設立され,代表取締役のJ1を中心に,Aが開発した
消費者金融システムを導入してもらうことを目指し,I1銀行と交渉を重ね
ていたが,Aも,この件に関し,H1に同システムの開発作業を発注しても
らうため,同社にエンジニアを派遣し,システム開発や営業活動への参加な
どの協力を行っていた(以下「I1銀行案件」という。)。
なお,その当時,AとH1との間では上記システムの開発について請負契
約は締結されておらず,両社が正式の請負契約をするのは,H1とI1銀行
とが正式に消費者金融システム導入契約をした後という段取りになってお
り,これを前提に,平成16年5月ころには,J1が被告人に対し,I1銀
行からH1に代金が支払われた後に,H1がAに代金を支払う予定である旨
説明し,被告人の了解を得たことがあった。
②ところで,Aでは,平成16年8月頃まで,I1銀行案件について,利益
計画に入れていなかったが,Zとの交渉が難航し,上期におけるA1案件の
売上予想を3億5000万円から2億5000万円に減額せざるを得なく
なったのに伴い,I1銀行案件で売上げを計上することとなり,同年9月中
旬頃には1億円が計上され,同月29日に行われた取締役会の時点では2億
円に増額され,最終的には1億5000万円に変更された。
③そこで,Bは,J1に対し,上記のとおり売上計上に協力するよう依頼し,
同人の了解を得て,平成16年10月15日頃,「2004年9月17日」
と記載された注文書,納品日は「2004年9月30日」と記載されていた
が,作成日付が「2004年」としか記載されていない検査結果通知書など
を交付し,同人にH1の社印を押印してもらったが,これらの注文書や検査
結果通知書にあるようなプロジェクト計画書や要件定義計画書は,実際に納
品されていなかった。
なお,Bは,上記注文書や検査結果通知書等を根拠にAから代金を請
求されることを危惧したJ1の求めに応じ,同年9月17日付けで,こ
れらを根拠にAがH1に代金を請求しない旨のH1宛ての誓約書を作成
し,J1に交付していた。
その後,Aは,上記注文書や検査結果通知書等をもとに,上期のH1
に対するI1銀行案件に関する売上げとして,1億5000万円を計上
した。そして,J1は,同年11月2日頃,Aの会計監査人からの残高
確認に対して,Bに頼まれ,1億5000万円の債務につき相違ない旨
の回答を行っていた。
④さらに,Aでは,平成16年11月上旬ころ,上期におけるA1案件の売
上計画を1億円に変更することを余儀なくされたため,その後,Bは,作成
日付,納品日,契約期間等は従前どおりだが,納品物として外部設計書を新
たに加え,契約金額を3億円に変更した注文書や検査結果通知書などを新た
に作成し,これをJ1に示してH1の社印を押印してもらった。
そして,Aは,上記注文書や検査結果通知書などに基づき,上期のI
1銀行案件の売上げとして3億円を計上し,J1も,Bから依頼されて,
同年11月10日頃,Aの会計監査人から再度残高確認をされた際,3
億円の債務があるのは相違ない旨回答していた。
⑤H1は,平成16年11月25日,I1銀行に対し,消費者金融システム
導入にかかる見積金額を提示し,同年12月2日にI1銀行から同システム
の正式な注文を受けたが,両社間の契約締結は,Aの求めに応じてI1銀行
が行った優遇税率適用申請に対する許可を受けてからなされることとなり,
AとH1との契約締結も,H1とI1銀行の契約締結後に行うこととなっ
た。
⑥Aでは,I1銀行案件について,平成17年3月期全体を通して4億円の
売上げを見込んでおり,下期には1億円の売上げを計上することを計画して
いたが,Eへの架空外注にかかる費用の処理との関係で利益を圧迫してしま
うことから,同年2月10日の経営会議のころには,これを計上しないこと
にしていた。しかし,A1案件の契約交渉がうまくいかず,売上額が予想ほ
ど達成できない状況となったことから,Bは,I1銀行案件について,下期
に1億円の売上げを計上することにした。
そして,Aは,同年3月30日,売上計上に協力することを約したJ
1から,金額が1億円と記載された注文書及び検査結果通知書を受領し,
これらをもとに,下期のI1銀行案件に関する売上げとして1億円を計
上したが,この注文書や検査結果通知書に対応するような成果物等の納
品はされなかった。
⑦I1銀行とH1は,上記優遇税率適用申請に対する許可が下りたことか
ら,同年4月21日,消費者金融システムの導入に関する契約を締結した。
Aは,これを受けて,同月25日,H1との間で,I1銀行向け新現
金カード統合システム構築にかかるソフトウェア開発請負契約を締結し
たが,この契約内容は,Aが上期及び下期に売上げを計上するもとにな
った上記各注文書や検査結果通知書等に沿って設定されており,また,
その際交わされた覚書により,H1からAへのI1銀行案件に関する支
払いは,I1銀行からH1に入金があってから行うものとされていた。
さらに,AとH1との間では,契約書等には盛り込まれなかったものの,
I1銀行の検収をもってH1の検収に代えるものとされていた。
そして,Aは,同年5月4日,I1銀行向け新現金カード統合システ
ム構築にかかる,最初の成果物をH1に納品し,同年6月7日,同成果
物についてI1銀行の検収を受けた。
虚偽性について
上記認定のとおり,Aは,平成17年3月期において,H1に対する売
上げとして,平成16年9月30日付け検査結果通知書等に基づいて上期
に3億円を計上し,平成17年3月31日付け検査結果通知書等に基づい
て下期に1億円を計上したが,実際は同年3月末日までにH1との間で請
負契約の締結に至っていないし,上記売上げに対応する成果物の納品も行
われていなかったのである。
もっとも,上記認定事実によれば,J1が,Aの会計監査人からの残高
確認に対し,上記3億円及び1億円の各債務については相違ない旨の回答
を行っているところ,弁護人が指摘するとおり,Aは,H1にエンジニア
を派遣し,Aが開発した消費者金融システムをもとに開発作業を行うなど
し,同日までには相当程度の作業が進捗していたことは認められる。
しかしながら,上記認定のとおり,AとH1との間では,H1とI1銀
行が正式に消費者金融システム導入契約をした後,システムの開発につい
て請負契約を締結することになっており,これを前提に,I1銀行からH
1に代金が支払われた後にH1がAに代金の支払いを行うことを被告人も
了解していたのであって,H1が,Aに対するI1銀行案件の代金支払い
について,一貫してこのような意思表示をしていたことは,平成17年4
月25日にAとH1との間で請負契約が成立した際に交わされた覚書の記
載からも明らかである。これらに照らすと,I1銀行案件における先行作
業等は,あくまでAのリスクにおいて行われていたといえる。
そして,上記認定事実によれば,I1銀行案件は,Aが,A1案件で思
うように売上げを確保できなかったことから,その埋め合わせとして,J
1に協力を仰ぎ,上記検査結果通知書等を作成してもらい,これに基づい
て売上げを計上したもので,その実態は,弁護人が主張するような,作業
の進捗状況等に応じて分割検収したものではなく,もっぱらAの会計上の
都合に応じて,売上計上に必要な形式を整えるために,H1に書類の作成
を協力してもらったといえるのである。
以上に加え,J1が検査結果通知書等を根拠にAから代金を請求される
ことを危惧し,これらを根拠にAがH1に代金を請求しない旨の文書の交
付を求めたのに対し,Bがこれを約したH1宛ての同年9月17日付け誓
約書を作成してJ1に交付したことをも考え併せると,H1には,上記検
査結果通知書等の発行による債務負担の意思がないことは明らかというべ
きである。
そうすると,I1銀行案件については,平成17年3月31日の時点で
計上に見合う支払いの見込みが全くなかったのであるから,これを同年3
