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平成23年9月6日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成22年(行ケ)第10361号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年8月23日
判決
原告株式会社カワタ
訴訟代理人弁護士室谷和彦
面谷和範
弁理士鈴江正二
木村俊之
被告株式会社松井製作所
訴訟代理人弁護士畑郁夫
平野惠稔
重冨貴光
浦田悠一
弁理士河野登夫
野口富弘
河野英仁
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
特許庁が無効2009-800161号事件について平成22年10月21日に
した審決中,「特許第3767993号の請求項1ないし3に係る発明についての
審判請求は,成り立たない」との部分を取り消す。
第2事案の概要
原告は,被告の有する本件特許について無効審判請求をしたが,一部の請求項に
ついて請求不成立の審決を受けた。本件は,審決のうち請求不成立とした部分の取
消訴訟であり,主たる争点は容易推考性の存否である。
1特許庁における手続の経緯
(1)被告は,平成10年1月17日に,名称を「粉粒体の混合及び微粉除去方
法並びにその装置」とする発明について特許出願をし,平成18年2月10日に,
特許第3767993号(本件特許)として特許登録を受けた(請求項の数4)。
(2)原告は,平成20年5月20日,本件特許について無効審判請求(無効2
008-800092号,前件無効審判請求)をした。特許庁は,平成21年4月
28日,「特許請求の範囲についてする訂正のうち,請求項1に係る訂正,請求項
2に係る訂正及び請求項3に係る訂正,並びに明細書についてする訂正のうち,段
落【0010】,【0011】及び【0013】に係る訂正を認める。特許第37
67993号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。特許第3767
993号の請求項2ないし4に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」
との審決(前件第1次審決)をした。
原告は,前件第1次審決のうち本件特許の請求項2ないし4に係る発明について
の請求を不成立とした部分に関する取消訴訟(知財高裁平成21年(行ケ)第10
142号)を提起し,平成22年3月29日,前件第1次審決のうち本件特許の請
求項4に係る発明についての請求を不成立とした部分を取り消し,その余の請求を
棄却する判決があり,原告からの上告受理申立て不受理決定により確定した。
他方,被告からは,前件第1次審決のうち本件特許の請求項1を無効とする部分
に関する取消訴訟(知財高裁平成21年(行ケ)第10149号)の提起があり,
併せて,被告が,平成21年9月4日,本件特許の請求項1について訂正審判請求
(訂正2009-390108号)をし,知財高裁は,平成21年10月8日,第
1次審決のうち本件特許の請求項1を無効とする部分を取り消す決定をした。これ
により,当該訂正審判請求については,無効審判請求中における訂正請求がされた
ものとみなされたところ,特許庁は,平成22年10月19日,本件特許の請求項
1について,訂正を認め,無効審判請求は成り立たないとする審決(前件第2次審
決)をした。
(3)原告は,平成21年7月22日,本件特許について本件の無効審判請求をし
た。被告は,その手続中の平成21年10月13日付けで本件特許の請求項1~3
について訂正請求をしたところ,特許庁は,平成22年10月21日,「訂正を認
める。特許第3767993号の請求項4に係る発明についての特許を無効とする。
特許第3767993号の請求項1ないし3に係る発明についての審判請求は,成
り立たない。」との審決をし,その謄本は平成22年10月29日に原告に送達さ
れた。
2本件発明の要旨
本件特許の請求項1~3については,前件無効審判請求において訂正請求がされ,
請求項1については前件第2次審決において,請求項2及び3については前件第1
次審決において,それぞれ訂正が認められ,訂正が認められた請求項に係る審決は
それぞれ確定している。したがって,これらの訂正による本件特許の請求項1~3
に係る発明(本件発明1~3)は,次のとおりとなる(本件特許の請求項4につい
ては,本件訴訟の対象ではない。)。
ところで,特許庁は,本件審決において,訂正を認める前件第1次審決が確定し
ていた本件特許の請求項2及び3について,さらに平成21年10月13日付け訂
正を認める旨の判断をしているが,平成21年10月13日付けの訂正は,前件無
効審判請求における訂正と同内容であるから,既に訂正を認められている以上,再
度の訂正を認める必要はなかった。また,本件特許の請求項1についても,同内容
の訂正を認めた前件第2次審決が本件審決後に確定したことにより,結果的に,重
ねて訂正を認めたことになる。
【請求項1】
流動ホッパーと一時貯留ホッパーとの間に縦向き管と横向き管からなる供給管を
設け,前記流動ホッパーの出入口は,前記供給管のみと連通してあり,材料供給源
からの材料を吸引空気源の気力により前記供給管を介して流動ホッパー内に吸引輸
送するとともに混合し,その混合済み材料を前記一時貯留ホッパー内へ落下するよ
うにする操作を繰り返しながら行なう粉粒体の混合及び微粉除去方法において,
流動ホッパーへの材料の吸引輸送は,吸引輸送の停止中に前回吸引輸送した混合
済み材料が流動ホッパーから一時貯留ホッパーへと降下する際に,前記混合済み材
料の充填レベルが供給管の横向き管における最下面の延長線の近傍または該延長線
よりも下方に降下する前に開始するようにすることを特徴とする粉粒体の混合及び
微粉除去方法。
【請求項2】
排気口にガス導管を介して吸引空気源を接続した流動ホッパーと,該流動ホッパ
ーの出入口と縦方向に連通した縦向き管と,この縦向き管に横方向に連通され材料
供給源からの材料が供給される横向き管とからなる供給管と,該供給管に接続され
た一時貯留ホッパーとからなり,
前記流動ホッパーの出入口は,前記供給管のみと連通してあり,
