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裁判例


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平成10年(行ケ)第189号 審決取消請求事件
     判    決
  原   告        コーマ株式会社
  代表者代表取締役     【A】
  訴訟代理人弁護士     阪  本  政  敬
               青  木  秀  篤
  同    弁理士     【B】
               【C】
  被   告        マニファチュラ マリオ コロンボ アンド シ
ー.エス.ピー.エー.
  代 表 者        【D】
  訴訟代理人弁理士     【E】
               【F】
      主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
      事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が平成7年審判第7997号事件について平成10年5月7日にした審決を取り消
す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は、指定商品を旧第24類「おもちゃ、人形、娯楽用具、運動具、釣り具、楽
器、演奏補助品、蓄音機(電器蓄音機を除く。)レコード、これらの部品及び附属
品」とし、「colmar」の欧文字を書して成る登録第1958297号商標(昭和59年3月8日
出願、昭和62年5月29日登録、平成9年6月3日更新登録。本件商標)の商標権者であ
る。
 被告は、平成7年4月14日、商標法50条に基づき、原告を被請求人として、本件商
標について商標登録取消しの審判を請求し(平成7年5月16日予告登録)、平成7年
審判第7997号事件として審理されたが、平成10年5月7日、登録第1958297号商標の登
録は取り消す、との審決があり、その謄本は同月25日原告に送達された。
 2 審決の理由の要点
 (1) 当事者の審判における主張等
 別紙審決理由抜粋のとおりである。
 (2) 利害関係についての審決の判断
 当事者間に利害関係について争いがあるので、まずこの点についてみるに、被告
が本件審判を請求するについて利害関係を有すると主張する根拠としている商標登
録出願(平成6年商標登録願第128142号。被告によるもの)は、平成10年1月16日付
けで本件商標を引用した拒絶理由通知がなされており、現在も審査に係属中であ
る。してみれば、被告は、本件審判請求について利害関係を有するものである。
 また、原告は、本件不使用取消審判は信義誠実の原則に反し権利の濫用である旨
主張しているが、原告が主張するような事情があったとしても、そのことから直ち
に被告による本件審判請求が権利の濫用になるものということはできない。
 (3) 本案についての審決の判断
 そこで本案に入って判断するに、まず、美津濃株式会社の使用が本件商標の使用
に当たるか否かについて検討する。(本判決の判断の都合上、項目ごとに(a)などの
符号を付した。)
  (a) 原告が本件商標(あるいはその連合商標)の使用をしているものとして提
出した審判乙第4号証の1及び2(美津濃株式会社のカタログ)、同第6号証の1ないし
10(スキー関連の雑誌)、同第7号証(83INVERNOHIVERWINTERCOLMAR1983年美
津濃株式会社発行)及び同第13号証の1ないし56(スキー関連の雑誌)に
は「COLMAR」の商標が付された競技用のスキー用特殊衣服、その他のスキー用特殊
衣服、スキー用特殊手袋、スキー用特殊ヘアーバンド、スキー用特殊帽子などが掲
載されていた事実を認めることができる。
  (b) しかしながら、美津濃株式会社による使用は、審判乙第1号証の1ないし
17の契約事項にもあるとおり、専ら、イタリア国COLMAR社(被告)から輸入して販
売する「COLMAR」商標のスキー用被服等、あるいはイタリア国COLMAR社と技術提携
契約(審判乙第8号証の1及び2)に基づいて製造販売する「COLMAR」商標のスキー用