月期の売上げに計上するのは虚偽というほかない。
被告人の認識について
①Bの供述等の信用性について
I1銀行案件の売上計上における被告人の関与について,Bは,公判廷に
おいて,要旨次のとおり供述する。すなわち,Bは,「上期において,A1
案件の売上げを2億5000万円に減額せざるを得なくなったことに伴い,
I1銀行案件について1億5000万円の売上げを計上することになった
が,その際,J1にこの金額で売上計上に協力して欲しい旨お願いするよう
被告人に頼んだところ,J1に注文書や検査結果通知書を持参して押印する
よう求めた際,同人が,被告人から聞いているなどと言っていた。また,同
年11月頃,I1銀行案件の売上げを1億5000万円から3億円に変更し
た際も,金額が大きいので,被告人からJ1に直接協力をお願いするよう依
頼したところ,被告人がJ1に売上げの金額を3億円にするよう直接頼んで
いた。さらに,I1銀行案件については,下期において,Eへの架空外注に
かかる費用処理との関係で,当初売上げを計上していなかったことについて
も,その後,これを仕掛品として処理し,利益を確保することができること
になったことから,1億円の売上げを計上したことについても,被告人にそ
の都度説明して了承を得ていた。そして,1億円分の書類が必要になったの
で,Cに注文書や検査結果通知書の書式を作ってもらい,J1に頼んで押印
してもらったが,被告人にもこのことは報告している。」などと供述する。
このBの供述は,被告人がJ1に売上計上を依頼した方法等について曖昧
なところがあることは否めないけれども,J1も,Aにおいて,上期に1億
5000万円の売上計上をするとき,これを3億円に増額するとき,及び下
期に1億円を計上するときの3度にわたって,被告人から直接売上げに協力
するよう頼まれた旨,公判廷で供述しているところ,H1の実質的な経営者
であるK1の了解を得るため,Bの言葉だけではなく,K1と親しい関係に
ある被告人からも依頼されていた記憶があるとの根拠は納得できるもので,
その内容に信用性を認めることができるが,1億5000万円と3億円の売
上計上の際に,被告人がJ1に直接協力依頼をしたことについてはCの供述
と一致しており,相互にその内容を裏付けているといえる。また,Cは,2
億5000万円の売上計上を予定していたA1案件について残高確認の際
に認めないという話になり,売上計上を1億円にしたことから,その埋め合
わせとして,I1銀行案件について,1億5000万円ではなくて3億円の
検収書を上げてもらうことに切り替え,被告人の了解を得ていた旨公判廷で
供述するが,その供述内容は,Aにおいて作成・保存されている売上計画,
利益計画といった書類の内容にも裏付けられており,やはり信用性が認めら
れるところ,Bの供述は,このCの供述にも符合するものである。このよう
に,Bの上記供述は,信用性の認められるJ1及びCの供述と符合している
ことに加え,上記で認定の事実関係に照らして自然であり,メール等の他
の証拠に照らしても不自然なところはないことも考え併せると,基本的に信
用することができるというべきである。
②この信用性の認められるB,J1及びCの各供述を含む関係証拠を総合す
れば,Aが,I1銀行案件について,上期に1億5000万円の売上計上を
するときも,これを3億円に増額するときも,下期に1億円の売上計上をす
るときも,被告人が,直接J1に対し,各売上計上に協力するよう依頼して
いたことや,それがA1案件の売上計上が予定していた金額よりも減額にな
っていったことから,その分の辻褄を合わせて当該の期における利益を確保
するために行うものであることを認識していたことが認められる。
このような事実に加え,J1が被告人に対し,平成16年5月ころ,Aと
H1が正式の請負契約をするのは,H1とI1銀行とが正式に消費者金融シ
ステム導入契約をした後という段取りになっていることを前提にして,I1
銀行からH1に代金が支払われた後に,H1がAに代金を支払う予定である
旨説明し,被告人の了解を得ていたことなどの上記で認定の事実をも考え
併せると,被告人は,H1との間で契約が締結されていない平成17年3月
末日の時点において,I1銀行案件が支払いの見込みの全くないものであ
り,これを同年3月期の売上げに計上するのが虚偽であることを認識してい
たと認めるのが相当である。
③これに対し,被告人は,当公判廷において,H1から検収書などの書類を
もらうに際し,J1に依頼したことは一切なく,I1銀行案件が売上げを計
上できる作業をしていたかどうかも知らないし,上記誓約書を出したことも
知らないなどと供述する。
しかしながら,被告人のこの供述は,上記認定の事実や被告人が決裁した
署名がある報告書の内容等と相容れない不自然なものであり,上記のとおり
信用性の認められるBやJ1,さらにはCの供述に照らし,にわかに措信し
がたく,上記認定に合理的な疑いを抱かせるには至らない。
4L1株式会社に対する売上計上について
前提となる事実について
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
①Aの取締役であるM1は,平成17年2月10日ころ,L1株式会社(以
下「L1」という。)の代表取締役社長であるN1と面会し,Aの商品であ
る「O1」の概要を説明するなどし,以後,L1に対するO1の導入に向け
た営業活動を行っていた(以下「L1案件」という。)。
②そして,M1は,同年2月21日ころ,N1に対し,O1を代金2億円で
導入することを提案するとともに,実際の導入には3か月から4か月程度か
かるが,Aの売上げが厳しいので,同年3月末までに売上げに計上できるよ
う協力してもらいたい旨要請したところ,同年2月25日頃,N1から,売
上計上への協力に前向きの回答を得ることができた。
③M1は,その後,L1案件を担当することになった同社の取締役で開発本
部本部長のP1と交渉を行い,同年3月2日には,P1に対し,同年3月期
末までに売上げを上げるため,O1の納品及び検収まで行うことを求めた
が,P1から,決算期が近いこともあるので応じられない旨言われ,さらに,
実作業は同年4月以降に行うが,手続については3月末までに行い,同年3
月期の売上げとして計上することで話を進めてもらいたいと話したものの,
P1から,Aには発注を行うだけだという認識でいたので,社内に持ち帰っ
て確認するとの回答を得るにとどまった。
④M1は,その後,P1から,解除条項を書面に入れた上でL1案件の契約
を締結したい旨申し出があったことから,AのSODのCと相談の上,使用
許諾契約書のフォームを改変すると,同年3月期の売上げとして計上するこ
とに問題が生じるので,契約書と解除条項を分け,解除条項については契約
書とは別の文書で対応することとし,L1がO1の評価を行い,使用しない
ことを同年6月末までに決定した場合は,同年3月9日付けのO1の使用許
諾契約を解除することを合意したとの内容の「覚書」と題する書面を作成し
た。
⑤そして,M1は,同年3月10日,P1と面談し,L1案件に関するスケ
ジュールや契約手続の流れについて説明するとともに,見積書,使用許諾書
及び納品書や受領書を交付したところ,P1から,発注だけでなく検収まで
行うことにしたが,経営会議の決裁が必要であるといわれたことから,決裁
後の同月16日に契約締結日を変更することとした。さらに,M1は,P1
に対し,O1の使用許諾契約の処理が終了次第,同年4月以降にその適用,
すなわち,リポジトリの構築を行うことなどを説明していた。
⑥M1は,同年3月18日ころ,Aの方で予め作成した使用許諾契約書や上
記「覚書」等について,A側で押印したものをL1に差し入れ,L1側に押
印等してもらったものを受領した。この契約書では,O1のサーバー1本,
同クライアント30本及び初期解析済リポジトリの代金として2億030