前記供給管の横向き管における最下面の延長線の近傍位置または該延長線より上
方位置に,前記吸引空気源を停止する前に混合された混合済み材料の充填レベルを,
前記吸引空気源を停止している場合に検出するためのレベル計を設けてなることを
特徴とする粉粒体の混合及び微粉除去装置。
【請求項3】
排気口にガス導管を介して吸引空気源を接続した流動ホッパーと,該流動ホッパ
ーの出入口と縦方向に連通した縦向き管と,この縦向き管に横方向に連通され材料
供給源からの材料が供給される横向き管とからなる供給管と,該供給管の縦向き管
の下端部に接続された一時貯留ホッパーとからなり,
前記流動ホッパーの出入口は,前記供給管のみと連通してあり,
前記供給管の横向き管における最下面の延長線の近傍位置または該延長線より上
方位置に,前記吸引空気源を停止する前に混合された混合済み材料の充填レベルを,
前記吸引空気源を停止している場合に検出するためのレベル計を設けるとともに,
前記横向き管は縦向き管に対して略水平ないしは上方から下方に向けての下り勾配
に設けてなることを特徴とする粉粒体の混合及び微粉除去装置。
3本件発明1~3に関する原告主張の無効理由(特許法29条2項)
本件発明1~3は,その出願前に公然実施された甲5(証拠は,以下に掲げるも
のを含め,枝番全部を含む。)の組立図記載の発明(甲5発明)並びに特開平9-
155171号公報(甲2),実願平1-91342号(実開平3-32936号)
のマイクロフィルム(甲3),特開平9-294926号公報(甲4),特開平8
-165021号公報(甲15)及び「空気流利用「エアロパワーホッパー」の混
合・除粉」(「プラスチック成形技術」14巻6号15頁~19頁,甲16)に記
載された各発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
4審決の理由の要点
(1)平成21年10月13日付け訂正は,訂正要件を充足するので,訂正を認
める。
(2)原告と株式会社ゼウスとの間の,見積書,注文書,売上伝票等の各証拠に
よれば,原告は,平成8年10月中旬ころまでに,株式会社ゼウスに対し,甲5記
載の「バルブレスローダ」を納入した事実が認められるので,甲5記載の「バルブ
レスローダ」は公然実施された発明であると認められる。
(3)本件発明1について
ア甲5記載の甲5方法発明,甲5方法発明と本件発明1との一致点,相違
点は,次のとおりである。
【甲5方法発明】
内部に円筒状の上側部分と逆円錐状の下側部分を有するフィルタを収容した円筒
状の容器と,原料供給口が横向きに接続された管路と,該容器と管路との間に配設
されたガラス管部とから構成されたローダホッパとシュートから構成されるバルブ
レスローダを用いた粉除去方法であって,原料供給口を介して円筒状の容器内に吸
引され,粉除された原料がシュートに落下するものであり,ガラス管部に設けられ
た静電容量型近接スイッチにより空杯を検知することによって原料輸送機能を起動
させる,原料の粉除去方法。
【一致点】
流動ホッパーと,縦向き管と横向き管からなる供給管を設け,流動ホッパーの出
入口は,前記供給管とのみ連通してあり,材料供給源からの材料を吸引空気源の気
力により前記供給管を介して流動ホッパー内に吸引輸送し,その材料を落下する操
作を繰り返しながら行なうようにする粉除去方法において,流動ホッパー内への材
料の吸引輸送は,吸引輸送の停止中に前回吸引輸送した材料が降下する際に材料の
充填レベルが供給管の横向き管における最下面の延長線よりも下方に降下する前に
開始するようにする,材料の粉除去方法。
【相違点1-1a】
本件発明1は,「流動ホッパーと一時貯留ホッパーとの間に縦向き管と横向き管
からなる供給管を設け」ているのに対し,甲5方法発明は「円筒状の容器と,原料
供給口が横向きに接続された管路と,該容器と管路との間に配設されたガラス管部
とから構成されたローダホッパとシュートから構成される」点
【相違点1-1b】本件発明1は「料供給源からの材料を吸引空気源の気力によ
り前記供給管を介して流動ホッパー内に吸引輸送するとともに混合し,その混合済
み材料を前記一時貯留ホッパー内へ落下するように」し,「流動ホッパーの材料の
吸引輸送は,吸引輸送の停止中に前回吸引輸送した混合済み材料が流動ホッパーか
ら一時貯留ホッパーへと降下する際に,前記混合済み材料の充填レベルが供給管の
横向き管における最下面の延長線の近傍または該延長線よりも下方に降下する前に
開始するようにする」のに対し,甲5方法発明は「原料供給口を介して円筒状の容
器内に吸引され,粉除された原料がシュートに落下するものであ」り,「原料供給
口が横向きに接続された位置より上に近接スイッチを備え,ガラス管部に設けられ
た静電容量型近接スイッチにより空杯を検知することによって原料輸送機能を起動
させる」る点
【相違点1-1c】
本件発明1は「粉粒体の混合及び微粉除去方法」であるのに対し,甲5方法発明
は「原料の粉除去方法」である点
イ相違点1-1bについての審決の判断
一般に「ホッパー」とは「一時貯蔵する漏斗状の装置」(「大辞泉」参照)であ
るところ,甲5方法発明の「シュート」は排出管であるから,本件発明1の「ホッ
パー」に当たるとはいえない。また,甲5方法発明では,特にローダホッパに原料
が貯留されることから,「シュート」は,一時貯留を目的とする本件発明1の「一
時貯留ホッパー」に相当しない。したがって,甲5方法発明と本件発明1とは,基
本的な構成上の違いがある。
相違点1-1bに係る本件発明1の「流動ホッパーの材料の吸引輸送は,吸引輸
送の停止中に前回吸引輸送した混合済み材料が流動ホッパーから一時貯留ホッパー
へと降下する際に,前記混合済み材料の充填レベルが供給管の横向き管における最
下面の延長線の近傍または該延長線よりも下方に降下する前に開始するようにす
る」こと(特定事項X)の技術的意義は,材料が未混合のまま一時貯留ホッパーへ
直接に送られるのを防止することにある。
一方,甲5方法発明の「近接スイッチ」の技術的意義は,「レベル計が,空杯を
検知することにより樹脂輸送機能が起動し,次にタイマーで材料供給が停止し,輸
送エアーにのみによる空運転モードになるという,従来のレベル計の安定供給を目