被服等に限られていたものである。そして、前記したカタログあるいはスキー関連
の雑誌等をみるに、当該スキー用衣服等には「COLMAR」商標とともにCOLMAR社の所
有する図形商標が併せて使用されていることが認められる。
  (c) ところで、審判乙第7号証によれば、コルマー社は、1923年2月、ミラノ郊
外モンツァに創立されて以来、1952年にはイタリア、オーストリア、スウェーデ
ン、ドイツ等のナショナルスキーチームのオフィシャルサプライアーになり、それ
までの背広姿のスキーウェアーに対し、ラスティックバンドをつけたウェアーを考
案、1960年代には、ワールドスキーヤーである【G】、【H】選手の協力の下に、
現在のスキーウェアーの原型ともいえるワンピース型スキーウェアーを開発し、イ
タリアスキーウェアー界のビッグワンとして君臨しており、今日、「イタリアンコ
ルマーを知らねばスキーウェアーについて何も語れない」、「スキーを愛する者で
なければ、コルマーに袖を通してはならない」状況に至っている旨の記述がなされ
ており、審判甲第4号証の1ないし28によれば、被告は、「COLMAR」商標を米国、カ
ナダ、中国、フランス、スイス、ドイツ、オーストリア、イタリア等29か国におい
て登録又は出願していることを認めることができる。
  (d) そしてまた、前記したカタログあるいはスキー関連の雑誌をみて
も、「COLMAR」については、「イタリアに生まれ世界的に愛好者を持つコルマー」
「イタリアのセンスの結晶ともいえるコルマー」「イタリアの力、コルマー」「イ
タリアの魅力、コルマー」「イタリアの血統、コルマー」等々のごとく記述されて
いることが認められる。
 上記の各事実に照らしてみれば、我が国においても「COLMAR」、「コルマー」と
いえば被告会社の所有に係る商標として、スキー用衣服等の取引者・需要者間にお
いて、広く知られていたものとみるのが相当である。
  (e) そうとすれば、美津濃株式会社によって使用されていた上記「COLMAR」あ
るいは「コルマー」商標は、あくまでも輸入元あるいは技術導入契約を締結してい
たイタリア国COLMAR社の業務に係る商品の出所を表示するものとして使用され、機
能していたものであり、これに接するスキー用衣服等の取引者・需要者にとっても
イタリア国COLMAR社の業務に係る商品の出所を表すものとして理解・認識されてい
たものというべきである。
  (f) してみれば、本件商標がCOLMAR社の商標とほとんど同じであるからといっ
て、美津濃株式会社による当該商標の使用が本件商標あるいはその連合商標の使用
にも該当するということにはならないことは明らかである。
  (g) なお、原告と美津濃株式会社との間における本件商標あるいは連合商標に
ついての使用許諾契約にしても、その契約条項をみれば、美津濃株式会社がコルマ
ー社の「COLMAR」商標を使用(輸入及び工場生産)するために、スキー用被服等の
売上に比例した一定割合の使用料を原告に支払っていたというにすぎないものとい
うべきであり、本来的意味における本件商標あるいはその連合商標をその指定商品
に使用するための使用許諾契約とはいい難いものであるから、美津濃株式会社が原
告に使用料を支払っていたからといって、美津濃株式会社による当該商標の使用が
本件商標あるいはその連合商標の使用に該当することにならないことは前記したと
おりである。
  (h) 次に、審判乙第12号証の1ないし3の新聞あるいは雑誌に広告を掲載したこ
とが本件商標の連合商標「コルマ」についての原告自身による「野球用ストッキン
グ、グランドコート」等の商品についての使用に当たるか否かについて検討する。
  (i) 審判乙第12号証の1ないし3の新聞あるいは雑誌に掲載されている広告をみ
るに、確かに「コルマ」の商標及びそれに対応すると思われる「野球用ストッキン
グ、グランドコート」等の商品が記載されていることを認めることはできる。
  (j) しかしながら、該広告中にはそれ以外にも3つないし5つ程度の商標及びそ
れに対応する商品が羅列されているばかりでなく、上部には「大阪府品質管理推進
優良工場」あるいは「喜ばれる品質で奉仕する靴下の一貫メーカー」の文字が書さ
れ、中央部には「コーマ株式会社」の文字が大きく書され、その下に「取締役社長
