弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人清家栄の控訴趣意は別紙記載の通りである。
 控訴趣意第一点について。
 論旨は原審検察官が審理終結後予備的訴因並に罰条の追加請求書を提出したのに
対し原審が弁論を再開して右予備的訴因の追加を容した上右訴因につき有罪の判決
をしたのは違法の措置であると謂うのである。仍て本件記録に徴するに、本件は昭
和二十七年二月二十二詐欺罪として起訴せられ昭和二十八年五月二十一日一旦結審
したものであるところ、結審後である同年六月十九日検察官より弁論再開請求書と
予備的訴因並に罰条の追加請求書が提出されたため、原審裁判所は同月二十二日弁
論再開の決定をなし同年八月十八日の第十六回公判において右予備的訴因(常習賭
博)の追加を許可し、結局単純賭博の事実を認定して有罪判決をしたこと所<要旨第
一>論の通りである。しかし訴因の追加又は変更等については刑事訴訟法上別段の時
期的制約は有しないから、右の如く結審後に検察官より予備的訴因追加
請求がなされ裁判所が弁論を再開の上予備的訴因の追加を許容したことを以て違法
の措置であるとはいえず、また本件の場合起訴より最初の結審迄相当の期間(一年
三ケ月)が経過して居りその間検察官は審理の経過に鑑み十分訴因の追加又は変更
をなし得る機会があつたとしても、結審後に予備的訴因の追加を請求しえ検察官の
措置が所論の如く訴訟法上の権利の濫用であるとはいえない。原審の訴訟手続に違
法の点はなく論旨は理由かない。
 同第二点について。
 論旨は本件賭博の相手方が訴追られていない点を非難した上結局原判決の罰金は
重きに過ぎると謂うのである。しかし本件記録を精査し本件の犯情、被告人の前科
(是迄賭博罪により数回罰金に処せられている)その他諸般の情状を考慮すれば、
原審の量刑(罰金五万円)は相当であつて、論旨主張の諸点殊に本件の共犯者等が
起訴せられた形迹のない点を十分考慮に容れても、原判決の罰金刑が必ずしも酷に
失するとはいえない。従て論旨は採用できない。
 同第三点について。
 論旨は原判決は予備的訴因につき有罪の判決をしているところ予備的訴因の追加
前に生じた訴訟費用を全部被告人に負担せしめているのは違法であると謂うのであ
る。仍て本件記録に徴するに原審においては前記の如く弁論再開後第十六回公判に
おいて予備的訴因の追加が許容され原審裁判所は予備的訴因につき刑の言渡(但し
単純賭博と認定)をなし訴訟費用を全部被告人に負担せしめていること並に原審に
おける訴訟費用はいずれも右予備的訴因が追加される前の証拠調に関し生じたもの
(証人に対する日当旅費等)であることは所論の通<要旨第二>りである。しかし裁
判所が当初の訴因を認定しないで後に予備的に追加された訴因につき有罪の認定を
なす場合であつても、当該被告事件につき結局刑の言渡をなす以上予備
的訴因追加の前後を問わず当該被告事件の審理上必要であつた訴訟費用(もつとも
判決の認定事実又は情状に全然関係のなかつた証人等に関する費用は除外すべきで
あろう)はこれを被告人に負担させて差支ないものと解するところ、原審における
訴訟費用は本被告事件の審理上必要であつた証人六名(A、B、C、D、E、F)
に支給した費用であり、而も右各証人は原判決が認定した四個の犯罪事実のいずれ
かに関係を有する者であるから、右各証人が取調べられたのは予備的訴因が追加さ
れる以前であつたとはいえ、原判決が右各証人に関し生じた訴訟費用を全部被告人
に負担させたのは適法であると謂わなければならない(論旨は当初の訴因と予備的
に追加せちれた訴因とは全然別個の事実であるかの如く論じているけれども、右両
者は基本的事実関係において同一のものである)。原審の訴訟費用負担の裁判に違
法の点はなく、論旨は首肯できない。
 仍て本件控訴は理由がないから刑事訴訟法第三百九十六条により主文の通り判決
する。
 (裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 浮田茂男)

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