的とした作動機能を有する」ものであり,証拠によっても,本件発明1の「材料が
未混合のまま一時貯留ホッパーへ直接に送られるのを防止する」ために設けられた
ことを窺わせる記載や示唆は見当たらない。
また,甲2公報に記載された発明においては,材料供給兼排出管より上方に設置
された「レベル計」の操作で吸引が開始されるものと認められるが,レベル計の位
置は材料の安定供給の観点から決定付けられるものであって,材料が未混合のまま
一時貯留ホッパーへ直接に送られるのを防止するという本件発明1の特定事項Xの
技術的課題や技術思想についての開示も示唆も見当たらず,レベル計の部分のみを
取り出し甲5方法発明に適用する必然性はない。したがって,甲2公報に記載され
た技術事項を甲5方法発明に適用して本件発明1の特定事項Xを容易に導き出すこ
とができるとはいえない。
甲3のマイクロフィルム及び甲15公報記載のレベル計は,供給管の下方に位置
しているため,相違点1-1bに係る本件発明1の「前記混合済み材料の充填レベ
ルが供給管の横向き管における最下面の延長線の近傍または該延長線よりも下方に
降下する前に開始するようにする」ものでない。
甲4公報記載のレベル検知器については,設置場所に関する記載はなく,相違点
1-1bに係る本件発明1の「前記混合済み材料の充填レベルが供給管の横向き管
における最下面の延長線の近傍または該延長線よりも下方に降下する前に開始する
ようにする」ものであるか不明である。
甲16の文献には,レベル計に関する記載はない。
さらに,相違点1-1a及び相違点1-1cとも関連するが,本件発明1が「前
回吸引輸送した混合済み材料」の構成を有するのに対し,甲5方法発明は,材料の
粉除去装置であって,混合を意図したものでない。甲2公報及び甲3のマイクロフ
ィルムによれば,混合と微粉除去の機能を備えた混合ホッパーはよく知られたもの
であるが,甲5方法発明のローダホッパは,粉取りを特別仕様としたホッパーであ
り,これを混合ホッパーとして用いることを予定するものでないから,これを直ち
に混合ホッパーに変更しようとする動機付けはないといえる。
以上のとおりで,相違点1-1bについて,甲5方法発明に甲2公報,甲3のマ
イクロフィルム,甲4公報,甲15公報,甲16文献に記載された発明を適用する
ことにより容易に成し得たものとはいえないから,他の相違点について判断するま
でもなく,本件発明1は,甲5方法発明及び甲2公報,甲3のマイクロフィルム,
甲4公報,甲15公報,甲16文献に記載された発明に基づいて容易に発明するこ
とができたものとはいえない。
甲15公報,甲2公報,甲3のマイクロフィルムに記載された発明を主引例とし
た場合についても,上記の理由と同様の理由により,これらの文献と他の文献に記
載された発明から,本件発明1の相違点1-1bに係る特定事項Xの技術的意義及
び技術思想を見出すことはできない。したがって,本件発明1は,甲2公報,甲3
のマイクロフィルム,甲4公報,甲15公報,甲16文献に記載された発明及び甲
5方法発明に基づいて容易に発明することができたものとはいえない。
(4)本件発明2について
本件発明2は,方法の発明である本件発明1と同内容の物の発明であるところ,
甲5の組立図の記載から認定し得る甲5装置発明,甲5装置発明と本件発明2との
一致点及び相違点は,上記(3)で認定した方法に関する発明を物に関する発明に置き
換えたにとどまるもので,ほぼ同内容となるから,上記(3)で示した理由と同様の理
由から,本件発明2は,甲5装置発明,甲2公報,甲3のマイクロフィルム,甲4
公報,甲15公報,甲16文献に記載された発明に基づいて容易に発明することが
できたものとはいえない。
(5)本件発明3について
本件発明3は,本件発明2に「前記横向き管は縦向き管に対して略水平ないしは
上方から下方に向けての下り勾配に設けてなる」構成を加えて限定したものであっ
て,本件発明2の構成をすべて含むから,上記(4)と同様に,甲5装置発明,甲2公
報,甲3のマイクロフィルム,甲4公報,甲15公報,甲16文献に記載された発
明に基づいて容易に発明することができたものとはいえない。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(本件発明1の認定誤り)
審決は,本件発明1の「一時貯留ホッパー」における「ホッパー」について,「一
時貯蔵する漏斗状の装置」に限られるとの黙示の要旨認定を行い,これを前提とし
てその後の相違点の認定や判断を行っている。
しかしながら,ホッパーについて,広辞苑第四版(平成3年発行)には,「石炭,
砂利,土などを一時貯留し,必要に応じて下部の口を開いて出す装置」と記載され
ており,「漏斗状」という限定はない。プラスチック産業において使用されている
JIS用語[K6900]でも,ホッパーは,「成形機などに取り付けられ,材料を供給する
ための,通常円すい形をした容器をいう。」とされており,円すい形に限られるわ
けではない。また,本件出願前の公開特許公報には,漏斗状の形状を有しない装置
についてホッパーという用語を用いているものがあり,漏斗状に限らないのが当業
者の技術常識である。本件明細書の【図4】でも,漏斗状ではない縦向き管の延伸
部が一時貯留ホッパーを構成している。
以上のとおり,ホッパーは漏斗状に限られるものではなく,審決の上記認定は誤
りである。そして,審決は,上記認定を前提として,甲5方法発明の「シュート」
は本件発明1の「一時貯留ホッパー」に当たらないと認定し,相違点の判断を行っ
たもので,上記認定の誤りは審決の結論に影響を及ぼす。
2取消事由2(甲5方法発明の認定誤り)
(1)審決は,甲5方法発明の近接スイッチ及び原料の輸送開始時期について,
「ガラス管部に設けられた静電容量型近接スイッチにより空杯を検知することによ
って原料輸送機能を起動させる」と認定する。
しかしながら,甲5方法発明の吸引輸送の開始時期は,「円筒状の容器内への材
料の吸引輸送は,吸引輸送の停止中に前回吸引輸送した微粉除去済み材料が円筒状
の容器からシュートへと降下する際に,前記微粉除去済み材料の充填レベルが横向
きの原料供給口の最下面の延長線よりも下方に降下する前に開始する」ものである。
したがって,審決が甲5方法発明について,このような認定を欠落したのは誤り