 【A】」あるいは「代表取締役 【A】」の文字、さらにその下部に会社の住
所、電話番号等が書されており、加えて審判乙第12号証の3には工場の全景写真が大
きく表されている。
  (k) このような態様のものであることからすると、該広告は、原告の営業内容
を含めた原告会社自体の広告とみるのが相当であり、特定の商標を付した具体的な
商品の販売を目的としてなされた広告とみることはできないから、審判乙第12号証
の1ないし3の広告をもってしては、本件商標の連合商標「コルマ」を「野球用スト
ッキング、グランドコート」等の商品について使用していたものとはいえず、ま
た、使用に当たるとしても、名目的使用の範疇を出ないものというべきである。
  (l) してみれば、審判乙号各証をもってしては、本件審判の請求に対して、原
告は、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において本件商標(あるいはその
連合商標)をその請求に係る指定商品について使用していたことを証明したものと
いうことはできない。
 (4) 審決の結論
 したがって、本件商標の登録は、商標法50条の規定により取り消すものとす
る。
第3 原告主張の審決取消事由
 1 利害関係についての誤り
 審決は、被告(審判請求人)には、本件審判請求についての利害関係があると認
定したが、誤りである。
 原告は、昭和48年5月に、美津濃株式会社との契約により、同社に対して、同社が
イタリア国COLMAR社(被告)から輸入販売する「COLMAR」商標のスキー用被服等に
ついて、本件商標と同一性を有する商標「COLMAR」を使用することを許諾し、ま
た、同社がCOLMAR社との技術提携契約に基づいて製造販売するスキー用被服等につ
いて商標「COLMAR」を使用することを許諾した。この契約は毎年更新されて現在に
至っている。
 そして、原告は昭和62年5月29日、本件商標につき登録を受けた。
 言い換えれば、被告は、「COLMAR」商標のスキー用被服等の商品を、本件商標に
ついて原告から使用許諾を受けた美津濃株式会社を通じて日本国内に輸入販売して
おり、また被告との技術提携により美津濃株式会社が製造した商品も、同じく、原
告の使用許諾に基づき「COLMAR」の商標を付して日本国内において販売されてい
る。このようにして、「COLMAR」商標の商品を日本国内において販売しようとする
被告の目的は、美津濃株式会社を通じて達成されている。すなわち、「COLMAR」商
標を日本国内において使用しようとする被告の意思は何ら妨げられておらず、した
がって、被告は本件不使用取消審判を請求する利益を有さない。
 2 権利濫用についての誤り
 審決は、本件不使用取消審判の請求が権利の濫用にならないとしたが、誤りであ
る。
 原告は、昭和29年に、旧々第36類に属する本件商標の連合商標(筆記体欧文
字「Colma」と片仮名「コルマ」とから成る商標。登録第44717号)につき登録を受
け、これを靴下について継続使用するとともに、昭和40年ころからの多角経営の傾
向にかんがみて、一般衣料品、スポーツウェアなどについてもこの商標を使用しよ
うと企図していたところ、昭和48年に、被告の「COLMAR」商標を付したスキー用衣
服を美津濃株式会社が日本市場で販売することを認めた。その後、原告は、登録第
44717号商標の保護を厚くし、ひいては美津濃株式会社が有する「COLMAR」商標につ
いての使用権の保護を厚くするために、登録第44717号商標と類似する商標2件につ
いて出願をし、それぞれにつき登録を受けた。すなわち、登録第1341591号商標と本
件商標である。
 原告は、「COLMAR」商標について美津濃株式会社に使用許諾した以上、これら登
録商標をその指定商品中の広範なものについて急ぎ使用して使用義務を尽くす必要
もないと考え、また、自らの顧客である美津濃株式会社の立場も考慮して、最近に
至るまで、本件商標を敢えて靴下のみについて使用するにとどめた。のみならず、
原告は、甲第5号証などの契約書の第2条の合意を誠実に遵守して、本件商標を第三
者に許諾することもしなかった。
 美津濃株式会社と被告との提携関係からして、被告がこのような事情を知ってい
たことは明らかであり、被告は、前記のような原告の配慮を奇貨として不使用取消
