弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人森川金寿、同高橋修、同太田雍也、同榎本信行、同島林樹、同四位直
毅、同岩崎修、同盛岡暉道、同成瀬聰、同関島保雄、同大山美智子、同肥沼隆男、
同古澤清伸、同佐藤和利、同葛西清重、同吉田健一、同山本哲子、同森田太三、同
山本英司、同小林政秀、同吉田栄士、同佐々木良博、同佐川京子、同中杉喜代司、
同井口克彦、同池末彰郎、同村田光男、同復代理人山崎泉の上告理由第一点につい

 所論は、要するに、上告人らの本件訴えのうち差止請求に係る部分(以下この部
分の請求を「本件差止請求」という。)は、人格権、環境権に基づき、被上告人に
対し、被上告人が妨害状態をひき起こしていること又は妨害を除去し得る立場にあ
ることを前提として、(1) 主位的請求として、アメリカ合衆国軍隊(以下「米軍」
という。)をして、夜間の一定の時間帯につき、本件飛行場を一切の航空機の離着
陸に使用させてはならず、かつ、上告人らの居住地(屋外)において五五ホン以上
の騒音となるエンジンテスト音、航空機誘導音等を発する行為をさせてはならない
ことを求め、(2) 原審における予備的請求として、右主位的請求が認められない
場合、被上告人の米軍への働きかけ又は被上告人独自で採り得る対策を実施する方
法によるとを問わず、右時間帯につき、上告人らの居住家屋内に、本件飛行場から
五五デシベル(C)を超えるエンジンテスト音及び航空機誘導音並びに本件飛行場
に離着陸する航空機から発する五〇デシベル(A)を超える飛行音を到達させては
ならないことを求めるものであり、右各請求はいずれも包括的不作為請求であると
ころ、右主位的請求を却下した一審判決に対する控訴を棄却すべきものとした原審
の判断には、理由不備の違法、経験則違反及び差止請求権に関する民法、訴訟法そ
の他の法令の解釈適用の誤りがあり、その結果原判決は憲法三二条に違反し、また、
予備的請求を主張自体失当として棄却した判断には、判断遺脱又は防衛施設周辺の
生活環境の整備等に関する法律(以下「環境整備法」という。)の解釈適用を誤っ
た違法がある、というのである。
 論旨は、まず、本件差止請求の前提として、被上告人が妨害状態をひき起こして
いると主張するが、原審の適法に確定したところによれば、本件飛行場は、被上告
人が日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(昭和三五年条約
第六号)及び日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に
基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(昭和三
五年条約第七号)に基づき、米軍の使用する施設及び区域としてアメリカ合衆国に
提供しているものであって、上告人らの主張する被害を直接に生じさせている者は
被上告人でなく米軍であるというのであるから、右主張はその前提を欠き失当であ
る。また、被上告人が米軍に対して本件飛行場を提供している事実から、被上告人
を米軍との共同不法行為者と認めることができないことも、原審の説示するとおり
である。
 次に、論旨は、本件差止請求の前提として、被上告人が妨害を防止し得る立場に
あると主張するが、上告人らが被上告人に対してその主張するような差止めを請求
することができるためには、被上告人が米軍の使用する航空機(以下「米軍機」と
いう。)の運航等を規制し、制限することのできる立場にあることを要するものと
いうべきところ、前記のとおり、本件飛行場に係る被上告人と米軍との法律関係は
条約に基づくものであるから、被上告人は、条約ないしこれに基づく国内法令に特
段の定めのない限り、米軍の本件飛行場の管理運営の権限を制約し、その活動を制
限し得るものではなく、関係条約及び国内法令に右のような特段の定めはない。そ
うすると、上告人らが米軍機の離着陸等の差止めを請求するのは、被上告人に対し
てその支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求するものというべきであるから、
本件差止請求は、その余の点について判断するまでもなく、主張自体失当として棄
却を免れない。
 また、論旨は、騒音等による被害防止のため被上告人独自で採り得る対策が可能
であることを理由に被上告人に対して本件差止請求をすることができると主張する
が、上告人らの主張する被害を直接に生じさせている者が米軍であって、被上告人
でないことは前示のとおりであるから、被上告人は被害防止の措置を採るべき法的
立場にはなく、右主張は失当である。被上告人が環境整備法に基づき本件飛行場の
周辺住民のために講じ、又は講ずべき対策は、被上告人の不法行為責任に基づくも
のではなく、これとは別個の国の責務に基づくものである。
 なお、論旨は、上告人らは環境整備法に基づき被上告人に対して本件差止請求を
することができるとも主張するが、同法に上告人らが主張するような差止請求を可
能とする規定は存在しない。
 ところで、上告人らの本件差止請求のうち、主位的請求に係る訴えは、その請求
の趣旨を「被上告人は、上告人らのためにアメリカ合衆国軍隊をして、毎日午後九
時から翌日午前七時までの間、本件飛行場を一切の航空機の離着陸に使用させては
ならず、かつ、上告人らの居住地において五五ホン以上の騒音となるエンジンテス
ト音、航空機誘導音等を発する行為をさせてはならない。」とするものである。右
請求の趣旨は、被上告人に対して給付を求めるものであることが明らかであり、ま
た、このような抽象的不作為命令を求める訴えも、請求の特定に欠けるものという
ことはできない。したがって、右請求の趣旨をもって、それが直接的に米軍の行為
の停止を求める趣旨であるとすれば被告適格を欠くから不適法であるとし、また、
それが被上告人に対して給付を求める趣旨であるとすればどのような具体的行為を
求めるのか明確でないから不適法であるとした原審の判断は正当でなく、前示のと
おり、右主位的請求は主張自体失当としてこれを棄却すべきものである。しかしな
がら、右請求に係る訴えを不適法として却下した一審判決を取り消して請求を棄却
することは不利益変更禁止の原則に触れるから、右却下部分に対する控訴は棄却す
るほかなく、原判決は結局において相当である。
 以上によれば、上告人らの本件差止請求のうち、主位的請求に係る訴えを却下し
た一審判決に対する控訴を棄却し、また、原審における予備的請求を棄却した原審
の判断は、結論において是認することができる。所論違憲の主張は、その前提を欠