である。
また,甲5方法発明の作用効果について,甲5記載のバルブレスローダに関して
納入前の打合せ段階で作成されたイラスト(甲17)には,横向き管(原料供給口)
の最下面の延長線よりも上方で材料が流動している間,それよりも下方の部分では
材料が貯留されている様子が描かれており,その貯留された材料によって,吸引輸
送されてきた材料がブロックされ,シュートに落下しないことが記載されている。
また,甲5方法発明の公然実施品の外観からしても,吸引輸送される材料のシュー
トへの落下防止は当業者であれば看取し得る。したがって,甲5方法発明において
は,近接スイッチの位置が横向き管(原料供給口)の最下面の延長線よりも上方に
配置されていることによって,吸引動作中は,当該延長線よりも下方には微粉除去
済み材料が充填された状態になっており,吸引輸送される材料はその充填された材
料によってシュートへの落下が防止されるという作用効果を有している。
しかしながら,審決は,甲5方法発明について,上記のような作用効果を認定し
ておらず,これにより,その後の相違点の認定や判断を誤っている。
(2)公然実施発明該当性について(被告の主張に対する反論)
甲5記載のバルブレスローダについては,製造番号「NN4800350」と図
番である「SB3311061」により特定されているところ,これらの製造番号
や図番は,甲5の組立図,株式会社ゼウスからバルブレスローダを含むシステム機
器を受注した際の受注伝票等,株式会社コーダに部品を発注した際の注文書や納品
書等を通じて一貫している。これらの書類は,打合せ,受注,設計,部品等の発注,
クレームによる改造といった各段階の具体的かつ生々しい内容を記載したもので,
合理的に結び付いているものである。したがって,甲5記載のバルブレスローダが
平成8年9月ころに株式会社ゼウス仙台工場に設置されたことは明らかである。
3取消事由3(相違点認定の誤り)
(1)相違点1-1aについて
上記1で主張したとおり,本件発明1の「一時貯留ホッパー」は漏斗状のものに
限られない。
また,審決は,「該「シュート」は,結果として原料が溜まるとはいえ,「円筒
状の容器」を含むローダホッパとシュート全体,特にローダホッパが原料の貯留に
当てられるものであることから,該「シュート」が,一時貯留を目的とする本件発
明1の「一時貯留ホッパー」に相当するとみることはできない。」(35頁10行
~14行),「甲5方法発明の…「円筒状の容器」…が一時貯留ホッパーの機能を
有している」(35頁14行~18行)などと認定している。
しかし,本件発明1においても,吸引輸送停止時においては,一時貯留ホッパー
だけでなく,縦向き管にも流動ホッパーにも,混合済み材料が貯留されることが予
定されており,一時貯留ホッパーにのみ材料が貯留されているのではない。したが
って,甲5方法発明のローダホッパに原料が貯留されるからといって,これが本件
発明1の一時貯留ホッパーの機能を有している(それ故に,シュートはホッパーに
当たらない)という認定は誤りである。また,本件発明1の目的は,「未混合材料
の一時貯留ホッパーへの落下防止」にあるところ,未混合材料が一時貯留ホッパー
へ落下するのがなぜ問題かといえば,いったん一時貯留ホッパーへ材料が落下して
しまえば,吸引空気源の負圧によっては二度と流動ホッパー内に回収することがで
きないからである。そうすると,本件発明1の一時貯留ホッパーは,吸引動作時に
おいて,負圧による気流によって材料が巻き上げられずに貯留されている場所であ
る必要があり,甲5方法発明の円筒状の容器は,これに当たらない。逆に,甲5方
法発明のシュートは,吸引動作時において,負圧による気流によって材料が巻き上
げられずに貯留されている場所であり,「一時貯留ホッパー」に相当する。
以上のとおり,甲5方法発明のシュートは本件発明1の一時貯留ホッパーに該当
するのであって,この点を相違点1-1aとして認定した審決は誤りである。
(2)相違点1-1bについて
審決は,本件発明1の特定事項Xが甲5方法発明にないことを前提として,相違
点1-1bを認定する。
本件発明1においては,レベル計の位置が横向き管における最下面の延長線の近
傍又は上方位置に配置されていることにより,吸引動作中においては,該延長線よ
りも下方には,混合済み材料が充填された状態になっており,吸引輸送される材料
はその充填された材料によって一時貯留ホッパーへの落下が防止されるという作用
効果を有する。
甲5方法発明においても,近接スイッチの位置が該延長線よりも上方位置に配置
されていることにより,吸引動作中においては,該延長線よりも下方には,微粉除
去済み材料が充填された状態になっており,吸引輸送される材料はその充填された
材料によってシュートへの落下が防止されるという作用効果を有している。
したがって,特定事項Xは相違点ではないから,これを前提として相違点1-1
bを認定した審決は誤っている。
4取消事由4(相違点1-1b,1-1cに関する判断の誤り)
審決は,相違点1-1bに関する判断の中で,相違点1-1cに関連して,「甲
5方法発明のローダホッパは粉取りを特別仕様としたホッパであることから,これ
を混合ホッパーとして用いることを予定するものではないから,これを直ちに混合
ホッパーに変更しようとする動機付けはないといえる。」(40頁16行~19行)
と判断している。
しかしながら,流動ホッパーの技術分野において,微粉除去のみならず,混合も
行なう粉粒体の混合及び微粉除去方法並びに粉粒体の混合及び微粉除去装置は周知
である。
そして,甲5方法発明と甲2公報,甲3のマイクロフィルム,甲4公報,甲15
公報,甲16文献に記載された発明とは,粉粒体の空気輸送及びハンドリングに関
する技術という点で密接に関連する技術である。また,流動ホッパー(円筒状の容
器)内で,異種材料の混合を行うか,微粉除去を行うかは,成形ライン中の流動ホ
ッパーの役割により,当業者が適宜設定するにすぎないものであり,当業者からす
れば,混合と微粉除去とは,本来的に置換が想定されているものである。「流動ホ
ッパーに輸送されずに,処理を経ることなく,一時貯留ホッパーに落下してはなら
ない」という解決課題との関係についてみても,処理の内容が「混合及び微粉除去」