審判請求の挙に出たものである。被告のこのような所為は著しく信義誠実の原則に
反し、取消審判の請求権の濫用にほかならない。
 3 美津濃株式会社による使用を否定した誤り
 審決は、美津濃株式会社の使用が本件商標の使用に当たらないとしたが、誤りで
ある。
 (1) 審決は、美津濃株式会社によって使用されていた「COLMAR」あるいは「コル
マー」商標は、イタリア国COLMAR社の業務に係る商品の出所を表示するものとして
使用され、機能していたものであり、取引者・需要者にとっても同社の業務に係る
商品の出所を表すものとして理解・認識されていたものというべきであるとの判断
(審決の理由の要点(3)の(e)。判断A)を根拠として、「本件商標がCOLMAR社の商
標とほとんど同じであるからといって、美津濃株式会社による当該商標の使用が本
件商標あるいはその連合商標の使用にも該当するということにはならないことは明
らかである。」と判断している(審決の理由の要点(3)の(f)。判断B)。
 (2) そもそも、「COLMAR」あるいは「コルマー」商標が被告の商品の出所を表示
するものとして取引者・需要者間において広く知られていた事実は存せず、美津濃
株式会社が「COLMAR」あるいは「コルマー」商標を使用していたのは、原告が本件
商標あるいは連合商標について美津濃株式会社に対して使用許諾を与えていたから
であり、「COLMAR」商標は、被告の業務に係る商品の出所を表示するものとして使
用され、機能していたものではない。
 すなわち、原告の登録商標である本件商標あるいは連合商標について使用許諾を
受けた美津濃株式会社が、商標の使用に際してカタログあるいはスキー関連雑誌に
おいて「イタリアの、……」という表現を用いていたとしても、取引者・需要者間
においては被告「マニファチエラ マリオ コロンボ アンド シー.エス.ピ
ー.エー.」の名前は全く知られておらず、もちろん「COLMAR」あるいは「コルマ
ー」商標が被告の業務に係る商品の出所を表示するものとして知られていた事実は
存しない。あくまでも、本件商標あるいは連合商標について使用許諾を受けた商標
としての「COLMAR」が使用された結果、この商標が取引者・需要者間において知ら
れたものであり、これはすなわち原告の本件商標あるいは連合商標の使用の結果、
当該商標が取引者・需要者間において知られるようになったものである。したがっ
て、判断Aは誤りである。
 (3) 仮に判断Aが正しいとしても、そのことを根拠として判断Bを導いたのは誤
りである。
 すなわち、美津濃株式会社によるイタリア国COLMAR社の業務に係るスキー用衣服
の輸入販売や同社との業務提携に基づくスキー用衣服の製造販売は、一方で
は、「COLMAR」あるいは「コルマー」商標の使用にほかならないが、他方では、原
告の所有する本件商標の使用にも当たる。
 そうだとすれば、美津濃株式会社が使用する「COLMAR」あるいは「コルマー」商
標がCOLMAR社の業務に係る商品の出所を表示するものとして使用され、機能してい
るとしても、そのことから直ちに、美津濃株式会社による当該商標の使用が本件商
標あるいはその連合商標の使用に該当しないということはできない。
 したがって、審決が美津濃株式会社の使用が本件商標の使用に当たらないとした
判断は誤りである。
 4 原告による使用を否定した誤り
 審決は、原告が本件商標を使用していたものとは認められないとしたが、誤りで
ある。
 審判乙第12号証の1ないし3(本訴甲第6号証の1~3)のいずれの広告において
も、複数の商標と多数の商品が混然と記載されているのではなく、複数の商標のお
のおのについて、その真横にその商標が使用される商品が列挙されている。そし
て、本件商標の真横には「野球用ストッキング、グランドコート」等の具体的な商
品が記載されている。そうだとすれば、この広告においては、「野球用ストッキン
グ、グランドコート」等の具体的な商品についての広告がなされ、そして、そのよ
うな具体的な商品について本件商標が表示されているから、この広告においては、
本件商標が「野球用ストッキング、グランドコート」等の商品について使用されて
いるというべきである。
 これに反する審決の認定は誤りである。