0万円を支払い,これらのサーバーやクライアント機能及びリポジトリを同
月25日までに納品,検収されることが内容とされていた。そして,M1は,
同日,納品物として,O1のサーバー機能とクライアント機能が入ったCD
を渡したが,リポジトリの構築等は行われなかった。なお,M1がL1から
納品物としてO1のサーバー機能,クライアント機能及び初期解析済リポジ
トリを受領した旨の「受領書」を受け取ったのは,同月28日ころのことで
あった。
その後,Aは,上記使用許諾契約書や受領書などをもとに,同年3月期の
L1案件の売上げを2億0300万円と計上したが,会計監査人が上記覚書
を確認することはなかった。
⑦ところで,M1は,同年4月27日頃,P1から,メールで,上記L1案
件に係る契約について,Aの会計監査人からの残高確認に対しL1がどのよ
うに対応したらいいか教示することを求められるとともに,Aの株主総会の
日程が不明なため,当初約束していたO1のキャンセルを何日にしたらいい
か連絡するよう頼まれた。
また,L1は,同年5月上旬頃,Aの会計監査人から残高確認がなさ
れた際,「買掛金はありません」と返答したが,これについて,Aは,
会計監査人からの問い合わせに対し,「期ずれ」によるものと回答して
いた。
そして,L1は,同年6月30日,上記覚書の合意に基づき,O1の
使用許諾契約を解除した。もっとも,L1は,Aとの間で債権債務関係
がないことを監査法人に説明するため,Aに改めてそのことを盛り込ん
だ覚書を作成するよう求め,平成18年2月28日付でこれが作成され
ている。
虚偽性について
以上の事実によれば,L1は,平成17年3月の時点で,O1の使用
に関し,Aとの契約を解約するつもりがあったのではないかと疑われる
が,その点を措くとしても,少なくとも,同月18日に作成された契約
書により成立したO1の使用許諾契約(以下「本件使用許諾契約」とい
う。)は,別途作成された覚書により,同年6月末日までであればL1
の判断で解除ができるものとされているのであって,このような事情に
照らすと,本件使用許諾契約は,弁護人も指摘するように,会計上の「試
用販売」に該当するものということができる。したがって,本件使用許
諾契約においては,同日までは試用期間とみることができるのであり,
その間は確実に支払いを受けられるものとはいえないから,L1案件に
ついて,同年3月期に売上計上するのは,虚偽といわざるを得ない。
また,上記認定事実によれば,本件使用許諾契約では,O1のサーバ
ーやクライアントだけでなく,初期解析済みリポジトリも含めて一体と
して代金が2億0300万円と定められており,これら全てを同年3月
25日までに納品,検収することになっているところ,関係証拠によれ
ば,O1は単体で機能するものではなく,解析に必要なリポジトリを構
築することで初めて機能するものであることが認められるのであって,
このようなO1の性質をも考え併せると,本件使用許諾契約においては,
上記リポジトリをライセンスの使用許諾と不可分のものとして販売及び
納品対象にしているとみざるを得ない。しかしながら,上記認定のとお
り,L1案件においては,同年3月末日の時点においてリポジトリの構
築がなされていなかったのであるから,本件契約の内容とされる納品が
完了しているとはいえない。そうすると,Aの会計監査人であった公認
会計士のQ1が公判廷で供述するように,ライセンスの使用許諾とリポ
ジトリ作成が一体として販売された場合には,リポジトリを作成したも
のを提供した段階で売上げを計上すべきであるから,この提供がない段
階の同年3月期において,L1案件について売上げを計上することも虚
偽というべきである。
被告人の認識について
①M1は,公判廷において,L1案件への被告人の関与等につき,次のとお
り供述する。
すなわち,M1は,「平成17年2月10日ころ,L1のN1と面会した
ことについて,感触はよかったものの,まだ契約を締結できるかどうか明ら
かでないなどと被告人に報告したが,この時点でO1をこれから導入するこ
とになると,リポジトリの構築等の作業に一定の時間を要することから,同
年3月期末までには売上計上が間に合わないだろうと考えており,被告人も
同様の認識であると思う。また,被告人に対しては,同年3月2日にP1と
面談した後,同年3月期末までに売上げを上げるため,O1の納品及び検収
まで行うことを求めたが断られたので,実作業は同年4月以降に行うが,手
続については同年3月末までに行い,同年3月期の売上げとして計上するこ
とで話を進めてもらいたいと提案したことなども含めて,L1案件の進捗状
況を,まず電話で報告し,その後にメールも送信した。さらに,その後,P
1から,解除条件を書面にした上でO1の使用許諾契約を締結したいとの要
望があり,Cと相談した結果,覚書により対応することでP1にお願いする
こととなったが,これについても,被告人に電話及びメールで報告しており,
電話で報告した際には,被告人は,『それはしようがないな』といったよう
な趣旨のことを言っていた。そして,被告人に対しては,同月10日にP1
と面談した際にL1が使用許諾契約の締結だけではなく,納品及び検収の手
続も行うことになったが,L1の都合によりリポジトリを構築するのは同年
4月以降になるので,同年3月末時点では,リポジトリのない,O1のライ
センス部分のみを納品することになったことも,まず電話で説明し,メール
でも報告した。」などと供述する。
このM1の供述は,その内容が具体的で,同人のA内での立場やO1の導
入手順等を記した書類の記載,さらには上記で認定のL1との交渉経緯に
照らして自然であり,被告人宛に送信したメールの文面にも裏付けられてい
るのであって,十分信用できるというべきである(なお,メールの文面自体
は簡略であるが,M1によれば,メールを送信する前に電話で被告人に報告
していたというのであって,このような事情に照らすと,メールの内容が簡
略であることが特に不自然であるとはいえない。)。
②この信用性の認められるM1の供述によれば,その内容どおりの事実が認
められ,これに上記で認定した事実をも総合すれば,被告人は,本件使用
許諾契約が覚書により平成17年6月30日を期限とする解除条件付きの
契約であることを認識していたと認めるのが相当であり,これが会計上の
「試用販売」に該当するかどうかの認識がなかったとしても,同年3月末時
点において,支払いが確実なものでないことは分かっていたというべきであ
る。
また,上記認定事実によれば,被告人は,本件使用許諾契約がライセンス
の使用許諾とリポジトリの構築が不可分のものとなっているが,リポジトリ
の構築などの実作業は同年4月から開始されるので,同年3月末までに,契
約内容である初期解析済みリポジトリの納品が行われていなかったことも
認識していたというべきである。
これらによれば,被告人は,L1案件が同年3月期の売上げに計上できな
いものであることを認識していたと認めるのが相当である。
③これに対し,被告人は,当公判廷において,M1からは,平成17年3月
8日頃に,L1側からO1の使用許諾契約に解除条項を入れて欲しいという
要望があったことや,これを契約書とは別の覚書で対応することにしたこと
は聞いていないし,相談を受けたり指示をしたりしたこともなかった,また,
M1からは,L1に納品していないことも聞いておらず,手続が完了したと
いう認識しかなかった,などと供述する。
しかしながら,被告人のこの供述は,被告人にも送信されたメールを見た
かどうか曖昧である上,その文面とも相容れないものであって,上記のとお
り信用性の認められるM1の供述に照らし,にわかに措信しがたく,上記認
定に合理的な疑いを抱かせるには至らない。
5R1株式会社に対する売上計上について
前提となる事実について
上記2で認定の事実に,関係各証拠を総合すれば,以下の事実が認められる。
