弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審における未決勾留日数中六十日を原審の言い渡した懲役刑に算入す
る。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人徳岡一男および被告本人の各作成名義の控訴趣意書に
それぞれ記載のとおりであるから、これを引用し、これに対し当裁判所は、次のよ
うに判断する。
 弁護人の論旨第一点
 刑事訴訟法第三百二十八条は、形式的にも実質的にも伝聞証拠に関する原則であ
る同法第三百二十条の例外規定であつて、同条の法意は、公判準備又は公判期日に
おける被告人、証人その他の者の供述の証明力を争うためには、その者の右公判準
備又は公判期日外でした右供述に矛盾する供述(供述書面を含む。以下同じ)は、
論、広く一般に何人の供述であつても同法第三百二十一条乃至第三百二十四条の規
定により証拠とすることができない供述であつても総て無制限に証拠とすることが
できるものと解するのが相当である。(昭和二十六年七月二十七日東京高等裁判所
第九刑事部判決、高等裁判所判例集第四巻第十三号刑事一七一五頁参照)従つ<要
旨>て、又同条にいう証明力を争うとは、同条により提出し得る供述はいわゆる自己
矛盾の供述に限らないから証明力を減殺するためにする場合のみならず、こ
れを増強する場合であつても妨げないものと解しなければならない。ところで、本
件においては被告人が原審公判廷における冒頭陳述として検察官の起訴状朗読に対
し右公訴事実について被告人がAと共謀した点を否認したので検察官が右Aを証人
に申請し同人が公判廷においてなした証言が大体右共謀の点について公訴事実を認
め得る程度であつたのであるが、右証言の直後において検察官は、同人の司法警察
員および検察官に対する各供述調書謄本につき前記法条による証拠調を請求し原審
はこれを受理しその証拠調を了したことは明らかであつてその供述調書の供述記載
内容は所論の援用するとおり前記公判廷におけるものより一層明瞭に共謀の点が肯
認できるのである。然しながら、冒頭に述べたとおりこの手続は何ら違法をもつて
目すべきものではないのみならず、仮に所論に従い同法条により提出できる証拠
は、自己矛盾の供述のみであつて証明力を減殺するためにのみ使用できるものと解
し原審の手続が違法であるとしても、原判決はこの証拠を本件犯罪事実認定の証拠
に採用していないし、又これにより証拠力が補強されたと主張する原審公判廷にお
ける右Aの証言を除外しても原判決挙示のその余の証拠によつて優に原判示犯罪事
実を肯認するに十分であるから、その違法は判決に影響を及ぼすことの明らかなも
のとは到底認められない故、論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 大塚今比古 判事 渡辺辰吉 判事 江碕太郎)

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