第4 審決取消事由に対する被告の反論
 1 取消事由1(利害関係)について
 被告が販売目的を達しているか否かの問題は、被告が取消審判を請求する利益が
あるか否かの問題とは無関係である。
 被告は、世界28カ国で商標「COLMAR」の登録を得ている。日本においてもこの商
標を自由に使用し、商標登録を受けることを求めるのは自然なことである。
 原告の本件商標が登録されていることにより、被告は、自らの商標「COLMAR」の
使用を無断で行うことができず、その商標登録を受けることもできない状況にあ
り、本件商標についての取消しを求める不使用取消審判の請求を行うについて利益
を有している。
 2 取消事由2(権利濫用)について
 原告が美津濃株式会社に「COLMAR」の使用を認めることとした契約書(甲第5号
証)は、原告自らの登録商標の使用義務を免れ得るような内容のものではない。
 被告自身は、商標の使用に関して原告とは何らの合意や取決めを行っている事実
もなく、被告が上述の請求の利益の下に取消審判の請求を行ったことが、権利の濫
用に当たるものではない。
 3 取消事由3(美津濃株式会社の使用)について
 原告が、美津濃株式会社を通常使用権者であると考えている根拠は、甲第5号証の
契約書と考えられる。しかしながら、この契約書は、原告が所有する登録第
447171号の商標権に関するものであり、その商標の類似範囲の商標の使用に関して
美津濃株式会社がこれを行うことを許諾する内容となっている。すなわち、登録商
標の類似範囲である「COLMAR」商標の使用に対して禁止権を行使しないことを約束
したものである。
 また、この甲第5号証の契約書(平成7年)は、昭和48年5月から毎年1年契約で締
結された契約書の17回目のものであり、本件商標の類似範囲についての商標を対象
とする契約書であることは、第1回目から甲第6号証の17回目の契約書まで変更され
ていない。この基本事項は登録第1341591号の商標(カタカナ「コルマ」)及び本件
商標の商標登録が行われた後も何ら変わっていない。
 すなわち、上記契約書は、専用使用権や通常使用権を設定許諾する内容のもので
ないことは明らかである。美津濃株式会社は、原告との上記禁止権を行使しないこ
とを内容とする契約書に基づいて、イタリア国COLMAR社(正確には被告)の商標の
使用を行っていたものである。
 4 取消事由4(原告の使用)について
 審決がした審決の証拠評価に誤りはなく、原告の主張は理由がない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(利害関係)について
 被告がした商標登録出願(平成6年商標登録願第128142号)において、平成10年
1月16日付けで、本件商標を引用した拒絶理由通知がされ、同出願は現在も審査に係
属中であること自体について、原告は明らかに争わないので、自白したものとみな
す。この事実によれば、被告が、本件審判請求について利害関係を有することは明
らかである。
 原告は、被告は、「COLMAR」商標のスキー用被服等の商品を、本件商標について
原告から使用許諾を受けた美津濃株式会社を通じて日本国内に輸入販売しており、
また被告との技術提携により美津濃株式会社が製造した商品も、原告の使用許諾に
基づき「COLMAR」の商標を付して日本国内において販売されているか
ら、「COLMAR」商標の商品を日本国内において販売しようとする被告の目的は、美
津濃株式会社を通じて達成されていると主張するが、この主張事実は、本件商標権
の禁止権の範囲の一部についてのものにすぎないから、この事実をもってしても、
本件審判請求について被告が有する利害関係を否定することはできず、他にこれを
否定すべき事実関係は認められない。
 したがって、被告に本件不使用取消審判請求についての利害関係を肯定した審決
の判断に誤りはない。
 2 取消事由2(権利濫用)について
 原告が権利濫用等の主張の根拠として挙げるのは、原告は、「COLMAR」商標の使
用を美津濃株式会社に許諾したことから、最近に至るまで、本件商標を敢えて靴下
のみについて使用するにとどめ、第三者にも本件商標の使用を許諾したことはなか
ったのに、被告の本件不使用取消審判請求は、原告のこのような配慮を奇貨とした