①Aは,平成16年10月頃から,R1株式会社(以下「R1」という。)
の取締役で営業部門の統括責任者であるS1が,株式会社T1(以下「T1」
という。)に対し,システムの障害削減のため,Aが開発したシステム解析
ソフトであるO1を導入するよう交渉しているのに加わり(以下「T1案件」
という。),平成17年1月下旬ころ,R1がT1からO1の試用版の導入
に関する業務を受注したことから,R1から上記試用版の導入に関する業務
を代金300万円で受注し,これを納品していた。
②Aは,平成17年2月10日ころに開催された経営会議の時点では,Zと
の契約交渉が難航するなど,当初の売上計画を達成できず,業績予想を下方
修正する事態に陥り,4期連続の赤字決算のおそれもあったが,T1案件に
ついては,T1が上記試用版の評価をしてO1の本格導入をするのが同年4
月ないしは5月頃になると見込んでいたことから,同年3月期の売上げを3
00万円としていた。
③しかし,M1は,T1案件の本格導入の契約を前倒しして,同年3月末ま
でに売上げとして計上できるようにするため,S1に協力を仰ぐこととし,
同年2月14日ころ,同人に対し,その旨協力を要請し,5000万円程度
の売上げを上げたいなどと希望を述べたところ,同人もこれを了承した。そ
こで,M1は,同月17日ころ,S1に対し,検収,納品に至る手続を説明
した上,5000万円の売上計上に関する注文書等の書類を作るため,仕事
の内容を検討してもらうよう依頼したが,その際,S1から,金額はそれで
いいかと尋ねられて,1億円でお願いできますかと返答していた。M1は,
このような同日のS1とのやりとりを被告人にメールで送信して報告した。
④そして,M1は,S1に対し,AがT1向けにO1の本格導入の作業を5
250万円で行う旨記載された見積書等を交付し,同年3月7日には,同人
と面談し,この書類の内容を説明し,手続を進めてもらうよう依頼した。も
っとも,この時点では,T1に手配されたサーバー及びクライアントのコン
ピューターの性能が低く,試用版で行われていたO1の導入評価が厳しい状
況にあった。M1は,上記のような同日の交渉状況等についても被告人にメ
ールで報告していた。
⑤その後,M1は,S1から,社内手続上2回に分けた形でO1の本格導入
の注文をすることにしたいなどの意向が示されたため,Cと相談の上,リポ
ジトリの構築作業(3250万円分)とカスタマイズ作業(2000万円分)
の2つに分割し発注を行うという形式にすることとし,契約及び請求方法に
ついてもシミュレーションをした。
そして,M1は,同年3月17日,S1と面談し,上記シミュレーシ
ョンの内容などを伝えて,Aが同年3月期にT1案件で5000万円の
売上げを計上するための擦り合わせを行ったが,S1から,すでに契約
済みの試用版の作業期間と,売上計上のため書面上これから行うことと
している同ソフトの本格導入の作業期間が重複すると,後者の契約が不
自然にみえるので,再度確認するよう依頼された。
そこで,M1は,この依頼を検討し,S1とも打ち合わせをして,「試
用版の作業の終期から約1か月後に本格導入の作業の終期が来るよう契
約内容を設定し,予定より本格導入の作業が早く終わったため,検収も
早まり,同年3月期の末日に間に合った」というような筋書きを立て,
それに合わせて見積書,注文書等に変更を加えることとし,試用版の契
約期間の終期が「2005年3月25日」となっていたことから,本格
導入に係る契約期間を「2005年1月24日~2005年3月25日」
となっていたのを「2005年1月24日~2005年4月28日」と
変更した。そして,M1は,同年3月18日,上記のような打ち合わせ
の経緯やその結果等を被告人にメールで報告した。
⑥M1は,同年3月29日ころ,S1に,同年1月24日から同年4月28
日までを対象期間としAAA棚卸やO1のリポジトリ構築を作業内容とす
る契約金額が3250万円の同年2月10日付け注文書及び同年3月29
日にこれらの作業の納入を受けた旨の同月30日付け受領書,並びに同じ対
象期間で初期解析済リポジトリ(カスタマイズ版)を作業内容とする金額2
000万円の同年2月10日付け注文書及び同年3月29日にこの作業の
納入を受けた旨の同月30日付け受領書に押印等してもらい,これらを受け
取ったが,その際,T1のシステムの一部について試用版で行っていたリポ
ジトリ構築等の作業結果が納められたCDを,本格導入にかかる成果物とし
て納品した。
⑦Aは,これらの注文書や受領書などに基づき,T1案件について,同年3
月期にR1に対する5250万円の売上げを計上した。しかし,同年5月上
旬頃,Aの会計監査人がR1に対して残高確認を行ったところ,R1から「売
掛金はありません」などと残高はない旨回答してきたため,会計監査人がA
に問い合わせると,A側では「期ずれ」によるものとの回答をしていた。
⑧Aは,R1が同年11月頃にT1から正式にO1の本格導入の注文を受け
たことから,その頃R1から注文を受け,同年12月1日以降,上記「注文
書」等に記載された内容の作業を行った。そして,Aは,R1に対し,平成
18年1月12日ころ,同受注にかかる成果物を納品し,同社から,これら
の納品を平成17年12月29日に受けたとする同月30日付けの受領書
を受領した。
虚偽性について
①上記認定事実によれば,Aは,平成17年3月期において,T1案件
について,AAA棚卸及びリポジトリ構築を作業内容とする同年2月1
0日付け注文書及び初期解析済みリポジトリ(カスタマイズ版)を作業
内容とする同日付け注文書並びにこれらに対応する同年3月30日付け
各受領書に基づき,R1に対する売上げとして5250万円を計上して
いるが,同年3月期内に実際に行われていたのは,T1がO1を本格導
入するかどうか判断するための試行だけであり,同年3月期内に上記各
注文書に対応するような本格導入にかかる作業を行い,その検収を受け
たことはなかったというべきである。
もっとも,上記認定事実のとおり,Aは,同年3月29日頃,R1に
対し,試用版によるリポジトリ構築等の作業結果が納められたCDを成
果物として納品しているが,これは,T1のシステムの一部について行
ったものに過ぎないところ,M1の公判供述によれば,O1の本格導入
にあたっては,T1の全てのシステム(最新のもの)のリソースを預か
ってリポジトリを構築する作業が必要であることが認められるのであっ
て,これらに照らすと,上記CDの交付をもって,弁護人が主張するよ
うに,上記注文書に対応する納品があったとみることはできない。
②また,R1は,Aに対し,上記注文書やこれに対応する受領書を発行
してはいるが,上記認定のとおり,そもそも,この注文書に対応する納
品はなかった上,S1は,平成17年2月17日ころにM1と面談した
際には,仕事の内容も決まっていないのに,5000万円の売上計上に
協力する意向を示すとともに,金額についてもそれでいいかと尋ね,M
1から1億円でお願いできますかと言われ,売上金額自体どうでもいい
ようなやりとりを交わし,同年3月17日には,M1に対し,すでに契
約済みの試用版の作業期間と,売上計上のため書面上これから行うこと
としている同ソフトの本格導入の作業期間が重複すると,後者の契約が
不自然にみえるので,再度契約内容を確認するよう依頼し,試用版の作
業の終期から約1か月後に本格導入の作業の終期が来るように契約内容
を設定してもらい,「予定より本格導入の作業が早く終わったため,検
収も早まり,同年3月期の末日に間に合った」といった理屈を付けさせ
て辻褄を合わせていたのである。そして,上記認定のとおり,R1は,
同年5月頃にAの会計監査人からなされた残高確認に対し,残高がない
旨回答しているのであり,同年11月頃にT1から正式にO1の本格導
入を受注してAに発注し,Aから上記注文書等に記載された内容の作業