であるか「微粉除去」であるかにより格別の差異はなく,置換による支障はない。
さらに,甲16文献に「従来では混合を行っていなかった分野にも,十分,使用可
能とした。」等の記載があるように,微粉除去に混合を付加する動機付けは存在す
る。
したがって,甲5発明の微粉除去を混合及び微粉除去とすることは容易に想到し
得るのであって,上記判断は誤りである。
5取消事由5(甲2公報,甲3のマイクロフィルム,甲15公報を主引用例と
する進歩性判断の誤りについて)
審決は,「甲2公報,甲3のマイクロフィルム,甲15公報に記載された発明及
び甲5方法発明から,上記特定事項Xを導き出すことはできない。…したがって,
本件発明1は,甲2公報,甲3のマイクロフィルム,甲4公報,甲15公報,甲1
6文献に記載された発明及び甲5方法発明に基づいて容易に発明することができた
ものとはいえない。」と判断する。
しかしながら,副引用例である甲5に,特定事項Xの技術的意義及び技術思想は
表れているのであって,審決の上記判断は誤りである。
また,未混合材料の落下防止という課題は,甲4公報や甲16文献に記載される
ように本件出願当時,公知であった。したがって,甲3のマイクロフィルム及び甲
16文献記載の発明における未混合材料の落下防止手段を甲5方法発明に置換する
ことは当業者にとって容易である。
6取消事由6(本件発明2について)
上記1~5で主張したのと同様の理由から,本件発明2についての進歩性を肯定
した審決の認定・判断は誤りである。
7取消事由7(本件発明3について)
上記1~5で主張したのと同様の理由から,本件発明3についての進歩性を肯定
した審決の認定・判断は誤りである。
第4被告の反論
1取消事由1に対し
一般に「ホッパー」とは一時貯留する装置であるところ,甲5方法発明のバルブ
レスローダの「シュート」は排出管であるから,「ホッパー」には該当しない。審
決も,漏斗状でないからホッパーに当たらないと判断したものではなく,排出管で
あるから,「シュート」が「ホッパー」に当たらないと判断しているのであり,本
件発明1の要旨認定に誤りはない。
2取消事由2に対し
(1)審決は,甲5等の証拠に基づき甲5方法発明を認定したものであって,審
決の認定に誤りはない。審決は,「この甲5方法発明の動作は,本件発明1の「材
料の充填レベルが供給管の横向き管における最下面の延長線よりも下方に降下する
前に開始するように」している点で共通している。」(33頁37行~34頁1行)
と判断することにより,甲5方法発明の動作について認定しており,原告主張のと
おりの動作が認定されないからといって,認定が欠落しているとはいえない。
甲5方法発明の作用効果については,甲5記載の「バルブレスローダ」に関する
証拠をみても,粉除去未了の材料がシュートへ落下することに問題があるとの記載
はない上,そもそもバルブレスローダは,材料を混合するものではないから,未混
合の材料の一部がシュートに落下するという問題はなく,かつ未混合の材料の一部
がシュートに落下することを回避する目的で未混合の材料のレベルを制御するとい
う課題ないし技術思想について開示・示唆するところもない。原告が根拠として挙
げるイラスト(甲17)は,単に吸引輸送された材料が円筒状容器の中で張り付い
て一時貯留され,粉が破線で示すフィルタにより濾過されて粉が除去されている様
子を示したものである。公然実施品の外観についても,ガラス管部を通してのみ内
部を見ることができる構造からすると,これを見た当業者は,近接スイッチがガラ
ス管部に設けられていること,材料レベルが近接スイッチの位置に下がったときに
吸引輸送による粉取りが開始されることを認識することができるにすぎず,バルブ
レスローダの構成の中から,あえて「該延長線」のみに注目することは本件発明1
の内容を知らなければ到底できるものではなく,近接スイッチの位置が「該延長線
の上方位置」に配置されていることや,「該延長線よりも下方に材料が充填」され
ていることや,充填された材料によって吸引輸送される材料がシュートへ落下する
ことを防止できることを認識することは到底不可能である
したがって,審決が,原告の主張するような甲5方法発明の作用効果を認定しな
かったことに誤りはない。原告の主張は,公然実施品に,本件発明1の解決手段な
いし解決結果の要素を取り込み,甲5方法発明の作用効果を本件発明1にならって
事後分析的に把握したものである。
(2)公然実施発明に該当するかについて
審決は,甲5に記載されたバルブレスローダを公然実施発明であると認定したが,
次のとおり誤りである。
原告は,平成8年7月23日,株式会社ゼウスに対し「御見積書」を提出し(甲
9),平成8年8月7日,株式会社ゼウスからMD用成形材料受入乾燥供給設備に
ついて正式に注文を受け(甲10),平成8年8月19日,受注伝票を作成し(甲
21),平成8年10月21日,株式会社ゼウスに対し,MD用成形材料受入乾燥
供給設備の売上伝票を交付している(甲11)。
しかし,「御見積書」(甲9)には,「16.成形機取付用アドオンホパー・
型式VL-420C(特殊-粉取りタイプ)」との記載があるものの,他にこの
型式を記載した証拠はなく,この型式が甲5記載の「バルブレスローダ」のもので
あるとは認められない。
また,受注伝票(甲21)には,「NN4800350システム機器」の記
載があるものの,単にシステム機器と記載があるのみであって,当該システム機器
に甲5の「バルブレスローダ」が含まれている事実を直接かつ客観的に証明する証
拠はない。審決は,この番号が甲5記載のバルブレスローダの製造番号と一致する
ことを理由として挙げているが,納品書(甲8)の「クリーン配管材」も同じ製造
番号「NN4800350」を用いていることからすると,同じ製造番号であって
甲5記載の「バルブレスローダ」とは異なる成形機取付用アドオンホッパーが存在
していた可能性もあるから,製造番号が合致するからといって,甲5記載のバルブ
レスローダが株式会社ゼウスに納入されたとは限らない。
なお,製造番号や図面の内容は,いくらでも変更することが可能であるから,単
に図面に記載の製造番号が合致するからといって,甲5記載の「バルブレスローダ」
が公然実施品であるということはできない。
さらに,甲6,甲8等の証拠によれば,原告は,平成8年8月9日に製図された