ものであるという点にある。
 しかしながら、ここで主張されているのは、本件商標自体が美津濃株式会社に使
用許諾されてきたとの事実ではない。しかも、原告と美津濃株式会社との間で取り
交わされたのは、後記3で判示するとおり、登録第447171号商標に関する禁止権の
範囲に属するものと認識されていた「COLMAR」商標に関するものにとどまり、同社
が原告に支払うべきものとされてきたのは、本件商標の使用料というべきものでは
ない。
 そして、上記契約は原告ではなく第三者である美津濃株式会社との間で締結され
たものにとどまることも勘案すると、原告主張事実をもってしても、被告の本件不
使用取消審判の請求が信義に反し、あるいは権利の濫用に該当するものと認めるこ
とはできない。他にこれら原告主張の点を裏付ける事実関係は認められず、同旨の
審決の判断に誤りはない。
 3 取消事由3(美津濃株式会社の使用)について
 (1) 原告は、美津濃株式会社の「COLMAR」商標の使用は、本件商標の使用に該当
すると主張するので、検討する。
 (2) まず、審決が認定した次の事実関係は、原告も争わず、被告も有利に援用し
ているものと認められる。
 ○ 美津濃株式会社による使用は、専ら、イタリア国COLMAR社(弁論の全趣旨に
よれば、被告の通称と認められる。)から輸入して販売する「COLMAR」商標のスキ
ー用被服等、あるいはイタリア国COLMAR社との技術提携契約に基づいて製造販売す
る「COLMAR」商標のスキー用被服等に限られていたこと(審決の理由の要点(3)
の(b))、
 ○ 当該スキー用衣服等には「COLMAR」商標と共にCOLMAR社の所有する図形商標
が併せて使用されていること(同(b))、
 ○ 美津濃株式会社のパンフレットやスキー関連雑誌に、コルマー社は、1923年
2月、ミラノ郊外モンツァに創立されて以来、1952年にはイタリア、オーストリア、
スウェーデン、ドイツ等のナショナルスキーチームのオフィシャルサプライアーに
なり、それまでの背広姿のスキーウェアーに対し、ラスティックバンドをつけたウ
ェアーを考案、1960年代には、ワールドスキーヤーである【G】、【H】選手の協
力の下に、現在のスキーウェアーの原型ともいえるワンピース型スキーウェアーを
開発し、イタリアスキーウェアー界のビッグワンとして君臨しており、今日、「イ
タリアンコルマーを知らねばスキーウェアーについて何も語れない」、「スキーを
愛する者でなければ、コルマーに袖を通してはならない」状況に至っている旨の記
述があること(同(c))、
 ○ 被告は、「COLMAR」商標を米国、カナダ、中国、フランス、スイス、ドイ
ツ、オーストリア、イタリア等29か国において登録又は出願していること
(同(c))、
 ○ さらに、カタログあるいはスキー関連の雑誌に、「COLMAR」については、
「イタリアに生まれ世界的に愛好者を持つコルマー」「イタリアのセンスの結晶と
もいえるコルマー」「イタリアの力、コルマー」「イタリアの魅力、コルマー」
「イタリアの血統、コルマー」などのように記述されていること(同(d))、
 (3) また、甲第47ないし第50号証によれば、美津濃株式会社が被告からのライセ
ンスを得て日本国内で発行し「COLMAR」商標が描かれているパンフレットに
は、「COLMAR」商標(大文字)が独特の字体で描かれ、これがスキーウエアにも表
示されてきていることが認められる。
 (4) 上記の各事実に照らしてみれば、我が国においても「COLMAR」といえば、イ
タリアの企業が権利を有する商標として、スキー用衣服等の取引者及び需要者間に
おいて、広く知られていたものと認められるのであり、欧文字の小文字から成る本
件商標の「colmar」とは、截然と区別して認識されるに至っていたものということ
ができる。
 (5) 原告は、美津濃株式会社が被告からライセンスを受けて輸入、製造、販売し
ていた「COLMAR」商標は、原告からの使用許諾を得ていたものであると主張する。
 なるほど、甲第5、第7ないし第12、第22、第24ないし第29、第31、
第34、第42ないし第46及び第77号証によれば、原告と美津濃株式会社との
間で「COLMAR」商標の使用に関して締結された契約は昭和48年5月から始まり、