の成果物を納品されて,改めて同年12月30日付けで受領書を発行し
ているのであって,これらに加え,S1が公判廷において,R1は顧客
から注文をもらった上で発注するという方針をとっており,T1案件で
も,R1は,T1から発注を受けた時点でAに注文を出すことにしてい
たと述べたり,発注をもって在庫とは認識していない旨供述しているこ
となどをも考え併せると,Aの同年2月10日付け注文書やこれに対応
する同年3月30日付け受領書を発行していることをもって,弁護人が
主張するように,R1がAからの仕入れを先行させたなどとみることは
できず,R1が,同年3月末日の時点で,Aに対し,T1案件にかかる
5250万円の債務を負担する旨の意思を有していたとはいえないとい
うべきである。
③そうすると,T1案件は,平成17年3月期の売上げに計上できない
というべきであり,Aがこれを同期の売上げとして計上したのは,虚偽
といわざるを得ない。
被告人の認識について
①M1は,公判廷において,平成17年2月10日の経営会議において,
被告人から,現在進行中の案件または新規の案件で3億円の売上げを達
成するようノルマを課されていたが,そのころ,被告人に対し,現在進
行中の案件として,R1に対するT1案件について,現在試用版を用い
て本格導入を検討してもらっているものの,その評価をふまえると,同
年4月ないしは5月に成約に至る予定であり,7000万円から800
0万円ぐらいの売上げが見込まれるが,平成17年3月期末にはこの売
上計上は間に合わない旨説明したところ,被告人から,本格導入の契約
を前倒しして同年3月末までに売上計上できるよう,S1に協力を仰ぐ
ことを指示された旨供述する。
このM1の供述は,上記経営会議の時点におけるAの財務状況やT1
関係の売上計上の状況等の上記で認定の事実に符合するものであり,
上記認定の本格導入のために必要な作業の内容等に照らしても不自然な
ところはない。また,経営会議でノルマを課されたことについては,B
やCなどの供述にも裏付けられている。これらのことからすると,M1
の上記供述は信用することができるというべきであり,これによれば,
その供述どおりの事実が認められる。
②上記で認定の事実に加え,前記で認定のとおり,被告人が,M1
から,平成17年2月17日ころにS1と面談し,仕事の内容も決まっ
ていないのに,5000万円の売上計上に協力してもらうよう依頼した
ことや,S1から,金額はそれでいいかと尋ねられて,1億円でお願い
できますかと返答するといった,売上金額自体どうでもいいようなやり
とりをしたことなどの報告を受けていること,また,同年3月18日に
も,M1から,試用版の作業期間とO1の本格導入の作業期間が重複し,
後者の契約が不自然にならないようにするため,試用版の作業の終期か
ら約1か月後に本格導入の作業の終期が来るように契約内容を設定し,
「予定より本格導入の作業が早く終わったため,検収も早まり,同年3
月期の末日に間に合った」といった理屈を付けて辻褄を合わせ,売上計
上を図ることにしたことなど,T1案件が実体を伴わないものであるこ
とが読み取れる報告を受けていることなどの事実を総合すると,被告人
は,同年2月10日付け注文書に対応した納品が同年3月末日までに行
われていないことなどを認識し,T1案件については,同年3月期の売
上げに計上できないものであることが分かっていたと認めるのが相当で
ある。
③これに対し,被告人は,当公判廷において,M1に対し,経営会議の
席上でノルマを課したことや,本格導入の契約を前倒しして平成17年
3月末までに売上計上できるようS1に協力を仰ぐことを指示したこと
はなく,また,M1からメールで報告を受けていたが,T1案件には何
ら問題がなく,交渉はうまくいっていると思っていた旨供述する。
しかしながら,被告人のこの供述は,上記認定のM1から被告人に送
信されたメールの内容と相容れない不自然なものであり,上記のとおり
信用性の認められるM1の供述に照らし,にわかに措信しがたく,上記
認定に合理的な疑いを抱かせるに至らない。
6U1株式会社に対する売上計上について
前提となる事実について
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
①Aは,Bを担当取締役として,平成16年秋頃から,韓国の消費者金融会
社の持ち株会社であるU1株式会社(以下「U1」という。)との間で,A
が開発した消費者金融システムのソフトウェア導入契約の締結に向けて交
渉をしていたが(以下「U1案件」という。),代金額で折り合いがつかず,
難航していた。
②Bは,平成17年3月30日,ソウルにあるU1の本社に赴き,消費者金
融システムのソフトウェア導入に関するパッケージ代金として5億100
0万円,カスタマイズ代金として6000万円の総額5億7000万円の販
売代金の見積もりを提示したところ,U1側の担当者から,代金額について
総額4億円を下回るよう要求された。これに対し,Bは,この値下げの要求
に応じられないとして,その場を立ち去った。
③しかし,Bは,同年3月31日,U1の代表取締役会長であるV1に対し,
前日に提示したソフトウェア導入に関するパッケージ代金から1億500
0万円値引きし,総額を4億2000万円とした見積書を提示するととも
に,U1側が注文書やパッケージを受け取った旨の検査書を交付してくれる
のであれば,上記のとおり値引きに応じる旨提案した。これに対し,V1は,
Bの上記提案を承諾したが,いまだ詳細なカスタマイズ若しくはパッケージ
の要件定義等が完成していなかったことや,ハードウエアの詳細が確定して
いないことなどから,これらが確定せず本契約に至らなかった場合には,上
記発注書や受領書が無効であることを確認するよう求めた。
Bは,V1の上記要求に応じることとし,V1から,パッケージについて,
金額を3億6000万円として同日に納品し,カスタマイズについては,金
額を6000万円として同年8月31日までに納品し,H/W及びN/W一式
について金額を1億5000万円として平成18年5月31日及び同年7
月31日に納品するなどと記載された注文書及び上記金額のアプリケーシ
ョンパッケージを平成17年3月31日に納品を受けた旨の受領書に押印
してもらって受領するとともに,AとU1との間でソフトウエア開発請負契
約が締結されて,契約条件が定まり,この契約によって実際に新消費者ロー
ンシステムのアプリケーションが構築され,製品が納品されるまでは,両者
間に債権債務関係は発生せず,上記受領書に基づく支払請求は一切行わない
旨記載されたA作成の確認書をV1に差し入れた。なお,この受領書に納品
物として記載されたアプリケーションパッケージは,物理的な物としては納
品されなかった。
④Aは,これらの注文書や受領書をもとに,同年3月期におけるU1案件の
売上げとして3億6000万円を計上した。
その後,U1は,Aの監査法人から残高照会を受けたが,上記売上げによ
りU1が債務を負担していることに相違ない旨回答していた。もっとも,こ
の残高確認は,たまたまU1に出張する予定があったBが,直接U1まで必
要書類を持って行き,残高確認の制度などを説明した上,迷惑をかけないの
でAの会計監査対策のためにU1側に協力するよう依頼し,押印等をしても
らったものであった。
⑤Aは,同年5月11日,U1との間で,上記「注文書」等に記載された内
容に対応する新消費者ローンシステムの請負にかかる仮契約を締結し,同年
12月28日には,U1の関連会社である韓国のW1株式会社との間で,上
記請負に係る本契約を締結した。そして,この契約の中で,即時に着手金8
700万円を,平成18年3月末日までに中間金1億1800万円をそれぞ
れAに支払うことが合意され,そのとおり支払いがなされた。
そして,Aは,平成18年3月頃,上記新消費者ローンシステム構築