く。論旨は採用することができない。
 同第二点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異
にし本件に適切でない。論旨は、結局原審の専権に属する事実の認定を非難するも
のであって、採用することができない。
 同第三点の一及び二について
 所論は、原判決が違法性と受忍限度につき判示した部分をとらえて、本件飛行場
の公共性を認めた原審の判断には、憲法及び法令の解釈適用の誤りがあり、また、
原審が受忍限度論を採用した上、公共性及び地域特性が受忍限度を高める要素にな
るとし、被上告人の侵害行為の悪質性を考慮しなかったのは、理由不備又は理由齟
齬の違法及び法令の解釈適用を誤った違法がある、というのである。
 しかしながら、本件飛行場の使用が第三者に対する関係において違法な権利侵害
ないし法益侵害となるかどうかについては、侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害
利益の性質と内容、侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を
比較検討するほか、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採ら
れた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の事情をも考慮し、これ
らを総合的に考察して判断すべきものであるから(最高裁昭和五一年(オ)第三九
五号同五六年一二月一六日大法廷判決・民集三五巻一〇号一三六九頁参照)、原審
が侵害行為の公共性の要素を考慮したことは何ら違法でない。そして、原審の確定
した事実関係の下において、本件飛行場の公共性が認められるとした原審の判断は、
正当として是認することができる。また、原審は、受忍限度を高める要素として、
上告人らの各居住地域の特性を考慮すべきものとしているが、その説示するところ
は、航空機騒音に係る環境基準(昭和四八年一二月二七日環境庁告示)が、専ら住
居の用に供される地域とそれ以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある
地域とについて各別に基準値を定めていることが十分に考慮されなければならない
ことなどをいうものと解されるのであって、右判断は不合理なものではない。結局、
原審の判断に前記のような総合的な判断に欠けるところはないというべきである。
論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができ
ない。
 同第三点の三について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する
事実の認定を非難するか、又は原審の裁量に属する慰謝料額の算定の不当をいうも
のにすぎず、採用することができない。
 同第四点について
 いわゆる危険への接近の法理が認められるべきことは、前記大法廷判決に照らし
て明らかである。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するか、又は原審の裁
量に属する慰謝料額の算定の不当をいうものにすぎず、採用することができない。
 同第五点について
 上告人らの本件訴えのうち将来の損害(原審口頭弁論終結の日の翌日である昭和
六二年一月二九日以降に生ずべき損害)の賠償請求に係る訴えを不適法として却下
すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は採用す
ることができない。
 同第六点について
 所論は、本件住宅防音工事に伴い設置された空調設備(冷暖房及び換気装置)の
利用により上告人らが支出し、又は支出すべき電気料金は、騒音の防止のため当然
に支出を必要とする費用であるから、上告人らの右電気料金相当損害金の請求を排
斥した原審の判断には、法令の解釈適用の誤り、採証法則・経験則違反、審理不尽
の違法がある、というのである。
 原審の適法に確定した事実によれば、本件住宅防音工事は、国が環境整備法四条
に基づき、原則として全額その費用を負担して行う助成措置として実施したもので
あるところ、同法の規定に照らすと、国が右工事による防音設備の利用に伴う維持
管理費までも負担すべきものであるとは解されない。上告人らは、本件住宅防音工
事に伴い空調設備を設置した結果、電気料金の基本料金が増額されたとしてその増
額分相当額を、また、夏期(六月から九月まで)において冷房機の使用を余儀なく
されたとしてその電気料金相当額(夏期の不快日数に基づいて割り出した冷房機利
用時間によって算出した電気料金相当額)を損害として請求するが、環境整備法の
右規定の趣旨、右のような空調設備設置の経緯、上告人ら主張の時間帯に騒音防止
のため常時空調設備を利用する必要はなく、上告人らは右設備の利用により便益を
受ける面もあることなどに照らして考えれば、その利用に伴う電気料金に相当する
額は、当然に本件騒音と相当因果関係のある損害ということはできない。
 したがって、上告人らの右請求を棄却した原審の判断は、結論において正当であ
る。論旨は採用することができない。
 同第七点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する
事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、
採用することができない。
 同第八点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、原判決に所論の違法はない。右違法があることを前提とす
る所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、原審の裁量に属する慰謝料額の算
定の不当をいうものにすぎず、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    三   好       達
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    橋   元   四 郎 平
            裁判官    味   村       治
            裁判官    小   野   幹   雄

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