甲5の組立図の図番SB3311061の「バルブレスローダ」を,平成8年9月
1日に株式会社コーダに対して「バルブレスアドオンホッパー」名で注文している
事実は認められるが,これらの証拠は,甲5記載の「バルブレスローダ」を株式会
社ゼウスに対して販売譲渡したという事実を証明するものではない。
3取消事由3に対し
(1)甲5記載のバルブレスローダの「シュート」が排出管であって「ホッパー」
であるとはいえないのは,上記のとおりである。
また,原告は,一時貯留ホッパーについて,吸引動作時に負圧による気流によっ
て材料が巻き上げられずに貯留されている場所でなければならないとした上で,シ
ュートは一時貯留ホッパーに相当すると主張する。しかしながら,甲5方法発明は,
そもそも粉取りを目的とするものであって,材料を混合するものではなく,未混合
材料の一時貯留ホッパーへの落下防止を目的とするものではないから,原告の主張
には理由がない。
(2)相違点1-1bについて,本件発明1は未混合の材料が一時貯留ホッパーへ
直接落下することを防止することを目的とするのに対し,甲5方法発明は単に粉取
りを目的としており,両者の目的とする課題や技術的意義が異なっている。審決は,
このことに照らして相違点認定を行ったもので,誤りはない。
4取消事由4に対し
混合及び微粉除去装置が周知であるとしても,甲5記載のバルブレスローダに関
する各証拠,甲2公報,甲3のマイクロフィルム,甲4公報,甲15公報,甲16
文献のいずれにも,未混合材料の一部が一時貯留ホッパーへ落下することを回避す
る目的で混合済み材料のレベルを制御するという本件発明1の課題ないし技術思想
について開示・示唆するところはない。したがって,甲5方法発明に甲2公報,甲
3のマイクロフィルム,甲4公報,甲15公報,甲16文献記載の発明を適用する
動機付けはない。
5取消事由5に対し
上記3のとおり,本件発明1の特定事項Xは,甲5方法発明には表れていないか
ら,審決の判断に誤りはない。
6取消事由6に対し
上記1~5で主張したのと同様の理由から,本件発明2についての進歩性を肯定
した審決の認定・判断に誤りはない。
7取消事由7に対し
上記1~5で主張したのと同様の理由から,本件発明3についての進歩性を肯定
した審決の認定・判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1本件発明1~3について
前件無効審判において認められた訂正による本件明細書及び図面(甲1,63。
本件無効審判請求中にされた平成21年10月13日付け訂正による明細書(甲6
3)と同内容となる。)によれば,本件発明1~3について,次のとおり認められ
る。
本件発明1~3は,プラスチック成形材料,医薬品材料等の粉粒体(材料)を混
合するとともに,粉粒体に付着している微粉を除去する,粉粒体の混合及び微粉除
去方法とその装置に関するものである(段落【0001】)。このような混合装置
は,材料の混合と微粉除去を行う混合ホッパー,材料供給源から混合ホッパーへと
材料を吸引輸送する吸引空気源,混合ホッパーの下方に位置し,混合等を終えて落
下してくる材料を貯留する一時貯留ホッパー,混合ホッパーと一時貯留ホッパーと
を上下に結ぶ縦向き管(排出導通路),縦向き管と鋭角に交差するように接続され,
材料供給源から混合ホッパーへの材料輸送に用いられる横向き管(輸送短管),一
時貯留された材料が成型機に送られて一定レベル以下になった場合に,次回の材料
の輸送を開始するためのレベル計から成るが,従来の混合装置では,レベル計が一
時貯留ホッパーの中程に設けられていたため,次回の材料輸送開始時には,横向き
管とレベル計との間に空間が生じてしまい,その空間に材料の一部が未混合のまま
直接落下してしまうという欠点があった(段落【0002】~【0005】)。本
件発明1は,このような混合装置に関する粉粒体の混合及び微粉除去方法であって,
前回吸引輸送された材料が横向き管(下記【図1】と【図4】の実施例では4B)
の最下面の延長線の下方に降下する前に,次回の吸引輸送を開始するという構成を
採用することで,横向き管の最下面の延長線より下方に材料が充填されている状態
となるので,2回目以降の吸引輸送時には未混合の材料が一時貯留ホッパー(【図
1】の実施例では6。【図4】の実施例では縦向き管4Aの延伸部47が一時貯留
ホッパーとして機能する。)に落下することを防止することができるという効果を
奏するものである(段落【0010】,【0016】,【0043】,【0044】)。
本件発明2は,本件発明1の方法を実施する装置であり,レベル計を横向き管の最
下面の延長線の近傍又はこれより上方に設置することで,本件発明1と同様の効果
を奏するというものである(段落【0011】,【0017】)。本件発明3は,
本件発明2の装置の横向き管を縦向き管に対して略水平ないし下り勾配としたもの
で,これにより,吸引輸送され混合されて落下した材料が,横向き管の位置よりも
高くなったとしても,その材料が横向き管の方に落下することがないという効果を
奏するものである(段落【0019】)。
【図1】実施例1の縦断面図【図4】実施例3の縦断面図
2取消事由1(本件発明1の認定の当否)について
原告は,審決が,相違点1-1aの認定や相違点1-1bの判断の前提として,
本件発明1の「一時貯留ホッパー」について,漏斗状の装置に限られるとの(黙示
の)要旨認定を行ったのは誤りであると主張する。
本件明細書及び図面によれば,本件発明においては,前記1で示した【図4】の
ように,縦向き管4Aを下方に長く延伸して一時貯留ホッパーとを兼用させること
ができるとされており(段落【0043】),本件発明1において,一時貯留ホッ
パーは,漏斗状のものに限られず,成型機に材料を送るための縦向きの管も一時貯
留ホッパーから排除されていないものと認められる。
そうすると,審決が,相違点の認定・判断の前提として,本件発明1の「一時貯
留ホッパー」について,漏斗状であること,あるいは排出管でないことを要するも
のと解したのは誤りである。
しかしながら,甲5方法発明のシュートが本件発明1の一時貯留ホッパーに相当
するとしても,それ以外の構成である本件発明1の特定事項Xに関してみれば,後