昭和52年まで継続したこと、この契約は昭和59年4月から再開され、現在まで
継続していることが認められるが、これらの契約書の前文には、「(原告と美津濃
株式会社とは、原告)の所有に係る第447171号商標「Colma」の類似商標「COLMAR」
を乙(美津濃株式会社)に使用許諾するに当り、次の通り取り決め契約を締結す
る。」と記載されているのであり(ただし、登録第447171号商標の表記方法は年度
によって異なる。)、「COLMAR」商標は登録第447171号商標の使用ではなく、それ
に類似する商標として契約当事者間に認識されていたものであることが明らかであ
る。このような契約上の文言及び当事者の認識からすれば、上記契約は、登録第
447171号商標の禁止権を行使することを一部放棄する趣旨のものとして取り交わさ
れたものというべきである。
 したがって、上記契約による美津濃株式会社の商標の使用の事実をもって、登録
第447171号商標の使用があったものとすることはできない。また、上記(2)ない
し(4)に認定した事実関係に照らせば、美津濃株式会社が使用してきてい
る「COLMAR」商標は、小文字から成る本件商標の「colmar」と截然と区別して認識
されるに至っており、本件商標とは同一の商標と認められないから、上記契約によ
り美津濃株式会社が「COLMAR」商標を使用していたとしても、これをもって、同社
が本件商標を使用していたものとすることもできない。
 (6) 以上のとおりであり、美津濃株式会社により本件商標の使用の事実があった
ことを主張する取消事由3は理由がない。
 4 取消事由4(原告による使用)について
 次に、新聞あるいは雑誌に広告を掲載したことにより原告主張の本件商標の使用
の事実が認められるか否かについてみるに、甲第6号証の1ないし3によれば、「松原
市老連」と題する新聞、平成5年8月9日の日本染色新聞及び大阪府品質管理推進協議
会発行の「中小企業と品質管理」第22号に本件商標ないしそれに類似すると思われ
る商標と共に本件商標の指定商品に属する「野球用ストッキング、グランドコー
ト」等が原告が製造する商品の種類として記載されていることが認められる。
 しかしながら、当該広告中には、それ以外にも3つないし4つ程度の他の商標及び
それに対応する商品の種類が羅列されており、その上部に「大阪府品質管理推進優
良工場」あるいは「喜ばれる品質で奉仕する靴下の一貫メーカー」の文字が書さ
れ、中央部には「コーマ株式会社」の文字が大きく書され、その下に「取締役社長
 【A】」あるいは「代表取締役 【A】」の文字、さらにその下部に会社の住
所、電話番号等が書されており、さらには「中小企業と品質管理」第22号には工場
の全景写真が大きく掲げられていることが認められる。
 この事実に、原告は、本件商標をその指定商品に付するなどの態様で自ら使用し
てきたことについて主張立証していない点も合わせ考えれば、上記広告は、原告の
取り扱う商品の種類を紹介して原告の営業内容を宣伝することを主眼とする原告会
社自体の広告とみるのが相当であり、特定の商標を付した具体的な商品の販売を目
的とする広告とみるのは相当でない。したがって、上記各広告をもってしては、本
件商標を原告が主張する商品について使用していたものとはいえない。
 本訴で新たに提出された甲第65号証の1、2、第66ないし第71号証の広告によって
も、上に判断した広告の態様を超えて商品の使用に当たるものとすべき広告がされ
ていたとの事実は認めることができない。
 その他、本件全証拠によっても、本件商標につき、原告主張の使用の事実は認め
ることができず、取消事由4も理由がない。
第6 結論
 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、主文のとおり判決す
る。
(平成11年8月26日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
     裁判長裁判官   永   井   紀   昭
        裁判官   塩   月   秀   平
        裁判官   市   川   正   巳

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