に係る最初の成果物を納品した。
虚偽性について
①以上の事実によれば,Aは,平成17年3月期において,上記同年3月3
1日付け注文書及び同日付け受領書に基づいて,U1案件の売上げとして3
億6000万円を計上しているが,これに対応する納品と検収は,平成17
年12月に契約が締結された後の平成18年3月ころになって行われてい
るのであって,平成17年3月末の時点では,この売上げに対応する納品も
なければ,有効な契約が成立してもいなかったというべきである。
これに対し,弁護人は,U1案件では,平成17年3月末時点におけるパ
ッケージソフトの販売と同年4月以降のカスタマイズの形で認識されてお
り,事後に継続した作業が予定されていたのであるから,占有改定による引
渡しがあったとみるべきであり,必ずしも現実の引渡しは必要でない旨主張
する。しかしながら,上記認定事実によれば,AとU1との間では,上記確
認書により,両社間で正式の契約が締結された後に納品のあることが,共通
の認識となっていたのであるから,仮に,弁護人が主張するように,納品が
占有改定の方法でできるとしても,上記受領書が交付された時点で,Aから
アプリケーションソフトを占有改定の方法により引き渡す意思表示をした
とはいえないし,U1もこの方法により受領した旨の意思表示をしたとみる
こともできないから,弁護人の主張は失当である。
②また,上記で認定したAからU1に上記確認書が差し入れられた経緯や
その内容等に照らすと,U1は,上記受領書の交付により,3億6000万
円の債務負担の意思を表示したとみることもできない。
もっとも,上記認定事実によれば,弁護人が指摘するとおり,U1は,上
記確認書が交付された後に行われたAからの残高確認に対し,上記注文書及
び受領書に記載の3億6000万円の債務を負担していることに相違ない
旨回答している。しかしながら,上記認定のとおり,この残高確認は,正式
の契約が締結されていない時期に,Bが直接U1に必要書類を持って行き,
残高確認の制度などを説明した上,迷惑をかけないのでAの会計監査対策の
ためにU1側に協力するよう依頼し,押印等をしてもらったものであって,
このような作成経緯等に照らすと,この残高確認が,平成17年3月末日時
点におけるU1の債務負担の意思表示があったことを示すものとはいえな
い(なお,そのことは,V1自身が公判廷において,残高確認に対し上記の
とおり回答したのは,Aと正式契約ができると債務を負担することになるの
で,そのことを前提に限定的に債務を認めたもので,上記確認書の延長とい
う認識であったと述べていることからも明らかである。)。
また,上記認定事実によれば,弁護人が指摘するとおり,新消費者ロー
ンシステムのアプリケーションが構築される前の平成17年12月29日
及び平成18年3月31日に合計で2億円強の支払いが,U1からAに行わ
れているが,これは,確認書が債務負担の前提とする正式契約に基づくもの
であって,これにより確認書の内容が修正されたとみるべきであるから,こ
の支払いをもって,上記確認書に記載された内容の合意がなされていないと
みることはできず,U1の債務負担の意思に関する上記認定に合理的な疑い
を抱かせるものではない。
被告人の認識について
①Bは,公判廷において,U1案件における被告人の指示等について,
次のとおり供述する。すなわち,Bは,「平成17年2月10日の経営
会議において,被告人から,U1案件について,3億5000万円の売
上げを達成するようノルマを課されていたところ,同年3月30日に5
億7000万円の金額提示をしたが,U1側から4億円を切るように言
われたため,その価格では,当期に3億6000万円の売上げを上げる
と,残りが1億円を切るので,来期に予定されている作業の原価がまか
ないきれなくなると考え,U1側の提案を断り,そのことを被告人に報
告した。すると,被告人から,製造に関係ない人間が来期赤字になると
いう判断ができるはずがないとか,この期が黒字にならなければならな
いのはおまえが一番よく知っているはずだなどと叱責され,その金額で
いいからすぐ契約するよう指示された。そこで,同月31日,V1会長
と会って交渉したのであるが,その後,被告人に対し,この交渉の際に,
注文書及び検査書と引き換えにパッケージの代金を1億5000万円値
引きすることを提案したことや,これに対し,V1から,契約が確定し
ない限り債権債務が発生しないような覚書を作成するよう求められたこ
となどを報告した。すると,被告人は,そのような書面を作成したとし
ても,別のファイルにしたら会計士には分からないだろうなどと述べ,
これを了承した。そこで,Cに頼んで文案を作ってもらい,被告人に押
印してもらった確認書をファックスでU1の本社に送ってもらった。」
などと供述する。
Bのこの供述は,上記5で認定の経営会議当時のAの財務状況や,前
日までU1の値下げ要求を断っていたBが翌日になり急にこの要求に応
じ,U1が求める確認書まで差し入れていることといった上記で認定
の客観的な事実によく符合するもので,自然な流れといえる。また,上
記確認書に被告人が押印したことについては,「U1案件について,交
渉に当たっていたBから,正式な契約書と納品が終わってから債権債務
関係が発生するといった内容の書面を作成するよう依頼され,上記確認
書の文案を作成し,被告人のところに持って行って,Bからこのような
書類が欲しいと言われている旨話し,その了解をもらった。」などとい
ったCの供述や,被告人の決裁の署名がある上記確認書に係る代表取締
役印押印申請書の記載等に裏付けられているのである。これらに照らす
と,Bの上記供述は信用することができるというべきである。
②この信用性の認められるBの供述によれば,その内容どおりの事実が
認められ,これによれば,被告人は,平成17年3月31日の時点にお
いて,U1に同日付け注文書や受領書に記載のようなソフトウエアの納
品が行われていないことや,これによりU1が債務を負担する意思がな
かったことをよく分かっていたというほかなく,同年3月期にU1案件
の売上げを計上するのが虚偽であるとの認識があったと認めるのが相当
である。
③これに対し,被告人は,U1案件についてBにノルマを課したことを
否定するほか,上記確認書を見たかどうかは覚えていないなどと供述し,
この確認書に係る代表取締役印押印申請書を決裁したことはあるが,形
式的な文書だと思っていたなどと弁解する。
しかしながら,その供述内容自体曖昧であるし,上記確認書に係る代
表取締役印押印申請書を決裁した理由も不自然であって,上記のとおり
信用性の認められるBの供述や,これを裏付けるCの供述に照らし,に
わかに措信しがたく,上記認定に合理的な疑いを抱かせるには至らない。
7株式会社X1に対する売上計上について
前提となる事実について
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
①Aは,B1が担当取締役として,株式会社X1(以下「X1」という。)
との交渉にあたり,平成16年5月1日,同社との間で,ソフトウェア開発
請負基本契約を締結していたところ,同年10月頃,X1が,Y1株式会社
(以下「Y1」という。)との間で,Y1の新商品である化粧品について,
消費者がインターネットを利用して送ってくる効果の実感や質問などのデ
ータを集約するポータルサイトを開発する作業を受注するため,交渉を開始
した。Aは,X1がY1から受注した場合,これに係る作業をX1から受注
することを前提にしていたため,平成17年1月以降,担当者をX1に常駐
させ,一部の先行作業(見積書作成のための作業,提案するための画面作成
など)を行っていた(以下「Y1案件」という。)。
②X1は,平成17年2月7日頃,Y1に対し,Aの上記作業により作成さ
れた見積書を提示したが,その内容は,消費者用ポータルサイト,Dr.用ポ