記3(4),4(2)及び5で説示するとおり,相違点1-1bに係る本件発明1の構成
は容易に想到し得ないから,本件発明1の「一時貯留ホッパー」の意義に関する認
定誤りは,審決の結論に影響を及ぼすものではない。
3取消事由2(甲5方法発明に関する認定の当否)について
(1)前提として甲5組立図に記載の発明の公然実施の有無について判断する
に,証拠(文中に掲記のとおり)によれば,甲5記載のバルブレスローダの納入に
関し,次の事実が認められる。
原告は,平成8年7月ころ,株式会社ゼウスとの間で,成型機取付用アドオンホ
ッパーを含むMD用成形材料受入乾燥供給設備を納入するための打合せを行った
(甲9,17,18)。この打合せにおいて,成型機上のアドオンホッパーは,V
L420C(特殊-粉取りタイプ)とすることとされた(甲9)。そして原告は,
平成8年8月に,株式会社ゼウスから当該設備を受注したが,その際に作成された
受注伝票には,NN4800350のシステム機器が含まれる旨の記載がされてい
る(甲10,11,19~21)。
原告は,平成8年8月9日,上記設備の成型機取付用アドオンホッパーに相当す
る「バルブレスローダ」の組立図である甲5の図面を作成した。この図面には,製
造番号としてNN4800350,図番としてSB3311061と記載されてい
る(甲5)。
さらに,原告は,平成8年9月1日,株式会社コーダに対し,製造番号NN48
00350,仕様書図番SB3311061のバルブレスアドオンホッパーを含む
部品を発注し,平成8年9月10日に納品を受けた(甲6~8)。
そして,原告は,平成8年10月ころまでには,製造番号NN4800350の
システム機器,DA4800510のチャレンジャーⅡを含む上記設備を株式会社
ゼウスの仙台工場に納入・設置し,株式会社ゼウスからの要請により,その改造を
行い,製番DA4800510と記載された取扱説明書を交付するなどした(甲1
1~14,20,22~25,51)。
(2)上記(1)で認定した事実によれば,原告は,平成8年10月ころまでに,
甲5記載のローダホッパを株式会社ゼウスの仙台工場に納入したものであって,甲
5記載のローダホッパに係る発明は公然実施発明に当たるものと認められる。
被告は,見積書に記載された成型機取付用アドオンホッパーの型番と一致する他
の証拠がないこと,NN4800350の番号についても,受注伝票には「システ
ム機器」としか記載されておらず,納品書では他の機器にも同じ番号が用いられて
いることなどから,甲5記載のローダホッパが納品されたとは限らないなどと主張
する。しかしながら,甲5に記載された製造番号NN4800350及び図番SB
3311061と,株式会社コーダから原告に納入されたバルブレスアドオンホッ
パーの製造番号・仕様書図番がいずれも一致していること,この製造番号NN48
00350と株式会社ゼウスに納入された機器の一部に用いられた番号が一致して
いること,甲5のローダホッパと類似する図が原告と株式会社ゼウスとの打合議事
録(甲18)等にも記載されていること,これらの取引に関する見積書,納品書,
受注伝票,図面等の内容や日付が密接に関連し,それらの記載に不自然な点は認め
られないこと等に照らすと,被告の主張は採用することができない。
(3)そして,証拠(甲5,12~14,17,18,51)によれば,甲5方
法発明について,次のとおり認められる。
甲5方法発明は,内部にフィルタを収容して粉除去を行う円筒状の容器と,その
下方に位置し,粉除去された材料が落下してくるシュートと,円筒状の容器の下に
接続された縦向きのガラス管と,ガラス管に設置された静電容量型近接スイッチと,
ガラス管とシュートとを上下に結ぶ縦向き管と,縦向き管に接続されて材料供給源
から円筒状の容器に材料を輸送するための横向き管(原料供給口)から構成された
バルブレスローダを用いた粉除去方法であって,エアー吸引により横向き管を介し
て円筒状の容器内に材料を吸引して粉除去を行い,粉除された材料がシュートに落
下するものであり,ガラス管部に設けられた静電容量型近接スイッチにより材料が
一定のレベル以下になったことを検知することによって,次の材料の輸送を行うも
のである。
【甲5の組立図記載のバルブレスローダ】
(4)原告は,審決が,甲5方法発明の吸引輸送開始時期について,「円筒状の
容器内への材料の吸引輸送は,吸引輸送の停止中に前回吸引輸送した微粉除去済み
材料が円筒状の容器からシュートへと降下する際に,前記微粉除去済み材料の充填
レベルが横向き管(原料供給口)の最下面の延長線よりも下方に降下する前に開始
する」との認定を欠落し,作用効果についても,「近接スイッチの位置が横向き管
(原料供給口)の最下面の延長線よりも上方に配置されていることによって,吸引
動作中は,当該延長線よりも下方には微粉除去済み材料が充填された状態になって
おり,吸引輸送される材料はその充填された材料によってシュートへの落下が防止
されるという作用効果を有していること」を認定していないのは誤りであると主張
する。
確かに,上記(3)で認定したとおり,甲5方法発明の近接スイッチは,横向き管の
最下面の延長線よりも上方であるガラス管の高さに設置されており,粉取りされて
落下・堆積した前回の材料が近接スイッチの検知するレベル以下になったときに,
次の材料の輸送を開始するものであるから,外形上は,粉取り済み材料のレベルが
横向きの管(原料供給口)の最下面の延長線よりも下方に降下する前に,次回の材
料の輸送が開始されることになる。
しかしながら,上記(1)及び(3)で認定したとおり,そもそも甲5方法発明は,特
に粉取り機能を付加した,すなわち,材料を輸送する機能に粉取り機能を付加した
バルブレスローダを用いた粉除去方法にすぎず,複数の材料を混合するためのもの
とは認められない。
粉取り未了の材料の落下に限ってその課題の有無・認識の存否をみるにしても,
甲5の組立図は単なる図面であって,そこに記載されたバルブレスローダの部材,
特に近接スイッチの設置位置がいかなる技術的意義を有するかについて説明する記
載等はなく,甲5方法発明に関して提出されたその他の各証拠を合わせても,粉取
り未了の材料が一時貯留ホッパーに落下するという課題の存在や,近接スイッチの