ータルサイト,管理者用機能の各設計・構築代金が順に約666万円,約1
51万円,約478万円などとされ,見積合計金額は約8264万円であっ
た。
他方,Aは,同年3月期におけるY1案件の売上げとして,同年2月24
日頃までは3000万円を見込んでいたが,同月28日にはこれを5000
万円に増額させていた。
③B1は,同年3月1日頃,X1の代表取締役であるZ1に対し,Aの同年
3月期の売上げが足りないので,協力して欲しいなどと申し入れ,支払請求
はしないから,同年3月中に前倒しで5000万円の注文と検収をするよう
依頼した。これに対し,Z1は,Y1と今後成約に至る可能性があったこと
や,当時コアシステムの開発以外の他の案件が受注に至っておらず,Aの売
上げに貢献できていなかったことなどから,これを承諾した。しかし,X1
は,この時点において,Y1からの発注がなかったので,正式に納品物を指
定してAに発注することはなく,X1内で稟議を経るなどの手続もなされな
かった。
④その後,B1は,Y1案件について,Y1向けポータルサイト開発を内容
とし,契約期間を同年2月25日から同年3月31日までとする5000万
円の同年2月25日付け見積書,同期間を作業期間とし,上記ポータルサイ
ト開発を作業内容とするが,納品物を作業報告書とする代金5000万円の
同日付け注文書やこれに対応する注文請書などをAの社員に作成してもら
い,同年3月9日,X1の取締役のA2経営管理部長にこれらの書類を渡し,
注文書に押印してもらった。
そして,B1は,同月17日ころ,上記注文書に対応した成果物とし
て,Aの社員に別途作成を指示していた作業報告書をX1に交付したと
ころ,同月31日,X1から,この作業報告書を検収した旨の同日付け
検査結果通知書を受領した。
⑤Aは,上記注文書や検査結果通知書などをもとに,Y1案件について,同
年3月期におけるY1案件の売上げを5000万円と計上した。そして,A
2は,同年4月下旬頃,Aの会計監査人から残高確認依頼書を送付され,Y
1案件も含めて残高が7400万円余りある旨回答していた。
しかしながら,Aは,X1が同年5月末頃までにY1から発注を受けられ
なかったことから,X1からY1案件を受注することができず,Y1向けの
ポータルサイト開発を行うことも,X1からこの作業に対する対価を受ける
こともなかった。しかし,上記Y1案件の売上げについては,AからX1に
代金請求することのないまま計上され続け,同年6月頃と平成18年2月頃
の2回にわたり,X1に関する別の案件で解消することにより会計処理がな
されていた。
虚偽性について
上記認定のとおり,X1は,当初から,Y1から正式に発注を受けた段階で,
Aに開発を発注する前提でいたところ,これらの書類が作成された平成17年
3月末までの時点はもとより,その後においても,X1がY1から上記ポータ
ルサイトの開発について発注を受けたことはなかったのであるし,注文書を作
成した時点において,社内で正式な稟議の手続をとってもいないのである。
また,上記認定のとおり,Aは,上記注文書に基づき,X1に作業報告書を
交付し,X1はこれを検収して上記検査結果通知書を発行しているのである
が,Y1案件の本来の作業内容であるポータルサイトの開発にはほど遠いもの
であり,この作業報告書に5000万円の価値がないことは,B1もZ1も一
致して供述するところであって,弁護人が主張するように,X1がこのような
ものに価値を認め,5000万円の成果物として受領する意思のもとに検収し
たとみることはできない。むしろ,B1が供述するように,注文書に成果物が
ないと社内の監査が入ったときに説明ができないので,形だけこのようなもの
にしたに過ぎないとみるのが自然である。
そして,上記認定のとおり,B1は,Z1に対し,Aの平成17年3月期の
売上計上への協力を依頼し,支払請求をしないとの前提で,X1にAへの発注
及び検収を求めていたのであり,Z1もその前提でこれを承諾しているのであ
る。このB1とZ1の面談の内容からすると,この面談に基づいて作成された
上記注文書や検査結果通知書により,X1がAに5000万円の債務を負担す
るつもりがなかったというべきである。Aもこのような認識であったことは,
Y1案件で売上計上を維持しているのに,その支払請求をせず,X1の別の案
件でこれを解消していることからも窺えるところである。
もっとも,弁護人が指摘するとおり,X1は,その後,Aの会計監査人から
の残高確認の照会に対し,Y1案件を含む債務が7400万円あると回答して
いる。しかしながら,Z1は,公判廷において,その当時は,まだY1から受
注できる見込みが残っていたので,そのような回答をしたが,受注できないと
きは,Aへの発注を取り消そうと考えており,Aにその旨話せば,Aもそのよ
うに処理してくれるものと思っていたと供述するところ,その内容は上記で
認定の経緯に照らし,自然で信用できるというべきであり,これによれば,X
1は,Y1から発注を受けられ,Aに発注することを前提に,上記残高確認の
照会に対する回答をしたものといえる。そうすると,この残高確認の照会に対
する回答が,必ずしも,X1にY1案件の債務を負担する意思があることを示
すものとはいえない。
以上によれば,上記注文書により,X1からAに対し,Y1案件について5
000万円の発注があったとはいえず,上記検査結果通知書の発行により,こ
れを検収して債務負担の意思があったともいえないから,Aが,Y1案件につ
いて,上記の注文書や検査結果通知書に基づき,平成17年3月期に5000
万円の売上げを計上したのは虚偽というべきである。
被告人の認識について
①B1は,Y1案件における被告人の指示等について,公判廷で次のと
おり供述する。
すなわち,B1は,「平成17年2月10日の経営会議において,被
告人から,現在進めている案件で,何とか売上げを上げるよう指示され
ていたところ,同年2月下旬ころ,被告人からX1の案件の売上げにつ
いて尋ねられたので,Y1案件は総売上げが5000万円で,そのうち
3000万円は同年3月期に,残りは翌期にそれぞれ計上できる見込み
があるが,まだX1とY1の間で価格交渉で難航しており,契約締結に
は至っておらず,AはX1から正式な依頼がない状態で見積もりと提案
を出すための先行作業を行っているなどと報告した。しかし,同年2月
28日ころになり,被告人から,X1の社長に頼んで5000万円の検
収を上げてこいなどと指示された。そして,3月1日にZ1と会った後,
被告人に対し,電話で,5000万円の売上計上に協力することを了承
してもらった旨報告したところ,被告人は,よっしゃ,わかったと言っ
ていた。」などと供述する。
B1のこの供述は,上記で認定の経緯,とりわけ,Aの平成17年
3月期のY1案件の売上計画が3000万円から5000万円に変更に
なったことや,その直後にZ1にY1案件の売上計上に協力するよう依
頼していることなどに照らし,自然な内容であり,信用することができ
る。
②この信用性の認められるB1の供述によれば,その供述どおりの事実
が認められ,これによれば,被告人は,Y1案件が,Y1からX1への
発注があった後に,X1からAに発注されるものであり,X1に対する
売上計上への協力依頼を指示した時点では,いまだY1からの発注がな
い状態であることを認識した上で,平成17年3月期に売上げを見込め
る3000万円だけでなく,売上げを見込めない2000万円分につい
ても注文と検収の協力依頼をするよう指示をしていたのであって,これ
らに加え,先に認定説示した他の案件における被告人の指示内容等をも
考え併せると,被告人は,Y1案件が,X1において発注することがな
い状態であったのに,書類上発注,検収があったようにして同期の売上
計上に協力することを依頼するようB1に指示したと認めるのが相当で