位置を高く設定することの技術的意義(落下防止)を窺わせる記載は認められない。
上記のとおり,甲5記載のバルブレスローダは,特に粉取り仕様とされたもので
あるところ,原告が株式会社ゼウスに納入した機械(甲5記載のバルブレスローダ
を含む。)に関する取扱説明書(甲51)には,バルブレスローダとして,粉取り
仕様に関する記載のないVLローダ(バルブレスローダ)が記載されている。そし
て,当該取扱説明書(甲51)の記載によれば,この粉取り仕様に関する記載のな
いVLローダにおいてさえも,上部のホッパー部分と下部の排出口との間にガラス
管と近接スイッチが設けられており,この近接スイッチが材料のレベルの低下を検
知することで,次回の材料の輸送が開始されるものであることが認められる。この
ような粉取りに関する記載のないVLローダにおいて,粉取りが行われない以上,
粉取り未了の材料の落下防止という問題は生じないので,そのようなVLローダで
は,ホッパー部分と排出口との間に設置されているガラス管と近接スイッチの役割
は,単なる材料の高さの検知に限られていることが明らかである。このことに照ら
すと,粉取り仕様に係る甲5記載のバルブレスローダにおける近接スイッチについ
てみても,単に,近接スイッチが設置された高さよりも材料のレベルが低下したこ
とを検知し,次回の材料輸送を開始するという技術的意義を有するにとどまるもの
と認めるのが相当であって,それ以上に,材料のレベルが横向き管の最下面の延長
線よりも下方に低下しないように,近接スイッチの設置位置を最下面の延長線より
も上方に設定するという技術的思想を具現したものとは認められない。
原告は,株式会社ゼウスとの打合せで作成したイラスト(甲17)に,横向き管
の最下面よりも下方に材料が充填されている様子が(斜線で)記載されており,粉
取り未了の材料の落下防止という課題や作用効果が認識されていた旨主張する。し
かしながら,甲17と同じ平成8年7月10日付けの打合議事録(甲18)は,そ
の内容に照らし,打合せの内容を手書きした甲17をまとめたものと推認されると
ころ,この打合議事録中のイラストには,横向き管の最下面よりも下方に材料が充
填されている様子は記載されていない。このような打合議事録のイラストを併せ考
慮すると,甲17のイラストのみにより,直ちに上記の課題や作用効果が認識され
ていたと認めることはできない。また,原告は,当業者であれば公然実施品の外観
から上記の課題を看取し得ると主張するが,ガラス管の高さに設けられた近接スイ
ッチの外観から,これと離れた位置にある横向き管の最下面の延長線と関係する上
記課題や作用効果を看取し得るものであるとは認められない。
以上のとおり,甲5方法発明に関する審決の認定に誤りはなく,取消事由2は理
由がない。
4取消事由3(相違点認定の当否)について
(1)相違点1-1aについて
上記2のとおり,甲5方法発明のシュートは本件発明1の一時貯留ホッパーに相
当しないとした審決の判断は誤りであり,この点をもって相違点1-1aとして認
定したのも誤りである。
しかしながら,次の(2)で判断するとおり,相違点1-1bに関する審決の判断に
誤りはなく,相違点1-1aの認定誤りは,審決の結論に影響を及ぼさない。
(2)相違点1-1bについて
上記3(4)で説示したとおり,甲5方法発明において,本件発明1の特定事項Xに
関する構成や作用効果があるとは認められない。したがって,審決がこの点を相違
点1-1bとして認定したことに誤りはなく,取消事由3(2)には理由がない。
5取消事由4(相違点1-1b,1-1cに関する判断の当否)について
原告は,審決が,相違点1-1bに関する判断の中で,相違点1-1cに関連し
て,甲5方法発明の粉取りを特別仕様としたホッパーを混合ホッパーに変更しよう
とする動機付けがないと判断したことは誤りであると主張する。
しかしながら,上記3(4)のとおり,そもそも甲5方法発明には,本件発明1の特
定事項Xに関する構成や課題解決のための作用効果を有しているとは認められない
のであるから,これに,甲2公報,甲3のマイクロフィルム,甲4公報,甲15公
報,甲16文献に記載された粉粒体の混合に関する発明を適用して,微粉除去及び
混合方法の発明とする動機付けはない。
したがって,原告の主張は採用することができず,取消事由4は理由がない。
6取消事由5(甲2公報,甲3のマイクロフィルム,甲15公報を主引用例と
する進歩性判断の当否)について
原告は,甲5方法発明に本件発明1の特定事項Xの構成や課題解決のための作用
効果があることから,本件発明1について,甲2公報,甲3のマイクロフィルム,
甲15公報を主引用例として容易に発明することができたとはいえないとする審決
の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,上記3(4)で説示したとおり,甲5方法発明に本件発明1の特定事
項Xの構成や課題解決のための作用効果があるとは認められないから,原告の主張
はその前提を欠くものであって,採用することができない。
なお,原告は,粉取り未了の材料の落下防止という課題は,甲16文献に記載さ
れていると主張するが,この文献に記載されているのは,粉が除去されない場合の
問題点であって,粉取り未了の材料が落下するという課題に関する記載は認められ
ないから,原告の上記主張は採用することができない。
したがって,取消事由5は理由がない。
7取消事由6,7について
本件発明2は,本件発明1の方法を装置化したものであり,解決課題,採用され
た技術的事項,作用効果は本件発明1と同様である。また,本件発明3は,本件発
明2の構成をすべて含むものであって,これに他の構成を付加して限定したもので
ある。
そして,本件発明2,3に関する審決の理由,これに対する原告の取消事由6,
7は,いずれも本件発明1に関する取消事由1~5と同内容のものであるから,上
記2~6で説示したのと同様の理由により,取消事由6,7についても理由がない。
第6結論
以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平
裁判官
清水節
裁判官
古谷健二郎

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