あり,被告人はY1案件の発注がないことを分かっており,平成17年
3月期にY1案件の売上げを計上するのが虚偽であることを認識してい
たというべきである。
③これに対し,被告人は,当公判廷において,X1との間でY1案件が
あることは知らなかったので,B1からこの案件について報告を受けた
ことはないなどと供述するが,先に認定したとおり,赤字決算に陥る可
能性のある平成17年3月期において,5000万円もの売上げのある
案件について報告を受けていなかったなどというのは不自然であって
(先に認定説示したように,同様の金額であるR1のT1案件について
は,報告を受けている。),上記のとおり信用性の認められるB1の供
述に照らし,にわかに措信しがたく,上記認定に合理的な疑いを抱かせ
るには至らない。
8Eへの送金について
前提となる事実について
上記第1で認定のとおり,Aは,平成17年3月期において,Eに対し,
外注費名目で合計2億8000万円(消費税込みで2億9400万円)を
送金していた(別紙1番号11ないし17)ところ,これらの送金は,D
のAに対するリース料の支払原資を捻出するため,AとEの間の架空のソ
フトウェア開発請負個別契約に基づいて行われていたが,これらEへの架
空外注費の会計処理について,可能な限り多額の売上計上が可能な大型案
件の売上原価に組み込んで処理していたのである。
そして,上記のとおり信用性の認められるBやWの供述を含む関係証拠
を総合すれば,この2億8000万円のうち6000万円分については,
消費者金融会社である株式会社B2にコンピュータシステムを導入する案
件の売上原価として処理し,また,2億2000万円分については,これ
をまるごとI1銀行案件の4億円の売上げに対する売上原価として処理し
てしまうと,平成17年3月期の利益が減少してしまうことから,原価処
理をせず,翌期以降もI1銀行案件で売上げを上げられる見込みがあるも
のとして,仕掛品勘定として計上し,翌期に繰り越したことが認められる。
虚偽性について
これらの事実によれば,Aが平成17年3月期にEに送金した2億80
00万円は,そもそも外注費としての実体がなく,これに対応する売上げ
はおよそ存在しないから,当期においても,次期以降においてもAの売上
原価として処理すべき実体は,何ら存在しないことは明らかであり,本来
であれば,通常の業務とは関係なく生じた特別損失として計上すべきもの
といえる。
したがって,この2億8000万円を特別損失に計上せず,売上原価な
いしは仕掛品として計上したことは,虚偽というほかない。
被告人の認識について
Eへの送金について,これを架空のソフトウェア開発請負個別契約に基
づく送金であるものと被告人が認識していたことは,被告人も自認すると
ころであり,これによれば,この送金が外注費としての実体がなく,当期
においても,次期以降においてもAの売上原価として処理すべきものでな
いことも当然分かっていたものと考えられるところ,被告人の公判供述に
よれば,Eへの送金についてAの売上原価として処理されていることも認
識していたというのであるから,被告人がEへの送金に関する会計処理が
虚偽であることを認識していたと認めるのが相当である。
9結論
上記認定事実からすれば,Aが公表した別紙4①欄記載の平成17年3月
期の損益計算書の内容には一部虚偽が含まれているといえ,調査官報告書(甲
2ないし5)に照らし考えると,同②欄記載のとおり修正を施した後の同③
欄記載の内容が正しい損益計算書の内容といえる。
そして,上記認定事実からすれば,その虚偽性を基礎付ける主要な事実に
つき,被告人はこれを認識しており,さらに,虚偽の記載を作出したことに
つき,B,B1,M1,Cらと共謀があったといえるから,被告人は,判示
第2のとおりの事実を行ったものと認められる。
(法令の適用)
1罰条
判示第1の1及び2の所為につき
包括して刑法60条,会社法960条1項3号(会社法施行日(平成18年
5月1日)の前後を問わず,単一の意思の発動に基づき同種の行為を継続し
たため包括一罪を組成するときは,途中で刑の変更があっても,行為全部に
新法を適用すべきである。また,判示第1の2の時点では,被告人には会社
法960条1項所定の身分はないが,判示第1の1と包括して上記法条の罪
が成立すると解する。)
判示第2の所為につき
刑法60条,平成18年法律第65号附則218条により同法による改正前
の証券取引法207条1項1号,197条1項1号,24条1項1号
2刑種の選択
いずれも懲役刑及び罰金刑の併科刑を選択
3併合罪の処理
刑法45条前段の併合罪
懲役刑につき同法47条本文,10条(重い判示第1の罪の刑に法定の加重)
罰金刑につき同法48条2項(多額を合計)
4未決勾留日数の算入
同法21条(懲役刑に算入)
5労役場留置
同法18条
6執行猶予
同法25条1項(懲役刑につき)
7訴訟費用
刑訴法181条1項本文
(量刑の理由)
1まず,会社法違反の事件についてみると,被告人が自ら出資してDを設立し
ているのに関連当事者取引を行ったことが発覚しないように,また,被告人の
Dに対する貸付金の回収を図るため,Eを介してDに送金し,Aに約20億円
もの損害を与えたものであり,目先の自己の利益を優先した身勝手な犯行で,
その結果も大きい。しかも,被告人が代表取締役を辞任した後は,貸付金の回
収を図るだけのためにこの送金を続けるようBに指示したことも考えると,被
告人の図利目的は強固であったといえる。
しかし,被告人とAとの間では裁判上の和解が成立し,Aが,覚書で,被告
人を宥恕する旨の意思を表明している上,Aの代表取締役会長も当公判廷で被
告人に対する処罰を求める気持ちは全くないと供述しているのであって,これ
らの事情は,量刑上十分に考慮すべきである。
2次に,証券取引法違反の事件についてみると,Aの4期連続の赤字決算を避
けたいなどの理由から,当時の代表取締役であった被告人が,Bをはじめ,そ
の経営や営業に携わる主要な取締役等と意思を通じ合い,取引先に協力を得て
本来その事業年度には計上できない売上げを計上するなどし,業績が黒字に回
復したかのように装ったものであって,その犯行は,会社ぐるみの組織的犯行
であり,一般投資家の判断を誤らせ上場株式の公正な取引秩序を害する犯行で
ある。
もっとも,6件の不正な売上計上のうち4件は,その後に納品されて現実の
売上げとなっており,計上する事業年度を恣意的に早めたという不正はあるも
のの,全くの架空の売上げを計上したような事案に比べると悪質性は低いとい
える。
また,その余の2件のうち,①X1の案件については,結局,受注には至ら
なかったものの,Aのリスクにおいて先行作業は実施していたこと,②L1と
の間のO1の使用許諾契約については,リポジトリの構築作業を当期内に行っ
ていなかったものの,O1のサーバー機能とクライアント機能が入ったCDは
当期内に納品されており,試用期間経過後は本格導入を決定してもらえるよう
交渉に努めていたことに鑑みると,全くの架空の売上げを計上した事案とは,
やはり一線を画するものといえる。
そうすると,本件の売上げの不正計上は,金額こそ多額であるものの,その
態様の悪質性が高いとまではいえない。
3このような事情を総合すると,被告人の刑事責任は,本件と同じ罪で懲役3
年,4年間執行猶予の有罪判決を受けたBよりはやや重いものの,懲役刑につ
き被告人を実刑に処するのは厳し過ぎるように考えられるので,被告人を主文
のとおりの各刑に処した上,懲役刑については執行猶予を付するのが相当と判
断した。
(求刑懲役5年及び罰金1500万円)
平成25年1月7日
神戸地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官奥田哲也
裁判官辻井由雅
裁判官塚本晴久

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